スチル1

俺の頭の中を、奇怪な風景が駆け抜けていく。
ここはどこだ......俺はなぜここにいるんだ。
何も思い出せない。
思い出そうとしても、俺の記憶が拒絶する......


俺には、何かやる事があった......はずだ。
絶対にやらなければいけない『何か』が。
朦朧とする意識の中、
ふと誰かの声が聞こえたような気がした。


『貴方は代償として、声や、感覚を失ってしまうわ......』
『本当にいいのね?』

この声......そうだ、俺は......
意思も、言葉も、希望も......すべてを失ったのだ。


この白い服の少女は......
胸を締め付ける痛みが、俺の空虚な記憶を揺さぶる。
この子は、俺の............駄目だ、思い出せない。
そもそも俺こそ......一体誰なんだ。

スチル2

この手......足......身体......
俺はニンゲン......なのか?
いや、違う。
俺はニンゲンではなかった。
この身体は、俺が目的を果たして手に入れたもの......


俺は荒涼としたこの世界で、ニンゲンの夢を喰い、
ニンゲンになる事を望んでいた......
なのに、なぜこんなに心が苦しいのか......
念願のニンゲンになったのに............なぜ。


『貴方はもう一度夢を集め直す必要があります』

またあの『声』が俺の頭の中にこだまする。
どうしてニンゲンになった俺がまたそうする必要がある?
砕けた記憶の断片が、棘のように心に刺さっていく。


俺は、理由のわからない焦燥感に駆られていた。
白い服の少女......ニンゲンになった自分......
早く『何か』をしなければ、取り返しがつかなくなる。
それだけは、わかっていた。

スチル3

ニンゲンになりたい。人ゲンになりたい。ニン間になりたい。
俺が生きる目的は、たった一つだったはずだ。
それが叶ったというのに、何の嬉しさもないどころか、
沸々と湧き上がる罪悪感のような感覚は一体......?


俺は、あてもなく闇の中を歩いている。
自らの顔がどうなっているかは知る由もない。
しかしこの華奢な体躯......ふわりとした髪......
絞めつける首輪と手枷......
俺は自分が誰なのか、確信した。


白い服の少女――――あの子の姿が、頭から離れない。
あの子は一体誰なんだ?
俺はなぜあの子の姿に?
俺はあの子に何をした?
あの子は俺に何を......?
闇の中に、ピチャンと水の撥ねる音が響く。


『ねえ、カイブツさんが人間になったらね......』
『また、わたしとお友達になってくれるかな?』

......確かにあの子は......そう言っていた!
俺の中に散らばった記憶の断片が、繋がっていく――――

スチル4

どれだけ眠っていたのだろうか。
俺は身体をぎこちなく起こし、無機質な石畳に立つ。
寝ている間、俺はあの子の夢を幾度となく繰り返し見ていた。
あの子と共に過ごした――大切な時間を。


俺のすべての記憶は――長い眠りと共に甦った。
そして俺は再び、この『檻』に立っている。
あの子を早く元に戻さねば......
あの子から俺が奪ったものを早く返さねば......


『あらあら、ようやく起きたのね。』

謎の浮遊物体は、素知らぬ顔で俺に言った。
白々しい事この上ないが、今はこいつに頼る他に道はない。
俺は様々な物を失ったが......記憶だけは取り留めている。


あの子を助けるため、俺は今一度、『檻』を遡る。
そしてあの子を元の姿に戻したら、
まだ答えていない問いかけに、こう答えてやる。

俺がお前の友達になってやる――――と。