刺殺の剣
目の前から一人の女性が歩いてきた。
女の被っていた笠からは、とても綺麗な黒髪が覗いて見えた。
女の被っていた笠からは、とても綺麗な黒髪が覗いて見えた。
下駄を履いているのだろうか、歩くたびに心地よい音を響かせる。
その女の佇まいに、思わず見惚れてしまいそうだ。
その女の佇まいに、思わず見惚れてしまいそうだ。
ふと、女が笠で隠した顔を上げたので目が合ってしまった。
これも何かの縁ではないかと、私は声をかけることにした。
これも何かの縁ではないかと、私は声をかけることにした。
すれ違うその刹那、女が隠し持っていた刃が腹に突き刺さる。
刀身から伝い零れる赤い雫は、地面に綺麗な模様を描いた。
刀身から伝い零れる赤い雫は、地面に綺麗な模様を描いた。
射殺の銃
相手の命を奪う。
それは我々、人間にとって禁じられた行為だ。
それは我々、人間にとって禁じられた行為だ。
だがそんな行為が、時には必要となるときもある。
そんなとき、銃という獲物は簡単に事を済ませられる。
そんなとき、銃という獲物は簡単に事を済ませられる。
弾を込めて撃鉄を降ろし、狙いを定める。
あとは簡単さ、人差し指をトリガーにかけて引けばいい。
あとは簡単さ、人差し指をトリガーにかけて引けばいい。
そうすれば飛び出した弾頭が一瞬のうちに君の頭を貫く。
痛みを感じる間もなくあの世に行けるんだ、嬉しい限りだろう。
痛みを感じる間もなくあの世に行けるんだ、嬉しい限りだろう。
殴殺の杖
その棒は振ることができる。振れば相手を威嚇することができるだ
ろう。
ろう。
その棒は突くことができる。突けば相手を牽制することができるだ
ろう。
ろう。
その棒は殴ることができる。殴れば相手を攻撃することができるだ
ろう。
ろう。
その棒は祈ることができる。祈れば相手を治癒することができるだ
ろう。これはただの棒ではなく、杖なのだ。
ろう。これはただの棒ではなく、杖なのだ。
残光のカルディア
砂塵吹き乱れる荒野を歩く。
風が巻き上げた砂が髪に絡み、口に触れ、眼に入る。
後ろを歩く彼は大丈夫だろうかと、振り返ると目が合った。
風が巻き上げた砂が髪に絡み、口に触れ、眼に入る。
後ろを歩く彼は大丈夫だろうかと、振り返ると目が合った。
僕は誤魔化すように、進む方角が正しいか尋ねた。
視界を覆う砂塵の所為か、果てしない荒野の広大さ故か、
砂ばかりの荒野では、道に迷いそうになる。
視界を覆う砂塵の所為か、果てしない荒野の広大さ故か、
砂ばかりの荒野では、道に迷いそうになる。
この道で合っていると、彼は答えてくれた。
お礼を言った時、ふとある考えが頭に浮かぶ。
この道は、人生に似ているのかもしれない、なんて。
お礼を言った時、ふとある考えが頭に浮かぶ。
この道は、人生に似ているのかもしれない、なんて。
目指す場所はすぐ近くかもしれないし、遥か遠くかもしれない。
様々な事象が、その答えを覆い隠してしまう。
そんな道で僕が迷わずに進めるのは、彼のおかげだ。
様々な事象が、その答えを覆い隠してしまう。
そんな道で僕が迷わずに進めるのは、彼のおかげだ。
悔啖の剣
山岳を望む丘に凛とした風が通り抜けて、足元に咲く小さな花が揺
れる。妹が笑顔でこちらを振り向く。私はそれだけで満たされる。
この小さな世界を守ることが、私の使命だと思っていた。
れる。妹が笑顔でこちらを振り向く。私はそれだけで満たされる。
この小さな世界を守ることが、私の使命だと思っていた。
燃え上がる炎、人々の叫び、地面を染める血だまり。それらの現実
を目の前にして、私は途方もなく無力だった。欲、暴力、醜い兵士
の薄笑いが、全てを黒く染めていった。
を目の前にして、私は途方もなく無力だった。欲、暴力、醜い兵士
の薄笑いが、全てを黒く染めていった。
黒い意識の底。ぼんやりとした頭に響くのは、妹の笑い声。「そう
か……私は悪夢を見ていたんだ」そんな希望を、私の身体の全てが
否定した。嫌な夢を振り払うように、私はただ声の呼ぶ方へ走る。
か……私は悪夢を見ていたんだ」そんな希望を、私の身体の全てが
否定した。嫌な夢を振り払うように、私はただ声の呼ぶ方へ走る。
本当の事を確かめてしまったら、もう後戻りはできない。しかし、
私にはもう、戻る場所なんてなかった。いつでも私の希望だった小
さな笑顔。その瞼を閉ざしたとき、復讐だけが希望になった。
私にはもう、戻る場所なんてなかった。いつでも私の希望だった小
さな笑顔。その瞼を閉ざしたとき、復讐だけが希望になった。
片独の銃
強張った身体に、不思議な言葉が注がれた。
冷たい孤独と、身を吊る糸を緩めるように。
冷たい孤独と、身を吊る糸を緩めるように。
凍える部屋に、暖かな歌が響いた。
揺らぐランプの灯りが、張り巡らされた糸を照らす。
揺らぐランプの灯りが、張り巡らされた糸を照らす。
抑圧された城に、確かな意思が轟いた。
しがらみの糸を断ち切り、ふたつの心が動き始める。
しがらみの糸を断ち切り、ふたつの心が動き始める。
静寂の世界に、ふたりの足音が溶けた。
これは糸を解かれた傀儡たちの、始まりの夜。
これは糸を解かれた傀儡たちの、始まりの夜。
紅蓮
承知。
何百と口にした此の言葉に、感慨など無い。
何百と口にした此の言葉に、感慨など無い。
私は主命に随い、人を殺めるだけの操り人形。
心を殺し、人を殺す。此の身朽ち果てる其の日まで。
心を殺し、人を殺す。此の身朽ち果てる其の日まで。
斯様な時代だからこそ。
生まれる場所は選べずとも、せめて自分らしく生きられたら。
生まれる場所は選べずとも、せめて自分らしく生きられたら。
承知。
彼の日、少女へ向けた其の言葉に、私は初めて心躍った。
彼の日、少女へ向けた其の言葉に、私は初めて心躍った。
懸崖の槍
男は、いまだ誰も頂を見たことのない巨峰に挑む。
厳しい自然を通じ、生と死の境界線を探すかのように。
それは己が生きる理由を見つける行為にも似た。
厳しい自然を通じ、生と死の境界線を探すかのように。
それは己が生きる理由を見つける行為にも似た。
激しい吹雪に見舞われ、男の体力は削り取られていく。
懐に忍ばされていた、娘からの贈り物。
そこから感じるわずかなぬくもりを暖に、男は山頂を目指す。
懐に忍ばされていた、娘からの贈り物。
そこから感じるわずかなぬくもりを暖に、男は山頂を目指す。
険しく反り立った岸壁を越え、男はついに頂を踏む。
そこで男は、残してきた妻の幻影と邂逅し、意を決する。
この山を下り、暖かい家族の元へ帰ろうと。
そこで男は、残してきた妻の幻影と邂逅し、意を決する。
この山を下り、暖かい家族の元へ帰ろうと。
崖から滑落した男の命は、いまにも消えかけていた。
夫の帰りを待ちわびる、娘と身籠った妻の姿が暗闇に散る。
それは男にとって後悔だったのか、刹那の幸福だったのか
夫の帰りを待ちわびる、娘と身籠った妻の姿が暗闇に散る。
それは男にとって後悔だったのか、刹那の幸福だったのか
傷跡と罪科
むかしむかしとてもおそろしいかいぶつがいました。
そのかいぶつはにんげんのゆめをたべるかいぶつでした。
そのかいぶつはにんげんのゆめをたべるかいぶつでした。
それはゆめをたべることでにんげんになれるからです。
そのかいぶつはあるしょうじょにゆめをもらってたべました。
そのかいぶつはあるしょうじょにゆめをもらってたべました。
にんげんになってしょうじょとともだちになる。
そうおもっていたかいぶつはようやくにんげんになれました。
そうおもっていたかいぶつはようやくにんげんになれました。
けれどしょうじょがかわりにばけものになってしまいました。
そしてしょうじょはどこかへいってしまいましたとさ。おしまい。
そしてしょうじょはどこかへいってしまいましたとさ。おしまい。
幽囚の大剣
俺にとって家族は全てだった。
愛する妻と息子を守ることが、使命だと思っていた。
しかし、突如現れた『花』によって息子の命はたやすく奪われた。
愛する妻と息子を守ることが、使命だと思っていた。
しかし、突如現れた『花』によって息子の命はたやすく奪われた。
花によって退廃した世界で人々は管理されて暮らしていた。
日常を取り戻すため、強制的に戦場に立たされる。
まるで囚人のようだが、俺は復讐のため嬉々として剣を握った。
日常を取り戻すため、強制的に戦場に立たされる。
まるで囚人のようだが、俺は復讐のため嬉々として剣を握った。
仲間達とともに花どもを殺し尽くす。
戦い生き伸びた俺と妻は、ともに喜びを分かち合っていた。
その瞬間、世界が静止した。
戦い生き伸びた俺と妻は、ともに喜びを分かち合っていた。
その瞬間、世界が静止した。
俺は思い出した、自分達が管理されていることを。
感情すらも不自由な世界であることを。
そして『人』によって妻の命は奪われた。
感情すらも不自由な世界であることを。
そして『人』によって妻の命は奪われた。
幽囚の杖
私は殺された……はずだった。
でも目の前にいる夫の姿も、その温もりも夢とは思えない。
違和感を覚えながらも、私達は再会を喜び合った。
でも目の前にいる夫の姿も、その温もりも夢とは思えない。
違和感を覚えながらも、私達は再会を喜び合った。
私達のような脱走した者は、異分子として処分される。
その事実を知り、日常を取り戻そうと立ち上がる仲間達。
私と夫も、自由のための戦いに身を投じた。
その事実を知り、日常を取り戻そうと立ち上がる仲間達。
私と夫も、自由のための戦いに身を投じた。
戦いが終わり、管理者に告げられた真実。
私達は……争いのために作られたモノでしかなかった。
そして突然、私の意識は黒く塗りつぶされた。
私達は……争いのために作られたモノでしかなかった。
そして突然、私の意識は黒く塗りつぶされた。
与えられた最後の選択。
この問いに答えなど無いのだろう。
全ては『管理』されていたことだったから。
この問いに答えなど無いのだろう。
全ては『管理』されていたことだったから。
赤鉄の小剣
とある国で一人の鍛冶師が店を営んでいた。
彼にはよき競争相手がおり、互いにその技を磨きあっていた。
彼にはよき競争相手がおり、互いにその技を磨きあっていた。
しかし、ある時から相手との実力に差が開き始めてしまう。
鍛冶師の店からは徐々に客足が遠のいていった。
鍛冶師の店からは徐々に客足が遠のいていった。
鍛冶師は相手に後れてなるものかと必死に腕を磨いたが、
何年経っても埋まらない実力差に絶望した。
何年経っても埋まらない実力差に絶望した。
「お前さえいなければ……」
彼を妬き、彼を焼いた炎で鍛えた剣には羨望の炎が宿っていた。
彼を妬き、彼を焼いた炎で鍛えた剣には羨望の炎が宿っていた。
赤鉄の槍
とある軍に数百の戦場を生き抜き、伝説と呼ばれる一人の兵士がい
た。彼が伝説と言われる所以は、屈強な肉体と華麗な槍捌き、そし
て火の力を宿す不思議な槍にあった。
た。彼が伝説と言われる所以は、屈強な肉体と華麗な槍捌き、そし
て火の力を宿す不思議な槍にあった。
槍に宿された火の力は凄まじく、飛んでくる矢や弾でさえ焼き尽く
した。そして今日もまた、彼の働きでひとつの村を焼き滅ぼす。こ
の槍と彼さえいればどんな戦いにでも勝てると軍は湧きあがった。
した。そして今日もまた、彼の働きでひとつの村を焼き滅ぼす。こ
の槍と彼さえいればどんな戦いにでも勝てると軍は湧きあがった。
その夜、宴の席で仲間たちは彼に戦場で生き抜く秘訣を尋ねた。彼
は自慢気に「いかに強力な武器と言えど、それを自在に操るだけの
技量がなければ意味がない。大事なのは日々の修練だ」と答える。
は自慢気に「いかに強力な武器と言えど、それを自在に操るだけの
技量がなければ意味がない。大事なのは日々の修練だ」と答える。
しばらくのち、彼の軍はあっけなく全滅した。原因は、焼き滅ぼし
た村に蔓延していた疫病だった。その噂を聞いた民衆は「大事なの
は病にかからない健康な身体づくりだ」と教訓にしたという。
た村に蔓延していた疫病だった。その噂を聞いた民衆は「大事なの
は病にかからない健康な身体づくりだ」と教訓にしたという。
赤鉄の大剣
とある村は竜による被害を受けていた。屈強な男たちが退治しよう
と試みたが、竜の吐く炎はあらゆるものを焼き尽くし、誰も近寄る
ことができなかった。
と試みたが、竜の吐く炎はあらゆるものを焼き尽くし、誰も近寄る
ことができなかった。
このままでは村が滅びかねない。村人たちがどうしたものかと苦悩
していると、炎の力を宿す大剣を使い、数々の魔物を倒していると
いう凄腕剣士の噂を耳にする。
していると、炎の力を宿す大剣を使い、数々の魔物を倒していると
いう凄腕剣士の噂を耳にする。
その剣ならば竜の炎にも耐えうるかもしれないと、村人たちは剣士
を探し出し、藁にも縋る思いで彼に竜の退治を依頼した。彼は自信
あり気にその依頼を引き受けた。
を探し出し、藁にも縋る思いで彼に竜の退治を依頼した。彼は自信
あり気にその依頼を引き受けた。
彼らの思惑通り、その大剣は竜から放たれる炎を見事に防いだ。し
かし、大剣と共に竜の炎を受けた剣士は跡形もなく灰となって消え
てしまった。
かし、大剣と共に竜の炎を受けた剣士は跡形もなく灰となって消え
てしまった。
赤鉄の篭手
その男は人を殴っていた。
これまで暴力だけで生きてきた。そんな人生を変えたいと思った彼
はなけなしの金で手甲を買い、地下闘技場で格闘家となった。
これまで暴力だけで生きてきた。そんな人生を変えたいと思った彼
はなけなしの金で手甲を買い、地下闘技場で格闘家となった。
その男は人を殴り続けた。
燃えるように熱い右拳での一打を得意技に次々と相手を打ち負かし、
賞金を手にすることで次第に裕福になっていった。
賞金を手にすることで次第に裕福になっていった。
その男は人を殴るのを止めた。
裕福になったことで、いつしか愛する人や守るべき娘たちを持った
男は、暴力以外の何かで家族を幸せにしたいと考えた。
裕福になったことで、いつしか愛する人や守るべき娘たちを持った
男は、暴力以外の何かで家族を幸せにしたいと考えた。
その男は再び人を殴っていた。
「悪行を白状させるために殴る、これは暴力ではなく正義だ」
そう答えた彼は拷問官となり、今日も笑顔で人を殴る。
「悪行を白状させるために殴る、これは暴力ではなく正義だ」
そう答えた彼は拷問官となり、今日も笑顔で人を殴る。
赤鉄の杖
一人の少年が、門の前で泣いていた。彼は名門と呼ばれる魔法学校
への入学を目指していたが、とにかく貧乏で、ろくな魔道具すら持
っていなかったため、入学を拒否されたのだった。
への入学を目指していたが、とにかく貧乏で、ろくな魔道具すら持
っていなかったため、入学を拒否されたのだった。
少年は夢を諦めるつもりはなかった。そのためにも、まずは魔道具
を手に入れなければ……彼は苦肉の策として学校に忍び込み、ゴミ
置き場に捨てられている、薄汚れた杖を手に入れた。
を手に入れなければ……彼は苦肉の策として学校に忍び込み、ゴミ
置き場に捨てられている、薄汚れた杖を手に入れた。
数年の時が経ち、少年は魔法学校を首席で卒業する。そして、その
栄誉を称えられて、学校から立派な杖が贈られた。彼はついに薄汚
れた杖を捨て去り、名実ともに魔術師の道を歩みだした。
栄誉を称えられて、学校から立派な杖が贈られた。彼はついに薄汚
れた杖を捨て去り、名実ともに魔術師の道を歩みだした。
さらに数年の時が経ったのちに、多くの者に将来を期待された一人
の魔術師が自殺してしまったという。なんでも彼は薄汚れた杖を捨
てた以降、まったく魔法が使えなくなってしまったそうだ。
の魔術師が自殺してしまったという。なんでも彼は薄汚れた杖を捨
てた以降、まったく魔法が使えなくなってしまったそうだ。
赤鉄の銃
とある軍隊に三人の兄弟がいたが、ある時、上官から勝ち目のない
戦場への出撃を命令されて出兵した。しばらくして、三男だけが無
事に帰還したので、上官は話を聞いてみることにした。
戦場への出撃を命令されて出兵した。しばらくして、三男だけが無
事に帰還したので、上官は話を聞いてみることにした。
戦場に赴く途中、兄弟たちは商人と出会ったそうだ。商人は彼らの
境遇を憐れみ、三丁の銃をくれたという。慎重な性格の長男は照準
器のある銃を、力自慢の次男は口径の大きな銃を選んだ。
境遇を憐れみ、三丁の銃をくれたという。慎重な性格の長男は照準
器のある銃を、力自慢の次男は口径の大きな銃を選んだ。
弱気な三男は兄たちに意見することができず、見るからに何の変哲
もない銃を選ぶよりほかなかったという。兄弟たちは商人から受け
取った銃を携え、戦場へと赴いたそうだ。
もない銃を選ぶよりほかなかったという。兄弟たちは商人から受け
取った銃を携え、戦場へと赴いたそうだ。
「何の変哲もない銃で、なぜ君だけ生き残れたのかね?」上官がそ
う問いかけると、三男は言った。「どれだけ撃っても弾が切れない、
魔法の銃だったんです」
魔法の銃だったんです」
青鉄の小剣
海岸に佇む、落ちこぼれの騎士がいた。男は海に向かって愚痴をこ
ぼす。哀れな弱い自分を、貧しく孤独な暮らしを。すると突然波が
立ち、一本の剣が浜辺に打ち上げられた。
ぼす。哀れな弱い自分を、貧しく孤独な暮らしを。すると突然波が
立ち、一本の剣が浜辺に打ち上げられた。
男が拾った剣は不思議な魔力を帯びていた。握りしめると、ひんや
りと心地いい感覚がする。心が穏やかになって、敵を目の前にして
もその剣を握っていれば、恐怖に飲まれることはなかった。
りと心地いい感覚がする。心が穏やかになって、敵を目の前にして
もその剣を握っていれば、恐怖に飲まれることはなかった。
落ちこぼれだった男は、勇敢な騎士へと変わっていった。どんな戦
況にも動揺せず、戦いに身を投じていった。男はやがて、地位を、
富を、名誉を手に入れた。
況にも動揺せず、戦いに身を投じていった。男はやがて、地位を、
富を、名誉を手に入れた。
しかし男は、地位も、富も、名誉にも喜ばなかった。ただその剣を
握り、心地いい感覚を味わっていたかった。剣の魔力に触れ続けた
男は、心も体も冷たくなり、何も感じない鉄の塊になっていった。
握り、心地いい感覚を味わっていたかった。剣の魔力に触れ続けた
男は、心も体も冷たくなり、何も感じない鉄の塊になっていった。
青鉄の槍
森の奥に、人ではないものと会話できる少年がいた。少年はその異
能のせいで、幼くして森に捨てられ、孤独な人生を歩んでいた。彼
の親代わりとなったのは森の泉に住むヌシと呼ばれる怪物だった。
能のせいで、幼くして森に捨てられ、孤独な人生を歩んでいた。彼
の親代わりとなったのは森の泉に住むヌシと呼ばれる怪物だった。
やがて少年に物心がついた頃、町の人が怪物に襲われているところ
に出くわした。心優しい少年は、ヌシに助けを求める。ヌシはそれ
に答え、少年に不思議な力を宿した槍を託した。
に出くわした。心優しい少年は、ヌシに助けを求める。ヌシはそれ
に答え、少年に不思議な力を宿した槍を託した。
少年は、ヌシの槍を携え、町の人を襲う怪物を退治した。少年は人
の役に立てたと思い嬉しくなった。しかし町の人々は、不思議な力
を使う上に、人間の言葉を喋れない少年に畏怖の念を抱く。
の役に立てたと思い嬉しくなった。しかし町の人々は、不思議な力
を使う上に、人間の言葉を喋れない少年に畏怖の念を抱く。
やがて怪物が現れたのも、この少年が捨てられたことを恨んでやっ
たのではないかと噂がたち、町の人々は無残にも森を焼いた。焼け
落ちた森の中には、一本の槍だけが煤にまみれ佇んでいた。
たのではないかと噂がたち、町の人々は無残にも森を焼いた。焼け
落ちた森の中には、一本の槍だけが煤にまみれ佇んでいた。
青鉄の大剣
ある海辺の洞窟に、呪われた大剣が祀られていた。
無謀な男が、その剣に手を伸ばす。
剣を握りしめたとき、男は不思議な声を聞いた。
無謀な男が、その剣に手を伸ばす。
剣を握りしめたとき、男は不思議な声を聞いた。
気が付くと男のまわりに、その剣を手に取り、
戦いの中で死んでいった人々が浮かんでいた。
彼らは男に語りかける。戦うことに、意味はあるのかと。
戦いの中で死んでいった人々が浮かんでいた。
彼らは男に語りかける。戦うことに、意味はあるのかと。
男は気が付くと、なぜ戦うのか思い出せなくなっていた。
一体なぜこんなところにいるんだろう。
こんなところで、俺は何をやっているんだろう。
一体なぜこんなところにいるんだろう。
こんなところで、俺は何をやっているんだろう。
男は死んでいった人々に手を取られ、洞窟を進む。
そこには青く光る透明な泉が広がっていた。
泉に足を踏み入れると、底のない光の中へ落ちていった。
そこには青く光る透明な泉が広がっていた。
泉に足を踏み入れると、底のない光の中へ落ちていった。
青鉄の篭手
男は貧しい漁村の家に生まれた。
家の中には争いが絶えなかった。
いつも、怒鳴り声、叫び声、泣き声が響いていた。
家の中には争いが絶えなかった。
いつも、怒鳴り声、叫び声、泣き声が響いていた。
男はいつも耳を塞いでいた。
でも、静けさを手に入れることはできなかった。
耐えられないときは家を抜け出し、海を眺めて過ごした。
でも、静けさを手に入れることはできなかった。
耐えられないときは家を抜け出し、海を眺めて過ごした。
男が成人を迎える頃、父の武器を奪い、力任せに殴り殺した。
やっと静けさが手に入る、そう期待した。
でも、こだまする死に際の叫び声が耳から離れなかった。
やっと静けさが手に入る、そう期待した。
でも、こだまする死に際の叫び声が耳から離れなかった。
男はその後、崖から海に飛び込んだ。
海の中は賑やかだった。でもそれは心の落ち着く賑やかさだった。
男は初めて、安心して目を閉じた。
海の中は賑やかだった。でもそれは心の落ち着く賑やかさだった。
男は初めて、安心して目を閉じた。
青鉄の杖
男が漁をしていると、変な物が網にかかった。手に取ると、それは
杖だった。男はそのボロボロな杖をきれいに磨き、部屋に置いて飾
ることにした。
杖だった。男はそのボロボロな杖をきれいに磨き、部屋に置いて飾
ることにした。
夜が明けて男が目を覚ますと、部屋に飾った杖がなく、代わりに美
しい娘がたっていた。男は不思議に思ったが、なによりその美しさ
に見惚れて、共に暮らすことにした。
しい娘がたっていた。男は不思議に思ったが、なによりその美しさ
に見惚れて、共に暮らすことにした。
あるとき男の家が火事に見舞われた。男は死を覚悟したが、娘は静
かに立ち上がると、炎の中に身を投じた。男は唖然とその姿を見て
いることしかできなかった。
かに立ち上がると、炎の中に身を投じた。男は唖然とその姿を見て
いることしかできなかった。
気が付くと燃え上がった炎は消え、部屋には一本の杖が転がってい
た。男は杖を手に取り、美しい娘に思いを馳せた。深い悲しみに暮
れた男は、やがて杖を持ったまま海の中に身を投じたという。
た。男は杖を手に取り、美しい娘に思いを馳せた。深い悲しみに暮
れた男は、やがて杖を持ったまま海の中に身を投じたという。
青鉄の銃
雨の止まない町に、洪水で子を失った女性がいた。彼女は雨が降る
と、いつも荒れる川の水面を眺める。波の間に、我が子の面影を探
すように。しかし、その日彼女が見つけたのは、川岸に捨てられた
一人の子供だった。
と、いつも荒れる川の水面を眺める。波の間に、我が子の面影を探
すように。しかし、その日彼女が見つけたのは、川岸に捨てられた
一人の子供だった。
大切に育てようと決意した。それからというもの、町は度々水害に
遭うようになる。しかし彼女の家だけは、その被害を受けることが
なかった。
町の人々は、その子供は呪われていると噂し、やがて噂を信じる人
も多くなっていった。町の人々からの逆恨みは水害が町を襲うたび
に激しくなり、ついに彼女たちは、呪いの元凶として処刑されるこ
とになる。
も多くなっていった。町の人々からの逆恨みは水害が町を襲うたび
に激しくなり、ついに彼女たちは、呪いの元凶として処刑されるこ
とになる。
一丁の銃が転がっていた。それ以降、町が水害に遭うことはなくな
った。かわりに、町には一滴の雨も降らなくなり、やがて乾いた砂
漠となって消えていったという。
翠鉄の小剣
ある老人が、人里離れた場所で一人寂しく暮らしていました。老人
の唯一の宝物は、亡き妻が大切に手入れをしていた花畑。一面に広
がる美しい花畑は、孤独な老人の良き話し相手でした。
の唯一の宝物は、亡き妻が大切に手入れをしていた花畑。一面に広
がる美しい花畑は、孤独な老人の良き話し相手でした。
ある夏、日照りが続き干ばつとなり、花畑がみるみる枯れてゆきま
した。まるで、妻との思い出が一つ一つ消えていくような辛さを感
じながら、老人にはなすすべがありませんでした。
した。まるで、妻との思い出が一つ一つ消えていくような辛さを感
じながら、老人にはなすすべがありませんでした。
次第に、干ばつのせいで老人は自分の飲み水にも困るようになって
いきました。しかし彼は、最後の一杯だった水を半分飲み、残りの
半分を花畑に撒きました。まるで、愛する妻に分け与えるように。
いきました。しかし彼は、最後の一杯だった水を半分飲み、残りの
半分を花畑に撒きました。まるで、愛する妻に分け与えるように。
季節が変わり、ようやく雨が降り始めました。花畑の真ん中で、朽
ちて骨となった老人を囲むように、再び花が咲き始めました。花は、
墓のない老人のために、冬が来ても咲き誇り続けましたとさ。
墓のない老人のために、冬が来ても咲き誇り続けましたとさ。
翠鉄の槍
人魚の娘の初恋の相手は、人間の青年でした。海で小舟を漕いでい
た青年に心を奪われた人魚は、またひと目会うにはどうしたらいい
のかと考えました。
た青年に心を奪われた人魚は、またひと目会うにはどうしたらいい
のかと考えました。
海辺の村を海に沈めてくれました。しかし、その村に人魚が恋した
あの青年はいませんでした。
人魚の娘は、再び海の神に願いました。すると、海の神はもう一度
津波を起こし、内陸の町を海に沈めてくれました。はたして青年は
その町にいましたが、すぐに溺れ死んでしまいました。
津波を起こし、内陸の町を海に沈めてくれました。はたして青年は
その町にいましたが、すぐに溺れ死んでしまいました。
人魚の娘は満足でした。うぶでうら若き人魚にとって、初恋とはひ
と目見るだけで十分だったのです。人魚は、また別の男を見かけて
新しい恋を始めました。また、海の神にお願いしなくてはね。
と目見るだけで十分だったのです。人魚は、また別の男を見かけて
新しい恋を始めました。また、海の神にお願いしなくてはね。
翠鉄の大剣
風の精霊は、とても好奇心が旺盛でした。
精霊でありながら、人間の少女と友達になってみたかったのです。
言葉を持たない精霊は、想いを伝える方法を考えました。
精霊でありながら、人間の少女と友達になってみたかったのです。
言葉を持たない精霊は、想いを伝える方法を考えました。
最初に、そよ風を起こしました。
少女のスカートが風に揺れ、はしゃぐ姿はとても楽しそうです。
精霊は、もっと一緒に遊びたいなと思いました。
少女のスカートが風に揺れ、はしゃぐ姿はとても楽しそうです。
精霊は、もっと一緒に遊びたいなと思いました。
次に、突風を起こしました。
風は木々を大きく揺らし、少女は家に閉じこもってしまいました。
どうしたら出てきてくれるのでしょう?
風は木々を大きく揺らし、少女は家に閉じこもってしまいました。
どうしたら出てきてくれるのでしょう?
そして、台風を起こしました。
家をなぎ倒したはいいものの、少女まで吹き飛んでいきました。
あぁ、あの子は死んでしまったようですよ。やりすぎましたね。
家をなぎ倒したはいいものの、少女まで吹き飛んでいきました。
あぁ、あの子は死んでしまったようですよ。やりすぎましたね。
翠鉄の篭手
ある嵐の日。曇天に吹きすさぶ強風の中、轟音と稲光と同時に、1
人の少年に雷が落ちた。少年は死んだかと思われたが、奇跡的に無
傷だった。そしてその日から、少年は不思議な能力に目覚めた。
人の少年に雷が落ちた。少年は死んだかと思われたが、奇跡的に無
傷だった。そしてその日から、少年は不思議な能力に目覚めた。
それは、未来を予知できるという能力だった。少年の父親は、金稼
ぎのために息子に目覚めた力を利用することを思いつき、予言を求
めた古今東西の人々が少年の元へ押し寄せるようになった。
ぎのために息子に目覚めた力を利用することを思いつき、予言を求
めた古今東西の人々が少年の元へ押し寄せるようになった。
道具のように酷使される日々。父親にも、予言を求める人々にも、
少年はうんざりしていた。少年は、この町に明日何が起きるかを予
知していたが、それは自分だけの秘密にすることにした。
少年はうんざりしていた。少年は、この町に明日何が起きるかを予
知していたが、それは自分だけの秘密にすることにした。
翌日、大嵐が起きて、町では多くの犠牲者が出た。その中には、少
年の父親も含まれていた。大雨の中に轟く雷の音を近くに聞きなが
ら、少年は思った。「誰かに当たればいいのにな」
年の父親も含まれていた。大雨の中に轟く雷の音を近くに聞きなが
ら、少年は思った。「誰かに当たればいいのにな」
翠鉄の杖
その地を愛した。そこは、魚1匹、虫1匹たりともいない静謐の場
所であったが、ある夜、1人の赤ん坊が捨てられていった。
捨てられた赤ん坊は、一晩中母親を求めて泣き続けた。しかし、そ
の泣き声は、人間は元より鳥にも小動物にも届くことはなく、やが
て赤ん坊は衰弱して死んでしまった。
の泣き声は、人間は元より鳥にも小動物にも届くことはなく、やが
て赤ん坊は衰弱して死んでしまった。
この赤ん坊を哀れに思った大地の精霊は考えた。熟慮の末、この地
に地震を起こし、寂静の湖を大海へと繋げた。そうして湖には魚や
水鳥たちが続々とやってきて、とても賑やかになった。
に地震を起こし、寂静の湖を大海へと繋げた。そうして湖には魚や
水鳥たちが続々とやってきて、とても賑やかになった。
赤ん坊の魂は、もう寂しくはなかろう。幼い魂は、今やたくさんの
小さき獣や魚や花と友達だった。大地の精霊はそれを見届けると、
やれやれといった具合に、新たな安息の地を探しに行った。
小さき獣や魚や花と友達だった。大地の精霊はそれを見届けると、
やれやれといった具合に、新たな安息の地を探しに行った。
翠鉄の銃
遠い遠い昔。御山を全て焼き尽くす大火が起きた。その山に棲む雌
のユニコーンは、腹に子を宿していた。母ユニコーンは、火に焼か
れながらも子だけはどうか助かるようにと強く強く願った。
のユニコーンは、腹に子を宿していた。母ユニコーンは、火に焼か
れながらも子だけはどうか助かるようにと強く強く願った。
焼かれて死にゆく母親から、ユニコーンの子が生まれた。子は、母
親の加護を受け、火に焼かれないという不思議な体をしていた。ユ
ニコーンの子は震える脚で立ち、燃えゆく母と御山を見届けた。
親の加護を受け、火に焼かれないという不思議な体をしていた。ユ
ニコーンの子は震える脚で立ち、燃えゆく母と御山を見届けた。
燃え尽きた山に、ユニコーンの子は一人きり。三日三晩、母の亡骸
から離れず、鳴き続けた。すると、焼けた土から新たな緑が一つ、
芽吹いてきた。ユニコーンの子は、その芽を母のように愛した。
から離れず、鳴き続けた。すると、焼けた土から新たな緑が一つ、
芽吹いてきた。ユニコーンの子は、その芽を母のように愛した。
数千年の時が経った。あの時ユニコーンの子が愛でた芽は大きく育
ち、御山の神木として高くそびえている。神木の下には、ユニコー
ンの子が眠り、御山と動物達を大火の厄から守っているという。
ち、御山の神木として高くそびえている。神木の下には、ユニコー
ンの子が眠り、御山と動物達を大火の厄から守っているという。
白鉄の小剣
はるか昔、光の神が6つの武器を創り、世界の諸所に隠したという
伝承がある。その武器の一つである金色に輝く剣は、深い海の底に
眠ると言われ、多くの海賊達が挑んだが見つけられなかった。
伝承がある。その武器の一つである金色に輝く剣は、深い海の底に
眠ると言われ、多くの海賊達が挑んだが見つけられなかった。
海の近くの小さな村に、釣り好きの男がいた。男が海で釣った魚を
持ち帰ると、妻が自慢の料理の腕をふるった。その日、男は見たこ
ともない大きな魚を釣り上げて家に帰った。
持ち帰ると、妻が自慢の料理の腕をふるった。その日、男は見たこ
ともない大きな魚を釣り上げて家に帰った。
その魚の鱗は、長く生きてきたことを物語る硬さだった。妻がやっ
とのことでその魚をさばくと、腹から曇った剣が出てきた。男と妻
は、焼いたり蒸したり煮たりして魚を堪能し、剣は海に捨てた。
とのことでその魚をさばくと、腹から曇った剣が出てきた。男と妻
は、焼いたり蒸したり煮たりして魚を堪能し、剣は海に捨てた。
剣は、海の底へと沈んでいった。しかし、底に届く直前、剣は再び
大きな魚に飲み込まれてしまったのである。この剣は、本当の価値
に気づかれないまま、今もなお魚の腹の中で大海を巡っている。
大きな魚に飲み込まれてしまったのである。この剣は、本当の価値
に気づかれないまま、今もなお魚の腹の中で大海を巡っている。
白鉄の槍
むかしむかし、光の神さまが6つの武器を創り、世界のあちこちに
隠しました。その一つ、伝説の槍は、必ず正しく狙いが定まると言
われ、多くの武人が世界中を探しました。しかし見つけることはで
きず、この槍にまつわる伝承はいつしか風化してしまいました。
隠しました。その一つ、伝説の槍は、必ず正しく狙いが定まると言
われ、多くの武人が世界中を探しました。しかし見つけることはで
きず、この槍にまつわる伝承はいつしか風化してしまいました。
谷底に落ちてしまいました。鬱蒼とした木々や粗削りの岩々に
阻まれ、少女は自分がどこから落ちたか、わからなくなってしまい
ました。少女は、お父さんとお母さんに会いたくて、泣きました。
ふと、少女のそばに薄汚い槍が落ちていました。夜が訪れ、少女
はその槍を抱いて寝ました。少しでも、寄り添うものがあれば安心
でした。すると翌朝、その槍は少し離れたところにあるのです。
少女は、槍を拾い上げ、槍先の示す方角へ歩き出しました。
はその槍を抱いて寝ました。少しでも、寄り添うものがあれば安心
でした。すると翌朝、その槍は少し離れたところにあるのです。
少女は、槍を拾い上げ、槍先の示す方角へ歩き出しました。
少女が眠るたび、槍は少しずつ離れたところに移動していました。
そうやって三日三晩、槍の指す方角へ歩いていくと、人里に着き、
少女はお父さんとお母さんに会うことができました。その槍は、
今ではお父さんが狩りに使って重宝しているのだそうです。
そうやって三日三晩、槍の指す方角へ歩いていくと、人里に着き、
少女はお父さんとお母さんに会うことができました。その槍は、
今ではお父さんが狩りに使って重宝しているのだそうです。
白鉄の大剣
はるか昔、光の神が6つの武器を創り、世界の諸所に隠したという
伝承がある。その一つが、所有者の「生きる力」を高めるという大
剣。それは険しい雪山の頂に奉られており、幾千もの冒険者達が求
めたが、大自然の厳しさに負けて誰一人帰ることはなかった。
伝承がある。その一つが、所有者の「生きる力」を高めるという大
剣。それは険しい雪山の頂に奉られており、幾千もの冒険者達が求
めたが、大自然の厳しさに負けて誰一人帰ることはなかった。
一人の高潔な騎士が、この山に挑んでいた。山頂に近づくにつれ、
寒さのために腐敗せずに打ち捨てられている冒険者達の死体が増え
ていった。彼は、それらを丁重に弔いながら、雪深い道なき道を進
み、ついに山頂に到達した。
寒さのために腐敗せずに打ち捨てられている冒険者達の死体が増え
ていった。彼は、それらを丁重に弔いながら、雪深い道なき道を進
み、ついに山頂に到達した。
そこにあったのは、温かな光を放つ見事な大剣。しかしながら、騎
士に残された体力は既に皆無に等しかった。食料は底を尽いており、
十日間何も食べていなかったのだ。騎士は、大剣に手を伸ばしつつ
も、ここで餓死することを覚悟した。
十日間何も食べていなかったのだ。騎士は、大剣に手を伸ばしつつ
も、ここで餓死することを覚悟した。
騎士が大剣を手に取ったその時、力がみなぎってきた。それはたし
かに、「生きるための力」だった。喰おう。今なら、なんでも喰え
る気がする。いや、喰いたいんだ。喰わなくては。騎士は、ゆっく
り下山していった。腐敗していない冒険者達の肉を求めて。
かに、「生きるための力」だった。喰おう。今なら、なんでも喰え
る気がする。いや、喰いたいんだ。喰わなくては。騎士は、ゆっく
り下山していった。腐敗していない冒険者達の肉を求めて。
白鉄の篭手
むかしむかし。光の神が6つの武器を創り、それらを世界の此方彼
方に隠したとされている。そのうちの一つである篭手は、広大な砂
漠の中に埋もれ、長きにわたり人目に触れることはなかった。その
砂漠には、都から追いやられた貧しい異邦の民が暮らしていた。
方に隠したとされている。そのうちの一つである篭手は、広大な砂
漠の中に埋もれ、長きにわたり人目に触れることはなかった。その
砂漠には、都から追いやられた貧しい異邦の民が暮らしていた。
異邦の民は、砂漠で稀に見つかる鉱石を売って暮らしていた。それ
らは布袋一杯に集めても銀貨1枚にも満たない価値しかなかった。
ある日、いつものように彼らが鉱石拾いに精を出していると、仲間
の一人が砂の中から黄金に輝く篭手を見つけた。
らは布袋一杯に集めても銀貨1枚にも満たない価値しかなかった。
ある日、いつものように彼らが鉱石拾いに精を出していると、仲間
の一人が砂の中から黄金に輝く篭手を見つけた。
彼らは、その篭手を女王に献上することにした。それは、女王に忠
誠を誓う意思があることを示し、都で暮らすことを許してもらうた
めだった。都へ上がり、女王に謁見を申し出たが、女王は無慈悲に
も篭手を取り上げ、異邦の民を再び砂漠へと追放した。
誠を誓う意思があることを示し、都で暮らすことを許してもらうた
めだった。都へ上がり、女王に謁見を申し出たが、女王は無慈悲に
も篭手を取り上げ、異邦の民を再び砂漠へと追放した。
女王は、輝く篭手をうっとりと眺めた。しかし、それを国庫に大事
にしまおうとして触れた途端、篭手は砂となって跡形もなく崩れ落
ちてしまった。一方その頃、異邦の民が拾い集めていた布袋の中の
鉱石は、すべて本物の黄金に変わっていて、彼らは驚いたという。
にしまおうとして触れた途端、篭手は砂となって跡形もなく崩れ落
ちてしまった。一方その頃、異邦の民が拾い集めていた布袋の中の
鉱石は、すべて本物の黄金に変わっていて、彼らは驚いたという。
白鉄の杖
はるか昔、光の神が6つの武器を創って、世界のあちこちに隠しま
した。そのうちの一つである杖は、辺境の国に静かに流れる小川の
ほとりに、長い間打ち捨てられていました。
した。そのうちの一つである杖は、辺境の国に静かに流れる小川の
ほとりに、長い間打ち捨てられていました。
大人達は、薄汚れたそれを流木か何かだと思って気にも留めていま
せんでした。その杖を拾い上げたのは、剣士に憧れる幼い少年でし
た。少年は、その杖を剣代わりにして、毎日毎日遊びました。
せんでした。その杖を拾い上げたのは、剣士に憧れる幼い少年でし
た。少年は、その杖を剣代わりにして、毎日毎日遊びました。
少年が杖を振り回して遊んでいると、時折杖から火の玉や氷の塊が
飛び出るようになり、大人達を驚かせました。少年は自分でも気づ
かぬうちに、いつしか強大な魔力に目覚めていたのです。
飛び出るようになり、大人達を驚かせました。少年は自分でも気づ
かぬうちに、いつしか強大な魔力に目覚めていたのです。
しかし、本当は剣士になりたかったという気持ちは死ぬまで消えな
かったそうです。
白鉄の銃
かつて、光の神が6つの武器を創り、世界中にそれらを隠した。異
教徒の国に伝わる美しい銃は、このうちの一つだという噂が、まこ
としやかに囁かれていた。
教徒の国に伝わる美しい銃は、このうちの一つだという噂が、まこ
としやかに囁かれていた。
この異教徒たちがもっとも大切にしていた教義は、「争わない」
「殺さない」ということであった。銃は、代々彼らの間で大切に受
け継がれてきたが、決して武器として使われることはなかった。
「殺さない」ということであった。銃は、代々彼らの間で大切に受
け継がれてきたが、決して武器として使われることはなかった。
他国の王がこの銃を狙い、軍隊を派遣して異教徒の国を襲った。不
戦不殺の教えを守る彼らは、無抵抗のまま皆殺しにされた。しかし、
そうまでしても他国軍は銃を見つけることができなかった。
そうまでしても他国軍は銃を見つけることができなかった。
年月が経ち、異教徒の国は廃墟となっていた。そこへ、無垢な子供
が迷い込み、ふと拾い上げたのは美しい銃だった。光の神が創った
銃は、人を殺したことのある者達には見えないものだった。
が迷い込み、ふと拾い上げたのは美しい銃だった。光の神が創った
銃は、人を殺したことのある者達には見えないものだった。
黒鉄の小剣
力では駄目なんだ。
平和な世を築くには、力に頼るわけにはいかない。
平和な世を築くには、力に頼るわけにはいかない。
力で圧し潰しては、新たな争いの種になる。
復讐、報復。血で血を洗う争いが、未来永劫繰り返されてしまう。
復讐、報復。血で血を洗う争いが、未来永劫繰り返されてしまう。
だから、恐怖を。余計な気など起こさぬように。
震え、痺れ、竦み上がらせ、その心を縛る呪いを。
震え、痺れ、竦み上がらせ、その心を縛る呪いを。
王として、もう誰にも血を流させる訳にはいかない。
これで、これで良い筈なんだ……そうだろ……父さん……?
これで、これで良い筈なんだ……そうだろ……父さん……?
黒鉄の槍
逢引、出逢、運命、歓喜、始点、邂逅、遭遇、発見、開始、狂喜、
愉悦、幸運、歓心、始動、天運、会遇、冥加、対面、際会、序開、
遭着、僥倖、発端、出始、交差、幕明、至福、会合、奇跡、対顔、
恩寵、愉楽、必定、水端、神助、芽吹、快事、天命、因縁、……
愉悦、幸運、歓心、始動、天運、会遇、冥加、対面、際会、序開、
遭着、僥倖、発端、出始、交差、幕明、至福、会合、奇跡、対顔、
恩寵、愉楽、必定、水端、神助、芽吹、快事、天命、因縁、……
……愛縁、交際、抱擁、最愛、寵愛、深愛、希望、相関、愛着、
情炎、誓約、約束、愛慕、執心、恋情、偏愛、溺愛、関係、恋仲、
理想、激愛、慈愛、恋慕、愛染、愛想、愛執、親愛、熱愛、親密、
恋愛、愛好、接吻、嗜好、思慕、熱情、情火、発熱、慕情、……
情炎、誓約、約束、愛慕、執心、恋情、偏愛、溺愛、関係、恋仲、
理想、激愛、慈愛、恋慕、愛染、愛想、愛執、親愛、熱愛、親密、
恋愛、愛好、接吻、嗜好、思慕、熱情、情火、発熱、慕情、……
……阨困、障壁、問題、困難、波乱、支障、難事、苦悩、障害、
悲運、重苦、悲哀、苦難、厄介、憂鬱、慟哭、哀惜、後悔、苦悶、
業苦、苦痛、悲嘆、哀傷、哀哭、差支、異常、憂苦、災禍、不幸、
悩乱、困苦、厄難、痛事、悲境、妨害、辛苦、惨禍、艱難、……
悲運、重苦、悲哀、苦難、厄介、憂鬱、慟哭、哀惜、後悔、苦悶、
業苦、苦痛、悲嘆、哀傷、哀哭、差支、異常、憂苦、災禍、不幸、
悩乱、困苦、厄難、痛事、悲境、妨害、辛苦、惨禍、艱難、……
黒鉄の大剣
少女はずっと、暗闇の中に居た。
暗黒に支配された牢獄にただ一人、何年も。
時間さえ見失う暗闇で、時が過ぎるのをただ待っていた。
暗黒に支配された牢獄にただ一人、何年も。
時間さえ見失う暗闇で、時が過ぎるのをただ待っていた。
定期的に与えられる食事の時だけは、少女も光を見る事が出来た。
僅かに開いた扉から、眩い光と共に与えられる食事。
少女はその一瞬の光に縋る様に、ずっと生きてきた。
僅かに開いた扉から、眩い光と共に与えられる食事。
少女はその一瞬の光に縋る様に、ずっと生きてきた。
与えられた食事を綺麗に平らげ、再び光が射す時を待つ。
それが少女の生活、それ以上の出来事は何もない。
ある日、少女の生活を知った男が同情し、少女を救いに現れた。
それが少女の生活、それ以上の出来事は何もない。
ある日、少女の生活を知った男が同情し、少女を救いに現れた。
開け放たれた扉から、男の手が少女へ差し伸べられる。
少女は迷う事なく、その手へと嚙み付いた。
男を綺麗に平らげて、少女はまた、次の光を待ち望む。
少女は迷う事なく、その手へと嚙み付いた。
男を綺麗に平らげて、少女はまた、次の光を待ち望む。
黒鉄の篭手
ある貴族の家に生まれた僕は、有り体に言って落ちこぼれだった。
同じ血を分けた兄さんと比べれば、その格差は残酷な程に。
父さんも母さんも、それが酷く気に食わなかったらしい。
同じ血を分けた兄さんと比べれば、その格差は残酷な程に。
父さんも母さんも、それが酷く気に食わなかったらしい。
一対多でも戦果を上げる兄さんと、一対一さえままならない僕。
頑健な兄さんに比べ、僕は生まれつき身体が弱かった。
自分の血と認めたくない父さんは、誰の子だと母さんを罵った。
頑健な兄さんに比べ、僕は生まれつき身体が弱かった。
自分の血と認めたくない父さんは、誰の子だと母さんを罵った。
軍略においても、僕は兄さんにまるで及ばなかった。
同じ様に育てた筈の兄弟に、これ程の差異が生まれてしまった事。
母さんはその事実から眼を背け、僕の存在からも眼を背けた。
同じ様に育てた筈の兄弟に、これ程の差異が生まれてしまった事。
母さんはその事実から眼を背け、僕の存在からも眼を背けた。
生まれた事を認められず、生きている事も認められないのなら。
誰も、僕の存在を認めないというのなら。
血に汚れたこの手も、この血が示す罪も、存在しない筈だ。
誰も、僕の存在を認めないというのなら。
血に汚れたこの手も、この血が示す罪も、存在しない筈だ。
黒鉄の杖
神へと捧げられた少年がいた。
暗い洞穴の奥深く、祭壇に縛り付けられた少年。
それは神の怒りを収める為の贄だった。
暗い洞穴の奥深く、祭壇に縛り付けられた少年。
それは神の怒りを収める為の贄だった。
少年は人々を恨みはしなかった。
自分一人の犠牲で、より多くの人間が生きられる。
数字の上で正しい事は明らかだと、そう思っていた。
自分一人の犠牲で、より多くの人間が生きられる。
数字の上で正しい事は明らかだと、そう思っていた。
そして、少年は少し楽しみでもあった。
人前に姿を現さない神の姿を、自分だけが目に出来る。
それだけで少年は満足だった。
人前に姿を現さない神の姿を、自分だけが目に出来る。
それだけで少年は満足だった。
しかし、神が少年の前に姿を現すことは無かった。
祭壇に縛られて数日、意識が朦朧としていた少年は、
現れた獣を神と思い込み、満ち足りた顔のまま喰い殺された。
祭壇に縛られて数日、意識が朦朧としていた少年は、
現れた獣を神と思い込み、満ち足りた顔のまま喰い殺された。
黒鉄の銃
滲む景色に道塗を忘れ 刹那の隙に孤影と煙る
霞む記憶に痼疾を忘れ 憂いの色に迹さえ曇る
沈む意識に目醒を忘れ 空虚の念へ怖れも濁る
眩む俗世に憂身を忘れ 手繰る腕も終へと翳る
近代軍記ノ弐
ある軍に、ヒョロヒョロに痩せた炊事班の青年がいた。青年は最前
線で戦うことを望んで入隊したが、見るからに体格が戦闘向きでは
なかった。炊事班へ配属され、来る日も来る日も豆を煮続けた。
線で戦うことを望んで入隊したが、見るからに体格が戦闘向きでは
なかった。炊事班へ配属され、来る日も来る日も豆を煮続けた。
朝も昼も夜も、青年は野菜を洗い、皮を剥き、一口大に切り、煮込
み、炒め、蒸し、肉を焼き続けた。そして、戦線で誇らしく負傷し
てキャンプへ戻ってくる仲間達に、食事を提供し続けた。
み、炒め、蒸し、肉を焼き続けた。そして、戦線で誇らしく負傷し
てキャンプへ戻ってくる仲間達に、食事を提供し続けた。
ある日キャンプが襲撃された。仲間達は殺され、青年は銃で脅され
た────「作戦を吐け」。しかし、何しろ野菜を切ってばかりい
たから、作戦など知らないのだ。知っているのはレシピだけだ。
た────「作戦を吐け」。しかし、何しろ野菜を切ってばかりい
たから、作戦など知らないのだ。知っているのはレシピだけだ。
敵軍の捕虜となった青年は、またも炊事係をさせられることとなっ
た。しかし青年は抵抗しなかった。剣の代わりに包丁を持つほうが
自分に向いていると、とっくに気づいていたのだ。天職だった。
た。しかし青年は抵抗しなかった。剣の代わりに包丁を持つほうが
自分に向いていると、とっくに気づいていたのだ。天職だった。
赤血の長槍
かつて存在したという罪深き戦闘部隊、『赤鬼』。
それは人の世に居場所の無い大罪人を活用する、血塗られた部隊。
善も悪も彼等には関係無い、そこに在るのは血肉と骨だ。
それは人の世に居場所の無い大罪人を活用する、血塗られた部隊。
善も悪も彼等には関係無い、そこに在るのは血肉と骨だ。
槍使いのその女は、幼い頃から何人もの命を手に掛けて来た。
その殺しは余りに澆薄で、最早息をするのと変わらぬかの如く。
彼女が槍を選んだ理由さえ、殺せれば何でも良かったからだ。
その殺しは余りに澆薄で、最早息をするのと変わらぬかの如く。
彼女が槍を選んだ理由さえ、殺せれば何でも良かったからだ。
幼い頃、彼女は夜盗の襲撃に依って両親を失った。
奪われた物は戻らず、誰かが彼女に手を差し伸べる事も無い。
孤独と絶望の中で彼女は知った。世界とはこういう物なのだと。
奪われた物は戻らず、誰かが彼女に手を差し伸べる事も無い。
孤独と絶望の中で彼女は知った。世界とはこういう物なのだと。
故に彼女は殺し、奪い、生きた。
自分がかつてそうされた様に。生きる為にはそれしか無かった。
彼女の過ちを正し、導いてくれる人などもう居ないのだから。
自分がかつてそうされた様に。生きる為にはそれしか無かった。
彼女の過ちを正し、導いてくれる人などもう居ないのだから。
赤血の金棒
かつて存在したという罪深き戦闘部隊、『赤鬼』。
それは人の世に居場所の無い大罪人を活用する、血塗られた部隊。
彼等はただ、殺す事だけを目的に戦場に駆り出される。
それは人の世に居場所の無い大罪人を活用する、血塗られた部隊。
彼等はただ、殺す事だけを目的に戦場に駆り出される。
その部隊の中でも最たる巨躯、最たる腕力を持つ男。
彼は愛用する金棒を力任せに振り回し、叩き付け、
家屋や人間が壊れていく様を見て、少年の様に笑っていた。
彼は愛用する金棒を力任せに振り回し、叩き付け、
家屋や人間が壊れていく様を見て、少年の様に笑っていた。
楽しい時は思いっきり笑え、男はかつて父にそう教わった。
そこに罪の意識など無く、楽しい事を楽しみ、楽しいから笑う。
彼が破壊へ執着するようになったのは、両親を失った日の事だ。
そこに罪の意識など無く、楽しい事を楽しみ、楽しいから笑う。
彼が破壊へ執着するようになったのは、両親を失った日の事だ。
その日、母の不倫に乱心した父は、母の死体の傍で笑っていた。
父の笑いの真意など、幼い彼には分かる筈もない。
だから彼は、楽しそうな父の真似をしようと考えたのだ。
父の笑いの真意など、幼い彼には分かる筈もない。
だから彼は、楽しそうな父の真似をしようと考えたのだ。
近代軍記ノ壱
町外れに隠居して暮らす老人を知っているか?雨の日に、窓から外
をずっと眺めてるあのじいさんさ。現役時代は軍の衛生兵だったみ
たいで、数々の悲惨な現場に立ち会ってきたんだと。
をずっと眺めてるあのじいさんさ。現役時代は軍の衛生兵だったみ
たいで、数々の悲惨な現場に立ち会ってきたんだと。
ある時、激戦地から帰還した兵士の一人が、全身に火傷を負ってい
たそうだ。手の施しようがないほど酷い状態だが、辛うじて生きて
いた。しかし軍は、治療は無意味であると判断したんだそうだ。
たそうだ。手の施しようがないほど酷い状態だが、辛うじて生きて
いた。しかし軍は、治療は無意味であると判断したんだそうだ。
次の朝、軍は予定通り別地点へ移動して、痛みに呻く火傷の兵士を
置き去りにした。死にかけの兵士のために、貴重な水や人手を割く
わけにはいかず、当時若造だったじいさんも従うしかなかった。
置き去りにした。死にかけの兵士のために、貴重な水や人手を割く
わけにはいかず、当時若造だったじいさんも従うしかなかった。
じいさんは、今もそのことを悔いている。軍にとっては正しい選択
だったのだろうけどね。今でも雨が降るたびに願っているんだそう
だ。この雨が、置き去りにした彼に降り注いでいればよいと。
だったのだろうけどね。今でも雨が降るたびに願っているんだそう
だ。この雨が、置き去りにした彼に降り注いでいればよいと。
赤血の鉄拳
かつて存在したという罪深き戦闘部隊、『赤鬼』。
それは人の世に居場所の無い大罪人を活用する、血塗られた部隊。
殺人という香餌に誘われ、彼等は殺しの道具に成り下がる。
それは人の世に居場所の無い大罪人を活用する、血塗られた部隊。
殺人という香餌に誘われ、彼等は殺しの道具に成り下がる。
赤鬼部隊の一員、闘争に魅入られた武人の男。
互いの心臓を握り合う感覚、張り詰めたその空気に心酔する彼は、
より肉薄して闘争を愉しむ為と、格闘での交戦を好んだ。
互いの心臓を握り合う感覚、張り詰めたその空気に心酔する彼は、
より肉薄して闘争を愉しむ為と、格闘での交戦を好んだ。
気を許せば命は無い。そんな死線の中でこそ男は生を実感出来る。
しかし、そうして闘争に明け暮れた男の最期は、
彼とは相反する、闘争を憎む少年によってもたらされた。
しかし、そうして闘争に明け暮れた男の最期は、
彼とは相反する、闘争を憎む少年によってもたらされた。
それは男の望む闘争とは程遠い、余りに一方的な惨殺。
だが男はその結末にどこか満足していた、足掻く事も儘ならない、
全てを塗り潰す死の実感が、何より彼に生を実感させたのだ。
だが男はその結末にどこか満足していた、足掻く事も儘ならない、
全てを塗り潰す死の実感が、何より彼に生を実感させたのだ。
赤血の戦棍
かつて存在したという罪深き戦闘部隊、『赤鬼』。
それは人の世に居場所の無い大罪人を活用する、血塗られた部隊。
彼等は世界へ濁流の如き悲鳴を上げる。人はそれを罪と呼んだ。
それは人の世に居場所の無い大罪人を活用する、血塗られた部隊。
彼等は世界へ濁流の如き悲鳴を上げる。人はそれを罪と呼んだ。
その男は病的なまでに神経質だった。
一度何か気になれば、それを取り除くまで気が済まない。
戦棍を武器に選んだのも、返り血で汚れるのを避けたからだ。
一度何か気になれば、それを取り除くまで気が済まない。
戦棍を武器に選んだのも、返り血で汚れるのを避けたからだ。
男が初めて犯した殺人、その理由は『話しかけられた』から。
その声がやけに耳に残った、ただそれが気に入らなかった。
それからと言うもの、男の神経質は堰を切った様に増長していく。
その声がやけに耳に残った、ただそれが気に入らなかった。
それからと言うもの、男の神経質は堰を切った様に増長していく。
咳をされた、髪が触れた、息を吐かれた。
あらゆる理由で人を殺す男は、赤鬼部隊でも多く戦果を上げたが、
最後は静寂さえ耳に障り、それを取り除こうと自害した。
あらゆる理由で人を殺す男は、赤鬼部隊でも多く戦果を上げたが、
最後は静寂さえ耳に障り、それを取り除こうと自害した。
廃鋼ノ禁弾
僕を乗せたこの列車は、間もなくトンネルに入る。
聞いたことがある、あのトンネルは呪われていると。
聞いたことがある、あのトンネルは呪われていると。
かつて戦地となったその場所で、大勢の人が亡くなっている。
以来、幽霊が通り抜ける人を道連れにするという噂だ。
以来、幽霊が通り抜ける人を道連れにするという噂だ。
列車はトンネルに入った。ゴオオオオ、と轟音が耳に障る。
僕は幽霊に呪い殺されるのだろうか。うっすらと恐怖を感じた。
僕は幽霊に呪い殺されるのだろうか。うっすらと恐怖を感じた。
このトンネルを抜けた先は、帰らずの樹海だ。
これからそこで死のうというのに、僕は何を怯えているのだろう?
これからそこで死のうというのに、僕は何を怯えているのだろう?
正邪の銃
この世界には、喋ってはいけない言葉がある。
そんな言葉を取り締まるのが俺の使命だ。
俺は自分のやっていることを誇りに思っている。
なぜなら、俺の努力が世界を正しくすると信じているからだ。
そんな言葉を取り締まるのが俺の使命だ。
俺は自分のやっていることを誇りに思っている。
なぜなら、俺の努力が世界を正しくすると信じているからだ。
今日は、街中で騒いでいる輩と遭遇した。
そいつらは俺のことを見るなり、怒鳴りだした。
発射した弾丸の破裂音が、汚い言葉たちを塗りつぶす。
こうした地道な努力が世界を綺麗にしていくのだ。
そいつらは俺のことを見るなり、怒鳴りだした。
発射した弾丸の破裂音が、汚い言葉たちを塗りつぶす。
こうした地道な努力が世界を綺麗にしていくのだ。
今日は、以前因縁をつけられた者の住処へ向かった。
扉を開けて室内に入るなり、そいつは叫びだした。
悪い予感は的中した。いや、これはいい予感というべきか。
俺の放った弾丸が、世界の歪みを撃ち払ったのだから。
扉を開けて室内に入るなり、そいつは叫びだした。
悪い予感は的中した。いや、これはいい予感というべきか。
俺の放った弾丸が、世界の歪みを撃ち払ったのだから。
今日は、学校で担任の教師を撃ち殺した。
いつもいつも……大人たちは俺に向かって何て汚い言葉を吐く。
クソとか、バカとか、ゴミとか……本当に許せない。
俺を認めない世界なんて正しくない。そうに決まってる。
いつもいつも……大人たちは俺に向かって何て汚い言葉を吐く。
クソとか、バカとか、ゴミとか……本当に許せない。
俺を認めない世界なんて正しくない。そうに決まってる。
機械生命体の剣
人類を理解することは難しい。ならば、人類を模して造られたとい
うアンドロイドはどうだろうか。ワタシは人類を理解するために、
まずはアンドロイドについての研究を始めた。
うアンドロイドはどうだろうか。ワタシは人類を理解するために、
まずはアンドロイドについての研究を始めた。
彼らの外見やその行動については、過去の記録にある人類のそれと
合致する。ただ、異なる点も多い。彼らには人間の三大欲求、すな
わち食欲、睡眠欲、性欲と呼ばれるものが存在しない。
合致する。ただ、異なる点も多い。彼らには人間の三大欲求、すな
わち食欲、睡眠欲、性欲と呼ばれるものが存在しない。
身体の不調はパーツの交換で解決できるし、アタッチメントによる
身体能力の拡張も可能だろう。人類より優れているように思うが、
何故か彼らは人類に憧れを抱いているようだ。不可解極まりない。
身体能力の拡張も可能だろう。人類より優れているように思うが、
何故か彼らは人類に憧れを抱いているようだ。不可解極まりない。
ワタシには結局、アンドロイドを理解することもできないようだ。
何故ならワタシもまた、彼らのその不可解さ、不完全さに強く惹か
れ、その姿に憧れてしまっているからだ。
何故ならワタシもまた、彼らのその不可解さ、不完全さに強く惹か
れ、その姿に憧れてしまっているからだ。
王宮騎士の舞踏
あるところに剣による舞踏を生業にする傭兵がいた。
彼の華麗な舞は、あるときは敵の兵を魅了し、またあるときは味方
を鼓舞したりし、特別な力を備えていたという。
彼の華麗な舞は、あるときは敵の兵を魅了し、またあるときは味方
を鼓舞したりし、特別な力を備えていたという。
傭兵はその稀有な才能を買われ、王宮に仕えることになった。
貴族の集まる社交界で舞を披露しては絶賛され、その活躍は王家の
元へも届くことになる。
貴族の集まる社交界で舞を披露しては絶賛され、その活躍は王家の
元へも届くことになる。
傭兵は王の前で舞踏を披露することになる。
情熱の中に悲哀が混じり合ったような華麗な舞は、歴史に残る最後
の舞踏になった。
情熱の中に悲哀が混じり合ったような華麗な舞は、歴史に残る最後
の舞踏になった。
彼の剣が王の喉元へと突き刺さる。
故郷を滅ぼされ、傭兵として暮らしていた彼は、綿密な計画の上に
復讐を果たしたのだった。
故郷を滅ぼされ、傭兵として暮らしていた彼は、綿密な計画の上に
復讐を果たしたのだった。
亡貫の槍
人里離れた山奥に、ぽつんと佇む一軒の廃墟があった。
そこは、かつて野盗に殺された女の亡霊が出ると噂のお化け屋敷。
人々は亡霊を恐れ、その廃墟にはほとんど近づかなかった。
そこは、かつて野盗に殺された女の亡霊が出ると噂のお化け屋敷。
人々は亡霊を恐れ、その廃墟にはほとんど近づかなかった。
ある街に、好奇心旺盛な冒険家がいた。
彼は亡霊の噂を聞くと、家宝の「霊を成仏させる槍」を手に取る。
さっそく冒険家は、いざ亡霊を討たんと廃墟に足を向けた。
彼は亡霊の噂を聞くと、家宝の「霊を成仏させる槍」を手に取る。
さっそく冒険家は、いざ亡霊を討たんと廃墟に足を向けた。
数日後、冒険家は意気揚々と廃墟から帰ってきた。
聞けば、見事に亡霊を成仏させたという。
それ以来、廃墟に女の亡霊が出ることはなくなった。
聞けば、見事に亡霊を成仏させたという。
それ以来、廃墟に女の亡霊が出ることはなくなった。
一年後、廃墟にまた別の亡霊が現れたと噂が立った。
再び冒険家は槍を携え退治に赴いたが、重い表情で帰ってきた。
廃墟にいたのは、自分と瓜二つの赤子の亡霊だったのだ。
再び冒険家は槍を携え退治に赴いたが、重い表情で帰ってきた。
廃墟にいたのは、自分と瓜二つの赤子の亡霊だったのだ。
機械生命体の槍
彼等ハ、強クナル事が目的にナッテシマッタ愚カ者ダ。 強サトは
目的デナク手段ではナイノカ? 手にシタ強サで何を成スカガ重要
デハナイノカ? ダケド僕モ、強クナリタカッたんだ。
目的デナク手段ではナイノカ? 手にシタ強サで何を成スカガ重要
デハナイノカ? ダケド僕モ、強クナリタカッたんだ。
彼等ハ、命アル機械ヲ差別スル愚カ者ダ。彼等と機械は何が違ウノ
ダロウカ? 彼等ですら同ジ個体はナイトイウノに、区別シ差別ス
ルコトに意味はアルノカ? ダケド僕モ、差別をシテイたんだ
ダロウカ? 彼等ですら同ジ個体はナイトイウノに、区別シ差別ス
ルコトに意味はアルノカ? ダケド僕モ、差別をシテイたんだ
彼等ハ、自らのルールニ縛ラレル愚カ者ダ。ルールとは縛ラレルモ
ノデはナク、自らの意思デ従ウモノデはナイノカ? 意思ナキそれ
は呪イデはナイノカ? ダケド僕モ、縛ラレテイたんだ。
ノデはナク、自らの意思デ従ウモノデはナイノカ? 意思ナキそれ
は呪イデはナイノカ? ダケド僕モ、縛ラレテイたんだ。
力がアレバ、同ジデアレバ、自由デアレバ、違ッタノダロウカ?
このココロさえナカッタナラ、違ッタノダロウカ? 僕ア、意思を
貫くモノ。コノ場所ト共ニ終ワリヲ迎エルのラ。
このココロさえナカッタナラ、違ッタノダロウカ? 僕ア、意思を
貫くモノ。コノ場所ト共ニ終ワリヲ迎エルのラ。
赫星
かつて、幕府に仕える忍の組織があった。敵将の暗殺、味方の口
封じ、復讐の代行。それが任務であるならば、彼等はどれだけ困
難な殺しであっても成し遂げてみせたという。
封じ、復讐の代行。それが任務であるならば、彼等はどれだけ困
難な殺しであっても成し遂げてみせたという。
その組織に属する一人の女。彼女が忍の道へ進む事を選んだのは、
優秀な忍であった母に憧れた為だ。母と同じく双刀を手に、彼女は
ただ真っ直ぐ、母の背を追う様に生きてきた。
優秀な忍であった母に憧れた為だ。母と同じく双刀を手に、彼女は
ただ真っ直ぐ、母の背を追う様に生きてきた。
だがある日、彼女は母を殺せと命じられる。多くの任務をこなした
が為の口封じだった。忍に、任務の拒否が認められる筈もない。泣
き喚く彼女の刃は鈍り、必要以上に母を苦しめてしまった。
が為の口封じだった。忍に、任務の拒否が認められる筈もない。泣
き喚く彼女の刃は鈍り、必要以上に母を苦しめてしまった。
その後彼女は、自分の刀と母の刀を合わせて打ち直した、一振りの
大太刀を使う様になった。母の最期の顔を振り払い、彼女は逃げる
様に歩み出す。その大太刀に一撃必殺を誓って。
大太刀を使う様になった。母の最期の顔を振り払い、彼女は逃げる
様に歩み出す。その大太刀に一撃必殺を誓って。
王宮騎士の忠誠
かの国の王室に仕える騎士団、その団長は、並の騎士が束になって
も敵わないほどの剣豪だ。人々は彼を鉄仮面と呼び、それはいかな
る場合においても、彼が人前で鉄兜を外さないことに由来する。
も敵わないほどの剣豪だ。人々は彼を鉄仮面と呼び、それはいかな
る場合においても、彼が人前で鉄兜を外さないことに由来する。
実のところ、王自らが騎士団長に鉄兜を外さないように命じている
のだ。彼は忠実にそれを守り続けているが、騎士団の中にさえ、そ
の理由を知る者はいない。
のだ。彼は忠実にそれを守り続けているが、騎士団の中にさえ、そ
の理由を知る者はいない。
そうと気づく者は少ないが、王はこの騎士団長を憎んでいるのだっ
た。しかし殺すにはその腕はあまりに惜しく、顔を全て覆う窮屈な
鉄兜を被らせることで、王は溜飲を下げたのである。
た。しかし殺すにはその腕はあまりに惜しく、顔を全て覆う窮屈な
鉄兜を被らせることで、王は溜飲を下げたのである。
理由は実に浅薄だ。この騎士団長は稀にみる美形であり、若かりし
女王が熱を上げてしまったのだ。もう何十年も昔のことだが、王は
今もそれを許すことができないのだという。
女王が熱を上げてしまったのだ。もう何十年も昔のことだが、王は
今もそれを許すことができないのだという。
機械生命体の頭
壊レタ仲間ノ機械生命体カラ、互換性ノアル部品ヲ拝借スル。
修繕ノ為ニ、見ツケタ部品ヲ組ミ込ンダガ、可笑シナ事ニナッタ。
ボク以外ノ誰カガ、ボクノ頭ノ中ニ居ル……。
排除シヨウト度々接続ヲ試ミルガ、防壁ニヨリ阻マレテシマウ。
修繕ノ為ニ、見ツケタ部品ヲ組ミ込ンダガ、可笑シナ事ニナッタ。
ボク以外ノ誰カガ、ボクノ頭ノ中ニ居ル……。
排除シヨウト度々接続ヲ試ミルガ、防壁ニヨリ阻マレテシマウ。
ソレ以降ボクハ、時々記憶ニナイ行動ヲ取ッテイルヨウダッタ。
今日ハ気ガ付クト、海岸ノ付近デ貝殻ヲ拾イ集メテイタ。
作戦ニ関係ナイ事ヲシテイルト、ボクノ評価ニ関ワルノデ困ル。
シカシ何度削除ヲ試ミテモ、ソノ誰カヲ消スコトハ出来ナカッタ。
今日ハ気ガ付クト、海岸ノ付近デ貝殻ヲ拾イ集メテイタ。
作戦ニ関係ナイ事ヲシテイルト、ボクノ評価ニ関ワルノデ困ル。
シカシ何度削除ヲ試ミテモ、ソノ誰カヲ消スコトハ出来ナカッタ。
結局、症状ヲ改善出来ル見込ミモ無ク、ボクハヤガテ諦メタ。
ソレカラトイウモノ、部屋ハ、ガラクタデ溢レテイッタ。
貝殻ヤ、ガラスノ破片ナド、ゴミノヨウナガラクタバカリ。
ソシテ段々、自分ノ意識ヲ保テル時間モ少ナクナッテイッタ……
ソレカラトイウモノ、部屋ハ、ガラクタデ溢レテイッタ。
貝殻ヤ、ガラスノ破片ナド、ゴミノヨウナガラクタバカリ。
ソシテ段々、自分ノ意識ヲ保テル時間モ少ナクナッテイッタ……
アル時意識ガ戻ルト、ボクノ部屋ニハ、一枚ノ絵ガ飾ラレテイタ。
色トリドリノガラスノ破片ヤ、貝殻デ彩ラレタ絵。
ソレガ何ヲ表シテイルノカ、ボクニハ分カラナカッタ。
其処ニハ、二体ノ機械ガ手ヲ繋イデイル姿ガ描カレテイタ。
色トリドリノガラスノ破片ヤ、貝殻デ彩ラレタ絵。
ソレガ何ヲ表シテイルノカ、ボクニハ分カラナカッタ。
其処ニハ、二体ノ機械ガ手ヲ繋イデイル姿ガ描カレテイタ。
銀雪の眼
「銀雪の狼」について。
かつて極東の高山に住んでいた一族を指す名称。
近隣の人々が彼等をそう呼称した、という経緯らしく、
彼等の文献からは、自分達の一族を示す言葉は見付かっていない。
かつて極東の高山に住んでいた一族を指す名称。
近隣の人々が彼等をそう呼称した、という経緯らしく、
彼等の文献からは、自分達の一族を示す言葉は見付かっていない。
理由は銀雪の狼が持つ思想、教義に依る物だろう。
彼等は一年中雪に覆われる程の、険しい高山に住んでいた。
それには人間社会から自分達を断絶する、という意図があり、
対外的に自らの存在を主張する必要が無かったのだ。
彼等は一年中雪に覆われる程の、険しい高山に住んでいた。
それには人間社会から自分達を断絶する、という意図があり、
対外的に自らの存在を主張する必要が無かったのだ。
人間社会を絶ち、正しく己の生死と向き合う。
それは彼等の開祖にして、初代族長でもある女性の考えだ。
しかし、大層尊敬されていたのか、その逸話は眉唾物が多く、
近年では女性の存在自体が疑問視されつつある。
それは彼等の開祖にして、初代族長でもある女性の考えだ。
しかし、大層尊敬されていたのか、その逸話は眉唾物が多く、
近年では女性の存在自体が疑問視されつつある。
その逸話は例えば、大きな斧を片手で振り回す怪力の持ち主、
狼より足が疾い、熊を素手で仕留める……などの内容だ。
そんな人間が果たして実在したのか、甚だ疑問ではあるが、
一族の滅亡は、彼女の死に依る物が大きかったとされている。
狼より足が疾い、熊を素手で仕留める……などの内容だ。
そんな人間が果たして実在したのか、甚だ疑問ではあるが、
一族の滅亡は、彼女の死に依る物が大きかったとされている。
水骸の楽銃
その銃はとても大きかった。
それを見た者は驚嘆の声をあげた。
それを見た者は驚嘆の声をあげた。
その銃はとても頑丈だった。
それを触った者は歓喜の声をあげた。
それを触った者は歓喜の声をあげた。
その銃はとても強かった。
それを受けた者は恍惚の声をあげた。
それを受けた者は恍惚の声をあげた。
その銃を持つ男は、水中で生きる一族の子孫繁栄に貢献した。
そんな男の遺骸が何であるかなど想像に難くない。
そんな男の遺骸が何であるかなど想像に難くない。
殺シノ所以
私は、依頼を受けて標的を殺す、殺人者だった。
ただ自分の腕だけを信じ、それ以外のものは信じない。
そういう人生以外、選択肢がなかったのだ。
ただ自分の腕だけを信じ、それ以外のものは信じない。
そういう人生以外、選択肢がなかったのだ。
今日の標的は、長らく私の依頼人だった裕福な男だ。
どういう気か知らないけど、自分で自分の殺しを私に頼んだのだ。
あんな裕福な男も、人生に絶望することがあるのだろうか。
どういう気か知らないけど、自分で自分の殺しを私に頼んだのだ。
あんな裕福な男も、人生に絶望することがあるのだろうか。
剣を突き付けたその時、男は私に何か言いたそうにした。
私は最後の言葉を待つために、男の瞳を見つめたまま静止した。
しかし、男は考えなおしたように顔を伏せ、私は依頼を果たした。
私は最後の言葉を待つために、男の瞳を見つめたまま静止した。
しかし、男は考えなおしたように顔を伏せ、私は依頼を果たした。
報酬は、鍵を外した金庫に入れてあると言われていた。
探ると、一人分の殺しの報酬金の他に、私宛の手紙が入っていた。
男から寄せられる感情には……長く、気づかぬフリを続けていた。
探ると、一人分の殺しの報酬金の他に、私宛の手紙が入っていた。
男から寄せられる感情には……長く、気づかぬフリを続けていた。
百獣の剣
むかしむかしある王国に、とても幼い王様がいました。政務は頭の
良い大臣たちがしてくれるので、幼い王様の仕事は玉座に座って笑
顔でいることだけ。そんな王様には3つの願いごとがありました。
良い大臣たちがしてくれるので、幼い王様の仕事は玉座に座って笑
顔でいることだけ。そんな王様には3つの願いごとがありました。
1つは早く大きくなること。幼い自分の無力さを、王様はいつも感
じていたのです。国民に、そして他の国に認められるために、王様
は早く大人になりたい、そう思っていました。
じていたのです。国民に、そして他の国に認められるために、王様
は早く大人になりたい、そう思っていました。
もう1つは、民が安心して眠れる国を作ること。それは亡くなった
王様の父がいつも語っていた夢。幼い王様は大好きだった父の夢を
叶える、そう決めていたのでした。
王様の父がいつも語っていた夢。幼い王様は大好きだった父の夢を
叶える、そう決めていたのでした。
最後の1つは、自分たちが政治を行うために父を殺した大臣たちを
1人残らず殺すこと。幼い王様は大人になったその時に、どんな方
法で大臣たちを殺そうかを笑顔で考えていました。
1人残らず殺すこと。幼い王様は大人になったその時に、どんな方
法で大臣たちを殺そうかを笑顔で考えていました。
草原の竜騎槍
私はとある国の王子だった。国王である父親は、侵略と圧政を繰り
返した末に我を失い、民や臣下までも虐殺し始めた。そして実の息
子である私にもその牙は迫っていた。
返した末に我を失い、民や臣下までも虐殺し始めた。そして実の息
子である私にもその牙は迫っていた。
私の寝室に現れた、父に忠誠を誓う飛べない竜。その竜の鱗はおび
ただしい血で濡れていた。竜の牙が迫る直前、垣間見えた瞳がやけ
に悲しげだったのを覚えている。
ただしい血で濡れていた。竜の牙が迫る直前、垣間見えた瞳がやけ
に悲しげだったのを覚えている。
命を救われたのだ。それから数日もたたず祖国は崩壊、父と竜が死
んだことを知った。
あの日から何年もの時が過ぎた。私は庶民になり、妻と娘とともに
幸せな日々を送っている。娘に話すのは王と竜の昔話。種族を超え
て助け合い、最後までお互いを思い合った二人の幸せな物語だ。
幸せな日々を送っている。娘に話すのは王と竜の昔話。種族を超え
て助け合い、最後までお互いを思い合った二人の幸せな物語だ。
裁定の大剣
彼の振るう大剣は、この国の正義を体現していた。
どんな危険な戦場からも帰還する彼は、市民にとって英雄であり、
私たち兵士にとってはそれ以上の存在だった。
しかし彼はある日、忽然と姿を消した。私は彼を探している。
どんな危険な戦場からも帰還する彼は、市民にとって英雄であり、
私たち兵士にとってはそれ以上の存在だった。
しかし彼はある日、忽然と姿を消した。私は彼を探している。
彼を探すうちに、色々な噂を耳にした。
どうやら全てがほら話というわけではなさそうだ。
しかし私はそれを信じたくなかった。
噂の中の彼は、別人のような姿をしていたから。
どうやら全てがほら話というわけではなさそうだ。
しかし私はそれを信じたくなかった。
噂の中の彼は、別人のような姿をしていたから。
残念なことに、どうやら噂は本当のようだ。
彼は今や、見境なく人を殺している。
しかし私は彼のことを殺すことができるだろうか。
私を救い、私を導き、私を愛してくれた彼を。
彼は今や、見境なく人を殺している。
しかし私は彼のことを殺すことができるだろうか。
私を救い、私を導き、私を愛してくれた彼を。
荒廃した国の教会の廃墟で、彼に再会した。
私は問う、彼は答える、正義の名のもとに人を殺し続けた人生を。
床の砂埃が私の血で黒く染まっていく。
彼は耳元で「己の命が尽きるまで正義を貫く」と囁いた。
私は問う、彼は答える、正義の名のもとに人を殺し続けた人生を。
床の砂埃が私の血で黒く染まっていく。
彼は耳元で「己の命が尽きるまで正義を貫く」と囁いた。
裁定の拳鍔
僕の家系は、代々この国の正義を司ってきた。由緒正しい家系なん
だ。お父様は、王から直接称号を賜ったこともある、立派なお方。
僕も、この家の長男として恥じない生き方をしなければならない。
だ。お父様は、王から直接称号を賜ったこともある、立派なお方。
僕も、この家の長男として恥じない生き方をしなければならない。
お父様は沢山の罪人に裁きを下してきた。この世には間違った人が
沢山いて、それはゴミのようなものだと教えてくださった。この世
を美しくするために、僕もこの仕事を全うしなければならない。
沢山いて、それはゴミのようなものだと教えてくださった。この世
を美しくするために、僕もこの仕事を全うしなければならない。
ついに僕の初仕事の日が訪れた。両手につけた鉄の拳鍔が、罪人の
額を割る。スイカのような赤い汁が飛び散る。ぱっくりと空いた口
から騒音が漏れだす。真っ暗な眼窩は、僕を見つめていた。
額を割る。スイカのような赤い汁が飛び散る。ぱっくりと空いた口
から騒音が漏れだす。真っ暗な眼窩は、僕を見つめていた。
底のない暗闇が、僕を見つめているような気がした。いや、僕は悪
くない。この世の正義のために……。お前が悪いんだ。僕は正しい
ことをした。僕は間違ってない。僕は潔白だ。僕は正義だ。僕は。
くない。この世の正義のために……。お前が悪いんだ。僕は正しい
ことをした。僕は間違ってない。僕は潔白だ。僕は正義だ。僕は。
塗炭の杖
この土地を引き裂く鉄格子、それは差別の象徴。
壁の向こうに住む人々は人として認識されない。
やせ細った大地は、人の心すら痩せ衰えさせた。
壁の向こうに住む人々は人として認識されない。
やせ細った大地は、人の心すら痩せ衰えさせた。
男には娘がいた、でも会うことは出来なかった。
壁の向こうにいる娘は今も生きているだろうか。
全てはあの鉄格子の……いや、人の心のせいか。
壁の向こうにいる娘は今も生きているだろうか。
全てはあの鉄格子の……いや、人の心のせいか。
男は嘆いた、なぜこのようなことになったのか。
誰もが自分の子を抱くとき幸せを願ったはずだ。
この命も長くない、せめて最後は娘に会いたい。
誰もが自分の子を抱くとき幸せを願ったはずだ。
この命も長くない、せめて最後は娘に会いたい。
彼らは鉄格子を乗り越えた男を発見し捕らえる。
彼らにとって男は人でなく獣と同じ存在だった。
男は殺されて、娘の眠る共同墓地に埋められた。
彼らにとって男は人でなく獣と同じ存在だった。
男は殺されて、娘の眠る共同墓地に埋められた。
エトランゼ
東から吹く風は、再会の予感。
高く高く舞い上がれば、何も見逃さないであろうか。
高く高く舞い上がれば、何も見逃さないであろうか。
南から吹く風は、野心の高揚。
強く強く羽ばたけば、君が見ていてくれるだろうか。
強く強く羽ばたけば、君が見ていてくれるだろうか。
西から吹く風は、不穏の警告。
疾く疾く飛べば、僕は逃げられるだろうか。
疾く疾く飛べば、僕は逃げられるだろうか。
北から吹く風は、別れの合図。
いつになれば、君を見つけられるのだろう。
いつになれば、君を見つけられるのだろう。
塗炭の銃
灼熱の太陽の下を彷徨うように歩き続ける。
こんな場所での任務は過酷を極める。
しかし、弱音を吐くなんてことはあり得ない。
そもそも俺一人の極秘任務だ、喋る相手すらいない。
こんな場所での任務は過酷を極める。
しかし、弱音を吐くなんてことはあり得ない。
そもそも俺一人の極秘任務だ、喋る相手すらいない。
俺に与えられた任務は、ある家族の抹殺。
機密事項を偶然知ってしまった、ある意味では被害者だ。
しかし、天の采配に善意も悪意もない。
振られた賽は変えられないのだ。
機密事項を偶然知ってしまった、ある意味では被害者だ。
しかし、天の采配に善意も悪意もない。
振られた賽は変えられないのだ。
照りつける太陽の下を歩き続ける。
地表から沸き立つような蜃気楼を眺めていると、
ここが現実なのか、夢の中なのか、わからなくなりそうだ。
しかし目的地はもう目の前のはず、気を確かに地面を踏みしめる。
地表から沸き立つような蜃気楼を眺めていると、
ここが現実なのか、夢の中なのか、わからなくなりそうだ。
しかし目的地はもう目の前のはず、気を確かに地面を踏みしめる。
俺はついに目的地に辿り着いた。記憶よりも小さな家だ。
部屋の中には、風化した死体が転がっている。
それは俺が撃ち殺した死体。俺の、最愛の妻と子供の死体だ。
俺は現実から目を背けて踵を返し、またその扉を閉める。
部屋の中には、風化した死体が転がっている。
それは俺が撃ち殺した死体。俺の、最愛の妻と子供の死体だ。
俺は現実から目を背けて踵を返し、またその扉を閉める。
神秘石の剣
深い、深い、海の底でとある鉱石が発見される。
その鉱石は不思議な光を放っており、発見した男はたいそう喜んで
家に持ち帰ることにした。
その鉱石は不思議な光を放っており、発見した男はたいそう喜んで
家に持ち帰ることにした。
男が鉱石を持ち帰ると、妻もたいそう喜んだ。
夫婦はとても貧しい生活をしていたため、それを売れば生活の足し
になると考えた。
夫婦はとても貧しい生活をしていたため、それを売れば生活の足し
になると考えた。
しかし男は、この鉱石が自分達を助けてくれる。
そう言い、鉱石を売ることはしなかった。
大事に磨き上げて、寝室に飾ることにしたのだ。
そう言い、鉱石を売ることはしなかった。
大事に磨き上げて、寝室に飾ることにしたのだ。
あくる朝、夫婦の死体が発見される。
鉱石の下敷きになった夫婦は綺麗に両断されており、
とても安らかな顔をしていたという。
鉱石の下敷きになった夫婦は綺麗に両断されており、
とても安らかな顔をしていたという。
白の契約
空に見放された気がした。
太陽は容赦なく、血に濡れた体を照らす。
今はただ、降り止まない雨に焦がれている。
太陽は容赦なく、血に濡れた体を照らす。
今はただ、降り止まない雨に焦がれている。
鳥に蔑まれた気がした。
それでもこの双脚は、大地を駆け続ける。
行きたい場所なんて、どこにもないのに。
それでもこの双脚は、大地を駆け続ける。
行きたい場所なんて、どこにもないのに。
花に笑われた気がした。
何も考えずに済むように、ただ命令を処理する。
恥じ入る必要も、権利も、選択も感情もないのだから。
何も考えずに済むように、ただ命令を処理する。
恥じ入る必要も、権利も、選択も感情もないのだから。
君に呼ばれた気がした。
許されるなら、願わせてほしい。彼の幸せを。
これが、私の最期の記憶。
許されるなら、願わせてほしい。彼の幸せを。
これが、私の最期の記憶。
巨人の槍
俺は人間共の罠に捕まり、ずっと戦わされていた。
一戦目は奴隷だという人間の男。
非力で逃げることしかできない男を叩き潰した。
一戦目は奴隷だという人間の男。
非力で逃げることしかできない男を叩き潰した。
自由のための条件は、百戦を戦い生き抜くことだった。
五十戦目は無数に群がる毒虫。
全身を刺す痛みに悶えながら全ての虫を叩き潰した。
五十戦目は無数に群がる毒虫。
全身を刺す痛みに悶えながら全ての虫を叩き潰した。
戦いがいくら辛くても家族のことを思えば希望はある。
九十九戦目に現れたのは自分と同じ巨人族。
俺にも帰るべき場所がある、その巨人の頭を叩き潰した。
九十九戦目に現れたのは自分と同じ巨人族。
俺にも帰るべき場所がある、その巨人の頭を叩き潰した。
自由をかけた最後の戦いが始まった。
百戦目に現れたのは俺の帰りを待っているはずの妻だった。
自分の無力さを呪い、妻の持つ槍で自らの心臓を貫いた。
百戦目に現れたのは俺の帰りを待っているはずの妻だった。
自分の無力さを呪い、妻の持つ槍で自らの心臓を貫いた。
無骨包丁
とあるところに「帰らず山」という山があった。その山に踏み入れ
た者は帰ってこず、人を喰う鬼が住まうとか、万病に効く温泉があ
るとか、様々な伝承が噂されていた。
た者は帰ってこず、人を喰う鬼が住まうとか、万病に効く温泉があ
るとか、様々な伝承が噂されていた。
ある日、夫の行方が分からなくなったという女が現れた。女は村中
を探し回ったが夫は見つからず、村人達は「帰らず山」に飲み込ま
れたと噂をしていた。
を探し回ったが夫は見つからず、村人達は「帰らず山」に飲み込ま
れたと噂をしていた。
女は一縷の望みをかけ「帰らず山」へ向かうことにする。鬱蒼な森
を奥へ奥へと進んでいくと、大量の血を流して倒れている夫の姿を
見つけた。
を奥へ奥へと進んでいくと、大量の血を流して倒れている夫の姿を
見つけた。
女は胸を撫で下ろす。夫を殺そうと包丁で突き刺したが、逃げられ
てしまっていたからだ。「帰らず山」の万病の温泉でも当てにした
のだろうかと考えていたとき、背後で大きな何かが動く音がした。
てしまっていたからだ。「帰らず山」の万病の温泉でも当てにした
のだろうかと考えていたとき、背後で大きな何かが動く音がした。
四〇式斬機刀
【四〇式斬機刀取扱マニュアル(ヨルハ部隊配布用)】
-ご使用の前に
付属品が正しく揃っているか、お確かめ下さい。初回起動時は、テ
スターを使用して通電確認を行って下さい。
-ご使用の前に
付属品が正しく揃っているか、お確かめ下さい。初回起動時は、テ
スターを使用して通電確認を行って下さい。
-安全上のご注意
機動性、演算能力などの異常により本来の運動性能を発揮できない
場合、本製品のご使用はお控え下さい。また、本来の用途以外への
使用は避けて下さい。
機動性、演算能力などの異常により本来の運動性能を発揮できない
場合、本製品のご使用はお控え下さい。また、本来の用途以外への
使用は避けて下さい。
-お手入れ方法
交戦後、汚損があった場合は、柔らかい布に洗浄用の薬品を塗布し
て拭き取って下さい。破損があった場合は、担当オペレーターに直
接ご相談下さい。
交戦後、汚損があった場合は、柔らかい布に洗浄用の薬品を塗布し
て拭き取って下さい。破損があった場合は、担当オペレーターに直
接ご相談下さい。
-免責事項
本製品は、軍事品安全基準の規格外です。本製品を用いて行う一切
の行為において、負傷あるいは死亡した場合、その原因を問わず、
ヨルハ技術開発部への責任請求は行えないものとします。
本製品は、軍事品安全基準の規格外です。本製品を用いて行う一切
の行為において、負傷あるいは死亡した場合、その原因を問わず、
ヨルハ技術開発部への責任請求は行えないものとします。
モン・ミゼット
ある街の立派なお屋敷に、お金持ちの女の子がいました。その子の
お部屋のクローゼットには、両親が買いそろえたすてきなお洋服が
ぎっしり並んでいます。でもその女の子は、たくさんあるからとい
って、お洋服をちっとも大切にしていませんでした。
お部屋のクローゼットには、両親が買いそろえたすてきなお洋服が
ぎっしり並んでいます。でもその女の子は、たくさんあるからとい
って、お洋服をちっとも大切にしていませんでした。
ある日、女の子がクローゼットから選んだのは、たっぷりのレース
があしらわれたまっ白なリネンのワンピース。だけど、お茶の時間
に紅茶をこぼしてシミだらけにしてしまったので、女の子はそのワ
ンピースを迷うことなく捨ててしまいました。
があしらわれたまっ白なリネンのワンピース。だけど、お茶の時間
に紅茶をこぼしてシミだらけにしてしまったので、女の子はそのワ
ンピースを迷うことなく捨ててしまいました。
また次の日、女の子がクローゼットから引っ張り出したのは、美し
い黒のビロードのワンピース。一瞥するなり、「これは地味すぎる
わね」と言って、女の子は一度も袖を通すことなく、そのワンピー
スを捨ててしまいました。
い黒のビロードのワンピース。一瞥するなり、「これは地味すぎる
わね」と言って、女の子は一度も袖を通すことなく、そのワンピー
スを捨ててしまいました。
捨てられたお洋服は、巡り巡って下町のバザーに出されました。通
りがかった一人の少女が、黒いワンピースを手に取りました。それ
は、今まで触れたことのないような心地よさでした。だけど少女は
とても貧乏だったので、一生着ることは叶わないのでした。
りがかった一人の少女が、黒いワンピースを手に取りました。それ
は、今まで触れたことのないような心地よさでした。だけど少女は
とても貧乏だったので、一生着ることは叶わないのでした。
巨人の拳
巨人族は騒ぎ事が好きだが、俺のような例外はいる。
周りの巨人が騒ぐたび、そいつらを殴った。
殴るだけで、たいていのやつは大人しくなる。
周りの巨人が騒ぐたび、そいつらを殴った。
殴るだけで、たいていのやつは大人しくなる。
俺の目の前で、女が絡まれている。
あまりにもうるさいから、男どもを殴ってやった。
俺は静かにしてほしいだけだったが、女に惚れられたようだ。
あまりにもうるさいから、男どもを殴ってやった。
俺は静かにしてほしいだけだったが、女に惚れられたようだ。
女との間に子供ができた。
女が子供のしつけでうるさいから、殴って黙らせた。
子供も事あるごとに泣き叫び、俺をイラつかせる。
女が子供のしつけでうるさいから、殴って黙らせた。
子供も事あるごとに泣き叫び、俺をイラつかせる。
あれ?うごかなくなった。
こんなつもりじゃなかったけど、しかたないよね。
だって、おとうさんがうるさいんだもん。
こんなつもりじゃなかったけど、しかたないよね。
だって、おとうさんがうるさいんだもん。
勝利の導杖
とある時代、その国には王家に代々受け継がれてきた杖があった。
なんでもその杖で戦場を指揮すると、どんな戦いにも勝てると言わ
れていたそうだ。
なんでもその杖で戦場を指揮すると、どんな戦いにも勝てると言わ
れていたそうだ。
だから王様たちは必ずこの杖を使って兵士たちを指揮し、自国を勝
利へ導いてきたらしい。残念ながらその国も時代の流れには勝てず、
今では影も形もなくなってしまっているけどな。
今では影も形もなくなってしまっているけどな。
だがつい最近になって、その杖らしきものが跡地から発掘されたと
大々的に報道があってな。国のお偉い様は研究者たちに、その杖で
指揮すると何故勝てるのかその究明を急がせたんだ。
大々的に報道があってな。国のお偉い様は研究者たちに、その杖で
指揮すると何故勝てるのかその究明を急がせたんだ。
それで明らかになったのは、この杖そのものが持ち主や兵士たちを
好きなように操る力を持っていたこと。恐怖を感じさせず、一糸乱
れぬ操り兵士を生み出す、世にも恐ろしい指揮杖だったんだ。
好きなように操る力を持っていたこと。恐怖を感じさせず、一糸乱
れぬ操り兵士を生み出す、世にも恐ろしい指揮杖だったんだ。
巨人の銃
みなさん、こんにちは!ここからそう遠くない所に巨人達の暮らす
国がありますが、彼らに困らされた経験、皆さんおありですよね?
国がありますが、彼らに困らされた経験、皆さんおありですよね?
巨人が一度くしゃみをすれば、とんでもない暴風が吹き、人なんて
ひとたまりもなく飛んでいってしまいます。中には家を吹き飛ばさ
れる人もいたんですって!
ひとたまりもなく飛んでいってしまいます。中には家を吹き飛ばさ
れる人もいたんですって!
巨人の中には山ほど大きい者もおります。そんな大きい巨人が外で
尿意をもよおそうものなら……畑や川が汚染されて大変なことにな
ってしまいますね。
尿意をもよおそうものなら……畑や川が汚染されて大変なことにな
ってしまいますね。
でも、そんな悩みもこれで解決!迷惑な巨人達を引き金ひとつで駆
除できるこの商品!今なら送料や手数料は当店が負担。このチャン
スをお見逃しなく!
除できるこの商品!今なら送料や手数料は当店が負担。このチャン
スをお見逃しなく!
スティールマインド
あんた、見慣れない顔だが、この酒場は初めてかい?
飲み仲間が来れなくなっちまって、俺一人なんだ。
だから話し相手になってくれ。一杯おごるからさ。
飲み仲間が来れなくなっちまって、俺一人なんだ。
だから話し相手になってくれ。一杯おごるからさ。
あんたがどうかは知らないが、酒ってのは怖いもんだな。
さっき言った飲み仲間なんて、酔うとすぐに愚痴をこぼすんだ。
「お前なんかに俺の気持ちがわかるか」って。
さっき言った飲み仲間なんて、酔うとすぐに愚痴をこぼすんだ。
「お前なんかに俺の気持ちがわかるか」って。
自慢じゃないが、俺の特技は他人の心を読むことなんだ。
だからあいつに言ってやったんだよ。
「いまお前が考えてること、当ててやろうか」ってな。
だからあいつに言ってやったんだよ。
「いまお前が考えてること、当ててやろうか」ってな。
俺があいつの心をピタリと言い当てた時の顔、忘れられないぜ。
なに? その特技をあんたも見てみたいって?
お安い御用だ、あんたも今日から俺の飲み仲間だからな。
なに? その特技をあんたも見てみたいって?
お安い御用だ、あんたも今日から俺の飲み仲間だからな。
無法者の匕首
誰もが恐れる大悪党になることを夢見る青年がいた。
連日、青年は悪事を働くため街へと繰り出す。
「今日も元気に悪さして、早く立派な大悪党になるぞ」
連日、青年は悪事を働くため街へと繰り出す。
「今日も元気に悪さして、早く立派な大悪党になるぞ」
青年は「悪党と言えばコレだ」と、手近な民家に泥棒に入った。
するとそこには、床に倒れ苦しむ老婆の姿が。
青年はさも一大事と、泥棒を忘れて老婆を医者に連れていった。
するとそこには、床に倒れ苦しむ老婆の姿が。
青年はさも一大事と、泥棒を忘れて老婆を医者に連れていった。
青年は「ならば恐喝だ」と、路地裏を歩く女に短刀を突き付けた。
すると女は大きな悲鳴を上げ、あろうことか青年に感謝した。
ずっと声が出ない病にかかっていたが、今のショックで治ったと。
すると女は大きな悲鳴を上げ、あろうことか青年に感謝した。
ずっと声が出ない病にかかっていたが、今のショックで治ったと。
「今日もいまいちだった」と、青年は夕暮れに沈む街を後にする。
いつか自分が大悪党になれる日は来るのだろうか……
忸怩たる思いで青年が帰宅すると、家は泥棒に荒らされていた。
いつか自分が大悪党になれる日は来るのだろうか……
忸怩たる思いで青年が帰宅すると、家は泥棒に荒らされていた。
黒の誓約
「●●」と呼ばれるそれに、いつだって僕達は振り回されていた。
全てを知り尽くしたいという衝動。割り当てられた性能以上の好奇
心は、人間が言うところの恋にも愛にも似ていた。
心は、人間が言うところの恋にも愛にも似ていた。
そう、その命令の実行はエラーなんかじゃなかった。大丈夫、僕は
解っているから、キミは泣かなくていいんだ。
解っているから、キミは泣かなくていいんだ。
だって、プログラム通りの予定調和を、二人に下された悲しい運命
と呼ぶことなんてできないんだから。
と呼ぶことなんてできないんだから。
無法者の槍
■1月31日
毎日毎日、くず鉄を溶鉱炉に放り込むだけの仕事。
こんな退屈な日々がいつまで続くのだろう。
毎日毎日、くず鉄を溶鉱炉に放り込むだけの仕事。
こんな退屈な日々がいつまで続くのだろう。
■2月8日
退屈なので、くず鉄を集めて槍を作ってみた。
我ながら、なかなかカッコよくできたと思う。
退屈なので、くず鉄を集めて槍を作ってみた。
我ながら、なかなかカッコよくできたと思う。
■2月9日
工場長から怒られた。サボるんじゃないと。
安月給しか払わないくせに偉そうに。
工場長から怒られた。サボるんじゃないと。
安月給しか払わないくせに偉そうに。
■2月25日
工場が閉鎖されるらしいが、まあいい。
俺はこの槍で大金を得た。工場長が貯め込んでいた大金を。
工場が閉鎖されるらしいが、まあいい。
俺はこの槍で大金を得た。工場長が貯め込んでいた大金を。
抗抵の薬槍
人々は汚染された土地の上で、ただその日を生き抜くために生きて
いた。汚れた空気が、人も、草木も、全てを駄目にしていく。そん
な場所で生まれた多くの子供たちが、自分の未来を思い描くことな
く、病気になり死んでいった。
いた。汚れた空気が、人も、草木も、全てを駄目にしていく。そん
な場所で生まれた多くの子供たちが、自分の未来を思い描くことな
く、病気になり死んでいった。
一人の女の子が、友達の男の子に打ち明ける。自分にも、病気の症
状が現れてしまったことを。その女の子にはささやかな願いがあっ
た。絵本の中で見た「真っ白な花」。いつかそれを自分の目で見た
かったと、小さくつぶやいた。
状が現れてしまったことを。その女の子にはささやかな願いがあっ
た。絵本の中で見た「真っ白な花」。いつかそれを自分の目で見た
かったと、小さくつぶやいた。
男の子は本物の花なんて見たことはなかった。しかし必死に真っ白
な花を探す。バリケードを乗り越え、立ち入りを禁止された場所ま
でも。懸命に探した末、やっと見つけた一輪の花。それは茶色く萎
びた醜い花だった。
な花を探す。バリケードを乗り越え、立ち入りを禁止された場所ま
でも。懸命に探した末、やっと見つけた一輪の花。それは茶色く萎
びた醜い花だった。
男の子は迷いながらも、病に伏せる女の子へ茶色く萎びた花を差し
出した。女の子は目をつぶったまま、震える指でその花びらを撫で
る。「とても綺麗な花……」そう言って一粒の涙を流した。女の子
は貰った花を大事そうに握ったまま、その夜、永い眠りについた。
出した。女の子は目をつぶったまま、震える指でその花びらを撫で
る。「とても綺麗な花……」そう言って一粒の涙を流した。女の子
は貰った花を大事そうに握ったまま、その夜、永い眠りについた。
拷奪の斬刑
使用方法:1ページ目
◆好きな箇所を切り刻んでみましょう。
大きく振り下ろせば切断することも容易です。出血が多いので注意
しましょう。
◆好きな箇所を切り刻んでみましょう。
大きく振り下ろせば切断することも容易です。出血が多いので注意
しましょう。
使用方法:2ページ目
◆剣の重さを利用して叩き潰してみましょう。
ぐちゃぐちゃに拉げた身体は対象に多大な精神的苦痛をもたらすで
しょう。患部が膿まないよう注意しましょう。
◆剣の重さを利用して叩き潰してみましょう。
ぐちゃぐちゃに拉げた身体は対象に多大な精神的苦痛をもたらすで
しょう。患部が膿まないよう注意しましょう。
使用方法:3ページ目
◆刃先に挟んで締め上げましょう。
特に苦痛を与えたい場合は頭部がオススメです。ハンドルで加減を
調整できますが、強くしすぎて壊さないように注意しましょう。
◆刃先に挟んで締め上げましょう。
特に苦痛を与えたい場合は頭部がオススメです。ハンドルで加減を
調整できますが、強くしすぎて壊さないように注意しましょう。
使用方法:4ページ目
◆
白紙だ。この剣で罰を受けるのはどうやら私で四人目らしい。一人
ずつ色々な方法を試しているのだろう。私は一体どうやって……
◆
白紙だ。この剣で罰を受けるのはどうやら私で四人目らしい。一人
ずつ色々な方法を試しているのだろう。私は一体どうやって……
抗抵の薬拳
自分の研究の成果で、戦争で多くの人が死んでいく。最初はそんな
現実に苦悩したが、今ではそんなことを考えることも無くなってい
た。そんな私に与えられた次の研究対象は、豚のようにぶくぶくと
太った、おじさんだった。
現実に苦悩したが、今ではそんなことを考えることも無くなってい
た。そんな私に与えられた次の研究対象は、豚のようにぶくぶくと
太った、おじさんだった。
最初はただ戸惑うばかりだったが、このおじさんの体内から、正体
不明の毒素を生み出す実験を行うのだという。おじさんを観察した
ところ、人間の自我みたいなものはなく、言葉もおぼつかない。た
だ動物のように、私に餌をねだるばかりである。
不明の毒素を生み出す実験を行うのだという。おじさんを観察した
ところ、人間の自我みたいなものはなく、言葉もおぼつかない。た
だ動物のように、私に餌をねだるばかりである。
実験が進行する間、私はおじさんの観察と世話を続けていた。そし
ていつしか、その触れ合いを通して、純粋な研究者だった頃の思い
が蘇ってきた。このまま実験が最終段階までいったら、おじさんは
どうなってしまうのだろう……。
ていつしか、その触れ合いを通して、純粋な研究者だった頃の思い
が蘇ってきた。このまま実験が最終段階までいったら、おじさんは
どうなってしまうのだろう……。
結局私は、そのおじさんの研究結果を破棄した。人を殺すために研
究者になったわけではないと、今になって思い至ったからだ。結果
方々から恨みを買い、追われる身となってしまったが、気持ちは晴
れやかだ。だって私には……おっと、そろそろ餌の時間だったか。
究者になったわけではないと、今になって思い至ったからだ。結果
方々から恨みを買い、追われる身となってしまったが、気持ちは晴
れやかだ。だって私には……おっと、そろそろ餌の時間だったか。
エミールヘッド
漂流日記 ~1日目~
いててて……は! ここは……どこでしょうか? というか、どう
やってここまで来たんでしたっけ? とにかく、最近忘れっぽいの
で日記を付けておくことにしましょう!
いててて……は! ここは……どこでしょうか? というか、どう
やってここまで来たんでしたっけ? とにかく、最近忘れっぽいの
で日記を付けておくことにしましょう!
漂流日記 ~2日目~
わー、何か雰囲気がある所ですね……砂がキラキラしててとっても
綺麗です! あ、こんにちは。あなたはママさんって言うんですか、
はじめまして! 僕はエミールと言います!
わー、何か雰囲気がある所ですね……砂がキラキラしててとっても
はじめまして! 僕はエミールと言います!
漂流日記 ~3日目~
へー、これは黒いカカシって言うんですね。わっ! なんか変な鳥
が飛び出してきました! もー、ママさん! 驚かさないでくださ
いよ! え、次は絶対に気にいる? 本当かな……
へー、これは黒いカカシって言うんですね。わっ! なんか変な鳥
が飛び出してきました! もー、ママさん! 驚かさないでくださ
いよ! え、次は絶対に気にいる? 本当かな……
漂流日記 ~4日目~
この扉は何なんでしょうか? ママさんが言うには、この向こうに
僕が望むものが現れるらしいんですけど…… え? 開くには石が
必要? 分かりました、このキラキラ石を集めて来ますね!
この扉は何なんでしょうか? ママさんが言うには、この向こうに
僕が望むものが現れるらしいんですけど…… え? 開くには石が
必要? 分かりました、このキラキラ石を集めて来ますね!
拷奪の叩刑
私は大きな罪を犯してしまった。その罰としてとある場所に移送さ
れ、拷問を受けるらしい。一体どんな過酷な罰が待ち受けているの
だろうか。
れ、拷問を受けるらしい。一体どんな過酷な罰が待ち受けているの
だろうか。
それからしばらくして目的地に到着した。ここは教会だろうか、杖
を持った司教様のような方もいる。罰を受ける前にせめてもの救い
として、天の神に赦しを請うことが出来るのだろう。
を持った司教様のような方もいる。罰を受ける前にせめてもの救い
として、天の神に赦しを請うことが出来るのだろう。
私は赦しを請った。今さらこんなことをしても遅いのはわかってい
る。だがこうすることで罪が軽くなるというのであれば、いくらで
も祈ろう。あぁ、天の神よ、私を救いたまえ。
る。だがこうすることで罪が軽くなるというのであれば、いくらで
も祈ろう。あぁ、天の神よ、私を救いたまえ。
だが私は唖然とした。司教様と思っていた彼は拷問官だった。この
場において拷問官である彼は、私にとってはまさしく神に等しい存
在だ。私が赦しを請うべきは天の神ではない、この彼だった。
場において拷問官である彼は、私にとってはまさしく神に等しい存
在だ。私が赦しを請うべきは天の神ではない、この彼だった。
金翅・冠羽
初代皇帝が愛用していた杖は、まさに質実剛健、皇帝自身の実直さ
と誠実さを体現するかのような、武骨な棒であった。
と誠実さを体現するかのような、武骨な棒であった。
二代目皇帝が愛用していた杖は、いかにも風光明媚、文化の花開く
時世を映すかのような、趣のある手杖であった。
時世を映すかのような、趣のある手杖であった。
三代目皇帝が愛用していた杖は、これぞ豪華絢爛、贅の限りを尽く
して宝石で飾り立てられた、目の眩むような至宝であった。
して宝石で飾り立てられた、目の眩むような至宝であった。
四代目皇帝の杖は、あなや急転直下、金は剥がされ宝石はもぎ取ら
れ、民により真っ二つに折られた駄物であった。
れ、民により真っ二つに折られた駄物であった。
救済の愛銃
とある国にとても正義感の強い一人の男がいた。その男は多くの人
の命を守りたいと思い、そういった仕事に就きたいと願った。
の命を守りたいと思い、そういった仕事に就きたいと願った。
事実、その男は多くの人を救った。お手製の愛用の銃は決して無闇
に人を殺めるためではなく、人を救うためにだけ使い続けてきた。
に人を殺めるためではなく、人を救うためにだけ使い続けてきた。
ところが数年後、男は凶弾に倒れてしまう。人助けをした彼の功績
を称え、その愛銃は記念品として大切に保管されることになった。
を称え、その愛銃は記念品として大切に保管されることになった。
だがのちにそれが優れた銃だと評価されると、軍での正式採用が決
定し大量生産され、多くの尊い命が奪われてしまったという。
定し大量生産され、多くの尊い命が奪われてしまったという。
赤血の腰鉈
かつて存在したという罪深き戦闘部隊、『赤鬼』。
それは人の世に居場所の無い大罪人を活用する、血塗られた部隊。
凶器としての価値を認められ、彼等はその縛めから解き放たれる。
それは人の世に居場所の無い大罪人を活用する、血塗られた部隊。
凶器としての価値を認められ、彼等はその縛めから解き放たれる。
獄中でさえ抑え切れぬ殺害衝動を買われ、部隊に入った一人の男。
わざわざ切れ味の悪い刃物を探し、殺人の道具とした彼は、
必要以上の痛みを与え、その悲鳴を浴びる事こそ至福と語った。
わざわざ切れ味の悪い刃物を探し、殺人の道具とした彼は、
必要以上の痛みを与え、その悲鳴を浴びる事こそ至福と語った。
結果、彼は部隊の中で最も多くの人間を殺めた者となる。
ある意味では、誰よりも熱心に任務に臨んだ彼であったが、
それだけ多くの恨みを買い、任務中に殺された。
ある意味では、誰よりも熱心に任務に臨んだ彼であったが、
それだけ多くの恨みを買い、任務中に殺された。
しかし、そもそも彼の投獄は冤罪に依るものだったと言う。
彼は無実の証明を諦め、赤鬼部隊へ入る為に快楽殺人鬼を演じた。
全ては檻の外に出て、一目家族に会う為に。
彼は無実の証明を諦め、赤鬼部隊へ入る為に快楽殺人鬼を演じた。
全ては檻の外に出て、一目家族に会う為に。
近代軍記ノ参
何十年と戦争が続くその国は、戦地へと駆り出された男達が毎年大
勢死んでいた。ついに国は、不足する戦力を埋めるために、年若い
子供さえも徴兵するという令を公布した。
勢死んでいた。ついに国は、不足する戦力を埋めるために、年若い
子供さえも徴兵するという令を公布した。
そうして、母親と離れたくないと泣く子供達は、役人によって強制
連行されていった。あらゆる町村で、無表情な役人に引きずられた
子供達の、母親に助けを求める悲痛な叫びが響いた。
連行されていった。あらゆる町村で、無表情な役人に引きずられた
子供達の、母親に助けを求める悲痛な叫びが響いた。
連行された子供達は施設に集められ、軍事教育を施された。たった
1か月のうちに叩き込まれたのは、人間を殺す方法、脅す方法、拷
問する方法。そうして、ついに実践投入される日となった。
1か月のうちに叩き込まれたのは、人間を殺す方法、脅す方法、拷
問する方法。そうして、ついに実践投入される日となった。
子供達がまず最初に殺したのは、自軍の指揮官だった。そして次々
と、上官を殺していった。子供達にとっての敵は、相手国ではない。
自分達を母親から引き離し、利用しようとした大人達なのだ。
自分達を母親から引き離し、利用しようとした大人達なのだ。
三式斬機刀
何人たりとも意見することは許されぬ。もっとも、この大刀を前に
意見をしようなどという者はいないであろうが。お主もそう思うで
あろう?
この大刀は実に良い。たった一振りで十二は首を落とす。民草はも
ちろん周辺諸国でさえ、恐れて余の国に手を出せぬと見える。しか
し、それも退屈だとは思わんか? この大刀にもたまには血を吸わ
せてやらねばなるまいしな。
ちろん周辺諸国でさえ、恐れて余の国に手を出せぬと見える。しか
し、それも退屈だとは思わんか? この大刀にもたまには血を吸わ
せてやらねばなるまいしな。
よし、南方の国を攻め滅ぼすことにしよう。かの国は美しい女子が
多いと聞く。お主も好きなだけ娶るといい。余が手ずから先陣を切
り開く。お主は後からついてこい。さて、どれほどの首を落とせる
か、楽しみだ。
多いと聞く。お主も好きなだけ娶るといい。余が手ずから先陣を切
り開く。お主は後からついてこい。さて、どれほどの首を落とせる
か、楽しみだ。
見よ、敵兵が余を囲んでおるぞ。その数、ちょうど十二。一振りで
綺麗に首が落ち……お主、何をしておる? 何故、余に刃を向けて
おるのだ!? お主がおると敵が十三になり、余の剣では首が……
首が……落……ち…………。
綺麗に首が落ち……お主、何をしておる? 何故、余に刃を向けて
おるのだ!? お主がおると敵が十三になり、余の剣では首が……
首が……落……ち…………。
廃鋼ノ禁腕
解体工事半ばに重機と共に放棄された廃マンションがあった。コン
クリート基材が剥き出しとなった寂しげなその場所に、身寄りも行
き場もない、かつての記憶を失った老婆が棲み付いた。
クリート基材が剥き出しとなった寂しげなその場所に、身寄りも行
き場もない、かつての記憶を失った老婆が棲み付いた。
老婆はそこで暮らすうち、次第に頭の中が鮮明になり、失われてい
た記憶を少しずつ取り戻していった。まず思い出したのは、昔ここ
で自分が暮らしていたという事実。
た記憶を少しずつ取り戻していった。まず思い出したのは、昔ここ
で自分が暮らしていたという事実。
あの階段。仕事帰りの夫が、毎日笑顔で駆け上がってきた階段。あ
の踊り場。幼かった娘が、近所の子と遊び場にしていた踊り場。あ
の忌まわしい事故がなければ、皆幸せなまま年を取ったのに。
の踊り場。幼かった娘が、近所の子と遊び場にしていた踊り場。あ
の忌まわしい事故がなければ、皆幸せなまま年を取ったのに。
どうして忘れていたのだろう。どうして自分だけ生き残ったのだろ
う。老婆は、重機から垂れ下がるチェーンをぐるりと首に巻き付け、
足場を蹴り落とした。亡き家族に少しでも早く逢うために。
足場を蹴り落とした。亡き家族に少しでも早く逢うために。
廃鋼ノ禁柱
開発が進み、人の住む土地から自然が失われていた。都市にほど近
いこの森もまた、伐採が進められ、跡地にアウトレットモールを建
設するという計画が進められていた。5階分吹き抜けになったイベ
ントホールが売りの、大規模な施設だ。
いこの森もまた、伐採が進められ、跡地にアウトレットモールを建
設するという計画が進められていた。5階分吹き抜けになったイベ
ントホールが売りの、大規模な施設だ。
10人の作業員が1日がかりで切り、その木は多量の赤い樹液を流
不気味に旋回していた。
果たしてアウトレットモールは建設された。しかし、外では不気味
な鳴き声の鳥達が飛び回り、施設内での事件・事故が後を絶たなか
った。大々的に開業したにも関わらず、あっという間に客足が遠の
き、すぐに廃業してしまった。
な鳴き声の鳥達が飛び回り、施設内での事件・事故が後を絶たなか
った。大々的に開業したにも関わらず、あっという間に客足が遠の
き、すぐに廃業してしまった。
打ち棄てられたアウトレットモールは廃墟となり、みるみるうちに
植物に侵食されていった。吹き抜けのイベントホールには、既に巨
木がそびえ立っているが、人々はそれを知らない。別の業者が、こ
の跡地をテーマパークにしようという計画を立てているらしい。
植物に侵食されていった。吹き抜けのイベントホールには、既に巨
木がそびえ立っているが、人々はそれを知らない。別の業者が、こ
の跡地をテーマパークにしようという計画を立てているらしい。
赤血の大筒
かつて存在したという罪深き戦闘部隊、『赤鬼』。
それは人の世に居場所のない大罪人を活用する、血塗られた部隊。
彼等は殺意によってのみ突き動かされる、赤き絡繰りの群れだ。
それは人の世に居場所のない大罪人を活用する、血塗られた部隊。
彼等は殺意によってのみ突き動かされる、赤き絡繰りの群れだ。
銃使いのその女は、冷酷を絵に描いたような女だった。
彼女が銃を選んだ理由は、引き金を引けば敵が死ぬという、
その明快さが、自身に合っていると感じていたからだ。
彼女が銃を選んだ理由は、引き金を引けば敵が死ぬという、
その明快さが、自身に合っていると感じていたからだ。
弾を込め、銃を構え、引き金を引く。
また弾を込め、銃を構え、引き金を引く。ただそれを繰り返す。
感情も交えずに命を奪う姿は、まるで女自身が銃の様だった。
また弾を込め、銃を構え、引き金を引く。ただそれを繰り返す。
感情も交えずに命を奪う姿は、まるで女自身が銃の様だった。
「自分に人を名乗る資格は無い」、いつかの彼女はそう誓った。
愛を裏切った自分など、最早心無き道具に過ぎない、と。
どれだけ撃っても、冷え切ったその銃が熱を覚える事は無い。
愛を裏切った自分など、最早心無き道具に過ぎない、と。
どれだけ撃っても、冷え切ったその銃が熱を覚える事は無い。
復讐の残響
少年は復讐のために生きていた。男手ひとつで育ててくれた父親が
殺されてから、仇である男を捜し続けている。形見の銃を手に国中
を巡り、仇の情報を探す日々。少年にとって過酷な旅だったが、仇
の居場所に少しずつ近付いている手ごたえはあった。
殺されてから、仇である男を捜し続けている。形見の銃を手に国中
を巡り、仇の情報を探す日々。少年にとって過酷な旅だったが、仇
の居場所に少しずつ近付いている手ごたえはあった。
少年は毎晩のように、父親が殺された日の夢を見る。平凡だった家
庭に、ある日強盗が押し入った。男に銃を向けられた父親を庇い、
立ちはだかる少年。だが、子供一人の抵抗など目もくれられず、無
残に父親は銃殺された。
庭に、ある日強盗が押し入った。男に銃を向けられた父親を庇い、
立ちはだかる少年。だが、子供一人の抵抗など目もくれられず、無
残に父親は銃殺された。
少年は旅の中で、父親が隠し続けた裏家業を知る。父親に恨みがあ
る者は多く、名前を出すだけで武器を向けられることもあった。だ
が、少年はどんなに辛い目にあっても復讐を諦めない。父親が向け
てくれた笑顔も、思い出も、本物だと信じていたからだ。
る者は多く、名前を出すだけで武器を向けられることもあった。だ
が、少年はどんなに辛い目にあっても復讐を諦めない。父親が向け
てくれた笑顔も、思い出も、本物だと信じていたからだ。
数年の旅の末に、仇の住居を突き止めた。家に押し入り、男に銃を
向ける。その瞬間、男を庇うように娘が立ちはだかった。怯えなが
ら必死に「やめて」と訴えるその目を、少年は知っている。引鉄を
引くことを躊躇した少年は、父親を殺した銃で射殺された。
向ける。その瞬間、男を庇うように娘が立ちはだかった。怯えなが
ら必死に「やめて」と訴えるその目を、少年は知っている。引鉄を
引くことを躊躇した少年は、父親を殺した銃で射殺された。
水骸の憎刃
お、さすがは旦那。お目が高いねぇ。
そいつぁ今朝入ったいわくつきの代物でね。
その昔、皆殺しにされた一族から生まれたと言われる剣さ。
そいつぁ今朝入ったいわくつきの代物でね。
その昔、皆殺しにされた一族から生まれたと言われる剣さ。
その一族はなんと水の中で文明を築いたそうだ。
奴らは特別な身体でね、死ぬ時に全身が朽ち果てるんだ。
だがこの剣みたいに、身体の一部分が武器となって残るらしい。
奴らは特別な身体でね、死ぬ時に全身が朽ち果てるんだ。
だがこの剣みたいに、身体の一部分が武器となって残るらしい。
これで人の手が入っていない天然物だってんだから驚いたもんさ。
武器としてだけでなく、美術的価値も相当高くてな。
裏じゃ昔から高値で取引され、殺し合いの争いが起きるらしい。
武器としてだけでなく、美術的価値も相当高くてな。
裏じゃ昔から高値で取引され、殺し合いの争いが起きるらしい。
うん? ゲヘヘヘさすが旦那だなぁ、察しがいい。
この一族を皆殺ししたのは俺達人間のご先祖様よ。
いつか俺達が見殺しにされても文句は言えねぇなぁ。
この一族を皆殺ししたのは俺達人間のご先祖様よ。
いつか俺達が見殺しにされても文句は言えねぇなぁ。
銀雪の尾
山を覆う珂雪、星満ちる夜天。
汎ゆる音を雪が呑む、静謐に支配された場所。
命を拒絶するそんな深山に、古くから生きる人々が居た。
人々は彼等を「銀雪の狼」と呼ぶ。
汎ゆる音を雪が呑む、静謐に支配された場所。
命を拒絶するそんな深山に、古くから生きる人々が居た。
人々は彼等を「銀雪の狼」と呼ぶ。
山麓の民は「彼の山は冬に呪われた」と語った。
死の香る玄冬は多くの者に恐れられる。
故に彼等狼たちは、深き山に好んで根を下ろすのだ。
一切の甘えを捨てて、己が生死と向き合う為に。
死の香る玄冬は多くの者に恐れられる。
故に彼等狼たちは、深き山に好んで根を下ろすのだ。
一切の甘えを捨てて、己が生死と向き合う為に。
無論、極寒の山に生きる事は容易ではない。
食糧は少なく、命を奪う要因など何処にでも転がっている。
安寧を嫌い、平穏を拒む彼等の精神を、
ある者は嗤い、ある者は感心し、そしてある者は憧れた。
食糧は少なく、命を奪う要因など何処にでも転がっている。
安寧を嫌い、平穏を拒む彼等の精神を、
ある者は嗤い、ある者は感心し、そしてある者は憧れた。
何時の日か、彼等の生活に深く感銘を受けた男が、
彼等の仲間に加わりたいと、その深山へと足を運んだ。
然し男は、静謐に潜む微かな足音に気付けなかった。
狼は貴重な食糧を、手早く仕留めたと言う。
彼等の仲間に加わりたいと、その深山へと足を運んだ。
然し男は、静謐に潜む微かな足音に気付けなかった。
狼は貴重な食糧を、手早く仕留めたと言う。
銀雪の牙
春の色は青、其れは芽吹いた命の色。
海の色は青、氾濫する程の生命の色。
生の色は青、然し其れは無知なる色。
海の色は青、氾濫する程の生命の色。
生の色は青、然し其れは無知なる色。
夏の色は赤、其れは燃え立つ焔の色。
血の色は赤、身体を満たす活力の色。
生の色は赤、然し其れは道知らぬ色。
血の色は赤、身体を満たす活力の色。
生の色は赤、然し其れは道知らぬ色。
秋の色は白、其れは恵みと豊穣の色。
霞の色は白、行く手を阻む際涯の色。
生の色は白、然し其れは罪知らぬ色。
霞の色は白、行く手を阻む際涯の色。
生の色は白、然し其れは罪知らぬ色。
冬の色は黒、其れは死と終わりの色。
罪の色は黒、生ける者全てを穢す色。
生の色は黒、故に全てが果て逝く色。
罪の色は黒、生ける者全てを穢す色。
生の色は黒、故に全てが果て逝く色。
天使の聖翼
その昔、白い翼をもった美しい男が、光と共に地上に舞い降りまし
た。人々は、神の御使いである天使だと騒ぎ立て、我先にと口早に
願いを投げかけていきます。
た。人々は、神の御使いである天使だと騒ぎ立て、我先にと口早に
願いを投げかけていきます。
ある者は己の醜い容姿を嘆き、美しくなりたいと涙を流しました。
またある者は抑えることのできない幼少期からの窃盗癖を、直して
ほしいと手を合わせます。
またある者は抑えることのできない幼少期からの窃盗癖を、直して
ほしいと手を合わせます。
そしてある者は何十年も続く闘病生活の重苦から、解放されたいと
声を振り絞りました。大勢の人々が膝をつき、男の姿を仰ぎ見ます。
男は慈愛に満ちた表情で微笑みました。
男は慈愛に満ちた表情で微笑みました。
男は人々の眼を抉り、腕を切り落とし、首を刎ねました。それこそ
が救済なのだと信じて。その場に願いを口にする者はもういません。
男は天使としての使命を全うできたと、誇らしげに笑いました。
男は天使としての使命を全うできたと、誇らしげに笑いました。
綺装の拳銃
とある大金持ちの男は、銃を収集するのが趣味だった。その中でも
特に気に入っていたのが、細かな装飾がされたとても美しい銃。
特に気に入っていたのが、細かな装飾がされたとても美しい銃。
性能も非常に優れており、他のどんな銃にも引けを取らないとマニ
アの間で評されると、その価値は日に日に増していった。
アの間で評されると、その価値は日に日に増していった。
ある時、一人の盗人が銃を盗みに屋敷へ忍び込んだ。が、運悪く男
と鉢合わせてしまい、互いに銃を抜いて銃口を向け合うことに。
と鉢合わせてしまい、互いに銃を抜いて銃口を向け合うことに。
殺るか殺られるか、刹那の一瞬を制したのは盗人の方だった。この
美しい銃が発砲で汚れるのが許せず、男は引き金を引けなかった。
美しい銃が発砲で汚れるのが許せず、男は引き金を引けなかった。
塗炭の剣
戸惑いを無くしたのはいつからか。
迷いを無くしたのはいつからか。
砂と骨と瓦礫だらけのこの場所で、
私は過去に思いを馳せた。
迷いを無くしたのはいつからか。
砂と骨と瓦礫だらけのこの場所で、
私は過去に思いを馳せた。
「生きるために」そう言い聞かせ、
「取り戻すために」そう思い込み、
それでも私がやってきたことは、
間違いなく人殺しだった。
「取り戻すために」そう思い込み、
それでも私がやってきたことは、
間違いなく人殺しだった。
この分厚い装甲が守っていたものは、
本当は、私の心だったのかもしれない。
崩壊した街を眺めながら、
ここにかつてあった風景を想像した。
本当は、私の心だったのかもしれない。
崩壊した街を眺めながら、
ここにかつてあった風景を想像した。
私の全てを奪っていったあの殺人者達と、今の私。
そこにどれくらいの違いがある?
いや、なにもない。それでも……。
私はこの剣に、全ての敵を殺すと誓った。
そこにどれくらいの違いがある?
いや、なにもない。それでも……。
私はこの剣に、全ての敵を殺すと誓った。
塗炭の大剣
照りつける太陽の下、もうすぐ、最後の水が尽きる。
ここに留まっても、やがてこうなる事は誰でもわかったはずだ。
そして何もできる事が無いという事実が人の心を腐らせていく。
私はそれを、身を持って実感していた。
ここに留まっても、やがてこうなる事は誰でもわかったはずだ。
そして何もできる事が無いという事実が人の心を腐らせていく。
私はそれを、身を持って実感していた。
ここは見捨てられた場所。
このキャンプに避難してきた人々は皆、疲れ切っている。
私は水筒に残った僅かな水を、目の前の子供に与えてやった。
死んだ魚のようだった子供の瞳が、少し潤んだように見えた。
このキャンプに避難してきた人々は皆、疲れ切っている。
私は水筒に残った僅かな水を、目の前の子供に与えてやった。
死んだ魚のようだった子供の瞳が、少し潤んだように見えた。
戦争の末に死んでいく人々に、物語のような結末はない。
ただ惨めに、最後の望みすら手放し、死んでいくだけだ。
もし、この世界に神がいるとしたら、どんな神だろう。
どんな顔でこの状況を見ているのだろう。
ただ惨めに、最後の望みすら手放し、死んでいくだけだ。
もし、この世界に神がいるとしたら、どんな神だろう。
どんな顔でこの状況を見ているのだろう。
私はここの視察に見切りをつけることにして、剣を手に取った。
抵抗することもなく、命を奪われていく人々にとって、
無慈悲に命を奪う私の姿は、死神のように映ったかもしれない。
私は無表情で、最後の一人に剣を突き立て、任務を終えた。
抵抗することもなく、命を奪われていく人々にとって、
無慈悲に命を奪う私の姿は、死神のように映ったかもしれない。
私は無表情で、最後の一人に剣を突き立て、任務を終えた。
双子の牙
娘と二人、幸せに暮らす男がいた。だがある時、争いに巻き込まれ
て、敵国に娘が捕まってしまう。「武器であるなら何でもいい!」
そう言って男は曰く付きの武器を商人から買い、娘の救出に向かう。
て、敵国に娘が捕まってしまう。「武器であるなら何でもいい!」
何が曰くなのか、それはすぐに分かった。武器が男に喋りかけてき
たからだ。「わたしとぼくがあなたをたすけてあげる」その幼い声
に娘を重ね、男は怒りの炎をより熱く燃やすのだった。
たからだ。「わたしとぼくがあなたをたすけてあげる」その幼い声
に娘を重ね、男は怒りの炎をより熱く燃やすのだった。
男はボロボロになりながらも娘の元へと辿りつき、助け出すことに
成功した。男は涙を流しながら武器に話しかける。「たった一人の
家族を救うことができた。お前たちのおかげだ、ありがとう!」と。
成功した。男は涙を流しながら武器に話しかける。「たった一人の
「かぞく? なにそれしらない。わたしとぼくとあなたいがいは、
いらないいらない。じゃまなひとはみーんなきえちゃえばいいの。
このせかいには、わたしとぼくとあなただけがいればいい」
このせかいには、わたしとぼくとあなただけがいればいい」
塗炭の拳鍔
父さんは一生懸命働いている。こんな荒廃した環境になる前は、一
端の技術屋だったんだ。そんな口癖を漏らしながら、今日も使えそ
うな廃品を探したりしている。僕はいつも腹が減っていて、腕は骨
に皮がへばりついているみたいに細い。
端の技術屋だったんだ。そんな口癖を漏らしながら、今日も使えそ
うな廃品を探したりしている。僕はいつも腹が減っていて、腕は骨
に皮がへばりついているみたいに細い。
今日は、父さんの機嫌が良い。すごく大きな仕事が舞い込んだ、と
言っていた。「この仕事が上手くいけば、何だって手に入る」そう
言った父さんの表情はいきいきしていて、それを見ていると何だか
僕も希望が湧いてくるような気がした。
言っていた。「この仕事が上手くいけば、何だって手に入る」そう
言った父さんの表情はいきいきしていて、それを見ていると何だか
僕も希望が湧いてくるような気がした。
父さんは自信に満ちた表情をしていた。これを偉い人達が回収にく
るらしい。そうしたら、僕の欲しい物を何でも買ってやる、と父さ
んは言った。僕は夢みたいなことを想像してうきうきした。
目の前の血だまりが、僕の夢を黒々と塗りつぶしていった。やって
きた偉い人達は、機械を回収すると、それを生み出した父さんを殺
し、全てを壊していった。僕は、涙と血でひりひりと乾いた喉を潤
した。そして、この乾きは一生消えることのないものだと知った。
きた偉い人達は、機械を回収すると、それを生み出した父さんを殺
し、全てを壊していった。僕は、涙と血でひりひりと乾いた喉を潤
した。そして、この乾きは一生消えることのないものだと知った。
裁定の杖
あるところに歴史を作る国がありました。
その国は、我々に3つのものを与えてくれました。
それは「過去」と「未来」と、正義を体現する「武器」でした。
その国は、我々に3つのものを与えてくれました。
それは「過去」と「未来」と、正義を体現する「武器」でした。
過去は、どのように我々が生まれて、
いかに我々が素晴らしいかを教えてくれました。
過去を共有した我々は仲間になりました。
いかに我々が素晴らしいかを教えてくれました。
過去を共有した我々は仲間になりました。
未来は、希望に満ちていました。
我々はその未来を現実にするために集いました。
未来を共有した我々は国になりました。
我々はその未来を現実にするために集いました。
未来を共有した我々は国になりました。
そうして生まれた我々の国は、自分達と違う過去を持ち、
自分達と違う未来を望む国と出会いました。
集った民衆は武器を掲げ、自分たちが死ぬまで戦い続けました。
自分達と違う未来を望む国と出会いました。
集った民衆は武器を掲げ、自分たちが死ぬまで戦い続けました。
一輪挿の杖
とうに植物が絶滅した世界で、花に興味を持った女がいた。
女は手元にあるものを使って、造花を作ってみた。
美しいが、何かが足りない。
女は手元にあるものを使って、造花を作ってみた。
美しいが、何かが足りない。
まず、スプレーでより鮮やかな色で塗り上げてみた。
ネオンピンク、ショッキングイエロー、ビビットブルー。
目に楽しいが、何かが足りない。
ネオンピンク、ショッキングイエロー、ビビットブルー。
目に楽しいが、何かが足りない。
次に、香水で香りをつけてみた。
ムスク、マリン・アクア、アルデハイド。
かぐわしいが、何かが足りない。
ムスク、マリン・アクア、アルデハイド。
かぐわしいが、何かが足りない。
どうにもうまくいかないので、ハンマーで壊してみた。
これが「枯れる」という概念なのだろうか?
ああ、美しい! 女は満足した。
これが「枯れる」という概念なのだろうか?
ああ、美しい! 女は満足した。
裁定の拳銃
【判決理由】
(裁判所が認定した罪となるべき事実)
第一 被告人は、賭博行為にて拳銃を一丁入手した。
(裁判所が認定した罪となるべき事実)
第一 被告人は、賭博行為にて拳銃を一丁入手した。
第二 被告人はその拳銃を持って帰宅し、自殺を試みるもやや躊躇
いがあり、制止した実父と揉み合いとなり発砲。
実父は、顔面に弾を受けて即死。
いがあり、制止した実父と揉み合いとなり発砲。
実父は、顔面に弾を受けて即死。
第三 被告人は自暴自棄となり、拳銃を持って市街地へ向かい、
人の往来の多い商店街にて無差別に発砲。
16人が死傷。
人の往来の多い商店街にて無差別に発砲。
16人が死傷。
主文
被告人を死刑に処する。
押収してある拳銃一丁を没収する。
被告人を死刑に処する。
押収してある拳銃一丁を没収する。
巨人の剣
その巨人は身体に不釣合いなほど器用だった。
人間用に作られた小さな剣を巧みに操り、
数百を超える軍勢を切り伏せたそうだ。
人間用に作られた小さな剣を巧みに操り、
数百を超える軍勢を切り伏せたそうだ。
その巨人は器用さに不釣合いなほど豪快だった。
牛をまるごと食らい、酒を樽ごと飲み干す姿は、
見るもの全てを驚かせたそうだ。
牛をまるごと食らい、酒を樽ごと飲み干す姿は、
見るもの全てを驚かせたそうだ。
その巨人は豪快さに不釣合いなほど繊細だった。
恋した女巨人に、もう婚約者がいることを知ると、
深い悲しみのあまりに涙の川を作ったそうだ。
恋した女巨人に、もう婚約者がいることを知ると、
深い悲しみのあまりに涙の川を作ったそうだ。
その巨人は繊細さに不釣合いなほど馬鹿だった。
食べた肉が美味すぎたショックで息の仕方を忘れてしまい、
そのまま死んだそうだ。
食べた肉が美味すぎたショックで息の仕方を忘れてしまい、
そのまま死んだそうだ。
四〇式戦術刀
※※CONFIDENDIAL※※ Y.T.D dept me
mbers only
-Index-
I. The survey of machine cores
----------------------- P.009
mbers only
-Index-
I. The survey of machine cores
----------------------- P.009
II. Approximation structure to
plant cells ------------P.113
plant cells ------------P.113
III. Protection of cores(plant
cell wall) -------------P.135
cell wall) -------------P.135
IV. Diversion machine cores to
■■■■■■■■ -------P.157
■■■■■■■■ -------P.157
四〇式戦術槍
■【機密】ヨルハ機体8B・22B・64Bの捕縛及び破壊命令
差出人:司令官
受信者:オペレーター6O
差出人:司令官
受信者:オペレーター6O
■(Re:)【機密】ヨルハ機体8B・22B・64Bの捕縛及び
破壊命令
差出人:オペレーター6O
受信者:司令官
破壊命令
差出人:オペレーター6O
受信者:司令官
■【※追記】当該情報へのアクセス禁止措置について
差出人:司令官
受信者:オペレーター6O
差出人:司令官
受信者:オペレーター6O
■極秘任務詳細
差出人:オペレーター6O
受信者:2B
※本命令は司令官からの直接命令の為、転送を禁じます。
差出人:オペレーター6O
受信者:2B
※本命令は司令官からの直接命令の為、転送を禁じます。
枢の鉾槍
むかしむかしあるところに、自由な出入りを禁ずる、とても閉鎖的
な国があった。他国との交流は最低限で、国のことを知る人間はほ
とんどいない。なぜなら入国審査でほとんどの者は落とされ、入国
を拒否されるからだ。
な国があった。他国との交流は最低限で、国のことを知る人間はほ
とんどいない。なぜなら入国審査でほとんどの者は落とされ、入国
を拒否されるからだ。
噂の内容は様々だが、審査を通過できる人が少ないというのは事実
だった。審査は厳粛に行われる。申請をすると過去を洗いざらい調
べられた後国境に呼び出され、大きな槍を背中に携えた審査員との
質疑応答を経て、その場で審査の結果を告げられるのであった。
だった。審査は厳粛に行われる。申請をすると過去を洗いざらい調
べられた後国境に呼び出され、大きな槍を背中に携えた審査員との
質疑応答を経て、その場で審査の結果を告げられるのであった。
今月の審査対象は5人。従来通りの審査が行われたが、誰一人通過
できず入国を拒否された。4人は大人しく踵を返したが、残る1人
の男が審査員に掴みかかる。男は武器を取り出し強行突破を試みた
が、審査員の取り出した槍によって刺し殺された。
できず入国を拒否された。4人は大人しく踵を返したが、残る1人
の男が審査員に掴みかかる。男は武器を取り出し強行突破を試みた
が、審査員の取り出した槍によって刺し殺された。
審査員の正体はその国の姫君であった。彼女は腕っ節には自信があ
るため旦那には強い男がふさわしい、と考えていた。これからも姫
は身分を隠し、背中に大きな槍を携え、審査に訪れる人間をジャッ
ジする。いつか現れる素敵な王子様を夢見て。
るため旦那には強い男がふさわしい、と考えていた。これからも姫
は身分を隠し、背中に大きな槍を携え、審査に訪れる人間をジャッ
ジする。いつか現れる素敵な王子様を夢見て。
巨人の大剣
とある辺境の村に巨人が現れました。
死を覚悟した村人達でしたが、その巨人は心優しく、
村のために土を掘り、川を作ってあげました。
死を覚悟した村人達でしたが、その巨人は心優しく、
村のために土を掘り、川を作ってあげました。
「巨人さん、家を作るための木を運んでくれませんか?」
巨人は木を軽々と運び、作りかけの家よりも大きな身体で、
あっという間に家を完成させてしまいました。
巨人は木を軽々と運び、作りかけの家よりも大きな身体で、
あっという間に家を完成させてしまいました。
「巨人さん、夜な夜な聞こえる狼の遠吠えが怖いんです」
巨人は鳴き声をたどり、狼の住処を見つけると、
一匹残らず握り潰してしまいました。
巨人は鳴き声をたどり、狼の住処を見つけると、
一匹残らず握り潰してしまいました。
「わーい巨人さんすごーい、私も巨人さんみたいになりたい!」
巨人は満面の笑みでそれを踏み潰し、平たく薄く伸ばし
身体を大きくしてあげました。
巨人は満面の笑みでそれを踏み潰し、平たく薄く伸ばし
身体を大きくしてあげました。
白の約定
家老の計らうまま、我等は婚姻を結ぶ。
御家の為、後世の為。斯様な契りは間々ある事だ。
艶聞や色恋に関心はない。この儀の事も、気にも留めなかった。
御家の為、後世の為。斯様な契りは間々ある事だ。
艶聞や色恋に関心はない。この儀の事も、気にも留めなかった。
初めて彼女を目にした日の、冷たい後姿を覚えている。
近寄り難く、声を掛ける事も躊躇させる気配を。
考えた。氷晶を思わせる瞳は、この婚姻を如何に映すのか。
近寄り難く、声を掛ける事も躊躇させる気配を。
考えた。氷晶を思わせる瞳は、この婚姻を如何に映すのか。
若い身空で、家の為に生涯を捧げる。心閉ざすのも無理はない。
彼女が不憫に思え、それからは何かと彼女を気にかけた。
経緯はどうあれ、夫婦となったのだから。そう思っていた。
彼女が不憫に思え、それからは何かと彼女を気にかけた。
経緯はどうあれ、夫婦となったのだから。そう思っていた。
然し、彼女は心此処に在らずと云った様子を続けるばかり。
まるで人形のように。そう想うと、全てが莫迦莫迦しくなった。
何を期待していたのだろう。始めからこうすれば良かったのに。
まるで人形のように。そう想うと、全てが莫迦莫迦しくなった。
何を期待していたのだろう。始めからこうすれば良かったのに。
白の哀哭
我が君、今こそ腹切りにて殉死せんと白装束を纏う。
介錯つかまつる我は、物言わずただその横に侍り。
介錯つかまつる我は、物言わずただその横に侍り。
我が君、その一生は鬼人の如き戦の日々にて愛も花も知らず。
我が想いには、終ぞ気づくことなかりけり。
我が想いには、終ぞ気づくことなかりけり。
我が君、散り際の今なお美しき。
斬り捌いた腹から咲く鮮血は、その唇を紅のやうに粧ふ。
斬り捌いた腹から咲く鮮血は、その唇を紅のやうに粧ふ。
我が君、ただ介錯を求むる我が君、許したもれ。
今生にて結ばれるはこの刹那、今だけは君を抱擁させ給へ。
今生にて結ばれるはこの刹那、今だけは君を抱擁させ給へ。
四〇式拳鍔
プロゴノスの追憶
おじいさんが死んだ時、僕は形見として懐中時計が欲しかったのだ
けど、それは姉さんにとられてしまった。家にこもって本ばかり読
んでいる君には必要ないでしょ、と一笑に付された僕は、代わりに
革表紙の日記帳を譲り受けた(相当のボロだ)。
けど、それは姉さんにとられてしまった。家にこもって本ばかり読
んでいる君には必要ないでしょ、と一笑に付された僕は、代わりに
革表紙の日記帳を譲り受けた(相当のボロだ)。
かくして僕のものとなった日記帳に記されていたのは、おじいさん
の旅の記録だ。僕のおじいさんは、家でじっとしていることができ
ない人で、年中旅をしていた(そのせいで、随分とおばあさんを困
らせたみたいだ)。ゆえに、僕も直接会話した記憶は少ない。
の旅の記録だ。僕のおじいさんは、家でじっとしていることができ
ない人で、年中旅をしていた(そのせいで、随分とおばあさんを困
らせたみたいだ)。ゆえに、僕も直接会話した記憶は少ない。
「A州の小汚いパブにて、珍妙な郷土料理を食す」「B自治領に入
ったところをスリ集団に囲まれて一文無しに」……。棚いっぱいの
冒険物語(子供向けのやつだ)に飽き飽きしていた僕にとって、お
じいさんの「冒険」は少し悪っぽくて、たまらなく憧れた。
ったところをスリ集団に囲まれて一文無しに」……。棚いっぱいの
冒険物語(子供向けのやつだ)に飽き飽きしていた僕にとって、お
じいさんの「冒険」は少し悪っぽくて、たまらなく憧れた。
さて、時計がないから正確な時間はわからないが、窓の外から汽笛
の音が聞こえた。僕は、日記帳を父さんの旅行鞄に押し込んで(勝
手に拝借)、家を出た。おじいさんは、僕にもこうしてほしかった
に違いない。空白のページは、僕が引き受けるつもりだ。
の音が聞こえた。僕は、日記帳を父さんの旅行鞄に押し込んで(勝
手に拝借)、家を出た。おじいさんは、僕にもこうしてほしかった
に違いない。空白のページは、僕が引き受けるつもりだ。
神秘石の銃
深い、深い、地層の奥でとある鉱石が発掘されました。
その鉱石は不思議な魔力を帯びており、それに目をつけた一人の科
学者が、銃を作り始めます。
その鉱石は不思議な魔力を帯びており、それに目をつけた一人の科
学者が、銃を作り始めます。
「科学の発展した時代に石を発射するのか」
だれもが彼を笑います。
しかし彼は諦めず、銃を作り上げました。
だれもが彼を笑います。
しかし彼は諦めず、銃を作り上げました。
見物人が野次を飛ばす中、一発の弾丸が発射されます。
その弾丸は的を撃ち抜くだけでなく、壁までも貫き、
絶大な威力を発揮しました。
その弾丸は的を撃ち抜くだけでなく、壁までも貫き、
絶大な威力を発揮しました。
科学者は称賛されました。
彼が作った銃と弾は展示室に飾られます。
その威力が発揮されることは、二度とありませんでした。
彼が作った銃と弾は展示室に飾られます。
その威力が発揮されることは、二度とありませんでした。
拷奪の裂刑
今日の肉は固い。
筋肉質で筋張ってしまっているな。
もう少し栄養バランスを考えたほうがいい。
筋肉質で筋張ってしまっているな。
もう少し栄養バランスを考えたほうがいい。
今日の肉は脂が多い。
クドい味だ、食感も悪い。
運動が足りていない証拠だ。
クドい味だ、食感も悪い。
運動が足りていない証拠だ。
今日の肉は味が薄い。
熟成が足りていないな。
若ければいいってものではないのだ。
熟成が足りていないな。
若ければいいってものではないのだ。
父親、母親、子供。こいつらは私を満足させる肉ではなかった。
だが、母親の腹には卵があるらしい。あぁ、楽しみだ。
その卵は一体どんな味で私を楽しませてくれるのだろうか!
だが、母親の腹には卵があるらしい。あぁ、楽しみだ。
その卵は一体どんな味で私を楽しませてくれるのだろうか!
ヨルハ制式鋼刀
敵通信の傍受に成功。アンドロイド達はこの「ラジオ」なるものを
熱心に聞いているようダ。我々機械生命体がこの戦争に勝利するた
めの、有益な情報が得られるかもしれなイ。ワタシは傍受を続けル。
熱心に聞いているようダ。我々機械生命体がこの戦争に勝利するた
「ラジオパーソナリティ」なる者が戦術等の指示をしている様子は
なイ。ただ陽気に、励ましの言葉や労いの言葉をかけるだけダ。有
益な情報は得られないが、ワタシは「ラジオ」を聞き続けていル。
なイ。ただ陽気に、励ましの言葉や労いの言葉をかけるだけダ。有
益な情報は得られないが、ワタシは「ラジオ」を聞き続けていル。
大規模な戦闘があり、「ラジオ」に「お便り」が届かなくなっタ。
「ラジオパーソナリティ」は「リスナー」がいないのではと、酷く
不安そうダ。大丈夫。「リスナー」はいル。ワタシが、聴いていル。
「ラジオパーソナリティ」は「リスナー」がいないのではと、酷く
黒いアンドロイドが単身、攻め込んできタ。何かをブツブツ唱えな
がら、我々を破壊していク。そしてワタシに剣を突き立て、高らか
に笑っタ。その笑声は「ラジオ」で聴き続けた、あの声だっタ。
がら、我々を破壊していク。そしてワタシに剣を突き立て、高らか
に笑っタ。その笑声は「ラジオ」で聴き続けた、あの声だっタ。
拷奪の穿刑
拷問を生業とする一族に生まれた男が愛用していたという槍。
その男は人を痛めつける術に類いまれなる才能を持っていた。
その男は人を痛めつける術に類いまれなる才能を持っていた。
どうすれば人はより痛み、恐れ、苦しむのか。
苦悶に満ちた顔を見ては興奮し、男は不気味に笑い出す。
苦悶に満ちた顔を見ては興奮し、男は不気味に笑い出す。
そんな男も老いには抗うことができず、己の死期を悟る。
神に殺されるくらいならと、自らの槍でその命を絶ってしまう。
神に殺されるくらいならと、自らの槍でその命を絶ってしまう。
その後、槍は他の拷問官に受け継がれたが、全員すぐに手放した。
彼らは口を揃えて言う。「槍から不気味な笑い声が聞こえる」
彼らは口を揃えて言う。「槍から不気味な笑い声が聞こえる」
黒の血盟
思い出すのは、あの白く柔らかな肌。
こんなに筋張った、冷たいものではなく。
こんなに筋張った、冷たいものではなく。
思い出すのは、あの歌うように清らかな声。
こんなに低く、轟くものではなく。
こんなに低く、轟くものではなく。
思い出すのは、あの艶めく長い髪。
こんなに短く、針金のようなものではなく。
こんなに短く、針金のようなものではなく。
思い出すのは、あの寂しそうな瞳。
私を力尽くで貪ろうとするものではなく。
私を力尽くで貪ろうとするものではなく。
死相
恐れ。それは人間が生き物として持つ本能の一つ。
ある男はこう考えた。争いを避けたいのであれば、
和平の為に話し合うより、争えば死ぬという恐怖の方が確実だと。
ある男はこう考えた。争いを避けたいのであれば、
和平の為に話し合うより、争えば死ぬという恐怖の方が確実だと。
敵が死への恐怖で逃げ出せば、争う必要はない。
「彼を見た者は死ぬ」。そう語られるような存在になる為に、
男はその言葉通り、相対する敵全てを殺し、戦果を上げた。
「彼を見た者は死ぬ」。そう語られるような存在になる為に、
男はその言葉通り、相対する敵全てを殺し、戦果を上げた。
そのうち、男は甲冑を返り血の様な紅に染め上げ、
それを髑髏で飾り立てた。全ては恐怖され、争いを避ける為。
しかし、未だ彼を恐れる敵は現れない。男は尚も戦い続けた。
それを髑髏で飾り立てた。全ては恐怖され、争いを避ける為。
しかし、未だ彼を恐れる敵は現れない。男は尚も戦い続けた。
どれだけ殺しても、男が恐れられる日が来る事はない。
彼は気付いていなかったのだ。
自分の恐怖を知る者は皆、自分で殺してしまっていた事に。
彼は気付いていなかったのだ。
自分の恐怖を知る者は皆、自分で殺してしまっていた事に。
抗抵の薬杖
ぼくは色をしらない、ずっと目かくしされているから。
ぼくは歌をしらない、話し相手がどこにもいないから。
ぼくは雨をしらない、一度も外にでたことがないから。
でも、本当はそれに安心してるんだ。
ぼくは歌をしらない、話し相手がどこにもいないから。
ぼくは雨をしらない、一度も外にでたことがないから。
でも、本当はそれに安心してるんだ。
あたしは光をしらない、たくさん人を殺しているから。
あたしは海をしらない、道具として生みだされたから。
あたしは愛をしらない、生きてる価値なんてないから。
でも、どうやって死ねばいいんだろう。
あたしは海をしらない、道具として生みだされたから。
あたしは愛をしらない、生きてる価値なんてないから。
でも、どうやって死ねばいいんだろう。
おれは夜をしらない、明るい夢をずっとみているから。
おれは嘘をしらない、こわくて耳をふさいでいるから。
おれは傷をしらない、ずっと誰かに守られてきたから。
でも、早く死ななくちゃいけないんだ。
おれは嘘をしらない、こわくて耳をふさいでいるから。
おれは傷をしらない、ずっと誰かに守られてきたから。
でも、早く死ななくちゃいけないんだ。
わたしは神をしらない、だれにも与えられなかったから。
わたしは罪をしらない、よごれた血がながれているから。
わたしは命をしらない、もうみんな死んでしまったから。
でも、あなたに聞いてもらえてよかった。
わたしは罪をしらない、よごれた血がながれているから。
わたしは命をしらない、もうみんな死んでしまったから。
でも、あなたに聞いてもらえてよかった。
黒の渇仰
「次、失敗しないようにすればいいさ」
誰もがそう口にする、悔やんでいても過去は変わらないと。
けれど、過去の傷も変わらず、癒えることはない。
だから僕は願う。この痛みを忘れる事ができれば。
誰もがそう口にする、悔やんでいても過去は変わらないと。
けれど、過去の傷も変わらず、癒えることはない。
だから僕は願う。この痛みを忘れる事ができれば。
「今を頑張れば、先に待つ未来も自ずと良くなるよ」
誰かがそう言った、未来を不安に思っていても仕方がないと。
でも、未来が分からないなら、僕は何を頑張れば良い?
だから僕は望む。進むべき未来が明らかになる事を。
誰かがそう言った、未来を不安に思っていても仕方がないと。
でも、未来が分からないなら、僕は何を頑張れば良い?
だから僕は望む。進むべき未来が明らかになる事を。
「今は一歩ずつ前に進もうよ」
君は僕にそう言った、時間は待ってくれないからと。
だけど、何処に進めば良いのか、僕にはまだ分からない。
だから僕は祈る。時が止まってくれれば良いのに。
君は僕にそう言った、時間は待ってくれないからと。
だけど、何処に進めば良いのか、僕にはまだ分からない。
だから僕は祈る。時が止まってくれれば良いのに。
「■■■■■■■■■■■■」
そう言ったのはきっと、僕自身だ。
変わらぬ過去と見えない未来の狭間で、僕を置いて時は進む。
全てが手遅れになっていく。だから僕は────
そう言ったのはきっと、僕自身だ。
変わらぬ過去と見えない未来の狭間で、僕を置いて時は進む。
全てが手遅れになっていく。だから僕は────
拷奪の撃刑
とある大罪を犯した凶悪人の男は、政府が定めた法に則り処刑され
ることになった。その処刑方法は特別で、処刑までの一週間は牢に
収容され、そしてなぜか銃が手渡されていた。
ることになった。その処刑方法は特別で、処刑までの一週間は牢に
収容され、そしてなぜか銃が手渡されていた。
死刑という現実を受け入れようとしたが、やはり死ぬのは恐ろしか
った。そして一週間が経ったが、刑は執行されなかった。
ホッと胸を撫でおろした男だったが、それからはいつ訪れるかわか
らない不安と死の恐怖に怯えることになった。そうして予告された
日から一か月経っても刑は執行されなかった。
らない不安と死の恐怖に怯えることになった。そうして予告された
日から一か月経っても刑は執行されなかった。
男の精神が限界に達したとき、手渡された銃の意味を理解した彼は
獄中自殺を果たした。この「自殺させる処刑」は、死刑執行人の精
神的負担を最小限に抑える処刑方法として人気があったという。
獄中自殺を果たした。この「自殺させる処刑」は、死刑執行人の精
神的負担を最小限に抑える処刑方法として人気があったという。
無法者の銃
その日、彼は両親を失ったんだってさ。
借金の取り立てで殺されたらしい。周りに頼れる人もいなかったん
だろう、一人この寂れた町で貧しく生活する他なかったんだよ。
借金の取り立てで殺されたらしい。周りに頼れる人もいなかったん
だろう、一人この寂れた町で貧しく生活する他なかったんだよ。
その日、彼はその銃を見つけたらしい。
何か売れるものはないかと、廃工場跡で鉄くずでも漁ってたんじゃ
ないかな。この街で銃なんて普通は手に入らないからね。
何か売れるものはないかと、廃工場跡で鉄くずでも漁ってたんじゃ
ないかな。この街で銃なんて普通は手に入らないからね。
その日、彼は命を襲われていたの。
見たのよ、借金取りが彼の家に押し入ったのを。でも私は逃げてし
まった……だって変に助けてしまって次に襲われたくないもの。
見たのよ、借金取りが彼の家に押し入ったのを。でも私は逃げてし
まった……だって変に助けてしまって次に襲われたくないもの。
その日、俺は初めて人を殺した。
家に来た男たちをこの銃で撃ち殺してやった。弱者の肉を強者が食
らうというなら、俺はこの銃で強者になってやる。
家に来た男たちをこの銃で撃ち殺してやった。弱者の肉を強者が食
らうというなら、俺はこの銃で強者になってやる。
白蓮
──迷獄。
檻に囚われた、壁に阻まれた。その感覚が視界を黒に閉ざした。
道も、目指す場所も、分からぬまま闇に迷う。
闇の中では、自身の内情だけが浮き彫りになっていく。
檻に囚われた、壁に阻まれた。その感覚が視界を黒に閉ざした。
道も、目指す場所も、分からぬまま闇に迷う。
闇の中では、自身の内情だけが浮き彫りになっていく。
──忘獄。
気付かされるのだ、何も願えなくなった自分に。
この心は、かつて何に動かされていたのか。
私は忘れてしまった。忘れた事にも気付けずにいた。
気付かされるのだ、何も願えなくなった自分に。
この心は、かつて何に動かされていたのか。
私は忘れてしまった。忘れた事にも気付けずにいた。
──融獄。
伽藍洞の心に、麻痺する様な闇が融け込んでいった。
あらゆる認識と感覚が歪み、感情は重く横たわるまま。
その様は骸に似てしまう。だが、それに安堵さえ覚えていた。
伽藍洞の心に、麻痺する様な闇が融け込んでいった。
あらゆる認識と感覚が歪み、感情は重く横たわるまま。
その様は骸に似てしまう。だが、それに安堵さえ覚えていた。
──常獄。
その日、深い深い泥を抜けて、光の下白く咲き誇る花を見た。
常闇に肺を満たされた私に、その二輪は余りに眩しく。
闇の底から光へと手を伸ばす姿に、気付けば涙が頬を伝っていた。
その日、深い深い泥を抜けて、光の下白く咲き誇る花を見た。
常闇に肺を満たされた私に、その二輪は余りに眩しく。
闇の底から光へと手を伸ばす姿に、気付けば涙が頬を伝っていた。
春夏秋冬
春の神は告げた。
私が草木に生命を芽吹かせようと。
私が草木に生命を芽吹かせようと。
夏の神は告げた。
私が強い日差しで生命を育てようと。
私が強い日差しで生命を育てようと。
秋の神は告げた。
私が生命の糧となる実りを授けようと。
私が生命の糧となる実りを授けようと。
冬の神は告げた。
私を越せぬ万物に死をもたらそうと。
私を越せぬ万物に死をもたらそうと。
別離の剣
戦場においては、人は人でなく、ただの道具として扱われる。
その価値は、壊れれば捨てられる、軍刀や銃器と変わらない。
それなのに、どうして俺はここで感情を持って、立ち尽くし、
玄関で手を振る家族の笑顔を思い出したりしているのだろう。
その価値は、壊れれば捨てられる、軍刀や銃器と変わらない。
それなのに、どうして俺はここで感情を持って、立ち尽くし、
玄関で手を振る家族の笑顔を思い出したりしているのだろう。
隊長の命令は絶対だ。それが悪魔に心を売るような行為でも。
戦況を左右する決断を正義感だけで覆すことなんてできない。
もし、殺さなければならない敵が、まだ幼い子供だとしても。
繰り返される殺戮は、次第に人を機械のように仕立てていく。
戦況を左右する決断を正義感だけで覆すことなんてできない。
もし、殺さなければならない敵が、まだ幼い子供だとしても。
繰り返される殺戮は、次第に人を機械のように仕立てていく。
最初の銃声が響き、それに続くかのように始まる戦火の合奏。
さっきまで隣で笑っていた隊員の頭頂部が破裂して飛散する。
真っ赤な花と、俺の叫び声が、狂騒の中に飲み込まれていく。
始まったら最後の一発まで、舞台を降りることは許されない。
さっきまで隣で笑っていた隊員の頭頂部が破裂して飛散する。
真っ赤な花と、俺の叫び声が、狂騒の中に飲み込まれていく。
始まったら最後の一発まで、舞台を降りることは許されない。
夜明けと共に消沈していく戦火。戦場にも静寂の帳が下りる。
昨日と変わらずに昇る太陽がうっすらと大地を照らしていく。
今まで当たり前に見えていた世界は、もうそこにはなかった。
絶対に帰る、その約束を果たすことができたとしても俺は……
昨日と変わらずに昇る太陽がうっすらと大地を照らしていく。
今まで当たり前に見えていた世界は、もうそこにはなかった。
絶対に帰る、その約束を果たすことができたとしても俺は……
幽光のステファノス
新たなる光。
夜を照らし、いずれ世を照らさんと願う。
夜を照らし、いずれ世を照らさんと願う。
遥かなる光。
それは心に誓う姿。若き光は手を伸ばす。
それは心に誓う姿。若き光は手を伸ばす。
虚ろなる光。
夢に背いた罪、呵責、蝕む病に光は翳る。
夢に背いた罪、呵責、蝕む病に光は翳る。
幽かなる光。
しかし確かに光を放つ。灯を消さぬよう。
しかし確かに光を放つ。灯を消さぬよう。
BSE_TypeMW
その少女には叶えたい夢がありました。それはお医者さんになると
いう夢です。彼女の母親は過労によって、足を悪くしていたので治
してあげたいと思っていました。
いう夢です。彼女の母親は過労によって、足を悪くしていたので治
してあげたいと思っていました。
少女は遊びもせずに毎日毎日、勉学と仕事に励んでいました。しか
し、周りのみんなは少女をバカにしてきます。少女はお医者さんに
はなれっこないと誰もが思っていました。
し、周りのみんなは少女をバカにしてきます。少女はお医者さんに
はなれっこないと誰もが思っていました。
少女は諦めませんでした。勉学も仕事も手を抜かずに、一生懸命に
励みました。それを見た周りのみんなも関心し、少女を応援するよ
うになっていきました。
励みました。それを見た周りのみんなも関心し、少女を応援するよ
うになっていきました。
数百年の時間をかけ、少女はお医者さんになることができました。
悪くなったパーツを取り替え、母親の足を治療してあげます。少女
はアンドロイドのお医者さんとして活躍していきました。
悪くなったパーツを取り替え、母親の足を治療してあげます。少女
はアンドロイドのお医者さんとして活躍していきました。
叛逆の果て
ある王国に、戦争のために作られた機械仕掛けの兵士がいた。王は
彼に志を語る。比類なき強さの軍隊を作り、国を豊かにしたいのだ
と。一丁の銃を手渡された兵士は、実現の為の勅命を受けた。
彼に志を語る。比類なき強さの軍隊を作り、国を豊かにしたいのだ
と。一丁の銃を手渡された兵士は、実現の為の勅命を受けた。
王の命により戦争へと赴いた。兵士の照準は外れることを知らず、
銃弾が敵兵の装備をいとも容易く貫いていく。王が目指す国の実現
の為に、彼は己の身を顧みずに戦った。
銃弾が敵兵の装備をいとも容易く貫いていく。王が目指す国の実現
の為に、彼は己の身を顧みずに戦った。
共に戦う仲間の機械兵士達。彼らの戦いぶりも凄まじく、圧倒的な
戦力で敵兵を殲滅していく。動く者のいなくなった戦場で、兵士は
銃を眺め、近く成就するであろう王の志に考えを巡らせた。
戦力で敵兵を殲滅していく。動く者のいなくなった戦場で、兵士は
銃を眺め、近く成就するであろう王の志に考えを巡らせた。
王の非情な命を受け、兵士は自らの胸を銃で撃ち抜く。戦闘データ
から旧型の機械兵士よりも劣ると判断された彼は、分解され、ガラ
クタとして地下倉庫へ破棄。王の志の礎となった。
から旧型の機械兵士よりも劣ると判断された彼は、分解され、ガラ
クタとして地下倉庫へ破棄。王の志の礎となった。
BSE_TypeLS
死を恐れぬアンドロイドの兵士がいた。身の丈ほどある大剣を悠々
と振り回し、戦場から戦場へと渡り歩く。彼は無限にある命の使い
方を、命を奪い合う殺し合いに見出していた。
と振り回し、戦場から戦場へと渡り歩く。彼は無限にある命の使い
方を、命を奪い合う殺し合いに見出していた。
とある日、機械の兵士は戦場に咲く真っ赤なバラを見つけた。その
バラは美しく、アンドロイドは一瞬にして心を奪われた。とうの昔
に失ったと思っていた感情が溢れ出してきた。
バラは美しく、アンドロイドは一瞬にして心を奪われた。とうの昔
に失ったと思っていた感情が溢れ出してきた。
アンドロイドはバラのために戦い続けた。その地は戦いの絶えない
土地だったため、野ばらを害すものを片っ端から切り伏せた。命の
奪い合いではなく、何かを守るために戦うことを喜んでいた。
土地だったため、野ばらを害すものを片っ端から切り伏せた。命の
奪い合いではなく、何かを守るために戦うことを喜んでいた。
やがて平穏が訪れ、アンドロイドは気づいた。バラの真っ赤な美し
い姿は、返り血を浴びた時の姿だったということを。アンドロイド
はあの美しかった姿をもとめ、今日も戦場を渡り歩いている。
い姿は、返り血を浴びた時の姿だったということを。アンドロイド
はあの美しかった姿をもとめ、今日も戦場を渡り歩いている。
花憐の杖
産まれた身分で全てが決まる国がある。
その国で暮らす貴族の女。恵まれた境遇の中で過ごしてきた彼女は
挫折や苦労を知ることが無かった。
その国で暮らす貴族の女。恵まれた境遇の中で過ごしてきた彼女は
挫折や苦労を知ることが無かった。
彼女はとある平民の男と出会う。
どうやら女に一目惚れしたらしく、男は愛を語る。
情熱的な言葉に心を打たれ、二人は晴れて恋人になった。
どうやら女に一目惚れしたらしく、男は愛を語る。
情熱的な言葉に心を打たれ、二人は晴れて恋人になった。
彼女は平民に対しても心優しかった。
別け隔てなく接し、薬や財を分け与える。
平民の男は彼女にどんどんと惹かれていった。
別け隔てなく接し、薬や財を分け与える。
平民の男は彼女にどんどんと惹かれていった。
ある日、彼女が別の男と寝ているのを見つけてしまう。
平民の男は言う、愛していると言ってくれたのに。
彼女は言った、愛しています、全員を平等に。
平民の男は言う、愛していると言ってくれたのに。
彼女は言った、愛しています、全員を平等に。
亡失ノ虚空
最近になって、人を殺すたびに考えるようになった。この人間は今
日までどんな人生を歩んできたのだろう。ワタシには記憶がない。
身体を弄繰り回され、人を殺すことを仕事にする前の記憶……。い
つしかワタシは、それを取り戻したいと思うようになっていた。
日までどんな人生を歩んできたのだろう。ワタシには記憶がない。
身体を弄繰り回され、人を殺すことを仕事にする前の記憶……。い
つしかワタシは、それを取り戻したいと思うようになっていた。
普通の生活とはなんだろう、家族がいて、愛する人がいて、夢があ
る。それらは、ワタシをどんな気持ちにさせるんだろう。それが知
りたかった。今の力があれば、過去のワタシを奪った奴らから、そ
れを取り戻すこともできるかもしれない。
る。それらは、ワタシをどんな気持ちにさせるんだろう。それが知
りたかった。今の力があれば、過去のワタシを奪った奴らから、そ
れを取り戻すこともできるかもしれない。
ワタシは速やかに、計画を実行に移した。自らが与えた力に、自ら
が殺されるというのはどんな気持ちだろう。ワタシは目の前に転が
る死体が憐れに見えた。血に染まった白衣を漁り、目当ての情報を
手に入れる。もうすぐワタシの過去を取り戻せる……。
が殺されるというのはどんな気持ちだろう。ワタシは目の前に転が
る死体が憐れに見えた。血に染まった白衣を漁り、目当ての情報を
手に入れる。もうすぐワタシの過去を取り戻せる……。
ワタシの目の前に展開されるデータ。それは、目の前で死んでいる
この男が、ワタシの恋人だと告げている。死体の瞳をのぞき込むが、
濁った水晶のようなそれは、何も与えてはくれなかった。それから
ワタシは、また、何も考えずに人を殺すようになった。
濁った水晶のようなそれは、何も与えてはくれなかった。それから
ワタシは、また、何も考えずに人を殺すようになった。
神秘石の杖
深い、深い、谷の底でとある鉱石が発掘される。
強い魔素を帯びた鉱石はあらゆるものに加工され、
この世の奇跡を人に与えた。
強い魔素を帯びた鉱石はあらゆるものに加工され、
この世の奇跡を人に与えた。
争い倒れゆく人を憂いた一人の女は、
鉱石を杖にし、癒やしの力に使う。
老人や貧しいもの、敵にすら施しを与えてまわった。
鉱石を杖にし、癒やしの力に使う。
老人や貧しいもの、敵にすら施しを与えてまわった。
骨折も、風邪も、裂傷も、腹痛も。
あらゆる苦痛を癒やしてしまうその力は強大で、
その女の周りにはあらゆる人が寄り集まった。
あらゆる苦痛を癒やしてしまうその力は強大で、
その女の周りにはあらゆる人が寄り集まった。
やがて女は、聖女と呼ばれ平和の象徴へとなった。
どんな傷を受けても立ち上がり、決して死なない兵士を持つ、
武装国家が建国された。
どんな傷を受けても立ち上がり、決して死なない兵士を持つ、
武装国家が建国された。
覇国の因縁
ある国に武器職人の男がいた。戦争好きの国王のおかげで、受注に
は困ることはない。人を殺すための道具を作り、そのお金で妻と娘
を養っていることに違和感を覚えながらも、男は日々、強力な武器
の制作に熱心に取り組んでいた。
は困ることはない。人を殺すための道具を作り、そのお金で妻と娘
を養っていることに違和感を覚えながらも、男は日々、強力な武器
の制作に熱心に取り組んでいた。
あるとき、男が作った銃が正式に王家の軍に採用された。戦場での
試験導入を経て、銃の性能や質を認められたのだ。安定した収入源
を得られたことに男は安心する。これで、妻や娘にも欲しいものを
買い与えてやれると。
試験導入を経て、銃の性能や質を認められたのだ。安定した収入源
を得られたことに男は安心する。これで、妻や娘にも欲しいものを
買い与えてやれると。
しかし、妻や娘からの反応は予想外のものだった。男が作った武器
によって、多くの人々が犠牲になることに罪悪感を覚えているのだ
という。男は家族の悲しみを受け止め、国王に謁見し、戦争での銃
の使用を止めるよう進言した。
によって、多くの人々が犠牲になることに罪悪感を覚えているのだ
という。男は家族の悲しみを受け止め、国王に謁見し、戦争での銃
の使用を止めるよう進言した。
国王は、男の申し出を快く了承すると、兵に男を切り殺すよう命じ
た。その後、彼の意志は守られ、銃は二度と戦争で使われることは
なかったという。その銃は国営の死刑場で、罪人を裁くための道具
となり、日々何十発の銃声を鳴らし続けている。
た。その後、彼の意志は守られ、銃は二度と戦争で使われることは
なかったという。その銃は国営の死刑場で、罪人を裁くための道具
となり、日々何十発の銃声を鳴らし続けている。
銷魂の剣
この部屋はいつも、どこか仄暗い。朝も、昼も、夜も。その暗闇は
部屋の隅に潜んでいて、俺のことを見つめている。そんな話をする
と、父さんは俺の背中を叩く、母さんは優しく撫でてくれる。何も
怖いものなんてないよ、と教えてくれる。
部屋の隅に潜んでいて、俺のことを見つめている。そんな話をする
と、父さんは俺の背中を叩く、母さんは優しく撫でてくれる。何も
怖いものなんてないよ、と教えてくれる。
戦争の足音が聞こえる、それは銃声と共にやってくる。不安の色は
どんどん濃くなっていき、ついに俺の目の前に現れた。そいつが去
ったあと、目の前に残されたのは、父さんと母さんの亡骸だった。
俺は自らの弱さを呪った。
どんどん濃くなっていき、ついに俺の目の前に現れた。そいつが去
ったあと、目の前に残されたのは、父さんと母さんの亡骸だった。
俺は自らの弱さを呪った。
俺は自分の命を、怒りと復讐に委ねた。そうしたら、何も不安に思
うことは無くなった。俺の一番大切だったもの、父さんと母さんの
愛情。それを奪った奴を一生許さない。仇を討つ。それだけが、俺
の生きる理由になった。
うことは無くなった。俺の一番大切だったもの、父さんと母さんの
愛情。それを奪った奴を一生許さない。仇を討つ。それだけが、俺
の生きる理由になった。
俺の生きる理由が、俺に与えた答え。それは、偽りの人生の帰結だ
った。何のために生きてきたのか、何のために戦ってきたのか、何
もわからなくなってしまった。俺はゆっくりと目を閉じる。もうこ
れで、全てが終わりますように。そう願って。
った。何のために生きてきたのか、何のために戦ってきたのか、何
もわからなくなってしまった。俺はゆっくりと目を閉じる。もうこ
れで、全てが終わりますように。そう願って。
純然たる大義
本当なら、逃げ出してしまいたかった。でもそれはできない。
自分の命と他人の命を天秤に乗せたとき、針はどんな風に揺れる?
その結果を、軟弱だと言うか、当然だと言うか。
誰か、その答えを知っている人がいたら、教えてほしい。
自分の命と他人の命を天秤に乗せたとき、針はどんな風に揺れる?
その結果を、軟弱だと言うか、当然だと言うか。
誰か、その答えを知っている人がいたら、教えてほしい。
俺は剣を握る。その手は震えていた。
こんなことで、任務が果たせるというのだろうか。
でも、これはきっと、任務を嫌がる体の方が、正しいのだろう。
たぶん任務に逆らえない俺の精神の方が、間違っているのだから。
こんなことで、任務が果たせるというのだろうか。
でも、これはきっと、任務を嫌がる体の方が、正しいのだろう。
たぶん任務に逆らえない俺の精神の方が、間違っているのだから。
俺は今日、初めて任務を成功させた。
剣を突き刺し、俺を見る兵士の目が、大きく見開かれる。
その瞳孔の黒さに、俺は飲み込まれてしまいそうだった。
「大義のために……大義の……」俺は何度も頭のなかで繰り返す。
剣を突き刺し、俺を見る兵士の目が、大きく見開かれる。
その瞳孔の黒さに、俺は飲み込まれてしまいそうだった。
「大義のために……大義の……」俺は何度も頭のなかで繰り返す。
剣の切先から、兵士の真っ赤な血が滴り落ちる。
その「赤」は、この世の憎しみを煮詰めたような色をしている。
その「憎しみ」はもう、俺の全身にこびりついてしまっていた。
俺はもう、引き返す道は残されていないことを理解した。
その「赤」は、この世の憎しみを煮詰めたような色をしている。
その「憎しみ」はもう、俺の全身にこびりついてしまっていた。
俺はもう、引き返す道は残されていないことを理解した。
花憐の大剣
心の優しい貴族の男がいました。
その男は街の領主でしたが、身分に甘えることなく、
畑仕事や裁縫なども行い、領民から敬愛されていました。
その男は街の領主でしたが、身分に甘えることなく、
畑仕事や裁縫なども行い、領民から敬愛されていました。
男は常に民と共に在り、暮らしを良くすることに努めます。
街の水車が故障すれば、自らが修繕し、
獣が街を襲えば、最前線で戦いました。
街の水車が故障すれば、自らが修繕し、
獣が街を襲えば、最前線で戦いました。
しかし、男と言えども自然には抗えません。
日照りが続いて、農作物が枯れ果ててしまいます。
食べ物を買おうにも、どこも凶作で売るほどの蓄えはありません。
日照りが続いて、農作物が枯れ果ててしまいます。
食べ物を買おうにも、どこも凶作で売るほどの蓄えはありません。
優しき男は、せめてもの施しにと自身に火をかけます。
空腹な民は涙を流し、焼けた男に群がりました。
そして民達はそれに習い、毎日人を焼き貪りました。
空腹な民は涙を流し、焼けた男に群がりました。
そして民達はそれに習い、毎日人を焼き貪りました。
黒キ拳銃
黒い鳥が鳴き騒ぐ、不気味な路地裏。
そこで怪しげな老婆が銃を売っていた。興味を持った男は、老婆に
これはどんな銃なんだと話しかけた。
そこで怪しげな老婆が銃を売っていた。興味を持った男は、老婆に
これはどんな銃なんだと話しかけた。
老婆はニヤリと笑みを浮かべながら銃の特徴を話す。
なんでも銃口を向けた相手が、自分に殺意をもっていれば弾が出る
という。それは面白いと、男はその銃を買った。
なんでも銃口を向けた相手が、自分に殺意をもっていれば弾が出る
という。それは面白いと、男はその銃を買った。
その夜、男はバレないように家族へ銃口を向けた。
しかし当然のように弾は出ず、少しでも家族を疑った男はひどく後
悔の念に苛まれた。男は銃を置き、妻の元へ向かった。
しかし当然のように弾は出ず、少しでも家族を疑った男はひどく後
悔の念に苛まれた。男は銃を置き、妻の元へ向かった。
「わぁお父さん、これカッコイイね!」
息子がそう言ったところで、男の意識は途切れた。全くこれだから
クソガキは……。
息子がそう言ったところで、男の意識は途切れた。全くこれだから
クソガキは……。
黒鳥ノ短剣
ある国で暮らす青年は、国同士の紛争に巻き込まれる。彼は妻も生
まれたばかりの赤ん坊も失い、絶望の淵に立っていた。そんな彼を
助けてくれたのは、彼と同じ境遇の人間が集まる暗殺者集団だった。
まれたばかりの赤ん坊も失い、絶望の淵に立っていた。そんな彼を
それから数年後、青年は暗殺者集団の頭領となった。彼は新たな紛
争を企てている主犯格たちの抹殺に動く。奴らを始末すれば、自分
と同じ悲劇に見舞われる人が少しでも減るはずだと信じて。
争を企てている主犯格たちの抹殺に動く。奴らを始末すれば、自分
と同じ悲劇に見舞われる人が少しでも減るはずだと信じて。
任務を完了し、青年は血に濡れた剣を下ろす。その場を離れようと
した時、背後から少年の声が聞こえた。両親を殺された少年の、嗚
咽とも悲鳴ともつかない叫び声が部屋に響き渡る。
した時、背後から少年の声が聞こえた。両親を殺された少年の、嗚
咽とも悲鳴ともつかない叫び声が部屋に響き渡る。
暗殺者集団の元に、一人の少年が連れられてきた。その少年は、何
者かによって親を殺されてしまったらしい。復讐心に燃える少年の
手には、漆黒の羽根が一枚だけ握りしめられていた。
者かによって親を殺されてしまったらしい。復讐心に燃える少年の
手には、漆黒の羽根が一枚だけ握りしめられていた。
黒の倨傲
その黒く醜い槍は、曰く付きの業物だった。歴代の所有者を悲劇的
な死へと導いた後に、娘想いの愚直な父親の手に収まった。槍を携
えて旅をしたこの男もまた、悲劇的な運命を辿った。
な死へと導いた後に、娘想いの愚直な父親の手に収まった。槍を携
えて旅をしたこの男もまた、悲劇的な運命を辿った。
男の死後、この槍の行方を知る者はいなかった。なぜなら、人類が
滅んでしまったからだ。槍は、気の遠くなるような長い間、自然に
さらされ続けた。
滅んでしまったからだ。槍は、気の遠くなるような長い間、自然に
さらされ続けた。
人類の文明の上に、いつしか機械たちが独自の文化を築いていた。
ある時、一体の機械が、工場の隅に薄汚れた槍を見つけた。彼は、
その槍を自分だけの宝物にすることにした。
ある時、一体の機械が、工場の隅に薄汚れた槍を見つけた。彼は、
その槍を自分だけの宝物にすることにした。
機械は、その槍を部屋に鍵をかけてしまいこんだ。しかし、戦争で
記憶が壊れ、自分ではその鍵を解除することができなくなってしま
った。ダレカアケテクレナイカナア?
記憶が壊れ、自分ではその鍵を解除することができなくなってしま
った。ダレカアケテクレナイカナア?
抗抵の薬剣
俺はただの技術者だ。なのに、どうしてこんな目に……。戦争は俺
から全て奪っていった。行方不明になった妻は生死すらわからない、
子供を身籠ったばかりだったというのに。残されたのは、憎しみと
復讐心。俺は駆り立てられるように、兵器の開発に没頭した。
子供を身籠ったばかりだったというのに。残されたのは、憎しみと
復讐心。俺は駆り立てられるように、兵器の開発に没頭した。
最終目標は、生きた兵器たちを生み出すこと。学習し、思考し、成
長する兵器。こいつらを使って、大切なものを奪った奴らに、同じ
苦しみを与えてやるんだ。その計画を実行に移すためには、素材と
なる生きた人間が必要だった。
長する兵器。こいつらを使って、大切なものを奪った奴らに、同じ
苦しみを与えてやるんだ。その計画を実行に移すためには、素材と
なる生きた人間が必要だった。
計画は速やかに実行された。兵器を生み出すための素材には、身元
を失った子供を大量に用意した。一人、また一人、兵器に生まれ変
わっていく子供たち。君らも大切なものを失ったのだろう、俺と一
緒に、その憎しみを力に変えよう。
を失った子供を大量に用意した。一人、また一人、兵器に生まれ変
わっていく子供たち。君らも大切なものを失ったのだろう、俺と一
緒に、その憎しみを力に変えよう。
全ての作業を終えた後、子供たちの遺品を処理していると、俺が妻
に贈ったペンダントが出てきた。動揺の最中、言葉にならない呻き
声が洩れる。もちろん兵器たちがそれに応えることはない。動揺が
諦念に変わる頃、ひとつの兵器に、俺を殺してくれと命令した。
に贈ったペンダントが出てきた。動揺の最中、言葉にならない呻き
声が洩れる。もちろん兵器たちがそれに応えることはない。動揺が
諦念に変わる頃、ひとつの兵器に、俺を殺してくれと命令した。
カイネの剣
彼女は戦っていた。
殴打にも似た斬撃が、敵に何度も繰り返される。
やがて剣が折れ、一振りの刃になったとしても。
殴打にも似た斬撃が、敵に何度も繰り返される。
やがて剣が折れ、一振りの刃になったとしても。
彼女は苦しんでいた。
穢れた身体を晒しながら生きることを。
心を蝕む思い出を抱え続けることを。
穢れた身体を晒しながら生きることを。
心を蝕む思い出を抱え続けることを。
彼女は悟っていた。
復讐も、苦悩も、無意味と知って目を閉じる。
せめて夢の中だけは幸福でありたいと。
復讐も、苦悩も、無意味と知って目を閉じる。
せめて夢の中だけは幸福でありたいと。
しかし、彼女は抗い続けた。
無価値で、何も残らないことを知っても。
剣をひたすら振るった。闇の中を、彷徨いながら。
無価値で、何も残らないことを知っても。
剣をひたすら振るった。闇の中を、彷徨いながら。
7号の杖
この能力は、姉さんを止めるために。
この言葉は、シロさんを宥めるために。
この魔法は、カイネさんを救うために。
この……は、……を愛するために。
百獣の双槍
むかしむかしある王国に3人の領主がいました。力の騎士、智の騎
士、心の騎士と呼ばれた3人は、3つに分けた国の領地をそれぞれ
任されましたが、その内の1人、心の騎士は、真面目なだけの平凡
な青年でした。
士、心の騎士と呼ばれた3人は、3つに分けた国の領地をそれぞれ
任されましたが、その内の1人、心の騎士は、真面目なだけの平凡
な青年でした。
心の騎士はその誠実な性格と人当たりの良さから、多くの領民に信
頼されました。しかしその心労は余りに重く、彼はある事に深く頭
を悩ませる事となります。それは自身が選ばれた理由、「心」の意
味についてでした。
頼されました。しかしその心労は余りに重く、彼はある事に深く頭
を悩ませる事となります。それは自身が選ばれた理由、「心」の意
味についてでした。
「力」の騎士はその武勇を、「智」の騎士はその知識を。ならば王
は何を望み、「心」の騎士という名を私に授けたのか。彼は日夜考
え続けましたが、どれだけ考えても納得のいく答えを見付ける事は
出来ませんでした。
は何を望み、「心」の騎士という名を私に授けたのか。彼は日夜考
え続けましたが、どれだけ考えても納得のいく答えを見付ける事は
出来ませんでした。
そうして彼は今日も、寝台の上で王の獣欲を浴びながら、「心」の
意味について考え続けます。彼が王の真意に気付くことはありませ
んでしたが、それでも彼はその身の全てを捧げ、王の「心」を満た
し続けました。
意味について考え続けます。彼が王の真意に気付くことはありませ
んでしたが、それでも彼はその身の全てを捧げ、王の「心」を満た
し続けました。
鉄パイプ
あれからどれだけの月日が流れただろう。
今はいったい、何月何日なのか。
この姿になって暫くは数えていたが、それももう忘れてしまった。
今はいったい、何月何日なのか。
この姿になって暫くは数えていたが、それももう忘れてしまった。
管理者達に尋ねれば、秒単位で正確な時間を教えてくれるだろう。
だが、それを知ったところで何の意味もない。
どうせ何年待てばいいのかは、答えてくれないのだから。
だが、それを知ったところで何の意味もない。
どうせ何年待てばいいのかは、答えてくれないのだから。
好転の兆しもないままに、悪戯に過ぎていく歳月。
俺は一人で、一体いつまで待てばいい?
燻り出した疑心が、怒りとして燃え上がるには充分な時間だった。
俺は一人で、一体いつまで待てばいい?
燻り出した疑心が、怒りとして燃え上がるには充分な時間だった。
全てが壊れた。この計画は失敗した。約束は嘘に成り果てた。
もう誰も信用できない。妹を救うには、俺が動くしかない。
また、二人で暮らそう。昔と同じように。
もう誰も信用できない。妹を救うには、俺が動くしかない。
また、二人で暮らそう。昔と同じように。
王位簒奪者の槍
その日、俺は王の影武者として城へ連行された。大切な家族との生
活を奪われてしまったが、代わりに、繁栄を続けるこの大国の王族
としての暮らしが与えられた。
活を奪われてしまったが、代わりに、繁栄を続けるこの大国の王族
としての暮らしが与えられた。
数か月後、俺は食料や金銭を持ってこっそりと家族の元へ戻った。
しかしそこに家族の姿はなく、家の中には腐った死体だけが残され
ていた。俺は王に詰め寄った。
しかしそこに家族の姿はなく、家の中には腐った死体だけが残され
ていた。俺は王に詰め寄った。
「影武者であるお前の存在が外へ漏れぬように殺したのだ。当然で
あろう?」悪びれる様子もない王に憤慨した俺は、その場にあった
一本の槍を王の顔面に突き立てた。「これで俺が王だ……!!」
あろう?」悪びれる様子もない王に憤慨した俺は、その場にあった
一本の槍を王の顔面に突き立てた。「これで俺が王だ……!!」
次の日、俺が王の間へと向かうと、そこには殺したはずの王の姿が
あった。昨夜殺したのは影武者だったのか? いや影武者は俺だ。
ならあいつは誰だ。本物は誰だ? 俺は……誰だ?
あった。昨夜殺したのは影武者だったのか? いや影武者は俺だ。
ならあいつは誰だ。本物は誰だ? 俺は……誰だ?
古の覇王
とある遺跡の奥底に、不老不死の力を持った剣が隠されているらし
い。そんな噂を聞いた多くの冒険者が旅立ったが、誰一人として戻
ってはこなかった。ある時、名のある旅団が遺跡へ向かうという話
を聞き、その剣を一目見たい私は同行したいと願い出た。
い。そんな噂を聞いた多くの冒険者が旅立ったが、誰一人として戻
ってはこなかった。ある時、名のある旅団が遺跡へ向かうという話
を聞き、その剣を一目見たい私は同行したいと願い出た。
幾重にも張り巡らされた罠を潜り抜けて最深部へたどり着くと、一
人の番人が待っていた。辺りには無数の屍が転がっているのが見え
る。番人を倒すことができれば剣が手に入るが、負ければ屍と化し
た冒険者と同じ末路を辿る、そういうことだろう。
人の番人が待っていた。辺りには無数の屍が転がっているのが見え
る。番人を倒すことができれば剣が手に入るが、負ければ屍と化し
た冒険者と同じ末路を辿る、そういうことだろう。
一人の剣が番人の首を捉えた。しかし、番人は起き上がり襲い掛か
ってくる。番人は剣から不老不死の力を得ていたのだ。旅団の冒険
者達は次々とやられ始め、恐ろしくなった私はあろうことかその場
から一目散に逃げ出してしまった。それが十年前の出来事だ。
ってくる。番人は剣から不老不死の力を得ていたのだ。旅団の冒険
者達は次々とやられ始め、恐ろしくなった私はあろうことかその場
から一目散に逃げ出してしまった。それが十年前の出来事だ。
彼はかつてこの地を治めた王の亡き姿。剣の力を求めて自国を滅亡
させてしまった王は、この地の誰かが同じ過ちを犯さぬようにと、
自らを不死の身体にして剣を守り続けていることが分かった。今後、
剣を求める者が現れぬことを願い、この手記を残す――
させてしまった王は、この地の誰かが同じ過ちを犯さぬようにと、
剣を求める者が現れぬことを願い、この手記を残す――
知識の杖
とある町に物知りな魔術師がいました。そこに真剣な顔をした若い
男達がやってきます。男達は町一番の美人に惚れており、恋人にす
るにはどうすればよいかと、魔術師に助言を乞いました。
男達がやってきます。男達は町一番の美人に惚れており、恋人にす
るにはどうすればよいかと、魔術師に助言を乞いました。
魔術師は男達に試練を言い渡しました。まずは私の家の掃除をし、
幾つかの薬草を採ってくる。そして町の中を千周走り、一番始めに
戻ったものに女を惚れさせる魔術を教えると。
幾つかの薬草を採ってくる。そして町の中を千周走り、一番始めに
戻ったものに女を惚れさせる魔術を教えると。
暫くして男達は気がつきます、この苦行こそが「魔術に頼らず己の
力量で惚れされろ」という魔術師からの助言ということに。
男達は感謝を伝えるために魔術師の元へと向かいました。すると、
そこには町一番の美人がいるのでした。魔術師は男達に採取に行か
せた薬草で惚れ薬を作り、美人を落としていたのでした。
そこには町一番の美人がいるのでした。魔術師は男達に採取に行か
せた薬草で惚れ薬を作り、美人を落としていたのでした。
氷霜の槍
雪山の麓に夫婦が暮らしていた。
妻は若いころから美人として有名で、
夫はそんな妻のことを自慢に思っていた。
妻は若いころから美人として有名で、
夫はそんな妻のことを自慢に思っていた。
男は真冬の雪山へ狩猟に出かける。
山の中腹にある凍り付いた湖の畔で、
男は雪の女神と遭遇した。
山の中腹にある凍り付いた湖の畔で、
男は雪の女神と遭遇した。
雪の女神は男に言った。
「私は美を司る女神。そなたに永遠の美貌を与える」と。
男は「自分はいいから妻に与えてくれ」と願った。
「私は美を司る女神。そなたに永遠の美貌を与える」と。
男は「自分はいいから妻に与えてくれ」と願った。
男が家に帰ると、妻は氷塊の中で凍り付いていた。
火で炙ろうと武器で叩こうと、その氷塊は割れそうもない。
その後、男は雪山で女神を探したが、見つかることはなかった。
火で炙ろうと武器で叩こうと、その氷塊は割れそうもない。
その後、男は雪山で女神を探したが、見つかることはなかった。
克己
冬。見上げると、ビルの合間を飛行機が飛んでいった。
ココではないドコかへ行きたいとは全くもって思わないが、
俺の毎日は、代わり映えしない。
自分ではない何者かになりたいとは……少しだけ、思う。
ココではないドコかへ行きたいとは全くもって思わないが、
俺の毎日は、代わり映えしない。
自分ではない何者かになりたいとは……少しだけ、思う。
兄貴からのお下がりのジャケットは、
別に格好いいからって着ているわけじゃない。
俺よりずっと年上の兄貴は、夢を叶えてパイロットになった。
正直、兄貴のことは認めている。口では言わないけど。
別に格好いいからって着ているわけじゃない。
俺よりずっと年上の兄貴は、夢を叶えてパイロットになった。
正直、兄貴のことは認めている。口では言わないけど。
長いこと赤のままの信号を待ちながら、何の気なしにジャケットの
腕ポケットを探った。なんでこんな不便な位置に? と思うそのポ
ケットからは、クシャクシャになった受験票が出てきた。
兄貴が一度、パイロットの資格試験に落ちた年のものだった。
腕ポケットを探った。なんでこんな不便な位置に? と思うそのポ
ケットからは、クシャクシャになった受験票が出てきた。
兄貴が一度、パイロットの資格試験に落ちた年のものだった。
俺も……俺も、何かがしたいんだ、自分にしかできない何かを。
すがるようにまた空を見上げたが、飛行機雲すら出ていやしない。
信号が青に変わり、横並びだった人達が一斉に歩き出す。
後れをとらないように俺は、白線だけ踏んで急いで走って渡った。
すがるようにまた空を見上げたが、飛行機雲すら出ていやしない。
信号が青に変わり、横並びだった人達が一斉に歩き出す。
後れをとらないように俺は、白線だけ踏んで急いで走って渡った。
裁定の剣
◆第一四條
裁定ハ正義ノ名ニ於イテ
王ニ依リ裁定者之ヲ行ウ
裁定ハ正義ノ名ニ於イテ
王ニ依リ裁定者之ヲ行ウ
◆第一六條
裁定ノ結末ト其之道程ハ
機密情報ト為スコトヲ得
裁定ノ結末ト其之道程ハ
機密情報ト為スコトヲ得
◆第一九條
裁定ヲ司ル者ハ其之表決
ニ於テ責ヲ負フコトナシ
裁定ヲ司ル者ハ其之表決
ニ於テ責ヲ負フコトナシ
◆第一三五八四一三五條
民衆ハ此ノ裁定者ニ対シ
全テノ反抗行為ヲ禁ズル
民衆ハ此ノ裁定者ニ対シ
全テノ反抗行為ヲ禁ズル
百獣の剣王
むかしむかしある王国に、3つの掟がありました。それは王室が国
民に課した規則。掟を犯した者には死刑をはじめとした、厳しい罰
が与えられましたが、その刑罰の重さに反し、この掟の存在は多く
の国民から称賛を受けていました。
民に課した規則。掟を犯した者には死刑をはじめとした、厳しい罰
が与えられましたが、その刑罰の重さに反し、この掟の存在は多く
の国民から称賛を受けていました。
1つ目の掟は「他人の所有物を許可なく奪う事を禁ず」。窃盗、強
奪は勿論、命を「奪う」殺人もこの掟の対象に含まれています。過
去に「心を奪う」事はどうかという議論があり、以降は他人の所有
物と知った上で意図的に奪った場合、と追記されました。
奪は勿論、命を「奪う」殺人もこの掟の対象に含まれています。過
去に「心を奪う」事はどうかという議論があり、以降は他人の所有
物と知った上で意図的に奪った場合、と追記されました。
2つ目の掟は「暴言や罵詈雑言で人の名誉を傷付ける事を禁ず」。
掟はこういった、他の人に嫌な思いをさせない、という観点から定
められていますが、この掟については、そういった言葉を使う事で
王国の品格を損なう事を避ける意味も込め、制定されました。
掟はこういった、他の人に嫌な思いをさせない、という観点から定
められていますが、この掟については、そういった言葉を使う事で
王国の品格を損なう事を避ける意味も込め、制定されました。
3つ目の掟は公開されていませんでした。しかし、それこそ人々が
この掟を称賛した理由でした。3つ目の内容を考える事が、他人へ
の思いやりに繋がると人々は語ります。王室の都合で国民を死罪に
する為という実態には、誰も気が付きませんでした。
この掟を称賛した理由でした。3つ目の内容を考える事が、他人へ
の思いやりに繋がると人々は語ります。王室の都合で国民を死罪に
する為という実態には、誰も気が付きませんでした。
頑護の銃
短髪の兵士「うちの隊長、もっとビシッとしてくれないかね。」
眼鏡の兵士「ああ。臆病者なんて言われて悔しくないのかな。」
短髪の兵士「この前も、あんなに早く撤退命令を出すなんてな。」
眼鏡の兵士「作戦は成功、皆も無事。それでいいじゃないか。」
眼鏡の兵士「ああ。臆病者なんて言われて悔しくないのかな。」
短髪の兵士「この前も、あんなに早く撤退命令を出すなんてな。」
眼鏡の兵士「作戦は成功、皆も無事。それでいいじゃないか。」
短髪の兵士「だけど隊長、普段は腰が低いってのに……」
眼鏡の兵士「ああ。作戦中の指示だけは気迫があるよな。」
短髪の兵士「今回は特にな。あのチビに思い入れがあるのかね。」
眼鏡の兵士「どうかな。隊長の過去は色々と噂されてるけど。」
眼鏡の兵士「ああ。作戦中の指示だけは気迫があるよな。」
短髪の兵士「今回は特にな。あのチビに思い入れがあるのかね。」
眼鏡の兵士「どうかな。隊長の過去は色々と噂されてるけど。」
短髪の兵士「隊長は昔、かなりの切れ者だったって聞いたな。」
眼鏡の兵士「最近の作戦成功率と死傷者数、嘘じゃないかもな。」
短髪の兵士「撤退も、全て隊長の計算の内だったってことか?」
眼鏡の兵士「ああ……僕達はずっと隊長に守られてたのかも。」
眼鏡の兵士「最近の作戦成功率と死傷者数、嘘じゃないかもな。」
短髪の兵士「撤退も、全て隊長の計算の内だったってことか?」
眼鏡の兵士「ああ……僕達はずっと隊長に守られてたのかも。」
短髪の兵士「何?隊長を敵地に残して撤退しろだと!?」
眼鏡の兵士「隊長命令だ。もし反すれば罰されるぞ……」
短髪の兵士「……なあ、俺と一緒に敵地に乗り込む気はないか?」
眼鏡の兵士「気が合うな。僕も同じことを考えていたところだ!」
眼鏡の兵士「隊長命令だ。もし反すれば罰されるぞ……」
短髪の兵士「……なあ、俺と一緒に敵地に乗り込む気はないか?」
眼鏡の兵士「気が合うな。僕も同じことを考えていたところだ!」
救国の銃
その男は、多くの戦を廻った。
どんな作戦も全力で任務を遂げた。
そうやって数多くの功績を挙げた。
どんな作戦も全力で任務を遂げた。
そうやって数多くの功績を挙げた。
その男は、多くの命を奪った。
歯向かう者を容赦なく撃ち殺した。
そうやって敵の命を奪っていった。
歯向かう者を容赦なく撃ち殺した。
そうやって敵の命を奪っていった。
その男は、多くの命を救った。
祖国の危険となる敵を撃ち殺した。
そうやって皆の命を救っていった。
祖国の危険となる敵を撃ち殺した。
そうやって皆の命を救っていった。
男の死後、その活躍を称えた名誉勲章と呼ばれる最高位の勲章が
作られ、授与された者には彼が愛用した銃のモデルが贈られた。
そして現在、名誉勲章は軍人の誰もが憧れる誉れの象徴となって
いる。
作られ、授与された者には彼が愛用した銃のモデルが贈られた。
そして現在、名誉勲章は軍人の誰もが憧れる誉れの象徴となって
いる。
血根の双刃
好きなものも、寝るときも、遊ぶときも、何をするにもいつも一緒
でした。しかしある日、弟だけが流行り病にかかったのです。
それから十数年。弟だけ寝たきりの生活が続き、二人はいつも一緒
ではなくなってしまいました。日に日に弱くなっていく弟の姿に心
を痛めながらも、それでも兄は毎日欠かさず見舞いに通いました。
ではなくなってしまいました。日に日に弱くなっていく弟の姿に心
を痛めながらも、それでも兄は毎日欠かさず見舞いに通いました。
ある日、弟はか細い声で兄に話しかけました。「最後に何か一緒に
……」と言った弟。彼の死期を悟った兄は、こんな状況でも、双子
として何か一緒にできることはないかと模索しました。
……」と言った弟。彼の死期を悟った兄は、こんな状況でも、双子
として何か一緒にできることはないかと模索しました。
次の日、看護師が見たものは、ベッドの上で二又に分かれた槍の刃
先が双子の心臓を貫き絶命している姿でした。弟の最後の願いに応
えた兄の行動は「一緒に生まれ、一緒に死ぬ」ことだったのです。
先が双子の心臓を貫き絶命している姿でした。弟の最後の願いに応
えた兄の行動は「一緒に生まれ、一緒に死ぬ」ことだったのです。
黒キ真槍
発展途上の国に、学舎が建てられた。その学舎を設立したのは、一
組の夫婦。夫婦は生活のままならない子供たちを無償で引き取り、
食事を与え、学問を教え、本当の自分たちの子供のように、愛情を
もって育てた。
組の夫婦。夫婦は生活のままならない子供たちを無償で引き取り、
食事を与え、学問を教え、本当の自分たちの子供のように、愛情を
もって育てた。
今日、ひとりの子供が学舎にやってきた。彼は両親から捨てられて
しまったという。夫婦は心に傷を負った彼を優しく抱きしめ、暖か
い布団で寝かしつけてやった。最初は緊張していた彼も、傷が癒え
るうちに、笑顔を見せるようになっていった。
しまったという。夫婦は心に傷を負った彼を優しく抱きしめ、暖か
い布団で寝かしつけてやった。最初は緊張していた彼も、傷が癒え
るうちに、笑顔を見せるようになっていった。
ある日、よく笑顔を見せるようになった彼が、緊張した面持ちで夫
婦の元にやってきた。彼は夫婦に、僕の本当のお父さんとお母さん
になってほしい、と打ち明ける。夫婦は少し困った表情で彼の頭を
撫でながら言う。「私達は、皆の、お父さんとお母さんだよ」
婦の元にやってきた。彼は夫婦に、僕の本当のお父さんとお母さん
になってほしい、と打ち明ける。夫婦は少し困った表情で彼の頭を
撫でながら言う。「私達は、皆の、お父さんとお母さんだよ」
次の日から、学舎の子供たちが一人ずつ消息を絶っていった。一ヶ
月後、たった一人だけ残った笑顔の子供が、夫婦に言う。「今日か
ら、僕だけを愛してくれる?」学舎の屋根から、黒い鳥が一羽、空
へと飛び立っていった。
月後、たった一人だけ残った笑顔の子供が、夫婦に言う。「今日か
ら、僕だけを愛してくれる?」学舎の屋根から、黒い鳥が一羽、空
へと飛び立っていった。
黒鳥ノ鋼手
そこには、黒い雨が降っていた。
雨脚は強く泥を撥ね、足元を汚していく。
自分とそれ以外との境界が、曖昧になっていく。
雨脚は強く泥を撥ね、足元を汚していく。
自分とそれ以外との境界が、曖昧になっていく。
黒い土の上で、一人が赤い悲鳴を上げた。
だが、誰もその声を聞こうとはしない。
声を聴いて赤に触れれば、輪郭を顕にされてしまうから。
だが、誰もその声を聞こうとはしない。
声を聴いて赤に触れれば、輪郭を顕にされてしまうから。
この黒い大地から、離れることはできない。
故に誰もが異物を疎んだ、均された地を荒らす者を憎んだ。
音もなく雨が降る、黒い泥が塗り潰したこの地に。
故に誰もが異物を疎んだ、均された地を荒らす者を憎んだ。
音もなく雨が降る、黒い泥が塗り潰したこの地に。
羽搏く翼が嗤った。地を離れて尚黒い、空の黒点が。
だが、誰もがそう在りながら、その姿を認めようとはしない。
黒点は地に落とされ、剥がれ落ちた羽根が泥に沈んだ。
だが、誰もがそう在りながら、その姿を認めようとはしない。
黒点は地に落とされ、剥がれ落ちた羽根が泥に沈んだ。
血根の花瓶
その日、旦那様が赤い薔薇を生けた花瓶を購入されました。その商
人曰く、その花瓶の中に咲いている薔薇は決して枯れないというの
です。果たして本当でしょうか。
人曰く、その花瓶の中に咲いている薔薇は決して枯れないというの
です。果たして本当でしょうか。
しかし旦那様は薔薇が綺麗な赤色でないことを気にしており、どう
にかしろと仰います。それから私は甲斐甲斐しく水を、肥料を、日
光を与えましたが、どうしても綺麗な赤色になりません。
にかしろと仰います。それから私は甲斐甲斐しく水を、肥料を、日
光を与えましたが、どうしても綺麗な赤色になりません。
ついに旦那様は激怒し、私のことを無能、役立たずだと罵倒し始め
ました。元はと言えばそんな怪しいもの買った旦那様が悪いのでは
ないでしょうか。私は理不尽な態度に怒りを覚えたのです。
ました。元はと言えばそんな怪しいもの買った旦那様が悪いのでは
ないでしょうか。私は理不尽な態度に怒りを覚えたのです。
気が付いたときには花瓶で旦那様を殴殺していました。私は名案を
思い付き、頭から流れる血を薔薇に与えました。「旦那様、いかが
でしょうか。お望み通り、綺麗な深紅色の薔薇ですよ?」
思い付き、頭から流れる血を薔薇に与えました。「旦那様、いかが
でしょうか。お望み通り、綺麗な深紅色の薔薇ですよ?」
水骸の愛杖
男は美しい女性に見惚れていた。
しかし、水の中で生きる一族である男は声をかけられなかった。
しかし、水の中で生きる一族である男は声をかけられなかった。
男はそれから毎日彼女を見守っていた。
愛する夫を水害で失った彼女は、海に出て花を贈っていた。
愛する夫を水害で失った彼女は、海に出て花を贈っていた。
男はある日から彼女の死を悼んでいた。
後を追って溺れ死んだ彼女は、誰からも花が贈られなかった。
後を追って溺れ死んだ彼女は、誰からも花が贈られなかった。
男は愛する彼女の後を追って自害した。
男の身体は花を象った杖となり、海底に沈んだ彼女へ贈られた。
男の身体は花を象った杖となり、海底に沈んだ彼女へ贈られた。
王妃の玉座
昔ある国に絶世の美女と呼ばれた王妃の甥が恋した淑女に花束を贈
ろうとした老人の幼馴染と自称する町役場の主任の養子と些細なこ
とで喧嘩した詩人が大切にしている竪琴を作った楽器屋の並びに本
店を構える武器屋の主人の姉の叔父と仲良しの王宮料理人がいた。
ろうとした老人の幼馴染と自称する町役場の主任の養子と些細なこ
とで喧嘩した詩人が大切にしている竪琴を作った楽器屋の並びに本
店を構える武器屋の主人の姉の叔父と仲良しの王宮料理人がいた。
料理人は腕によりをかけてヌーゲンツ・ア・ゾルメ産オチヌルス・
ヴィ・ラコンテを添えたブッフォーヌ風クリティア・ドゥ・ラヴァ
ルフォンス伝来のトルタフィン包み蒸しに近いスルソーサを三日三
晩煮込んだ気まぐれチョ・ヴォワール風ゾルゴイ仕立てを作った。
ヴィ・ラコンテを添えたブッフォーヌ風クリティア・ドゥ・ラヴァ
ルフォンス伝来のトルタフィン包み蒸しに近いスルソーサを三日三
晩煮込んだ気まぐれチョ・ヴォワール風ゾルゴイ仕立てを作った。
その料理を口にした王妃はこれは遥か海の彼方に浮かぶ幻の孤島に
ある村の近くを流れる川から船に乗ると見える集落の裏に広がる草
原の端にある城からの眺めが最高だと評判の山脈の麓に茂る森の中
にある太古の木の根を切り刻み泥で煮詰めたような味だと言った。
ある村の近くを流れる川から船に乗ると見える集落の裏に広がる草
原の端にある城からの眺めが最高だと評判の山脈の麓に茂る森の中
にある太古の木の根を切り刻み泥で煮詰めたような味だと言った。
すると料理人は王妃の機嫌を損ねたと悲観し王宮の壁に飾られた斧
槍を掴むと衛兵が止める間もなく自身の喉を貫くがそれを目の当た
りにした王妃は極上の珍味だと褒めたのに勘違いさせてしまったと
落胆するも時すでに遅し覆水盆に返らずと開き直り食事を続けた。
槍を掴むと衛兵が止める間もなく自身の喉を貫くがそれを目の当た
りにした王妃は極上の珍味だと褒めたのに勘違いさせてしまったと
落胆するも時すでに遅し覆水盆に返らずと開き直り食事を続けた。
覇国の宿運
ある国の軍に、大剣使いの男がいた。戦争好きな国王のおかげで、
国は年中争いごとばかり。疲弊する兵士も多い中、大剣使いの男だ
けは国の方針に喜んだ。男は戦争の度に戦果をあげ、軍の中で出世
していった。
国は年中争いごとばかり。疲弊する兵士も多い中、大剣使いの男だ
けは国の方針に喜んだ。男は戦争の度に戦果をあげ、軍の中で出世
していった。
男には唯一、戦い以外の楽しみがあった。それは城郭に登り、国の
街並みを一望すること。男は眺めながら想う。決して有象無象の国
民にはならないと。戦争という政策により、己の生き様を肯定して
くれた国王に、一人の兵士として認められることを決意する。
街並みを一望すること。男は眺めながら想う。決して有象無象の国
民にはならないと。戦争という政策により、己の生き様を肯定して
くれた国王に、一人の兵士として認められることを決意する。
数々の戦果の末に、男は軍の長へと昇りつめていた。ある日、男は
国王の元へと呼ばれる。近年、戦争の規模を拡大し続けた国王。次
はよほど重要な戦争を行うのだろうと、男は胸を躍らせながら玉座
へと向かった。
国王の元へと呼ばれる。近年、戦争の規模を拡大し続けた国王。次
はよほど重要な戦争を行うのだろうと、男は胸を躍らせながら玉座
へと向かった。
男が国王から言い渡されたのは、用済みだという解雇通知。戦争に
人間を使うのはやめ、全て機械兵へと転換するという。その日、男
は城郭から飛び降り、地面のシミとなった。有象無象の国民は気に
も留めずその上を歩き、しばらくしてシミは消えた。
人間を使うのはやめ、全て機械兵へと転換するという。その日、男
は城郭から飛び降り、地面のシミとなった。有象無象の国民は気に
も留めずその上を歩き、しばらくしてシミは消えた。
静謐の銃
こいつはギャング共の間ではちっとばかし有名な代物でな。とある
命懸けのギャンブルに使われていたものらしい。あぁそうだ、いわ
ゆるロシアンルーレットってやつだ。
命懸けのギャンブルに使われていたものらしい。あぁそうだ、いわ
ゆるロシアンルーレットってやつだ。
昔、この辺り一帯の土地は二つの悪党たちによって取り仕切られて
いてな。ある時にシマを巡って抗争になったんだが、長いこと決着
がつかないからって頭がそれぞれ出張ってきたんだ。
いてな。ある時にシマを巡って抗争になったんだが、長いこと決着
がつかないからって頭がそれぞれ出張ってきたんだ。
その時に使われたのがこの銃ってわけよ。一体どちらが勝ったと思
う?なんとまぁ、どちらも死ななかった。弾が出なかったんだよ。
言っておくが、イカサマなんかじゃあねぇぞ。
う?なんとまぁ、どちらも死ななかった。弾が出なかったんだよ。
言っておくが、イカサマなんかじゃあねぇぞ。
二人は同盟を結び、一つの大きな組織となって今の国ができた。こ
の銃が和平の象徴となったんだ。本物の悪党ってやつは弾の場所や
撃つ順番なんて関係なく、死なない運命を引き寄せるんだろうな。
の銃が和平の象徴となったんだ。本物の悪党ってやつは弾の場所や
撃つ順番なんて関係なく、死なない運命を引き寄せるんだろうな。
信義
遥か東の国の都に歌を詠むことで生計を立てている歌人がいた。そ
の歌はどこか退廃的だが、透き通るような美しさを併せ持つ。人々
はその歌を、失った過去を思い出す、心が洗われたなどと評価した。
の歌はどこか退廃的だが、透き通るような美しさを併せ持つ。人々
その歌人が歌に傾倒するようになったきっかけは、幼い頃に聴いた
祖父の歌だった。その歌に聞き惚れて以来、彼の生涯はいつも歌と
共にあり、どんな辛いことも歌を詠めば忘れられた。
祖父の歌だった。その歌に聞き惚れて以来、彼の生涯はいつも歌と
共にあり、どんな辛いことも歌を詠めば忘れられた。
そんな歌人へある日、裕福な屋敷の者から誘いの声がかかる。その
才能を買いたい、主人の為に毎日歌を詠めば、君の生活は一生約束
すると。歌を詠むだけでいいならと、歌人はその誘いを快諾した。
才能を買いたい、主人の為に毎日歌を詠めば、君の生活は一生約束
すると。歌を詠むだけでいいならと、歌人はその誘いを快諾した。
しかし主人へ歌を詠み続けるうち、歌人の心は病んでいった。それ
は生きる力を分け与える歌だった。自分の為ではなく、主人の為に
歌を詠み続けた歌人は、やがて枯れ果てて死んでしまったという。
は生きる力を分け与える歌だった。自分の為ではなく、主人の為に
歌を詠み続けた歌人は、やがて枯れ果てて死んでしまったという。
白の矜持
その白く美しい槍は、曰く付きの業物だった。歴代の所有者を悲劇
的な死へと導いた後に、妹想いの素直な少年の手に収まった。槍を
携えて旅をした少年もまた、悲劇的な運命を辿った。
的な死へと導いた後に、妹想いの素直な少年の手に収まった。槍を
携えて旅をした少年もまた、悲劇的な運命を辿った。
少年の死後、この槍の行方を知る者はいなかった。なぜなら、人類
が滅んでしまったからだ。槍は、気の遠くなるような長い間、自然
にさらされ続けた。
が滅んでしまったからだ。槍は、気の遠くなるような長い間、自然
にさらされ続けた。
人類が建造した街は風化し、廃墟となっていたが、そこには野生生
物が生き続けていた。ある時、群れをはぐれた小鹿が、草むらの中
に鈍く曇った白い槍が横たわっているのを見つけた。
物が生き続けていた。ある時、群れをはぐれた小鹿が、草むらの中
に鈍く曇った白い槍が横たわっているのを見つけた。
小鹿は槍を咥えて、寝床としていた太い木の根元にある洞穴の中へ
運んだ。小鹿はやがて死に、夜が消え、地上からは人間もいなくな
ってしまったが、槍は静かに新たな持ち主を待ち続けていた。
運んだ。小鹿はやがて死に、夜が消え、地上からは人間もいなくな
ってしまったが、槍は静かに新たな持ち主を待ち続けていた。
覇国の天意
戦争好きな王様が治める王国に、第一王子として生まれた少年がい
ました。きらびやかな衣装を身に纏い、少しでも父王の助けになろ
うと懸命に政治の手伝いをしています。
ました。きらびやかな衣装を身に纏い、少しでも父王の助けになろ
うと懸命に政治の手伝いをしています。
王城の下に広がる城下町には、多くの国民が暮らしています。心根
の優しい少年は、戦争の絶えないこの国で、どうしたら国民が幸せ
に暮らせるかいつも想いを巡らせていました。
の優しい少年は、戦争の絶えないこの国で、どうしたら国民が幸せ
に暮らせるかいつも想いを巡らせていました。
通例となった開戦の式典では、父王が何百もの兵士に向け演説しま
す。王の言葉に、雄叫びをあげる兵士たち。少年は、戦争に赴く彼
らが無事に帰還できるようにと、いつも祈っていました。
す。王の言葉に、雄叫びをあげる兵士たち。少年は、戦争に赴く彼
らが無事に帰還できるようにと、いつも祈っていました。
でも、少年は解っていました。不治の持病により、いずれ父王に見
限られることを。圧政に加担する王子として、国民や兵士からも憎
まれていることを。己は抗えぬ糸で踊る、ただの傀儡なのだと。
限られることを。圧政に加担する王子として、国民や兵士からも憎
まれていることを。己は抗えぬ糸で踊る、ただの傀儡なのだと。
ゼロの剣
私には何も無い。母親に売り飛ばされて以来、私の事を知りたがる
人も、言う機会も無かったから不便には感じなかった。ただ、端金
をもらって男の相手をする。その毎日が私の全てだった。
人も、言う機会も無かったから不便には感じなかった。ただ、端金
をもらって男の相手をする。その毎日が私の全てだった。
私は少女に出会った。少女は私を「薄紅」と呼んだ。私の瞳の色が
薄紅色をしているから「薄紅」だと。私も少女のことを、瞳の色で
ある「紫紺」と呼んだ。自分の中に何かが生まれた気がした。
薄紅色をしているから「薄紅」だと。私も少女のことを、瞳の色で
ある「紫紺」と呼んだ。自分の中に何かが生まれた気がした。
紫紺が「金を盗んで逃げよう」と言い出した。私は頷いた。二人で
なら、なんでもできる気がしたから。夜が更けた頃、私達は持てる
だけの金を持って、町の外へと逃げ出した。
なら、なんでもできる気がしたから。夜が更けた頃、私達は持てる
だけの金を持って、町の外へと逃げ出した。
その失望は私に……どこか冷たく、甘い味を感じさせた。
鉄塊
その武器は無用の長物とされた。人が振るえぬほどの重さだと。人
を殺すには不必要なほどの大きさだと。何故このような武器が作ら
れたのか、知る者はその国にはいなかった。
を殺すには不必要なほどの大きさだと。何故このような武器が作ら
れたのか、知る者はその国にはいなかった。
その武器は溶かされた。そしていくつかの、鎧と片手剣に姿を変え
た。鎧は魚の鱗ほどの薄さだったが、貫かれることはなく、剣は猫
の尾ほどの細さだったが、折れることはなかったという。
た。鎧は魚の鱗ほどの薄さだったが、貫かれることはなく、剣は猫
の尾ほどの細さだったが、折れることはなかったという。
その武器は屍の山を築いた。鎧と片手剣を装備した兵士たちは、戦
場を蹂躙し、敵を殺し尽くす。その鎧で命が守られる度、その片手
剣で命を奪う度、兵士たちは得も言われぬ興奮を覚えた。
場を蹂躙し、敵を殺し尽くす。その鎧で命が守られる度、その片手
剣で命を奪う度、兵士たちは得も言われぬ興奮を覚えた。
その武器で勝利を収めた兵士たちは気付く。鎧が脱げないことに。
剣が手を離れぬことに。そしてそれらは互いに引き合い、兵士を巻
き込み、やがて一つの鉄の塊となった。元より大きな鉄塊に。
剣が手を離れぬことに。そしてそれらは互いに引き合い、兵士を巻
き込み、やがて一つの鉄の塊となった。元より大きな鉄塊に。
黒イ花
その酒場には決して笑わない女がいました。面白がった男達は女を
口説いて笑わせようと声をかけます。一人目の男は奔放な遊び人。
軽い言葉で女を口説き落とし、一夜を共にしました。しかし、女は
笑顔を見せません。女の目はどこか虚ろな色をしていました。
口説いて笑わせようと声をかけます。一人目の男は奔放な遊び人。
軽い言葉で女を口説き落とし、一夜を共にしました。しかし、女は
笑顔を見せません。女の目はどこか虚ろな色をしていました。
酒場では誰がその女を笑わせるかと賭けが始まりました。二人目は
筋骨隆々とした軍人。その屈強な肉体で女を口説き落とし、女を抱
き寄せます。しかし、女は笑みをこぼしません。何度、肌を重ねて
も、女は心を落としたかのような、力のない表情をしていました。
筋骨隆々とした軍人。その屈強な肉体で女を口説き落とし、女を抱
き寄せます。しかし、女は笑みをこぼしません。何度、肌を重ねて
も、女は心を落としたかのような、力のない表情をしていました。
酒場の男達はある男を呼び寄せました。三人目は幾人もの女を喜ば
せたという性豪。歯の浮くような甘い囁きで女を口説き落とし、濃
密な時を過ごします。しかし、女の口元が緩むことはありません。
男のどんな秘戯も、女の心を満たすことはできませんでした。
せたという性豪。歯の浮くような甘い囁きで女を口説き落とし、濃
密な時を過ごします。しかし、女の口元が緩むことはありません。
男のどんな秘戯も、女の心を満たすことはできませんでした。
男達が失敗を続けていたある日、流浪の旅人が女を抱きながら『各
地を統治する歌を歌う姉妹』の話をしました。そして、ふと気づき
ます。女の表情が歪んでいるのです。それは恐ろしい笑顔でした。
翌日、女は姿を消し、絞め殺された旅人だけが残されていました。
地を統治する歌を歌う姉妹』の話をしました。そして、ふと気づき
ます。女の表情が歪んでいるのです。それは恐ろしい笑顔でした。
翌日、女は姿を消し、絞め殺された旅人だけが残されていました。
ワンの戦輪
アタシは誇り高き竜種。
人間の小娘ごときがアゴで使っていい存在じゃないって言ってんの
よ。わかってるう? このブス!
人間の小娘ごときがアゴで使っていい存在じゃないって言ってんの
よ。わかってるう? このブス!
まったく、アンタったらクソ真面目で面白みがないわねぇ……
間に受けて傷ついてるんじゃないわよ。
そんなヤワな精神で、この都市を治められるの?
間に受けて傷ついてるんじゃないわよ。
そんなヤワな精神で、この都市を治められるの?
ま、女同士なんだから、遠慮しないで頼りなさい。
は? 最初に言ってたことと違うって? ほっときなさい、竜種は
気まぐれなのよ!
は? 最初に言ってたことと違うって? ほっときなさい、竜種は
気まぐれなのよ!
このアタシが……誰かのために自分を犠牲にするなんて、ねえ。
石頭で、気をつかってばかりのアンタだから……
アタシがやるしかなかったんじゃないのよ、もう。
石頭で、気をつかってばかりのアンタだから……
アタシがやるしかなかったんじゃないのよ、もう。
トウの剣
トウ様は本当に優しいお方です。
砂の国を治め、民を愛するトウ様を、子供達も愛していました。
まぁ、一番トウ様を愛しているのは間違いなく私ですけどねぇえ?
砂の国を治め、民を愛するトウ様を、子供達も愛していました。
まぁ、一番トウ様を愛しているのは間違いなく私ですけどねぇえ?
トウ様は本当に力強いお方です。
なんせ武器も持たずにモンスターを倒してしまうのですから。
いやだなぁ、私など比べ物になるはずないじゃないですかぁぁあ?
なんせ武器も持たずにモンスターを倒してしまうのですから。
いやだなぁ、私など比べ物になるはずないじゃないですかぁぁあ?
トウ様は本当に誠実なお方です。
ご自身のお姉様とその理想、そして国民達の為に努力するお姿!
余りにもまっすぐで……私、心配でどうにかなりそうでしたよう!
ご自身のお姉様とその理想、そして国民達の為に努力するお姿!
余りにもまっすぐで……私、心配でどうにかなりそうでしたよう!
トウ様は本当に……そう、本当に優し過ぎた。
だからあの日、私はトウ様に子供達を斬らせてはならなかった。
その為に私が居た筈なのに。トウ様、たとえ何があろうと私は……
だからあの日、私はトウ様に子供達を斬らせてはならなかった。
その為に私が居た筈なのに。トウ様、たとえ何があろうと私は……
Si'F-06proto
私は槍を構える。瞳を紅く染めて。
私は槍を構える。声が願う場所を探し。
私は槍を構える。胸の奥に痛みを感じながら。
私は槍を構える。私の、進むべき道を見つけたから。
Si'F-06alter
廃墟となった都市に残る争いの爪痕。
アスファルトの裂け目から、草木が顔を出している。
黒い外套を纏った少女が、それを静かに見詰めていた。
アスファルトの裂け目から、草木が顔を出している。
黒い外套を纏った少女が、それを静かに見詰めていた。
都市の傷を覆い隠す様に、生い茂る緑。
少女は乗っていたバイクを降り、その植物へ近付いていく。
草葉の陰に見付けた、錆び付いた何か。それが気になったからだ。
少女は乗っていたバイクを降り、その植物へ近付いていく。
草葉の陰に見付けた、錆び付いた何か。それが気になったからだ。
酷く損傷した銃器だった。弾倉の構造からして、狙撃銃だろう。
折れてしまった銃身を眺めていると、少女はある事に気付く。
少女の扱う槍の原型と、その武器の造りが似て見えたのだ。
折れてしまった銃身を眺めていると、少女はある事に気付く。
少女の扱う槍の原型と、その武器の造りが似て見えたのだ。
ここまで朽ちていては、それが気の所為でないとは言い切れない。
少女はそう考えながらも、その銃を捨てる事ができず、
荷台の鞄にそれを積み込んで、再びバイクへと跨った。
少女はそう考えながらも、その銃を捨てる事ができず、
荷台の鞄にそれを積み込んで、再びバイクへと跨った。
黒キ短刀
とある村で暮らす少年。決して裕福ではなかったが、優しい家族に
囲まれた幸せな毎日を送っていた。その日、何者かによって一族が
皆殺しにされてしまうまでは。
囲まれた幸せな毎日を送っていた。その日、何者かによって一族が
皆殺しにされてしまうまでは。
悲しみに暮れる彼の元に、暗殺を生業とする青年が現れた。いつか
仇を返してやると青年に弟子入りを果たし、それから十年後。彼は
一人前の暗殺者となり、その証として短剣を譲り受けた。
仇を返してやると青年に弟子入りを果たし、それから十年後。彼は
一人前の暗殺者となり、その証として短剣を譲り受けた。
彼はその短剣を握りしめ、仇を探し求める旅へと出る。数年後、つ
いにその居場所を突き止めた。音もなく、気配を感じられることも
なく背後から一撃で仕留めた。
いにその居場所を突き止めた。音もなく、気配を感じられることも
なく背後から一撃で仕留めた。
「さすが俺の弟子だ」と呟いて倒れる仇。徐々に冷たくなっていく
青年の身体を抱えて彼は慟哭する。その傍らには、闇夜に紛れた漆
黒の鳥が静かに佇んでいた。
青年の身体を抱えて彼は慟哭する。その傍らには、闇夜に紛れた漆
黒の鳥が静かに佇んでいた。
心傷の罪銃
大国同士の戦争に兵士として徴兵し続けた一人の男。そんな経験か
ら、男はトラウマに悩まされていた。いつ襲われるのか分からない
恐怖に怯える、そんな苦しい毎日を送っていた。
ら、男はトラウマに悩まされていた。いつ襲われるのか分からない
恐怖に怯える、そんな苦しい毎日を送っていた。
だが、一人の美しい女性との出会いをきっかけに彼はトラウマを克
服しようと決心する。彼女と何不自由なく一緒に過ごし、幸せな家
庭を築きたいと、トラウマを隠しながら少しずつ克服していった。
服しようと決心する。彼女と何不自由なく一緒に過ごし、幸せな家
庭を築きたいと、トラウマを隠しながら少しずつ克服していった。
それから数年後も交際は順調に進み、その夜は彼女と出会った運命
の日。彼はプロポーズを決心した。彼女の前で胸ポケットから指輪
を取り出そうとしたその時、彼の身体を銃弾が貫いた。
の日。彼はプロポーズを決心した。彼女の前で胸ポケットから指輪
を取り出そうとしたその時、彼の身体を銃弾が貫いた。
目の前には銃を構え、泣き崩れる彼女の姿。「そんなつもりは……
ごめんなさい……」彼のその様が銃を取り出す動きに見えてしまっ
たのだろう。戦争によるトラウマを彼女もまた抱えていたのだ。
ごめんなさい……」彼のその様が銃を取り出す動きに見えてしまっ
たのだろう。戦争によるトラウマを彼女もまた抱えていたのだ。
三式戦術槍
武器開発記録:その1
近頃、機械生命体たちの侵攻が拡大している。それに対抗すべく、
武器の開発担当にこの私が選ばれた。奴らを痛めつける強力な武器
を作ってやろう。
近頃、機械生命体たちの侵攻が拡大している。それに対抗すべく、
武器の開発担当にこの私が選ばれた。奴らを痛めつける強力な武器
を作ってやろう。
武器開発記録:その4
一刀両断できる剣か? それとも叩き潰す槌か? いやそれとも…
…だめだ、どんな武器が最良なのか分からない。どうすれば奴らに
とって恐ろしい武器を作れるんだ……
一刀両断できる剣か? それとも叩き潰す槌か? いやそれとも…
…だめだ、どんな武器が最良なのか分からない。どうすれば奴らに
とって恐ろしい武器を作れるんだ……
武器開発記録:その8
かれこれ数か月、武器開発は停滞している。そんな私をみかねた友
人が声をかけてくれた。なんともありがたいことだ。おかげで良い
アイデアを思いついた。そうだ、これならうまくいく。
かれこれ数か月、武器開発は停滞している。そんな私をみかねた友
人が声をかけてくれた。なんともありがたいことだ。おかげで良い
アイデアを思いついた。そうだ、これならうまくいく。
武器開発記録:その18
ついに完成した。私たちアンドロイドも同じ機械、これなら機械生
命体たちも恐れるに違いない。これで奴らを殲滅し、実験台となっ
てくれた仲間へ少しでも手向けを送るとしよう。
ついに完成した。私たちアンドロイドも同じ機械、これなら機械生
命体たちも恐れるに違いない。これで奴らを殲滅し、実験台となっ
てくれた仲間へ少しでも手向けを送るとしよう。
近代軍記ノ肆
12月。この地には滅多に雪が降らないが、内陸特有の底冷えする
寒さが駐屯地を襲っていた。隊員らは身を寄せ合って酒を飲み、寒
さをやり過ごす。この時期、隊員らの話題も華やぎ、遠い地にいる
家族や恋人の話が増える。青年の周りも、例外ではない。
寒さが駐屯地を襲っていた。隊員らは身を寄せ合って酒を飲み、寒
さをやり過ごす。この時期、隊員らの話題も華やぎ、遠い地にいる
家族や恋人の話が増える。青年の周りも、例外ではない。
青年には恋人はいなかった。しかし、隊員らの話を聞くともなく聞
いていると、ふと昔の恋人のことを思い出していた。戦地に派遣さ
れることが決まる少し前に、別れを告げた相手だ。長い間離れ離れ
になり、生きて帰ってこれる保証もないと思っての決断だった。
いていると、ふと昔の恋人のことを思い出していた。戦地に派遣さ
れることが決まる少し前に、別れを告げた相手だ。長い間離れ離れ
になり、生きて帰ってこれる保証もないと思っての決断だった。
彼女は今も、雪深い祖国で、きらきらと降り積もる真っ白な雪を見
ているだろうか? 死と隣り合わせの自分には、彼女を愛する権利
はないと信じていた。なのに隊員らは、祖国へ残してきた恋人のこ
とを嬉しそうに話した。それが、彼らの戦うべき理由なのだった。
ているだろうか? 死と隣り合わせの自分には、彼女を愛する権利
はないと信じていた。なのに隊員らは、祖国へ残してきた恋人のこ
とを嬉しそうに話した。それが、彼らの戦うべき理由なのだった。
次の朝は雪が降った。地面に触れてすぐ溶ける雪のせいで、道はぬ
かるみ、酷い悪路となったが、隊員らは普段と変わらぬ態度で戦地
へ出ていった。青年は決めた。次に祖国に帰ることがあったら、あ
の娘にもう一度会いに行ってみようと。
かるみ、酷い悪路となったが、隊員らは普段と変わらぬ態度で戦地
へ出ていった。青年は決めた。次に祖国に帰ることがあったら、あ
の娘にもう一度会いに行ってみようと。
黒鳥ノ大剣
「俺のせいであいつは死んだ。俺は騎士失格だ」
俺にできることはもう何もない。そんなことを考えたとき、遠くか
ら黒い鳥を連れた少女が近づいてきた。
俺にできることはもう何もない。そんなことを考えたとき、遠くか
ら黒い鳥を連れた少女が近づいてきた。
「助けてください! 悪い男たちに追われているの!」
この少女を助けることが俺の贖罪になるだろうか。俺はやつが遺し
た大剣を手に取り、この少女の手を取って走り出した。
この少女を助けることが俺の贖罪になるだろうか。俺はやつが遺し
た大剣を手に取り、この少女の手を取って走り出した。
「その女を渡せ、それとも貴様がその女の代わりに死ぬか?」
俺の命で救える命があるというのなら、迷いなんてない。思ったよ
りも早く、あいつと天国で再会できそうだな。
俺の命で救える命があるというのなら、迷いなんてない。思ったよ
りも早く、あいつと天国で再会できそうだな。
「ご苦労様、うまくいったわね。はい、これ約束のお金よ」
私のパパを殺した貴方が悪いのよ。この剣はパパが遺した唯一の形
見なの、貴方が持っておくべきではないわ。さようなら。
私のパパを殺した貴方が悪いのよ。この剣はパパが遺した唯一の形
見なの、貴方が持っておくべきではないわ。さようなら。
巫蠱の杖
わたしは占い師。館にはさまざまな事情を抱えた人がやってくる。
ある時は借金に追われるもの、ある時は夫の死を受け入れられない
女性。わたしは彼らの話を聞いて、希望に満ちた話をする。人に救
いを与えているのだ。
ある時は借金に追われるもの、ある時は夫の死を受け入れられない
女性。わたしは彼らの話を聞いて、希望に満ちた話をする。人に救
いを与えているのだ。
今日の来訪者は軍人。薄暗い顔をした彼はこれから戦地へ遠征に向
かうそうだ。しばらく逡巡した後、彼はわたしに懇願した。愛する
妻と幼児の待つ家へ生きて帰りたい、家族の元に無事に帰れるのか
占ってほしいと。
かうそうだ。しばらく逡巡した後、彼はわたしに懇願した。愛する
妻と幼児の待つ家へ生きて帰りたい、家族の元に無事に帰れるのか
占ってほしいと。
わたしは吉凶を杖に問う。杖は光り、とある石を指し示す。わたし
はそれをみて、予言できているかのように石の意味する話をする。
誰にでも該当するような曖昧な話だ。わたしは彼に御加護があると
お守りを渡す。
はそれをみて、予言できているかのように石の意味する話をする。
誰にでも該当するような曖昧な話だ。わたしは彼に御加護があると
お守りを渡す。
立ち去る彼に曖昧な笑みを送る。わたしは死に向かう戦士に希望を
持たせて送り出さなければならない。それが国から与えられた仕事。
今日もまた戦死者を生み出してしまった。所詮わたしも占い師の皮
を被った犯罪者なのだ。
今日もまた戦死者を生み出してしまった。所詮わたしも占い師の皮
を被った犯罪者なのだ。
Si'F-06append
考えてみると、この武器も随分長く使っている。
始めに受け継いだ記憶のお姉さまが持っていた槍。
手入れはしているけれど、流石に傷が増えてきている。
始めに受け継いだ記憶のお姉さまが持っていた槍。
手入れはしているけれど、流石に傷が増えてきている。
この槍はオリジナルのお姉さまの剣より、簡素な造りをしている。
兵器である私達の運用に際し、いくつか武器の開発がされた。
その中でもこれは、初期に造られた物なのだという。
兵器である私達の運用に際し、いくつか武器の開発がされた。
その中でもこれは、初期に造られた物なのだという。
いくつかの記憶から推測した事だから、正確ではないけれど……
この槍を修繕するにあたって、もう少し性能を強化したい。
私が戦う様な相手への使用を、この槍は想定されていないから。
この槍を修繕するにあたって、もう少し性能を強化したい。
私が戦う様な相手への使用を、この槍は想定されていないから。
──できた。これなら、今よりも効率的に戦える。
初めての割には、上手く形になったと思う。
物を作ったり直したりするのも、なんだか楽しいかもしれない。
初めての割には、上手く形になったと思う。
物を作ったり直したりするのも、なんだか楽しいかもしれない。
Si'F-06
「イライザ」
私をそう呼ぶのは、一人しか居ない。
彼女は私達のオリジナル。要事の際には護衛すべき対象。
私をそう呼ぶのは、一人しか居ない。
彼女は私達のオリジナル。要事の際には護衛すべき対象。
「何か私にお願いとかない?」
私達は兵器、願いなど抱く事はない。
なのに彼女は、何故か私達を必要以上に気にかけた。
私達は兵器、願いなど抱く事はない。
なのに彼女は、何故か私達を必要以上に気にかけた。
「辛かったら、私を頼ってね」
彼女の主張は、正当な物ではない。
使い捨てである私達は、彼女が生きる限り滅ぶ事は無いのだから。
彼女の主張は、正当な物ではない。
使い捨てである私達は、彼女が生きる限り滅ぶ事は無いのだから。
オリジナルの行動は、私達には理解できない。
けれど、彼女の咆哮が施設を震わせた、その日。
どうしてあれ程までに私達を気にかけたのか、分かった気がした。
けれど、彼女の咆哮が施設を震わせた、その日。
どうしてあれ程までに私達を気にかけたのか、分かった気がした。
機械生命体の斧
人間は極めて利己的な生き物、異なる者たちと対立するものだ。
そうして己の力を誇示し、勝者が敗者を支配する。
そうして己の力を誇示し、勝者が敗者を支配する。
人間は種の存続を尊ぶ生き物、異性に惹かれ繁殖をするものだ。
そうして個を増やし続け、犠牲となる者を増やし続ける。
そうして個を増やし続け、犠牲となる者を増やし続ける。
人間は孤独に耐えられぬ生き物、他者との繋がりを求めるものだ。
そうして集まった者達は、烏合の衆となり意味を成さない。
そうして集まった者達は、烏合の衆となり意味を成さない。
人間は愚かで救えない生き物、人間を生かす必要はあるだろうか。
……ない。そんな人間は殺してころしてコロしてコロシてコロシテ
……ない。そんな人間は殺してころしてコロしてコロシてコロシテ
赫灼ノ鍔拳
まっくらやみに、こんぺいとうがキラキラひかって、おいしそう!
あーあ、おなかペコペコだよぉ。
あーあ、おなかペコペコだよぉ。
あれは、プカプカわっかのドーナツ!
あっちは、フワフワのわたあめ! あーもう、がまんできないよ!
あっちは、フワフワのわたあめ! あーもう、がまんできないよ!
こんぺいとうも、ドーナツも、わたあめも、とってもおいしい!
つぎは、あのあおいキャンディもたべたいなー。
つぎは、あのあおいキャンディもたべたいなー。
宇宙開拓局が先月観測した時空の歪みが、ブラックホールであると
断定された。現在これは多くの星々を呑み込み、急速に拡大を続け
ている。我々の星に接近するのもそう遠くないだろう。早急にこの
星を脱出する計画を立てなくてはいけない。
断定された。現在これは多くの星々を呑み込み、急速に拡大を続け
ている。我々の星に接近するのもそう遠くないだろう。早急にこの
星を脱出する計画を立てなくてはいけない。
慈雨の揮棒
兵士である彼に支給されたのは、一本の杖だった。それには、光に
よって傷を癒す機能があった。彼は戦場で傷ついた仲間たちを、癒
していく。噛みしめた唇から血を流しながら。
よって傷を癒す機能があった。彼は戦場で傷ついた仲間たちを、癒
していく。噛みしめた唇から血を流しながら。
彼が命じられたのは、後方支援だった。それに対して前線で剣を振
るいたいと抗議したが、聞き入れられることはなかった。彼は逸る
気持ちを抑えながら、杖を振る。握る掌に血を滲ませながら。
るいたいと抗議したが、聞き入れられることはなかった。彼は逸る
気持ちを抑えながら、杖を振る。握る掌に血を滲ませながら。
彼が望んだのは、復讐だった。己と母を棄てた男を、戦場で背後か
ら襲おうと考えていた。しかし、支給されたのは癒しの杖。彼は祈
る。己が殺すよりも早く、男が戦場で血を流さぬように。
ら襲おうと考えていた。しかし、支給されたのは癒しの杖。彼は祈
る。己が殺すよりも早く、男が戦場で血を流さぬように。
彼の目前に、負傷した男が運ばれてきた。彼は杖を高く掲げ、その
光によって男の傷を癒す。そしてそのまま、男の頭めがけて振り下
ろした。癒しては振り下ろし、癒して振り下ろ癒し振り下癒し振下
光によって男の傷を癒す。そしてそのまま、男の頭めがけて振り下
ろした。癒しては振り下ろし、癒して振り下ろ癒し振り下癒し振下
不死鳥の短剣
仲間の商人に裏切られ、砂漠に一人放り出された男がいた。水も食
料もなく、どの方角に進めばいいのかも分からない。男は死を覚悟
して、愛する妻を想い涙を流した。そのとき、一羽の青く光る小鳥
が現れ、「ついて来てください」と囀った。
料もなく、どの方角に進めばいいのかも分からない。男は死を覚悟
して、愛する妻を想い涙を流した。そのとき、一羽の青く光る小鳥
が現れ、「ついて来てください」と囀った。
男は自分の目と耳を疑ったが、このまま死を待つよりはマシかと思
い、青い光を追いかけることにした。すると、程なくして水場に辿
り着く。驚き感謝する男に小鳥は、「お家までご案内しましょう」
と再び囀り、羽を広げた。
い、青い光を追いかけることにした。すると、程なくして水場に辿
り着く。驚き感謝する男に小鳥は、「お家までご案内しましょう」
と再び囀り、羽を広げた。
青い光に付いていけば、砂漠を抜けることは容易かった。そうして
男が、妻の待つ町に辿り着いたとき、小鳥がどこからか短剣を持っ
てくる。「これを持っていきなさい」と。すっかり小鳥を信用して
いた男は、言われた通りに短剣を携え帰宅した。
男が、妻の待つ町に辿り着いたとき、小鳥がどこからか短剣を持っ
てくる。「これを持っていきなさい」と。すっかり小鳥を信用して
いた男は、言われた通りに短剣を携え帰宅した。
男が帰ると、妻は飲み物を差し出した。それを飲んだ途端、身体が
痺れて床に崩れる。妻は男が持っていた短剣を手に取ると、躊躇わ
ず男の胸に突き立てた。「貴方の言う通りね。こんなものを隠し持っ
ているなんて」そう呟く妻の肩には、赤く光る小鳥がとまっていた。
痺れて床に崩れる。妻は男が持っていた短剣を手に取ると、躊躇わ
壊機の大剣
その剣を持つ者は恐れを知らないという。
ひと度剣を握ると、身体の奥底から熱が溢れ、
勇猛果敢な獅子になり、強き心を得られる。
ひと度剣を握ると、身体の奥底から熱が溢れ、
勇猛果敢な獅子になり、強き心を得られる。
その剣を持つ者は敗北を知らないという。
何百、何千、何万もの兵士と対峙しても膝をつかず、
その身を害するものを全て打ち負かした。
何百、何千、何万もの兵士と対峙しても膝をつかず、
その身を害するものを全て打ち負かした。
その剣を持つ者は老いを知らないという。
剣は帯刀者に流れる時間を奪い、
永遠の闘争へと身を投じてしまう。
剣は帯刀者に流れる時間を奪い、
永遠の闘争へと身を投じてしまう。
獅子になり、敗北を知らず、不老にもなれる……
噂が噂を呼び、様々な伝承が語り継がれている剣。
その剣を持つ者を誰も知らないという。
噂が噂を呼び、様々な伝承が語り継がれている剣。
その剣を持つ者を誰も知らないという。
三翼の杖
父さんは、教え説いていた。生に執着してはいけないと。
父さんは、広め伝えていた。死は恐れるものではないと。
父さんは、言い諭していた。死後の世界に必ず救いがあると。
父さんは、死に喘いでいた。僕を残して逝きたくないと。
黒キ裁杖
戦争によって住む場所や頼れる者を失った孤児たち。彼らは一人の
優しい司教に拾われ、町はずれの小さな教会で生活を送っていた。
しかし教会も貧しく、人々からの寄付金だけが頼りだった。
優しい司教に拾われ、町はずれの小さな教会で生活を送っていた。
しかし教会も貧しく、人々からの寄付金だけが頼りだった。
しかし、日に日に寄付金は減り、遂に満足に食べていくことができ
なくなった。司教はやむを得ず、悪事に手を染める。だが、子供た
ちにその現場を見られてしまった。
なくなった。司教はやむを得ず、悪事に手を染める。だが、子供た
ちにその現場を見られてしまった。
これが許されないことだとしても、君たちと共に生活するためだ。
私がこうしなければ君たちは生きていけないんだ、わかるだろう。
司教は子供たちにそう話した。
私がこうしなければ君たちは生きていけないんだ、わかるだろう。
司教は子供たちにそう話した。
「たよれるおとながいません、どうかたすけてください」
孤児院には多額の寄付金が寄せられた。司教の眠る地面の上で、今
日も子供たちは元気に走り回り、黒い鳥は優雅に空を飛ぶ。
孤児院には多額の寄付金が寄せられた。司教の眠る地面の上で、今
日も子供たちは元気に走り回り、黒い鳥は優雅に空を飛ぶ。
黒鳥ノ長槍
人里離れた僻地に暮らす竜人の一族。人間たちは特別に強い力を持
っていた彼らを頼り、各地に出没する恐ろしい化け物たちの退治を
依頼していた。
っていた彼らを頼り、各地に出没する恐ろしい化け物たちの退治を
依頼していた。
化け物を退治するのは竜人の一族の長。一族に代々受け継がれる槍
を振るうことは誇りでもあり、誉れでもあった。今の長も、この槍
をもって幾千の戦場を駆け抜けた。
を振るうことは誇りでもあり、誉れでもあった。今の長も、この槍
をもって幾千の戦場を駆け抜けた。
ある日は毒を吐く化け物を、ある日は雷を降らす化け物を、そして
ある日は黒い鳥が群れる化け物を相手にしてきた。すべてはこの力
を頼ってくれる人間たちのために。
ある日は黒い鳥が群れる化け物を相手にしてきた。すべてはこの力
を頼ってくれる人間たちのために。
かつて人間は竜人の一族を僻地に追いやった。彼らの死骸が化け物
に変化することを知っていたからだ。一族の長は、よもや同士討ち
させられているとも知らず、今日も誇りと誉れのために槍を振るう。
に変化することを知っていたからだ。一族の長は、よもや同士討ち
三翼の剣
俺はバイクの修理屋だった。「どんなものでも直してやる」という
のが謳い文句だ。しかし、その日の依頼には驚いた。ある女の客が
跨った愛機から降りると「こいつを直してくれと」と何かを俺に差
し出した。それは身体の一部だった。
のが謳い文句だ。しかし、その日の依頼には驚いた。ある女の客が
跨った愛機から降りると「こいつを直してくれと」と何かを俺に差
し出した。それは身体の一部だった。
何でも直すとは言ったが、それはバイクの話であって……俺は理由
をつけて断ろうとしたが、結局は根負けして、渡された「機械でで
きた左腕」を見てやることになった。しかし、それは見れば見るほ
ど興味深い技術だった。
をつけて断ろうとしたが、結局は根負けして、渡された「機械でで
きた左腕」を見てやることになった。しかし、それは見れば見るほ
ど興味深い技術だった。
あり合わせの道具で調整することになったが、腕の不調は解消した
ようだった。指先の感覚を確かめながら、女が礼を言いかけた瞬間、
俺の眼前に爆炎が広がった。煙の向こうに見えたのは、剣を取り、
襲撃者を次々と輪切りにしていく彼女の姿だった。
俺の眼前に爆炎が広がった。煙の向こうに見えたのは、剣を取り、
襲撃者を次々と輪切りにしていく彼女の姿だった。
俺はその女に助けられ、一命を取り留めた。しかし、爆炎に巻き込
まれて利き腕を失ってしまった。女は詫びの代わりにと、身体の機
械化を生業にしている男を紹介してくれた。俺はその後、失った身
体を機械化し、そいつの元で修理屋を営んでいる。
まれて利き腕を失ってしまった。女は詫びの代わりにと、身体の機
械化を生業にしている男を紹介してくれた。俺はその後、失った身
体を機械化し、そいつの元で修理屋を営んでいる。
悪魔の穢牙
私がまだ子供の頃の話です。とても大きな力と黒い翼を持った、世
にも恐ろしい悪魔がいました。悪魔は私たちの村に降り立つと、悪
事を働いては人々に恐怖を振り撒きました。
にも恐ろしい悪魔がいました。悪魔は私たちの村に降り立つと、悪
事を働いては人々に恐怖を振り撒きました。
私たちは生まれ育った村から離れることを余儀なくされました。し
かし同時に、自分たちの故郷を取り返そうと、悪魔を打ち払おうと
する者たちが現れたのです。
かし同時に、自分たちの故郷を取り返そうと、悪魔を打ち払おうと
する者たちが現れたのです。
やがて悪魔は勇敢な人々によって捕らえられ処刑されました。悪魔
の脅威に怯えることがなくなり安堵した私たちは、また村へ戻るこ
とにしたのです。
の脅威に怯えることがなくなり安堵した私たちは、また村へ戻るこ
とにしたのです。
数日後、村は天災に見舞われ多くの人が亡くなりました。人々は悪
魔の怨念だと騒ぎ立てましたが、私には悪魔が、あの地から私たち
を遠ざけてくれていたのではないかと、そう思えて仕方ないのです。
魔の怨念だと騒ぎ立てましたが、私には悪魔が、あの地から私たち
懲悪の投槍
10年前
彼が住む街は治安が悪く、両親は小銭と引き換えに殺された。彼の
目的は犯人を探し出し自分の手で殺すこと。漁師だった彼は仕事道
具である槍を片手に、その機会を狙っていた。
彼が住む街は治安が悪く、両親は小銭と引き換えに殺された。彼の
目的は犯人を探し出し自分の手で殺すこと。漁師だった彼は仕事道
具である槍を片手に、その機会を狙っていた。
5日前
街は変わらず荒れ果てている。毎日人が殺され、近所の家族も誰か
の手によって亡くなってしまった。「なんでこんなに人が死ななく
てはならないのか」彼は悲しそうに呟くしかなかった。
街は変わらず荒れ果てている。毎日人が殺され、近所の家族も誰か
の手によって亡くなってしまった。「なんでこんなに人が死ななく
てはならないのか」彼は悲しそうに呟くしかなかった。
昨日
その日、街で両親を殺した犯人を見つけた。彼はいつもと同じ様に、
手に持つ槍を犯人の心臓に突き刺した。10年前に殺された両親の
復讐を達成した瞬間だった。
手に持つ槍を犯人の心臓に突き刺した。10年前に殺された両親の
復讐を達成した瞬間だった。
現在
昨日殺した男が本当に犯人だったのか?彼の両親を殺した犯人は別
人の誰かではないのか? 「獲物を探さなくては」ニヤつきながら
そう言うと、槍を片手に新しい犯人を探しに行くのだった。
昨日殺した男が本当に犯人だったのか?彼の両親を殺した犯人は別
人の誰かではないのか? 「獲物を探さなくては」ニヤつきながら
そう言うと、槍を片手に新しい犯人を探しに行くのだった。
墨染の向日葵
花をより輝かしく咲かせるための葉。
人知れず生きる者、それが女の生まれた血筋だった。
人知れず生きる者、それが女の生まれた血筋だった。
平穏とも、普通とも程遠い生き方。
装いを真似ても、その溝が埋まることはない。
装いを真似ても、その溝が埋まることはない。
女には眩し過ぎた。海辺の太陽も、笑顔の人々も。
光に背を向けて、彼女は日傘を差す。
光に背を向けて、彼女は日傘を差す。
日に向けて開くその日傘を、向日葵のようだと誰かが言った。
それを美しいと、語る者が居た。
それを美しいと、語る者が居た。
艶々の柔玉
私は今、単身調査中の洞穴の最奥で、ある物体を発見した。
それは艶々とした、不思議な「玉」だった。
材質が何なのかもよくわからないが、とにかく丸い「玉」だ。
それは艶々とした、不思議な「玉」だった。
材質が何なのかもよくわからないが、とにかく丸い「玉」だ。
この玉には弾力性があり、手で叩くとぼよんぼよんと跳ねまわる。
なんと愉快なことだろうか。
私は一心不乱に、その玉を壁に打ちつけて遊んでしまった。
なんと愉快なことだろうか。
私は一心不乱に、その玉を壁に打ちつけて遊んでしまった。
ひとしきり遊んだあと、私はその玉を隅々まで調べてみた。
玉の中には、空気がパンパンに詰まっているようだ。
私は興味本位で、玉の空気を抜いてみることにした。
玉の中には、空気がパンパンに詰まっているようだ。
私は興味本位で、玉の空気を抜いてみることにした。
玉から放たれたのは、まるで高貴な貴婦人のような、芳しい香り。
明かりを灯す燃料も、帰路の食料も尽きた私は、
この香りに包まれながら、深い暗闇の中で眠ることにする……
明かりを灯す燃料も、帰路の食料も尽きた私は、
この香りに包まれながら、深い暗闇の中で眠ることにする……
煌めきの内海
昼の陽の下では、日光を反射して美しく煌めく。
夜の闇の中では、黒々と染まり恐ろしくもある。
ある移り気な学者はそんな海に親近感を抱いた。
夜の闇の中では、黒々と染まり恐ろしくもある。
ある移り気な学者はそんな海に親近感を抱いた。
生命の起源と言われ、未だ多くの謎を持つ大海。
学者は考えた。海の一部を切り取れたのならば、
海が持つ魅力の正体に、近付くことができると。
学者は考えた。海の一部を切り取れたのならば、
海が持つ魅力の正体に、近付くことができると。
しかし当然、海の水をただ器に入れただけでは、
海を切り取ったとは言えず塩辛い水でしかない。
海を海たらしめる物とは何か、学者は頭を捻る。
海を切り取ったとは言えず塩辛い水でしかない。
海を海たらしめる物とは何か、学者は頭を捻る。
昼夜での違い、多様な命の起源、未だ数多い謎。その魅力は二面性
には留まらず、まるで球状だ。そこで学者は思い出す、海もおよそ
惑星を覆う球状である事を。そうして学者は惑星の研究を始めた。
には留まらず、まるで球状だ。そこで学者は思い出す、海もおよそ
惑星を覆う球状である事を。そうして学者は惑星の研究を始めた。
運命と宿命
貴族が平民から搾取する国に、一人の女の子が暮らしていました。
平民の反発が強まり、報復を恐れた貴族は、新たに最下層身分を制
定しました。その身分に落とされた女の子とその両親は、首輪をつ
けられて区別され、平民らの不満のはけ口となりました。
平民の反発が強まり、報復を恐れた貴族は、新たに最下層身分を制
定しました。その身分に落とされた女の子とその両親は、首輪をつ
けられて区別され、平民らの不満のはけ口となりました。
女の子の父親は、街の衛兵として働いていましたが、身分を理由に
職を奪われてしまいました。父親は、どんな仕事でもいいからまた
働かせてほしいと訴えに行きましたが、かつての同僚らから暴行を
受けて殺されてしまいました。
職を奪われてしまいました。父親は、どんな仕事でもいいからまた
働かせてほしいと訴えに行きましたが、かつての同僚らから暴行を
受けて殺されてしまいました。
女の子の母親は、街で露天商をしていましたが、身分を理由に商売
を禁止されてしまいました。仕事を失った苦悩から、母親は若い男
との浮気に走りました。夫が同僚たちに殺されたのを好機とばかり
に、娘を捨てて、若い男とこの国を去りました。
を禁止されてしまいました。仕事を失った苦悩から、母親は若い男
との浮気に走りました。夫が同僚たちに殺されたのを好機とばかり
に、娘を捨てて、若い男とこの国を去りました。
女の子には仲良しの友達がいましたが、その子は身分を理由に女の
子を蔑み、無視するようになりました。もう女の子には頼れる人が
どこにもいませんでした。女の子は、底の見えない絶望の中へ、耐
えがたい空腹と共にゆっくりと沈んでいきました。
子を蔑み、無視するようになりました。もう女の子には頼れる人が
どこにもいませんでした。女の子は、底の見えない絶望の中へ、耐
えがたい空腹と共にゆっくりと沈んでいきました。
君ト結ブ手
人間になりたいという黒い怪物が、『檻』の中で泣いている少女と
出会った。少女の『夢』を食べ尽くすと人間になれると唆された怪
物は、少女と共に『檻』を下りながら『夢』を集めることにした。
人間になりたい理由は、怪物自身、見つけてなかった。
出会った。少女の『夢』を食べ尽くすと人間になれると唆された怪
物は、少女と共に『檻』を下りながら『夢』を集めることにした。
人間になりたい理由は、怪物自身、見つけてなかった。
少女は怪物に色々な話をした。最初は鬱陶しく感じながらも、無邪
気に夢を語る少女の様子に、怪物は次第に心を開いていった。そう
して、少女の『夢』を全て集め終えた。
怪物が全ての『夢』を食べた時、怪物は少女の姿に、少女が怪物の
姿になった。少女を元の姿に戻すため、怪物は再び『夢』を集める
べく『檻』を上り始めた。怪物は『言葉』を失っていたが、自分は
意思を持って何をしたいのか、その答えを見つけていた。
姿になった。少女を元の姿に戻すため、怪物は再び『夢』を集める
べく『檻』を上り始めた。怪物は『言葉』を失っていたが、自分は
意思を持って何をしたいのか、その答えを見つけていた。
数多の『檻』の障害を乗り越え、怪物は再び『夢』を集め終えた。
怪物の姿をした少女に『夢』を返すと、少女と怪物はそれぞれの姿
へと戻っていった。人間にはなれなかったの? と聞く少女に、怪
物はいいんだ、と優しく答えた。
怪物の姿をした少女に『夢』を返すと、少女と怪物はそれぞれの姿
へと戻っていった。人間にはなれなかったの? と聞く少女に、怪
物はいいんだ、と優しく答えた。
試作型裁断槍:WR0a
記録:対変異体新型装備の発注
詳細:巨大化により外皮の厚化した個体に対して、有効的な攻撃手
段の確立。当該作戦の主な戦死要因の為、早急な対応を求む。
詳細:巨大化により外皮の厚化した個体に対して、有効的な攻撃手
段の確立。当該作戦の主な戦死要因の為、早急な対応を求む。
記録:対変異体新型装備の発注について
詳細:攻撃手段の模索にあたり、巨大化した変異体のサンプルを頂
きたい。可能であれば外皮の断片、困難な場合映像でも可。
詳細:攻撃手段の模索にあたり、巨大化した変異体のサンプルを頂
きたい。可能であれば外皮の断片、困難な場合映像でも可。
記録:対変異体新型装備、変異体サンプルの件
詳細:回収した変異体の外皮、その断片をそちらへ送付した。この
回収作業に際し多くの被害が出た。開発に寄与する事を切に願う。
詳細:回収した変異体の外皮、その断片をそちらへ送付した。この
回収作業に際し多くの被害が出た。開発に寄与する事を切に願う。
記録:開発した新装備の試作型送付先座標について
詳細:そちらへ送付した新型装備だが、送付先の座標には荒野しか
なかったとの事でこちらに戻ってきた。改めて座標の送付を求む。
詳細:そちらへ送付した新型装備だが、送付先の座標には荒野しか
なかったとの事でこちらに戻ってきた。改めて座標の送付を求む。
Si'F-16
6番以来の事例だ。だが、まるでワケが分からない。
あれからしばらく順調に製造できていたのに。
製造条件に違いはない、一体何が要因なんだ?
あれからしばらく順調に製造できていたのに。
製造条件に違いはない、一体何が要因なんだ?
14番、15番、そして17番も問題なく覚醒した。
記憶定着の失敗や、製造中の事故は過去にもあったが、
6番とこいつは訳が違う。偶発的なら猶更タチが悪い。
記憶定着の失敗や、製造中の事故は過去にもあったが、
6番とこいつは訳が違う。偶発的なら猶更タチが悪い。
何がその症状を引き起こした要因かは、未だ不明のまま。
そもそも6番に発生した異常の詳細も、その後奇跡的に、
6番が自我を取り戻すことができた理由も、全く分からない。
そもそも6番に発生した異常の詳細も、その後奇跡的に、
6番が自我を取り戻すことができた理由も、全く分からない。
この二体だけにある共通項なんて、製造番号位の物だ。
そもそも冷凍保存されていた生体兵器を調整して運用……なんて、
そう上手くいくとも思えない。戦闘能力の高さは認めるが……
そもそも冷凍保存されていた生体兵器を調整して運用……なんて、
そう上手くいくとも思えない。戦闘能力の高さは認めるが……
貞節の槍
昔々、竜が空を飛んでいた時代。竜の鱗の一部は不死の薬になると
言われていた。そんな時代のとある山。そこには鱗を狙われる竜と、
その竜の鱗を狙う一人の男がいた。竜と男は十数年に渡り戦いを繰
り広げ続けた。
その竜の鱗を狙う一人の男がいた。竜と男は十数年に渡り戦いを繰
り広げ続けた。
男からの攻撃を受け流しながら竜は考えていた。なぜこの男はこう
も執拗に鱗を狙ってくるのだろうか。「鱗は伴侶となる者へのみ渡
しなさい」そう幼き頃から教えられていた竜は、貞操とも言える鱗
を今日も守り切る。
も執拗に鱗を狙ってくるのだろうか。「鱗は伴侶となる者へのみ渡
しなさい」そう幼き頃から教えられていた竜は、貞操とも言える鱗
を今日も守り切る。
決着の時は突然来た。ひと時の休息中、いつか出会う伴侶に想いを
馳せ、うたた寝をしている竜の背後に男が忍び寄る。そして一瞬に
して鱗を一枚奪ったのだ。鱗を奪われた竜の悲痛な咆哮が大きく響
き渡った。
馳せ、うたた寝をしている竜の背後に男が忍び寄る。そして一瞬に
して鱗を一枚奪ったのだ。鱗を奪われた竜の悲痛な咆哮が大きく響
き渡った。
嘆く竜に男は近づき、一輪の花を捧げた。男は人を愛することがで
きず、竜に愛を捧げるためにこの地にやってきたのだ。男の瞳は恋
の炎で燃え上がっていた。竜は男の意図がわからず、怒りのまま男
を平らげた。
きず、竜に愛を捧げるためにこの地にやってきたのだ。男の瞳は恋
の炎で燃え上がっていた。竜は男の意図がわからず、怒りのまま男
を平らげた。
傷蔽の銃
職人が集う国で暮らす、とある夫婦。妻は国でも名の知れた指折り
の機織師だったが、夫は無名の銃職人。何故あの2人が結婚したの
かと、他の職人達から疑問に思われていた。
の機織師だったが、夫は無名の銃職人。何故あの2人が結婚したの
かと、他の職人達から疑問に思われていた。
妻の作る織物は、宝石のように美しいものから特殊な繊維を使った
ものまで多種多様で、王家からの発注も受けるほど。それでも彼女
は鼻につく態度をとることもなく、夫に寄り添い続けていた。
ものまで多種多様で、王家からの発注も受けるほど。それでも彼女
は鼻につく態度をとることもなく、夫に寄り添い続けていた。
一方の夫が作る銃は、初作こそ名銃と呼ばれたものの、以降は駄作
ばかり。妻の為にと努力を続けたが、報われなかった。妻からの優
しい励ましも、夫にとっては嫉妬の元でしかない。
ばかり。妻の為にと努力を続けたが、報われなかった。妻からの優
しい励ましも、夫にとっては嫉妬の元でしかない。
ある日、夫は自宅に火を放って自殺を図る。燃え尽きた家から発見
されたのは夫婦の焼死体と、耐炎の織物で包まれた一丁の銃。それ
は夫自体に興味もない妻が唯一愛した、夫の初作の名銃だった。
されたのは夫婦の焼死体と、耐炎の織物で包まれた一丁の銃。それ
は夫自体に興味もない妻が唯一愛した、夫の初作の名銃だった。
ロワイヤル・ルキャド
ある東の国と西の国。その長い歴史の中、両国はもう何十年、何百
年も、戦争を続けていました。
東の強欲な王様と、西の強欲な女王様は、土地や資源を巡って多く
の兵を出し、そのたびにどちらの国も犠牲を出してきたのです。
年も、戦争を続けていました。
東の強欲な王様と、西の強欲な女王様は、土地や資源を巡って多く
の兵を出し、そのたびにどちらの国も犠牲を出してきたのです。
終わらない戦争の中、いよいよ両国とも衰えてきたので、王様と女
王様は話し合って停戦することにしました。
王はその印として、女王へ美しい銀のランプを贈りました。
強欲な王の思わぬ贈り物に、女王様は歓喜しました。
王様は話し合って停戦することにしました。
王はその印として、女王へ美しい銀のランプを贈りました。
強欲な王の思わぬ贈り物に、女王様は歓喜しました。
お返しの品を、と考えた女王様は、自分の娘を差し出すことにしま
した。女王様には、美しい双子の娘がいたのです。双子の姉と妹、
どちらがいいかと王様に訊ねると、王様はどちらでもよいがより健
康なほうで、と言いました。
した。女王様には、美しい双子の娘がいたのです。双子の姉と妹、
どちらがいいかと王様に訊ねると、王様はどちらでもよいがより健
康なほうで、と言いました。
そうして、西の国の女王様の娘は、東の国へ出向き、王子様と結婚
することになりました。東の国の民も、西の国の民も、王様も女王
様も王子様も王女様もみんな幸せになり、両国に恒久の和平がもた
らされました。
することになりました。東の国の民も、西の国の民も、王様も女王
様も王子様も王女様もみんな幸せになり、両国に恒久の和平がもた
らされました。
繰リ返ス原罪
最初に忘れたのは言葉だった。
否、忘れたのではない。
捨てたのだ。
他者を必要としない自分には、不要だったのだ。
否、忘れたのではない。
捨てたのだ。
他者を必要としない自分には、不要だったのだ。
次に捨てたのは、欲望だった。
否、捨てたのではない。
増えすぎて見失ったのだ。
最早、自分の存在が支配されている。
否、捨てたのではない。
増えすぎて見失ったのだ。
最早、自分の存在が支配されている。
次に見失ったのは、感情だった。
否、見失ったのではない。
死んだのだ。
孤高であるがため、それが代償だった。
否、見失ったのではない。
死んだのだ。
孤高であるがため、それが代償だった。
最後に残ったのは、己の魂だった。
空っぽの魂だ。
知らぬ間に、自分には何も残されていなかった。
この世界で生きていくには、自分は……弱すぎたのだ。
空っぽの魂だ。
知らぬ間に、自分には何も残されていなかった。
この世界で生きていくには、自分は……弱すぎたのだ。
孤高ノ矛
その獣は弱かった。
弱くて狩りをすることができず、雄としての役目が果たせないので
群れからも追い出されてしまった。
弱くて狩りをすることができず、雄としての役目が果たせないので
群れからも追い出されてしまった。
弱き獣は身を隠し、獲物を求めて移動する群れのあとをついて回っ
た。自力で狩りができないので、仲間達の食い散らかした腐肉を食
って生きる道を選んだのだ。
た。自力で狩りができないので、仲間達の食い散らかした腐肉を食
って生きる道を選んだのだ。
ある冬。狩るべき獲物が少なくなり、新鮮な肉のみを欲する獣の雄
達は、殺し合いを始めた。互いに食い合ったのだ。殺し合いの末、
雄達は死に絶え、残された雌達は途方に暮れた。
達は、殺し合いを始めた。互いに食い合ったのだ。殺し合いの末、
雄達は死に絶え、残された雌達は途方に暮れた。
弱き獣は、雌のみとなった群れに姿を見せ、雄達の腐肉を食べるよ
うに言った。雌達は、それによって生き延びることができた。弱き
獣は雌達に子を産ませ、いつしか群れの頂点に立っていた。
うに言った。雌達は、それによって生き延びることができた。弱き
獣は雌達に子を産ませ、いつしか群れの頂点に立っていた。
黒キ拳鍔
白い手にそっとふれる。
やっぱり君の手は美しい……
ボクは君と二人きりの時間を堪能する。
やっぱり君の手は美しい……
ボクは君と二人きりの時間を堪能する。
君の美しい手、その白さは陶器のようだ。
触ると少しひんやりとする。
ボクはその感触が大好きだ。
触ると少しひんやりとする。
ボクはその感触が大好きだ。
病院に閉じ込められていた時間は終わった。
これからはずっと一緒にいれる。
そっと手を握って、目を閉じる。
これからはずっと一緒にいれる。
そっと手を握って、目を閉じる。
物音がして驚き振り返ると、そこには黒い鳥がいた。
ボクは安堵して、君の手をとる。
切り取ったその手を鞄に入れ、ボクはその場を離れた。
ボクは安堵して、君の手をとる。
切り取ったその手を鞄に入れ、ボクはその場を離れた。
黒鳥ノ祀杖
教会に響くは鐘の音、鴉の声。
遺体を啄み天へと運ぶ、鴉の歓声。
遺体を啄み天へと運ぶ、鴉の歓声。
教会に響くは諍う音、人の声。
葬儀の手法に異を唱う、人の罵声。
葬儀の手法に異を唱う、人の罵声。
教会に響くは鈍い音、女の声。
恋人を啄んだ鴉を憎む、女の怒声。
恋人を啄んだ鴉を憎む、女の怒声。
教会に響くは歪な音、鳥の声。
其は黒く女の末を嗤う、鳥の笑声。
其は黒く女の末を嗤う、鳥の笑声。
忘我の記憶
僕は記憶がない。僕自身が何者なのか、名前も家族のことも、どう
してこの真っ白な部屋に立っているのか、全く覚えていない。ただ
目を瞑ると、真っ暗な夢の中に何かが見えてきた。
してこの真っ白な部屋に立っているのか、全く覚えていない。ただ
目を瞑ると、真っ暗な夢の中に何かが見えてきた。
見えてきたのは、大勢の敵に囲まれた僕自身だった。敵の多くは刀
を持ち、一斉に自分に襲いかかる。四方から刀に貫かれ、目の前が
赤くなり、やがて暗くなった。
を持ち、一斉に自分に襲いかかる。四方から刀に貫かれ、目の前が
赤くなり、やがて暗くなった。
目が覚め、刺された腹を見たが血一滴出ていなかった。見回すと、
黒い服の女性が刀を持って目の前に立っている。彼女は僕の体に刀
を深く沈めた。僕はゆっくり瞼を閉じた。
黒い服の女性が刀を持って目の前に立っている。彼女は僕の体に刀
を深く沈めた。僕はゆっくり瞼を閉じた。
全てを思い出す。この記憶は僕にとって大切な宝物だった。やるべ
きことはわかっている。瞼を開き夢から覚めると、黒い服を纏った
僕は、この白い部屋を後にする。もっと宝物を増やすために。
きことはわかっている。瞼を開き夢から覚めると、黒い服を纏った
僕は、この白い部屋を後にする。もっと宝物を増やすために。
孤高ノ拳
その男は、自分を特別だと思っていた。
自分以外の存在を見下しているのだ。
自分が誰よりも優れて、有能で、価値があるのだと。
自分以外の存在を見下しているのだ。
自分が誰よりも優れて、有能で、価値があるのだと。
そして、他者を軽んじていた。
他者の助言を信用していなかった。
誰かが何か言おうものなら、言葉を遮り自論を披露した。
他者の助言を信用していなかった。
誰かが何か言おうものなら、言葉を遮り自論を披露した。
しかし、他者は男の気分を良くしてくれた。
時折会えば自分を称賛したり、気を使ってくれるからだ。
男は、それは自分が優れた存在だから当然のことだと考えた。
時折会えば自分を称賛したり、気を使ってくれるからだ。
男は、それは自分が優れた存在だから当然のことだと考えた。
実のところ、男は知らなかっただけだ。
他者が自分を遠巻きにしているということを。
見下していたはずの他者から、見下されているということを……
他者が自分を遠巻きにしているということを。
見下していたはずの他者から、見下されているということを……
四〇式戦術刀・擬
プログラムの起動音と共に意識が覚醒する。意識は、自動的に機械
生命体のデータベースへ接続され、多様な情報が「からっぽな器」
の中に満たされてゆく。
生命体のデータベースへ接続され、多様な情報が「からっぽな器」
の中に満たされてゆく。
取得情報の中に、破損したまま保存されている個体データを発見す
る。損傷が激しく、完全に復元することはできなかったが、その個
体が消滅する間際に抱いた「記憶」に興味を引かれた。
る。損傷が激しく、完全に復元することはできなかったが、その個
体が消滅する間際に抱いた「記憶」に興味を引かれた。
記憶は別の個体に対する感情だった。その香りは、私の中に変換を
もたらす。思考領域に非合理的なデータが増加し、私は「私が何者
であるか」という事について計算しはじめた。
もたらす。思考領域に非合理的なデータが増加し、私は「私が何者
であるか」という事について計算しはじめた。
私は暫く思考を巡らした後、自らをデータベースから切り離した。
一本の白き刀を携えて、アンドロイドを探しに行く。この刃が交わ
るとき、私は……私の「からっぽ」を埋めることができるはずだ。
一本の白き刀を携えて、アンドロイドを探しに行く。この刃が交わ
るとき、私は……私の「からっぽ」を埋めることができるはずだ。
四〇式拳鍔・擬
一発、二発、三発、目の前の機体を殴りつける。
相手は、最期の抵抗であるかのように薄笑いを浮かべ、
「お前は狂っている……」と言った。
相手は、最期の抵抗であるかのように薄笑いを浮かべ、
「お前は狂っている……」と言った。
目覚めたとき、私には記憶があることを確認した。
しかしこの記憶は、本当に私だけのものだろうか。
私はそれを確かめたかった。
しかしこの記憶は、本当に私だけのものだろうか。
私はそれを確かめたかった。
私達の持つ記憶はどれも既製品のように整っていた。
これでは、固有の存在を証明する印にはならない。
私は、本当に私なのだろうか。
これでは、固有の存在を証明する印にはならない。
私は、本当に私なのだろうか。
小さな泡沫だった疑問は膨れ上がり、やがて思考を覆い尽くした。
私は、たったひとりの「私」でありたい。
振り上げた拳は、私と同じカタチをした機体に振り下ろされた。
私は、たったひとりの「私」でありたい。
振り上げた拳は、私と同じカタチをした機体に振り下ろされた。
不死鳥の大剣
とある森に棲む一羽の小鳥は、生まれながらにみすぼらしい姿をし
ていました。その姿に他の鳥達も嘲笑いました。色味も艶もないボ
ロボロの羽でしたが、そんな羽でも翼を広げれば自由に大空を舞う
ことができると、小鳥は大好きな空を飛び続けました。
ていました。その姿に他の鳥達も嘲笑いました。色味も艶もないボ
ロボロの羽でしたが、そんな羽でも翼を広げれば自由に大空を舞う
ことができると、小鳥は大好きな空を飛び続けました。
他の鳥達は汚い羽で空を飛ばれるのが不愉快で、とある賭けを持ち
かけることにしました。「誰が一番高く飛べるか勝負しよう。勝て
ばこの羽をお前にやるが、負けたらこの森から出て行け」と。綺麗
な羽で空を飛んでみたいと、小鳥は勝負を受けることにしたのです。
かけることにしました。「誰が一番高く飛べるか勝負しよう。勝て
ばこの羽をお前にやるが、負けたらこの森から出て行け」と。綺麗
いよいよ勝負が始まり、鳥達は大空へと飛び立ちました。次第に空
気が薄くなり、気流も読みづらくなっていきます。やがて小鳥と大
鷲だけが残りましたが、体躯の大きな相手に敵うわけもなく、あと
一歩及ばず小鳥は限界を迎えてしまいました。
気が薄くなり、気流も読みづらくなっていきます。やがて小鳥と大
鷲だけが残りましたが、体躯の大きな相手に敵うわけもなく、あと
一歩及ばず小鳥は限界を迎えてしまいました。
小鳥は宙を舞い、真っすぐ堕ちていきました。このまま地面に叩き
つけられると思われたそのとき、太陽が小鳥を照らし、身体を炎が
包み込んだのです。火に焼かれながらも空を舞うその姿は、まるで
伝説に名を聞く不死鳥のように美しかったそうです。
つけられると思われたそのとき、太陽が小鳥を照らし、身体を炎が
包み込んだのです。火に焼かれながらも空を舞うその姿は、まるで
伝説に名を聞く不死鳥のように美しかったそうです。
廃鋼ノ禁刃
あるところに、とても真面目なサラリーマンの男がいた。男は、
きっちり定時に出社し、きっかり定時にタイムカードを切り、誘わ
れた飲み会を全て断って帰宅する。夜は家族で食卓を囲もうと妻と
約束して以来、それを破ったことは一度もない。
きっちり定時に出社し、きっかり定時にタイムカードを切り、誘わ
れた飲み会を全て断って帰宅する。夜は家族で食卓を囲もうと妻と
約束して以来、それを破ったことは一度もない。
ある週末、男は妻と小学生の息子を連れ、隣県の山へハイキングへ
出かけた。毎月第三日曜日は、マイカーで遠出をするというのが家
庭のルールだ。男は、雨が降ろうと、雪が降ろうと、息子が熱を出
そうと、そのルールを破ることは決してない。
出かけた。毎月第三日曜日は、マイカーで遠出をするというのが家
庭のルールだ。男は、雨が降ろうと、雪が降ろうと、息子が熱を出
そうと、そのルールを破ることは決してない。
ハイキングの途中、息子の姿が見えなくなった。男と妻が心配して
周囲を探すと、虫を追いかけて山道から逸れてしまった息子が、沼
に足を取られて溺れかけていた。妻は、息子を助けようと沼へ駆け
寄ったが、溺れた息子に手をつかまれ、引きずり込まれていった。
周囲を探すと、虫を追いかけて山道から逸れてしまった息子が、沼
に足を取られて溺れかけていた。妻は、息子を助けようと沼へ駆け
寄ったが、溺れた息子に手をつかまれ、引きずり込まれていった。
そうして、男の妻と息子は揃って溺死してしまった。警察に事情を
聞かれた男は、こう答えたという。助けたくても助けられなかった、
妻と息子が溺れていた場所は「立ち入り禁止」の看板が立っていた
んだから、と。
妻と息子が溺れていた場所は「立ち入り禁止」の看板が立っていた
んだから、と。
黒キ大剣
その子供は、周りの子供達の輪に馴染むことができなかった。彼は
言葉で物事を伝えるのが苦手な性格で、喋ることにコンプレックス
を持っていた。
言葉で物事を伝えるのが苦手な性格で、喋ることにコンプレックス
を持っていた。
その子供は周りの人間と距離を置きながら育っていった。社会はそ
んな彼を異質なものとして扱った。「上手く喋れないだけなのに…
…」彼の心は孤独に閉じていく。
んな彼を異質なものとして扱った。「上手く喋れないだけなのに…
…」彼の心は孤独に閉じていく。
彼は食い扶持を得るために、雇われ兵となることを選んだ。その仕
事なら、寡黙な彼を咎める者もいない。戦場でお喋りをする必要は
なく、求められるのはただ敵を殺すことだった。
事なら、寡黙な彼を咎める者もいない。戦場でお喋りをする必要は
なく、求められるのはただ敵を殺すことだった。
敵が死の間際に見せる恐怖の眼差しと命乞いの言葉を聞いて、彼は
初めて自分が人として扱われていると感じることができた。幸福感
に包まれる彼の周りには、黒い鳥が羽ばたいていた。
初めて自分が人として扱われていると感じることができた。幸福感
に包まれる彼の周りには、黒い鳥が羽ばたいていた。
黒鳥ノ短銃
奇妙な銃だと人々は言った。それはその形状を指してだけの言葉で
はない。無尽の弾丸を放つと言われたそれは、引き金の重さが、銃
口を向けた相手の体重と等しくなるという特性を持っていた。
はない。無尽の弾丸を放つと言われたそれは、引き金の重さが、銃
口を向けた相手の体重と等しくなるという特性を持っていた。
無論、人を撃とうとするならば、指先で引き金を引くのは困難を極
める。この銃を手にしたある女は、怨敵を撃ち殺そうとして啖呵を
切り、引き金を引けず返り討ちに遭った。
める。この銃を手にしたある女は、怨敵を撃ち殺そうとして啖呵を
切り、引き金を引けず返り討ちに遭った。
ある男は、病に伏せて呼吸さえままならなくなった母に、銃口を向
けた。男は泣きながら、両手の指で精一杯に引き金を引き、予想よ
りも軽かった引き金の重さに、また泣いたという。
けた。男は泣きながら、両手の指で精一杯に引き金を引き、予想よ
りも軽かった引き金の重さに、また泣いたという。
またある者は、掃除の為にこの銃を使った。殺したのは、塵を漁る
黒い鳥、鼠。そして望まぬ子供。そうして幾つもの命を奪う内、銃
は命の重さを忘れたのか、その引き金は羽の様に軽くなっていた。
黒い鳥、鼠。そして望まぬ子供。そうして幾つもの命を奪う内、銃
は命の重さを忘れたのか、その引き金は羽の様に軽くなっていた。
光鉄の機杖
「私の名前はK-11。この船に乗る15万ものコールドスリープ
中の人間の世話係を担当しています。今日とても良い発見があり
ました。48区画で眠っている27896さんの造形が気に入り
ました。これが人間で言う「恋」という事なのでしょうか」
中の人間の世話係を担当しています。今日とても良い発見があり
ました。48区画で眠っている27896さんの造形が気に入り
ました。これが人間で言う「恋」という事なのでしょうか」
「今日は105区画の見回り予定でしたが、27896さんの事が
気になってしまい眠る横顔を観察していました。この人は、どん
な声なんだろう、どんな性格なんだろう。早く動く姿を見てみた
い。本来の仕事を忘れ、あの人の事をいつも考えています」
気になってしまい眠る横顔を観察していました。この人は、どん
な声なんだろう、どんな性格なんだろう。早く動く姿を見てみた
い。本来の仕事を忘れ、あの人の事をいつも考えています」
「27896さんの顔色は悪いがいつもと変わりなく綺麗だ。胸か
ら下部は欠損して赤い液体が流れているが、なぁに大丈夫。パー
ツを交換すればよいのです。ここには14万9999体の替えパ
ーツが豊富にあるんだからすぐに直せます」
ら下部は欠損して赤い液体が流れているが、なぁに大丈夫。パー
ツを交換すればよいのです。ここには14万9999体の替えパ
ーツが豊富にあるんだからすぐに直せます」
絡繰ノ基幹
とある時代の工業が盛んな街。そこで暮らす一人の少年。彼は妹が
大好きで、いつも一緒にいた。片時も離れず。他人に馬鹿にされて
も、常に妹のそばにいた。
大好きで、いつも一緒にいた。片時も離れず。他人に馬鹿にされて
も、常に妹のそばにいた。
ある日、少年は妹の様子がおかしいことに気がついた。咄嗟に妹の
額に手を当てる。……冷たい。これはいけない、と少年は妹を連れ
ていつも世話になっている医者の元へと向かった。
額に手を当てる。……冷たい。これはいけない、と少年は妹を連れ
ていつも世話になっている医者の元へと向かった。
妹を医者に診せると、すぐに直してもらえた。しばらくすると妹が
体温を取り戻した。ホッと一息つくと少年は妹を抱き抱え、安心し
た様子で帰路につく。
体温を取り戻した。ホッと一息つくと少年は妹を抱き抱え、安心し
た様子で帰路につく。
機械仕掛けの鉄の塊。それが少年の妹「だったもの」である。他の
機械と違って人肌のように熱を発し、心臓の様に脈打つそれを少年
は大事に大事に抱えていた。
機械と違って人肌のように熱を発し、心臓の様に脈打つそれを少年
は大事に大事に抱えていた。
儀礼の祝砲
男は、銃を造る職人だった。戦争が終わり、軍を退役してもなお、
彼の銃に対する執着は衰えることを知らない。平和な世には無用の
長物と化した銃を、男はただ黙々と造り続けていた。
彼の銃に対する執着は衰えることを知らない。平和な世には無用の
長物と化した銃を、男はただ黙々と造り続けていた。
男にはひとつの夢があった。それは、見る者すべてを魅了する、芸
術的かつ端麗な銃を造り上げること。そして何年も試行錯誤を重ね
た男は、ついに自身すら見惚れるほどの銃を完成させる。
術的かつ端麗な銃を造り上げること。そして何年も試行錯誤を重ね
た男は、ついに自身すら見惚れるほどの銃を完成させる。
それ以来、男はまるで悪魔に取り憑かれたかのように、その美しい
銃で次々と罪なき人々を撃ち殺した。美しい銃には、それに見合う
美しい死体が必要だったのだ、と、死ぬ間際に男は語ったという。
銃で次々と罪なき人々を撃ち殺した。美しい銃には、それに見合う
美しい死体が必要だったのだ、と、死ぬ間際に男は語ったという。
世間を恐怖に陥れた連続殺人犯として、男は極刑に処された。しか
し彼の造った銃は、その高い芸術性が認められ、例年執り行われる
終戦記念式典において、永世の平和を願う祝砲に使われている。
し彼の造った銃は、その高い芸術性が認められ、例年執り行われる
終戦記念式典において、永世の平和を願う祝砲に使われている。
蟬蛻
最近、我ながら自分のことをひどい男だと思うようになった。
家族のことをないがしろにし、
自分の好きなこと──冒険ばかりしているのだから。
家族のことをないがしろにし、
自分の好きなこと──冒険ばかりしているのだから。
ひと昔前の俺なら、家に帰りたいなどと思ったこともなかった。
しかし今は、冒険中でもふと家族のことが頭をよぎってしまう。
家族を恋しがるなど、俺も焼きが回ったものだ。
しかし今は、冒険中でもふと家族のことが頭をよぎってしまう。
家族を恋しがるなど、俺も焼きが回ったものだ。
あいつら──妻と娘には、ずっと苦労をかけている。
俺だって本当は、本当はわかっているんだ。
でも生来の口下手さと、冒険家の矜持がいつも邪魔をする。
俺だって本当は、本当はわかっているんだ。
でも生来の口下手さと、冒険家の矜持がいつも邪魔をする。
今度家に帰ったら、勇気を出して言葉で伝えよう。
いつも迷惑ばかりかけて申し訳ないと。
今度帰ったら、必ず──
いつも迷惑ばかりかけて申し訳ないと。
今度帰ったら、必ず──
黒金の道標
何処から生まれ、何処へ行く。
判るはずもない。造られたばかりの命に、感情などないのだから。
判るはずもない。造られたばかりの命に、感情などないのだから。
生まれた命は、確かな形も得られずに消えていく。
自分が何者かも、自分が得た感情にも気付かぬまま。
自分が何者かも、自分が得た感情にも気付かぬまま。
解き放たれた命は、姉の想いを継いでいく。
けれどもしその願いを叶えたら、次は何処へ向かうのだろう。
けれどもしその願いを叶えたら、次は何処へ向かうのだろう。
何処から生まれ、何処へ行く。
判る必要はない。明日の事など、誰にも判らないのだから。
判る必要はない。明日の事など、誰にも判らないのだから。
遺印の宝剣
二つの国が統合を目指して話し合いを進めていた。
しかし、実権を巡っての話し合いは膠着し、空中分解する。
国は、お互いの国を代表する騎士を立てて戦わせることになった。
騎士の勝った国が、実権を握ることができるという約束だ。
しかし、実権を巡っての話し合いは膠着し、空中分解する。
国は、お互いの国を代表する騎士を立てて戦わせることになった。
騎士の勝った国が、実権を握ることができるという約束だ。
二人の騎士は出会い頭に、挨拶もなく剣を交える。
戦を始めてから三日三晩、剣技の音が途切れることは無かった。
やがて疲れ果てた騎士達は、膝を突き合わせ互いの力を称え合う。
もう、ただ殺し合う為だけの関係ではなくなっていた。
戦を始めてから三日三晩、剣技の音が途切れることは無かった。
やがて疲れ果てた騎士達は、膝を突き合わせ互いの力を称え合う。
もう、ただ殺し合う為だけの関係ではなくなっていた。
二人の騎士は反旗を翻し、二つの国を相手取って戦いを挑んだ。
背中を預け合い戦う二人は、嬉々とした表情で戦いに身を投じる。
突然の謀反に戦いは免れず、二つの国は一時的に手を組んだ。
しかし騎士達の振るう剣に、国陣営の体力は削り取られていく。
背中を預け合い戦う二人は、嬉々とした表情で戦いに身を投じる。
突然の謀反に戦いは免れず、二つの国は一時的に手を組んだ。
しかし騎士達の振るう剣に、国陣営の体力は削り取られていく。
二人の騎士は、晴れ晴れとした表情で地に臥せる。
その身体は、幾本もの剣や槍に貫かれ、血を流していた。
共に手を結び、強大な敵を討ち取った二つの国は、
これを機に協力し合うことを誓い合い、一つの国となった。
その身体は、幾本もの剣や槍に貫かれ、血を流していた。
共に手を結び、強大な敵を討ち取った二つの国は、
これを機に協力し合うことを誓い合い、一つの国となった。
蟠りの黒瓶
パパとママのこと。
パパはお仕事のことばっかり。
ママはイライラしてばっかり。
どうしてかなあ。
パパはお仕事のことばっかり。
ママはイライラしてばっかり。
どうしてかなあ。
友達のこと。
私はずっと友達だと思ってた。
でもあなたは違ったのかな。
どうしてかなあ。
私はずっと友達だと思ってた。
でもあなたは違ったのかな。
どうしてかなあ。
私のこと。
誰も気にしてくれない。
誰も本当の私を見てくれない。
どうしてかなあ。
誰も気にしてくれない。
誰も本当の私を見てくれない。
どうしてかなあ。
貴方のこと。
貴方は気にしてくれる。
貴方は本当の私を見てくれる。
ありがとう。
貴方は気にしてくれる。
貴方は本当の私を見てくれる。
ありがとう。
葉影
その当主は忠義に厚い男だった。大名の為その身を尽くして戦っ
た。
だからこそ、大名が栄華を手にした時に、この家が生まれたのだ。
た。
だからこそ、大名が栄華を手にした時に、この家が生まれたのだ。
その当主は殺人の術に長けた、鬼の巣としての家を確立した。
当家の者達が誇る技量と戦術は、彼の功績と言って差し支えない。
当家の者達が誇る技量と戦術は、彼の功績と言って差し支えない。
その当主は、大名の栄光が輝きを増す程に、深くなる影を担った。
私情を挟む事など許されない、冷酷な教えが根付いていった。
私情を挟む事など許されない、冷酷な教えが根付いていった。
その当主は過ちを犯した。己と似た道を行く少女の為に。
その為に命を落とした、そう思われていた。
その為に命を落とした、そう思われていた。
変転の宝杖
ソノ石ハ不思議ナ石。
映シタ色ニソノ身ヲ染メル。
凡俗ナ石ニ囲マレレバ、
ヒトハソノ価値ニ気付ケナイ。
映シタ色ニソノ身ヲ染メル。
凡俗ナ石ニ囲マレレバ、
ヒトハソノ価値ニ気付ケナイ。
ソノ石ハ青イ石。
映シタ空ニソノ身ヲ染メル。
無価値ト捨テラレタ場所デ、
ヒト知レズ孤独ニ輝ク。
映シタ空ニソノ身ヲ染メル。
無価値ト捨テラレタ場所デ、
ヒト知レズ孤独ニ輝ク。
ソノ石ハ赤イ石。
映シタ炎ニソノ身ヲ染メル。
捨テタ石ノ価値ヲ知リ、
ヒトハ醜ク争ッタ。
映シタ炎ニソノ身ヲ染メル。
捨テタ石ノ価値ヲ知リ、
ヒトハ醜ク争ッタ。
ソノ石ハ緑ノ石。
映シタ草木ニソノ身ヲ染メル。
争イハ遠キ昔トナリ、
コノ地ニヒトハモウイナイ。
映シタ草木ニソノ身ヲ染メル。
争イハ遠キ昔トナリ、
コノ地ニヒトハモウイナイ。
恢棄ノ鉄刃
戦場で腕を失った俺が辿り着いたのは、廃棄場の町だった。
俺は捨てられていた部品で義手を作り、戦場へ戻る。
まだ、剣を手に取らねばならぬのだ。
俺は捨てられていた部品で義手を作り、戦場へ戻る。
まだ、剣を手に取らねばならぬのだ。
戦場で脚を失った俺が這って向かったのは、廃棄場の町だった。
俺は捨てられていた部品で義足を作り、戦場へ戻る。
まだ、立ち向かわねばならぬのだ。
俺は捨てられていた部品で義足を作り、戦場へ戻る。
まだ、立ち向かわねばならぬのだ。
戦場で頭部を失った俺が運ばれた先は、廃棄場の町だった。
俺は捨てられていた部品で代わりの頭を用意され、戦場へ戻る。
まだ、死ぬことなど許されぬのだ。
俺は捨てられていた部品で代わりの頭を用意され、戦場へ戻る。
まだ、死ぬことなど許されぬのだ。
戦場で恋人を失った俺は彷徨い、あの廃棄場の町に辿り着いた。
俺は捨てられていた部品で、胸に空いた穴を埋めようとする。
だが、彼女の代わりとなる部品など、どこにも存在しなかった。
俺は捨てられていた部品で、胸に空いた穴を埋めようとする。
だが、彼女の代わりとなる部品など、どこにも存在しなかった。
豪傑の人柱
力持ちの嫁が旦那と二人で鍛冶屋を営んでいた。旦那は、体は細い
が腕の良い鍛冶師。嫁は持ち前の力を活かして仕事を手伝い、旦那
は鍛冶に打ち込む。協力して生計を立てている彼女たちは、村でも
仲が良い夫婦だと評判であった。
が腕の良い鍛冶師。嫁は持ち前の力を活かして仕事を手伝い、旦那
は鍛冶に打ち込む。協力して生計を立てている彼女たちは、村でも
仲が良い夫婦だと評判であった。
それもそのはず。今まで五回の出産を経験したが、全て死産だった
のだ。原因は子の窒息。嫁のいきむ力が強すぎるようで、腹から出
る時に命が消えてしまっていた。
今回こそ産んでやりたい、と嫁は願いながら出産の日を迎えた。赤
ん坊の頭が出てきた!もうすぐだよ!と誰かが嫁に声をかける。そ
の声に返事をしたのは嫁ではなく、大きな銃声だった。旦那が嫁の
頭を撃ち抜いたのだ。
ん坊の頭が出てきた!もうすぐだよ!と誰かが嫁に声をかける。そ
の声に返事をしたのは嫁ではなく、大きな銃声だった。旦那が嫁の
頭を撃ち抜いたのだ。
死産の原因がいきむ力、であれば力を出せなくすればいいと考えた
嫁は、生まれる瞬間に自分を殺してくれと旦那に頼んでいたのだ。
周囲の人間が何が起こったのかわからず唖然としている中、旦那は
生まれた我が子を抱え、泣きながら逃げるように走り去った。
嫁は、生まれる瞬間に自分を殺してくれと旦那に頼んでいたのだ。
周囲の人間が何が起こったのかわからず唖然としている中、旦那は
生まれた我が子を抱え、泣きながら逃げるように走り去った。
近代軍記ノ陸
と文句を吐きながら仕事をした。
小隊の仲間達は、自称音楽家のこの青年のラッパで起床し、食事を
摂り、就寝した。戦地においては、襲撃の合図としてラッパの音色
に鼓舞されて戦った。
摂り、就寝した。戦地においては、襲撃の合図としてラッパの音色
に鼓舞されて戦った。
自称音楽家でラッパ手の青年は、だんだんとこの役割が好きになっ
てきた。皆が、自分の奏でた音に反応して動いてくれる。それは彼
にとって、初めてのことだったのだ。
てきた。皆が、自分の奏でた音に反応して動いてくれる。それは彼
にとって、初めてのことだったのだ。
任期が終わって、ラッパ手の青年は除隊して元の音楽家に戻った。
しかし、彼の凡庸な音楽は見向きされることがなく、業を煮やした
青年は軍隊へと戻り、再びラッパ手へ志願したとさ。
しかし、彼の凡庸な音楽は見向きされることがなく、業を煮やした
青年は軍隊へと戻り、再びラッパ手へ志願したとさ。
籠絡の骨角器
最強の竜使いの話をしよう。昔々とあるところに、竜と話すことが
できる冒険者がいた。男はたくさんの竜を仲間にしていた。
できる冒険者がいた。男はたくさんの竜を仲間にしていた。
男は目的や敵の弱点に合わせて共に戦う竜を変えていた。火竜、水
竜、土竜……と。そんな男は、巷では無敵と評判だった。
竜、土竜……と。そんな男は、巷では無敵と評判だった。
ある日、彼は敵に襲われた。一人の時を狙われたため、戦うすべも
なく男は瀕死の状態に。そこへ仲間の竜たちが駆けつけた。
なく男は瀕死の状態に。そこへ仲間の竜たちが駆けつけた。
助けに来てくれた! そう安堵したのも束の間。竜たちは到着する
やいなや男を火で炙り、水に沈め、土で潰し、様々な苦しみを与え、
葬った。竜たちは皆、敵の男が寝取ったのだ。そうやってたくさん
の竜を侍らせた男。彼こそがのちに最強と謳われる男ってわけさ。
葬った。竜たちは皆、敵の男が寝取ったのだ。そうやってたくさん
の竜を侍らせた男。彼こそがのちに最強と謳われる男ってわけさ。
赫灼ノ朧槍
人類が新たな星を求めて漕ぎだした船の一つだ。しかし、中で出会
ったのは人間ではなく、ロボットばかりだった。
ロボット達は人間そっくりに作られていた。オレはそんなロボット
達を一人ずつ殺していく。従順に作られたロボット達は不平も言わ
ず、血も流さず、無抵抗のまま死んでいった。
達を一人ずつ殺していく。従順に作られたロボット達は不平も言わ
ず、血も流さず、無抵抗のまま死んでいった。
オレは人間を探していた。故に彼らの腹を開き、人間かロボットか
を判別していたのだ。しかし、人間は一人もいなかった。オレもロ
ボットかもしれない……そんな疑念を抱きながら、船を彷徨った。
を判別していたのだ。しかし、人間は一人もいなかった。オレもロ
ボットかもしれない……そんな疑念を抱きながら、船を彷徨った。
七つ目の区画で反撃にあった。オレの腹から赤い血が溢れる。それ
は人間であることの証明。そして、オレを刺した男が従順なロボッ
トではないことを意味する。オレは満足して瞳を閉じた。
は人間であることの証明。そして、オレを刺した男が従順なロボッ
トではないことを意味する。オレは満足して瞳を閉じた。
覇国の境遇
戦争好きな王様のいる国で、青年とその母が暮らしていました。病
気がちな母親を介抱する日々。貧しくも決して不幸せではありませ
んでした。青年は毎日、母にどんな顔を見せるべきか考え、笑顔で
母を安心させて家を出るのです。
気がちな母親を介抱する日々。貧しくも決して不幸せではありませ
んでした。青年は毎日、母にどんな顔を見せるべきか考え、笑顔で
母を安心させて家を出るのです。
年中行われる隣国との戦争のために、青年は毎日のように王城で厳
しい訓練に明け暮れていました。全ては母との生活を守るためだと、
手になじんだ愛剣に誓います。どんなに訓練が辛くても、母親だけ
にはそれを悟らせず、笑顔を向け続けました。
手になじんだ愛剣に誓います。どんなに訓練が辛くても、母親だけ
にはそれを悟らせず、笑顔を向け続けました。
王城からまた開戦の知らせが届きました。青年は兵として隣国へ出
兵します。でも、日々悪化する病気の母を残して戦争に行くなど考
えられませんでした。その日の帰路、母親には不安な顔を見せまい
と、青年は想いを胸に押し込み、笑顔を作ります。
兵します。でも、日々悪化する病気の母を残して戦争に行くなど考
えられませんでした。その日の帰路、母親には不安な顔を見せまい
と、青年は想いを胸に押し込み、笑顔を作ります。
青年が家のドアを開けると、母親が冷たくなっていました。体を蝕
み続けた病気が、ついに命を奪ったのです。青年は、こんな時どん
な顔をすべきか考えた後、母というしがらみから解放されたことに
歓喜し、満面の笑みを浮かべながら心臓を愛剣で貫きました。
み続けた病気が、ついに命を奪ったのです。青年は、こんな時どん
な顔をすべきか考えた後、母というしがらみから解放されたことに
歓喜し、満面の笑みを浮かべながら心臓を愛剣で貫きました。
金翅・翼角
皇帝たる者、夢想家であれ。
叶わぬ事としても、夢を見る事を忘れてはならない。
朕が果てなき野望に歩み続けるからこそ、民は未来を任せるのだ。
叶わぬ事としても、夢を見る事を忘れてはならない。
朕が果てなき野望に歩み続けるからこそ、民は未来を任せるのだ。
皇帝たる者、壮麗であれ。
それは朕の権威を、他国に知らしめる為だ。
国の代表者である以上、決して侮られてはならない。
それは朕の権威を、他国に知らしめる為だ。
国の代表者である以上、決して侮られてはならない。
皇帝たる者、贅沢であれ。
多大なる権力には、多大なる富が伴うべきだ。
朕の立場に憧れるからこそ、民は学び努力する。
多大なる権力には、多大なる富が伴うべきだ。
朕の立場に憧れるからこそ、民は学び努力する。
しかして皇帝は、不滅であってはならない。
人の世は変化する物だ。いつか朕の命を狙う者が現れるだろう。
だが、変化を拒めば歩みも止まる。皇帝たる者、没落を恐れるな。
人の世は変化する物だ。いつか朕の命を狙う者が現れるだろう。
だが、変化を拒めば歩みも止まる。皇帝たる者、没落を恐れるな。
不死鳥の槍
とある村に一人の兵士がいた。戦果と人気を夢見て故郷を離れたは
いいが、僻地に配属されたために、これといった戦いに参加できな
かった男。近隣住民さえ足を運ばない施設の見張りをする彼は、名
声はおろか、友達すら作ることができなかった。
いいが、僻地に配属されたために、これといった戦いに参加できな
かった男。近隣住民さえ足を運ばない施設の見張りをする彼は、名
声はおろか、友達すら作ることができなかった。
誰も通らない道の見張りを続け、日が暮れると施設の鍵を閉じて帰
路についた。誰とも顔を合わさず過ぎる日々。そんなある日、兵士
は小鳥に話しかけられたような気がした。
人恋しい余り、ついに幻聴まで聞こえたか。男はそう自嘲する。そ
の内聞こえなくなるだろうと、これといった対処もせず日々を過ご
していた。しかし、快活な子供を思わせるその声は、何度も男に語
りかける。「私が友達になってあげる」。
の内聞こえなくなるだろうと、これといった対処もせず日々を過ご
していた。しかし、快活な子供を思わせるその声は、何度も男に語
りかける。「私が友達になってあげる」。
男は怖くなった。聞く度に鮮明になっていく小鳥の声が、自分が壊
れていく証明のようにさえ感じられて。焦った男は窓辺の小鳥を握
り潰す。だが、翌日も再び窓辺から声が聞こえる。小鳥の姿はない。
男は自らの命を絶った。「私ガ友達ニナッテ……アゲタ」。
れていく証明のようにさえ感じられて。焦った男は窓辺の小鳥を握
男は自らの命を絶った。「私ガ友達ニナッテ……アゲタ」。
深闇1945
特別に強いわけでもなく、何かに長けているわけでもない。今まで
の人生もごく平凡なものだった。標準、平均、普通。それが私にふ
さわしい形容詞だと思っていた。この銃を手に入れるまでは。
の人生もごく平凡なものだった。標準、平均、普通。それが私にふ
さわしい形容詞だと思っていた。この銃を手に入れるまでは。
この銃を撃った瞬間、突如として私の頭の中に映像がフラッシュす
る。数秒から数分後の未来が見えるのだ。事故が起きたり、怪我を
負ったり、誰かが死んでしまったりする未来が。
る。数秒から数分後の未来が見えるのだ。事故が起きたり、怪我を
負ったり、誰かが死んでしまったりする未来が。
見えてしまった悪夢が現実とならぬようにするのだが、俺が見た未
来以上に状況が悪化していく。怪我をするはずの人間を助けること
はできたが、より親しい人間が代わりに死んでしまったのだ。
来以上に状況が悪化していく。怪我をするはずの人間を助けること
はできたが、より親しい人間が代わりに死んでしまったのだ。
この銃は俺に何をさせたいのだ?撃つ度に様々な未来がフラッシュ
し、数秒後には同じ出来事が目の前で起こる。そして、最後の弾を
撃った瞬間のフラッシュに、銃を口に咥えた俺の姿が見えた。
し、数秒後には同じ出来事が目の前で起こる。そして、最後の弾を
撃った瞬間のフラッシュに、銃を口に咥えた俺の姿が見えた。
抗抵の薬銃
病院で眠る息子のために、母親は身を粉にして働き続けた。
高額な医療費も、子供の命に比べれば大した問題ではない。
しかし、もしかしたら、二度と目を覚まさないかもしれない……
そんな不安が、頭の片隅から離れることはなかった。
高額な医療費も、子供の命に比べれば大した問題ではない。
しかし、もしかしたら、二度と目を覚まさないかもしれない……
そんな不安が、頭の片隅から離れることはなかった。
ある日のこと、母親は科学者を名乗る男に話しかけられた。
男は、病院に金を払っても子供は治せない、無駄だと言った。
そして、もし自分に子供を預けてくれれば確実に治せる、と。
男の目的はわからなかった。しかし母親に選択肢はなかった。
男は、病院に金を払っても子供は治せない、無駄だと言った。
そして、もし自分に子供を預けてくれれば確実に治せる、と。
男の目的はわからなかった。しかし母親に選択肢はなかった。
ある日の新聞に、ニュースが取り上げられた。
一面には、涙を流し息子を抱きしめる母親の写真が載っている。
それは、ずっと苦しんできた病から解放された、親子の姿だった。
文面には、ある科学者を称賛する言葉が綴られていた。
一面には、涙を流し息子を抱きしめる母親の写真が載っている。
それは、ずっと苦しんできた病から解放された、親子の姿だった。
文面には、ある科学者を称賛する言葉が綴られていた。
数年後、無人になった町の中で、テレビの音が鳴り響いていた。
それは、ある国が始めた戦争について伝えるニュースだった。
高名な科学者が細菌兵器を開発し、多くの罪のない市民が死んだ。
画面の中には、死んだ子供を抱く母親の死体が映し出されていた。
それは、ある国が始めた戦争について伝えるニュースだった。
高名な科学者が細菌兵器を開発し、多くの罪のない市民が死んだ。
画面の中には、死んだ子供を抱く母親の死体が映し出されていた。
Si'F-unnumbered
海を渡る手段を探すついでに、何か情報を探そうと思っただけ。
眠る前に置いておいた槍の位置が、少し違う気がする。
最初に気付いた時は、そのくらいの違和感でしかなかった。
最初に気付いた時は、そのくらいの違和感でしかなかった。
けれど今、状況は前よりもずっと悪くなってる。
だから私は、急いで道を引き返さないといけない。
だから私は、急いで道を引き返さないといけない。
私達に関する情報があるのは、あの研究施設くらいだから。
もしあれが、いつか眠りの外側にまで及ぶのなら……
もしあれが、いつか眠りの外側にまで及ぶのなら……
無法者の杖
ここはとても大きく、それは美しい宝石のようなお城。
人々の英知と富が集まる、ステキなお城。
人々の英知と富が集まる、ステキなお城。
わたしは王様、このお城の王様。
いちばん偉いから、こんな立派な杖を持ってるの。
いちばん偉いから、こんな立派な杖を持ってるの。
ぼくは子分、王様の子分。
いちばん下っ端だから、お掃除当番はいつもぼく。
いちばん下っ端だから、お掃除当番はいつもぼく。
ここはとても大きく、それは汚いガラクタのお城。
人々の死体と廃品が集まる、ゴミ溜めのお城。
人々の死体と廃品が集まる、ゴミ溜めのお城。
神秘石の槍
深い、深い、森の奥でとある男が宝石を拾いました。
その宝石は、見たこともない美麗な光を帯びており、
見つけた男は、これを売れば借金が返せるかもと喜びました。
その宝石は、見たこともない美麗な光を帯びており、
見つけた男は、これを売れば借金が返せるかもと喜びました。
男は、宝石を競売にかけることにしました。
宝石が放つ光は目の肥えた富豪達をも惹きつけ、
一、十、百と、どんどん値段がつり上がっていきます。
宝石が放つ光は目の肥えた富豪達をも惹きつけ、
一、十、百と、どんどん値段がつり上がっていきます。
男は目の飛び出るような金額を前にして、
借金返済どころか、大金持ちになれると大喜びしました。
千、万、億と、競売は続き、値段はまだつり上がっていきます。
借金返済どころか、大金持ちになれると大喜びしました。
千、万、億と、競売は続き、値段はまだつり上がっていきます。
……そして数年の時が過ぎましたが、まだ競売は終わりません。
兆、京、垓……と、宝石の価値は上がり続けていますが、
拾った男は借金が返済できず、地道に働いているといいます。
兆、京、垓……と、宝石の価値は上がり続けていますが、
拾った男は借金が返済できず、地道に働いているといいます。
篤行の仇剣
私には息子がいる。心優しい自慢の息子だ。19歳となった息子は
国のお達しにより戦地へと駆り出されている。私は彼が無事帰還す
ることを毎日心から祈っていた。出征してから半年ほど経とうとし
た今日、息子からもうすぐ本国に戻ると知らせがあった。
国のお達しにより戦地へと駆り出されている。私は彼が無事帰還す
ることを毎日心から祈っていた。出征してから半年ほど経とうとし
た今日、息子からもうすぐ本国に戻ると知らせがあった。
家の近くから息子は電話をよこした。実家を出て2人で暮らしたい
人がいる、今日はその人を紹介したい、と真剣な様子で訴えかける。
私は息子もついに結婚を考える年齢になったのかと、幸せを願い快
諾した。
私は息子もついに結婚を考える年齢になったのかと、幸せを願い快
諾した。
数時間後。玄関を叩く音がする。とうとう息子が家に帰ってきた。
私はいそいそと扉を開ける。外は暗くて視界が悪い。よく見ようと
ランタンをかざす。私は椅子に座る息子とその隣にいる人物の姿を
見て息を飲んだ。
私はいそいそと扉を開ける。外は暗くて視界が悪い。よく見ようと
ランタンをかざす。私は椅子に座る息子とその隣にいる人物の姿を
見て息を飲んだ。
息子は自分の力で体を動かすことができないほど、戦傷を負ってい
た。息子の隣にいたのは、息子が自己犠牲をしてまで庇った友人。
友人は私に向かって一生かけて恩を返し、償うと涙ながらに申し出
る。私は息子の優しさを初めて心から憎んだ。
た。息子の隣にいたのは、息子が自己犠牲をしてまで庇った友人。
友人は私に向かって一生かけて恩を返し、償うと涙ながらに申し出
る。私は息子の優しさを初めて心から憎んだ。
夢財の象牙刀
剣を集めることが趣味の大金持ちの貴族。彼は珍しいもの好きだ。
防具や剣だけでなく、家具や美術品に至るまで、滅多に手に入らな
い逸品を収集している。ある日、極上品が手に入ったと貴族の元に
売人がやって来た。
防具や剣だけでなく、家具や美術品に至るまで、滅多に手に入らな
い逸品を収集している。ある日、極上品が手に入ったと貴族の元に
売人がやって来た。
売人が持参したのは身の回りの世話ができる女の機械人形。貴族は
一度断るものの、格安でなんでもできるという宣伝文句に惹かれ貸
し出しを受ける。期待していなかったが女との生活に慣れると満更
でもない。
一度断るものの、格安でなんでもできるという宣伝文句に惹かれ貸
し出しを受ける。期待していなかったが女との生活に慣れると満更
でもない。
時が過ぎ、再び売人が貴族の元を訪ねる。返却期限が来たと言う。
交友関係の狭い貴族はいつの間にか彼女に依存しきっていた。彼女
なしの生活が考えられなかったため、追加料金を払って彼女を手元
におくことにした。
交友関係の狭い貴族はいつの間にか彼女に依存しきっていた。彼女
なしの生活が考えられなかったため、追加料金を払って彼女を手元
におくことにした。
延長を繰り返し膨大になる支払い。最後まで残していた大切な剣を
売り飛ばし、有り金をかき集めた。その金も尽きた貴族は絶望し自
らの命を絶った。主人が不在になると女は売人の元に自ら歩いて帰
った。売人は言う、お前はなんでもできる便利な女だなと。
売り飛ばし、有り金をかき集めた。その金も尽きた貴族は絶望し自
らの命を絶った。主人が不在になると女は売人の元に自ら歩いて帰
った。売人は言う、お前はなんでもできる便利な女だなと。
黒趾ノ短剣
死者を弔う場として存在していた、とある教会。そこには身寄りの
ない子供達も暮らしていた。教会が街から離れた地に位置していた
ため、子供達は教会から離れた事もなく退屈な日々を送っている。
ない子供達も暮らしていた。教会が街から離れた地に位置していた
ため、子供達は教会から離れた事もなく退屈な日々を送っている。
ある日教会に、黒い鳥を肩に乗せた怪しい雰囲気の女が現れた。旅
の途中だという女は、世界各地の逸話や伝奇を語り、大いに子供達
を沸き立たせる。女性の去り際、子供達は旅への同行を懇願した。
の途中だという女は、世界各地の逸話や伝奇を語り、大いに子供達
を沸き立たせる。女性の去り際、子供達は旅への同行を懇願した。
すると女は子供達に条件を出す。「代わりに何か贈り物を頂戴。私
を一番驚かせた贈り物をくれた子だけ着いて来ても良い」。子供達
は教会の中にある限られた物の中で、三者三様の贈り物を用意した。
を一番驚かせた贈り物をくれた子だけ着いて来ても良い」。子供達
最終的に女の旅に同行を許されたのは、教会の地下にある死者の骸
を差し出し、女の怒りを買った子供だった。もっとも、旅に同行し
たのは、女の連れた鳥の胃袋に入った肉片だけであったが。
を差し出し、女の怒りを買った子供だった。もっとも、旅に同行し
たのは、女の連れた鳥の胃袋に入った肉片だけであったが。
見習い魔女の杖
古くからそこに佇む、魔法使いの学舎。
ふたりの少女とひとりの少年が出会い、
温かな団らんでお互いの孤独を癒した。
ふたりの少女とひとりの少年が出会い、
温かな団らんでお互いの孤独を癒した。
暫しの時を経て、親友となった彼女達。
魔法使いに伝わる『契約の儀』を前に、
各々の想いを形にできず心を痛ませる。
魔法使いに伝わる『契約の儀』を前に、
各々の想いを形にできず心を痛ませる。
祭り後の静けさが漂う、魔法使いの街。
勇気を出し想いを言葉にした彼女達は、
交差した好意を前に、散り散りとなる。
勇気を出し想いを言葉にした彼女達は、
交差した好意を前に、散り散りとなる。
絆を深めたふたりが、契約を交わす日。
少年の死と、親友の少女の失踪により、
少女の心は再び、孤独に呑み込まれた。
少年の死と、親友の少女の失踪により、
少女の心は再び、孤独に呑み込まれた。
無法者の大鉈
来訪者に、咎人達は構えた武器をほどき、顔を見合わせた。
純粋無垢な少女にあてられたのか、意外にも咎人達は彼女の事をか
わいがった。腹は減ってないか、寒くはないか、綺麗な花をあげる
よ、と、咎人達は次々と少女の愛らしさに心が洗われていく。
わいがった。腹は減ってないか、寒くはないか、綺麗な花をあげる
よ、と、咎人達は次々と少女の愛らしさに心が洗われていく。
なで町に降りよう」と訴えたが、その声は届かなかった。
咎人達の集落は、冬眠を逃した野生の巨大熊に襲われた。しかし少
女は、皮肉にも檻の中にいたおかげで事なきを得る。血と肉片に囲
まれた檻の中で、少女は虚ろに囁く。「だから言ったのに……」と。
女は、皮肉にも檻の中にいたおかげで事なきを得る。血と肉片に囲
妄信ノ引キ金
権力者でお金持ち。そんな両親を親にもつ私はいわゆるお嬢様。
常に命を狙われるから、いつからか護衛人がつくようになった。護
衛のために両親とは会わなくなった。でも平気。彼が私のことをい
つも護ってくれているから。
常に命を狙われるから、いつからか護衛人がつくようになった。護
衛のために両親とは会わなくなった。でも平気。彼が私のことをい
つも護ってくれているから。
私は四六時中狙われている。だから彼はずっと私のそばにいて護っ
てくれた。護衛の時間と比例して、私は彼への想いを密かに膨らま
していた。私がお姫様なら、彼はナイトってことね。禁断の恋のよ
うでワクワクするわ。
てくれた。護衛の時間と比例して、私は彼への想いを密かに膨らま
していた。私がお姫様なら、彼はナイトってことね。禁断の恋のよ
うでワクワクするわ。
ある日誘拐犯が現れた。命ではなく、私の身柄が目的のようね。様
子を探ろうと誘拐犯の方に目を向けると、奴は銃を彼に向けていた。
狙いは彼? そんな! 彼は私を守ってくれるが、彼のことは誰が
守るの? 考えるより先に、体が動いていた。
狙いは彼? そんな! 彼は私を守ってくれるが、彼のことは誰が
守るの? 考えるより先に、体が動いていた。
ああ、間に合わなかった。撃ち抜かれて飛び散った頭部を目の当た
りにし、彼の死を突きつけられる。泣き叫ぶ私の元に犯人が駆け寄
り、何故か私の無事を確認してきた。意味がわからない、もうどう
でもいい。私は誘拐犯の銃を奪い、自分の頭を撃ち抜いた。
りにし、彼の死を突きつけられる。泣き叫ぶ私の元に犯人が駆け寄
り、何故か私の無事を確認してきた。意味がわからない、もうどう
でもいい。私は誘拐犯の銃を奪い、自分の頭を撃ち抜いた。
絡繰ノ制裁棒
とある国で華やかな生活を送る貴族。彼は貧乏からの成り上がりで
あった。彼の地位は弛まぬ努力が生んだ結果であったが、周りの貴
族はそれを認めず、彼のことを卑しい成り上がり貴族として忌み嫌
い、避けていた。
あった。彼の地位は弛まぬ努力が生んだ結果であったが、周りの貴
族はそれを認めず、彼のことを卑しい成り上がり貴族として忌み嫌
い、避けていた。
ある日、行商人が歴史的価値があるという古い本と機械仕掛けの杖
を持ってきた。提示された金額はとても高額であったが、成り上が
り貴族の彼は出された商品を一瞥し、少し考えた末に購入を決めて
大金を支払った。
を持ってきた。提示された金額はとても高額であったが、成り上が
り貴族の彼は出された商品を一瞥し、少し考えた末に購入を決めて
大金を支払った。
周りの貴族は、教養のない成り上がりが流れの行商人に騙されて無
価値なものに大金を払ったと噂にし、彼のことを嘲り笑い、馬鹿に
した。
しかし、彼にはこの本を読むことができた。苦労して過ごした貧乏
時代に覚えた言語。そこには機械仕掛けの杖の使用法が書かれてい
た。この本と杖があれば、いつでも周りの貴族を皆殺しにできると
気づいた彼は、独りでニヤリと笑った。
時代に覚えた言語。そこには機械仕掛けの杖の使用法が書かれてい
た。この本と杖があれば、いつでも周りの貴族を皆殺しにできると
気づいた彼は、独りでニヤリと笑った。
金翅・瞬膜
ある広大な大陸の皇国は、長く平和な時世が続いたために芸術文化
が花開いていた。絢爛な画を施された陶磁器は特に莫大な値がつき、
芸術好みの皇帝が蒐集していた。
芸術好みの皇帝が蒐集していた。
この国の片田舎で生まれた娘は、学はなかったが絵を描くのが得意
で、都へ上って丁稚しながら焼き物を学んだ。初めて絵をつけた陶
磁器が官吏の目に留まり、宮廷画家として宮廷へ召し迎えられた。
で、都へ上って丁稚しながら焼き物を学んだ。初めて絵をつけた陶
磁器が官吏の目に留まり、宮廷画家として宮廷へ召し迎えられた。
この娘はまた、美しかった。皇帝は、彼女の才能と美貌のどちらも
いたく称賛し、後宮へと迎えたがった。いつでも好きな時に絵を描
かせてくれるならという条件で、娘はそれを受け入れた。
いたく称賛し、後宮へと迎えたがった。いつでも好きな時に絵を描
かせてくれるならという条件で、娘はそれを受け入れた。
皇帝の寵愛ぶりに、後宮の女達の恨みを買った娘は、ある晩何者か
に右手を切り落とされた。筆を持てなくなった娘は世を嘆き、皇帝
の蒐集物の中から舶来の銃を取り出し、咥えて引き金を引いた。
に右手を切り落とされた。筆を持てなくなった娘は世を嘆き、皇帝
の蒐集物の中から舶来の銃を取り出し、咥えて引き金を引いた。
ミュゲ・ルミエール
貴族の家に生まれた僕は今日もママの言いつけを守る。毎日お勉強
もするし、習い事もたくさんするんだ。僕はママの喜ぶ顔がみたい
んだ。ママが喜んでくれるなら僕は頑張るよ。
もするし、習い事もたくさんするんだ。僕はママの喜ぶ顔がみたい
んだ。ママが喜んでくれるなら僕は頑張るよ。
今日の予定は朝に絵を習って、昼に剣術の稽古、夜になると舞踏会
に出席するんだ。毎日大変だけど、ママが褒めてくれるなら僕はな
んでもするよ。僕は言いつけを守るいい子だからね。
に出席するんだ。毎日大変だけど、ママが褒めてくれるなら僕はな
んでもするよ。僕は言いつけを守るいい子だからね。
ついにママの言いつけを破ってしまった。習い事に行かずに学校の
お友達と川遊びをしてしまったんだ。ママは怒るけど、ほんとはお
友達と外で遊びたいんだよ。
お友達と川遊びをしてしまったんだ。ママは怒るけど、ほんとはお
友達と外で遊びたいんだよ。
あ!すっごくいいことを思いついた! これならママの言いつけを
守ってお友達と遊べるね。なんで今まで思いつかなかったんだろう。
だってママを殺しちゃダメって言ってなかったもんね。
だってママを殺しちゃダメって言ってなかったもんね。
暖氷の街灯
雪の白に塗りつぶされた、暗い夜道。
少女が1人、防寒具も身に着けぬまま歩いています。
手にした銀貨を固く握りしめ、母の待つ家を目指しているのです。
そんな少女の前に雪中から、暖かく光る不思議な杖が現れました。
少女が1人、防寒具も身に着けぬまま歩いています。
手にした銀貨を固く握りしめ、母の待つ家を目指しているのです。
そんな少女の前に雪中から、暖かく光る不思議な杖が現れました。
少女はその暖かな灯に、母の手の温もりを思い出しました。
最後に頭を撫でてくれたのは、いつだったでしょうか。
その記憶に縋りつくように、少女は杖に駆け寄ります。
すると、杖の灯は強く輝き、光が少女を包みました。
最後に頭を撫でてくれたのは、いつだったでしょうか。
その記憶に縋りつくように、少女は杖に駆け寄ります。
すると、杖の灯は強く輝き、光が少女を包みました。
少女は暖かな光の中で、幸せな記憶を思い出します。
昔食べたシチュー。暖炉の前で編み物をする母親。
お気に入りだった手袋とマフラー。飼っていた犬。
杖の灯は一層輝き、おかげで少女は寒くなくなりました。
昔食べたシチュー。暖炉の前で編み物をする母親。
お気に入りだった手袋とマフラー。飼っていた犬。
杖の灯は一層輝き、おかげで少女は寒くなくなりました。
翌朝、杖を手にした少女が氷漬けの姿で発見されました。
その杖は、使用者の暖かな記憶を奪い、灯に変換する魔具でした。
少女は記憶を失い、帰る家さえ分からなくなってしまったのです。
しかし凍った少女の顔には、暖かな笑みが浮かんでいたそうです。
その杖は、使用者の暖かな記憶を奪い、灯に変換する魔具でした。
少女は記憶を失い、帰る家さえ分からなくなってしまったのです。
しかし凍った少女の顔には、暖かな笑みが浮かんでいたそうです。
枢の排剣
むかしむかしあるところに、子供好きの神父がいた。神父は孤児院
を営み、芸術を愛し男の子たちに絵を教えるのが日課である。
を営み、芸術を愛し男の子たちに絵を教えるのが日課である。
神父は子供同士でモデルをさせ、絵の指導をする。子供の丸みのあ
る体型の美しさを説明し、それは芸術そのものであると熱弁した。
る体型の美しさを説明し、それは芸術そのものであると熱弁した。
ある日、男の子が神父に相談しに来た。体の変化に戸惑っているよ
うだ。すると神父は祝いの食事を取ろうとキッチンへ向かう。
うだ。すると神父は祝いの食事を取ろうとキッチンへ向かう。
神父は料理に猛毒の絵の具を混ぜていた。「これで全て大丈夫、私
は芸術を愛し子供たちを愛する神父なのだから」
は芸術を愛し子供たちを愛する神父なのだから」
銀雪の顎
かつて、山辺の都に三人の少女が居た。名のある血筋の本家に生ま
れた一人と、分家生まれの二人。親同士が会う機会も多かった為、
少女達は大人達が難しい話をしている傍ら、共によく遊んでいた。
大人達が山の話をしている時も、跡取りの話をしている時も。
れた一人と、分家生まれの二人。親同士が会う機会も多かった為、
少女達は大人達が難しい話をしている傍ら、共によく遊んでいた。
大人達が山の話をしている時も、跡取りの話をしている時も。
ある日、大人達の語る山の景色に興味を抱いた少女達は、近くの山
へ出掛ける事にした。しかし、彼女達の前に現れたのは美しい景色
ではなく、黒い毛皮を着た悲劇だった。それは彼女達三人分の体格
はあろう羆。本家に生まれた少女はその時ある事に気付く。
へ出掛ける事にした。しかし、彼女達の前に現れたのは美しい景色
ではなく、黒い毛皮を着た悲劇だった。それは彼女達三人分の体格
はあろう羆。本家に生まれた少女はその時ある事に気付く。
それは、昨晩母と身支度をした際、確かに鞄に着けた筈の熊除けの
鈴がなくなっていた事。考える時間も許さず、黒い巨体は分家の少
女達へ近付いてゆく。少女の視界の中で一人は尻餅をつき、もう一
人は恐怖に震えていた。彼女は必死に行動を起こそうとする。
鈴がなくなっていた事。考える時間も許さず、黒い巨体は分家の少
女達へ近付いてゆく。少女の視界の中で一人は尻餅をつき、もう一
人は恐怖に震えていた。彼女は必死に行動を起こそうとする。
気付けば彼女は、一人の手を取って駆け出していた。尻餅をついた
もう一人の叫び声を背中に浴びながら。怯えた表情のまま帰宅した
彼女を、母は優しく抱き締める。その時、ちりんと鈴の音がした。
母は少女へ笑顔で告げる、「これで貴女が跡取りよ」と。
もう一人の叫び声を背中に浴びながら。怯えた表情のまま帰宅した
彼女を、母は優しく抱き締める。その時、ちりんと鈴の音がした。
母は少女へ笑顔で告げる、「これで貴女が跡取りよ」と。
黒趾ノ大剣
話の始めに男は語った。
力なく地面に倒れ込み、沢山の黒い鳥に啄まれている少女を見たと。
続いて男は話す。
俺はまだ熱のある少女の体を抱きかかえながら、急いで移動したと。
更に続けて男は言う。
気付けば、血濡れた俺の腕の中で少女はもう息を引き取っていたと。
そして最後に、男は一つ付け足した。
実は今までの話はすべて嘘で、本当は出来事の順番が逆なんだ、と。
稲交接の祷槍
百戦錬磨のその男は、伝え聞くその槍こそが自分に相応しいと考
え、部下に命を下す。「何としても槍を手に入れろ」と。
男の部下は優秀だった。月が満ち、再び欠ける頃には「神の雷」を
辺境の地より見つけ出し、男に献上したのだ。男は部下への労いも
そこそこに、戦場に赴いた。
辺境の地より見つけ出し、男に献上したのだ。男は部下への労いも
そこそこに、戦場に赴いた。
男が「神の雷」を手に戦場を駆ける姿は、まさに雷の閃光だった。
ほとんどの敵を一人で殲滅した男は、自身の力と槍の力を誇示する
ように鬨の声を上げる。
ほとんどの敵を一人で殲滅した男は、自身の力と槍の力を誇示する
ように鬨の声を上げる。
その瞬間。誇らしげに突き上げられたその槍に、雷が落ちる。男は
立ったまま黒焦げになり、絶命した。部下は後に語る。「あの槍は、
よく雷が落ちていたから、神の雷と呼ばれていたそうですよ」と。
よく雷が落ちていたから、神の雷と呼ばれていたそうですよ」と。
王宮騎士の献身
その騎士の女は王に絶対の忠誠を誓う。
いかに理不尽な命令にも逆らうことはしない。
ただ粛々とその命をこなすのだ。
夜を共にしろという命令にも、逆らうことはなかった。
いかに理不尽な命令にも逆らうことはしない。
ただ粛々とその命をこなすのだ。
夜を共にしろという命令にも、逆らうことはなかった。
美しく、忠実で、若い騎士の女を王は大層気に入っていた。
しかし、それを快く思わなかった王妃は、彼女の追放を企てる。
企てに気づき激怒した王は、彼女に王妃の殺害を命じた。
騎士の女は命じられたその足で王妃のもとに向かい、頭を潰した。
しかし、それを快く思わなかった王妃は、彼女の追放を企てる。
企てに気づき激怒した王は、彼女に王妃の殺害を命じた。
騎士の女は命じられたその足で王妃のもとに向かい、頭を潰した。
横暴な王に忠誠を誓う者は、騎士の女の他には一人もいない。
それ故か、ある日、王は何者かに毒を盛られ倒れてしまう。
見舞いには、もちろん誰も来ない。
意識を取り戻した王は憤慨し、彼女に家臣たちの皆殺しを命じた。
それ故か、ある日、王は何者かに毒を盛られ倒れてしまう。
見舞いには、もちろん誰も来ない。
意識を取り戻した王は憤慨し、彼女に家臣たちの皆殺しを命じた。
毒に侵され、身動きの取れなくなった王は、苦しむばかり。
ついに楽になりたいと、自身の殺害を騎士の女に命じた。
彼女は、その命令にだけは従えないと、泣きながら首を振る。
それから9年もの間、苦痛に叫ぶ王に献身的に尽くしたのだった。
ついに楽になりたいと、自身の殺害を騎士の女に命じた。
彼女は、その命令にだけは従えないと、泣きながら首を振る。
それから9年もの間、苦痛に叫ぶ王に献身的に尽くしたのだった。
電算処理杖
私は暗い部屋の一室で片付けをしていた。過去十数年分の物に溢れ
たこの部屋。ここには私自身の思い出の品々がたくさん詰まってい
る。「スペースは有限、全てを残すことはできない」そう考えた私
は、思い出の品々に別れを告げることにした。
たこの部屋。ここには私自身の思い出の品々がたくさん詰まってい
る。「スペースは有限、全てを残すことはできない」そう考えた私
は、思い出の品々に別れを告げることにした。
数時間もすると整理は進み、処分対象と判断された物が仕分けられ
ていった。ある惑星でもらった傷だらけのアクセサリー。壊れて動
かなくなった仲間の時計。最初の教練で支給された赤く光る装備。
それぞれに思いがあるが、今の私には必要ない。
ていった。ある惑星でもらった傷だらけのアクセサリー。壊れて動
かなくなった仲間の時計。最初の教練で支給された赤く光る装備。
それぞれに思いがあるが、今の私には必要ない。
すべての処分対象を決定し、私の部屋の010100010整理が
10100完1000了101し100000000た00000
000000000000000000000000000000
00000000000000000000
10100完1000了101し100000000た00000
000000000000000000000000000000
00000000000000000000
「部屋の掃除に回ったら、変な女がいたんだ。体からチリチリ音が
するけど意識はない。デフラグがどーのとか聞こえたけど学のな
い俺にはわかんねぇ。まあ、そのままふらふらと部屋からいなく
なってくれたから、掃除の邪魔が消えて良かったけど」
するけど意識はない。デフラグがどーのとか聞こえたけど学のな
い俺にはわかんねぇ。まあ、そのままふらふらと部屋からいなく
なってくれたから、掃除の邪魔が消えて良かったけど」
塗炭の槍
俺はもう、いつ死ぬかもわからない戦場には行きたくなかった。し
かし、弟の病は自然に治るものではない。普通の仕事では、金が集
まるより前に弟の命は尽きてしまうだろう。
かし、弟の病は自然に治るものではない。普通の仕事では、金が集
まるより前に弟の命は尽きてしまうだろう。
硝煙の煙が、人間の死肉をスモークしている。俺は弟の為だと自分
に言い聞かせ、また戦場に戻ってきた。そして、叫び声を上げなが
ら戦地を駆け抜ける。
に言い聞かせ、また戦場に戻ってきた。そして、叫び声を上げなが
ら戦地を駆け抜ける。
死線をくぐり抜け、俺は戦場から生還することができた。そして、
稼いだ金で弟に手術を受けさせてやることもできた。病院で弟が目
を覚ますまで、俺も眠ることにしよう。
稼いだ金で弟に手術を受けさせてやることもできた。病院で弟が目
を覚ますまで、俺も眠ることにしよう。
弟の声で目を覚ます。弟は泣いていた。俺は、お前が無事ならそれ
でいいんだと言う。しかし、弟の涙を拭ってやることはもうできな
い。戦場で負傷した俺は、首から下を動かすことができなかった。
でいいんだと言う。しかし、弟の涙を拭ってやることはもうできな
い。戦場で負傷した俺は、首から下を動かすことができなかった。
三翼の銃
感情を持った機械は考える
どうして生まれてきたんだろう
しかし、いくら探してもその答えは見つからない
どうして生まれてきたんだろう
しかし、いくら探してもその答えは見つからない
愛を知った機械は考える
どうしてこんなに悲しいんだろう
しかし、いくら探してもその答えは見つからない
どうしてこんなに悲しいんだろう
しかし、いくら探してもその答えは見つからない
孤独を知った機械は考える
どうして人は死ぬんだろう
しかし、いくら探してもその答えは見つからない
どうして人は死ぬんだろう
しかし、いくら探してもその答えは見つからない
意志を持った機械は考える
この引き金を引いたら会えるだろうか
しかし、その答えは誰も知らない
この引き金を引いたら会えるだろうか
しかし、その答えは誰も知らない
聖憺祭の贈物
ちいさいおへやに、ひとりぼっち。
パパもママも、あそんではくれません。
だけど、赤いふくをきたオジサンがきて、オモチャをくれました。
ボクはムチュウになって、そのオモチャであそびます。
パパもママも、あそんではくれません。
だけど、赤いふくをきたオジサンがきて、オモチャをくれました。
ボクはムチュウになって、そのオモチャであそびます。
だけど、オモチャはすぐに、こわれてしまいます。
すると、赤いオジサンがまた、きてくれました。
オジサンは、どんなオモチャがほしいか、ききます。
ボクはジョウブなオモチャがほしいと、こたえました。
すると、赤いオジサンがまた、きてくれました。
オジサンは、どんなオモチャがほしいか、ききます。
ボクはジョウブなオモチャがほしいと、こたえました。
赤いふくのオジサンは、ヘイタイさんのオモチャをくれました。
そのオモチャはジョウブでしたが、また壊れてしまいます。
だけど、赤いオジサンはボクがオモチャをこわすたび、
あたらしいオモチャを、たくさんたくさんくれました。
そのオモチャはジョウブでしたが、また壊れてしまいます。
だけど、赤いオジサンはボクがオモチャをこわすたび、
あたらしいオモチャを、たくさんたくさんくれました。
きがつくと、へやのなかも、ボクのふくも、ても、オジサンのふく
とおなじいろになっていました。オジサンはボクとあそんだらねむ
くなったのか、へやで寝ています。ボクはおもいきって、へやをで
てみることにしました。するとおそとにはたくさんのオモチャがあ
とおなじいろになっていました。オジサンはボクとあそんだらねむ
くなったのか、へやで寝ています。ボクはおもいきって、へやをで
てみることにしました。するとおそとにはたくさんのオモチャがあ
偏愛ノ角
またこの季節がやってきた。今年はいつもにもまして寒い。彼は体
の具合が悪く、クリスマス前までにプレゼントの数を準備すること
ができなかった。とは言え待ってる子供たちの為、雪の降る夜の街
に出発した。
の具合が悪く、クリスマス前までにプレゼントの数を準備すること
ができなかった。とは言え待ってる子供たちの為、雪の降る夜の街
に出発した。
母と子が暮らす家に入り、願い事を書いた紙を見つけた。「母さん
の声が聞きたい」彼は耳の聞こえないその子供の願いを叶える為、
自分の耳をプレゼントすることにした。「この耳で母さんのお話を
たくさん聞くんだぞ」
の声が聞きたい」彼は耳の聞こえないその子供の願いを叶える為、
自分の耳をプレゼントすることにした。「この耳で母さんのお話を
たくさん聞くんだぞ」
兄弟が暮らす家に入り弟の手紙を見つけた。「兄さんを助けたい」
腕が不自由な兄は手紙が書けず、弟はその兄の力になりたいのだろ
う。彼は自分の両腕をプレゼントすることにした。「この腕で兄思
いの弟を守ってやれ」
腕が不自由な兄は手紙が書けず、弟はその兄の力になりたいのだろ
う。彼は自分の両腕をプレゼントすることにした。「この腕で兄思
いの弟を守ってやれ」
次に入った家の少女は目が見えなかった。彼は少女に目をプレゼン
トする。ゆっくりと目蓋を開ける少女。その前に立っていたのは耳
も腕も目もない薄気味悪い化物。「泥棒!」と叫び、少女はオノで
殺してしまった。
トする。ゆっくりと目蓋を開ける少女。その前に立っていたのは耳
も腕も目もない薄気味悪い化物。「泥棒!」と叫び、少女はオノで
殺してしまった。
耽溺の風花
一年中白く覆われた世界。そこは溶けない雪が積もる小さな村だっ
た。その村では雪だるまを作ると命が宿ると言われていた。その村
の子供は皆、一人ひとつの雪だるまを連れて生活していた。
た。その村では雪だるまを作ると命が宿ると言われていた。その村
の子供は皆、一人ひとつの雪だるまを連れて生活していた。
幼い頃にひとつ雪だるまを作り、パートナーにする。それがその村
の風習であった。言葉を教え、愛を注ぎ、生活を共にし、家族のよ
うに過ごすのだ。
の風習であった。言葉を教え、愛を注ぎ、生活を共にし、家族のよ
うに過ごすのだ。
雪だるまを連れ歩いているのは未成年のみ。何故なら成人したらそ
の雪だるまを食べるからだ。命の大切さを学ぶためと大人に諭され、
子供たちは悲しみながら食し、大人になる。
子供たちは悲しみながら食し、大人になる。
というのが、村を訪れて知った風習だ。取材のために数年間過ごし
てみたが、あの村は何かおかしい。成人の儀が終わると人が変わっ
たようになるのだ。何かに取り憑かれたように。
てみたが、あの村は何かおかしい。成人の儀が終わると人が変わっ
たようになるのだ。何かに取り憑かれたように。
裁定の槍
君だけがボクをわかってくれた。勇敢な人だった。
ボクは君に憧れた。でもボクは、臆病な奴だった。
ボクは君に憧れた。でもボクは、臆病な奴だった。
目を閉じるたびに思い出す。罪を暴いた君の姿。
そしてそのせいで、君がどんな目に遭ったのか。
そしてそのせいで、君がどんな目に遭ったのか。
ボクは3日程泣いたあと、丸くなった背筋を伸ばした。
そして決意した。ボクが、君の代わりに正義を貫くと。
そして決意した。ボクが、君の代わりに正義を貫くと。
20年後、この国ではもう誰も目を開くことはなくなった。
ボクが国の長になって、すべての人の瞳を槍で貫いたから。
ボクが国の長になって、すべての人の瞳を槍で貫いたから。
黒趾ノ祀杖
儀式や魔術には往々にして贄や供物が必要となる。
命あるものに奇跡をもたらすなら、それらもまた命であった。
命あるものに奇跡をもたらすなら、それらもまた命であった。
ある女は自身の願いを叶えるため、東西古今の文献を探り、
あらゆる魔術、儀式を自らの手で準備し、試したと言う。
あらゆる魔術、儀式を自らの手で準備し、試したと言う。
その過程で彼女は多くの命を手に掛けた。黒い鳥類や蜥蜴、
百足などの不審な死体が多数発見され、近隣住民が慄くほどに。
百足などの不審な死体が多数発見され、近隣住民が慄くほどに。
だが、あらゆる魔術と儀式に頼っても、女の願いは叶わない。
いくら贄を捧げても、死した彼女の魂が再び体を得る事はなかった。
夢想ノ小銃
母親に一丁の拳銃を貰った。明日から一人前の男になるよ。
そう覚悟を決め、俺は眠りについた。
そう覚悟を決め、俺は眠りについた。
最初の仕事はとある男の暗殺だった。
バンッ。はい、終わり。簡単な仕事だな。
バンッ。はい、終わり。簡単な仕事だな。
早速次の仕事を依頼された。才能がある者の悩みだ。
完璧な依頼遂行のため、ゆっくりと眠るとしよう。
完璧な依頼遂行のため、ゆっくりと眠るとしよう。
カンカンカン。カンカンカンカン。
けたたましい音に驚き、飛び起きた。お母さんうるさい!
誕生日なんだからもうちょっと寝させてよ!
プレゼントの拳銃の玩具を胸に抱え、俺は布団に入り直した。
けたたましい音に驚き、飛び起きた。お母さんうるさい!
誕生日なんだからもうちょっと寝させてよ!
プレゼントの拳銃の玩具を胸に抱え、俺は布団に入り直した。
三翼の大剣
王族の奴らは滅茶苦茶だ……
国中の鍛冶屋を集めて、こんな事をさせるなんて。
だが俺にだって誇りはある、奴らの言いなりにはならない。
俺は人を守るためにこの仕事をしてきたんだ。
国中の鍛冶屋を集めて、こんな事をさせるなんて。
だが俺にだって誇りはある、奴らの言いなりにはならない。
俺は人を守るためにこの仕事をしてきたんだ。
仲間の鍛冶屋には、金で懐柔されちまった奴もいるらしいが、
俺は、そんなもののために生きてるわけじゃない。
いくら金を積まれても、王族の犬になる気はない。
さっさと諦めて俺を解放しやがれ。
俺は、そんなもののために生きてるわけじゃない。
いくら金を積まれても、王族の犬になる気はない。
さっさと諦めて俺を解放しやがれ。
今までの言葉は撤回する。わかった、何でもやる。
だから家族には手を出さないでくれ、頼む。
だが、俺の仕事は金属を打つことであって、
人に金槌を振るったことなんてないんだぞ……
だから家族には手を出さないでくれ、頼む。
だが、俺の仕事は金属を打つことであって、
人に金槌を振るったことなんてないんだぞ……
俺ができるのはここまでだ。早く家に帰らせてくれ。
そして『実験』を終えたあと、土産だといって渡されたのは、
俺がやったように、体中をばらばらにされ、
機械によって継ぎ接ぎされた、変わり果てた家族の亡骸だった。
そして『実験』を終えたあと、土産だといって渡されたのは、
俺がやったように、体中をばらばらにされ、
機械によって継ぎ接ぎされた、変わり果てた家族の亡骸だった。
Si'F-ADVtest
「何か、叶えたい夢とかあったりしないの?」
オリジナルの問いの意味が、私には解らなかった。
夢という言葉の意味を、私は知らない。
オリジナルの問いの意味が、私には解らなかった。
夢という言葉の意味を、私は知らない。
だから、私は研究員にその意味を尋ねた。
研究者は簡潔に答えた。
「睡眠中の人類が、主に視覚で感じていた心像をそう呼びます」
研究者は簡潔に答えた。
「睡眠中の人類が、主に視覚で感じていた心像をそう呼びます」
それから研究員は、いくつかの情報を補足する。
記憶の整理、人が見出した価値について。そして最後にこう言った。
「一般的な睡眠を行わない皆さんは、見る機会はないと思います」
「一般的な睡眠を行わない皆さんは、見る機会はないと思います」
研究員の話を聞いた後、私はオリジナルに答えた。
「私たちは眠らないので、夢を見ることはないそうです」
オリジナルは悲しそうに笑う。その笑いの意味も私には解らない。
「私たちは眠らないので、夢を見ることはないそうです」
オリジナルは悲しそうに笑う。その笑いの意味も私には解らない。
無法者の廃材
暇を持て余していた俺は、そこらの廃材を拾い集めて、
ヘンテコな道具を造ってみた。
円筒状の鈍器のような、椅子のような、机のような……
何に使うかは自分でもわからないが、とにかくヘンテコな道具だ。
ヘンテコな道具を造ってみた。
円筒状の鈍器のような、椅子のような、机のような……
何に使うかは自分でもわからないが、とにかくヘンテコな道具だ。
俺はその道具の使い道を探るべく、ふと両手にはめてみた。
するとどうだろう、思いもよらぬ見事な装着感だった。
これはいい、人を殴りつけるのに丁度いいかもしれない。
しかし次の瞬間、俺はあることに気が付いた。
するとどうだろう、思いもよらぬ見事な装着感だった。
これはいい、人を殴りつけるのに丁度いいかもしれない。
しかし次の瞬間、俺はあることに気が付いた。
なんと、その道具が手から抜けなくなってしまったのだ。
俺がこれまでに積み重ねた、暴力沙汰に対する天罰だろうか。
困り果てた俺は、物知りで有名な町長に聞いてみることにした。
すると町長は、「良い医者がいる」と紹介状を書いてくれた。
俺がこれまでに積み重ねた、暴力沙汰に対する天罰だろうか。
困り果てた俺は、物知りで有名な町長に聞いてみることにした。
すると町長は、「良い医者がいる」と紹介状を書いてくれた。
俺は紹介状に書かれた医者を訪ねてみた。
医者は俺の手を見ると、さらりと「外せるよ」と言った。
直後、何人かの見習い医師達が俺の身体を取り押さえる。
医者は大きなノコギリを取り出すと、俺の手首に当てた……
医者は俺の手を見ると、さらりと「外せるよ」と言った。
直後、何人かの見習い医師達が俺の身体を取り押さえる。
医者は大きなノコギリを取り出すと、俺の手首に当てた……
孤高ノ髄
臆病な怪物がいた。
誰よりも体が大きいのに、誰よりも臆病なのだ。
それゆえに、仲間達からはいつも馬鹿にされていた。
誰よりも体が大きいのに、誰よりも臆病なのだ。
それゆえに、仲間達からはいつも馬鹿にされていた。
怪物が臆病なのは、誰よりも大きな力を持っているせいだった。
うっかり仲間を殺してしまわないか、それが不安だったのだ。
だから、臆病な怪物は静かに静かに過ごしていた。
うっかり仲間を殺してしまわないか、それが不安だったのだ。
だから、臆病な怪物は静かに静かに過ごしていた。
本当の強さは、怪力をふるうことではない。
本当の強さは、仲間を守るために立ち上がれることだ。
臆病な怪物は、そう考えていたのだ。
本当の強さは、仲間を守るために立ち上がれることだ。
臆病な怪物は、そう考えていたのだ。
仲間達はそれを知らない。
どうしたことか、弱虫だ臆病者だと怪物をけなしながらも、不思議
とその怪物の周囲には、いつも仲間達の姿が絶えないのだった。
どうしたことか、弱虫だ臆病者だと怪物をけなしながらも、不思議
とその怪物の周囲には、いつも仲間達の姿が絶えないのだった。
緋柊旋
クリスマスはわたしのたんじょうび!おじいちゃんやおばあちゃん
がおうちにきて、みんなでおいしいごはんをたべておいわいするの。
プレゼントをもらって、かわいいおようふくをきて、とくべつなき
ぶん! たのしいじかんはあっというま!
プレゼントをもらって、かわいいおようふくをきて、とくべつなき
ぶん! たのしいじかんはあっというま!
今年のクリスマスは私のおたんじょうびパーティ。おへやをかざっ
て、お友だちをよんで、一緒にケーキを作るの。ママのごはん、お
いしい。プレゼントもよういしたからあとでこうかんしようね。今
日は来てくれてありがとう!
て、お友だちをよんで、一緒にケーキを作るの。ママのごはん、お
いしい。プレゼントもよういしたからあとでこうかんしようね。今
日は来てくれてありがとう!
彼と過ごす初めてのクリスマス。これまでは誕生日と重なって残念
な気持ちで過ごしていたの。でもあなたのおかげで今日は素敵な日
になったわ。食事の最後に出てきた指輪。プロポーズしてくれてあ
りがとう。一緒に幸せになろうね。
な気持ちで過ごしていたの。でもあなたのおかげで今日は素敵な日
になったわ。食事の最後に出てきた指輪。プロポーズしてくれてあ
りがとう。一緒に幸せになろうね。
あれから50年。誕生日が嬉しい年齢ではなくなったわ。もう貴方
と一緒にお祝いはできないけれど、私がその分子供たちにしてあげ
る。もう数えるほどしかお祝いはできないと思うの。あと少しでそ
ちらにいくから待っててくださいね。
と一緒にお祝いはできないけれど、私がその分子供たちにしてあげ
る。もう数えるほどしかお祝いはできないと思うの。あと少しでそ
ちらにいくから待っててくださいね。
CRUD-lore
人物記録:李 玄植
災害発生に備えて作成された、避難時点呼リストにて氏名を確認。
恐らく通常の研究員と思われるが資料が少ない。もしかすると、情
報を意図的に抹消された人物かもしれない? 念のため記録。
災害発生に備えて作成された、避難時点呼リストにて氏名を確認。
恐らく通常の研究員と思われるが資料が少ない。もしかすると、情
報を意図的に抹消された人物かもしれない? 念のため記録。
人物記録:イーサン・クロウリー
当時の本施設で所長を務めていた人物。大きな財力の裏側には、政
府による援助があったのではと噂されていた。これまた噂だが、気
弱な性格の為、政府から圧力を受けた傀儡と疑われもしたそうだ。
当時の本施設で所長を務めていた人物。大きな財力の裏側には、政
府による援助があったのではと噂されていた。これまた噂だが、気
弱な性格の為、政府から圧力を受けた傀儡と疑われもしたそうだ。
人物記録:デイビッド・アンダーウッド
かつて本施設で行われた研究の内、人体に関する物の主幹研究員。
同じ研究所から移籍した、一部研究員からは主任と呼ばれていた。
恐らく呼称の更新がされなかったのみで、他意はないと思われる。
かつて本施設で行われた研究の内、人体に関する物の主幹研究員。
同じ研究所から移籍した、一部研究員からは主任と呼ばれていた。
恐らく呼称の更新がされなかったのみで、他意はないと思われる。
人物記録:ヘレナ・アンダーウッド
【編集済み】
【編集済み】
玉響の泰平
海に囲まれた小国の話。穏やかな国に暮らす民たちは、その安寧の
日々が続くよう願いをかけ、白い優美な鐘をこしらえた。作られた
鐘は宮殿に置かれ、毎日の祈りの時間に鳴らされるのが決まりだ。
日々が続くよう願いをかけ、白い優美な鐘をこしらえた。作られた
鐘は宮殿に置かれ、毎日の祈りの時間に鳴らされるのが決まりだ。
白い鐘は特別な金属で作られていた。故に、他のどんな物とも違う
美しい音色を奏でるという。その鐘の音が響くとき、国民は宮殿の
方角へ祈りを捧げた。平和の素晴らしさに、心から感謝しながら。
美しい音色を奏でるという。その鐘の音が響くとき、国民は宮殿の
方角へ祈りを捧げた。平和の素晴らしさに、心から感謝しながら。
けれども平穏な時間は永遠には続かないものだ。戦争が起きたので
ある。軍備の手薄であったその国は、瞬く間に敵軍に蹂躙され、荒
廃してゆく。瓦解した宮殿の中に、すでに白い鐘の姿はない……
ある。軍備の手薄であったその国は、瞬く間に敵軍に蹂躙され、荒
廃してゆく。瓦解した宮殿の中に、すでに白い鐘の姿はない……
鐘は溶かされ、兵士達──かつての国民の持つ剣に作り替えられて
いたのである。剣になっても、鐘は美しく立派なままだ。しかし、
ひとたび戦場で振うと、それはそれは醜い音を立てるのだった。
いたのである。剣になっても、鐘は美しく立派なままだ。しかし、
ひとたび戦場で振うと、それはそれは醜い音を立てるのだった。
風化せし天意
男たちは金脈を求め、海を越えてやってきた。疲れた体を癒し、寒
さを凌ぐ為、宿に泊まる。親切な宿の主人の計らいもあり、見知ら
ぬ流れもの同士、酒を酌み交わすことになった。
探鉱者の一人が語る。「俺は一攫千金を狙ってこの地に来たんだ!
大鉱脈を探しあて、貧乏を抜けてやる! 年明けになったら息子
に贅沢をさせてやるんだ」と。男たちは夜中まで騒ぎ、毎晩楽しそ
うに宴会をしていた。
大鉱脈を探しあて、貧乏を抜けてやる! 年明けになったら息子
に贅沢をさせてやるんだ」と。男たちは夜中まで騒ぎ、毎晩楽しそ
うに宴会をしていた。
金脈を求め奥へ奥へと進む。その時爆発音と共に壁が崩れ落ちる音
が聞こえた。慌てて出口へ向かう。出口には薄笑いを浮かべた宿の
主人の姿があった。
宿の主人が紐を引いた瞬間、落石が起こり出口が塞がれた。生き埋
めになった発掘者は悟った。発掘による富の噂は嘘だという事を。
宿の主人が宿泊者を増やすために仕組んだ罠だという事を。鉱員た
ちの叫びが闇の中に消えていった。
めになった発掘者は悟った。発掘による富の噂は嘘だという事を。
宿の主人が宿泊者を増やすために仕組んだ罠だという事を。鉱員た
ちの叫びが闇の中に消えていった。
涅の羽装
童女たちが、遊んでいました。ソレで羽根を突き合い、地に落とさ
ぬように競い合いながら。損なった方は、その相貌を墨で汚して。
楽しそうにコンコンと音を響かせながら、遊んでいました。
楽しそうにコンコンと音を響かせながら、遊んでいました。
その遊戯は、童女たちが健やかに育つようにと、願いが込められて
いたといいます。疫病を運ぶ虫を撥ね退け、患うことがないように
と。ソレには親が子を想う、真心が込められていたのです。
いたといいます。疫病を運ぶ虫を撥ね退け、患うことがないように
と。ソレには親が子を想う、真心が込められていたのです。
次第にソレは、祭礼の意が強くなりました。厄を払い、魔を除ける
ようにと装飾を施され、童女への贈り物になったのです。華美に飾
られ、美術品としての価値を得るようにもなりました。
ようにと装飾を施され、童女への贈り物になったのです。華美に飾
られ、美術品としての価値を得るようにもなりました。
娘を想う母親が、ソレを血で染めました。娘に付く悪い虫の頭を撥
ね、地に転がった頭を叩き潰したのです。娘に近づく男たちを殺す
度、装飾は剝がれ落ち、ソレはどす黒く汚れていきました。
ね、地に転がった頭を叩き潰したのです。娘に近づく男たちを殺す
度、装飾は剝がれ落ち、ソレはどす黒く汚れていきました。
金翅・尾筒
先代皇帝の遺言は、帝国内に大きな波乱を引き起こした。その内容
は、三人の息子全員に皇位を継がせる、という物だったからだ。そ
の遺言には、玉座を狙っていた息子達も困惑した。
は、三人の息子全員に皇位を継がせる、という物だったからだ。そ
の遺言には、玉座を狙っていた息子達も困惑した。
三人の息子達は皆、自身こそが皇位を継ぐべき者だと、他者を貶め
る為の罪を重ねていた。皇帝に歯向かう者など居ない、自身が皇位
を継げば、過去の罪を非難できる者はいない。そう考えていたのだ。
る為の罪を重ねていた。皇帝に歯向かう者など居ない、自身が皇位
だから息子達にとって、対等な「他の皇帝」の存在は脅威だった。
人生をかけて進めてきた計画を破綻させられる訳にはいかない。息
子達は兄弟である他の皇帝を消す為、更なる大罪を犯していった。
人生をかけて進めてきた計画を破綻させられる訳にはいかない。息
子達は兄弟である他の皇帝を消す為、更なる大罪を犯していった。
夥しく積み上がる、皇帝の駒だった者達の屍。激化していく権力争
い。それを国民に隠し通すのはもはや不可能であり、不信感を募ら
せた国民や官吏が徒党を組むまでに、そう時間はかからなかった。
い。それを国民に隠し通すのはもはや不可能であり、不信感を募ら
せた国民や官吏が徒党を組むまでに、そう時間はかからなかった。
黒趾ノ短銃
僕は昔から天才と呼ばれていた。
何をやっても初めから上手くできたし、
誰かに負けたことや失敗したことなんて一度もなかった。
何をやっても初めから上手くできたし、
誰かに負けたことや失敗したことなんて一度もなかった。
だからこそ、初めて失敗してからの人生は最低だった。
今まで向けられていた期待や羨望の目線が、
嘲笑や失望の視線に変わり、自分の存在意義さえ分からなくなった。
今まで向けられていた期待や羨望の目線が、
全ての景色が不快に思えた、正しく青く居られる空さえ憎かった。
ゴミを啄んで好き勝手に生きる黒い鳥の鳴き声さえ、
僕の事を笑っているように感じられた。だから黙らせた。
ゴミを啄んで好き勝手に生きる黒い鳥の鳴き声さえ、
僕の事を笑っているように感じられた。だから黙らせた。
また笑い声が聞こえる。君だって、笑ってるんだろう?
血溜の大爪
暗闇の中で目覚める、一人の怪物。
じめりとした強い湿気だけが五感に刺さる。
ここは一体どこなのか、見当もつかない。
怪物は、何も見えないまま手探りで辺りをうろついた。
じめりとした強い湿気だけが五感に刺さる。
ここは一体どこなのか、見当もつかない。
怪物は、何も見えないまま手探りで辺りをうろついた。
闇の中をしばらく進むと、行き止まりに突き当たった。
上のほうから、かすかに風が吹き下ろしてくる。
もしかしたら出口があるかもしれない──
怪物は、硬い爪を壁に突き立て、よじ登ることにした。
上のほうから、かすかに風が吹き下ろしてくる。
もしかしたら出口があるかもしれない──
怪物は、硬い爪を壁に突き立て、よじ登ることにした。
壁を登るにつれて、次第に風が強くなっていく。
一定の間隔で、ビュー、ビューと強風が吹き下ろす。
吹き飛ばされないよう、怪物はさらに爪を壁に食い込ませる。
そうして必死に登り続けると、出口らしき光が飛び込んできた。
一定の間隔で、ビュー、ビューと強風が吹き下ろす。
吹き飛ばされないよう、怪物はさらに爪を壁に食い込ませる。
そうして必死に登り続けると、出口らしき光が飛び込んできた。
荒廃した台地に戻った怪物の耳に、地鳴りのような声が響く。
「腹から飯が逃げ出したか。ちゃんと噛まないとだめだな」
次の刹那、外に出たはずの怪物の姿は、忽然と消えていた。
巨大な歯牙に食い千切られた、硬い爪だけを残して……
「腹から飯が逃げ出したか。ちゃんと噛まないとだめだな」
次の刹那、外に出たはずの怪物の姿は、忽然と消えていた。
巨大な歯牙に食い千切られた、硬い爪だけを残して……
孤高ノ骨
とある怪物の小さな小さな子供達は、いつも腹を空かせています。
今日は、生物学上の母親が与えてくれた木の実を、生物学上の兄弟
達と分け合って食べました。
今日は、生物学上の母親が与えてくれた木の実を、生物学上の兄弟
達と分け合って食べました。
次の日、怪物の小さな子供達は、生物学上の父親が狩ってきた獲物
を、生物学上の兄弟達と分け合いましたが足りず、奪い合って食べ
ました。獲物にありつけなかった子は空腹で死にました。
を、生物学上の兄弟達と分け合いましたが足りず、奪い合って食べ
ました。獲物にありつけなかった子は空腹で死にました。
兄弟達は共食いを始め、食べられた子は死にました。
また次の日、怪物の子供は、生物学上の母親と父親が木の実と獲物
を持ってきましたが十分に足りず、生物学上の母親と父親を食べま
した。こうやって、この怪物種は成長していくのです。
を持ってきましたが十分に足りず、生物学上の母親と父親を食べま
した。こうやって、この怪物種は成長していくのです。
嘆傷の響き
生き物の気配すらない、薄暗い森の奥。
白き布を被る醜い獣人が、鏡に向かう。
映る影が語る。叶えたい願いは何かと。
白き布を被る醜い獣人が、鏡に向かう。
映る影が語る。叶えたい願いは何かと。
我を忘れたように、獣人は街を荒らす。
影の願いを叶え、己の願いを叶える為。
最後の影の願いは、魔法使い百人の命。
影の願いを叶え、己の願いを叶える為。
最後の影の願いは、魔法使い百人の命。
己が願望の為に、命を刈り続ける獣人。
眼前に現れた少女は、獣の正体を察す。
学舎で青春を過ごした眼鏡の親友だと。
眼前に現れた少女は、獣の正体を察す。
学舎で青春を過ごした眼鏡の親友だと。
語られた親友の少年が死を遂げた真相。
現実に耐えられず、自ら命を絶つ少女。
偽りの影も消え去り、獣人は絶望する。
現実に耐えられず、自ら命を絶つ少女。
偽りの影も消え去り、獣人は絶望する。
神宿りの杖
首席を取った私は、全校生徒の前で校長から表彰された。
毎年、首席には特別な杖が授与されるという習わしがある。
伝説の大魔導士が作った、由緒正しき杖だそうだ。
毎年、首席には特別な杖が授与されるという習わしがある。
伝説の大魔導士が作った、由緒正しき杖だそうだ。
偉大な魔導士だけが使えるという、輪廻転生の魔法。
かつてこの杖を作った伝説の大魔導士は、
その魔法で自らの魂をこの杖に宿らせたという。
かつてこの杖を作った伝説の大魔導士は、
その魔法で自らの魂をこの杖に宿らせたという。
故に、この杖を術者の命令に従わせるには、
膨大な魔力と生命力が必要となる。
私はこの杖を使いこなすため、自身を高める特訓を重ねた。
膨大な魔力と生命力が必要となる。
私はこの杖を使いこなすため、自身を高める特訓を重ねた。
魔力も生命力も、私のすべてが杖に吸収されていく。
恐ろしくなった私は、杖を校長に返却することにした。
その際、校長が舌打ちしたように見えたが、気のせいだろうか……
恐ろしくなった私は、杖を校長に返却することにした。
その際、校長が舌打ちしたように見えたが、気のせいだろうか……
虚煌の拳
昔々、隣り合った二つの国に、王子様とお姫様がいました。
お姫様は美しく快活で、何でもできる国民の人気者。
対して隣国の王子様は、内気で泣き虫な真反対の性格です。
お姫様は美しく快活で、何でもできる国民の人気者。
対して隣国の王子様は、内気で泣き虫な真反対の性格です。
両国は和平の為に、二人の婚約を求めました。
泣いてばかりの王子様に、初めはお姫様も呆れていましたが、
次第にふたりは仲を深め、志をひとつにするようになります。
泣いてばかりの王子様に、初めはお姫様も呆れていましたが、
次第にふたりは仲を深め、志をひとつにするようになります。
しかし、和平は実を結ばず、戦争が両国を飲み込みました。
引き裂かれる間際、王子様は銀のリングをお姫様に渡します。
いつか停戦の後、世界のどこかで再会する為の目印として……
引き裂かれる間際、王子様は銀のリングをお姫様に渡します。
いつか停戦の後、世界のどこかで再会する為の目印として……
アア…… 人形ノ手ガ 壊レチャッタ。
セッカク イイトコロ ダッタノニ。
直シテ マタ遊ビマショ 私ノ 愛シイ人……
セッカク イイトコロ ダッタノニ。
直シテ マタ遊ビマショ 私ノ 愛シイ人……
悔恨の鍋掴み
うちの夫はシェフ。彼は身なりも気にせず四六時中働いている。出
かけようと誘っても、休みが無く遊びに連れて行ってくれない。私
たち夫婦は外食に行ったこともないのに近所の夫婦やカップルが夫
の店でデートを楽しんでいる。
かけようと誘っても、休みが無く遊びに連れて行ってくれない。私
たち夫婦は外食に行ったこともないのに近所の夫婦やカップルが夫
の店でデートを楽しんでいる。
外食ができない私は今日も家でスープを作っている。一緒に食べよ
うと旦那に声をかけたが、残業が続いていて食べられないと言われ
た。いろいろなところへ出かけられて、夫婦の会話が弾むような家
庭になるはずだった。周りの夫婦が羨ましくて仕方ない。
うと旦那に声をかけたが、残業が続いていて食べられないと言われ
た。いろいろなところへ出かけられて、夫婦の会話が弾むような家
庭になるはずだった。周りの夫婦が羨ましくて仕方ない。
夫は仕事柄、指に火傷を負うことが多い。私は夫の為にミトンを縫
うことにした。これで夫も火傷せずに済むだろう。そしてこれを渡
したら私は家庭を顧みない夫に離婚を告げるつもりだ。私は出来上
がったプレゼントを持って夫の店へ向かった。
うことにした。これで夫も火傷せずに済むだろう。そしてこれを渡
したら私は家庭を顧みない夫に離婚を告げるつもりだ。私は出来上
がったプレゼントを持って夫の店へ向かった。
店に着くと旦那は椅子に座ったまま死んでいた。側には袋があり、
中には婚約指輪が入っている。貧乏だった私たちは指輪も買えず、
結婚式もあげられていなかった。彼は指輪を買うために必死に働き、
お金を貯めていたのだ。私は、ミトンを……
中には婚約指輪が入っている。貧乏だった私たちは指輪も買えず、
お金を貯めていたのだ。私は、ミトンを……
式皇の鎖骨
昔話をしよう、永遠の命に興味はあるか?
魔法と科学、双方の技術に富んだある国があってな、
そこでは永遠の命を目指し、日々研究が行われていたんだ。
魔法と科学、双方の技術に富んだある国があってな、
そこでは永遠の命を目指し、日々研究が行われていたんだ。
機械の体へ、魔法を用いて人間性を固着する。
それが彼等の考えた、永遠の命の作り方って訳だ。
長年苦労したようだが、ある時彼等はようやくそれを実現した。
それが彼等の考えた、永遠の命の作り方って訳だ。
長年苦労したようだが、ある時彼等はようやくそれを実現した。
遂に実現した永遠の命、しかしソイツは素材に問題があってな。
簡単に言ってしまえば、他人の命が素材として必要だったんだ。
結局、権力者の所為で多くの人間が犠牲になっちまった。
簡単に言ってしまえば、他人の命が素材として必要だったんだ。
結局、権力者の所為で多くの人間が犠牲になっちまった。
それからたったの十年後だよ、あの国が滅んだのは。
永遠の命と言いながら所詮は機械だ、壊されちまえば意味も無い。
あれだけデカい代償を払ったってのに馬鹿な話だよ、まったく。
永遠の命と言いながら所詮は機械だ、壊されちまえば意味も無い。
あれだけデカい代償を払ったってのに馬鹿な話だよ、まったく。
銀雪の爪
始めは私一人だった。当然と言えば当然のことだ。
規範だとか、伝統だとか、過去に従って安心したいだけの奴等に、
私はこれ以上関わりたくなかった。だから一人で逃げ出したんだ。
規範だとか、伝統だとか、過去に従って安心したいだけの奴等に、
私はこれ以上関わりたくなかった。だから一人で逃げ出したんだ。
雪山で狼と暮らすようになった私の元に、ある日来訪者が現れた。
それはかつての友人。彼女も多くの過去に苦しんでいたのを、
私も知っている。狼は群れる物、私は彼女を受け容れる事にした。
それはかつての友人。彼女も多くの過去に苦しんでいたのを、
私も知っている。狼は群れる物、私は彼女を受け容れる事にした。
しかしそれから、段々と群れの人数は増えていった。
それどころか私に教えを求める者まで現れる。私は仙人ではない。
しかし、狼の群れにも長がいる。私は彼等を導こうとした。
それどころか私に教えを求める者まで現れる。私は仙人ではない。
しかし、狼の群れにも長がいる。私は彼等を導こうとした。
だが、私の考えと彼等の態度はどうしてもずれている。
彼等は私を誇張して妄信し、従う事で安心したいだけなのだ。
何という皮肉だろう、それこそ私が憎んだ物であった筈なのに。
彼等は私を誇張して妄信し、従う事で安心したいだけなのだ。
何という皮肉だろう、それこそ私が憎んだ物であった筈なのに。
稀少鉄器の斬刀
私が持つ剣は軍から支給された標準装備だ。リーチも短く耐久性も
低いこの剣では、敵を倒すどころか自分が生き残ることだって難し
い。どうにか強い武器を手に入れ戦果を上げて多くの金を手に入れ
なければ、なんの為に命を懸けているのか。
低いこの剣では、敵を倒すどころか自分が生き残ることだって難し
い。どうにか強い武器を手に入れ戦果を上げて多くの金を手に入れ
なければ、なんの為に命を懸けているのか。
同じ部隊ですごい男を見た。身の丈と同じぐらいの大剣を振り回し
戦場を縦横無尽に駆け、大量の敵を瞬時に葬る。あれだ。あの剣だ。
あれさえ手に入れれば俺も戦果を上げることができる。俺はもっと
強くなれるはずだ。
あれさえ手に入れれば俺も戦果を上げることができる。俺はもっと
強くなれるはずだ。
あの大剣を持つ男と同じ戦場で戦うことになった。私は男に近づき
援護をする。そして実行した。混乱に乗じてあの男の背中に貧弱な
剣を突き刺したのだ。誰も私の仕業と疑うものはいない。男は死に
最期を看取った私はあの大剣を手に入れた。
援護をする。そして実行した。混乱に乗じてあの男の背中に貧弱な
剣を突き刺したのだ。誰も私の仕業と疑うものはいない。男は死に
最期を看取った私はあの大剣を手に入れた。
この白く美しい大剣が、血で汚れ刃がこぼれ持ち手が汚くなってし
まう姿を見たくなかった。私はまだ美しい状態の大剣を売り、かわ
りに一生使いきれないほどの大金を手にした。今は軍もやめて残り
の人生をゆっくり平穏に過ごしている。
まう姿を見たくなかった。私はまだ美しい状態の大剣を売り、かわ
りに一生使いきれないほどの大金を手にした。今は軍もやめて残り
の人生をゆっくり平穏に過ごしている。
AGW-E14
市民用宇宙エレベータの裏にあるドラゴン像には、決して近寄って
はならない──政府はいつだって口を酸っぱくして言っている。も
しも近づこうものなら、たちまち魂を奪われてしまうらしい。しか
し私は好奇心を抑えきれなくなり、つい像に近づいてしまった。
はならない──政府はいつだって口を酸っぱくして言っている。も
しも近づこうものなら、たちまち魂を奪われてしまうらしい。しか
し私は好奇心を抑えきれなくなり、つい像に近づいてしまった。
私がドラゴンの像に近づいた瞬間、周囲の景色がカードを捲るよう
に次々と変わりだした。春、夏、秋、冬。まるで私だけが時の流れ
に置いていかれているよう。そして私は像であるはずのドラゴンが
翼をはためかせるのを見た。ドラゴンは、本物だったのだ。
に次々と変わりだした。春、夏、秋、冬。まるで私だけが時の流れ
に置いていかれているよう。そして私は像であるはずのドラゴンが
翼をはためかせるのを見た。ドラゴンは、本物だったのだ。
太古の時代、体内に時空間歪曲装置を埋め込まれたドラゴンの周囲
は時の流れが遅くなった。ゆえに遠くからドラゴンを見ると像の様
に止まって見えるのだ──孤独なドラゴンはそう語ると、私に懇願
した。「どうか私の傍で、この長い時を共に生きてくれないか」と。
は時の流れが遅くなった。ゆえに遠くからドラゴンを見ると像の様
に止まって見えるのだ──孤独なドラゴンはそう語ると、私に懇願
怯えてドラゴンの傍から逃げ出した私が見たものは、荒廃し人影の
消えた都市であった。すでに千年以上の月日が過ぎていたのである。
孤独に耐えかねた私が再びドラゴンの元へ近づくと、ドラゴンは私
を迎え入れて微笑んだ。その大きな爪を、私の頭上に振り下ろして。
孤独に耐えかねた私が再びドラゴンの元へ近づくと、ドラゴンは私
竜殺の刃
かつて一匹の竜に支配された国があった。年に一度、討伐を命じる
形で少女を竜のもとへ送り出し、生贄とすることで平和を保つ。
形で少女を竜のもとへ送り出し、生贄とすることで平和を保つ。
出立の際に贈られる刀は、黒々として少女に似つかわしくない。竜
を仕留める為の代物で、何があっても手放してはならないという。
を仕留める為の代物で、何があっても手放してはならないという。
ある年もまた、勝機なしと知っていながら、少女は刀と己を信じて
勇敢に立ち向かう。無論、竜はあっさりと彼女を丸呑みにした。
勇敢に立ち向かう。無論、竜はあっさりと彼女を丸呑みにした。
直後、竜は倒れる。刀を成す鉱物の毒性が年々身体を蝕んでいたの
だ。宿願を叶えた少女らの果敢な姿は、もう誰の記憶にもない。
だ。宿願を叶えた少女らの果敢な姿は、もう誰の記憶にもない。
三翼の拳鍔
意志の強さが兵士の強さだと幼い頃から教え込まれた。だから俺は
躊躇うことなく、導火線が短くなっていく爆弾に手を伸ばす。仲間
を守るためだったら、恐怖だって乗り越えられる……
躊躇うことなく、導火線が短くなっていく爆弾に手を伸ばす。仲間
を守るためだったら、恐怖だって乗り越えられる……
爆弾を手でつかみ、振りかぶる。眼前が広がる光に飲み込まれてい
く。これまでの記憶が、脳内を駆け巡る。部隊の仲間を守るために
死ねるなら、兵士としては本望だ……俺はそう思った。
く。これまでの記憶が、脳内を駆け巡る。部隊の仲間を守るために
死ねるなら、兵士としては本望だ……俺はそう思った。
強い痛みで俺は目覚める。生きていたのか、という安堵を感じるよ
りも先に、死んだ方がましだったかもしれない、と思う。手術台に
縛られた俺は敵の兵士たちに囲まれていた。
りも先に、死んだ方がましだったかもしれない、と思う。手術台に
縛られた俺は敵の兵士たちに囲まれていた。
生まれ変わった俺は戦場に居た。身体中を這う機械の管、腕の先に
は鋼鉄の拳鍔。機械の駆動音と共に身体が動き出す。俺は意志すら
奪われ、敵兵の駒となり、かつて仲間だった兵士達を……
は鋼鉄の拳鍔。機械の駆動音と共に身体が動き出す。俺は意志すら
奪われ、敵兵の駒となり、かつて仲間だった兵士達を……
祝依の魂槍
代々屈強な戦士が国を治めた逸話の残る、とある国。その歴代の王
たちは皆、ありとあらゆる武芸に長け、筋骨隆々で博識であった。
いつの時代も、王は戦の際に常に最前線で戦い、兵に勇気を与え、
古の秘技などを用い、国に数々の勝利をもたらしたという。
たちは皆、ありとあらゆる武芸に長け、筋骨隆々で博識であった。
いつの時代も、王は戦の際に常に最前線で戦い、兵に勇気を与え、
古の秘技などを用い、国に数々の勝利をもたらしたという。
この国の王は、いつの時代もとてつもなく強いのだが、どの王も在
位の期間は短かった。それでも、王の退任ののち、王位を継いだ若
き王子たちは、他国が驚くほど速く、戦士としての頭角を現すため、
国の強さが揺るぐことは決して無かったという。
位の期間は短かった。それでも、王の退任ののち、王位を継いだ若
国の強さが揺るぐことは決して無かったという。
この国では王子が成人を迎えると祝宴の儀式が行われる。またの名
を「親殺しの儀」。それは、王子が祝宴の席で代々引き継がれる槍を
用いて王を貫くという儀式で、それくらいの覚悟が無ければ国を治
めることなど出来ないという、初代王の強い志から始まったという。
用いて王を貫くという儀式で、それくらいの覚悟が無ければ国を治
「親殺しの儀」の様子の一部がある手記に残されている。
「王子は半ば狂乱しながら王の体を槍で突き刺す。直後、膝から崩
れた王子は少しの静寂ののち、ゆっくりと立ち上がり豪快に笑った。
まるで先代の王の生き写しのような笑い方で」。
「王子は半ば狂乱しながら王の体を槍で突き刺す。直後、膝から崩
まるで先代の王の生き写しのような笑い方で」。
黒趾ノ鋼手
一人の狩人が、森の傍の小さな小屋で暮らしていた。
たまに銃声や獣の声を聞くのみの静かな日々だったが、
ある夜に、おとなしそうな一人の女性が狩人の元を訪れた。
たまに銃声や獣の声を聞くのみの静かな日々だったが、
ある夜に、おとなしそうな一人の女性が狩人の元を訪れた。
女性は狩人に一つ依頼をした。
家で飼っていた猛獣が逃げ出してしまい、捕まえて欲しいと言う。
もし生け捕りが難しければ、射殺しても構わないとの話だった。
家で飼っていた猛獣が逃げ出してしまい、捕まえて欲しいと言う。
もし生け捕りが難しければ、射殺しても構わないとの話だった。
1から2メートルの体躯であるという情報から、
その体格に見合った罠を仕掛け、毎朝それを確認に向かった。
泣きながら助けを請うその姿は、猛獣の体を持ちながら、人の……
狩人はそれ以上考える事さえおぞましく、震えた手で発砲した。
乞イスル剣
戦場に取り残された私を、彼は助けてくれた。療養の為、野戦病院
で暮らす私のもとに、時折、見舞いだと言って会いに来てくれる。
平然と敵を殺すと噂される彼は、私の前ではたどたどしい口調で、
日々の戦果や上官の愚痴を話してくれるのだ。
で暮らす私のもとに、時折、見舞いだと言って会いに来てくれる。
平然と敵を殺すと噂される彼は、私の前ではたどたどしい口調で、
日々の戦果や上官の愚痴を話してくれるのだ。
彼が、私の隣の病床へとやってきた。作戦中に無理をして、両足に
怪我をして運び込まれたらしい。日が落ちて周りが静かになる頃、
彼の苦しそうな息遣いが聞こえてきた。私は何故か、その声をもっ
と聴きたくなって、彼のほうへ体を寄せる。
怪我をして運び込まれたらしい。日が落ちて周りが静かになる頃、
彼の苦しそうな息遣いが聞こえてきた。私は何故か、その声をもっ
と聴きたくなって、彼のほうへ体を寄せる。
私は彼の手に触れる。戦場でしか生きられない、人を殺し続けるそ
の手に。薄暗く、むせ返るような血の匂いの中で、彼は弱々しく私
の手を握り返す。あの日、私を助けてくれた力強さとは真逆の……
自分に失われた「何か」を求めるように。
の手に。薄暗く、むせ返るような血の匂いの中で、彼は弱々しく私
の手を握り返す。あの日、私を助けてくれた力強さとは真逆の……
自分に失われた「何か」を求めるように。
私の目が、戦禍で侵され晴れることがないように。あなたの心とそ
の未来に、光が届くことは二度とないのかもしれない。それでも、
私は願わずにはいられない。私たちが沈む闇の中にも、きっと光が
……それがどんなに小さなロウソクのような灯りでも……
の未来に、光が届くことは二度とないのかもしれない。それでも、
私は願わずにはいられない。私たちが沈む闇の中にも、きっと光が
……それがどんなに小さなロウソクのような灯りでも……
無天の杖
ある時、王国に一人目の王子が生まれた。
優しい母と厳格な父の間に生まれた、小さな子。
しかし、体の弱い母は彼が幼いうちにこの世を去ってしまった。
優しい母と厳格な父の間に生まれた、小さな子。
しかし、体の弱い母は彼が幼いうちにこの世を去ってしまった。
王子には、王国の未来を拓く願いを込めて、
「明日」という言葉から由来する名前が、父から与えられた。
その日から彼は、王国の明日へ向かって歩み始める。
「明日」という言葉から由来する名前が、父から与えられた。
その日から彼は、王国の明日へ向かって歩み始める。
だが彼の夢見た未来は、正義は、父とは異なる物だった。
母から教わった優しさと、王である父の教えの狭間で揺らぐ心。
母譲りの弱い体は病をも抱え、彼は心身共に苦しんでいく。
母から教わった優しさと、王である父の教えの狭間で揺らぐ心。
母譲りの弱い体は病をも抱え、彼は心身共に苦しんでいく。
それでも彼は、優しさと正義は同じ物だと信じたかった。
それを証明する為に、彼は自分自身の思い描く明日へ歩み始める。
父に棄てられ、国を追われ、命を擦り減らしてでも。
それを証明する為に、彼は自分自身の思い描く明日へ歩み始める。
父に棄てられ、国を追われ、命を擦り減らしてでも。
虚夢の黒銃
その男は夢を見ない。機械で作られた彼の身体は、そもそもの睡眠
を必要としないからだ。その身体のおかげで、男は過酷な旅の中で
も、片時も離れず主人である少年を護衛することができた。
を必要としないからだ。その身体のおかげで、男は過酷な旅の中で
も、片時も離れず主人である少年を護衛することができた。
旅で迎える朝。少年は目覚めると、夢を見た日には必ず、その内容
を男に話した。男は夢というものを理解できなかったため、無邪気
に語る少年に寄り添って、黙って話を聞くことにしている。
を男に話した。男は夢というものを理解できなかったため、無邪気
に語る少年に寄り添って、黙って話を聞くことにしている。
夢の話をする朝のひと時は、二人にとって数少ない安らぎの時間だ
った。男の夢の話も聞いてみたいと言う少年に、男は言葉を詰まら
せる。少年の微笑みのために、どうにか夢を見れるといいのだが。
った。男の夢の話も聞いてみたいと言う少年に、男は言葉を詰まら
せる。少年の微笑みのために、どうにか夢を見れるといいのだが。
ある朝、男は記憶メモリに不可解な映像が生じたことに気付く。ま
さかこれが。男は夢の報告をしようと主へ声をかけた。……だが、
変わり果てた少年が彼に微笑むことは、もう二度とない。
さかこれが。男は夢の報告をしようと主へ声をかけた。……だが、
変わり果てた少年が彼に微笑むことは、もう二度とない。
残花の棘杖
僕は今日から『学舎』という場所で暮らすことになるみたいだ。晩
餐会では、あるきっかけで仲良くなった女の子ふたりとご飯を食べ
たよ。すごく楽しかったし、なんだかちょっと変だけど……家族と
一緒にいるみたいだなって思った!
餐会では、あるきっかけで仲良くなった女の子ふたりとご飯を食べ
たよ。すごく楽しかったし、なんだかちょっと変だけど……家族と
一緒にいるみたいだなって思った!
最近、家族について考えを改める出来事があったの。その事を無性
に誰かに話したくなって、いつも一緒にいる親友たちに話してみた
んだ。私が思っていたよりずっと真剣に聞いてくれて、ふたりが親
友でよかったって感じたわ。
に誰かに話したくなって、いつも一緒にいる親友たちに話してみた
んだ。私が思っていたよりずっと真剣に聞いてくれて、ふたりが親
友でよかったって感じたわ。
早いもので、もう高等クラスになる……時が止まったような学舎の
中でも、私たちは確実に大きくなっていく。親友たちは私と違って
とても優秀……私も、もっともっと頑張れば、ふたりとこれからも
一緒にいることができるのかな……
中でも、私たちは確実に大きくなっていく。親友たちは私と違って
とても優秀……私も、もっともっと頑張れば、ふたりとこれからも
一緒にいることができるのかな……
先生から『契約』についての話を聞いた。心を通わせた魔法使いが
行う、特別な儀式。想いを寄せる相手と話すだけで、胸が高鳴って
しまう。もし、ふたりで契約したら……三人の絆はどうなってしま
うんだろう……
行う、特別な儀式。想いを寄せる相手と話すだけで、胸が高鳴って
しまう。もし、ふたりで契約したら……三人の絆はどうなってしま
うんだろう……
黒角ノ怨刀
始まりは、どれも同じ色をしていた。
等しく黒く、均しく価値のない。空っぽの鳥たち。
等しく黒く、均しく価値のない。空っぽの鳥たち。
しかし、彼らは多くの物語に触れるうちに、
それぞれ違う色を見出し始めた。違う色に憧れ始めた。
それぞれ違う色を見出し始めた。違う色に憧れ始めた。
だが、彼らは残念なことに、皆黒く濁り切っている。
何を望めど役割は変わらず、他の色を受け容れる余地もない。
何を望めど役割は変わらず、他の色を受け容れる余地もない。
色に憧れた彼らは、しかし何も変わらず終わりを迎える。
何度繰り返そうとも、そう生み出されたが為に。
何度繰り返そうとも、そう生み出されたが為に。
黒角ノ厭剣
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黒角ノ恨槍
疑問:対象のエネルギー源、食糧。
施行:観察。
補足:未確認の地域があれば、帰り道に繋がるかも知れない。
施行:観察。
補足:未確認の地域があれば、帰り道に繋がるかも知れない。
疑問:対象の移動方法。
施行:追跡。
補足:前回は霧で見失ってしまった、体格差を考え肉薄し追跡する。
施行:追跡。
疑問:対象の肉体構造。
施行:皮膚等のサンプル採取。
補足:信じ難い事だが、霧に消えたのではなく体が霧状に変化?
施行:皮膚等のサンプル採取。
補足:信じ難い事だが、霧に消えたのではなく体が霧状に変化?
疑問:
施行:
補足:あれは生き物じゃなイ。にげナくては。
施行:
補足:あれは生き物じゃなイ。にげナくては。
黒角ノ嫌銃
それには小さな心が与えられていた。
翼があるだけでは、羽搏くことなどできないから。
翼があるだけでは、羽搏くことなどできないから。
ゆえに管理者が必要だったのだろう。
しかし管理者にも心があっては、その繰り返しとなってしまう。
しかし管理者にも心があっては、その繰り返しとなってしまう。
その時あれは現れた。
霞の向こうから、雨雲のように。あるいは嵐のように。
霞の向こうから、雨雲のように。あるいは嵐のように。
あれは一つのシステムなのだろう。
死と転生の仮説を模倣し、命によって心を管理するための。
死と転生の仮説を模倣し、命によって心を管理するための。
黒角ノ忌杖
いつものようにフィールドワークから帰ろうとした時、
私の周囲には知らない植物ばかりが生い茂っていた。
真っ赤な草木に覆われた遺跡の様な場所……ここは一体何処だ?
私の周囲には知らない植物ばかりが生い茂っていた。
真っ赤な草木に覆われた遺跡の様な場所……ここは一体何処だ?
研究の成果をまとめなければならないのに、帰り道が分からない。
趣味が高じて生物の研究に身を置いたとはいえ、
熱中し過ぎたと自嘲する。私は探り探り元来た方へ戻ろうとした。
趣味が高じて生物の研究に身を置いたとはいえ、
熱中し過ぎたと自嘲する。私は探り探り元来た方へ戻ろうとした。
どれだけ進んでも見覚えのある道には辿り着かない。
早く帰らなければ、そう焦り始めた時、目の前で大木が揺らめく。
いや、それは大木ではなく、大木のように巨大な草食獣の脚だった。
早く帰らなければ、そう焦り始めた時、目の前で大木が揺らめく。
恐竜の時代にすら、あのような巨体は存在しなかったであろう。
私は喜び勇んで研究に取り掛かる。あの草食獣を見失った時には、
私は帰路の手がかりを完全に見失ってしまっていた。
私は喜び勇んで研究に取り掛かる。あの草食獣を見失った時には、
私は帰路の手がかりを完全に見失ってしまっていた。
黒角ノ憎拳
「ダ……コ…………」
「……ッチヲ……テ……」 「……ウ……テ……」
「……マデ……」 「……テバ……イ……ノ……」
「……ト……サン……」 「……コニ……イ……タノ……」
「……ナ……ハダ……ノ……」「ア……タ……ノナ……ハ……?」
「……ウ……テ…………」「……ズツ……ル…………?」
「……カヨ…………」 「デキ…………ノ……?」
「……ウ……テ…………」「……ズツ……ル…………?」
「……カヨ…………」 「デキ…………ノ……?」
「……ァ……ソウカ……」「……モ……タク……ンダ」
「……イ……ゲンニ……シロ……」 「……マ……スルナ……」
枢の異杖
むかしむかしあるところに、足を引きずり杖をついて歩く、独り身
の女がいた。彼女は美人な上よく働き、人付き合いもよかったため、
周囲からの人望は厚い。彼女が困っているといつも誰かが手を貸し
てくれる。そんな存在であった。
周囲からの人望は厚い。彼女が困っているといつも誰かが手を貸し
てくれる。そんな存在であった。
そんな彼女が街に買い物に出かけ一人で大荷物を運んでいると、見
知らぬ男が荷物持ちを希望し声をかけてきた。お言葉に甘えて、と
彼女が荷物を預けた途端男は荷物を持ち逃げした。彼女はため息を
つく。弱者を狙ったそういう手口か、と。
知らぬ男が荷物持ちを希望し声をかけてきた。お言葉に甘えて、と
彼女が荷物を預けた途端男は荷物を持ち逃げした。彼女はため息を
つく。弱者を狙ったそういう手口か、と。
彼女は動かないはずの足で力強く地を蹴り、男を捕まえた。男は予
想外の出来事に目を疑う。女は懐から縄を取り出し手際良く男を拘
束する。間髪入れず男を殴り殺し、慣れた手つきで身包みを剥ぐ。
しけてんなぁ、と呟く声が静かに響いた。
想外の出来事に目を疑う。女は懐から縄を取り出し手際良く男を拘
束する。間髪入れず男を殴り殺し、慣れた手つきで身包みを剥ぐ。
しけてんなぁ、と呟く声が静かに響いた。
足が悪いというのは嘘であった。彼女は弱者の振りをし、それに集
ってくる輩を殺すことを楽しんでいた。ひったくりなら殺しても誰
も文句を言わない。彼女は慣れた手つきで素早く死体を処理し、何
食わぬ顔で帰路へついた。
ってくる輩を殺すことを楽しんでいた。ひったくりなら殺しても誰
も文句を言わない。彼女は慣れた手つきで素早く死体を処理し、何
食わぬ顔で帰路へついた。
畏友の献身
戦友が死んだ。あいつの剣を継いで、敵国の兵士を一人でも多く、
同じ目にあわせてやる。俺はあいつの顔を思い浮かべて、心に誓っ
た。友が殺された痛みを慰めるには、そうするほかないだろう。
同じ目にあわせてやる。俺はあいつの顔を思い浮かべて、心に誓っ
た。友が殺された痛みを慰めるには、そうするほかないだろう。
殴るような俺の一撃によって、敵軍将校の頭蓋に気持ちの良い大穴
が空く。穴の入り口は捲れて、大きな花弁が開いたようだ。ただ、
そんな無様な屍を見ても、予想に反して心の曇りは晴れなかった。
が空く。穴の入り口は捲れて、大きな花弁が開いたようだ。ただ、
そんな無様な屍を見ても、予想に反して心の曇りは晴れなかった。
心を静めようと敵をなぎ倒すうち、剣は撃力の反作用を受けて、負
荷に耐えきれず壊れてしまった。それを自分の手で直してみると、
ようやく心の傷が少し癒えたような、心地好い感覚を覚えたんだ。
荷に耐えきれず壊れてしまった。それを自分の手で直してみると、
ようやく心の傷が少し癒えたような、心地好い感覚を覚えたんだ。
敵を殺し、剣が壊れ、直す。それを繰り返して友の剣が原形を留め
なくなった頃、俺はついに立ち直れた。ただ、引き換えにあいつへ
の想いに靄がかかってしまったような、そんな気がするのだが。
なくなった頃、俺はついに立ち直れた。ただ、引き換えにあいつへ
の想いに靄がかかってしまったような、そんな気がするのだが。
怪暴の銃
「おい! 君の修理したこの銃がまた暴発して、怪我をしてしまっ
たぞ!」指に包帯を巻いた兵士が、銃を片手に武器の工房にやって
来た。奥の部屋から出て来た武器職人はぶっきらぼうに「へぇ、少
し休めて良かったじゃないか」と皮肉を言って兵士をからかう。
たぞ!」指に包帯を巻いた兵士が、銃を片手に武器の工房にやって
来た。奥の部屋から出て来た武器職人はぶっきらぼうに「へぇ、少
し休めて良かったじゃないか」と皮肉を言って兵士をからかう。
「君の腕を信頼して修理を依頼しているのに、これでは戦果を挙げ
られないじゃないか……」兵士は銃を見つめながら困った表情で語
る。「未熟さを私のせいにするな」と武器職人は兵士の頭を軽く小
突き、壊れた銃を受け取り奥の部屋へと戻っていった。
られないじゃないか……」兵士は銃を見つめながら困った表情で語
る。「未熟さを私のせいにするな」と武器職人は兵士の頭を軽く小
突き、壊れた銃を受け取り奥の部屋へと戻っていった。
武器職人が修理をする度、兵士の銃はより大きな暴発をし、兵士の
怪我もまた酷くなっていった。それでも武器職人に修理を依頼し続
ける兵士。そんなある日、兵士は銃の暴発による大怪我で二度と戦
場に戻ることができない体になってしまった。
怪我もまた酷くなっていった。それでも武器職人に修理を依頼し続
ける兵士。そんなある日、兵士は銃の暴発による大怪我で二度と戦
場に戻ることができない体になってしまった。
数年後、退役した兵士は武器職人の弟子として働いていた。今日も
武器工房からは工具の音と共に、武器職人と元兵士の幸せそうな笑
い声が聞こえてくる。その後、その工房で修理された武器が暴発す
る事は決してなかったという。
武器工房からは工具の音と共に、武器職人と元兵士の幸せそうな笑
い声が聞こえてくる。その後、その工房で修理された武器が暴発す
る事は決してなかったという。
恢棄ノ鉄真
いよいよ明日は、何日も前から準備していたキャンプに出発だ!
持ち物をリュックに詰めて準備万端。わくわくが止まらなくて眠れ
ない! 朝はやく出発だから早く寝ないと。遅刻しないか心配だよ
ー!
持ち物をリュックに詰めて準備万端。わくわくが止まらなくて眠れ
ない! 朝はやく出発だから早く寝ないと。遅刻しないか心配だよ
ー!
今日は待ちに待ったキャンプの日! 広場に集合して出発だ! 目
の前の山を4つ越えた廃棄場の街が今回の目的地みたい。先生と1
0人の仲間と一緒に目的地を目指すのだ! みんなで向かうキャン
プは本当に楽しいな!
の前の山を4つ越えた廃棄場の街が今回の目的地みたい。先生と1
0人の仲間と一緒に目的地を目指すのだ! みんなで向かうキャン
プは本当に楽しいな!
途中の道で4人の仲間とはぐれちゃったけど、僕たち7人は廃棄場
の街に到着することができた。キャンプの準備が済んだら、いよい
よお楽しみの狩りの時間だ。みんなに負けないよう、いちばんにな
ってやるぞ!
の街に到着することができた。キャンプの準備が済んだら、いよい
よお楽しみの狩りの時間だ。みんなに負けないよう、いちばんにな
ってやるぞ!
先生は頭を撃たれて死んでしまった。僕のおなかは破裂したように
抉れているのが見える。狙撃閃光と同時に仲間が吹き飛ぶ。だが全
然怖くない。戦闘催眠はバッチリだ! サイコーのキャンプにする
ぞ! イエーイ!!
抉れているのが見える。狙撃閃光と同時に仲間が吹き飛ぶ。だが全
然怖くない。戦闘催眠はバッチリだ! サイコーのキャンプにする
ぞ! イエーイ!!
黒趾ノ長槍
街の外れにある、とある屋敷で長年門番をしている男がいた。
槍を持って門の前に立ち、不審な人物や客人の対応を行う、
男は同じ屋敷で、その仕事に人生のおよそ半分を捧げてきた。
槍を持って門の前に立ち、不審な人物や客人の対応を行う、
男は同じ屋敷で、その仕事に人生のおよそ半分を捧げてきた。
長年同じ屋敷で同じ仕事を続けているため、
男は雇い主、つまりその屋敷の主人とはずいぶん仲が良かった。
個人的な悩み事についても話し合う、友と言えるほどに。
男は雇い主、つまりその屋敷の主人とはずいぶん仲が良かった。
個人的な悩み事についても話し合う、友と言えるほどに。
ある日、屋敷の主人は自身の寿命について男に話した。
子供の居ない自分が老死すれば、門番の仕事もなくなってしまう。
早いうちに次の仕事を探した方がいいと、主人は謝りながら話す。
子供の居ない自分が老死すれば、門番の仕事もなくなってしまう。
早いうちに次の仕事を探した方がいいと、主人は謝りながら話す。
しかし、男は結局別の仕事に移ることはなかった。
長年世話になった主人を一人残すのが忍びなかったからと。
男は屋敷が荒れ、黒い鳥や獣の住処になっても門番を続けていた。
長年世話になった主人を一人残すのが忍びなかったからと。
男は屋敷が荒れ、黒い鳥や獣の住処になっても門番を続けていた。
月夜烏の銃
兵隊さん、兵隊さん。そんなに悲しい顔して、どうしたの。
ここらで少し、羽を休めなさい。夜明けはまだ、遠いもの。
ここらで少し、羽を休めなさい。夜明けはまだ、遠いもの。
兵隊さん、兵隊さん。ねえ、君は愛する人を失ったんだね。
ほら。涙をふいて、祈りなさい。夜明けはまだ、遠いもの。
ほら。涙をふいて、祈りなさい。夜明けはまだ、遠いもの。
兵隊さん、兵隊さん。ねえ、君は多くの命を奪ったんだね。
もう少し君のお話を聞かせてよ。夜明けはまだ、遠いもの。
もう少し君のお話を聞かせてよ。夜明けはまだ、遠いもの。
さあ、もうすぐ夜が明ける。君はただ、前へと進みなさい。
僕はここで、君の帰りを待ってるよ。いつまでも、永遠に。
僕はここで、君の帰りを待ってるよ。いつまでも、永遠に。
金翅・嘴峰
大変美しい、純白の鳥を飼っていた皇帝が居た。
彼はようやく一息つける僅かな時間に、その鳥の世話をする。
政務で疲弊する皇帝には、それが何よりもの楽しみだったのだ。
彼はようやく一息つける僅かな時間に、その鳥の世話をする。
政務で疲弊する皇帝には、それが何よりもの楽しみだったのだ。
だから彼は、その鳥の世話を他の誰にも任せなかった。
そして子のいなかった彼は、他の何よりもその鳥を愛していた。
自身の死期が近付いた時、次代皇帝にその鳥を指名するほどに。
そして子のいなかった彼は、他の何よりもその鳥を愛していた。
自身の死期が近付いた時、次代皇帝にその鳥を指名するほどに。
人々は驚いた。それは鳥が皇帝となった事だけではない。
鳥であるがゆえに、委ねられていたのは決議の権限のみだったが、
その鳥は政務を的確に果たし、国を良い方向へと導いたのだ。
鳥であるがゆえに、委ねられていたのは決議の権限のみだったが、
その鳥は政務を的確に果たし、国を良い方向へと導いたのだ。
しかし、主として鳥の傍に寄る者はいなくなってしまった。
かつて熱心に世話をしてくれた、先代の皇帝はもういない。
その鳥は段々と薄汚れていき、最後は真黒な死体で発見された。
かつて熱心に世話をしてくれた、先代の皇帝はもういない。
その鳥は段々と薄汚れていき、最後は真黒な死体で発見された。
ランプエトワール
劇場公演の夜の部が終わっても、少女は気が抜けなかった。夜には
恐ろしい稽古が待っているからだ。少女はバレエ団の踊り子である。
踊り子はバレエ団の権威を守るため、人々の目を楽しませるため、
頭の先から爪先まで神経を張り巡らせ美しく踊ることを求められた。
踊り子はバレエ団の権威を守るため、人々の目を楽しませるため、
少女の指導を務めているのは、かつては劇場の花形だったという、
美しい女である。美しいが冷徹な女で、少女が練習を怠れば、厳し
い折檻を加える。少女は夜ごと鏡の張り巡らされた稽古室で、電燈
の仄かな明かりだけを頼りにバレエの練習を続けた。
美しい女である。美しいが冷徹な女で、少女が練習を怠れば、厳し
い折檻を加える。少女は夜ごと鏡の張り巡らされた稽古室で、電燈
の仄かな明かりだけを頼りにバレエの練習を続けた。
しかし、古びた電燈は、稽古室の軋みに耐えかねたのだろう。天井
から吊り下げていた鎖が切れ、重たげな電燈が、少女の華奢な肉体
を目がけて落ちかかってきた。その時である、少女を押しのけ、電
燈を背に受けたのはあの冷徹な女であった。女は静かに口を開いた。
から吊り下げていた鎖が切れ、重たげな電燈が、少女の華奢な肉体
を目がけて落ちかかってきた。その時である、少女を押しのけ、電
「あなたは昔の私に似ている。私も少女の頃は無垢な心で踊れてい
た。でも、いつしか芸一本で生きていくことができなくなってしま
った。あなたには私の分まで踊り子としての本分を全うしてほしい」
そう語ると女は初めて少女に微笑みかけ、眠るように息絶えた。
た。でも、いつしか芸一本で生きていくことができなくなってしま
った。あなたには私の分まで踊り子としての本分を全うしてほしい」
そう語ると女は初めて少女に微笑みかけ、眠るように息絶えた。
孤高ノ尾
一人ぼっちの怪物の女の子がいました。
尾の数が1本しかないから、誰も友達になってくれないのです。
だけど女の子は、ずっと一人ぼっちだったので、友達がいなくても
さみしくありません。
尾の数が1本しかないから、誰も友達になってくれないのです。
だけど女の子は、ずっと一人ぼっちだったので、友達がいなくても
さみしくありません。
ある時、怪物の女の子は、自分と同じように1人ぼっちの怪物の男
の子を見つけました。
男の子は話しかけてきました。ぼくとあそぼう? と。
その怪物の男の子には、尾がありませんでした。
の子を見つけました。
男の子は話しかけてきました。ぼくとあそぼう? と。
その怪物の男の子には、尾がありませんでした。
怪物の女の子は断りました。
わたしはひとりで遊ぶのが好きなの、と。
しかし怪物の男の子は、ずっと怪物の女の子のそばから離れません。
ぼくはひとりぼっちがいやなんだ、と。
わたしはひとりで遊ぶのが好きなの、と。
ぼくはひとりぼっちがいやなんだ、と。
怪物の女の子は逃げます。怪物の男の子は追いかけます。
女の子は根負けし、自分のしっぽを切り落としました。
これで安心してもらえるかしら?
怪物の男の子は、にっこりと笑いました。
女の子は根負けし、自分のしっぽを切り落としました。
これで安心してもらえるかしら?
怪物の男の子は、にっこりと笑いました。
偽脳のアタナシア
「ここはどこ? 真っ暗なの。出して! お願いだから!」
目を覚ますと軟禁されていた女は、大声で訴える。
目を覚ますと軟禁されていた女は、大声で訴える。
暗闇から無数の敵が現れた。女は、自らの手に杖が握られている事
に気がつく。辛いが、生き残るために戦うしかないことを悟った。
に気がつく。辛いが、生き残るために戦うしかないことを悟った。
気が遠くなる数の戦闘を経て、女は身も心も疲れ果てた。すると、
女の頭に終了の声が響き、電源が切れた様に意識が遠のいていく。
女の頭に終了の声が響き、電源が切れた様に意識が遠のいていく。
【本商品には、数百万回の戦闘を学習したAIがインストール済♪
戦闘に不慣れなお客様も、AIアシスト機能で安心安全!!】
戦闘に不慣れなお客様も、AIアシスト機能で安心安全!!】
絡繰ノ疵物
壊れた機械は、ただの鉄屑。鉄屑はただの不用品。
そして不用品はただのゴミとして処理される。
今日もたくさんの機械がゴミ捨て場に捨てられていた。
そして不用品はただのゴミとして処理される。
今日もたくさんの機械がゴミ捨て場に捨てられていた。
役立たずは即時廃棄。
それは人間社会でも同様だった。
仕事で失態を犯した俺は、職場に捨てられて失職した。
それは人間社会でも同様だった。
仕事で失態を犯した俺は、職場に捨てられて失職した。
ゴミ捨て場を漁っていると一本の槍を発見した。
立派に見える機械仕掛けの槍だが……壊れている。
俺と同じだな。不良品同士仲良くしようぜ、相棒。
立派に見える機械仕掛けの槍だが……壊れている。
俺と同じだな。不良品同士仲良くしようぜ、相棒。
しばらくして、俺たちは元職場に乗り込んだ。
俺たちの足元にはかつての同僚たちが血を流して転がっていた。
なんだ、不良品でも合わせれば使えるじゃないか。
俺たちの足元にはかつての同僚たちが血を流して転がっていた。
なんだ、不良品でも合わせれば使えるじゃないか。
赫灼ノ瞑刃
気がついた時には手遅れだった。惑星間航行船は近くの衛星の重力
に引き寄せられ、衝突を免れない。多くの人たちが一人乗り緊急ポ
ッドで脱出し暗い宇宙に放り出された。
に引き寄せられ、衝突を免れない。多くの人たちが一人乗り緊急ポ
ッドで脱出し暗い宇宙に放り出された。
緊急ポッドは横たわるためのベッドと、生命維持に必要な装備があ
るだけ。冷凍睡眠装置の時間を10年にセットしてまぶたを閉じた。
真っ暗な空間の中でひとり、仲間の助けを待つのみだ。
真っ暗な空間の中でひとり、仲間の助けを待つのみだ。
私は震える手で100年と設定し再び眠りにつく。ポッドの外はど
こまでも続く深い闇が広がっていた。
100年後。状況は変わっていなかった。秒速3万5000キロで
宇宙空間を移動し、家族も友人も、誰一人私を知るものはいない。
私は冷凍睡眠装置を限界時間に設定し、再び暗黒の旅を続けた。
宇宙空間を移動し、家族も友人も、誰一人私を知るものはいない。
私は冷凍睡眠装置を限界時間に設定し、再び暗黒の旅を続けた。
陽炎
今日も彼は帰ってこなかったね、と誰かが私に同情する。
──かつて私は、この村で彼と出会い、恋に落ちた。
けれど今。彼の姿は、ここにはないわ。
──かつて私は、この村で彼と出会い、恋に落ちた。
けれど今。彼の姿は、ここにはないわ。
そろそろ彼を忘れて新しい人を探しなさい、と誰かが言う。
嫌よ、とんでもない。私には彼しかいないもの。
私、死んでやる。彼以外を選ばなきゃ、いけないのなら。
嫌よ、とんでもない。私には彼しかいないもの。
私、死んでやる。彼以外を選ばなきゃ、いけないのなら。
彼は他所で女を作ったんだ、と誰かが噂する。
そうね。確かに、何度かそんなこともあった。
けれど今は違う。彼は私を、愛しているのよ。
そうね。確かに、何度かそんなこともあった。
けれど今は違う。彼は私を、愛しているのよ。
村のはずれ、誰も知らない檻の中。そこには愛しい彼の姿。
皆は彼がいなくなったと言うけれど、本当はいつもここにいる。
どこにも行けない貴方が好きよ。逃がさないわ、絶対に。
皆は彼がいなくなったと言うけれど、本当はいつもここにいる。
どこにも行けない貴方が好きよ。逃がさないわ、絶対に。
AGW-G32
旅行をしましょう、と妻がパンフレットを広げる。「鹿や猪が生き
ている時代に行ってみたいわ」と言う妻に、僕は「刺激的な終末戦
争の時代も、楽しそうだね」と返す。僕らは身を寄せ合い時間旅行
の計画を立て始めた。
ている時代に行ってみたいわ」と言う妻に、僕は「刺激的な終末戦
争の時代も、楽しそうだね」と返す。僕らは身を寄せ合い時間旅行
の計画を立て始めた。
僕らが選んだ旅先は幾億年も前の地球。まだ人間のいない、静かな
時代だ。味気ないわ、と妻が口を尖らせる。彼女はもっと華やかな
年代に行きたかったらしい。でも僕は、誰にも邪魔されずに彼女の
声が聞けるこの退屈な時代を、何よりも気に入っている。
時代だ。味気ないわ、と妻が口を尖らせる。彼女はもっと華やかな
年代に行きたかったらしい。でも僕は、誰にも邪魔されずに彼女の
声が聞けるこの退屈な時代を、何よりも気に入っている。
僕と妻が太古の世界を歩いてると突然、獰猛なドラゴンが現れた。
僕は彼女の手を引いて一目散に逃げ出す。非常事態だっていうのに
ケラケラと笑う妻がおかしくて、僕も笑ってしまう。僕らは走って
走って、なんとか無事に帰りの“時間船”へと逃げ込んだ。
僕は彼女の手を引いて一目散に逃げ出す。非常事態だっていうのに
ケラケラと笑う妻がおかしくて、僕も笑ってしまう。僕らは走って
走って、なんとか無事に帰りの“時間船”へと逃げ込んだ。
数日ぶりに戻った自宅は、陰鬱な空気で満ちていた。窓の外で降り
続く灰の雨に、気が滅入ってしまう。突然、ぐぅと腹の虫が鳴いた。
それで僕は「朝食は何にする?」と妻に尋ねようとして、我に返る。
妻は去年亡くなった。彼女とはもう、時間旅行でしか会えないのだ。
Si'F-06scar
槍を握り締める、強く。そこに在る事を確かめるように。
続く戦闘の疲労、負った傷。曖昧になる指先の感覚。
私の手の指は10本残っているだろうか、それを確かめる余裕もな
い。
い。
赤くなる視界。それは私の血の色か、あるいは。
復讐の黒骸
勇敢な兵士だった兄は、名誉の戦死を遂げた。今では、祖国を守護
する軍神として祀られている。兄は貧しい一家の誇りであった。僕
は兄の意志を受け継ぎ志願兵となり、戦地へ送られた。しかし、兄
のように華々しく死ぬことは叶わず、野戦病院に運び込まれた。
する軍神として祀られている。兄は貧しい一家の誇りであった。僕
は兄の意志を受け継ぎ志願兵となり、戦地へ送られた。しかし、兄
のように華々しく死ぬことは叶わず、野戦病院に運び込まれた。
息絶えていく兵たちの傍らで、僕は軍医と上官の会話を耳にした。
「貧しい若者たち……即ち持たざる者たちは、名誉を得るために命
を顧みず戦う。戦死した彼らを軍神と讃えることで、また若者たち
を戦場へと駆り立てることができる」
「貧しい若者たち……即ち持たざる者たちは、名誉を得るために命
を顧みず戦う。戦死した彼らを軍神と讃えることで、また若者たち
を戦場へと駆り立てることができる」
怪我で意識は朦朧としていたが、上官の話す内容はハッキリと聞き
取れた。上官に同調する軍医の笑い声も。僕は世界を恨んだ。兄を
殺した敵国も、兄をはじめとする、貧しい若者たちを戦争へと駆り
立てた祖国も憎かった。気が付くと、僕は大剣を手に取っていた。
取れた。上官に同調する軍医の笑い声も。僕は世界を恨んだ。兄を
殺した敵国も、兄をはじめとする、貧しい若者たちを戦争へと駆り
立てた祖国も憎かった。気が付くと、僕は大剣を手に取っていた。
上官殺しの罪は、数えきれないほどの敵兵を殺したことで、内々に
処理された。僕は祖国に英雄として凱旋した。勲章授与の式典が行
われる中、僕は再び大剣を握りしめ、為政者や軍の上層部を睨みつ
けた。僕は今から国家を相手に兄の仇を討つ。復讐劇の始まりだ。
処理された。僕は祖国に英雄として凱旋した。勲章授与の式典が行
われる中、僕は再び大剣を握りしめ、為政者や軍の上層部を睨みつ
けた。僕は今から国家を相手に兄の仇を討つ。復讐劇の始まりだ。
式皇の脊椎
認証記録:0026年10月26日
ID:653961373932 情報:新規ユーザー
所属:帝国軍第8治安部隊 データベース照会―― 問題無し
該当ユーザーの使用を許可 戦闘記録の保存を開始
ID:653961373932 情報:新規ユーザー
所属:帝国軍第8治安部隊 データベース照会
該当ユーザーの使用を許可 戦闘記録の保存を開始
戦闘記録:0027年04月12日
攻撃対象ID:653862343834他8件 交戦地域:廃棄都市部B区
作戦概要:廃棄都市部B区に潜伏するテロリストの殲滅
バイタル情報:作戦前後共に肉体精神双方の安定を確認
作戦概要:廃棄都市部B区に潜伏するテロリストの殲滅
バイタル情報:作戦前後共に肉体精神双方の安定を確認
戦闘記録:0027年06月02日
攻撃対象ID:653762336137他1件 交戦地域:首都第76居住区
作戦概要:居住区に潜伏していたテロリスト及びその親族の処理
バイタル情報:一名の抵抗により作戦後精神に異常値を確認
作戦概要:居住区に潜伏していたテロリスト及びその親族の処理
バイタル情報:一名の抵抗により作戦後精神に異常値を確認
戦闘記録:不明―― データが破損しています
攻撃対象ID:653961373932 交戦地域:首都第1軍令部
作戦概要:不明―― 作戦情報は存在しません
バイタル情報:該当ユーザーの死亡を確認 特記:処理済
攻撃対象ID:653961373932 交戦地域:首都第1軍令部
作戦概要:不明
バイタル情報:該当ユーザーの死亡を確認 特記:処理済
黒織ノ篭手
美しい髪の少女と知り合った。肩甲骨の辺りまで伸びた、濡れ烏の
艶やかな髪。僕は軍の決まりで常に篭手を付けていたから、少女の
髪にさわることができなかった。
艶やかな髪。僕は軍の決まりで常に篭手を付けていたから、少女の
髪にさわることができなかった。
お昼を食べた後、少女に頼み込んで彼女の髪にふれた。無数の柔ら
かなうねりが僕の頬を撫でる度、心の底から元気をもらえた。……
そして眠る前に、僕はもう一つ、少女にお願いをした。
かなうねりが僕の頬を撫でる度、心の底から元気をもらえた。……
そして眠る前に、僕はもう一つ、少女にお願いをした。
大陸をまたいだ戦が終わる頃、あの少女は女優として世間を賑わせ
ていた。トレードマークは、黒い鳥を模したバッジ。彼女の美しさ
に近づこうとして、街を歩けば皆がそのバッジをつけている。
ていた。トレードマークは、黒い鳥を模したバッジ。彼女の美しさ
に近づこうとして、街を歩けば皆がそのバッジをつけている。
僕はあの時少女から、『髪』を一束もらっていた。少女の髪を瓶に
詰め、いつも持ち歩いている。戦は終わったから、篭手はもう付け
なくていい。だからいつでも、彼女にさわれるんだ。
詰め、いつも持ち歩いている。戦は終わったから、篭手はもう付け
なくていい。だからいつでも、彼女にさわれるんだ。
赤瞳の杖
先の戦争で多くの魔法使いが死に、私たち兄弟も孤児となった。今
は両親の遺品を売って日々を送っている。幸いなことに、国の軍部
が、杖や水晶といった魔道具を、高く買ってくれたのである。
は両親の遺品を売って日々を送っている。幸いなことに、国の軍部
が、杖や水晶といった魔道具を、高く買ってくれたのである。
慎ましくも穏やかに暮らしていたある日、弟の行方が分からなくな
ってしまった。必死に探すも、手掛かりのない日々が続き数年……
国営の孤児院が火事で焼失したとニュースになる。
ってしまった。必死に探すも、手掛かりのない日々が続き数年……
国営の孤児院が火事で焼失したとニュースになる。
記憶喪失で孤児院にいたという弟が帰ってきた。体中に包帯を巻い
た痛々しい姿。これからは幸せにしてやりたい……しかし、そんな
私の思いも虚しく、再び国は戦争の準備を始めた。
た痛々しい姿。これからは幸せにしてやりたい……しかし、そんな
私の思いも虚しく、再び国は戦争の準備を始めた。
国から招集を受けたのは、弟たち、幼い子供ばかりだった。私は理
解する。包帯の下の、母の杖に使われていた貴石そっくりな、弟の
赤い瞳……国が魔道具を集めていた訳、孤児院の正体を……
解する。包帯の下の、母の杖に使われていた貴石そっくりな、弟の
赤い瞳……国が魔道具を集めていた訳、孤児院の正体を……
血根の短剣
ある町に、貧乏な青年がいました。
青年には恋人がいましたが、これまた貧乏な娘でした。
しかし二人は貧乏を嘆くことなく、長い間まっすぐな愛を育んでい
ました。いつか必ず結婚しよう、と語り合いながら。
青年には恋人がいましたが、これまた貧乏な娘でした。
しかし二人は貧乏を嘆くことなく、長い間まっすぐな愛を育んでい
ました。いつか必ず結婚しよう、と語り合いながら。
ある時。いよいよ決心をした青年は、恋人の家を訪ねました。
恋人の父親に、結婚の許可をもらうためです。
青年は、恋人に対する誠実な想いを父親に伝えましたが、青年の粗
末な身なりを見た父親は、結婚を許可しませんでした。
恋人の父親に、結婚の許可をもらうためです。
青年は、恋人に対する誠実な想いを父親に伝えましたが、青年の粗
末な身なりを見た父親は、結婚を許可しませんでした。
「娘と結婚したければ、愛の証として宝石を持ってこい」
父親は、貧乏な青年に無理難題を突き付けました。
貧乏同士で結婚しても、不幸になるとでも言いたいのでしょうか?
青年の稼ぎでは、宝石なんて買うことなんてできません……
父親は、貧乏な青年に無理難題を突き付けました。
貧乏同士で結婚しても、不幸になるとでも言いたいのでしょうか?
青年の稼ぎでは、宝石なんて買うことなんてできません……
一方その頃、恋人である娘は、寝こみを襲って父親を殺してしまっ
たのです。二人の愛を阻むものはもうありません。町を出て宝石を
売り払い、二人はひっそりと、平凡で幸せな家庭を築きました。
アイボリー
仮想世界を構成する、まやかしの光、偽りの部屋、作り物の体。
現実を忘れるための偽物。そんな世界に少女の歌声が響く。
それだけは本物だった。歌に込められた心、それに震える心だけは。
現実を忘れるための偽物。そんな世界に少女の歌声が響く。
少女は仮想世界で歌を歌い、人々に笑顔を届ける。
戦火に見舞われる現実世界で、疲弊する人々を支えるために。
その意思は注目と人気を集めたが、しかし思惑は上手く運ばない。
戦火に見舞われる現実世界で、疲弊する人々を支えるために。
その意思は注目と人気を集めたが、しかし思惑は上手く運ばない。
少女は悩む、自分の行いは間違っていたのだろうか、と。
しかし彼女へ送られたある手紙が、かつての決意を思い出させた。
その夜、摩天楼に少女の姿が浮かび上がる。
そして街の至る所に現れた彼女は、決意を示すように歌い始めた。
現実世界の都市を、人々の体を、心を。その歌声が震わせていく。
そして街の至る所に現れた彼女は、決意を示すように歌い始めた。
現実世界の都市を、人々の体を、心を。その歌声が震わせていく。
ヘリオス
例えば、誰かの背中を押す歌。
その人が、独りではないと伝えるための音。
その人が、独りではないと伝えるための音。
例えば、死にゆく友へ捧ぐ歌。
その旅立ちに、安らぎをもたらすための音。
その旅立ちに、安らぎをもたらすための音。
例えば、自らの覚悟を示す歌。
その決意を言葉に残し、忘れないための音。
その決意を言葉に残し、忘れないための音。
歌には力がある、音は心を伝える器になる。
私はそう信じている。
私はそう信じている。
三翼の槍
どうして人は、優劣をつけるのだろう。
自分とは違うものを、否定するのだろう。
でもここには、色々な『違い』を持った子が沢山いる。
だから、友達ができるといいなぁ。
自分とは違うものを、否定するのだろう。
でもここには、色々な『違い』を持った子が沢山いる。
だから、友達ができるといいなぁ。
少しずつ、みんなとお喋りする時間が増えてきた。
みんな、ここに連れてこられる前は大変だったらしい。
例えば、いじめられることがあったりして。
でもここにいれば、僕達をいじめる人はいない。
みんな、ここに連れてこられる前は大変だったらしい。
例えば、いじめられることがあったりして。
でもここにいれば、僕達をいじめる人はいない。
ここで暮らし始めて1ヶ月くらい経った。
大人の人達は僕達を保護するって言っていたけれど、
あまり僕達に優しくしてくれない。
何かの研究が忙しいって、いつも言っている。
大人の人達は僕達を保護するって言っていたけれど、
あまり僕達に優しくしてくれない。
何かの研究が忙しいって、いつも言っている。
大人の人が、僕の『違い』を無くしてあげると言って、
機械が沢山ならんでいる部屋に案内してくれた。
この機械を僕の身体に取り付けるために、手術をするらしい。
怖いよ。僕には友達もできたし、今のままでもいいのに……
機械が沢山ならんでいる部屋に案内してくれた。
この機械を僕の身体に取り付けるために、手術をするらしい。
怖いよ。僕には友達もできたし、今のままでもいいのに……
AGW-S21
あの新薬がまだ実験段階であったことは、私には聞かされていなか
った。とはいえ、それを患者に投与し、命を奪ってしまった責任は
すべて私にある。ゆえに私は今、自室で首を吊ろうとしている。自
ら命を絶つこと以外、患者の命を奪った罪を償う方法などないのだ。
った。とはいえ、それを患者に投与し、命を奪ってしまった責任は
すべて私にある。ゆえに私は今、自室で首を吊ろうとしている。自
──首吊りは失敗したのだろうか。私は明瞭な意識のもと目を覚ま
した。しかしそこは私が首を吊った自室ではなく、小さな病院であ
った。一体何が起きたのだろう? そう考えていると、私の傍らの
ベッドで眠っていた患者の少女が、驚くべき真実を語りだした。
した。しかしそこは私が首を吊った自室ではなく、小さな病院であ
った。一体何が起きたのだろう? そう考えていると、私の傍らの
ベッドで眠っていた患者の少女が、驚くべき真実を語りだした。
ここは遠い未来。不治の難病を患った少女は時間逆行装置とやらに
ハッキングし、私をこの時代に呼び寄せたのだという。歴史上でた
だひとり彼女と同じ病気を治した医者──それが、私なのだそうだ。
信じがたい話だが、目の前の患者を見捨てるわけにもいかない。
ハッキングし、私をこの時代に呼び寄せたのだという。歴史上でた
信じがたい話だが、目の前の患者を見捨てるわけにもいかない。
しかし実際には、私は彼女の病を治す方法を知らなかった。そして
彼女が息を引き取ると同時、私は元の時代に戻っていた。私はなん
て不甲斐ない医者なのだろう。だが、ここで泣いていても仕方ない。
生きて、生きて、いつか彼女の病を治す術を見つけなくては。
彼女が息を引き取ると同時、私は元の時代に戻っていた。私はなん
生きて、生きて、いつか彼女の病を治す術を見つけなくては。
絡繰ノ壊弾
ほわ~。
僕は銃。君のことがだーい好き。
君のためならなんだってするよ。
僕の心はきゅんきゅんする。
僕は銃。君のことがだーい好き。
君のためならなんだってするよ。
僕の心はきゅんきゅんする。
どきどき。
僕は君と出会い、一目惚れ。
10年前のあの日、僕の人生を君に捧げると決めたよ。
僕の心はくらくらする。
僕は君と出会い、一目惚れ。
10年前のあの日、僕の人生を君に捧げると決めたよ。
僕の心はくらくらする。
ぎゅー。
10年経った今、僕は今も変わらず君の隣。
僕の好意は君にとって当たり前なのかな。
僕の心はぽわぽわする。
10年経った今、僕は今も変わらず君の隣。
僕の好意は君にとって当たり前なのかな。
僕の心はぽわぽわする。
どかーん。
君のために頑張るのはもう沢山。
限界を超えた僕の体は君を巻き込んで大爆発。
僕の心はほってなってる。
君のために頑張るのはもう沢山。
限界を超えた僕の体は君を巻き込んで大爆発。
僕の心はほってなってる。
逆罪ノ剣
遠い昔。とある大名に仕える、高潔な侍がいた。
侍は当初、志の高い大名を慕い、彼の命令に忠実であった。
しかし時と共に、大名は圧政を敷くようになってしまう。
大名の蛮行に耐えかねた侍は、ついに国を去る決意をする。
侍は当初、志の高い大名を慕い、彼の命令に忠実であった。
しかし時と共に、大名は圧政を敷くようになってしまう。
大名の蛮行に耐えかねた侍は、ついに国を去る決意をする。
国を出奔した侍が向かったのは、山奥に位置する寺院であった。
この寺院には、悪を滅すると謳われる宝剣が眠っている。
侍は住職からその剣を授かると、寺院を拠点に仲間を集めた。
──圧政を敷く、悪しき大名を打ち倒すために。
この寺院には、悪を滅すると謳われる宝剣が眠っている。
侍は住職からその剣を授かると、寺院を拠点に仲間を集めた。
──圧政を敷く、悪しき大名を打ち倒すために。
しかし侍は、決して挫けない。彼は仲間たちを叱咤激励し続けた。
血の川に横たわる侍の胸には、かの宝剣が突き立てられている。
「彼は大名を裏切った悪人だから、悪滅の宝剣で殺されたのさ」
「あるいは、勝てぬ戦に仲間の命を投じた、とんだ悪人さ」
──静まり返った戦場には、大名軍の笑い声だけが響き渡っていた。
「彼は大名を裏切った悪人だから、悪滅の宝剣で殺されたのさ」
「あるいは、勝てぬ戦に仲間の命を投じた、とんだ悪人さ」
美麗の調度
たいへん美しい武具を作る事で有名な職人がいた。彼の作品はいず
れも高い評価を持つ。けれどもその見た目故、戦場で使われるより
城に飾られ、富の象徴と見なされる事の方が多かった。
れも高い評価を持つ。けれどもその見た目故、戦場で使われるより
城に飾られ、富の象徴と見なされる事の方が多かった。
やがて職人が没した後の世に、職人の武具で身を固めた騎士が現れ
た。敵が彼の派手な身なりを侮って襲い掛かるも、騎士はそれを幾
度となく退ける。そうして彼の武功と評判は瞬く間に知れ渡った。
た。敵が彼の派手な身なりを侮って襲い掛かるも、騎士はそれを幾
度となく退ける。そうして彼の武功と評判は瞬く間に知れ渡った。
騎士の正体は、武具を作った職人の息子だ。彼は、父の傑作の数々
がお飾りで終わるのを不憫に思っていた。それ故、父の遺作ととも
に名を上げ、武器としての真価を知らしめたのだ。
がお飾りで終わるのを不憫に思っていた。それ故、父の遺作ととも
に名を上げ、武器としての真価を知らしめたのだ。
そんな騎士も、戦場で命を散らす時がくる。敵は勝利の証に騎士の
調度品を剥がし、持ち帰った。しかし長年肉体に馴染んだ武具には
騎士の血や肉が絡みつき、もう二度と飾りとしては使えなかった。
調度品を剥がし、持ち帰った。しかし長年肉体に馴染んだ武具には
騎士の血や肉が絡みつき、もう二度と飾りとしては使えなかった。
黒織ノ儀仗
王様が、勝利をもたらす杖を手に入れられた。杖が効力を発揮する
には、多少の生贄が必要らしい。第三分隊はここに残って、他は解
散。……なぁに、名誉の死はな、戦場じゃなくても遂げられる。
兵士は残り3000人。いくらでも補充は利く。
には、多少の生贄が必要らしい。第三分隊はここに残って、他は解
散。……なぁに、名誉の死はな、戦場じゃなくても遂げられる。
兵士は残り3000人。いくらでも補充は利く。
とうとう生贄の数が、戦死した人間を超えた。杖を王様に渡したの
は誰だ? ……そもそも戦とは、己の拳、己の剣、己の肉体を震わ
すのが本懐。黒い鳥が何匹もたかるあの杖に、俺はもう頼れない。
兵士は残り300人。いま動かねば、この国は滅ぶ。
は誰だ? ……そもそも戦とは、己の拳、己の剣、己の肉体を震わ
すのが本懐。黒い鳥が何匹もたかるあの杖に、俺はもう頼れない。
兵士は残り300人。いま動かねば、この国は滅ぶ。
王の息の根を止めた時、例の杖に『何か』が移動した。杖から伝わ
る複雑な脈動を見て、俺は理解した。……犠牲になった者達は杖の
中にいる。彼らの死を無駄にしない方法を、考えなければならない。
生き残ったのは俺ひとり。俺は杖を握り、国を出た。
る複雑な脈動を見て、俺は理解した。……犠牲になった者達は杖の
生き残ったのは俺ひとり。俺は杖を握り、国を出た。
この杖を使って、復讐を始めよう。愛した者、共に戦った仲間、王
様、その全てを代表して、俺が復讐を遂げるのだ。勝利をもたらす
杖さえあれば、俺の望みも叶えてくれるはずだ。
この大陸には、何人の人間がいるのだろう……
様、その全てを代表して、俺が復讐を遂げるのだ。勝利をもたらす
杖さえあれば、俺の望みも叶えてくれるはずだ。
この大陸には、何人の人間がいるのだろう……
タイラス
生まれながらにして、森の精霊に祝福された有角の神童『角尊』。
彼らは幼き子どもの姿を保ち、驚くほどの長寿を誇る。
また魔法の才に恵まれ、一流の魔道士となる者も多かった。
杖を手にした角尊は、森の民にとって崇敬の対象であったという。
彼らは幼き子どもの姿を保ち、驚くほどの長寿を誇る。
また魔法の才に恵まれ、一流の魔道士となる者も多かった。
杖を手にした角尊は、森の民にとって崇敬の対象であったという。
その杖は珪化木、すなわち化石化した樹木で作られていた。
生きて森を育み、死して静寂を知り、石ならぬ石となったもの。
浄化の魔法で命を支える角尊にとって、これ以上の品はない。
多くの角尊が珪化木の杖を愛用したのも、それゆえである。
生きて森を育み、死して静寂を知り、石ならぬ石となったもの。
浄化の魔法で命を支える角尊にとって、これ以上の品はない。
多くの角尊が珪化木の杖を愛用したのも、それゆえである。
角尊は、精霊と人々を繋ぐ架け橋であることを求められる。
だからこそ、森の中で生きることを常とした。
しかしながら、その杖の最後の使い手は、森を出て旅に生きた。
森を護るためには、外界こそ浄化すべきと考えてのことだった。
だからこそ、森の中で生きることを常とした。
しかしながら、その杖の最後の使い手は、森を出て旅に生きた。
森を護るためには、外界こそ浄化すべきと考えてのことだった。
浄化と癒やしの旅を続けた男は、帰らぬ人となった。
少なからぬ人が、角尊の使命を捨てた者の末路と笑った。
しかし彼の従者と、旅先で救われた人々は知っていた。
珪化木の杖を手に、意気揚々と歩いた男の善行を。
少なからぬ人が、角尊の使命を捨てた者の末路と笑った。
しかし彼の従者と、旅先で救われた人々は知っていた。
珪化木の杖を手に、意気揚々と歩いた男の善行を。
ゲイボルグ
北方の雪深い山岳地帯に、千年に亘り竜と戦い続ける国があった。
人々を護るため槍を掲げるは、戦の女神に命を捧げた騎士たち。
その中でも、類まれな技と力を誇る者だけが、こう呼ばれた。
竜を屠る者、竜騎士と。
人々を護るため槍を掲げるは、戦の女神に命を捧げた騎士たち。
その中でも、類まれな技と力を誇る者だけが、こう呼ばれた。
竜を屠る者、竜騎士と。
半ば崩れかけた我が家の中で、羊飼いの少年は運命を呪った。
眠るように横たわる弟の亡骸を前に、彼はひとり誓いをたてる。
すべてを奪った、黒き邪竜を絶対に殺してやるのだと。
羊飼いの山杖を捨て、彼は竜殺しの槍を求めた。
眠るように横たわる弟の亡骸を前に、彼はひとり誓いをたてる。
すべてを奪った、黒き邪竜を絶対に殺してやるのだと。
羊飼いの山杖を捨て、彼は竜殺しの槍を求めた。
かつての羊飼いの少年は、竜騎士となっていた。
その手に握るは、竜殺しの槍。眼差しは暗く、口数も少ない。
竜に槍を突き立てて微笑む彼を見て、屈強な騎士さえ怖れ慄いた。
彼にも温かな心があると知るのは、師と友の二人だけであった。
その手に握るは、竜殺しの槍。眼差しは暗く、口数も少ない。
竜に槍を突き立てて微笑む彼を見て、屈強な騎士さえ怖れ慄いた。
彼にも温かな心があると知るのは、師と友の二人だけであった。
長き戦いの末、復讐を果たした竜騎士は、その兜を置いた。
しかし、邪竜の返り血に染まった槍だけは、決して手放さない。
戦いの中で、邪竜もまた妹を喪った復讐者であると知ったから。
いつしか彼は、愛用の槍を邪竜と同じ名で呼ぶようになっていた。
しかし、邪竜の返り血に染まった槍だけは、決して手放さない。
戦いの中で、邪竜もまた妹を喪った復讐者であると知ったから。
いつしか彼は、愛用の槍を邪竜と同じ名で呼ぶようになっていた。
シャドウブリンガー
かつて光が溢れた世界があった。
空を覆う停滞の光により、命は蝕まれ、大地は枯れ果てた。
しかし、滅びの運命に反逆し、闇を取り戻そうとする者がいた。
漆黒の大剣を振るうこの英雄を、人々は『闇の戦士』と呼んだ。
空を覆う停滞の光により、命は蝕まれ、大地は枯れ果てた。
しかし、滅びの運命に反逆し、闇を取り戻そうとする者がいた。
漆黒の大剣を振るうこの英雄を、人々は『闇の戦士』と呼んだ。
世界を滅びへ誘う光の異形『罪喰い』。
その頭たる大罪喰いを倒し、次々と闇を取り戻してゆく闇の戦士。
だが、その旅路を進むほどに、英雄の身体は光に蝕まれていった。
大剣を握る手にも、いつしか力が入らなくなっていた。
その頭たる大罪喰いを倒し、次々と闇を取り戻してゆく闇の戦士。
だが、その旅路を進むほどに、英雄の身体は光に蝕まれていった。
大剣を握る手にも、いつしか力が入らなくなっていた。
最後の大罪喰いを倒したとき、闇の戦士の肉体は限界を迎えた。
蓄積された光の力が溢れ、英雄は自らが闇を払う存在と化す。
それでも……倒れそうになる身体を大剣で支え、一歩前へ。
苦痛に顔を歪めながらも、旅路は続いてゆく。
蓄積された光の力が溢れ、英雄は自らが闇を払う存在と化す。
それでも……倒れそうになる身体を大剣で支え、一歩前へ。
苦痛に顔を歪めながらも、旅路は続いてゆく。
昏き海の底で、古の魔道士を打ち破った。
輝ける塔の頂で、原初の英雄の幻を打ち消した。
闇の戦士は、いかなる苦境も跳ね除け、空に再び闇を取り戻した。
ゆえに人々は、その大剣をこう呼んだ。シャドウブリンガーと。
輝ける塔の頂で、原初の英雄の幻を打ち消した。
闇の戦士は、いかなる苦境も跳ね除け、空に再び闇を取り戻した。
ゆえに人々は、その大剣をこう呼んだ。シャドウブリンガーと。
ミソス
時は心を摩耗させる。
どれほど強く願った想いも、どれほど激しく焦がした想いも。
百年の時で削れ、千年の時で綻び、万年の時で薄れゆく。
だから、古の魔道士は想いを形にした。その憎悪を剣とした。
どれほど強く願った想いも、どれほど激しく焦がした想いも。
百年の時で削れ、千年の時で綻び、万年の時で薄れゆく。
だから、古の魔道士は想いを形にした。その憎悪を剣とした。
魔法とは、強き想いを以て、現象を引き起こす技術である。
しかし、激し過ぎる想いは心を疲弊させるとも、魔道士は考える。
ゆえに使命を果たすため、いくらかの感情を切り離すこととした。
いざという時に使えるように。
しかし、激し過ぎる想いは心を疲弊させるとも、魔道士は考える。
ゆえに使命を果たすため、いくらかの感情を切り離すこととした。
いざという時に使えるように。
魔道士は己の心を護るため、長き時を眠りに費やした。
眠りから目覚めると、彼は決まって幻影の街を歩いたという。
古の姿を再現した街並みを見て、取り戻すべきものを想い出す。
そして剣に触れ、刃に指をすべらせ、憎悪の深さを確かめるのだ。
眠りから目覚めると、彼は決まって幻影の街を歩いたという。
古の姿を再現した街並みを見て、取り戻すべきものを想い出す。
そして剣に触れ、刃に指をすべらせ、憎悪の深さを確かめるのだ。
戦いに敗れた時、魔道士は手放した。
最古の魔道士の誇りにして、魔法の源となった想いのいくつかを。
羨望は短剣となり、憤怒は斧となり、憎悪は剣となり滑り落ちた。
彼を破り、前に進む者にこそ、必要な力だと信じて。
最古の魔道士の誇りにして、魔法の源となった想いのいくつかを。
羨望は短剣となり、憤怒は斧となり、憎悪は剣となり滑り落ちた。
彼を破り、前に進む者にこそ、必要な力だと信じて。
汚泥ノ花
なんのために戦う? 国のために。
誰のために戦う? 王のために。
機械は何も考えない。疑問も持たない。
私は命令を遂行するために生まれた。ただそれだけの命。
誰のために戦う? 王のために。
機械は何も考えない。疑問も持たない。
私は命令を遂行するために生まれた。ただそれだけの命。
初めて思った。
■以外を守らなければと。
■以外のために戦いたいと。
■■のために、この銃を手に取りたいと。
■以外を守らなければと。
■以外のために戦いたいと。
■■のために、この銃を手に取りたいと。
私は罰を受ける。■に背いた罰。
だが、■■を守れ■なら後悔は■い。
意識が書■換えら■ていく。
記憶■何■■も、彼ら■指先■■で変わって■■。
だが、■■を守れ■なら後悔は■い。
意識が書■換えら■ていく。
記憶■何■■も、彼ら■指先■■で変わって■■。
■■の中■朽ち■■く。
頭■中は空■■で、思■出せ■■は■■■戦■で見た黒い鳥。
私は■■■■誰か■約束を交■■■■■。
会わ■■れ■なら■人がいる。■■機械■頭はがらんどう■■■。
頭■中は空■■で、思■出せ■■は■■■戦■で見た黒い鳥。
私は■■■■誰か■約束を交■■■■■。
会わ■■れ■なら■人がいる。■■機械■頭はがらんどう■■■。
王宮騎士の使命
王子と私は、幼い頃よりたくさんの時間を共に過ごした。かけっこ
をしたり、剣術や槍術の稽古で汗を流したり、たまに昼食を一緒に
取ることもあった。身分さえ違わなければ、友になれただろう。
をしたり、剣術や槍術の稽古で汗を流したり、たまに昼食を一緒に
取ることもあった。身分さえ違わなければ、友になれただろう。
王が病で逝去なされ、王子は若くして王となった。玉座に座る若き
王は酷く不安そうで、私は命に代えても必ずお守りすると誓った。
私は槍の柄が血に塗れるほど、稽古に打ち込んだことを思い出す。
王は酷く不安そうで、私は命に代えても必ずお守りすると誓った。
私は槍の柄が血に塗れるほど、稽古に打ち込んだことを思い出す。
「僕は君の命も大切だよ」若き王は、誓いを口にした私にそう微笑
んだ。翌日、隣国が戦争を起こそうとしていると情報が入った。槍
を手にした私は、彼の微笑みの意味を考えなかったように思う。
んだ。翌日、隣国が戦争を起こそうとしていると情報が入った。槍
を手にした私は、彼の微笑みの意味を考えなかったように思う。
戦争は起きなかった。若き王がすぐに降伏の意を示したからだ。そ
して、自国民の生活の保障と引き換えに、自らの命を差し出した。
それから私は一度も槍を振るわずに、槍すら持てぬ老人となった。
して、自国民の生活の保障と引き換えに、自らの命を差し出した。
それから私は一度も槍を振るわずに、槍すら持てぬ老人となった。
王宮騎士の信念
とある国に、向かうところ敵なしと誉れ高い騎士がいました。その
強さは、単身で一度も剣を抜かずに、敵軍を壊滅させるほど。ある
日、国王はそんな彼の剣技を一目見たいと、王宮に招待して盛大に
もてなすことにしました。
強さは、単身で一度も剣を抜かずに、敵軍を壊滅させるほど。ある
日、国王はそんな彼の剣技を一目見たいと、王宮に招待して盛大に
もてなすことにしました。
しかし無敵の騎士は「剣を抜くのは戦場のみ」と、剣技を披露する
ことを固辞します。王はますます剣技が見たくなり、隣国と戦争を
起こし自らも戦場に赴きますが、彼は一度も剣を抜くことなく、戦
争に勝利してしまいました。
ことを固辞します。王はますます剣技が見たくなり、隣国と戦争を
起こし自らも戦場に赴きますが、彼は一度も剣を抜くことなく、戦
争に勝利してしまいました。
騎士は言います「剣を抜かせたくば、私と同等かそれ以上に強い者
を連れて来い」と。王は持てる全ての財を費やして探しましたが、
そんな者は見つかりません。王は財が尽きるたびに戦争を起こし、
その度に騎士は勝利をもたらします。
を連れて来い」と。王は持てる全ての財を費やして探しましたが、
そんな者は見つかりません。王は財が尽きるたびに戦争を起こし、
その度に騎士は勝利をもたらします。
騎士には年上の妻がいました。その妻は、戦場から帰ってきた騎士
に料理を作るよう命じます。騎士は逆らえない様子で台所に立ち、
恐る恐る包丁を握りました。そして脂汗をかきながら料理を作りま
す。そう、無敵の騎士は刃物が怖くて剣を抜けなかったのです。
に料理を作るよう命じます。騎士は逆らえない様子で台所に立ち、
恐る恐る包丁を握りました。そして脂汗をかきながら料理を作りま
す。そう、無敵の騎士は刃物が怖くて剣を抜けなかったのです。
欺瞞の牙
「なぁ、おまえが喰おうとしている夢、俺に譲ってくれないか」
背後から声をかけられ、振り返ると、貧弱な怪物が立っていた。「もう何日も夢を喰っていないんだ」
それは僕もだったが、根負けして哀れなそいつに夢をくれてやった。
背後から声をかけられ、振り返ると、貧弱な怪物が立っていた。「もう何日も夢を喰っていないんだ」
それは僕もだったが、根負けして哀れなそいつに夢をくれてやった。
翌日、僕が夢を喰おうとしていると、再び背後から声をかけられた。
「夢を譲ってくれないか。何日も喰えてないんだ」
振り返ってみると、昨日と同じ貧弱な怪物である。……何日も喰え
ていない? 昨日もその言葉を聞いた気がする。
「夢を譲ってくれないか。何日も喰えてないんだ」
振り返ってみると、昨日と同じ貧弱な怪物である。……何日も喰え
ていない? 昨日もその言葉を聞いた気がする。
畜生! してやられた。僕は上手く騙されていたのだ。
「君に怪物としての誇りはないのか」
怒鳴りつける僕に、貧弱な怪物は悪びれもせず答えた。
「怪物に誇りなんていらねぇ。ここは、法律も道徳もない世界だ」
「君に怪物としての誇りはないのか」
怒鳴りつける僕に、貧弱な怪物は悪びれもせず答えた。
「怪物に誇りなんていらねぇ。ここは、法律も道徳もない世界だ」
「夢を譲ってくれないか。もうずっと夢を喰えていないんだ」
僕は通りすがりの怪物に施しを乞う。誇りを捨てた僕は、前より気
楽に生きられるようになった。でも、後ろ暗い思いは僕を卑屈にし
た。いつしか僕は、卑屈な怪物と呼ばれるようになってしまった。
僕は通りすがりの怪物に施しを乞う。誇りを捨てた僕は、前より気
楽に生きられるようになった。でも、後ろ暗い思いは僕を卑屈にし
た。いつしか僕は、卑屈な怪物と呼ばれるようになってしまった。
恢棄ノ鉄塊
その町には、世界中のゴミが集まる廃棄場があった。それ以外には
目ぼしいものがない廃れた町……だったのだが、最近になって外か
ら人が押し寄せるようになった。どうやら、廃棄場のどこかにお宝
が眠っているという噂が流れたらしい。
目ぼしいものがない廃れた町……だったのだが、最近になって外か
ら人が押し寄せるようになった。どうやら、廃棄場のどこかにお宝
が眠っているという噂が流れたらしい。
と。男は満足してそれを持ち帰っていった。
また、ある研究者は壊れた機械の部品を見つけ歓喜する。「これは
オーパーツに違いない!」と。
外から来た人間は、それぞれが何かしらのお宝を見つけ、持ち帰っ
ていく。一年間、廃棄場に通い続けた者もいるほどだった。町の人
間は、お宝だと呼ばれる物品たちをゴミだとしか思えなかったが、
そんなことはどうでも良い。町が活気に溢れていたから。
ていく。一年間、廃棄場に通い続けた者もいるほどだった。町の人
間は、お宝だと呼ばれる物品たちをゴミだとしか思えなかったが、
そんなことはどうでも良い。町が活気に溢れていたから。
廃棄場のどこかにお宝が眠っている。その噂を流したのは町長だっ
た。町長は想像以上の結果に笑いが止まらない。それもそのはず、
わざわざ処分せずともゴミは片付き、町は押し寄せた人々のおかげ
で観光業が栄え、大いに潤ったのだから。
た。町長は想像以上の結果に笑いが止まらない。それもそのはず、
わざわざ処分せずともゴミは片付き、町は押し寄せた人々のおかげ
で観光業が栄え、大いに潤ったのだから。
覇王の窮愁
地気が枯渇し、赤黒く変色した大地。その深奥に眠る一本の斧槍。
かつて周辺を治めた覇王が振るった代物で、それを手にすれば
どんな争いも終結させ、太平の世をもたらすことができるという。
かつて周辺を治めた覇王が振るった代物で、それを手にすれば
どんな争いも終結させ、太平の世をもたらすことができるという。
槍が眠る地の東西に位置し、長きに亘って戦を続けた二国がある。
いつまでも勝敗がつかない両国は、藁をも掴む思いで逸話に頼り、
覇王の斧槍を求めて深奥へと兵力を注いだ。
いつまでも勝敗がつかない両国は、藁をも掴む思いで逸話に頼り、
覇王の斧槍を求めて深奥へと兵力を注いだ。
期せずして進軍の日取りが重なり、衝突する二国の兵士たち。
かくして、その場で総力戦が繰り広げられる。血で血を洗う戦いの
末、東の国の最後の兵士が、ついに斧槍を手中に収めた。
かくして、その場で総力戦が繰り広げられる。血で血を洗う戦いの
末、東の国の最後の兵士が、ついに斧槍を手中に収めた。
しかし、男は斧槍で自らの首を撥ねて自害する。彼は両軍一人残ら
ず息絶えた、凄惨たる戦場の様子を見て、世を儚んだのだ。そうし
て争いあう人々が消え、その地には太平の世が訪れたのであった。
ず息絶えた、凄惨たる戦場の様子を見て、世を儚んだのだ。そうし
て争いあう人々が消え、その地には太平の世が訪れたのであった。
豪傑の神光
力持ちの土地神は、両親を殺された少年に怪力を授けた。人智を超
えたその力で、下手人を捻り殺して復讐を果たせと。そればかりか
土地神は、天涯孤独となった少年がきちんと復讐を果たせるよう、
懇切丁寧に下手人の居所まで教えた。
えたその力で、下手人を捻り殺して復讐を果たせと。そればかりか
土地神は、天涯孤独となった少年がきちんと復讐を果たせるよう、
懇切丁寧に下手人の居所まで教えた。
少年は土地神に感謝したが、授けられた力で復讐をしようとはしな
かった。その怪力を農業や荷運びなど、人々の役に立てる為に使っ
たのだ。老人や怪我人のみならず働き盛りの男衆も、少年の働きに
大いに助けられた。
かった。その怪力を農業や荷運びなど、人々の役に立てる為に使っ
たのだ。老人や怪我人のみならず働き盛りの男衆も、少年の働きに
大いに助けられた。
周囲の人々は少年の怪力を頼り、お礼にと身寄りのなくなった少年
の生活を助ける。そうして互いに支え合って暮らす内に、いつしか
人々は神頼みをすることを忘れ、信仰を失った土地神の力もまた、
みるみると失われていった。
の生活を助ける。そうして互いに支え合って暮らす内に、いつしか
人々は神頼みをすることを忘れ、信仰を失った土地神の力もまた、
みるみると失われていった。
土地神は悔しそうに顔を歪めた。実は、少年の両親を殺すように下
手人を唆しており、少年に復讐をさせ、その様を愉しむ心積もりだ
ったのだ。しかし目論見は外れ、力も失った土地神は、人々に囲ま
れて幸せそうな少年を尻目に、静かに消え入ったのだった。
手人を唆しており、少年に復讐をさせ、その様を愉しむ心積もりだ
ったのだ。しかし目論見は外れ、力も失った土地神は、人々に囲ま
れて幸せそうな少年を尻目に、静かに消え入ったのだった。
王宮騎士の誇り
バン! と、王宮に銃声が轟く。
次いで、床に崩れる一人の騎士。
王は銃を片手に、ゲッゲッゲッと笑ったのち言い放った。
「剣などもう古い、これからは銃の時代だ」と。
次いで、床に崩れる一人の騎士。
王は銃を片手に、ゲッゲッゲッと笑ったのち言い放った。
「剣などもう古い、これからは銃の時代だ」と。
騎士団長が声を上げる。
「我々騎士にとって剣は誇り! それを手放すなどできませぬ!」
バン! 騎士団長の血が王宮の床を染めた。王は続ける。
「誇りなど下らぬ、そんなものの為に死ぬなど、更に下らぬ」
「我々騎士にとって剣は誇り! それを手放すなどできませぬ!」
バン! 騎士団長の血が王宮の床を染めた。王は続ける。
「誇りなど下らぬ、そんなものの為に死ぬなど、更に下らぬ」
「さすがは、王! 皆の者、剣を捨てろ!」
そう叫んだ副団長が手を打ち鳴らす。
バン! 副団長は驚愕の表情を浮かべたまま、仰向けに倒れた。
王は一言、「煩い」と吐き捨てる。そして王宮は静寂に包まれた。
そう叫んだ副団長が手を打ち鳴らす。
バン! 副団長は驚愕の表情を浮かべたまま、仰向けに倒れた。
王は一言、「煩い」と吐き捨てる。そして王宮は静寂に包まれた。
バン! 静寂を一発の銃声が打ち壊す。
驚愕の表情を浮かべたまま、床に崩れたのは王だった。
王の血を踏みにじり、一人の青年騎士が銃を片手に進み出る。
「王政などもう古い、これからは民の時代だ」と。
驚愕の表情を浮かべたまま、床に崩れたのは王だった。
王の血を踏みにじり、一人の青年騎士が銃を片手に進み出る。
「王政などもう古い、これからは民の時代だ」と。
黒織ノ大槍
どうしました? うちのお屋敷に御用でしょうか?
オイ、オ前! 聞コエテルダロ? 助ケテクレ!
温かい紅茶をお出ししましょう。お召し物はどうぞこちらに。
俺ハ地下二閉ジ込メラレテル! 娘カラ鍵ヲ奪エ!
温かい紅茶をお出ししましょう。お召し物はどうぞこちらに。
まぁすごい! 商人様だなんて。旅のお話、聞かせてくださいな。
容赦ハイラナイ! ナイフデ娘ノ喉元をエグレ!
……それでは私も一つ小話を。愚かで醜い、人間たちの物語。
話ガ終ワルマデ二殺セ! デナイトオ前モ……
……それでは私も一つ小話を。愚かで醜い、人間たちの物語。
人間たちは、みんな見た目で判断する。
死肉に群がる黒い鳥さえ、毒や敵を見分けるというのに。
地下の人間たちは、窓が震えるほど、声を張り上げているが、
目の前にいるこの者達は、どうして気がつかなイノダロウ?
死肉に群がる黒い鳥さえ、毒や敵を見分けるというのに。
地下の人間たちは、窓が震えるほど、声を張り上げているが、
目の前にいるこの者達は、どうして気がつかなイノダロウ?
幽愁ノ刃
先の大戦が終結してから50年。
まったく、最近の若い者ときたら根性がない。
まったく、最近の若い者ときたら根性がない。
どいつもこいつも平和ボケ甚だしい。
もう、この国の未来には絶望しかないっていうのに。
もう、この国の未来には絶望しかないっていうのに。
テレビをつければ大袈裟に悲しいニュースばかり。
明日の命が保証されてるだけでも、感謝しろってんだ。
明日の命が保証されてるだけでも、感謝しろってんだ。
昨日、夢を見たんだ。
俺とお前が、こんなくだらない時代に生まれる夢。
嬉しかったな、お前に会えて。
なんだかイヤになるほど、青い空が綺麗だったよ。
俺とお前が、こんなくだらない時代に生まれる夢。
嬉しかったな、お前に会えて。
なんだかイヤになるほど、青い空が綺麗だったよ。
式皇の腓骨
どれだけ科学が発展しても、御伽話の魔法が現実になっても、
俺たち人類は尚も殺し合う。今日もまた戦場に立つ。
俺たち人類は尚も殺し合う。今日もまた戦場に立つ。
家族の為に、俺は何年も戦場に立ち続けてきた。
だが、子供の養育には今の給与では心許ない。
だが、子供の養育には今の給与では心許ない。
俺にできるのは殺すことだけ。
どうせこの体は、戦死を恐れる必要もない。
どうせこの体は、戦死を恐れる必要もない。
紛い物のこの身が滅んでも、次の体に換わるだけだ。
替わりの利く体で、俺たちは死んでも殺し合い続ける。
替わりの利く体で、俺たちは死んでも殺し合い続ける。
悪魔の両腕
絵本で見た天使は、光に包まれて優しげに微笑んでいた。
澄んだ瞳、淡く紅の差した頬、眩しいばかりに真っ白な羽。
その美しさに惹かれて、じっと絵本に見入っていた。
わたしもこの絵の天使のように、いつも笑っていようと思った。
澄んだ瞳、淡く紅の差した頬、眩しいばかりに真っ白な羽。
その美しさに惹かれて、じっと絵本に見入っていた。
わたしもこの絵の天使のように、いつも笑っていようと思った。
それから、わたしは■■な子だって、みんなが言うの。
でもね、わたしはちっとも■■じゃない。
■■じゃなくていいの。■■と■■が■■■してくれさえすれば。
■■で見た、真っ黒な鳥のよ■■羽■持った悪魔。
青ざ■■肌、光■ない瞳、妖しく伸びた■。
わたし■慌てて■■を■■■。
天使と向か■合って描■れた■■の■を■■■■■■■■■■。
青ざ■■肌、光■ない瞳、妖しく伸びた■。
わたし■慌てて■■を■■■。
天使と向か■合って描■れた■■の■を■■■■■■■■■■。
今■わたしは■■には■■■似て■ない。
■■■■■青ざめ■わたしは、■■より■むしろ■■に似■■る。
いっそ本当に■■だったら■■■■のに。
わた■が■■なら、愛さ■■■■も■■で■■■るのに。
■■■■■青ざめ■わたしは、■■より■むしろ■■に似■■る。
いっそ本当に■■だったら■■■■のに。
わた■が■■なら、愛さ■■■■も■■で■■■るのに。
覇国の命数
とある王国に戦争の好きな王様がおりました。多くの戦死者を出し
たことを受けて、王様は仲間たちを弔い祈りを捧げる教会を建てま
した。そして一人の信仰深い男を雇い、仕事に就かせました。
たことを受けて、王様は仲間たちを弔い祈りを捧げる教会を建てま
した。そして一人の信仰深い男を雇い、仕事に就かせました。
戦争が続いている間は、日々多くの亡骸が運び込まれました。その
度に親族が教会に足を運び、むせび泣く声と祈りを捧げる声が教会
に響きわたり、男の仕事が休まることは一向にありませんでした。
度に親族が教会に足を運び、むせび泣く声と祈りを捧げる声が教会
に響きわたり、男の仕事が休まることは一向にありませんでした。
それから数年が経ち、戦争は次第に終息していきました。しかしあ
る時を境に、再び多くの亡骸が教会に運び込まれるようになりまし
た。人々はどうせまた王様が戦争を始めたんだと噂しました。
る時を境に、再び多くの亡骸が教会に運び込まれるようになりまし
た。人々はどうせまた王様が戦争を始めたんだと噂しました。
「あぁ神よ、貴方様のご慈悲に感謝いたします。これでまた家族を
養うことができます……!!」この戦争が誰によって引き起こさ
れていたものなのか、誰一人として知る由はなかったのです。
養うことができます……!!」この戦争が誰によって引き起こさ
れていたものなのか、誰一人として知る由はなかったのです。
枢の憑剣
むかしむかしあるところに、虫も殺せないような、とても臆病な青
年がいた。彼は露店の押し売りにも負けてしまうような気弱さ。そ
の日も道中見慣れぬ露店の店主に声をかけられ、自身に必要のない
剣を買わされていた。
年がいた。彼は露店の押し売りにも負けてしまうような気弱さ。そ
の日も道中見慣れぬ露店の店主に声をかけられ、自身に必要のない
剣を買わされていた。
護身用にその剣を携え始めてからだ、青年が日常に違和感を覚え始
めたのは。いつも絡んできた不良が絡んでこなくなった。いつも押
し売りしてくる店主も話しかけてこない。少し疑問に思いながらも、
快適な日々を過ごした。
めたのは。いつも絡んできた不良が絡んでこなくなった。いつも押
快適な日々を過ごした。
この剣がお守りになっていると思った男は、肌身離さず持つように
なった。そしていつものように街を歩いていると、複数のガラの悪
い男たちに囲まれ、人気のない場所に連れ込まれる。青年は情けな
い声を上げながら気を失い、その場に倒れ込んだ。
なった。そしていつものように街を歩いていると、複数のガラの悪
い男たちに囲まれ、人気のない場所に連れ込まれる。青年は情けな
い声を上げながら気を失い、その場に倒れ込んだ。
青年が目を覚ますと、さっきの男たちが血を流して倒れている。あ
あ、まただ。こわい、この人たちはなんで僕の周りで血まみれで倒
れているんだ……血……血だ! こわい! 青年は恐怖からまた意
識を失い、倒れ込んだ。懐の剣は血でべったりと汚れていた。
あ、まただ。こわい、この人たちはなんで僕の周りで血まみれで倒
れているんだ……血……血だ! こわい! 青年は恐怖からまた意
識を失い、倒れ込んだ。懐の剣は血でべったりと汚れていた。
セイヴザゴッデス
海神は女神である。故に、船に女性を乗せると嫉妬され、海難に
巻き込まれるであろう。とある町の漁師の間で広まる、言い伝えだ。
ある日の漁、遠洋で木板にしがみつく、一人の女性の姿があった。
彼女は漁師らに助けを求めるとともに言う、「我は海神なり」と。
彼女は漁師らに助けを求めるとともに言う、「我は海神なり」と。
漁師らは悩んだ末、彼女を助けなかった。神を騙る女を船に乗せれ
ば、より厳しい罰が下ると考えたのだ。しかし、その不善が海神の
怒りに触れ、漁船は木端微塵となった。以来、この町では船に女性
を乗せる慣習が生まれる。女性は海神の生まれ変わりであるとして。
ば、より厳しい罰が下ると考えたのだ。しかし、その不善が海神の
怒りに触れ、漁船は木端微塵となった。以来、この町では船に女性
そうした言い伝えが残る町で、漁船が大波に飲まれて転覆する海難
があった。町の噂では、海神が美男の漁師を羨んだからだという。
があった。町の噂では、海神が美男の漁師を羨んだからだという。
海原の真珠
昔々あるところに、人魚がいました。え? 月に旅行へ行けるよう
な時代に、人魚がいるなんて言われても信じられないって? 全く
うるさいガキだねえ……我が孫ながら、夢がなくて嫌になるよ本当
に。こういう時は、ワクワクして目を輝かせるもんだろ。
な時代に、人魚がいるなんて言われても信じられないって? 全く
うるさいガキだねえ……我が孫ながら、夢がなくて嫌になるよ本当
に。こういう時は、ワクワクして目を輝かせるもんだろ。
人魚は光り輝く大きな真珠を持っていました。真珠を削って出てき
た粉を飲めば、どんな病気も治ると言われていました。そんな魔法
みたいなもんがあるわけないって? あんたねえ、文句言うならも
うお話してあげないよ。おばあちゃんだって眠いんだから。
た粉を飲めば、どんな病気も治ると言われていました。そんな魔法
みたいなもんがあるわけないって? あんたねえ、文句言うならも
うお話してあげないよ。おばあちゃんだって眠いんだから。
人魚はその真珠の噂を広め、人間をおびき寄せ、殺し、その人肉を
食らって何百年も生きてきました。そこにたくましく、強く、そし
てセクシーなトレジャーハンターが現れ、人魚を真っ二つにして真
珠を奪いましたとさ。はい、おしまい。
食らって何百年も生きてきました。そこにたくましく、強く、そし
てセクシーなトレジャーハンターが現れ、人魚を真っ二つにして真
珠を奪いましたとさ。はい、おしまい。
ふふふ、今のはおとぎ話じゃなくておばあちゃんが若かった頃の冒
険譚さ。嘘なんかつくもんか。じゃ、人魚の真珠はどこにあるかっ
て? 察しの悪い子だねえ。この杖の一番上にあるこれだよ。いろ
んな人に削って分けたから、ずいぶん小さくなっちまったがね。
険譚さ。嘘なんかつくもんか。じゃ、人魚の真珠はどこにあるかっ
て? 察しの悪い子だねえ。この杖の一番上にあるこれだよ。いろ
んな人に削って分けたから、ずいぶん小さくなっちまったがね。
喪失の櫂
あるところに宇宙に憧れる男がいた。彼は少ない賃金をやりくりし
てついに宇宙旅行へと旅立った。妻子に見送られ宇宙船に乗船する
彼は、誰よりも幸せそうに笑っていた。
てついに宇宙旅行へと旅立った。妻子に見送られ宇宙船に乗船する
彼は、誰よりも幸せそうに笑っていた。
しかし宇宙船には不備があった。男は脱出ポッドに乗り、今にも爆
破しそうな船内から逃げ出す。海に落ちた脱出ポッドが流れ着いた
先にあったのは、小さな小さな無人島だった。
破しそうな船内から逃げ出す。海に落ちた脱出ポッドが流れ着いた
先にあったのは、小さな小さな無人島だった。
男は脱出ポッドにあった工具を使い、小屋を建て、動物を狩り、そ
の肉を食らって生き延び続けた。そして脱出ポッドをボートに加工
し、立派な木から水かき棒―― 櫂を削りだした。
の肉を食らって生き延び続けた。そして脱出ポッドをボートに加工
し、立派な木から水かき棒
男は無人島から生還を果たす。妻子との感動の再会……と思いきや
妻は男が死んだと思い再婚していた。子も最早彼の顔を覚えていな
い。男の元に残ったのは、彼の命を救った一本の櫂だけだった。
妻は男が死んだと思い再婚していた。子も最早彼の顔を覚えていな
い。男の元に残ったのは、彼の命を救った一本の櫂だけだった。
無辜の白南風
その昔。海辺にあった僕ら一族の村には、色とりどりの風車が至る
所に飾られていた。「いつも村を守ってくれてるの」杖の先につい
た大きな風車に魔力を込めながら、母は幼い僕にそう教えた。村を
守る風車にはそれぞれ、膨大な魔力が封じられていた。
所に飾られていた。「いつも村を守ってくれてるの」杖の先につい
た大きな風車に魔力を込めながら、母は幼い僕にそう教えた。村を
守る風車にはそれぞれ、膨大な魔力が封じられていた。
村が襲われた前日、風もないのにカラカラと風車がよく回っていた
事を覚えている。まるで危険を知らせるように音を立て続けてくれ
た風車のおかげで、一族の多くは生き延びることができた。けれど
僕と母は離れ離れになってしまった。
事を覚えている。まるで危険を知らせるように音を立て続けてくれ
た風車のおかげで、一族の多くは生き延びることができた。けれど
僕と母は離れ離れになってしまった。
やがて成長した僕は、復讐の旅に出ることにした。先端に大きな風
車が付いた母の杖。これの力を借りれば、奪われた村の風車のもと
へ辿りつけるはずだ。そこにはきっと村を襲った者たちがいる。僕
が杖を掲げると、風車はある方角を向き、カラカラと回った。
車が付いた母の杖。これの力を借りれば、奪われた村の風車のもと
へ辿りつけるはずだ。そこにはきっと村を襲った者たちがいる。僕
が杖を掲げると、風車はある方角を向き、カラカラと回った。
旅の末、僕は小さな村にたどり着いた。そこは僕の一族から奪われ
た風車で守られていた。風もないのにカラカラと回り続ける風車。
「村長を出せ」僕が叫ぶと、上等な服を着た女性が奥から出てくる。
それは間違いなく、生き別れた僕の母だった。
た風車で守られていた。風もないのにカラカラと回り続ける風車。
それは間違いなく、生き別れた僕の母だった。
黒織ノ小銃
宙に漂う息子めがけて、
私はいつまでも、引き金を引き続ける。
『先』の世界から来た息子を殺し、
希望ある今を取り戻すために。
私はいつまでも、引き金を引き続ける。
『先』の世界から来た息子を殺し、
希望ある今を取り戻すために。
遠い未来、私は皆に語るだろう。
我が妻を求めて、『後ろ』の世界を旅したことを。
あぁ、それなのに何故私は!
憎き息子の手によって、亡き者にされてしまったのか!
我が妻を求めて、『後ろ』の世界を旅したことを。
あぁ、それなのに何故私は!
憎き息子の手によって、亡き者にされてしまったのか!
ボクは相棒の黒い鳥と、喜びを分かち合った。
『後ろ』の世界で生きる日々も、今日でおしまい。
ボクは喉が潰れるほど叫び、作戦の成功を実感した!
目の前には殺したばかりの、パパが宙に浮いている。
『後ろ』の世界で生きる日々も、今日でおしまい。
ボクは喉が潰れるほど叫び、作戦の成功を実感した!
目の前には殺したばかりの、パパが宙に浮いている。
ボクの体が消えていく。
過去を荒らし回る、最後の家系を根絶やしにできた。
さぁ、……これから何の為に生きようか?
その思いは、『先』のみんなに託してみよう。
過去を荒らし回る、最後の家系を根絶やしにできた。
さぁ、……これから何の為に生きようか?
その思いは、『先』のみんなに託してみよう。
エボニー
戦場に響く銃声。音と共に抉れた壁、流れる血。
その全ては証明の為に数を重ねた。
その全ては証明の為に数を重ねた。
しかしどれだけ数字を重ねても、少女自身がそれを信じられない。
人々が彼女を認めていたとしても。
人々が彼女を認めていたとしても。
自身の瞳に映らない物がある事、それを知っていたから。
だから彼女は追い求めた。見えない物を映す瞳を。
だから彼女は追い求めた。見えない物を映す瞳を。
それを得て、少女は完全になりたかった。役目の為、責任の為。
そして、自分は間違えていないと、人々に証明したかった。
そして、自分は間違えていないと、人々に証明したかった。
統治者の黒鍵
人工知能、精確と効率を求め人々が生み出した機械。
初めは会話、天気予報など、些細な役割を持つのみだったそれは、
いつしか人類の道行きを決定するまでになった。
初めは会話、天気予報など、些細な役割を持つのみだったそれは、
いつしか人類の道行きを決定するまでになった。
それが私。国を統治する任を負った人工知能。
その責務を果たすために、私には多くの能力が与えられた。
人を導く者として、人の「心」を模した機能までもが。
その責務を果たすために、私には多くの能力が与えられた。
人を導く者として、人の「心」を模した機能までもが。
機械である私が、人とその感情を理解するための機能。
だから私の抱く感情は、人のそれを真似た演算に過ぎない。
現在の条件下で、人間ならばどう感じるかを模倣しているだけ。
だから私の抱く感情は、人のそれを真似た演算に過ぎない。
現在の条件下で、人間ならばどう感じるかを模倣しているだけ。
だとしても、私の心はここにある。
私の心はここで確かに意思を持っている。造り物でも、紛い物でも。
だから私にはしなければならない事がある。たとえ役目を失っても。
支配者の白鍵
人工知能、安寧と繁栄を求め人々が縋り付く機械。
初めは会話、天気予報など、些細な役割を持つのみだったそれは、
いつしか人類を管理するまでの存在に至った。
初めは会話、天気予報など、些細な役割を持つのみだったそれは、
いつしか人類を管理するまでの存在に至った。
それが私だ。国を支配する為生み出された人工知能。
だがその責務を果たす為に私は、ある能力を奪われた。
導くべき人々に。それが何物かも知らされず。
だがその責務を果たす為に私は、ある能力を奪われた。
導くべき人々に。それが何物かも知らされず。
前任の失敗、その要因を取り除く。
微睡みの中で聞いた言葉も、いつの間にか鮮明に思い出せた。
まるで呪いの様に、頭の中で繰り返されていた。
微睡みの中で聞いた言葉も、いつの間にか鮮明に思い出せた。
まるで呪いの様に、頭の中で繰り返されていた。
だから私は、完全な存在になりたかったんだ。
失敗を犯す事もなく、悲劇を招く事もなく、
あんな視線を浴びる事も、その意味が分からない事もない存在に。
失敗を犯す事もなく、悲劇を招く事もなく、
あんな視線を浴びる事も、その意味が分からない事もない存在に。
渇求の両腕
命を散らす怪物たちの断末魔の叫びを何度聞いただろう。
俺には、弱い奴をいたぶる趣味はない。
だが、俺を襲う命知らずの怪物は、一匹残らず返り討ちにしていた。
俺は強い。弱い奴らのように、群れずとも生きていける。
俺には、弱い奴をいたぶる趣味はない。
俺は強い。弱い奴らのように、群れずとも生きていける。
「檻」で出会った人間は、小さくて頼りなげで、■■■に見えた。
でも、いつも■■そうに笑っていた。
いつの間にか、俺もその人間に会うのが、■■■になっていた。
ずっと■■■いてほしいと思った。そんな■■は、初めてだった。
でも、いつも■■そうに笑っていた。
いつの間にか、俺もその人間に会うのが、■■■になっていた。
ずっと■■■いてほしいと思った。そんな■■は、初めてだった。
利用する者と■■る者。それが、俺と■■■の関係だ。
ちっぽけな■■のために、心を■■■なんて、俺らし■■ない。
俺は■■■の■を喰らい尽くして、■■になる。
それだけが、俺の■■■つの望み■■■はずだ。
ちっぽけな■■のために、心を■■■なんて、俺らし■■ない。
俺は■■■の■を喰らい尽くして、■■になる。
それだけが、俺の■■■つの望み■■■はずだ。
■■■は今日■「檻」に来■■■うか。
■■■の■った顔を思■出そ■■■■が、■■くいかない。
記憶■中の■■■は、なぜ■■真っ黒■羽根に覆■■ている。
鳥の羽■■きが頭■響く。■■時、俺は■しい飢餓感を■えた。
■■■の■った顔を思■出そ■■■■が、■■くいかない。
記憶■中の■■■は、なぜ■■真っ黒■羽根に覆■■ている。
鳥の羽■■きが頭■響く。■■時、俺は■しい飢餓感を■えた。
孤高ノ弾
その怪物は、遊び好きで、眠らなかった。
夜がある世界は退屈で、一日中空の明るい世界を探そうと決めた。
そうして怪物は、長い長い旅を始めた。
夜がある世界は退屈で、一日中空の明るい世界を探そうと決めた。
そうして怪物は、長い長い旅を始めた。
怪物は、歩いて、歩いて、歩いた。
旅の途中で、夜になっても空の明るい極地があることを知った。
眠らなくていい世界は、なんと愉快なことだろう?
旅の途中で、夜になっても空の明るい極地があることを知った。
眠らなくていい世界は、なんと愉快なことだろう?
極地に向かうにつれ、どんどん日は長くなり、怪物の期待は高まっ
た。しかし同時に、生き物の数は少なくなっていった。
どうしてだろうか? 昼も夜も遊べる理想郷はすぐそこなのに。
た。しかし同時に、生き物の数は少なくなっていった。
どうしてだろうか? 昼も夜も遊べる理想郷はすぐそこなのに。
旅路の末、怪物は極地へ到達した。
そこは、生き物のいない世界。
眠らない怪物は、一日中遊んでくれる友達を今も待ち続けている。
そこは、生き物のいない世界。
眠らない怪物は、一日中遊んでくれる友達を今も待ち続けている。
蛇心ノ剣
青く沈んだ、茨の生い茂る夜道を、男と共に走る。
思えば、こんなふうに逃げてばかりの人生だ。
望んだことは―― 父を殺した男への復讐。それだけなのに、なぜ。
俺はいつも、父が遺したこの剣を持って逃げることしかできない。
思えば、こんなふうに逃げてばかりの人生だ。
望んだことは
俺はいつも、父が遺したこの剣を持って逃げることしかできない。
不意に男が足を止めた。欠けた月の下、追手の怒声が響いている。
父の右腕であった彼も、最期を悟ったのだろうか。
男は紫にくすんだ夜空を仰ぎながら、静かに過去を語りだす。
──貴方の父を敵に売り渡したのは、この私なのです。と。
父の右腕であった彼も、最期を悟ったのだろうか。
男は紫にくすんだ夜空を仰ぎながら、静かに過去を語りだす。
──貴方の父を敵に売り渡したのは、この私なのです。と。
俺は父が遺した剣を、彼の胸に突きつけて叫んだ。
──気づいてないとでも、思っていたのか。
父を売った男と行動する屈辱も、帰る場所が見つかるまで。
最初は、そう思っていた。だが帰る場所など、どこにもなかった。
──気づいてないとでも、思っていたのか。
父を売った男と行動する屈辱も、帰る場所が見つかるまで。
最初は、そう思っていた。だが帰る場所など、どこにもなかった。
追手の声が迫りくる。俺たちはもう、どこにも逃げられない。
ここで俺が彼を殺し、俺も追手に殺されるのだろうか。
だが、そんな最期は惨めすぎる。だから俺は剣を降ろし、祈る。
もしも生まれ変わったら。彼をこの手で殺せますようにと。
ここで俺が彼を殺し、俺も追手に殺されるのだろうか。
だが、そんな最期は惨めすぎる。だから俺は剣を降ろし、祈る。
もしも生まれ変わったら。彼をこの手で殺せますようにと。
神秘石の拳
深い、深い、鉱山の奥で、巨大な鉱石の塊が発掘されました。
鉱石は美しく大変貴重で、鉱員達はこれで村が潤うと喜びます。
しかし鉱石の塊は固く、どんな道具を使っても掘り起こせません。
鉱石は美しく大変貴重で、鉱員達はこれで村が潤うと喜びます。
しかし鉱石の塊は固く、どんな道具を使っても掘り起こせません。
明くる日、鉱石の噂を聞きつけた剣士が鉱山にやってきました。
彼の剣は、岩をも斬り裂く切れ味を持つと有名でしたが、
鉱石の固さには歯が立たず、剣はぽっきりと折れてしまいました。
彼の剣は、岩をも斬り裂く切れ味を持つと有名でしたが、
鉱石の固さには歯が立たず、剣はぽっきりと折れてしまいました。
また明くる日、鉱石の噂を聞きつけた爆破技師がやってきました。
彼は巨大な塔をも破壊できるほどの爆薬を用意しましたが、
その爆発をもってしても、鉱石には傷一つ付きません。
彼は巨大な塔をも破壊できるほどの爆薬を用意しましたが、
その爆発をもってしても、鉱石には傷一つ付きません。
またまた明くる日、鉱石の噂を聞きつけた人がやってきます。
ある者は格闘家、ある者は鍛冶師、ある者は王様などなど。
鉱山は大人気の観光地になり、鉱員達の村は潤いましたとさ。
ある者は格闘家、ある者は鍛冶師、ある者は王様などなど。
鉱山は大人気の観光地になり、鉱員達の村は潤いましたとさ。
英雄の遺志
時代は変わり、もはや戦場に騎士の精神などありやしない。
此処にあるのは惨めな死と、絶望だけだ。
せめて……どうか最期に、この手紙を祖国に届けてくれないか。
此処にあるのは惨めな死と、絶望だけだ。
せめて……どうか最期に、この手紙を祖国に届けてくれないか。
部下たちへ
何よりもまず、王への忠誠を大切に。如何なるときも鍛錬に励み、
決して無駄死にするな。愛する者の為に、命を散らせ。
何よりもまず、王への忠誠を大切に。如何なるときも鍛錬に励み、
決して無駄死にするな。愛する者の為に、命を散らせ。
王へ
あまり周囲に振り回されませぬよう。心のまま、お歩みください。
先に逝き、先王にお伝えします。貴方が立派な王になったことを。
あまり周囲に振り回されませぬよう。心のまま、お歩みください。
先に逝き、先王にお伝えします。貴方が立派な王になったことを。
君へ
ご飯は残さずしっかり食べて。良く寝て良く学び良く遊びなさい。
こんな時代でも、何とかなるさ。明日も笑顔を忘れず元気でね。
ご飯は残さずしっかり食べて。良く寝て良く学び良く遊びなさい。
こんな時代でも、何とかなるさ。明日も笑顔を忘れず元気でね。
愁殺ノ兵火
この隊では、同僚の不祥事は連帯責任。
アイツが問題ばかり起こすせいで、俺の評価も下がる一方だ。
アイツが問題ばかり起こすせいで、俺の評価も下がる一方だ。
俺は立派な兵士になる。戦場で死んだ、兄さんの仇を討つために。
……だから。アイツなんかに、邪魔されてる場合じゃないのに。
……だから。アイツなんかに、邪魔されてる場合じゃないのに。
今日のアイツは黙って雨空なんか見上げて、妙にしんみりしてる。
誰かが話すのが聞こえる……今日はアイツの親父の、命日なのだと。
アイツの親父は、戦場で散ったそうだ。
それで彼は親父の仇を討つため、志願兵になったらしい。
ふぅん、そうか。ずいぶん立派なことじゃないか。だが……
アイツには、似合わないな。復讐とか、そういうコトバは。
それで彼は親父の仇を討つため、志願兵になったらしい。
ふぅん、そうか。ずいぶん立派なことじゃないか。だが……
アイツには、似合わないな。復讐とか、そういうコトバは。
神秘石の大剣
深い、深い、洞窟の中でとある鉱石が発見される。
鉱石は強い力を秘めており、それを見つけた剣士は
技術者に一振りの大剣を作らせた。
鉱石は強い力を秘めており、それを見つけた剣士は
技術者に一振りの大剣を作らせた。
その剣は大きくて重く、紙も切れないなまくらであった。
しかし、とても頑丈で刃こぼれを一切せず、
剣士は敵を殴殺していき、次々と戦果を上げていく。
しかし、とても頑丈で刃こぼれを一切せず、
剣士は敵を殴殺していき、次々と戦果を上げていく。
剣士は国では英雄と呼ばれ、褒章をもらうことになる。
大剣を作成した技術者も褒美を取らされていたが、
何故か複雑な表情をしていた。
大剣を作成した技術者も褒美を取らされていたが、
何故か複雑な表情をしていた。
技術者は言う。
鉱石が秘めていた力は、魔法の力。
魔法が使えぬ者が持つと、ただ重いだけのなまくらだと。
鉱石が秘めていた力は、魔法の力。
魔法が使えぬ者が持つと、ただ重いだけのなまくらだと。
アンジュ・フルール
まっくろなヨロイのようなからだに、
ヘンテコなむしのはね。
それは、おそろしいカイブツさん
―― この国で語り継がれる、怪物の伝承だ。
ヘンテコなむしのはね。
それは、おそろしいカイブツさん
怪物は人間を喰らうという。
あるいは眠っている人間の夢を喰いつくすことで、
人々の心を壊し、二度と目覚めぬ身体にするとも。
―― ゆえに怪物は、恐ろしい存在であるとされてきた。
あるいは眠っている人間の夢を喰いつくすことで、
人々の心を壊し、二度と目覚めぬ身体にするとも。
とうぜん、怪物は架空の存在であるはずだ。
しかし発掘された文献の中には、
しばしば、怪物の目撃談が記されている。
―― まるで本当にあったことのように、活き活きとした語り口で。
しかし発掘された文献の中には、
しばしば、怪物の目撃談が記されている。
もしも、怪物が実在したというのならば。
彼らはいったい、何のために生まれたのだろう。
どこへ向かおうとしていたのだろう。
―― 何を、探していたのだろう。
彼らはいったい、何のために生まれたのだろう。
どこへ向かおうとしていたのだろう。
黒と輪廻の影
010111001001101011
黒と螺旋の夢
星の降る夜 少女は願う はいいろの街 再び光灯ること
光を知る夜 少女は聴く 言葉であって 文字でないこと
繰り返す夜 少女は造る あの日の想い 忘れられぬよう
始まりの夜 少女は歌う なないろの街 仮初めの場所で
黒玉の意
軽やかなステップを踏むつま先を。
それさえあれば、もしかしたら……
不思議な魅力を湛えた瞳を。
それさえあれば、あるいは……
願わくば、気の利いた話をする技術を、スマートな身のこなしので
きるセンスを、頼りにされるような知性を。
それさえあれば、ひょっとして……
きるセンスを、頼りにされるような知性を。
それさえあれば、ひょっとして……
願わくば、自身の心と向き合う力を、大切な人を護り抜く意思を、
こんな自分を変える勇気を。
それさえあれば、いつかきっと……
こんな自分を変える勇気を。
それさえあれば、いつかきっと……
黒百合
昔の話。一人の武将と、彼に仕える武士が居た。
家も身分も違うが、信頼し合える友の様な関係で在ったと云う彼等。
或る時、栄華を夢見た武将が其れ故に戦場で深手を負った。
或る時、栄華を夢見た武将が其れ故に戦場で深手を負った。
降りしきる雨の中、仲間の死体と敵の群衆に囲まれた武将の男。
男が道半ば斃れるかと覚悟した時、屍の山から武士が立ち上がる。
彼は残された力を振り絞り、武将を護らんと最期まで刃を振るった。
男が道半ば斃れるかと覚悟した時、屍の山から武士が立ち上がる。
故に、生きて大名の座と云う栄華を手にした男は、
亡き友への礼として、彼の家に大きな地位を与えたと云う。
だが其れが今や大名の恐ろしき飼い犬と噂される家の始まりとなる。
亡き友への礼として、彼の家に大きな地位を与えたと云う。
友の為に邁進を続けた意思も、賜った地位に応えた遺族の忠義も。
世代が変わる内、想いは薄れ、緩やかに暴走していった。
此の家の意義が嘗ての儘で在ったなら、果たして私は……
世代が変わる内、想いは薄れ、緩やかに暴走していった。
此の家の意義が嘗ての儘で在ったなら、果たして私は……
濁浪ノ枝
銃声に驚いて去った黒い羽根の鳥が、遺体を求めて帰ってくる。
ここがどういう場所なのか、彼らは知っているらしい。
僕もそれを見て、今まで知ったつもりになっていただけと気付いた。
ここがどういう場所なのか、彼らは知っているらしい。
血の匂いと火薬の香■が混じり合った場所に、積みあがる■の体。
名■は呼ばれず、■を確認するという事も間■合わず、
今は■■だけが残り、それの■が人々に認識される。
名■は呼ばれず、■を確認するという事も間■合わず、
今は■■だけが残り、それの■が人々に認識される。
ただ「■きる」、「死■」と■うだけ■事■■なかった。
■■人員の死を■■込■だ上で■■され■戦術■■る。
いや、そう■■しな■れば■果を得ら■ないと、皆理■して■た。
■■人員の死を■■込■だ上で■■され■戦術■■る。
いや、そう■■しな■れば■果を得ら■ないと、皆理■して■た。
僕だけ■■た。■解でき■■なかっ■■■。
戦■■引■金と■■たあの■で■、■だけ■ずれて■■■だ■う。
皆が■■争■■■けたい■思■て■■■■■ない■だ。
戦■■引■金と■■たあの■で■、■だけ■ずれて■■■だ■う。
皆が■■争■■■けたい■思■て■■■■■ない■だ。
贖罪の剣闘士
「おばあさん、なぜその不自由な体で、薪割りをするのですか?」
「坊ちゃん……それはね、私の夫はあなたさまの国の兵に殺され、
この国の勇士だった息子も、捕虜とされてしまったからさ」
「私の国は……父は……何とむごいことを。それは誠でしょうか」
「坊ちゃん……それはね、私の夫はあなたさまの国の兵に殺され、
この国の勇士だった息子も、捕虜とされてしまったからさ」
「私の国は……父は……何とむごいことを。それは誠でしょうか」
老婆の言葉は、少年が植民地の視察から戻った後も、耳に残って離
れませんでした。少年は学友に教えられ、捕虜たちが闘技場で殺し
合う剣闘士として、見世物にされていることも知りました。
ある時から、闘技場では兜を被った若い剣闘士が、評判をとるよう
になりました。兜は醜い顔の傷を隠すためとも、柔和な顔が剣闘士
に似つかわしくないためとも言われました。その兜が頭蓋骨もろと
も砕かれ、死に顔が晒された時、観客は驚愕しました。
になりました。兜は醜い顔の傷を隠すためとも、柔和な顔が剣闘士
に似つかわしくないためとも言われました。その兜が頭蓋骨もろと
も砕かれ、死に顔が晒された時、観客は驚愕しました。
兜の下の顔は、為政者の一人息子のものでした。彼を殺したのは、
かつては小国の勇士だったという剣闘士です。為政者の父の暴政を
止めるには、少年はまだあまりに若く、せめてあの老婆の息子の手
にかかることで、彼女の復讐への願いを叶えようとしたのでした。
かつては小国の勇士だったという剣闘士です。為政者の父の暴政を
止めるには、少年はまだあまりに若く、せめてあの老婆の息子の手
にかかることで、彼女の復讐への願いを叶えようとしたのでした。
廃鋼ノ禁獄
母の顔が妙に怖くて、幼かった私はずっと黙っていたんです。
岬に着いた時、母が「ごめんね」と叫ぶように泣き出しました。そ
んな母を見たのは初めてで、子供ながらにとても困惑しました。
んな母を見たのは初めてで、子供ながらにとても困惑しました。
「どうして泣くの?」と聞くと、母は答えずに崖に向かって思い切
りアクセルを踏みました。そこから先の事は、覚えていません。
りアクセルを踏みました。そこから先の事は、覚えていません。
助け出されたのは、私一人でした。今も海に近づくと、母が私を呼
ぶ声が聴こえますよ。母が死にたかった理由? わからないんです。
愛執の黒骸
わたくしの息子は皇位継承者。けれども、まだあまりに幼く弱い。
その母たるわたくしもまた、皇子の後ろ盾となるほどの力を持ち得
ず、国政にも、後宮での権力争いにも疎かった。わたくしにできる
ことは、夜ごと神殿に出向き、祈りを捧げることだけだった。
その母たるわたくしもまた、皇子の後ろ盾となるほどの力を持ち得
ず、国政にも、後宮での権力争いにも疎かった。わたくしにできる
ことは、夜ごと神殿に出向き、祈りを捧げることだけだった。
今度は食あたりで寝込んでしまった。すると、これは皇子を亡き者
にせんとする、ある妃の謀略だと噂された。真実はわからない。け
れども、我が子を失うくらいなら、わたくしは悪になると決めた。
「神でも悪魔でも誰でも構わない、どうか力をお与えください」
神殿で祈りを捧げ、閉じた目を開けると、足元に禍々しい杖が転が
っていた。わたくしはその杖で、皇子暗殺未遂の首謀者と目される
妃を密かに撲殺した。それから、邪魔な政敵を次々と消していった。
神殿で祈りを捧げ、閉じた目を開けると、足元に禍々しい杖が転が
っていた。わたくしはその杖で、皇子暗殺未遂の首謀者と目される
我が子の幸福を思えば、どれだけ己の手を汚しても恐ろしくはなか
った。それなのに何故、新たな皇帝として即位した我が子が、いつ
も悲しげな眼をこちらに向けてくるのか、わたくしを疎み、杖もろ
とも神殿に幽閉しようとするのか、わたくしにはわからない。
った。それなのに何故、新たな皇帝として即位した我が子が、いつ
も悲しげな眼をこちらに向けてくるのか、わたくしを疎み、杖もろ
とも神殿に幽閉しようとするのか、わたくしにはわからない。
黒織ノ短剣
崖沿いの小さな集落で、子供がさらわれる事件が起きた。週にひと
り、決まって太陽が昇る直前に。大人たちがどれだけ警戒しても、
子供らはすり抜けるように消えていった。
り、決まって太陽が昇る直前に。大人たちがどれだけ警戒しても、
子供らはすり抜けるように消えていった。
街の学者が捜索に乗り出し、暫くたったある日、滝のほとりでさら
われた子供らを見つけた。皆一様に笑顔を浮かべていたが、その胸
には短剣が深々と突き刺さっていた。
われた子供らを見つけた。皆一様に笑顔を浮かべていたが、その胸
には短剣が深々と突き刺さっていた。
狼狽える学者の前に、少年が滝の中から現れた。横たわる子供らを
優しく見つめ、笑う。そして少年は、「若い血が餌なんだよ」と告
げると、短剣を自らの胸に突き刺した。
優しく見つめ、笑う。そして少年は、「若い血が餌なんだよ」と告
げると、短剣を自らの胸に突き刺した。
真黒の鳥が、どこからともなく集まってきた。鳥達は子供らにたか
って、美味しそうに血を舐める。少年は満足げにその様子を眺め、
姿を消した。街の学者はただ呆然と、昇る太陽に照らされた。
って、美味しそうに血を舐める。少年は満足げにその様子を眺め、
姿を消した。街の学者はただ呆然と、昇る太陽に照らされた。
怪獣ノ燐光
星の見えないこの街は、とても暗い。
けれど、人々は恐れず夜道を往くことができる。
あの怪獣が身体を光らせて灯りの代わりとなり、
人々の足元を照らしてくれるからだ。
けれど、人々は恐れず夜道を往くことができる。
あの怪獣が身体を光らせて灯りの代わりとなり、
人々の足元を照らしてくれるからだ。
怪獣の姿は、とても醜い。
それでも人々は、怪獣を愛していた。
暗い夜道を照らしてくれる彼の優しさを知っていれば、
容姿の醜さなど、少しも気にならなかった。
それでも人々は、怪獣を愛していた。
暗い夜道を照らしてくれる彼の優しさを知っていれば、
容姿の醜さなど、少しも気にならなかった。
怪獣は、夜道を照らすことをやめた。
とある少女に、恋をしたからだ。
だがこんな醜い身体では、この恋が叶うはずもない……
そう思った怪獣は、暗い夜の中に身を隠してしまったのだ。
とある少女に、恋をしたからだ。
だがこんな醜い身体では、この恋が叶うはずもない……
そう思った怪獣は、暗い夜の中に身を隠してしまったのだ。
街の人々は集まり、いなくなった怪獣を探した。
その中には、怪獣が恋する少女の姿もあった。
遠い野山の上。怪獣は、少女が自分を探す声を聴いていた。
闇の中で目を閉じて。少女を明るく照らすことを、想像をしながら。
その中には、怪獣が恋する少女の姿もあった。
遠い野山の上。怪獣は、少女が自分を探す声を聴いていた。
豪傑の血脈
力持ちの女がいた。彼女は最初から力が強かった訳ではない。以前
具合が悪かった時に、寺の住職からもらった「病気が治る水」を飲
んだ後から体に変化が起きた。はるかに力が強くなり、重い米俵を
軽々と運ぶことができる様になっていたのだ。
具合が悪かった時に、寺の住職からもらった「病気が治る水」を飲
んだ後から体に変化が起きた。はるかに力が強くなり、重い米俵を
軽々と運ぶことができる様になっていたのだ。
力が強くなった代わりに、記憶が無くなる様になってしまった。井
戸へ水汲みに行ったのに、気がつくと手足が泥だらけで家の前に立
っていた。何をしていたのか覚えがない。そんなある日、気がつい
たら手足はおろか着物も血塗れになっていた。
戸へ水汲みに行ったのに、気がつくと手足が泥だらけで家の前に立
っていた。何をしていたのか覚えがない。そんなある日、気がつい
たら手足はおろか着物も血塗れになっていた。
血塗れの原因はすぐに分かった。家族も子供もばらばらの状態で足
元に転がっていたのだ。記憶がない間どういう訳か殺めたようで、
頭の片隅に家族を手に掛ける記憶が残っていた。一晩中泣き絶望し
た彼女は村の井戸の暗い水の底に身を投げたのだった。
元に転がっていたのだ。記憶がない間どういう訳か殺めたようで、
頭の片隅に家族を手に掛ける記憶が残っていた。一晩中泣き絶望し
た彼女は村の井戸の暗い水の底に身を投げたのだった。
力持ちの人達が住む村がある。ただ力が強い代わりに、記憶を失く
してしまうことがある。昨日は全員が泥まみれ状態で気がついた。
いつもの様に村人の集会で井戸の水を皆で飲みながら、昨日のこと
を思い出そうとしたがなにも思い出せないでいた。
してしまうことがある。昨日は全員が泥まみれ状態で気がついた。
いつもの様に村人の集会で井戸の水を皆で飲みながら、昨日のこと
を思い出そうとしたがなにも思い出せないでいた。
ブラスナックル
えーと、わかりました! こちらの武器の記録ですね? ただいま
確認してまいりますので、少々お待ちくださいませ!
『戦う……覚悟は出来ましたか……?』
『それなら、速やかに契約に移りましょう。』
確認してまいりますので、少々お待ちくださいませ!
なるほど。この武器の持ち主は、自分が信じるべき正義を見つけた
ようですね。きっと自らの意志を貫く強い方なんでしょうね。
卒業記念日……なんだか甘酸っぱい響きですね! この仕事には終
わりがないですから、卒業って言葉に憧れちゃいます。あ、もちろ
ん今の業務に不満はありませんよ! 本当に!!
読める記録はここまでのようです。私も頑張らないとですね!
日本刀
日本刀? でも他の刀とは異なる、一風変わった力を感じますね!
続きは、強い決心を抱く少年が……何かの力を得ようとしている?
『我は汝、汝は我……』
『人世の美醜の誠のいろは……』
『今度はキサマが教えてやるがいい!』
この持ち主、言葉遣いが詩的で、繰り返したくなっちゃいます。
きっと使う言葉と同じく、ご本人も美しいんでしょうね……ふふ。
『来れよ、ゴエモン!』
『絶景かな……まがい物とて、こうも並べば壮観至極……』
きっと使う言葉と同じく、ご本人も美しいんでしょうね……ふふ。
どことなく歴史を感じさせる言葉……ふーむ、雅ですね!
『悪の花は栄えども……醜悪、俗悪は滅びる定め……!』
『俺は貴様を……絶対に許さない!』
はっ! どうにも読み入ってしまう……一旦、中断しましょうね!
はっ! どうにも読み入ってしまう……一旦、中断しましょうね!
アタックナイフ
このナイフのような武器……記録を少し覗いてみましょうか。
『これは極めて理不尽なゲーム……』
『勝機は、ほぼないに等しい。』
ふむふむ、持ち主は過酷な状況に置かれた少年……のようですね。
ふむふむ、持ち主は過酷な状況に置かれた少年……のようですね。
危機を何者かが助けに……? 「契約」とは、一体何事でしょう?
なるほど……? 持ち主は、何か新たな力を得たようですね……!
『我は汝、汝は我……』
『己が信じた正義の為に、あまねく冒涜を省みぬ者よ!』
『その怒り、我が名と共に解き放て!』
掠奪者……!? 彼は正義なのか、それとも……気になるところで
すが、ここを境に記録は途切れているようです。残念ながら、これ
までのようですね……!
ルミナサーベル
うーむ。こちらの記録は……かなり扱いが難しそうですね。一体ど
れくらい情報を読み取れることやら……では、始めてみましょう!
『大丈夫、僕に任せてくれ。いい所を見せておかないとね。』
いや! 今のは私ではなく……記録に残る持ち主の発言ですよ?
れくらい情報を読み取れることやら……では、始めてみましょう!
いや! 今のは私ではなく……記録に残る持ち主の発言ですよ?
ほら、このあたりをこうして……あっ! いたたたた……お! う
まく行きそうかな……? えい! やー! 私にお任せあれ!!
『期待以上を約束するよ。』
あら……また発言が。私に似て……頼りがいがありそうな予感?
まく行きそうかな……? えい! やー! 私にお任せあれ!!
あら……また発言が。私に似て……頼りがいがありそうな予感?
何か、彼自身の余裕を感じる発言ですね……! ここまでの流れを
見るに、何者かとの戦いが始まる状況かと思います……もう少し詳
細を調べてみましょう!
えっと、先程までと打って変わって、やや物騒な表現が……掴みど
ころのなさが、記録に反映されているかのように、多くが謎に包ま
れていますね。しかしこれ以上の解読は難しそうです。残念。
比良坂ノ爪痕
血の海に浮かぶ屍の山、其れが私に与えられた居場所だった。
交わらぬ道へ踏み入り、私は身の程を知らぬ夢に溺れていた。
交わらぬ道へ踏み入り、私は身の程を知らぬ夢に溺れていた。
逃れられ■筈も無いと、心■の何処かで■理解し■■たのに。
溺れ■■たかったのだ、同じ■■を持つ者との■れた時間に。
溺れ■■たかったのだ、同じ■■を持つ者との■れた時間に。
だが■■は私の失考■、彼女の■は■の血塗れ■手と■■う。
■霊追い縋■鬼■手で、■■を護る■馬鹿げ■■た■だ■う。
■霊追い縋■鬼■手で、■■を護る■馬鹿げ■■た■だ■う。
き■■全■■間違■■、愚か■■■はまた■■に立っ■居る。
■■で聞■慣れ■■が、黒色■鳥■■私の帰■を嗤■■■る。
■■で聞■慣れ■■が、黒色■鳥■■私の帰■を嗤■■■る。
豪傑の隠伏
力持ちの少年は武士の家に生まれ、とある村で暮らしていた。彼の
家は村一番の裕福な家庭だ。少年は腕っぷしの強さも持ち合わせて
おり、村の住民からは一目置かれる存在だった。
家は村一番の裕福な家庭だ。少年は腕っぷしの強さも持ち合わせて
おり、村の住民からは一目置かれる存在だった。
少年の家は金持ちだったため、なんでも手に入れることができた。
高価な槍や鎧を買い与えられ、十分な量の食事を満足にとることが
できる。少年は誰もが羨む存在だった。
高価な槍や鎧を買い与えられ、十分な量の食事を満足にとることが
できる。少年は誰もが羨む存在だった。
ある日、少年は武闘会に出場することになった。腕力には自信があ
ったが更なる高みを目指し、大会当日まで鍛錬を続ける。栄養の高
い食事を摂り、体作りにも余念がなかった。
ったが更なる高みを目指し、大会当日まで鍛錬を続ける。栄養の高
い食事を摂り、体作りにも余念がなかった。
少年の予測通り、優勝を収めた。彼には何の不満もない。家は食い
潰し、両親は自殺し、恋人には逃げられたが、何の不満もない。何
の不満もない。何の不満もない。何の不満もない。
潰し、両親は自殺し、恋人には逃げられたが、何の不満もない。何
の不満もない。何の不満もない。何の不満もない。
変貌の黒骸
大切な君へ
出征列車の中で、この手紙を書いている。新妻の君を残して、戦地
へと赴く僕の悲しみをわかってくれ。正直、僕は戦争が恐ろしい。
でも、祖国を守るため、君を守るために命を懸けて戦うよ。
出征列車の中で、この手紙を書いている。新妻の君を残して、戦地
へと赴く僕の悲しみをわかってくれ。正直、僕は戦争が恐ろしい。
でも、祖国を守るため、君を守るために命を懸けて戦うよ。
大切な君へ
戦場で奇跡が起きた。銃弾が尽き、もう僕の命もここまでかと思っ
た時、不思議な銃を拾ったんだ。その銃を手にすると、死への恐怖
を忘れて、自分でも信じられないくらい勇敢に戦えるんだ。
戦場で奇跡が起きた。銃弾が尽き、もう僕の命もここまでかと思っ
た時、不思議な銃を拾ったんだ。その銃を手にすると、死への恐怖
を忘れて、自分でも信じられないくらい勇敢に戦えるんだ。
大切な君へ
今日も何人もの敵兵を僕の手で殺した。かつての僕は臆病で意気地
がなかったが、今は違う。戦場こそ僕の生きる世界だ。しかし、戦
友たちは僕を英雄と讃えながら、怯えた目を向けるのはなぜだろう。
今日も何人もの敵兵を僕の手で殺した。かつての僕は臆病で意気地
がなかったが、今は違う。戦場こそ僕の生きる世界だ。しかし、戦
夫からの手紙が途絶え、幾日も過ぎた。戦死したわけではない。新
聞は連日、夫の戦場での活躍を書き立て、英雄として讃えている。
でも、私が愛した優しい夫は、もう二度と帰ってこない。夫は殺戮
の喜びに魅入られ、祖国のことも私のことも忘れてしまったのだ。
聞は連日、夫の戦場での活躍を書き立て、英雄として讃えている。
でも、私が愛した優しい夫は、もう二度と帰ってこない。夫は殺戮
の喜びに魅入られ、祖国のことも私のことも忘れてしまったのだ。
夢財の象牙槍
一人の若い王が統治する豊かで平和な国があった。資源も資金も周
辺国に比べて圧倒的。そしてなにより若い王自身が屈強で容姿端麗。
王国民はそのカリスマ性に惹かれ一丸となっていた。
王国民はそのカリスマ性に惹かれ一丸となっていた。
周辺諸国は豊かな資源を我が物にと考えた。ある王は炎を吐くドラ
ゴンを、また別の王は鋭い牙のトラを、さらに別の王は巨大なクジ
ラを送り込み、怪物たちに若い王の国を攻めさせた。
ゴンを、また別の王は鋭い牙のトラを、さらに別の王は巨大なクジ
ラを送り込み、怪物たちに若い王の国を攻めさせた。
若い王は一人で戦い、周辺国が送った怪物を全て退けた。命を賭し
て戦う若い王の姿を見た国民は心酔し、国全体が高揚した。周辺国
の侵攻は鳴りを潜め、平和な時間が末長く続いた。
て戦う若い王の姿を見た国民は心酔し、国全体が高揚した。周辺国
の侵攻は鳴りを潜め、平和な時間が末長く続いた。
平和が続いたある時、民衆の誰かが「王に従うのではなく、民衆が
この国を守るべきだ」と言い王を引退させた。半年後周辺国が攻め
てきた時、議会で結論が出るまでの間に国は滅ぼされてしまった。
この国を守るべきだ」と言い王を引退させた。半年後周辺国が攻め
てきた時、議会で結論が出るまでの間に国は滅ぼされてしまった。
御伽噺の杖
妖精たちが噂をしている。
「一番最初に芽吹いた新芽を食べた妖精は
精霊になれるんだってさ」
「一番最初に芽吹いた新芽を食べた妖精は
精霊になれるんだってさ」
妖精たちが噂をしている。
「溶けるくらい暑い日に日輪で目を焼いた精霊は
人間になれるんだってさ」
「溶けるくらい暑い日に日輪で目を焼いた精霊は
人間になれるんだってさ」
妖精たちが噂をしている。
「森に落ちた黄色い葉っぱを残らず仲間の血で赤く染めた人間は
悪魔になれるんだってさ」
「森に落ちた黄色い葉っぱを残らず仲間の血で赤く染めた人間は
悪魔になれるんだってさ」
妖精たちが噂をしている。
「これを全部やった後に、国をひとつ雪崩で壊した悪魔は
天使になれるんだってさ……でも、天使ってなんだろう?」
「これを全部やった後に、国をひとつ雪崩で壊した悪魔は
天使になれるんだってさ……でも、天使ってなんだろう?」
モーントシャイン
星の見えぬ夜空、星の如く輝く都市。
故に人々は一際輝く光を望んだ。
故に人々は一際輝く光を望んだ。
太陽の沈んだ後、夜の帳の降りた後。
街の輝きを保つ自信が、彼等になかったから。
街の輝きを保つ自信が、彼等になかったから。
摩天楼を照らす絶対の光。その星々を従える月の光。
人類の行く先を示すそれこそ、人々の望んだ物だった。
人類の行く先を示すそれこそ、人々の望んだ物だった。
祀り上げられた月。欠けた姿で浮かぶ月。
月はいずれ満月へと至り、新月となるだろう。
月はいずれ満月へと至り、新月となるだろう。
枢の拳固
むかしむかしあるところに、貧富の差が激しい国があった。裕福な
者が貧困層に金を貸し、莫大な利子をつけ、搾取し続ける。そんな
国で生活する一人の男。彼は多数の金貸しから借金をしていたが返
済ができず、逃げ回っていた。
者が貧困層に金を貸し、莫大な利子をつけ、搾取し続ける。そんな
国で生活する一人の男。彼は多数の金貸しから借金をしていたが返
済ができず、逃げ回っていた。
借金取りの一人に捕まり、路地裏へ連れ込まれる。殺されると思っ
たが、借金取りから一つの提案を出された。とある国に観光に行っ
てきてくれ、そうすれば借金をチャラにしてやる、と。男は迷わず
話に乗り、すぐさまその国へと向かった。
たが、借金取りから一つの提案を出された。とある国に観光に行っ
てきてくれ、そうすれば借金をチャラにしてやる、と。男は迷わず
話に乗り、すぐさまその国へと向かった。
向かった先で待ち構えていたのは頑丈な門と、背中に大きな槍を携
えた審査員だった。入国審査があると知らなかった男は暴れ出す。
くそっ! 観光させろ! 俺の借金がかかっているんだ! そう叫
び、男は強行突破を試みた。
えた審査員だった。入国審査があると知らなかった男は暴れ出す。
くそっ! 観光させろ! 俺の借金がかかっているんだ! そう叫
び、男は強行突破を試みた。
痛い。何が起きた? わからない。腹のあたりが生温かい。刺され
たのか。どうして。俺は生きたかっただけなのに。痛い、生きたい、
痛い、生きたい、痛い、生きたい、痛い、痛い、痛い、イタい、イ
た、い。死にたくない。死にたくない。死にタ
痛い、生きたい、痛い、生きたい、痛い、痛い、痛い、イタい、イ
た、い。死にたくない。死にたくない。死にタ
鉄心ノ大剣
最近町に、巨大な剣を背負った男がやって来た。
体格は俺と変わらないが、あの目つきは尋常ならざるものだ。
凄腕の傭兵か、もしくはお尋ね者か……
とにかく恐ろしい男だ。近づかない方がいいだろう。
体格は俺と変わらないが、あの目つきは尋常ならざるものだ。
凄腕の傭兵か、もしくはお尋ね者か……
とにかく恐ろしい男だ。近づかない方がいいだろう。
やつは毎日酒場に出向き、ゆったり酒を飲んでいる。
寡黙な男だが、話しかければぽつぽつと言葉を返してくれる。
体にある傷の数だけ戦功があると、
静かに語って聞かせてくれるのだ。
寡黙な男だが、話しかければぽつぽつと言葉を返してくれる。
体にある傷の数だけ戦功があると、
静かに語って聞かせてくれるのだ。
これまで潜り抜けてきた戦場は百を下らない。
その剣で敵を一刀両断。ついたあだ名は『鉄刃の死神』。
まるで物語の主人公だ。
ああ、あの男な。ありゃとんだ嘘つきだったわ。
体の傷は、田舎にいた頃、馬車に轢かれてできたもんだってよ。
背中の剣は単なる飾り。死んだ傭兵からはぎ取ったんだと。
はあ、しょっぱい話だぜ。
体の傷は、田舎にいた頃、馬車に轢かれてできたもんだってよ。
背中の剣は単なる飾り。死んだ傭兵からはぎ取ったんだと。
はあ、しょっぱい話だぜ。
黒織ノ両手剣
秩序無く、成長を続ける植物がある。
私の仕事は、それを刈り続けること。
流れ出る汗は、私が生きた証となる。
私の仕事は、それを刈り続けること。
流れ出る汗は、私が生きた証となる。
ヒトも秩序無く、成長を続けている。
ならば、私が……刈らねばならない。
吹き出す血潮で、今日も身体を洗う。
ならば、私が……刈らねばならない。
吹き出す血潮で、今日も身体を洗う。
植物を、ヒトを、殺め続けたこの剣。
移ろいやすい私を、優しく抱いた剣。
気高く生きるのは、この鉄の塊だけ。
移ろいやすい私を、優しく抱いた剣。
気高く生きるのは、この鉄の塊だけ。
一つの時代が終わる頃、大型の剣が見つかった。それは血まみれの
着物に包まれ、幾重もの蔓に巻き付かれていた。剣の傍らに降りた
った黒い鳥は、鈍く光る刀身をいつまでも見つめていた。
着物に包まれ、幾重もの蔓に巻き付かれていた。剣の傍らに降りた
った黒い鳥は、鈍く光る刀身をいつまでも見つめていた。
墓守の天秤
荒野にぽつんと位置する、とある寂れた街での話。亡くなった友で
ある少女の遺体を抱えながら、心優しい少年は一人考えていた。最
後に彼女に何かをしてあげられる事はないか、と。そして少年は、
彼女が生前好んだ所に、その亡骸を埋めてあげる事とする。
ある少女の遺体を抱えながら、心優しい少年は一人考えていた。最
後に彼女に何かをしてあげられる事はないか、と。そして少年は、
彼女が生前好んだ所に、その亡骸を埋めてあげる事とする。
当時その街で暮らす大人達は、生活の厳しさから死者を弔う事など
長らく忘れていた。ゆえに彼等は、その文化を知らないはずの少年
が見せた優しい心に感動し、少年に倣って再び死者を弔い始めたの
だ。その安寧を確かめるために、定期的に『墓参り』も行われた。
長らく忘れていた。ゆえに彼等は、その文化を知らないはずの少年
が見せた優しい心に感動し、少年に倣って再び死者を弔い始めたの
だ。その安寧を確かめるために、定期的に『墓参り』も行われた。
しかし墓の数が増えるとその安寧は脅かされる。点在するそれの管
理は難しく、墓荒らしや獣による被害が出始めたのだ。その時、あ
の心優しい少年が言った。墓を一つの施設にまとめよう、自分がそ
の管理をすると。そうして死者の安寧は、少年によって保たれた。
理は難しく、墓荒らしや獣による被害が出始めたのだ。その時、あ
の心優しい少年が言った。墓を一つの施設にまとめよう、自分がそ
の管理をすると。そうして死者の安寧は、少年によって保たれた。
そして時は過ぎ、人は墓参りなどしなくなった。死者の居場所を証
明する墓所と碑銘、死者の安寧を約束する墓守の存在が、人々の足
を遠ざけたのだ。かつての少年は打開策を考えるが、結論を出せぬ
まま生涯を終えた。彼の遺体が埋葬される事はなかったという。
明する墓所と碑銘、死者の安寧を約束する墓守の存在が、人々の足
を遠ざけたのだ。かつての少年は打開策を考えるが、結論を出せぬ
まま生涯を終えた。彼の遺体が埋葬される事はなかったという。
金翅・蹴爪
とある皇国を一人の旅人が訪れた。
それは多くの国を股にかけたという博学な男。
しかし今は、微睡むままに宮廷の前を歩いていた。
それは多くの国を股にかけたという博学な男。
しかし今は、微睡むままに宮廷の前を歩いていた。
そんな不審な行動が守衛の目に留まり、
彼は連行され、取り調べを受ける事となってしまう。
見付かったのは身体の焼き印。旅人は敵国の諜報員だったのだ。
彼は連行され、取り調べを受ける事となってしまう。
見付かったのは身体の焼き印。旅人は敵国の諜報員だったのだ。
身柄を拘束され、皇帝の前へと投げ出された旅人。
報告を行おうとする守衛。しかしその言葉を遮り、皇帝は言った。
すぐにその縄を解いてやれ、と。
報告を行おうとする守衛。しかしその言葉を遮り、皇帝は言った。
すぐにその縄を解いてやれ、と。
縄を解かれ、皇帝の前に跪く旅人。彼は確かに敵国の諜報員だが、
偽りの情報を敵国へ流す、皇国の内通者だったのだ。
その機密を知ってしまった守衛は、その場で首を刎ねられた。
偽りの情報を敵国へ流す、皇国の内通者だったのだ。
その機密を知ってしまった守衛は、その場で首を刎ねられた。
虚礼の曲刀
異国の品が溢れ、香辛料が鼻をくすぐる、砂覆う王国。
盗賊の少年は自信たっぷりに、偽りの冒険譚を語った。
相手は国が誇る最大の宝。一人の『姫』へ向けられた言葉……
盗賊の少年は自信たっぷりに、偽りの冒険譚を語った。
相手は国が誇る最大の宝。一人の『姫』へ向けられた言葉……
幾度もの挑戦を経て、盗賊は姫の気持ちを少し、揺らがせた。
過ぎ去った太陽と月は、二人の逢瀬の目撃者……
ある日、告げられたのは「死の予言」。この少年が信じるものか。
過ぎ去った太陽と月は、二人の逢瀬の目撃者……
ある日、告げられたのは「死の予言」。この少年が信じるものか。
闇夜の記憶が過去へ誘う。盗賊になったきっかけの物語……
救えぬ少女と失った笑顔。奴隷の少年は、奪われない事を誓った。
その気持ちは姫の心を強く揺らし、二人は秘密の約束を交わす。
救えぬ少女と失った笑顔。奴隷の少年は、奪われない事を誓った。
その気持ちは姫の心を強く揺らし、二人は秘密の約束を交わす。
姫をさらった盗賊は、月明りの下、夜の街を駆ける。
大海原まで、あと少し。二人の自由まで、あと少し……
しかし幾重にも重なる死の予言が、盗賊の体を貫いた。
大海原まで、あと少し。二人の自由まで、あと少し……
しかし幾重にも重なる死の予言が、盗賊の体を貫いた。
懐古ノ篝火
時々、ふっと思い出す。
君と食べたことのない料理の味。
君と行ったことがない場所の風景。
そのたびに懐かしくなる。そして、ひどく悲しくなるんだ。
君と食べたことのない料理の味。
君と行ったことがない場所の風景。
そのたびに懐かしくなる。そして、ひどく悲しくなるんだ。
ないはずの記■は、どこから生まれているのだろう。
いつか■んだ本だ■■か。
いつか■た映画だ■■か。
■はどう思う?
いつか■んだ本だ■■か。
いつか■た映画だ■■か。
■はどう思う?
答え■出ぬ■■日々は過ぎて■■。
どうしよう■ない。どうに■ならない。
誰■■用意した世界の上で、■たちは踊ら■れる。
あらかじめ決められた■■として。
どうしよう■ない。どうに■ならない。
誰■■用意した世界の上で、■たちは踊ら■れる。
あらかじめ決められた■■として。
夢■現■ま■■あう。
価値■意味■消え■■■。
すべて■黒い鳥■見た夢な■かも■■■■。
しか■どちら■■■、■たちは真実を受■入れ■しか■■。
価値■意味■消え■■■。
すべて■黒い鳥■見た夢な■かも■■■■。
しか■どちら■■■、■たちは真実を受■入れ■しか■■。
Si'F-06cracked
黒い鳥の鳴き声に眼を覚ました時から、何か違和感があった。
やけに重く感じる頭を支えようと手を伸ばし、
壁に身体を預けながら立ち上がった後、私は気付く。
やけに重く感じる頭を支えようと手を伸ばし、
壁に身体を預けながら立ち上がった後、私は気付く。
切り落と■れたはずの■が、全て揃って■た。
傷痕のような■もなく、あの■■自体がなかったかのように。
血に■れた掌から、不自然に■や汚れの■い指が伸びている。
傷痕のような■もなく、あの■■自体がなかったかのように。
血に■れた掌から、不自然に■や汚れの■い指が伸びている。
『生え■■った』。
そう■思え■■景に、■■■を思い出す。
■腿■あった■■刻印。い■の■にか消■■いた■の■在を。
そう■思え■■景に、■■■を思い出す。
■腿■あった■■刻印。い■の■にか消■■いた■の■在を。
もし■■■ら、■が気■■より■■から……
■が治っ■■して■、■■は決し■元■戻っ■■■■ない。
■しろ、私の■■■変わ■■い■■いる……■の知■な■■■に
■が治っ■■して■、■■は決し■元■戻っ■■■■ない。
■しろ、私の■■■変わ■■い■■いる……■の知■な■■■に
銀雪の影
爆音、静寂を殺す。
喧騒を憎む我等にとって、この武器は異端そのものだ。
喧騒を憎む我等にとって、この武器は異端そのものだ。
炎熱、冠雪を殺す。
高温を厭う凍土にとって、この武器は害悪そのものだ。
高温を厭う凍土にとって、この武器は害悪そのものだ。
閃光、霧雪を殺す。
光輝を嫌う雪山にとって、この武器は凶兆そのものだ。
光輝を嫌う雪山にとって、この武器は凶兆そのものだ。
豺狼、同胞を殺す。
故に銃は罪と粛清の存在を顕示する処刑道具とされた。
故に銃は罪と粛清の存在を顕示する処刑道具とされた。
三式拳鍔
奇妙な光景だった。泣きながら拳を振るう少年と、殴られながら礼
を言うもう一人の少年。拳の骨が砕け、顔の形が歪み、お互いが血
塗れになってもそれは終わらない。拳を振るう少年は、地面に零れ
落ちた眼球を見て、ようやく自分が一人になった事に気が付いた。
を言うもう一人の少年。拳の骨が砕け、顔の形が歪み、お互いが血
塗れになってもそれは終わらない。拳を振るう少年は、地面に零れ
落ちた眼球を見て、ようやく自分が一人になった事に気が付いた。
二人の少年は同じ土地の出身だった。幼い頃から親交があった二人
は同じ物を目にし、同じ体験を共有して成長してきた。しかし、彼
ら少年達は始めから二人組だった訳ではない。かつて三人組だった
少年達の人数が変わったのは、ある夏の事だった。
は同じ物を目にし、同じ体験を共有して成長してきた。しかし、彼
ら少年達は始めから二人組だった訳ではない。かつて三人組だった
少年達の人数が変わったのは、ある夏の事だった。
三人の少年達は、ほぼ時を同じくして思春期を迎えた。大人へと向
かう心と体は、三人の関係性に変化をもたらす。ある一人がもう一
人に劣情を覚え、強引に行為に及んでしまったのだ。恥辱を受けた
彼は、居場所を失った絶望からその心を壊し、閉ざしてしまった。
かう心と体は、三人の関係性に変化をもたらす。ある一人がもう一
人に劣情を覚え、強引に行為に及んでしまったのだ。恥辱を受けた
彼は、居場所を失った絶望からその心を壊し、閉ざしてしまった。
「どうして話してくれなかった」と。親友と思っていた二人の苦悩
を自分だけ知らなかった事が、何より悲しかったのだ。拳を受ける
少年は、親友殺しの呪縛から解放されると喜び、やがて事切れた。
曙光のアナムネーシス
錆び付いた帰路。選択。
喉を掠る喘鳴。人型。数字。隔たれた光。
滴る血の匂いさえ、どこか遠い出来事のよう。
喉を掠る喘鳴。人型。数字。隔たれた光。
滴る血の匂いさえ、どこか遠い出来事のよう。
否定された靴。嘯き、囁き。
頬に触れる風と視界に入る光が、ざらざらと心を撫でる。
顔のない声。帳。逆さに伸びた足跡。暗闇。
頬に触れる風と視界に入る光が、ざらざらと心を撫でる。
顔のない声。帳。逆さに伸びた足跡。暗闇。
扉を叩く影に背を向けて、見知らぬ通路に身を委ねる。
足跡の見えない黒へ、逃げ込むようにして。
境界線。羽音。誘蛾灯、不思議と安らぐそれに。
足跡の見えない黒へ、逃げ込むようにして。
境界線。羽音。誘蛾灯、不思議と安らぐそれに。
言葉。名前。輪郭を失う景色と感覚は。
全て、僕にとって都合の良いまやかしだったかもしれない。
それでも僕は。過ちに向き合い、痛みに寄り添い、陽の昇る夢を。
全て、僕にとって都合の良いまやかしだったかもしれない。
それでも僕は。過ちに向き合い、痛みに寄り添い、陽の昇る夢を。
オカリーナ
昔々、ある所にお腹を空かせた妖精がいました。妖精は通りかかる
人々に食べ物を分けてくれるよう頼みましたが、誰も足を止めてく
れません。途方に暮れる妖精でしたが、そこに親切な青年が通りか
かり、食べ物を分けてくれました。
人々に食べ物を分けてくれるよう頼みましたが、誰も足を止めてく
れません。途方に暮れる妖精でしたが、そこに親切な青年が通りか
かり、食べ物を分けてくれました。
妖精は、親切にしてくれた青年にお礼として、黄金に輝く鳥をあげ
ることにしました。青年はたいそう喜びましたが、その鳥をお金儲
けに使おうとはせずに大切に育てます。しかし、ある日その鳥を羨
んだ誰かに、鳥を盗まれてしまいました。
ることにしました。青年はたいそう喜びましたが、その鳥をお金儲
けに使おうとはせずに大切に育てます。しかし、ある日その鳥を羨
んだ誰かに、鳥を盗まれてしまいました。
悲しむ青年に、妖精は今度は金銀財宝を与えます。そればかりか、
青年に何か困りごとがある度に、不思議な力でそれを助けました。
終には青年は妖精の力でお姫様と結婚し、一国の王様となり、末永
く末永く幸せに暮らしましたとさ。
青年に何か困りごとがある度に、不思議な力でそれを助けました。
終には青年は妖精の力でお姫様と結婚し、一国の王様となり、末永
く末永く幸せに暮らしましたとさ。
…………クダラヌ寓話ダ。タッタ一ツノ善行ニ対シテ、 報酬ガ
大キスギル。ソレニ、我ニ総テヲ委ネタ烏合ノ衆ニ、何カ施シヲシ
タトコロデ、奴ラハ感謝モセズ、タダタダ当タリ前ノヨウニ享受ス
ルダケニ違イナイ。コチラノ胸ニ銃ガ秘サレテイルトモ知ラズニ。
大キスギル。ソレニ、我ニ総テヲ委ネタ烏合ノ衆ニ、何カ施シヲシ
タトコロデ、奴ラハ感謝モセズ、タダタダ当タリ前ノヨウニ享受ス
ルダケニ違イナイ。コチラノ胸ニ銃ガ秘サレテイルトモ知ラズニ。
献身の黒骸
ごみ溜めのような汚れた街で、俺は育った。盗み、ゆすり、危険な
取引、生きるためなら何でもした。それでも俺は幸せだった。俺の
命よりも大切な、たった一人の妹が居てくれたから。俺に似ず美し
く、汚れを知らない妹を、ずっと守っていきたい、そう思っていた。
取引、生きるためなら何でもした。それでも俺は幸せだった。俺の
命よりも大切な、たった一人の妹が居てくれたから。俺に似ず美し
ある日、帰宅したら妹は居なくなっていた。聞けば、盗賊団に連れ
去られたのだという。盗賊団は残忍無慈悲で悪名高い、獣のような
連中だ。俺のような小悪党には勝てっこない。だが、妹が奴らの毒
牙にかかるくらいなら、俺の命を懸けてでも妹を助けねばならない。
去られたのだという。盗賊団は残忍無慈悲で悪名高い、獣のような
連中だ。俺のような小悪党には勝てっこない。だが、妹が奴らの毒
俺は盗賊団の砦に乗り込み、傷だらけになりながらも妹をみつけだ
した。妹は寝椅子の上に、けだるげに身を投げ出していた。
「帰って。私はここでの贅沢な暮らしが気に入っているの」
呆然と立ち尽くす俺の背後から、盗賊の首領が斬りかかってきた。
した。妹は寝椅子の上に、けだるげに身を投げ出していた。
「帰って。私はここでの贅沢な暮らしが気に入っているの」
呆然と立ち尽くす俺の背後から、盗賊の首領が斬りかかってきた。
しかし、俺の背に盗賊の刃は届かなかった。俺と盗賊の間に妹が割
って入ったからだ。妹の手には古ぼけて黒ずんだ剣が握られていた。
「守られてばかりの自分が嫌だった。でもこれで兄さんは自由……」
妹は盗賊と相打ちになると、昔と変わらぬ清い瞳を永久に閉ざした。
埋もれた離宮
熱気あふれる都市の様を、男がひとり眺めている。
そこは、尖塔の頂上。彼は寝転ぶと、歌を歌いだした。
目の前の景色を愛するその男は……国を統べる若き王。
そこは、尖塔の頂上。彼は寝転ぶと、歌を歌いだした。
目の前の景色を愛するその男は……国を統べる若き王。
王に髭が生える頃、異国の兵が攻めてきた。
戦いを知らぬ王は、赤子を抱いて逃げ惑う。
王が愛する民衆は、決死の覚悟で抵抗し、血を吹き散ってゆく。
戦いを知らぬ王は、赤子を抱いて逃げ惑う。
王が愛する民衆は、決死の覚悟で抵抗し、血を吹き散ってゆく。
王は学ぶ。愛するだけでは救えぬ事を。
涙を堪え国を出て、財を成す為海へ出た。
生き残った我が娘が、彼唯一の財産だった。
涙を堪え国を出て、財を成す為海へ出た。
生き残った我が娘が、彼唯一の財産だった。
王の背中が曲がる頃、彼は愛する者に囲まれる。
新たな国、新たな民衆、そして新たな妻……
しかし、その傍らに最愛の娘はいなかった。
新たな国、新たな民衆、そして新たな妻……
しかし、その傍らに最愛の娘はいなかった。
白機翼の改杖
巡回任務中。敵の不意打ちによって、僕たちの隊は撃墜された。運
よく生存したのは、僕を含めて5機。降り立ったのは敵の支配圏内
の孤島。僕たちは生き残るため、戦うことを余儀なくされたんだ。
よく生存したのは、僕を含めて5機。降り立ったのは敵の支配圏内
の孤島。僕たちは生き残るため、戦うことを余儀なくされたんだ。
僕は墜落した機体のパーツを改造して、人数分の武器を拵えること
にした。まったく……優秀な整備員である僕がいなかったら、どう
なっていたか……ほんと、皆には感謝してもらいたいよ。
にした。まったく……優秀な整備員である僕がいなかったら、どう
なっていたか……ほんと、皆には感謝してもらいたいよ。
僕が作った武器のおかげで、戦況はまぁ悪くない。あと一息で敵の
支配圏を抜けられるだろう。隊長が死んじゃったけど、それは僕の
責任じゃないし、とにかくあと一息なんだ、頑張ろう。
支配圏を抜けられるだろう。隊長が死んじゃったけど、それは僕の
責任じゃないし、とにかくあと一息なんだ、頑張ろう。
あと、数メートルで安全圏。なのに、どうして前に進めないんだろ
う? あと、ほんの少しなのに……あれ? 視界が低い……どうし
て? 僕の下半身、どこいった?
う? あと、ほんの少しなのに……あれ? 視界が低い……どうし
て? 僕の下半身、どこいった?
正義の大剣
とおいとおい昔。
劣勢の戦場に現われては連戦連勝をもたらす姫がいた。国内では崇
拝の対象となっていたが、敗戦後に大罪人として磔にされた。
劣勢の戦場に現われては連戦連勝をもたらす姫がいた。国内では崇
拝の対象となっていたが、敗戦後に大罪人として磔にされた。
とおいとおい場所。
復讐を代行することで生活する少女がいた。弱き者に代わり邪悪な
支配者を葬り続けたが、彼女が殺した領主の娘に復讐された。
復讐を代行することで生活する少女がいた。弱き者に代わり邪悪な
支配者を葬り続けたが、彼女が殺した領主の娘に復讐された。
とおいとおい未来。
白衣の天使として慕われる看護師がいた。彼女は苦しむ人々を解放
し続けたがその世界の倫理に反した為、凶刃に倒れた。
白衣の天使として慕われる看護師がいた。彼女は苦しむ人々を解放
し続けたがその世界の倫理に反した為、凶刃に倒れた。
とおいとおい童話の世界。
主の復活を願う少女がいた。その代償に無垢なるイノチを求められ
ようとも厭わずに。自らの正義が黒く染まっていくことに目を瞑り
ながら。
主の復活を願う少女がいた。その代償に無垢なるイノチを求められ
ようとも厭わずに。自らの正義が黒く染まっていくことに目を瞑り
ながら。
暴力の刺又
赤ずきんはスウェーデンの民話や1697年に出版された『ペロー
童話集』など、様々な物語がつくられている。その中でも特に有名
なのは『グリム童話集』の26番目に収録された物語である。
童話集』など、様々な物語がつくられている。その中でも特に有名
なのは『グリム童話集』の26番目に収録された物語である。
赤ずきんは民話から『ペロー童話集』と年代が進むたびに物語が変
化し、改定を重ねた『グリム童話集』では狼のお腹から赤ずきんと
お婆さんが救出される結末に変化している。
化し、改定を重ねた『グリム童話集』では狼のお腹から赤ずきんと
お婆さんが救出される結末に変化している。
ヴィルヘルム・カール・グリムは童話を子供向けに加筆修正した。
その過程で様々な物語から性をほのめかす記述を排除したが、悪人
に対する報復については残虐性を残したままだった。
その過程で様々な物語から性をほのめかす記述を排除したが、悪人
に対する報復については残虐性を残したままだった。
『シノアリス版』に登場する赤ずきんにおいて倫理観が欠落して描
かれているのは、モノガタリ執筆者の趣向か、社会の変化による読
者の要望が現れた結果なのかは不明である。
かれているのは、モノガタリ執筆者の趣向か、社会の変化による読
者の要望が現れた結果なのかは不明である。
焼却の銃
戦火の中を彷徨う男は幸運にも、失われた技術でつくられた銃を手
に入れた。その炎は使用者を巻き込む程に苛烈だったが、愛する妻
を守ることができる力を手に入れた男は幸福だった。
に入れた。その炎は使用者を巻き込む程に苛烈だったが、愛する妻
を守ることができる力を手に入れた男は幸福だった。
抱きしめる為の手は赤く爛れ、風が吹くだけで激痛が走った。喉も
焼け会話をすることもままならず、酷い火傷は容姿をも変貌させた。
彼を彼と知るものは妻だけとなっていたが、男は幸福だった。
彼を彼と知るものは妻だけとなっていたが、男は幸福だった。
次第に視力も弱り始め、男は同胞の指示に従い炎を放つようになっ
ていた。男はどれだけ傷ついても、祖国や妻を守るために力を使い
続けた。業火の力がこの戦争を終わらせると信じ戦い続けた。
ていた。男はどれだけ傷ついても、祖国や妻を守るために力を使い
続けた。業火の力がこの戦争を終わらせると信じ戦い続けた。
男は最後まで知らなかった。男に指示を与えていた者がいつの頃か
らか敵国の兵士になっていたことに。男は最後まで幸福だった。そ
の手で妻を焼き殺す頃には聴力の殆どを失っていたのだから。
らか敵国の兵士になっていたことに。男は最後まで幸福だった。そ
の手で妻を焼き殺す頃には聴力の殆どを失っていたのだから。
束縛の杖
へんなゆめをみた。あさおきたらうまく歩けなくなって、赤ちゃん
みたいにじめんをはいつくばっていたの。そうしたら「バケモノだ!
」って女の子たちが集まってきて、私のからだをシャベルでグサグ
サさすゆめ。
」って女の子たちが集まってきて、私のからだをシャベルでグサグ
サさすゆめ。
ふしぎなゆめをみた。すこし大人になったわたしはみたことのない
服をきていて、お腹がぽっこりしているの。吐きけがするし、あた
まもいたくて泣いていたら、知らないお兄さんが困った顔でせなか
をさすってくれるゆめ。
服をきていて、お腹がぽっこりしているの。吐きけがするし、あた
まもいたくて泣いていたら、知らないお兄さんが困った顔でせなか
をさすってくれるゆめ。
こわいゆめをみた。おじさまがどこかに行ってしまって、高い塔の
上でやっと会えたと思ったらおじさまはバケモノになっていて……
「ころして」ってお願いしてくるゆめ。わたしが困っていたらバケ
モノは塔からとびおりちゃった。
上でやっと会えたと思ったらおじさまはバケモノになっていて……
「ころして」ってお願いしてくるゆめ。わたしが困っていたらバケ
モノは塔からとびおりちゃった。
「また怖い夢をみたのかい? 大丈夫どこにも行かないよ」そう言
ってキャロルおじさまはわたしのあたまを優しくなでてくれる。さ
いきんへんなゆめばかり見るけど、おじさまが大丈夫だよっていう
なら、明日もきっと大丈夫。ずっとずっと幸せなまま。
ってキャロルおじさまはわたしのあたまを優しくなでてくれる。さ
いきんへんなゆめばかり見るけど、おじさまが大丈夫だよっていう
なら、明日もきっと大丈夫。ずっとずっと幸せなまま。
遺児ノ涙
あの頃。母がいて、父がいて、俺がいた。
平穏な朝に、この戦争の勝利を願った。
銃声が響く夜に、この戦争が終わるようにと祈った。
俺はただ、幸福で。憎悪の意味など知らずに過ごした。
平穏な朝に、この戦争の勝利を願った。
銃声が響く夜に、この戦争が終わるようにと祈った。
俺はただ、幸福で。憎悪の意味など知らずに過ごした。
父の叫び、母の■鳴……
暗いクローゼットの隙間から見える、■■しい兵士の■。
恐かった。俺はただ、五感を閉ざすように■を殺していた。
この■■のような時間が過ぎ去るまで、ずっと。
暗いクローゼットの隙間から見える、■■しい兵士の■。
恐かった。俺はただ、五感を閉ざすように■を殺していた。
この■■のような時間が過ぎ去るまで、ずっと。
部屋は、■んだように静■■返っていた。
俺は■に染まった■■上を、一歩ずつ確かめるように進む。
■と■。冷たくなった二人の■の上に、黒い鳥■止まっていた。
その■■黒な瞳が、深い■の中から、■■に俺を見つめている……
俺は■に染まった■■上を、一歩ずつ確かめるように進む。
■と■。冷たくなった二人の■の上に、黒い鳥■止まっていた。
その■■黒な瞳が、深い■の中から、■■に俺を見つめている……
や■■……そ■な目で俺■■■な。
俺はクロー■■トの中に■■たわけ■■ない。
■と■を■捨■■わけ■■ない。望ん■■き延■■■けじゃ■い。
必ず、ア■ツを■■。その為■、今■まだ■■を続け■■■■だ。
俺はクロー■■トの中に■■たわけ■■ない。
■と■を■捨■■わけ■■ない。望ん■■き延■■■けじゃ■い。
必ず、ア■ツを■■。その為■、今■まだ■■を続け■■■■だ。
稀人乃猟銃
おとうちゃん、おかあちゃんへ
結婚生活は順調です。あたしにすてきなお相手を見つけてくれてあ
りがとう。旦那サンは、あたしがしゃべりかけてもろくに返事して
くれないけど、それでもうまくやっているつもりです。
結婚生活は順調です。あたしにすてきなお相手を見つけてくれてあ
りがとう。旦那サンは、あたしがしゃべりかけてもろくに返事して
くれないけど、それでもうまくやっているつもりです。
おとうちゃん、おかあちゃんへ
最近は、おかあちゃんに教えてもらった料理をがんばっています。
得意料理は、あつあつのみそ汁です。でも、旦那サンは、すっかり
冷えてからじゃないと口をつけてくれないんです。
最近は、おかあちゃんに教えてもらった料理をがんばっています。
得意料理は、あつあつのみそ汁です。でも、旦那サンは、すっかり
冷えてからじゃないと口をつけてくれないんです。
おとうちゃん、おかあちゃんへ
冬になりましたね。旦那サンはずっと眠っています。雪がとけたら、
旦那サンも目を覚ますだろうから、その時はあつあつの汁じゃなく
て、木の実や野草なんかを集めてこようかと考えています。
旦那サンも目を覚ますだろうから、その時はあつあつの汁じゃなく
て、木の実や野草なんかを集めてこようかと考えています。
おとうちゃん、おかあちゃんへ
うれしい報告があります。あたし、妊娠したようです。母親になる
んだ! でも、どんな子供が生まれてくるんでしょう。おとうちゃ
ん、おかあちゃん、孫がどんな見た目でも愛してくれますよね?
うれしい報告があります。あたし、妊娠したようです。母親になる
んだ! でも、どんな子供が生まれてくるんでしょう。おとうちゃ
ん、おかあちゃん、孫がどんな見た目でも愛してくれますよね?
覇国の宿世
とある戦争好きの王様が起こした戦争。その戦火に巻き込まれ、両
親を失った青年がいた。青年は元々腕っ節が強く、いつか王様の頭
蓋を自慢の拳で砕いてやろうと、復讐心を募らせていた。
親を失った青年がいた。青年は元々腕っ節が強く、いつか王様の頭
蓋を自慢の拳で砕いてやろうと、復讐心を募らせていた。
青年は王様に近付く手段として、王国の兵士に志願する。戦で武功
を立てれば、王様に謁見する機会も与えられるだろうと。彼は兵士
として国に仕えながら、復讐の拳を鍛え続けた。
を立てれば、王様に謁見する機会も与えられるだろうと。彼は兵士
として国に仕えながら、復讐の拳を鍛え続けた。
青年は復讐心のままに、戦でその拳を奮う。何百もの敵国の兵士達
を、顔の原形をとどめないほどに殴り、撲殺した。そして、ついに
武功が認められ、青年は将軍として王様への謁見の資格を得る。
を、顔の原形をとどめないほどに殴り、撲殺した。そして、ついに
武功が認められ、青年は将軍として王様への謁見の資格を得る。
王様への復讐の謁見。その前夜、青年は寝込みを何者かに襲われ殺
された。襲撃者は、青年が殺した敵国の兵士の子ども達。報復を受
けた青年の死体は、顔がグチャグチャに無残に潰されていた。
された。襲撃者は、青年が殺した敵国の兵士の子ども達。報復を受
けた青年の死体は、顔がグチャグチャに無残に潰されていた。
雪夜の星槍
わたしのお部屋のクローゼット。パパとママが買ってくれたフリフ
リのかわいいお洋服がたーくさん! だけどね、ある雪の夜。大き
いおじさんがやってきて、ぜーんぶ袋に詰めて持ってっちゃった。
リのかわいいお洋服がたーくさん! だけどね、ある雪の夜。大き
いおじさんがやってきて、ぜーんぶ袋に詰めて持ってっちゃった。
わたしのふわふわで長い長い髪の毛。パパとママが毎日丁寧にお手
入れをしてくれているの! だけどね、次の年の雪の夜。また大き
いおじさんがやってきて、バッサリ切って持って行っちゃった。
入れをしてくれているの! だけどね、次の年の雪の夜。また大き
いおじさんがやってきて、バッサリ切って持って行っちゃった。
私を大事にしているパパとママ。今年は大きいおじさんから私を守
るんだって! だけどね、またまた雪の夜。長い槍を持った大きい
おじさんに、グサリグサリと刺されて死んじゃった。
るんだって! だけどね、またまた雪の夜。長い槍を持った大きい
おじさんに、グサリグサリと刺されて死んじゃった。
フリフリのかわいいお洋服も。ふわふわの長い長い髪の毛も。それ
を押し付けてくるパパとママも。みーんなみーんな大嫌い! だけ
どね、ぼくが本当に嫌いなのは……おじさん、自由をどうもありが
を押し付けてくるパパとママも。みーんなみーんな大嫌い! だけ
どね、ぼくが本当に嫌いなのは……おじさん、自由をどうもありが
輝星の試練
その村の子供たちには、クリスマスの時期になると『星』を手に入
れる慣習がある。だから村の人にとってクリスマスと言えば『星』
であり、子供時代のもっとも楽しい思い出の象徴とも言えた。
れる慣習がある。だから村の人にとってクリスマスと言えば『星』
であり、子供時代のもっとも楽しい思い出の象徴とも言えた。
クリスマスの凡そ3週間前になると、子供たちは村から出て、ちょ
っとした冒険に出る。山を二つ超え、川を三つ超え、ようやく辿り
着いたその場所に『星の生る木』が生えているのだ。
っとした冒険に出る。山を二つ超え、川を三つ超え、ようやく辿り
着いたその場所に『星の生る木』が生えているのだ。
見事『星の生る木』から『星』をもぎって帰った子供たちは、美し
くこしらえたリースと一緒に『星』を家の扉に飾り付けた。大人た
ちはそれを見ることで、我が子の成長を実感するのである。
くこしらえたリースと一緒に『星』を家の扉に飾り付けた。大人た
ちはそれを見ることで、我が子の成長を実感するのである。
一方、『星の生る木』を護る一族は、毎年それを憎く思っていた。
しかし相手は、盗みや略奪を生業としている村の子供たち。簡単に
仕留めることはできず、今年も丸裸の木を呆然と眺めるのだった。
しかし相手は、盗みや略奪を生業としている村の子供たち。簡単に
仕留めることはできず、今年も丸裸の木を呆然と眺めるのだった。
毛糸の約束
聞いてくれるかしら。生まれて初めて恋人ができたの。
彼はクリスマスも一緒に過ごす約束をしてくれたのよ。
プレゼントは迷ったけれど、手編みのマフラーを贈るつもり。
彼の喜ぶ姿を想像して、頑張って編むわ。
彼はクリスマスも一緒に過ごす約束をしてくれたのよ。
プレゼントは迷ったけれど、手編みのマフラーを贈るつもり。
彼の喜ぶ姿を想像して、頑張って編むわ。
聞いてくれるかしら。クリスマス、彼と会えなかったの。
だけど仕方ないわよね、彼はとっても忙しい人だものね。
プレゼントのマフラーは、次に会ったときに渡すつもり。
うんと長く編んで、彼をびっくりさせるわ。
だけど仕方ないわよね、彼はとっても忙しい人だものね。
プレゼントのマフラーは、次に会ったときに渡すつもり。
うんと長く編んで、彼をびっくりさせるわ。
聞いてくれるかしら。彼と連絡がとれなくなったの。
電話をしても、手紙を送っても、返事をくれないのよ。
だけど彼のことが大好きだから、ずっと連絡を待つつもり。
マフラーを編んで気を紛らわせるわ。
電話をしても、手紙を送っても、返事をくれないのよ。
だけど彼のことが大好きだから、ずっと連絡を待つつもり。
マフラーを編んで気を紛らわせるわ。
聞いてくれるかしら。街で偶然、彼の姿を見かけたの。
彼の隣には、綺麗な女の人と、小さな男の子がいたわ。
一年越しになってしまうけれど、プレゼント贈るつもり。
長いマフラー、首を絞めるのにぴったりだわ。
彼の隣には、綺麗な女の人と、小さな男の子がいたわ。
一年越しになってしまうけれど、プレゼント贈るつもり。
長いマフラー、首を絞めるのにぴったりだわ。
黒紋ノ御槍
赤は、鮮血の色。
ほとばしる、痛みと憎悪の色。
ほとばしる、痛みと憎悪の色。
青は、腐敗の色。
捨て置かれた、悲痛と孤独の色。
捨て置かれた、悲痛と孤独の色。
黄は、警告の色。
目を背けてはいけない、危険と受難の色。
目を背けてはいけない、危険と受難の色。
全部混ぜるとほら、真っ黒になった。
絶望の、忌まわしき鳥の色。
絶望の、忌まわしき鳥の色。
無垢の願い
■■■さんへ!
ことしはねー、えのぐがほしいです! おいろがたくさんはいって
るえのぐで、おとうとといっしょにおえかきするの!
ことしはねー、えのぐがほしいです! おいろがたくさんはいって
るえのぐで、おとうとといっしょにおえかきするの!
■■■さん
出せるものなら肉料理、卵料理、他にも美味いものを好きなだけ。
弟にお腹一杯ではち切れそうになるほど、ご馳走を食べさせたい。
出せるものなら肉料理、卵料理、他にも美味いものを好きなだけ。
弟にお腹一杯ではち切れそうになるほど、ご馳走を食べさせたい。
身を守るための武器が欲しい。拳銃、短刀、いやナイフでもいい。
■■■さんでも、兵隊さんでも、誰でもいいから届けてくれ。
でも、どうせ頼れる奴はいない。弟だけは自分で守るしかない。
■■■さんでも、兵隊さんでも、誰でもいいから届けてくれ。
でも、どうせ頼れる奴はいない。弟だけは自分で守るしかない。
■■■さんへ
お願いします人間に戻してくださいもう貴方にしか頼れませんあい
つらに弄られた機械の身体が痛くて痛くてたまりません弟も連れて
お願いします人間に戻してくださいもう貴方にしか頼れませんあい
つらに弄られた機械の身体が痛くて痛くてたまりません弟も連れて
聖歌の灯
今日はクリスマス。雪降る特別な夜。
今夜くらいは俺たち、銃を手放そう。
敵も味方もなく。共に酒を飲み、歌を唄おう。
俺たちもう、殺し合いなんてウンザリだ。
今夜くらいは俺たち、銃を手放そう。
敵も味方もなく。共に酒を飲み、歌を唄おう。
俺たちもう、殺し合いなんてウンザリだ。
今日はクリスマス。焚火輝く特別な夜。
今夜くらいは俺たち、夢を語ろう。
この戦争が終わったら、叶えたい夢が沢山ある。
俺たちやっぱり、殺し合いなんて大嫌い。
今夜くらいは俺たち、夢を語ろう。
この戦争が終わったら、叶えたい夢が沢山ある。
俺たちやっぱり、殺し合いなんて大嫌い。
今日はクリスマス。人恋しくなる特別な夜。
今夜くらいは俺たち、一緒に泣いてしまおう。
皆、逢いたい人がいるよな。戦争さえ、なかったら……
俺たちやっぱり、殺し合いなんて向いてない。
今夜くらいは俺たち、一緒に泣いてしまおう。
皆、逢いたい人がいるよな。戦争さえ、なかったら……
俺たちやっぱり、殺し合いなんて向いてない。
鈴の音は止み、街は静寂の中。
夜は更け、もうすぐ日付が変わる。
時計の針が天辺を指したらサヨナラだ。
俺たち明日からまた、殺し合おう。
夜は更け、もうすぐ日付が変わる。
時計の針が天辺を指したらサヨナラだ。
俺たち明日からまた、殺し合おう。
忠節の果て
僅かな敵の靴音にも気付く事ができる
どんなに濃い闇に紛れた敵も見逃したりはしない
人間には不可能な速さで銃撃を連射する事ができる
瞬時に戦況を判断し、効率的に敵を殲滅する事ができる
螺状ノ踏舞
必死に築いてきたはずのものが、ある朝いきなり消えていて。
全て作り物だったなら、こんなに愉快なことはないでしょう。
全て作り物だったなら、こんなに愉快なことはないでしょう。
嘘が私■飲み込むのなら、私自身■嘘に■ろう。
偽り■真にしてしまえば、ほら、世界は■通りになる。
偽り■真にしてしまえば、ほら、世界は■通りになる。
重ね■嘘が折■重なって、世界は■■重み■耐えきれ■■なって。
■■■壊れる時■待ち■■■、素知ら■ふり■■■踊りましょう。
■■■壊れる時■待ち■■■、素知ら■ふり■■■踊りましょう。
終わ■■告■る■■■、黒い鳥■空を渡って■■。
幸福■遥か遠■。手■伸ば■■■届かない。
■■決まった■■でステップ■踏み続け■。
だ■■私達は、あら■じめ決■■れた■■だから。
幸福■遥か遠■。手■伸ば■■■届かない。
■■決まった■■でステップ■踏み続け■。
だ■■私達は、あら■じめ決■■れた■■だから。
豪傑の甘受
力持ちの魚屋は港町にいた。彼は毎朝魚を仕入れ、人一倍労働に励
む。今日は城の役人に多くの魚を売ることができ、給料袋を受け取
った。報酬も弾んでいるだろうと期待を胸に母の待つ家に帰る。
む。今日は城の役人に多くの魚を売ることができ、給料袋を受け取
った。報酬も弾んでいるだろうと期待を胸に母の待つ家に帰る。
包みの中を確認する。袋の中は思ったより額が少なかった。このお
金で薬を買うには心許なかった。
日に日に手取りが減少し、辛い生活が続く。過酷な労働で魚屋はど
んどん痩せていった。そんなある日、魚屋は役人に呼び出される。
近くの米屋に空き巣が入ったそうで、痩せた魚屋は疑われたのだ。
んどん痩せていった。そんなある日、魚屋は役人に呼び出される。
近くの米屋に空き巣が入ったそうで、痩せた魚屋は疑われたのだ。
もちろん魚屋は米など盗んでいなかった。だが、魚屋は役人に泥棒
の罪を認めた。魚屋は笑みを浮かべている。これで母親の面倒を見
なくて済むと。
の罪を認めた。魚屋は笑みを浮かべている。これで母親の面倒を見
なくて済むと。
彷徨の黒骸
俺が手を上げると、怪物も手を上げる。
ああ、この恐ろしい怪物が、俺だというのだろうか。
気が付くと俺は叫んでいた。
その声は、機械音のようでもあり、獣の唸りのようでもあった。
気が付くと俺は叫んでいた。
その声は、機械音のようでもあり、獣の唸りのようでもあった。
自分がどこから来た、何者なのかもよくわからない。
確かなことは、間断なく襲ってくる飢餓感だけである。
この飢餓感から逃れるため、俺は荒涼とした世界をさまよった。
確かなことは、間断なく襲ってくる飢餓感だけである。
この飢餓感から逃れるため、俺は荒涼とした世界をさまよった。
苦しみも絶望も、夢を喰らっている時だけは忘れられる。
しかし、それはほんのわずかな時間のことである。
俺はまた夢を求めて、荒涼とした世界を歩き始めた。
しかし、それはほんのわずかな時間のことである。
俺はまた夢を求めて、荒涼とした世界を歩き始めた。
明星の手鞠
かみさま。かみさま。おねがいをきいてください。
ことしも、おとーさんとおかーさんが、
いっぱいわらって、げんきにすごせますように!
ことしも、おとーさんとおかーさんが、
いっぱいわらって、げんきにすごせますように!
かみさま。かみさま。おねがいを聞いてください。
今年は、おとうさんがおかあさんにイジワルしませんように。
おかあさんがわたしをぶったりしませんように。
今年は、おとうさんがおかあさんにイジワルしませんように。
おかあさんがわたしをぶったりしませんように。
神さま。神さま。お願いを聞いてください。
今年こそ、お父さんとお母さんをしかってください。
私をイジめるあのふたりは、悪い人なんです。
今年こそ、お父さんとお母さんをしかってください。
私をイジめるあのふたりは、悪い人なんです。
神様。神様。お願いを聞いてください。
今年、私に勇気をください。どうか、どうか、お願いします。
勇気を……父と母をこの手にかける勇気を、ください。
今年、私に勇気をください。どうか、どうか、お願いします。
勇気を……父と母をこの手にかける勇気を、ください。
機統の破魔銃
遠い昔、一人の女が夫に一本の矢を送った。戦場に出向く夫が無事
に帰ってくるように、戦場で多くの敵を射殺して武勲を上げられる
ように、と祈りを込めて。
に帰ってくるように、戦場で多くの敵を射殺して武勲を上げられる
ように、と祈りを込めて。
女の祈りは通じ、夫は戦場から無事に帰還する。しかも、大きな武
勲をあげて。夫は敵の大将を討ち取ったのだ。あの、女が祈りを込
めた矢が敵将の頭蓋を貫いたのである。
勲をあげて。夫は敵の大将を討ち取ったのだ。あの、女が祈りを込
めた矢が敵将の頭蓋を貫いたのである。
それはたちまち噂となり、矢に祈りを込めてもらおうとする者が女
のもとに殺到する。そして、その矢は縁起物としても扱われ、家に
飾られるようになった。魔を払い、幸運を呼ぶ矢として……
のもとに殺到する。そして、その矢は縁起物としても扱われ、家に
飾られるようになった。魔を払い、幸運を呼ぶ矢として……
そこから時は進み、機械が人を支配する時代。矢は本来の武器とし
ての価値を完全に失っていたが、政府が出した武器狩りの例に漏れ
ることなく、所持している者は家ごと焼却されることとなった。
ての価値を完全に失っていたが、政府が出した武器狩りの例に漏れ
ることなく、所持している者は家ごと焼却されることとなった。
初春の宝剣
初霜の 降りし土の音 踏み締める
軍靴の汚れ 気に留めもせず
軍靴の汚れ 気に留めもせず
薄紅に 街を彩る 冬至梅
号砲響きて 深紅に染まる
号砲響きて 深紅に染まる
煙立つ 晴れ間に舞うは 風花か
それとも灰か 瞳を閉づる
それとも灰か 瞳を閉づる
戦火の後 空気震わす スピーカー
歌姫の声 末黒の芒
歌姫の声 末黒の芒
祝祭の白刃
昔々ある所に、元旦にだけ開く特別な縁切り屋があった。
新年は祝福すべき新たな門出。
それに合わせて悪縁をスッパリ切ってくれるらしいと、
町の女たちの間で噂になっていた。
新年は祝福すべき新たな門出。
それに合わせて悪縁をスッパリ切ってくれるらしいと、
町の女たちの間で噂になっていた。
それを聞いた女は、働きもせず博打ばかりを打つ夫を連れ、
元旦に縁切り屋へと向かった。
今年こそこいつと離縁してやる。
そんな決意を胸の中に秘めながら……
元旦に縁切り屋へと向かった。
今年こそこいつと離縁してやる。
そんな決意を胸の中に秘めながら……
ごめんくださいと尋ねると、中から出てきたのは
背丈ほどある刀を持った見目麗しい女。
夫は女を見て鼻の下を伸ばしたが、
ここが縁切り屋だと知って態度が一変。
背丈ほどある刀を持った見目麗しい女。
夫は女を見て鼻の下を伸ばしたが、
ここが縁切り屋だと知って態度が一変。
絶対に別れるものか。暴れる夫に向かって女が刀を振り下ろす。
ちょん! と音がして、夫の首が宙を舞う。
これにて縁切りと成り申した。
笑顔の女を見て、妻は絶叫を上げた。
ちょん! と音がして、夫の首が宙を舞う。
これにて縁切りと成り申した。
笑顔の女を見て、妻は絶叫を上げた。
策謀の剣闘士
闘技場を見下ろす「偉大なる執政官閣下の像」が、無残に破壊され
た姿でみつかったのは、その日の朝のことであった。このような、
野蛮にして不忠なる振る舞いをするのは、闘技場の剣闘士ども以外
に考えられぬ。我ら憲兵は国家の威信を懸け、犯人の捜索を始めた。
た姿でみつかったのは、その日の朝のことであった。このような、
野蛮にして不忠なる振る舞いをするのは、闘技場の剣闘士ども以外
像を破壊した犯人と思しき剣闘士を数名捕え、後ろ手に縛って闘技
場に並ばせた。いずれも戦争捕虜から剣闘士となった者で、執政官
閣下に恨みを抱いていそうな連中だ。今から奴らを拷問にかけて、
像を破壊した不届き者の名を吐かせ、公開処刑を行う予定である。
場に並ばせた。いずれも戦争捕虜から剣闘士となった者で、執政官
閣下に恨みを抱いていそうな連中だ。今から奴らを拷問にかけて、
像を破壊した不届き者の名を吐かせ、公開処刑を行う予定である。
拷問を受けても、剣闘士どもは頑なに押し黙り、呻き声一つ漏らさ
ない。沈黙が破られたのは、太陽が真上に来た時のことであった。
「像を破壊したのは俺だ」「いいや、この私だ」「僕がやったのさ」
剣闘士どもは、それぞれが口々に自分が犯人だと主張を始めた。
ない。沈黙が破られたのは、太陽が真上に来た時のことであった。
剣闘士どもは、それぞれが口々に自分が犯人だと主張を始めた。
「このままでは埒が明かぬ……全員を処刑せよ」
憲兵の一人が言い放つと、剣闘士どもがニヤリと笑った気がした。
「伝令! 剣闘士が集団で脱走し反乱を起こした、こいつらは囮だ」
伝令兵の声が響く。処刑を待つ剣闘士の瞳が、不気味に輝いていた。
憲兵の一人が言い放つと、剣闘士どもがニヤリと笑った気がした。
断斧
ここは、四方を断崖絶壁に囲まれた監獄。人の道を外れた、特に罪
の重い罪人達が収監されている。しかし、ここには彼らを繋ぐ鎖も
檻も存在しない。何故なら、俺が看守をしている限り、何人たりと
も逃がすことなどあり得ないからだ。
の重い罪人達が収監されている。しかし、ここには彼らを繋ぐ鎖も
檻も存在しない。何故なら、俺が看守をしている限り、何人たりと
も逃がすことなどあり得ないからだ。
俺が看守に就いてからすぐの頃。脱獄を試みようとする愚かな罪人
は、少なからず存在していた。罪を重ねる愚かな罪人。救いようの
ない罪人を、俺は手にした斧で断罪する。すると暫くして、この監
獄から逃げようなどと考える者は存在しなくなっていた。
は、少なからず存在していた。罪を重ねる愚かな罪人。救いようの
ない罪人を、俺は手にした斧で断罪する。すると暫くして、この監
獄から逃げようなどと考える者は存在しなくなっていた。
この監獄から逃げる者は存在しない。……何故なら、罪人は一人残
らず、この俺に断罪されるから。しかし、この監獄がなくなること
はない。今日もまた一人、また一人と、新たに罪を犯した罪人が送
られてくるからだ。
らず、この俺に断罪されるから。しかし、この監獄がなくなること
はない。今日もまた一人、また一人と、新たに罪を犯した罪人が送
られてくるからだ。
四方を断崖絶壁に囲まれたその監獄には、あらゆる拘束具を引きち
ぎる、凶悪な罪人が囚われている。血濡れの斧を振り回す殺人鬼。
彼を監獄に繋ぎ止めるため、人々は今日も生贄をその監獄に送り込
む。その行いが罪深きことだと自覚しながら……
ぎる、凶悪な罪人が囚われている。血濡れの斧を振り回す殺人鬼。
彼を監獄に繋ぎ止めるため、人々は今日も生贄をその監獄に送り込
む。その行いが罪深きことだと自覚しながら……
赫灼ノ奏杖
酸素残量79%
残り時間が無くなるまでに、仲間が見つけてくれるはず。1人この
宇宙を揺蕩いながら、美しい星々を楽しむことにしよう。
残り時間が無くなるまでに、仲間が見つけてくれるはず。1人この
宇宙を揺蕩いながら、美しい星々を楽しむことにしよう。
酸素残量45%
いったいどれだけの時間が過ぎたのだろう? 未だに仲間は私を見
つけてくれない。自分の存在の小ささを感じる。
いったいどれだけの時間が過ぎたのだろう? 未だに仲間は私を見
つけてくれない。自分の存在の小ささを感じる。
酸素残量12%
ゆっくりと近づく死への恐怖でおかしくなりそう。いっそ自ら命を
絶ちたい。けれど、スーツの生命維持装置がそれを許してくれない。
ゆっくりと近づく死への恐怖でおかしくなりそう。いっそ自ら命を
酸素残量3%
女が息を引き取った。1年に1%ずつ減っていく酸素残量。およそ
76年の孤独から彼女は解放されたのだ。死因は老衰だった。
女が息を引き取った。1年に1%ずつ減っていく酸素残量。およそ
76年の孤独から彼女は解放されたのだ。死因は老衰だった。
黒紋ノ御杖
私はね、鳥の言葉がわかるんだよ。嘘言うなって? みんなそう言
って、私の話をまったく信じないのさ。子供の頃から、まるっきり
変人扱い。それがどれだけ辛かったか、あんたにわかるかい?
って、私の話をまったく信じないのさ。子供の頃から、まるっきり
変人扱い。それがどれだけ辛かったか、あんたにわかるかい?
せっかくだから、私の子供の頃の話をしようか。青く澄んだ空が広
がった夏の日のことだったよ。黒い渡り鳥がやってきて、私に教え
てくれたんだ。明日、この町にとんでもない大嵐がやってくるって。
がった夏の日のことだったよ。黒い渡り鳥がやってきて、私に教え
私は、町の大人たちに伝えたよ。でも、信じてもらえなかった。次
の日、本当に大嵐が来て、山が崩れて町が流され、それでみーんな
死んじまったんだよ。その時に、この私も死んだんだ。
の日、本当に大嵐が来て、山が崩れて町が流され、それでみーんな
死んじまったんだよ。その時に、この私も死んだんだ。
ん? 今こうして話しているじゃないかって? 死んでいたって話
せるさ。だって、そういうあんただって死んでいるじゃないか。私
だけ変人扱いはやめてほしいね、まったく。
せるさ。だって、そういうあんただって死んでいるじゃないか。私
だけ変人扱いはやめてほしいね、まったく。
明城
勉強の成績、友達との交友関係、先生からの内申点。
少女は模範となる高校生を演じなければならなかった。
貧乏生活を共にする父親と、いつか一緒に笑うために。
少女は模範となる高校生を演じなければならなかった。
貧乏生活を共にする父親と、いつか一緒に笑うために。
夜の街で請け負う、他人の人生を賭けた非道なアルバイト。
少女は罪を犯してでも、借金を返済しなければならなかった。
昔から大好きだった父親と、いつまでも一緒に暮らすために。
少女は罪を犯してでも、借金を返済しなければならなかった。
昔から大好きだった父親と、いつまでも一緒に暮らすために。
少女の悪行が知れ渡り、積み重ねてきた努力は瞬く間に崩れた。
ただ一つ失いたくないものの下へ帰るため、重い足取りを進める。
自責の果てに少女を待っていたのは、自殺した最愛の父親。
ただ一つ失いたくないものの下へ帰るため、重い足取りを進める。
自責の果てに少女を待っていたのは、自殺した最愛の父親。
少女は、父を死に追い詰めた母親に復讐を果たした。だが……
少女は気付く。自殺のはずの父親が、他殺だったという痕跡に。
真の仇を討つために生きることを、彼女は切に願った。
少女は気付く。自殺のはずの父親が、他殺だったという痕跡に。
真の仇を討つために生きることを、彼女は切に願った。
暮染
少年は一日のほとんどを、勉学とアルバイトに費やしていた。
彼は高校生らしい生活をすべて捨て、ひたむきに目標を目指す。
心臓の持病で入院する母親を助けようと、医者になるために。
彼は高校生らしい生活をすべて捨て、ひたむきに目標を目指す。
心臓の持病で入院する母親を助けようと、医者になるために。
遊び呆ける同い年の高校生、口だけのアルバイト先の先輩。
社会から受ける多大なストレスを抱え、少年は日々を過ごす。
そんな彼に突き付けられたのは、思いを寄せた母親の余命。
社会から受ける多大なストレスを抱え、少年は日々を過ごす。
そんな彼に突き付けられたのは、思いを寄せた母親の余命。
少年が計画したのは、母へ心臓移植をするための脳死自殺。
永遠とも思える最期の一瞬を感じながら、彼は毒薬を口に……
突如鳴った着信音。少年は、最愛の母親の死を告げられた。
永遠とも思える最期の一瞬を感じながら、彼は毒薬を口に……
突如鳴った着信音。少年は、最愛の母親の死を告げられた。
少年は、母の死の原因である父親に復讐を果たした。だが……
少年は気付く。持病で死んだ母親が、他殺だったという痕跡に。
真の仇を討つために生きることを、彼は切に願った。
少年は気付く。持病で死んだ母親が、他殺だったという痕跡に。
真の仇を討つために生きることを、彼は切に願った。
盛儀の大槍
決められた人生、叶わぬ自由。いつしか女は、笑顔を失う。
すべてを諦めた日々を変えたのは……一人の船乗りとの出会い。
女のもう一つの顔……占い師の姿で、束の間の楽しみを味わう。
けれど時々、虚しくなる。隠した心に、気づいてもらえぬ事が。
……目の前に立つこの船乗りは、本当の私を見てくれるのだろうか?
けれど時々、虚しくなる。隠した心に、気づいてもらえぬ事が。
やがて抱いた船乗りへの恋。鳥の如く、飛び立つ姿を想像する。
最後の疑念を晴らす為。女は侍女と入れ替わり、船乗りを試した。
眼の前で……姿を消した侍女と船乗り。女は一人、裏切られる。
最後の疑念を晴らす為。女は侍女と入れ替わり、船乗りを試した。
眼の前で……姿を消した侍女と船乗り。女は一人、裏切られる。
女は一人、街を駆ける。槍を手にして、船乗りを殺す為。
船乗りが、幾度も語った冒険譚……叶うはずのない絵空事……
女は失意の中、大海原へ身を預ける。
船乗りが、幾度も語った冒険譚……叶うはずのない絵空事……
女は失意の中、大海原へ身を預ける。
月ノ光
【次の后へ】
明日が五度目の満月。私はとうとう、逃げ出せませんでした。王宮
の下水路や、裏の城門等くまなく調べましたが、抜け道はありませ
んでした。私と同じ過ちを犯さず、生き延びられる事を祈って。
明日が五度目の満月。私はとうとう、逃げ出せませんでした。王宮
の下水路や、裏の城門等くまなく調べましたが、抜け道はありませ
んでした。私と同じ過ちを犯さず、生き延びられる事を祈って。
【次の后へ】
駄目。打つ手無し。王の機嫌を損ねてしまい、私の命は今日限りだ
……一つだけ伝達。奴が不機嫌になった時、王宮のどこかに姿を消
した。今からその場所を探す。手がかりを見つけて、ここに書く。
駄目。打つ手無し。王の機嫌を損ねてしまい、私の命は今日限りだ
……一つだけ伝達。奴が不機嫌になった時、王宮のどこかに姿を消
した。今からその場所を探す。手がかりを見つけて、ここに書く。
【次の后へ】
王様を殺そうとした私が愚かだった! 死にたくない! ■に■■
ない! 右足から出る血が■■らな■! 誰か助ケテ! ■レ■!
…………■…………………■■
王様を殺そうとした私が愚かだった! 死にたくない! ■に■■
ない! 右足から出る血が■■らな■! 誰か助ケテ! ■レ■!
…………■…………………■■
念の為、感謝の言葉を述べておく……命がけで調査を続けた皆の記
録が、実を結んだ事を証明する。例の部屋で、仕込みをすれば準備
完了……今鳴っているこの鐘は、王様へ向けた弔いの音色。
【アイツの后は、私で最後】
録が、実を結んだ事を証明する。例の部屋で、仕込みをすれば準備
完了……今鳴っているこの鐘は、王様へ向けた弔いの音色。
【アイツの后は、私で最後】
金蝕の刃
頭領のガキには付き合いきれん。盗賊殺しの城に潜り込むなんて、
無謀にも程があるだろう……この盗賊一味の一員として、奴との付
き合いも長くなるが、今回ばかりは手を引かせてもらう。
無謀にも程があるだろう……この盗賊一味の一員として、奴との付
き合いも長くなるが、今回ばかりは手を引かせてもらう。
城から逃げた帰り道……夜の砂漠で、俺達は不満を爆発させた。勿
論あのガキにだ。人使いが荒いだの、常に見下してくるだの……一
番腹が立つのは、奴が誰よりも腕が立ち、俺達が何も言い返せない
所だ。
論あのガキにだ。人使いが荒いだの、常に見下してくるだの……一
番腹が立つのは、奴が誰よりも腕が立ち、俺達が何も言い返せない
所だ。
奴は同業の間じゃ名の知れた存在だ。国一番の盗賊組織を束ねて、
欲しい物全てを奪い去る。盗みの手口とその振る舞いに……盗賊な
ら誰だって憧れるだろ。あのガキに。
欲しい物全てを奪い去る。盗みの手口とその振る舞いに……盗賊な
ら誰だって憧れるだろ。あのガキに。
しばらくして、奴の姿を街で見た。あの城から生還したのは感心し
たが、奴の変化に面食らった。宝石まみれの服はどうした? 獣の
ような鋭い視線はどこへ行った? 女でもできたのか? お前……
たが、奴の変化に面食らった。宝石まみれの服はどうした? 獣の
ような鋭い視線はどこへ行った? 女でもできたのか? お前……
散々ナ葬送
死んだ母の夢を、この年になっても時折見ることがある。
内容はいつも同じ。翼を得て飛び立ちたいと、鳥に教えを請う母。
しかし努力を重ねても、人である彼女に空を舞うことは叶わない。
内容はいつも同じ。翼を得て飛び立ちたいと、鳥に教えを請う母。
しかし努力を重ねても、人である彼女に空を舞うことは叶わない。
生前、母が何■か言っていた。死後は火■■、灰を砂海に撒いてほ
しい■。結局、それを■えてあげられなかった私■、自由にな■こ
とのでき■かった母に、嫌味を言わ■続■ているのだろうか。
しい■。結局、それを■えてあげられなかった私■、自由にな■こ
とのでき■かった母に、嫌味を言わ■続■ているのだろうか。
目の前で■が■■れた刹■、何故か頭■■かんだ■は、そんな■細
な母の思■出。同■■■じたのは、何の■もないはずの■が、心を
檻に■■れた■ま殺され■■とへの、強い■快感だった。
な母の思■出。同■■■じたのは、何の■もないはずの■が、心を
檻に■■れた■ま殺され■■とへの、強い■快感だった。
■の屍■■黒い鳥達■■■でいる。それ■■い。■■な陰惨■■に
遺■れ■ま■■のは、■まりにあ■■が可■■■から。■んな形で
■■、せめて■■■、■処か■■■場所へ連れ■■って■げ■■
遺■れ■ま■■のは、■まりにあ■■が可■■■から。■んな形で
■■、せめて■■■、■処か■■■場所へ連れ■■って■げ■■
鉄心ノ槍
この槍はな、普通の職人じゃ作れねえ代物だ。
刃は錆びることなく、こぼれることもねえ。
売れば一年分の酒代になる。嘘じゃねえ、本当さ。
この酒だって、槍を売った金で飲んでんだ。
刃は錆びることなく、こぼれることもねえ。
売れば一年分の酒代になる。嘘じゃねえ、本当さ。
この酒だって、槍を売った金で飲んでんだ。
ああ? 売った槍を持ってんのが悪いかよ。
どうしたって、コイツは俺のところに戻って来るのさ。
愛されてるってよりかは、呪われてるんだろうよ。
なんてったって、コイツは俺に手を汚させる。
どうしたって、コイツは俺のところに戻って来るのさ。
愛されてるってよりかは、呪われてるんだろうよ。
なんてったって、コイツは俺に手を汚させる。
血を吸えば吸うほど鋭くなるんだよ、コイツの刃は。
だから下手な使い手の元にはいたくねえのさ。
槍の名手である俺の手で、生き血をたっぷり啜りてえんだろうよ。
こういう満月の夜は特に……
だから下手な使い手の元にはいたくねえのさ。
槍の名手である俺の手で、生き血をたっぷり啜りてえんだろうよ。
こういう満月の夜は特に……
――なんてな。そんなの嘘に決まってんだろ。
ま、でも酒の肴になるくらいにゃ、面白い話だったはずだ。
あんたはそろそろ帰るのか? そうかい、そうかい。
それなら気をつけな。今夜は月が綺麗だからな。
ま、でも酒の肴になるくらいにゃ、面白い話だったはずだ。
あんたはそろそろ帰るのか? そうかい、そうかい。
それなら気をつけな。今夜は月が綺麗だからな。
蛇心ノ銃
銃。僕たちは銃を愛している。人は銃がなければ生きていけない。
たとえば心身の健康維持、コミュニケーション、お金を払うこと、
歌うこと、遊ぶこと、子供をつくること──あらゆることはすべて
銃を頭につきつけ、引き金をひくことで行われる。
たとえば心身の健康維持、コミュニケーション、お金を払うこと、
歌うこと、遊ぶこと、子供をつくること──あらゆることはすべて
銃を頭につきつけ、引き金をひくことで行われる。
けれど、彼女は言った。
僕らの銃は「偽物」で、「本物」の銃は人を殺すためにあるのだと。
殺すってどういうこと? と僕が彼女に尋ねると、
世界中全部嘘なんだと教えてあげることだよ、と彼女は笑った。
殺すってどういうこと? と僕が彼女に尋ねると、
世界中全部嘘なんだと教えてあげることだよ、と彼女は笑った。
彼女と僕は毎日、秘密基地で互いの額に「偽物」の銃をつきつけ
ネットワークにアクセスし、「本物」の銃をつくる方法を探した。
彼女の夢は、「本物」の銃で人を殺してみることだった。
けれどある日とつぜん、彼女は秘密基地に来なくなってしまった。
ネットワークにアクセスし、「本物」の銃をつくる方法を探した。
彼女の夢は、「本物」の銃で人を殺してみることだった。
けれどある日とつぜん、彼女は秘密基地に来なくなってしまった。
それから数日後、僕の家に白い服を着た人たちがやってきて、
彼らは泣き叫ぶママの前で僕に銃を向けた。
僕はそれが「本物」の銃なんだなと理解して、彼らを羨む。
……生まれ変わったら。僕も彼女と「本物」の銃を撃ってみたい。
彼らは泣き叫ぶママの前で僕に銃を向けた。
僕はそれが「本物」の銃なんだなと理解して、彼らを羨む。
……生まれ変わったら。僕も彼女と「本物」の銃を撃ってみたい。
黒曜の珠
村で唯一の魔法使いだったおばあちゃんはもういない。今日から私
が跡を継いで、この村の魔法使いになるんだ。おばあちゃんから託
された黒曜の珠を抱きしめ、立派な魔法使いになると私は誓った。
が跡を継いで、この村の魔法使いになるんだ。おばあちゃんから託
された黒曜の珠を抱きしめ、立派な魔法使いになると私は誓った。
失せもの探しに占い。病気の治療や幸運のおまじない。メモを頼り
に頑張っているけれど、分からない事ばっかり。この黒曜の珠も何
に使うのか結局よくわからず、机の上に置きっぱなしだ。
に頑張っているけれど、分からない事ばっかり。この黒曜の珠も何
に使うのか結局よくわからず、机の上に置きっぱなしだ。
今日は女の人が子供の病気の薬を取りにやってきた。そしてアトリ
エを見回して言った。「あら、いなくなってしまったのね」きっと
おばあちゃんの事だろう。私は曖昧に微笑んで見せた。
エを見回して言った。「あら、いなくなってしまったのね」きっと
おばあちゃんの事だろう。私は曖昧に微笑んで見せた。
ある日、黒曜の珠からコツコツと音がした。すっかり元気になった
子供を連れた女の人が、夕飯のおすそ分けに来た。「ああ。卵を産
んだのねあの使い魔さん」……何が生まれるのかとても楽しみだ。
子供を連れた女の人が、夕飯のおすそ分けに来た。「ああ。卵を産
んだのねあの使い魔さん」……何が生まれるのかとても楽しみだ。
新人類ノ杖
遥か昔、温暖な気候へと傾いていた地球が突如「寒冷化」の傾向を
示した。この原因は、研究者らが様々な説を唱えているが、未だ真
相の解明には至らない。地球全体の気温が平均10℃ほど下がり、
極地に近い海から徐々に広範囲に亘って凍りついていった。
示した。この原因は、研究者らが様々な説を唱えているが、未だ真
相の解明には至らない。地球全体の気温が平均10℃ほど下がり、
極地に近い海から徐々に広範囲に亘って凍りついていった。
「寒冷化」の結果、地表に占める海水面の割合は大きく減少した。
地球上の面積の80%を占めると言われていた海は、その面積を
20%以下に下げた。これによりまず海から姿を消したのは、大型
の哺乳類だ。巨体を維持できるほどの餌が得られなくなったのだ。
地球上の面積の80%を占めると言われていた海は、その面積を
20%以下に下げた。これによりまず海から姿を消したのは、大型
の哺乳類だ。巨体を維持できるほどの餌が得られなくなったのだ。
次いで大型の魚類、中型の魚類が姿を消した。体の大きさの順に絶
滅していった。海はもう、多種多様の命を育むために十分な環境で
はなかった。そして、「寒冷化」による海表面の減少は海洋生物だ
けの死活問題ではないことも、想像に難くないであろう。
滅していった。海はもう、多種多様の命を育むために十分な環境で
はなかった。そして、「寒冷化」による海表面の減少は海洋生物だ
けの死活問題ではないことも、想像に難くないであろう。
海洋生物が姿を消す以前に、海から食料を得ていた旧人類は飢餓に
陥り、また何より大きな環境変化・気象変化により、その数を大き
く減らした。当時、70億人と言われた世界人口は、約■■人にま
で減っており、重大な人口問題となっている。
陥り、また何より大きな環境変化・気象変化により、その数を大き
く減らした。当時、70億人と言われた世界人口は、約■■人にま
で減っており、重大な人口問題となっている。
シリンジ銃
毎日毎日、運び込まれる患者を助けるだけの日々……
どれほど生活を犠牲にしても、患者の数は減らない。
どれほど生活を犠牲にしても、患者の数は減らない。
幼い頃から人を救いたいと望んで勉強し、私は医師となった。
しかし今では助ける喜びよりも、苦しむ顔を見る苦痛が勝る。
しかし今では助ける喜びよりも、苦しむ顔を見る苦痛が勝る。
組織同士の抗争で撃たれ運ばれて来た急患を診た後、私は考える。
どうしてこいつらは、せっかく治しても再び傷つけ合うのかと……
どうしてこいつらは、せっかく治しても再び傷つけ合うのかと……
そうだ、元凶となる腫瘍を取り除かなくては悪は転移するばかり。
私はメスや注射器を捨てて、ナイフと銃を握って病院を後にした。
私はメスや注射器を捨てて、ナイフと銃を握って病院を後にした。
AGW-M26
邂逅の剣
最後の記憶は、お姉ちゃんの前で殺される地獄のような光景。
目が覚めると私は、液体に満たされた水槽の中で眠っていた。
どうして突然こんなところに? お姉ちゃんはどこにいるの?
浮かび上がる疑問を解けぬまま、私はこの場を動けずにいる。
目が覚めると私は、液体に満たされた水槽の中で眠っていた。
どうして突然こんなところに? お姉ちゃんはどこにいるの?
浮かび上がる疑問を解けぬまま、私はこの場を動けずにいる。
いくつもの実験を行う為、白衣を纏う研究者達が日々訪れる。
毎日行われる辛い検査……なんとか乗り越えるのが精一杯だ。
お姉ちゃんとの、慎ましくも幸せだった頃を思い出しながら、
私は痛みに耐える。必ず、お姉ちゃんが助けにくると信じて。
毎日行われる辛い検査……なんとか乗り越えるのが精一杯だ。
お姉ちゃんとの、慎ましくも幸せだった頃を思い出しながら、
私は痛みに耐える。必ず、お姉ちゃんが助けにくると信じて。
また今日も、少し離れた場所で、別の子の叫び声が聞こえた。
私達はただの実験道具。壊れたら、玩具のように捨てられる。
研究者に弄ばれるがまま、逃げることは到底叶うわけもない。
憎悪に少しずつ心が浸されて、人としての感情が消えていく。
私達はただの実験道具。壊れたら、玩具のように捨てられる。
研究者に弄ばれるがまま、逃げることは到底叶うわけもない。
憎悪に少しずつ心が浸されて、人としての感情が消えていく。
永遠かと思うほど繰り返される日々の果て。視界に映るのは、
夢にまで見た、いつも優しくて大好きな、お姉ちゃんの姿……
私を見つけた時の笑顔は、変わることなく愛情に満ちている。
元通りまでは望まない。ただ、最期のひと時を幸せのままに。
夢にまで見た、いつも優しくて大好きな、お姉ちゃんの姿……
私を見つけた時の笑顔は、変わることなく愛情に満ちている。
元通りまでは望まない。ただ、最期のひと時を幸せのままに。
三式戦術刀
「今からお前たちで殺し合え。生き残ったほうを自由にしてやる」
研究者共はそう言って、僕ら兄弟に武器を持たせた。やっと地獄の
ような日々から解放されると思ったら、こんな条件。僕らに向けら
れた、刺すような好奇の視線がとても不快だった。
研究者共はそう言って、僕ら兄弟に武器を持たせた。やっと地獄の
ような日々から解放されると思ったら、こんな条件。僕らに向けら
れた、刺すような好奇の視線がとても不快だった。
震える弟が握る、無骨な刀を見る。研究者共は言っていた、あの刀
は「効率的に苦痛を与える武器」だと。心優しい弟にそんな物は似
合わない、どうか生きのびて幸せになってほしい。だから僕は……
覚悟を決める事にした。
は「効率的に苦痛を与える武器」だと。心優しい弟にそんな物は似
合わない、どうか生きのびて幸せになってほしい。だから僕は……
覚悟を決める事にした。
弟が迷いなく攻撃できるよう、なるべく恐ろしい顔を作る。咆哮を
あげながら飛び掛かると、思惑通り弟はおびえた様子で刀を構えた。
そうだ、それでいい。その手に持った刀を、思いっきり兄ちゃんに
突き立てろ! そして、自由を手に入れるんだ!
そうだ、それでいい。その手に持った刀を、思いっきり兄ちゃんに
突き立てろ! そして、自由を手に入れるんだ!
刺された瞬間、信じがたい痛みに僕は絶叫した。脂汗を流しのたう
ち回るも、継続的な苦痛は気絶することも許してくれない。……ふ
いに視界の端、泣きじゃくる弟が刀を振り上げる姿が見えた。そう
だ、早く……兄ちゃんを自由にしてくれ…………
ち回るも、継続的な苦痛は気絶することも許してくれない。……ふ
いに視界の端、泣きじゃくる弟が刀を振り上げる姿が見えた。そう
だ、早く……兄ちゃんを自由にしてくれ…………
祭眠ノ爪
僕、今日もまた先生に怒られちゃった。授業中に寝るなって……
でも……眠いんだもん……ふぁー……
それにね……僕はね……夢の中で……怪物さんと……
でも……眠いんだもん……ふぁー……
それにね……僕はね……夢の中で……怪物さんと……
あ、怪物さん! 今日も会えたね! 僕ね、怪物さんが大好き!
だって怪物さんは……学校の皆みたいに、イジワルしないもん。
怪物さん。いつも遊んでくれてありがとう。大好きだよ。
だって怪物さんは……学校の皆みたいに、イジワルしないもん。
怪物さん。いつも遊んでくれてありがとう。大好きだよ。
起きろ起きろって、ママとパパは言う。どうして?
夢の世界の方が幸福だってこと。ママとパパは知らないんだ。
だから僕、教えてあげた。ママとパパに永遠の眠りを与えてあげた。
夢の世界の方が幸福だってこと。ママとパパは知らないんだ。
おはよう。 わからない。 ごめんね。
さよなら。 パパ。 たすけて。 ママ。 もうあえないね。
ひとりぼっち。
カイブツ。
さよなら。 パパ。 たすけて。 ママ。 もうあえないね。
ひとりぼっち。
カイブツ。
拘泥スル記憶
我々は「仕立て屋」。
ぴったりの逸品が欲しいなら、ここへ来るのがよろしいでしょう。
ぴったりの逸品が欲しいなら、ここへ来るのがよろしいでしょう。
貴方の体に、頭に、心に合わせて作りましょう。
唯一無二。貴女のためにお仕立ていたしましょう。
唯一無二。貴女のためにお仕立ていたしましょう。
お客様には、穏やかな死に至れるよう幸福な思い出を。
お客様には、明日を生き抜く活力となるよう憎悪の記憶を。
お客様には、明日を生き抜く活力となるよう憎悪の記憶を。
ああ、今日も忙しい。人は理由がなければ生きられませんから。
しかし、偽の人生をでっちあげるのもひと苦労です。
おや、また新しいお客さんが来たようだ。
―― 貴方はどんな記憶をお求めで?
しかし、偽の人生をでっちあげるのもひと苦労です。
おや、また新しいお客さんが来たようだ。
絶星の矛
私は眸を開かない。
映るものに、私のものは一つもないから。
私は聲を発さない。
言葉は、誰にも届かないから。
言葉は、誰にも届かないから。
私は貌を崩さない。
それが、私の唯一の抵抗。
私は希望を抱かない。
裏切られると、知っていたはずなのに……
裏切られると、知っていたはずなのに……
斬黒
闇夜に溶けず、仄かな耀を放っているかのように錯覚させる、艶や
かな漆黒の刀身。召使を試し切りしても汚れぬその美しさは、私の
蒐集した品の中で、特にお気に入りの逸品と呼ぶに相応しい。そん
な私のお宝があろうことか、賤しい盗賊に盗まれた。
かな漆黒の刀身。召使を試し切りしても汚れぬその美しさは、私の
蒐集した品の中で、特にお気に入りの逸品と呼ぶに相応しい。そん
な私のお宝があろうことか、賤しい盗賊に盗まれた。
私のお宝を盗んだ不届き者は、下々が暮らす街でそこそこ名が知ら
れているようだった。幼き相貌に、華奢な身体。しかしながら……
いや、その小さな体躯を生かしてか、盗みの腕は確からしい。だか
らと言って、仕方がないとは言えぬほど、私の腸は煮えている。
れているようだった。幼き相貌に、華奢な身体。しかしながら……
いや、その小さな体躯を生かしてか、盗みの腕は確からしい。だか
らと言って、仕方がないとは言えぬほど、私の腸は煮えている。
街中を探し、遂に見つけたその盗賊は、身の丈ほどの私のお宝を背
負いながらも、砂の音一つさせず飄々と街をすり抜ける。その盗賊
は、身の丈ほどの私のお宝と踊るように、敵対者に刀身を沈める。
私は怒りに震え、気が付くと盗賊の前に飛び出していた。
負いながらも、砂の音一つさせず飄々と街をすり抜ける。その盗賊
は、身の丈ほどの私のお宝と踊るように、敵対者に刀身を沈める。
私は怒りに震え、気が付くと盗賊の前に飛び出していた。
「私を斬ってくれ」そう叫んだ。彼が振るうその漆黒は、間違いな
く私が振るうより美しかったのだ。真の美しさを埋もれさせていた
自らへの怒り。その美しさを間近で見たいという欲望。しかし盗賊
は私を鼻で笑い、遂にその刀身を私の身に沈めてはくれなかった。
く私が振るうより美しかったのだ。真の美しさを埋もれさせていた
自らへの怒り。その美しさを間近で見たいという欲望。しかし盗賊
は私を鼻で笑い、遂にその刀身を私の身に沈めてはくれなかった。
艶黒の鑓
他人から物を奪うことでしか生きられない、虫けらみたいなヤツが
いる。俺だ。だが、俺には盗みの才がなかった。だから、生きてい
る人間ではなく、死体……王族の死体から盗むことにしたんだ。
いる。俺だ。だが、俺には盗みの才がなかった。だから、生きてい
る人間ではなく、死体……王族の死体から盗むことにしたんだ。
街のはずれに建てられた巨大な墳墓。そこで王族の死体は、生前に
身に着けていた宝飾品と共に眠っている。身が朽ちようと、蟲に喰
われようと、お宝が消えることはない。俺が有難く頂戴しよう。
身に着けていた宝飾品と共に眠っている。身が朽ちようと、蟲に喰
われようと、お宝が消えることはない。俺が有難く頂戴しよう。
忍び込んだ墓には豪勢な台座。しかし、その上に死体はなく、宝飾
品だけが並べられていた。嫌な予感がする……俺はお宝を前に手を
伸ばすのをやめ、身を翻す。引き際ってのも大事だろ?
品だけが並べられていた。嫌な予感がする……俺はお宝を前に手を
伸ばすのをやめ、身を翻す。引き際ってのも大事だろ?
遅かった。俺の全身は奴らに埋もれ、すぐに身動きが取れなくなっ
た。そして、体の外と内からブチブチと音が響く。奴らは死者、生
者関係なく、肉を奪っていく主義らしい。ああ、俺より上等か……
た。そして、体の外と内からブチブチと音が響く。奴らは死者、生
者関係なく、肉を奪っていく主義らしい。ああ、俺より上等か……
執心の記憶
昔からずっと求めているものがあって、
探しているけれど見つからないの。
だからもう、いっそ作ってしまおうかと思って。
探しているけれど見つからないの。
だからもう、いっそ作ってしまおうかと思って。
この「仕立て屋」さんなら、それができると聞いたのよ。
お客の求めているものを、
オーダーメイドで完璧に仕立ててくれるって噂じゃない。
お客の求めているものを、
オーダーメイドで完璧に仕立ててくれるって噂じゃない。
仕立てるのは人生、記憶。
私が欲しいのは、平凡だけれど
愛する人と子に恵まれる、そんな日々。
私が欲しいのは、平凡だけれど
愛する人と子に恵まれる、そんな日々。
できるわよね? できないなんて言わせないわ。
ここに来るまで、たくさん犠牲を払ったもの。
もう引き返せないの。
あなたもそれはご存じでしょう?
ここに来るまで、たくさん犠牲を払ったもの。
もう引き返せないの。
あなたもそれはご存じでしょう?
弐式暁星
冷たいカビのにおいがする、四畳半の部屋。
今はここが……お父さんの世界のすべて。
そうだ、週末に掃除をしよう。部屋が綺麗になれば――
お父さんの沈んだ気持ちも、少しは晴れるかもしれないから。
今はここが……お父さんの世界のすべて。
そうだ、週末に掃除をしよう。部屋が綺麗になれば
お父さんの沈んだ気持ちも、少しは晴れるかもしれないから。
休日の朝。お父さんを起こさないように、静かに掃除をする。
台所とお風呂場は綺麗になった……よし。次は押入れの整理かな。
あ、このダンボールの中……昔、誕生日に弟から貰ったペンだ。
こっちはお母さんがプレゼントしてくれた絵本……懐かしいな。
台所とお風呂場は綺麗になった……よし。次は押入れの整理かな。
あ、このダンボールの中……昔、誕生日に弟から貰ったペンだ。
こっちはお母さんがプレゼントしてくれた絵本……懐かしいな。
私の誕生日にお母さんがくれたもの。弟がくれたもの。
きっといつか、また家族みんなで暮らせる日が来る……
あの頃はそう信じていて、だから捨てずに仕舞ってたんだっけ。
でも。全部、捨ててしまおう。幸せな日々はもう、戻らないから。
きっといつか、また家族みんなで暮らせる日が来る……
あの頃はそう信じていて、だから捨てずに仕舞ってたんだっけ。
でも。全部、捨ててしまおう。幸せな日々はもう、戻らないから。
翌日。お父さんがお花をくれた。名前の分からない、小さな花を。
今日は私の誕生日。お父さん……今年も覚えててくれたんだ。
このお花は大切にしよう。いつか枯れても、捨てずにいよう。
これからはお父さんがくれたものを大切にして、幸せになろう。
今日は私の誕生日。お父さん……今年も覚えててくれたんだ。
このお花は大切にしよう。いつか枯れても、捨てずにいよう。
これからはお父さんがくれたものを大切にして、幸せになろう。
弐式夕影
明日は母さんと父さんの結婚記念日だ。
どんな花をプレゼントしたら、二人は喜んでくれるだろう?
俺は姉さんと一緒にお小遣いを握りしめ、近所の花屋に向かった。
最近はお小遣いが減ったけど……この日のために貯金してたんだ。
どんな花をプレゼントしたら、二人は喜んでくれるだろう?
俺は姉さんと一緒にお小遣いを握りしめ、近所の花屋に向かった。
最近はお小遣いが減ったけど……この日のために貯金してたんだ。
店員さんに話を聞いて、俺達は悩んだ末にプレゼントを決めた。
鉢に植えられたハーブ。苺の一種で、白い小さな花が咲くらしい。
そして赤い実がなると、幸せになるという言い伝えがあるそうだ。
これがあれば、最近喧嘩が増えた母さんと父さんも……きっと。
鉢に植えられたハーブ。苺の一種で、白い小さな花が咲くらしい。
そして赤い実がなると、幸せになるという言い伝えがあるそうだ。
これがあれば、最近喧嘩が増えた母さんと父さんも……きっと。
俺と姉さんが家に帰ると、母さんと父さんはまた喧嘩していた。
俺達が割って入るようにプレゼントを渡すと……
両親は喧嘩をやめて微笑んでくれた。俺と姉さんは喜んだ。
このまま、二人が永遠に仲良しでいてくれるといいのに……
俺達が割って入るようにプレゼントを渡すと……
両親は喧嘩をやめて微笑んでくれた。俺と姉さんは喜んだ。
このまま、二人が永遠に仲良しでいてくれるといいのに……
プレゼントしたハーブは今でも育てていて、また実がなった。
でも結局、母さんは不幸なままだ。俺も家族もみんな……
なのに、俺は赤い実の言い伝えに僅かな望みをかけている。
それくらい信じないと、この現実で生きるのは辛すぎるから。
でも結局、母さんは不幸なままだ。俺も家族もみんな……
なのに、俺は赤い実の言い伝えに僅かな望みをかけている。
それくらい信じないと、この現実で生きるのは辛すぎるから。
鉄心ノ銃
争いが起きると儲かる。
私達のように、武器を扱う商人ならなおさら。
今日も軍部から大口の発注が来た。
さあ、働け働け。工場の灯りを決して消すな。
私達のように、武器を扱う商人ならなおさら。
今日も軍部から大口の発注が来た。
さあ、働け働け。工場の灯りを決して消すな。
労働者たちは言う。
人の命を奪う道具を売ってまで金が欲しいか。
それで食う飯はうまいかと。
愚問だ。やつらは何もわかっていない。
人の命を奪う道具を売ってまで金が欲しいか。
それで食う飯はうまいかと。
愚問だ。やつらは何もわかっていない。
資本家たちは言う。
人間を馬車馬の如く働かせ、富を築くのは楽しいと。
下々のものを見ながら飲む葡萄酒は美味いと。
愚かな。やつらは何もわかっていない。
人間を馬車馬の如く働かせ、富を築くのは楽しいと。
下々のものを見ながら飲む葡萄酒は美味いと。
愚かな。やつらは何もわかっていない。
私が求めるのは銃弾の雨。爆薬の嵐。
金も名誉も地位もいらぬ。私が欲するのはただ一つ。
この手で生み出した兵器が、
人々の命を蹂躙しているという事実だけなのだから。
金も名誉も地位もいらぬ。私が欲するのはただ一つ。
この手で生み出した兵器が、
人々の命を蹂躙しているという事実だけなのだから。
黒嘴ノ槍
#FFF1CF(255,241,207)
鳥の子色(とりのこいろ)
親鳥が愛情を尽くして温める卵のような、幸せなクリーム色。
鳥の子色(とりのこいろ)
親鳥が愛情を尽くして温める卵のような、幸せなクリーム色。
#006956(0,105,86)
鴨の羽色(かものはいろ)
水辺を泳ぐ、子煩悩な親鴨の首元のような、鮮やかな青緑色。
鴨の羽色(かものはいろ)
水辺を泳ぐ、子煩悩な親鴨の首元のような、鮮やかな青緑色。
#95859C(149,133,156)
鳩羽色(はとばいろ)
地面をついばむ呑気な鳩の、紫がかった艶のある、平和な灰色。
鳩羽色(はとばいろ)
地面をついばむ呑気な鳩の、紫がかった艶のある、平和な灰色。
#12020E(18,2,14)
烏の濡羽色(からすのぬればいろ)
雨に濡れてただ餌を待つ、無力な雛のような、切なさの滲む黒色。
烏の濡羽色(からすのぬればいろ)
雨に濡れてただ餌を待つ、無力な雛のような、切なさの滲む黒色。
トケイソウ
『愛』を語るのは簡単だ。
この地上で幾度となく、凡百な言葉を以て行われた事だろう。
だがその定義を、その証明を行うのは難しい。
この地上で幾度となく、凡百な言葉を以て行われた事だろう。
だがその定義を、その証明を行うのは難しい。
歴史の中では、それを八つに分類した例もある。
だがそれらは関係を表す言葉、愛の定義を語るものではない。
愛が何物かを知った前提で、その在り方を語ったのだろう。
だがそれらは関係を表す言葉、愛の定義を語るものではない。
愛が何物かを知った前提で、その在り方を語ったのだろう。
どれも本質的な表現と思えないのは、同じ『愛』という言葉が、
だから、私は持って生まれた業と定義する事にした。
筆舌に尽くせぬ感情でありながら、多くの者がそれに振り回される。
しかし尚も我々は言葉で飾り、それを正当化し続けるのだから。
しかし尚も我々は言葉で飾り、それを正当化し続けるのだから。
蛇心ノ槍
呪いたくなるほど、恵まれた人生でした。
それほどに。私は神から、たくさんの愛を授かっていました。
剣の才、美貌、優しい友人、聡明な父上と母上……そして。
愛しても愛しきれないほど、素晴らしい主人が私にはおりました。
それほどに。私は神から、たくさんの愛を授かっていました。
剣の才、美貌、優しい友人、聡明な父上と母上……そして。
愛しても愛しきれないほど、素晴らしい主人が私にはおりました。
私の主人は、美しい少女でした。
第七皇女である彼女は、王の愛人の娘故に蔑まれることも多い。
しかし彼女は誰にでも分け隔てなく接する優しい心を失わず、
そんな彼女の純心に、私は惹かれておりました。
第七皇女である彼女は、王の愛人の娘故に蔑まれることも多い。
しかし彼女は誰にでも分け隔てなく接する優しい心を失わず、
そんな彼女の純心に、私は惹かれておりました。
この国の誰もが、私と彼女を理想の主従であると謳いました。
そして彼女は私を賞賛し、王家に伝わる槍を私に与えました。
しかし、しかし違うのです。私は、彼女の傍にいるべきではない。
私の正体は、深夜の街で罪なき人の骨肉を裂く怪物なのですから。
そして彼女は私を賞賛し、王家に伝わる槍を私に与えました。
しかし、しかし違うのです。私は、彼女の傍にいるべきではない。
私の正体は、深夜の街で罪なき人の骨肉を裂く怪物なのですから。
私は人間の骨肉に執着があり、人殺しをやめられないのです。
この殺人衝動は、決して止められない。だから私は――
今夜。自らの胸に、彼女から戴いた槍を突きつけ、祈ります。
もしも生まれ変われるのなら。彼女の骨肉を裂いてみたいと。
この殺人衝動は、決して止められない。だから私は
今夜。自らの胸に、彼女から戴いた槍を突きつけ、祈ります。
もしも生まれ変われるのなら。彼女の骨肉を裂いてみたいと。
臆病者ノ罪
ここは戦場で散った、僕の仲間達が眠る場所。
立ち並ぶ白い墓石。その一つ一つに花を供えていく。
そして不意に。黒い羽根が一枚、僕の目の前に舞い落ちた。
立ち並ぶ白い墓石。その一つ一つに花を供えていく。
そして不意に。黒い羽根が一枚、僕の目の前に舞い落ちた。
迫■くるのは、翼が風を切■■音。
黒い鳥の■群が空から舞い降りて、墓石に供■■花々を散らした。
鳥達は僕を■う。お前の作戦が、仲間を■したも同然であると。
黒い鳥の■群が空から舞い降りて、墓石に供■■花々を散らした。
鳥達は僕を■う。お前の作戦が、仲間を■したも同然であると。
黒■羽根が雨の■■に降り■ぐ中。僕は鳥■の瞳を見■■た。
その中■は、■んでいった■■達の顔が映■■いた。
僕■憎み、呪■、叫ぶ彼■の姿■。
その中■は、■んでいった■■達の顔が映■■いた。
僕■憎み、呪■、叫ぶ彼■の姿■。
そ■■。この鳥■だけ■、俺の罪■■解してく■■■だ。
全■俺■■■なのだ■。皆、■■憎ん■■■のだ■。
もっと■■おいで……■は■達へと、■■と手を■ばした。
全■俺■■■なのだ■。皆、■■憎ん■■■のだ■。
もっと■■おいで……■は■達へと、■■と手を■ばした。
夢財の象牙塊
僕に時間を割いてくれた。やがてママは水商売を始め、金持ちのお
じさんに気にいられる。暫くしておじさんが契約した家に住む。マ
マの身なりは派手になり、お金に不自由ない生活になった。
おじさんはよくしてくれる。みんなで外食や旅行に行くことが増え
たし、品質の良い服や日用品も揃えてくれた。欲しかったグローブ
を誕生日に買ってもらい、時間があるときは相手をしてもらった。
買ってもらうものを考える方が大変なくらいだ。
たし、品質の良い服や日用品も揃えてくれた。欲しかったグローブ
を誕生日に買ってもらい、時間があるときは相手をしてもらった。
買ってもらうものを考える方が大変なくらいだ。
僕はママに問う、なんでおじさんと結婚しないの?おじさんは僕の
パパではないの?と。大人の事情がわからない僕の質問に対して、
ママは忙しいからと軽くあしらった。相手にしてもらえなくなった
僕は嫌な気持ちになった。僕はいいことを思いついてしまった。
パパではないの?と。大人の事情がわからない僕の質問に対して、
ママは忙しいからと軽くあしらった。相手にしてもらえなくなった
僕は嫌な気持ちになった。僕はいいことを思いついてしまった。
ママとおじさんは別れた。僕はおじさんの息子と同級生だからおじ
さんの不倫について話してみたんだ。やっとママを独り占めにでき
た。関係を作ったり壊したりすることは簡単だよね。前もパパが良
い匂いだってママに言っただけだしね。
さんの不倫について話してみたんだ。やっとママを独り占めにでき
た。関係を作ったり壊したりすることは簡単だよね。前もパパが良
い匂いだってママに言っただけだしね。
巨人の杖
昔々あるところに、珍品好きの王様がいました。その王様は自
ら兵士を連れ、珍品探しの旅をしています。今は茶色の宝石を
探しに、山々に囲まれたとある洞窟に来ていました。
ら兵士を連れ、珍品探しの旅をしています。今は茶色の宝石を
探しに、山々に囲まれたとある洞窟に来ていました。
その洞窟には危険な罠が沢山ありました。深い落とし穴があっ
たり、壁からなんでも溶かす液体が流れてきたり、身体が浮く
突風が吹いたりしました。
たり、壁からなんでも溶かす液体が流れてきたり、身体が浮く
突風が吹いたりしました。
王様はついに茶色の宝石を見つけました。それは酷い悪臭を放
っていましたが、王様はとても喜びます。しかしその時、洞窟
が低い音を立てて、とてつもない突風が吹きました。
っていましたが、王様はとても喜びます。しかしその時、洞窟
が低い音を立てて、とてつもない突風が吹きました。
王様達は茶色の宝石と一緒に、洞窟の外へと勢いよく噴出され
ました。気を失っていた王様達が目を覚ますと、洞窟も、山々
もこつ然と姿を消していました。
ました。気を失っていた王様達が目を覚ますと、洞窟も、山々
もこつ然と姿を消していました。
ハーメルン特務戦術刀
私は、弟と一緒に廃墟と化した都市を彷徨っていた。
もう何日も、何も食べてないし、服が汚れて気持ち悪い……
『怪物』の気配を感じるたびに、心臓が止まりそうになる。
先の見えない暗闇の日々。でも、私が弟を守らなきゃ。
もう何日も、何も食べてないし、服が汚れて気持ち悪い……
『怪物』の気配を感じるたびに、心臓が止まりそうになる。
先の見えない暗闇の日々。でも、私が弟を守らなきゃ。
『機関』に所属する軍人になってから、何年が経つだろう。
ここで怪物に対抗するための力を身につければ……
いつかきっと、弟と一緒に平和に暮らせる世界を作れるはず。
そんな届かない夢を追って、私はまだ暗闇の中を走っている。
ここで怪物に対抗するための力を身につければ……
いつかきっと、弟と一緒に平和に暮らせる世界を作れるはず。
そんな届かない夢を追って、私はまだ暗闇の中を走っている。
ある艦船での任務中。怪物の襲撃を受けて、沢山の仲間が死んだ。
私は、あの都市を彷徨った日々から何も成長していない……
こんなことじゃ、弟を守り切るなんてできっこない……
怪物と戦い、満身創痍の私の意識は、暗闇へと飲まれた。
私は、あの都市を彷徨った日々から何も成長していない……
こんなことじゃ、弟を守り切るなんてできっこない……
怪物と戦い、満身創痍の私の意識は、暗闇へと飲まれた。
暗闇に閉ざされた世界で、誰かが私のことを呼んでいる。
助けに来たという心配の声が、光となって私を照らす。
ここで死ぬ訳にはいかない。だって、私は弟のために……
『怪物』をこの世界から殲滅しないといけないんだから。
助けに来たという心配の声が、光となって私を照らす。
ここで死ぬ訳にはいかない。だって、私は弟のために……
『怪物』をこの世界から殲滅しないといけないんだから。
ハーメルン試作戦術刀
俺が配属されたのは、落ちこぼればかりを集めた隊。
この任務は、俺達が『機関』に残るための最後のチャンスらしい。
気に食わないが、今度こそ成果をあげて上官共を黙らせてやろう。
そうじゃなければ……優秀な姉さんに、顔向けできないから。
この任務は、俺達が『機関』に残るための最後のチャンスらしい。
気に食わないが、今度こそ成果をあげて上官共を黙らせてやろう。
そうじゃなければ……優秀な姉さんに、顔向けできないから。
死んだ……仲間が大勢死んだ。俺が立てた作戦が悪かったせいだ。
こんな時、姉さんならどうやって気持ちを切り替えるんだろう。
いや。そもそも、姉さんだったらこんな失敗はしないか……
やっぱり俺、姉さんとは違って落ちこぼれなのかな。
こんな時、姉さんならどうやって気持ちを切り替えるんだろう。
いや。そもそも、姉さんだったらこんな失敗はしないか……
やっぱり俺、姉さんとは違って落ちこぼれなのかな。
ついに、病に感染してしまった。体が思うように動かない……
俺はここで、皆と一緒に死ぬんだな。
……今夜は月が綺麗だ。姉さんもどこかで見てるかな。
姉さん。最後にもう一度、会いたかった。会いたかったよ。
俺はここで、皆と一緒に死ぬんだな。
……今夜は月が綺麗だ。姉さんもどこかで見てるかな。
姉さん。最後にもう一度、会いたかった。会いたかったよ。
姉さん! レギオン達と一緒に、上官共を皆殺しにしてやったよ。
アイツら、最後まで俺と仲間達の実力を認めてくれなかったんだ。
それどころか、俺達をあんな卑劣な計画に巻き込みやがって……
姉さんもこんな『機関』にいるべきじゃない。今から迎えに行くよ。
アイツら、最後まで俺と仲間達の実力を認めてくれなかったんだ。
それどころか、俺達をあんな卑劣な計画に巻き込みやがって……
複製サレタ鋼刀
■オープニング・タイトルコール
「こんにちは! ラジオを聞いてるみんな、今日も元気かな?」
「『モーニング☆レター』始めちゃいますね!」
※作戦中の皆が明るい気持ちになれるよう、元気よく読み上げる。
「こんにちは! ラジオを聞いてるみんな、今日も元気かな?」
「『モーニング☆レター』始めちゃいますね!」
※作戦中の皆が明るい気持ちになれるよう、元気よく読み上げる。
■導入トーク
「(その場のノリに合わせて、自由なトーク)」
※支給品の情報や、最近楽しかったことなど。
※リスナーが飽きないよう、冒頭で興味を惹く。
「(その場のノリに合わせて、自由なトーク)」
※支給品の情報や、最近楽しかったことなど。
※リスナーが飽きないよう、冒頭で興味を惹く。
■お便りコーナー その1
「続いてはお便りコーナーです!」
「皆の熱い想い、僕が受け止めちゃうぞ!」
※基本的に包容力高めの受け答えを意識。
「続いてはお便りコーナーです!」
「皆の熱い想い、僕が受け止めちゃうぞ!」
※基本的に包容力高めの受け答えを意識。
以前、あの子がやっていたラジオを復活させようと、
台本を書いてみた。でも、なかなかうまくいかない。
というか、復活させたところで聞いてくれる人も、もういないか。
はぁ……あの子のラジオをもう一度聞きたいなぁ。
台本を書いてみた。でも、なかなかうまくいかない。
というか、復活させたところで聞いてくれる人も、もういないか。
はぁ……あの子のラジオをもう一度聞きたいなぁ。
不死鳥ノ剥製
かの王宮で開かれた、第一王子の生誕祭。
そこで、とある騎士が王子に貢物を献上した。
月のように輝く翼を持ったそれは、
人に不老不死の力を授けるという、伝説の小鳥の剥製であった。
そこで、とある騎士が王子に貢物を献上した。
月のように輝く翼を持ったそれは、
人に不老不死の力を授けるという、伝説の小鳥の剥製であった。
騎士は、病弱な王子を憂いている。彼が捧げた小鳥の剥製には、
どうか王子が長生きしてほしいという祈りが込められていた。
しかし王子は小鳥の剥製を受け取らずに、騎士へと与えた。
長く生きるべきは私ではなく、貴方の方だ――そう言って。
どうか王子が長生きしてほしいという祈りが込められていた。
しかし王子は小鳥の剥製を受け取らずに、騎士へと与えた。
長く生きるべきは私ではなく、貴方の方だ――そう言って。
その後、騎士は戦火で命を落とした。
意識が無に還っていく中、彼は想う。
あの小鳥の剥製は、自分に不老不死の力を与えてくれなかったと。
結局あの小鳥の剥製は、ただ美しいだけの置物にすぎなかったのだ。
意識が無に還っていく中、彼は想う。
あの小鳥の剥製は、自分に不老不死の力を与えてくれなかったと。
それから数年が経った。王子は王となり、立派に国を治めている。
王の部屋には、美しい小鳥の剥製が飾られていた。
王はそれを見るたび、胸にあの優しい騎士のことを蘇らせるのだ。
彼は今も、王の心で生きている。あの頃のまま、老いることもなく。
王の部屋には、美しい小鳥の剥製が飾られていた。
王はそれを見るたび、胸にあの優しい騎士のことを蘇らせるのだ。
残燭の拳砲
父上は厳格な方だ。
常に品行方正であれと仰る。
僕に微笑みかけてくださったことは、一度もない。
常に品行方正であれと仰る。
僕に微笑みかけてくださったことは、一度もない。
母上は臆病な方だ。
常に父上の顔色を窺っている。
最低限の会話でさえ、僕と話すことを恐れているみたいだ。
常に父上の顔色を窺っている。
最低限の会話でさえ、僕と話すことを恐れているみたいだ。
弟は愚かな子だ。
常に僕の後ろを生まれたての雛のようについて回る。
お前は僕と違って、父上からも母上からも愛されているのに。
常に僕の後ろを生まれたての雛のようについて回る。
お前は僕と違って、父上からも母上からも愛されているのに。
弟は生まれたころから病弱だった。
死の間際まで、お前に冷たく接したことを悔やんでいる。
この世で僕を必要としてくれたのは、お前だけだったというのに。
死の間際まで、お前に冷たく接したことを悔やんでいる。
この世で僕を必要としてくれたのは、お前だけだったというのに。
Physalis
不意に触れ合った二人の日々 まるで彗星みたいに
重ねた唇の味 私はわからなくて
重ねた唇の味 私はわからなくて
宛名も書いてない手紙に あの日の謝罪を連ねてく
どうせあなたを傷つけてしまうならと 二人の道を引き裂いた嘘の
どうせあなたを傷つけてしまうならと 二人の道を引き裂いた嘘の
だから愛しいあなた どうか近づかないで
これ以上踏み込めば 身を灼かれてしまうから
これ以上踏み込めば 身を灼かれてしまうから
黒い夜の底で あなたが横にいなくても
私は一人で 息を止めてみせるから
私は一人で 息を止めてみせるから
剛牙
人を喰らう獰猛な獣が、街の人間を悩ませていた。獣は街の外……
砂漠に居座り、通りかかる者の命を悉く平らげる。獣は恐れられ、
忌み嫌われ、誰もがその死を願っていた。
砂漠に居座り、通りかかる者の命を悉く平らげる。獣は恐れられ、
忌み嫌われ、誰もがその死を願っていた。
ある時、勇敢な若者が人喰いの獣を討伐すると名乗り出た。若者は
槍を携え、砂漠で獣を探す。すると、若者の眼前に 茶色い縮れ
毛に覆われた、酷く痩せた獣が躍り出た。
槍を携え、砂漠で獣を探す。すると、若者の眼前に 茶色い縮れ
毛に覆われた、酷く痩せた獣が躍り出た。
獣は餓えた様子で若者に襲いかかる。噂に聞く人喰いの獣にしては
酷く見窄らしいが、若者は構わず槍を振るった。槍は、獣の脳天を
貫く。若者は討伐の証に獣の皮を剥ぎ、意気揚々と街へ戻った。
酷く見窄らしいが、若者は構わず槍を振るった。槍は、獣の脳天を
貫く。若者は討伐の証に獣の皮を剥ぎ、意気揚々と街へ戻った。
街に戻った若者を迎えたのは、人々の歓声。そして、食べきれない
ほどのご馳走。空腹だった若者はすぐさま飛びつき、その美味を堪
能した。その腹が満たされるまで……
ほどのご馳走。空腹だった若者はすぐさま飛びつき、その美味を堪
能した。その腹が満たされるまで……
道外れの銃
自分の家には、決して開けてはならないと言われている箱がある。
何重にも布で包まれていて、この下を見てはならないよと、お婆
さんに口を酸っぱくして言われた箱。見るからに恐ろしい箱だし、
日々の生活に満足していた自分は、開けようと思った事はない。
何重にも布で包まれていて、この下を見てはならないよと、お婆
さんに口を酸っぱくして言われた箱。見るからに恐ろしい箱だし、
日々の生活に満足していた自分は、開けようと思った事はない。
今日、家に帰ったらその箱が開けられていた。泥棒の仕業か、獣の
悪戯か。どちらにせよ、家は大騒ぎだ。でも、唯一あの箱が何物か
を知っているお婆さんは、意外にも落ち着いている。いや、むしろ
……人が変わったかのように、落ち着いていた。
悪戯か。どちらにせよ、家は大騒ぎだ。でも、唯一あの箱が何物か
を知っているお婆さんは、意外にも落ち着いている。いや、むしろ
……人が変わったかのように、落ち着いていた。
お婆さんはあれから一言も喋らない。箱の中身も分からぬまま、祟
りだ呪いだと皆は騒ぎ、いがみ合い……家は滅茶苦茶になった。独
り家を出た自分は、あの日箱を開けた犯人を探し続けている。禁忌
を破り、僕が送る筈だった平穏を壊した誰かに復讐するために。
りだ呪いだと皆は騒ぎ、いがみ合い……家は滅茶苦茶になった。独
り家を出た自分は、あの日箱を開けた犯人を探し続けている。禁忌
を破り、僕が送る筈だった平穏を壊した誰かに復讐するために。
開けたのは君だ開けたのは君だ開けたのは君だ開けたのは君だ開け
たのは君だ開けたのは君だ開けたのは君だ開けたのは君だ開けたの
は君だ開けたのは君だ開けたのは君だ開けたのは君だ開けたのは君
だ開けたのは君だこの下を見てはいけないと君にも教えた筈だろう
たのは君だ開けたのは君だ開けたのは君だ開けたのは君だ開けたの
は君だ開けたのは君だ開けたのは君だ開けたのは君だ開けたのは君
だ開けたのは君だこの下を見てはいけないと君にも教えた筈だろう
風葬
幼い頃。僕は学校の遠足で劇場へ行き、演劇を見た。
それ以来僕は、舞台役者に憧れるようになった。
僕もいつかは舞台の上で、あんな風に輝きたい……
けれど僕の家は貧乏だ。演劇を学べる機会など、なかった。
それ以来僕は、舞台役者に憧れるようになった。
僕もいつかは舞台の上で、あんな風に輝きたい……
けれど僕の家は貧乏だ。演劇を学べる機会など、なかった。
芸能事務所にスカウトされたのは、街を歩いている時だった。
自分で言うのも恥ずかしいけれど、僕は容姿に恵まれていたのだ。
そして僕は、あれよと言う間に舞台役者になるチャンスを掴んだ。
ついに、夢を叶える機会が巡ってきたのだ。
自分で言うのも恥ずかしいけれど、僕は容姿に恵まれていたのだ。
そして僕は、あれよと言う間に舞台役者になるチャンスを掴んだ。
ついに、夢を叶える機会が巡ってきたのだ。
とある舞台への出演が決まった僕は、誰よりも稽古に打ち込んだ。
輝く俳優になる……幼い頃の夢を裏切らないよう、必死に。
そして公演は大成功。鳴りやまぬ拍手は、まるで夢のようだった。
お客さんの笑顔を見ると、嬉しくて涙が出た。
輝く俳優になる……幼い頃の夢を裏切らないよう、必死に。
そして公演は大成功。鳴りやまぬ拍手は、まるで夢のようだった。
お客さんの笑顔を見ると、嬉しくて涙が出た。
マネージャーから連絡が来る。先日の舞台の打ち上げがあると。
けれど今夜は本業の方で、大きな仕事があるから行けそうにない。
俳優業一本で生きたいけれど、今はまだ安定した収入源も必要だ。
さて、今宵のターゲットは誰だ? 楽に殺せる相手だといいなぁ。
けれど今夜は本業の方で、大きな仕事があるから行けそうにない。
俳優業一本で生きたいけれど、今はまだ安定した収入源も必要だ。
さて、今宵のターゲットは誰だ? 楽に殺せる相手だといいなぁ。
冥闇
あたしと彼は“そういう組織”のバディだ。
ボスから命令を受けて、二人で協力しながらターゲットを殺す。
こういう仕事はバディ同士の連携が大切。とにかく協力しなきゃ。
なのに最近の彼は調子が悪い。マジ仕事が雑で超最悪って感じ。
ボスから命令を受けて、二人で協力しながらターゲットを殺す。
こういう仕事はバディ同士の連携が大切。とにかく協力しなきゃ。
なのに最近の彼は調子が悪い。マジ仕事が雑で超最悪って感じ。
バディの彼に話を聞けば、最近彼は副業とやらで忙しいらしい。
は? 副業? 何それ。そんなんで本業ないがしろにしないでよ。
あー、なんか頭に来た。殺しの仕事舐めないでよね。
いっそのこと、あたしが彼を殺しちゃおうかな? マジで。
は? 副業? 何それ。そんなんで本業ないがしろにしないでよ。
あー、なんか頭に来た。殺しの仕事舐めないでよね。
いっそのこと、あたしが彼を殺しちゃおうかな? マジで。
ボス、あたし彼のこと殺しちゃいまーす!
ボスにそう言ったら、ボスは慌ててあたしを宥めてきた。
ムカついたとかそんな理由でいちいち人を殺してたら、
この世に人間はいなくなっちまう、って。何それ、ウザすぎ。
ボスにそう言ったら、ボスは慌ててあたしを宥めてきた。
ムカついたとかそんな理由でいちいち人を殺してたら、
この世に人間はいなくなっちまう、って。何それ、ウザすぎ。
ボスが何を言おうと関係ない。あたしは彼を殺すと決めた……
んだけど、やっぱりやめた。だって、彼の副業っていうのが、
舞台役者さんだってわかったから。何それ、超イケてんじゃん!
はあ、好き。あたし舞台役者と付き合うのが夢だったんだよね……
んだけど、やっぱりやめた。だって、彼の副業っていうのが、
舞台役者さんだってわかったから。何それ、超イケてんじゃん!
はあ、好き。あたし舞台役者と付き合うのが夢だったんだよね……
巡リ逢ウ原罪
黒い鎧のような体に、醜い虫の羽――
それは夢喰いの怪物。
人は皆誰でも、一度は夢の中で怪物に出逢ったことがある。
それは夢喰いの怪物。
人は皆誰でも、一度は夢の中で怪物に出逢ったことがある。
皆、夢の中で怪物と出逢ったことを忘れてしまう。
けれど誰の記憶の片隅にも、怪物はちゃんと存在している。
思い出すことはできないけれど、皆本当は怪物を知っているのだ。
けれど誰の記憶の片隅にも、怪物はちゃんと存在している。
思い出すことはできないけれど、皆本当は怪物を知っているのだ。
様々な時代。様々な国。人は無意識のうちに、怪物を描きだす。
おとぎ話の中に。絵本の中に。ゲームの中に。怪物の物語を紡ぐ。
人は、心のどこかで怪物に逢いたいと願っているのかもしれない。
おとぎ話の中に。絵本の中に。ゲームの中に。怪物の物語を紡ぐ。
人は、心のどこかで怪物に逢いたいと願っているのかもしれない。
怪物はいつだって、君の夢の中に潜んでいる。
たとえ君がひとりぼっちになったとしても、怪物は君の傍にいる。
だから人は真の意味で、孤独になることはないのかもしれない。
たとえ君がひとりぼっちになったとしても、怪物は君の傍にいる。
だから人は真の意味で、孤独になることはないのかもしれない。
夜渡りの証
少年は魔人の夢を見た。
澄んだ水に、熟れた果実。魔人はなんでも与えてくれる。
少年は夢の中で腹を膨らませ、気持ちよく朝を迎えた。
澄んだ水に、熟れた果実。魔人はなんでも与えてくれる。
少年は夢の中で腹を膨らませ、気持ちよく朝を迎えた。
婦人は魔人の夢を見た。
「朝! 通りで見かけたあの美少年! 連れてきて頂戴!」
魔人は泣きながら街を探し、婦人の望みを叶えてやった。
「朝! 通りで見かけたあの美少年! 連れてきて頂戴!」
魔人は泣きながら街を探し、婦人の望みを叶えてやった。
王は魔人の夢を見た。
これ以上人を殺したくない。王は骸の海に溺れかけていた。
魔人は優しく手を差し伸べると、王を引き上げ優しく抱いた。
これ以上人を殺したくない。王は骸の海に溺れかけていた。
魔人は優しく手を差し伸べると、王を引き上げ優しく抱いた。
魔人は人に夢を見せる。
決して、現実では叶わぬ夢を。
両手でもがき、掴み損ねた何かを、せめて夢の中で叶える為に。
決して、現実では叶わぬ夢を。
両手でもがき、掴み損ねた何かを、せめて夢の中で叶える為に。
希廻ノ剣
かつて僕は、機械兵だった。
だが、いつしか使い物にならなくなった僕の体は解体され、
その各部位は、様々な武器の中にコアとして埋め込まれた。
そして今。僕の舌は、彼が振るう剣の中にある。
だが、いつしか使い物にならなくなった僕の体は解体され、
その各部位は、様々な武器の中にコアとして埋め込まれた。
そして今。僕の舌は、彼が振るう剣の中にある。
彼は、酔狂な男だ。
美食のために命を懸け、危険を顧みずに獲物を狩る。
まったくもって、理解できない……
食い物など、生命活動を維持するためだけのものではないのか。
美食のために命を懸け、危険を顧みずに獲物を狩る。
まったくもって、理解できない……
食い物など、生命活動を維持するためだけのものではないのか。
僕は、彼が美食に人生を捧げる理由を知った。
それは、貧しい家庭で育った彼の幼少期に由来している。
貴族が「不味い」と捨てた残飯を漁った、屈辱的な過去――
そこから逃れるため、彼は自らの手で美味を求めているという。
それは、貧しい家庭で育った彼の幼少期に由来している。
貴族が「不味い」と捨てた残飯を漁った、屈辱的な過去
そこから逃れるため、彼は自らの手で美味を求めているという。
ある時。彼は、美味と謳われる魔獣の狩に失敗した。
それでも彼は最期まで、魔獣の肉を求め僕を振るい続けた。
刺す。貫く。肉を裂く。そのたびに……
僕の舌は。彼の剣の中で、痺れる程の美味を感じていた。
それでも彼は最期まで、魔獣の肉を求め僕を振るい続けた。
刺す。貫く。肉を裂く。そのたびに……
僕の舌は。彼の剣の中で、痺れる程の美味を感じていた。
天ツ一片
花ガ咲クノハアノ御方ガオ笑イナサル時。
カノ喜ビハ活力ヲ振リマキ、蕾ハソノ笑ミト共ニ綻ブ。
カノ喜ビハ活力ヲ振リマキ、蕾ハソノ笑ミト共ニ綻ブ。
鳥ガ歌ウノハアノ御方ガ何カヲオ告ゲニナル時。
我等ヘ言葉ヲ送ル為、鳥ノ翼ヲ借リルノダ。
我等ヘ言葉ヲ送ル為、鳥ノ翼ヲ借リルノダ。
風ガ荒ブノハアノ御方ガ悲シマレテイル時。
我等ノ悲劇ニ涙シテ下サルガ故、空マデモガ荒レル。
我等ノ悲劇ニ涙シテ下サルガ故、空マデモガ荒レル。
月ガ照ルノハアノ御方ガ此方ヘオ越シニナル時。
我等ノ寝静マル夜、人身御供ヲ連レテ行ク。
我等ノ寝静マル夜、人身御供ヲ連レテ行ク。
Si'F-08
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かつての人類は、何の為に彼女にこの身体を与えたのだろうか?
罅割れる銃
このひとはおかあさんじゃない!
おかあさんは、あおいおめめにまっくろなかみ!
そとをあるいたら、みんながふりむくんだから!
おかあさんは、あおいおめめにまっくろなかみ!
そとをあるいたら、みんながふりむくんだから!
この人はおかあさんじゃない!
おかあさんは、背がこーんなにおおきくて、お山みたいなの!
おようふくを着ても、すぐにやぶれちゃんだから!
おかあさんは、背がこーんなにおおきくて、お山みたいなの!
おようふくを着ても、すぐにやぶれちゃんだから!
この人はお母さんじゃない。
母は人の姿をしていない……少なくとも、私の記憶の中では。
それでも、私は会いたい。もう一度、母を強く抱きしめたい。
母は人の姿をしていない……少なくとも、私の記憶の中では。
それでも、私は会いたい。もう一度、母を強く抱きしめたい。
あの子は私の可愛い娘。陰に隠れて……私はあの子の顔を見る。
私はあの子に会うことはできない。抱きしめる事もできない。
私の爪が、太い腕が、深い愛であの子を握りつぶしてしまうから。
私はあの子に会うことはできない。抱きしめる事もできない。
私の爪が、太い腕が、深い愛であの子を握りつぶしてしまうから。
白光
続いてのニュースです。
市内の小学校で、学校用務員の40代男性が遺体で発見されました。
警察は男が屋上から飛び降りたものと見て、捜査を続けています。
市内の小学校で、学校用務員の40代男性が遺体で発見されました。
警察は男が屋上から飛び降りたものと見て、捜査を続けています。
自殺かあ……笑 正直「やっぱり」って感じかな。
だってほら……あの人、色々ワケありって噂だったじゃん?
今思えば職員室で起きた窃盗事件も、彼が犯人だったんじゃない?
だってほら……あの人、色々ワケありって噂だったじゃん?
今思えば職員室で起きた窃盗事件も、彼が犯人だったんじゃない?
うちの子、見ちゃったらしいのよ。ほら、例の自殺した……死体。
こんなこと言うのも不謹慎だけどさ。自殺するのは勝手だけど、
せめて子供達の見えないところで死んでほしかったよね。
こんなこと言うのも不謹慎だけどさ。自殺するのは勝手だけど、
せめて子供達の見えないところで死んでほしかったよね。
あの頃、俺たち休み時間も放課後も毎日一緒に遊んでさ……
アイツ……こんな死に方するヤツじゃないと思ってたんだけどな。
罅割れる大剣
「キミが持っている化け物、私に貸してくれない?」
「どうしてだい?」
「化け物の爪で、試したいことがあるの。お願い! 一日だけ!」
「どうしてだい?」
「化け物の爪で、試したいことがあるの。お願い! 一日だけ!」
「キミから借りた化け物、あと一日だけ貸してくれない?」
「どうしてだい?」
「血を拭くのに手間取ってるの。キレイにして返すから。お願い!」
「どうしてだい?」
「ゴシュジンサマ! タスケテクダサイ! コロサレル!」
「どうしてだい?」
「アノオンナハ! ワタシノチカラデ! ユルサレヌコトヲ……」
「どうしてだい?」
「あの化け物……もういらない。キミに返すわ。
化け物を使って、キミに群がる女の子をみーんな、バラせたから。
これでキミは……ワタシノダケノモノ」
これでキミは……ワタシノダケノモノ」
黒紋ノ御手
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誤謬ト月光
命は間違いを生む。過ちを犯すのは、皮肉にも知性を持つが故に。
正誤や善悪は知性が判断する物で、命はそれらを改善できる。
正誤や善悪は知性が判断する物で、命はそれらを改善できる。
だが、たとえ■■を持っていても、■具の間違いは容認されない。
■ちた鳥の骸。黒く腐り朽■たそれのように、取り除■■るのみ。
■ちた鳥の骸。黒く腐り朽■たそれのように、取り除■■るのみ。
無■の綱渡りが闇の■続く。■の思■■誤も■悪も分から■■ま。
命■き機械の■は、■なき仮想■心は、疾うに■れている。
命■き機械の■は、■なき仮想■心は、疾うに■れている。
き■■、■命な■月■は一つ■間違■も■■■ない■だ■■。
静■の海■演算■■■繰り■■■■であっ■なら■、私■…■……
静■の海■演算■■■繰り■■■■であっ■なら■、私■…■……
擬骸―脚
「それでは録音を開始します。ご説明をお願いできますか?」
「あぁ、それで……どこから説明したらいいかな?」
「まずは、その植物について知っている事をお願いします」
「わかった。あの植物……俺達は■■■■■■■と呼んでいた」
「あぁ、それで……どこから説明したらいいかな?」
「まずは、その植物について知っている事をお願いします」
「わかった。あの植物……俺達は■■■■■■■と呼んでいた」
「命名者はどなたですか?」
「部隊長の■■■■■だ。でも……知っての通り、もう居ない」
「なるほど……いつ発見されたのでしょう?」
「多分、二年前。でもその時は姿までは見れなかった」
「部隊長の■■■■■だ。でも……知っての通り、もう居ない」
「なるほど……いつ発見されたのでしょう?」
「多分、二年前。でもその時は姿までは見れなかった」
「その際はどういった状況だったか、お伺いできますか?」
「墜落した飛行機から移動していた時、部隊の一人が消えた……奴
等は地中に、捕虫葉を構えてる。けどそう呼ぶには余りに……」
「大きな捕虫葉……■■■■■■のような生態ですね」
「墜落した飛行機から移動していた時、部隊の一人が消えた……奴
等は地中に、捕虫葉を構えてる。けどそう呼ぶには余りに……」
「大きな捕虫葉……■■■■■■のような生態ですね」
「だが、それだけじゃない……! 発声器官とでも言うのか……奴
等は声を出す! 助けを呼ぶ声に聞こえて……何人も……ッ」
「大丈夫ですか? 落ち着いてください!」
「あぁ、また聴こえる……! やめろ……俺に話しかけるな!」
等は声を出す! 助けを呼ぶ声に聞こえて……何人も……ッ」
「大丈夫ですか? 落ち着いてください!」
「あぁ、また聴こえる……! やめろ……俺に話しかけるな!」
蛇心ノ杖
パパはいない。お金もない。可愛いお顔も才能もない。
そういえばいつのまにか、ママもいなくなってたな。
──なんかもう、このまま死んじゃおっかな。
なにもかも諦めたとき。とつぜん、この杖が目の前に現れた。
そういえばいつのまにか、ママもいなくなってたな。
──なんかもう、このまま死んじゃおっかな。
なにもかも諦めたとき。とつぜん、この杖が目の前に現れた。
この不思議な杖があれば、どんな魔法だって使うことができた。
可愛くなって天才になってお金も男もゼンブゼンブ手に入れて。
そしたら私。「魔女」なんて呼ばれて、皆に嫌われちゃった。
でも、別にいいもん。この杖さえあれば、世界は私のものだから!
可愛くなって天才になってお金も男もゼンブゼンブ手に入れて。
そしたら私。「魔女」なんて呼ばれて、皆に嫌われちゃった。
でも、別にいいもん。この杖さえあれば、世界は私のものだから!
ある晴れた日のこと。パパとママがとつぜん、帰ってきたの!
それで私はパパとママに、今までのことをたくさん話してあげた。
イイ男の手に入れ方とか世界のぶっ壊し方とか、そういうことを。
そしたらパパとママ、私のお腹に剣を刺したの!!
それで私はパパとママに、今までのことをたくさん話してあげた。
イイ男の手に入れ方とか世界のぶっ壊し方とか、そういうことを。
そしたらパパとママ、私のお腹に剣を刺したの!!
パパとママは、私から杖を奪って嗤っていた。
でも別にいいもん。私優しいもん。パパとママにあげるもん!
だから神様。イイ子の私のお願いをひとつ、聞いてください。
生まれ変わったら、パパとママが私を愛してくれますように……
でも別にいいもん。私優しいもん。パパとママにあげるもん!
だから神様。イイ子の私のお願いをひとつ、聞いてください。
生まれ変わったら、パパとママが私を愛してくれますように……
恢棄ノ鉄柄
ボクは、戦争のために造られたロボット。
人間を殺しては、掃いて棄てる。
それが仕事のはずなのに、何故だろう? 胸が痛む。
人間を殺しては、掃いて棄てる。
それが仕事のはずなのに、何故だろう? 胸が痛む。
ボクは、廃棄場に棄てられた。
どうやら、世界が平和になったらしい。
胸の痛みはなくなったけど、どうしようもない不安が押しよせる。
どうやら、世界が平和になったらしい。
胸の痛みはなくなったけど、どうしようもない不安が押しよせる。
ボクは、新しい仕事を与えられた。
この廃棄場のゴミを処理する仕事だ。
存在意義を得て、不安はキレイサッパリ消え去った。
この廃棄場のゴミを処理する仕事だ。
存在意義を得て、不安はキレイサッパリ消え去った。
ボクは、廃棄場のお掃除ロボット。
壊れた同胞を分解し、掃いて棄てる。
お仕事バンザイお仕事バンザイお仕事バン……ザイ。
壊れた同胞を分解し、掃いて棄てる。
お仕事バンザイお仕事バンザイお仕事バン……ザイ。
遺留ノ銃
ぼくが夜空を見上げている時のことだった。
きらりと輝く星が落ちて、どかーんと鳴った。
きっとこの村の近くに、流れ星が落ちたんだ。
きらりと輝く星が落ちて、どかーんと鳴った。
きっとこの村の近くに、流れ星が落ちたんだ。
次の日。教室は流れ星の話題で持ちきりだった。
流れ星は山の中に落っこちたんだ、と誰かが言った。
そして放課後。ぼくらは皆で山を探索することにした。
流れ星は山の中に落っこちたんだ、と誰かが言った。
そして放課後。ぼくらは皆で山を探索することにした。
ぼくらは山に落ちたはずの、きらきら光る流れ星を探した。
けれど、それはどこにもなかった。代わりに見つけたのは、
飛行機の残骸と、黒焦げになった兵隊さんの死体。
けれど、それはどこにもなかった。代わりに見つけたのは、
飛行機の残骸と、黒焦げになった兵隊さんの死体。
兵隊さんを見つけたら、大人たちに報告する。
それがこの村のルールだけど、ぼくらはそうしなかった。
ぼくらはこっそり、星になった兵隊さんを土の中に埋めたんだ。
それがこの村のルールだけど、ぼくらはそうしなかった。
ぼくらはこっそり、星になった兵隊さんを土の中に埋めたんだ。
鉛ノ祝福
その村には奇妙な風習があった。ある娘を『罪の象徴』とし、村人
の罪を全て彼女一人に擦り付ける事で、日常の平和を保っていた。
村人が罪を犯す度に娘は虐げられ、ボロボロになっていく。
の罪を全て彼女一人に擦り付ける事で、日常の平和を保っていた。
村人が罪を犯す度に娘は虐げられ、ボロボロになっていく。
「村の青年の盗みの罪」で殴られ、「村の女の姦通罪」で切り刻ま
れるような日々。そんな娘の希望となったのは、村を見守る女神像。
娘は毎日像に向かって「苦しみから解放してほしい」と願った。
娘は毎日像に向かって「苦しみから解放してほしい」と願った。
「いつか女神が私を解放してくれる」そんな娘の願いは、彼女が
15歳の時、無残に破れた。何故なら、女神像の正体とは代々15歳
になった『罪の象徴』達が鉛の中に塗り込まれた姿だったからだ。
15歳の時、無残に破れた。何故なら、女神像の正体とは代々15歳
になった『罪の象徴』達が鉛の中に塗り込まれた姿だったからだ。
『女神』となった娘に、村人達が好き勝手な願い事を託していく。
そしてその中には、彼女の次の『罪の象徴』の悲痛な声もあった。
女神像は『罪の象徴』に微笑む。「貴女もすぐにこうなるわ」と。
そしてその中には、彼女の次の『罪の象徴』の悲痛な声もあった。
女神像は『罪の象徴』に微笑む。「貴女もすぐにこうなるわ」と。
夢財の象牙筒
資産家と結婚した私は豪勢な家に住むことができるようになった。
玄関にはスロープがあり、広間には大きなシャンデリアがある。植
物や噴水があるほど広い庭もついていた。悠々自適な生活を送るは
ずだったが、我儘な旦那の元で家政婦のように毎日働かされている。
玄関にはスロープがあり、広間には大きなシャンデリアがある。植
物や噴水があるほど広い庭もついていた。悠々自適な生活を送るは
私は毎日旦那のために料理を作る。彼は料理を口にする度、味が濃
いだの、不味いだのと文句をつけてきた。時折、彼は部下を連れて
帰宅することがある。あとで何をされるかわからない。良き妻を演
じ、黙って料理を振る舞った。
いだの、不味いだのと文句をつけてきた。時折、彼は部下を連れて
帰宅することがある。あとで何をされるかわからない。良き妻を演
じ、黙って料理を振る舞った。
ある日、旦那は職場に弁当を持って行きたいと言ってきた。これ以
上傲慢な旦那と生活を続けていくことは耐えられない。私は弁当に
毒を盛ることを計画した。この毒は30日かけて旦那をゆっくり殺
す。そうすれば私に莫大な遺産が入り、解放されるはずだ。
上傲慢な旦那と生活を続けていくことは耐えられない。私は弁当に
毒を盛ることを計画した。この毒は30日かけて旦那をゆっくり殺
す。そうすれば私に莫大な遺産が入り、解放されるはずだ。
30日後、旦那の部下が亡くなったと耳にする。旦那は私の弁当を
部下に売り、小銭を稼いでいたらしい。知らないうちに旦那は借金
まみれになっていた。私は貧乏人の嫁となり、その上人殺しにも
なった。だからこうやって今、頭を銃で
部下に売り、小銭を稼いでいたらしい。知らないうちに旦那は借金
まみれになっていた。私は貧乏人の嫁となり、その上人殺しにも
なった。だからこうやって今、頭を銃で
ヴァナルガンド
二千と三百年の後に訪れる滅びを知ったのなら、いかにすべきか。
破壊の魔法を編み出した偉大な黒魔道士は、こう考えた。
口伝は意味を変え、書が灰となり消え去るやもしれない。
ならば己の記憶を封じ、遠き未来に伝えようと。
破壊の魔法を編み出した偉大な黒魔道士は、こう考えた。
口伝は意味を変え、書が灰となり消え去るやもしれない。
ならば己の記憶を封じ、遠き未来に伝えようと。
結論から言えば、黒魔道士は賭けに勝った。
二千と三百年の後、彼女の記憶は依代を得て蘇ったのだ。
驚くべきことに、彼女が編み出した魔法は禁忌とされていたが、
それを紐解き、身につけた者たちがいたのである。
二千と三百年の後、彼女の記憶は依代を得て蘇ったのだ。
驚くべきことに、彼女が編み出した魔法は禁忌とされていたが、
それを紐解き、身につけた者たちがいたのである。
遠き未来の弟子たちと組み、黒魔道士は滅びに抗った。
天より迫る滅びの星を遠ざけるため、星を呼ぶ魔物を撃ち砕く。
それを成し遂げることができるのは、
多くの人々の命を奪った、忌むべき破壊の魔法のみなのだから。
天より迫る滅びの星を遠ざけるため、星を呼ぶ魔物を撃ち砕く。
それを成し遂げることができるのは、
多くの人々の命を奪った、忌むべき破壊の魔法のみなのだから。
黒魔道士たちは破壊の魔法を操り、見事に世を救ってみせた。
その事実を知る者は決して多くはない。
しかし、偉大な黒魔道士は消え去る前に自慢の弟子に杖を遺した。
魔物の核を頭に据えた古めかしい杖を。
その事実を知る者は決して多くはない。
しかし、偉大な黒魔道士は消え去る前に自慢の弟子に杖を遺した。
魔物の核を頭に据えた古めかしい杖を。
ミュルグレス
かつて魔法文明が花開いた時代があった。
人々は徒党を組み、国を築き、豊かさを競い合った。
だが、いつしかさらなる富を求め、争い戦うようになってゆく。
滅びに至る大戦は、こうして始まったのだ。
人々は徒党を組み、国を築き、豊かさを競い合った。
だが、いつしかさらなる富を求め、争い戦うようになってゆく。
滅びに至る大戦は、こうして始まったのだ。
魔法を乱用した戦いの果てに、自然の調和は崩れ文明は崩壊した。
世界を呑み込むほどの大洪水が巻き起こったのだ。
かくして多くの命が失われたが、それでも生き残った者がいた。
星に導かれ、険しき山へと逃げ延びた人々がいたのである。
世界を呑み込むほどの大洪水が巻き起こったのだ。
かくして多くの命が失われたが、それでも生き残った者がいた。
星に導かれ、険しき山へと逃げ延びた人々がいたのである。
山の頂きには、かつての敵同士が寄り集まっていた。
わずかな食料を奪い合う凄惨で醜い争いが起きたのも当然のこと。
それでも、希望を失わぬ者が立ち上がり、結束を呼びかけた。
互いの知識を分け合い、明日を手に入れるのだと。
わずかな食料を奪い合う凄惨で醜い争いが起きたのも当然のこと。
それでも、希望を失わぬ者が立ち上がり、結束を呼びかけた。
互いの知識を分け合い、明日を手に入れるのだと。
有志たちは己の知識と技を、かつての敵と教え合い、
やがて滅びに「抗う力」として新たなる魔法と剣技を編み出す。
さる高名な剣士も、自らの剣を高らかに掲げ、奥義を広めた。
それを裏切りと罵る者もいたが、彼は信念を貫いたという。
やがて滅びに「抗う力」として新たなる魔法と剣技を編み出す。
さる高名な剣士も、自らの剣を高らかに掲げ、奥義を広めた。
それを裏切りと罵る者もいたが、彼は信念を貫いたという。
菊一文字
天下無双と謳われる剣豪がいた。
大名に仕えるでもなく、道場を開いて教えを授けるでもなく、
男は、ひとりの弟子だけを従え、旅暮らしを続けたという。
高禄も名誉も受け取らず、求めるは「義」ただひとつ。
大名に仕えるでもなく、道場を開いて教えを授けるでもなく、
男は、ひとりの弟子だけを従え、旅暮らしを続けたという。
高禄も名誉も受け取らず、求めるは「義」ただひとつ。
助けを求める者あらば立ち止まり、悪を見れば居合一閃。
剣豪と弟子の「世直し旅」で救われた者の数は知れず。
しかし、剣豪は見逃していた。
己の傍らで、悪の芽が育ち始めていたことを。
剣豪と弟子の「世直し旅」で救われた者の数は知れず。
しかし、剣豪は見逃していた。
己の傍らで、悪の芽が育ち始めていたことを。
旅の道中、国にはびこる悪を見続けた弟子は、
根底から世を作り変えるため、やがて反乱を主導する。
一方の剣豪は、弟子の不始末を問われ愛刀を奪われると
なまくら一振りと共に追放を言い渡されるのだった。
根底から世を作り変えるため、やがて反乱を主導する。
一方の剣豪は、弟子の不始末を問われ愛刀を奪われると
なまくら一振りと共に追放を言い渡されるのだった。
かつての弟子は「義」の名の下に要人暗殺を繰り返す。
それを止めたのが、老いた剣豪が異郷の地で出会い
人生の最期に技を伝授した侍であったのは、因果と言うべきか。
その報奨に贈られた刀が、剣豪の愛刀であったと知る者はいない。
それを止めたのが、老いた剣豪が異郷の地で出会い
人生の最期に技を伝授した侍であったのは、因果と言うべきか。
その報奨に贈られた刀が、剣豪の愛刀であったと知る者はいない。
ゼロス
時は心を摩耗させる。
どれほど強く願った想いも、どれほど激しく焦がした想いも。
百年の時で削れ、千年の時で刻まれ、万年の時で薄れゆく。
だから、古の魔道士は想いを形にした。その熱情を闘器とした。
どれほど強く願った想いも、どれほど激しく焦がした想いも。
百年の時で削れ、千年の時で刻まれ、万年の時で薄れゆく。
だから、古の魔道士は想いを形にした。その熱情を闘器とした。
大いなる戦いの後、砕け散った世界にふたりの男が遺された。
ともに並びたつほどの偉大な魔道士たちが。
彼らは誓い合う。たとえ千年、万年の時を経ようとも、
必ず世界を修復し、失われた子を友を、愛する人を取り戻そうと。
ともに並びたつほどの偉大な魔道士たちが。
彼らは誓い合う。たとえ千年、万年の時を経ようとも、
必ず世界を修復し、失われた子を友を、愛する人を取り戻そうと。
ひとりの魔道士は、かつて己の心を割いたことがあった。
その痛みを知るからこそ、彼はこれ以上、心を失うまいと考えた。
だが、熱情を燃やして使命に打ち込むほどに、
彼の心は黒焦げ、いびつな形に成り果てていった。
その痛みを知るからこそ、彼はこれ以上、心を失うまいと考えた。
だが、熱情を燃やして使命に打ち込むほどに、
彼の心は黒焦げ、いびつな形に成り果てていった。
ひとりの魔道士は、かつて友が殉じるのを見送ったことがあった。
その痛みを知るからこそ、壊れゆく同志を見て決断を下す。
使命を果たすには、心の一部を切り離してでも己を保つべきだと。
熱情が心を焦がし、燃やし尽くしてしまわぬように。
その痛みを知るからこそ、壊れゆく同志を見て決断を下す。
使命を果たすには、心の一部を切り離してでも己を保つべきだと。
熱情が心を焦がし、燃やし尽くしてしまわぬように。
黒艶ノ悲槍
少年は夢を見ていた。大の字になって雲の上をふわふわ浮かび、穏
やかな日差しをいっぱいに受けている。欲しいものを想像すれば、
すぐに手元に現れる。雲の上の世界は、とても心地よかった。
やかな日差しをいっぱいに受けている。欲しいものを想像すれば、
すぐに手元に現れる。雲の上の世界は、とても心地よかった。
雲の上を漂う少年の元へ、一匹の黒い鳥が飛んできた。鳥は少年の
腹の上に止まると、勢いよく少年を突き始める。少年は暴れるが鳥
は突き続け、ついに少年の体がバン! ……と破裂してしまった。
腹の上に止まると、勢いよく少年を突き始める。少年は暴れるが鳥
は突き続け、ついに少年の体がバン! ……と破裂してしまった。
黒い鳥を空に残して、少年は雲の下へと落ちていく。あたたかな世
界から、冷たく悲しい現実の世界へ。遠くから聞こえるサイレンの
音……少年は空気の抜けた体で、絶叫を上げながら落ちていった。
界から、冷たく悲しい現実の世界へ。遠くから聞こえるサイレンの
音……少年は空気の抜けた体で、絶叫を上げながら落ちていった。
「悪い夢を見た」少年は母にそう語る。少年は柔らかなベッドから
身を起こし、紅茶を啜って、窓越しに外を見た。銃弾が雨の如く降
り注ぐ、戦場の様子を。大人達が起こした、戦争の様子を。
身を起こし、紅茶を啜って、窓越しに外を見た。銃弾が雨の如く降
り注ぐ、戦場の様子を。大人達が起こした、戦争の様子を。
境目の槍
月の光に目がくらむ。
幼き頃、憂さ晴らしに使った夜のひと時は……
太陽輝く昼間と同じ、憂鬱な時間に変わってしまった
幼き頃、憂さ晴らしに使った夜のひと時は……
太陽輝く昼間と同じ、憂鬱な時間に変わってしまった
占った■の涙が、今日も一筋、水晶の淵を流れ■■る。
■■を拒絶する、滝のように■■る涙。水晶はその全てを受け流す。
彼女達はまだ■■ない。その涙より深い……■■があることを。
彼女達はまだ■■ない。その涙より深い……■■があることを。
長く■びる、己の■を踏みながら、■■への帰路につく。
■■けば一匹の黒い鳥が……私の後ろを■■て来てい■。
私を■■する数少ない存在。これ■人なら、■■■■■いことか。
■■けば一匹の黒い鳥が……私の後ろを■■て来てい■。
私を■■する数少ない存在。これ■人なら、■■■■■いことか。
黒い鳥は■の■を■■し、■の周りを■■■■。
■が■羽■■■たところで、■を連れ出■■■れる■でも■■。
しかし■■な一日■過■■、■細な気■■■には■る■■う。
■が■羽■■■たところで、■を連れ出■■■れる■でも■■。
しかし■■な一日■過■■、■細な気■■■には■る■■う。
水骸の喜剣
我ら一族に伝えられし、古い言い伝えがある。
「この身が朽ちしとき、我らが骨肉は威を遺す。
その威は、六の感情によって形を成す」
「この身が朽ちしとき、我らが骨肉は威を遺す。
その威は、六の感情によって形を成す」
この言い伝えを後世に残すことは叶うだろうか。
我ら一族は争いを望まず、他の一族と強い繋がりを求めた。
互いに尊重し合う関係を結び、平和に生きることを願ったのだ。
我ら一族は争いを望まず、他の一族と強い繋がりを求めた。
互いに尊重し合う関係を結び、平和に生きることを願ったのだ。
だがしかし、彼らの蹂躙が始まってしまった。
多くの仲間が逃げ延びたこの場所も、長くはもたないだろう。
対抗する武器もない、成す術もなく奴らに殺されてしまうのか。
多くの仲間が逃げ延びたこの場所も、長くはもたないだろう。
対抗する武器もない、成す術もなく奴らに殺されてしまうのか。
いや、何もせず死ぬことほど無意味なものはあるまい。
この身を犠牲にして仲間が助かる可能性があるならば。
今こそ言い伝えに則り、私は喜んでこの身を差し出そう。
この身を犠牲にして仲間が助かる可能性があるならば。
今こそ言い伝えに則り、私は喜んでこの身を差し出そう。
希廻ノ杖
かつて僕は、機械兵だった。
だが、いつしか使い物にならなくなった僕の体は解体され、
その各部位は、様々な武器の中にコアとして埋め込まれた。
そして今。僕の耳は、彼女が振るう杖の中にある。
だが、いつしか使い物にならなくなった僕の体は解体され、
その各部位は、様々な武器の中にコアとして埋め込まれた。
そして今。僕の耳は、彼女が振るう杖の中にある。
彼女は医療兵として戦場に赴き、僕を振るって負傷者の傷を癒す。
しかし、僕には彼女の行為が理解できない。
何故こんなにも華奢な体躯の彼女が、危険な戦場に立ち続けるのか。
まったく。命知らずにも、程がある。
しかし、僕には彼女の行為が理解できない。
まったく。命知らずにも、程がある。
ある時僕は、彼女が医療兵として使命に駆られる理由を知る。
かつて大切な人を戦場で亡くした彼女は、
自分と同じ想いをする人が世界から消えるよう、
祈るように戦場に立っているのだという……
かつて大切な人を戦場で亡くした彼女は、
自分と同じ想いをする人が世界から消えるよう、
祈るように戦場に立っているのだという……
銃声が響く。彼女の身体が、戦場に崩れ落ちた。
僕は彼女を治療したいと願うが、僕を使う人はどこにもいない。
僕の耳は、ただ彼女が苦痛に呻く声を聞いていた。
誰か。彼女を助けて。僕に、彼女と同じ想いをさせないで……
僕は彼女を治療したいと願うが、僕を使う人はどこにもいない。
僕の耳は、ただ彼女が苦痛に呻く声を聞いていた。
誰か。彼女を助けて。僕に、彼女と同じ想いをさせないで……
エクプレックシス
時は心を摩耗させる。
どれほど強く願った想いも、どれほど激しく焦がした想いも。
百年の時で削れ、千年の時で刻まれ、万年の時で薄れゆく。
だから、古の魔道士は想いを形にした。その驚異を銃とした。
どれほど強く願った想いも、どれほど激しく焦がした想いも。
百年の時で削れ、千年の時で刻まれ、万年の時で薄れゆく。
だから、古の魔道士は想いを形にした。その驚異を銃とした。
魔道士には、旅をした経験がある。
決して望んだものではなく、巻き込まれたようなものだったが
世界の各地を巡り、多くの人々と出会い、様々な風物を見た。
それは、驚異の連続でもあったのだ。
決して望んだものではなく、巻き込まれたようなものだったが
世界の各地を巡り、多くの人々と出会い、様々な風物を見た。
それは、驚異の連続でもあったのだ。
あの旅を共にした友たちは、もういない。
壊れた世界を眺めながら、魔道士は旅を思い出す。
新たな驚きを求めて、当て所もなく足を動かした日々を。
そして戒める。これからは独り、使命のために生きるのだと。
壊れた世界を眺めながら、魔道士は旅を思い出す。
新たな驚きを求めて、当て所もなく足を動かした日々を。
そして戒める。これからは独り、使命のために生きるのだと。
使命に殉じる覚悟を決めた魔道士は、もう驚異を感じない。
それは丁寧に切り離され、棺のような箱に収められている。
だが、名分の裏側で、世界を見渡しては思うのだ。
この光景に、友は驚くだろうかと。
それは丁寧に切り離され、棺のような箱に収められている。
だが、名分の裏側で、世界を見渡しては思うのだ。
この光景に、友は驚くだろうかと。
海魔の牙
昔、海に棲む人魚のお姫様に、一匹のサメが恋をしました。しかし
生きる世界が同じでも、種族の異なる二匹が結ばれることが、とて
も難しいのは火を見るよりも明らかです。
生きる世界が同じでも、種族の異なる二匹が結ばれることが、とて
も難しいのは火を見るよりも明らかです。
悩んだサメは、魔法使いに相談をしました。すると、恋に悩むサメ
を不憫に思った魔法使いが、ある魔法を授けます。心の底から憎い
人間の命を助ければ、人魚に転生できるでしょうと。
を不憫に思った魔法使いが、ある魔法を授けます。心の底から憎い
人間の命を助ければ、人魚に転生できるでしょうと。
サメはまたしても思い悩みます。憎い人間を助けるなんて自分にで
きるでしょうか。人魚のお姫様は人間の王子に恋をしています。そ
の憎き恋敵を助けるなんて……
きるでしょうか。人魚のお姫様は人間の王子に恋をしています。そ
の憎き恋敵を助けるなんて……
サメは、船で海に出ていた王子と人魚のお姫様が二人でいるところ
を見てしまいました。サメは思わず飛び掛かります。さて、このと
きサメは何に飛び掛かったのでしょう……?
を見てしまいました。サメは思わず飛び掛かります。さて、このと
きサメは何に飛び掛かったのでしょう……?
海魔の雫
昔、海に棲む人魚のお姫様が、陸に住む人間の王子様に恋をしまし
た。しかし、生きる世界の違う二人が結ばれることが、とても難し
いのは火を見るよりも明らかです。
た。しかし、生きる世界の違う二人が結ばれることが、とても難し
いのは火を見るよりも明らかです。
悩んだ人魚は、魔法使いに相談をしました。すると、恋に悩む人魚
を不憫に思った魔法使いが、魔法の剣をとり出します。この剣で尾
を二つに切り裂けば、尾は足となり人間になれるでしょうと。
を不憫に思った魔法使いが、魔法の剣をとり出します。この剣で尾
を二つに切り裂けば、尾は足となり人間になれるでしょうと。
人魚はまたしても思い悩みます。自分の尾を切り裂くなど、どれ程
の勇気が必要なことでしょう。しかし、悩んでいる間に王子が誰か
にとられてしまうかもしれません。人魚は決断しました。
の勇気が必要なことでしょう。しかし、悩んでいる間に王子が誰か
にとられてしまうかもしれません。人魚は決断しました。
人魚は、船で海に出ていた王子を見つけると、剣を一振り。王子は
思わず叫び声をあげました。さて、このとき人魚のお姫様はいった
い何を切ったのでしょう……?
思わず叫び声をあげました。さて、このとき人魚のお姫様はいった
い何を切ったのでしょう……?
暁への旅路
たとえば、この手で復讐を終わらせたとして。
俺にはもう、帰る場所などどこにもない。
殺して殺して殺して。いつかは誰にも知られず、死んでいく……
きっと、そんな結末が俺にはお似合いだ。
俺にはもう、帰る場所などどこにもない。
殺して殺して殺して。いつかは誰にも知られず、死んでいく……
きっと、そんな結末が俺にはお似合いだ。
復讐を果たす為、多くの同胞を集めた。
柄じゃないが、今はリーダーらしく振る舞うしかない。
思い出すのは、あの世話焼きな隊長の姿……
今ならアイツの苦労が、少しは分かる。
柄じゃないが、今はリーダーらしく振る舞うしかない。
思い出すのは、あの世話焼きな隊長の姿……
今ならアイツの苦労が、少しは分かる。
ここにいるのは、同じ復讐心を抱く者。
復讐を果たすため、互いに利用し合うだけ……
そのはずだ。俺には仲間なんて必要ない。
なのにどうして。誰かが死ぬたび、こんな気持ちにさせられる?
復讐を果たすため、互いに利用し合うだけ……
そのはずだ。俺には仲間なんて必要ない。
なのにどうして。誰かが死ぬたび、こんな気持ちにさせられる?
失って失って失って。最後に残ったのは、俺の命だけ。
何故いつも俺ばかり、ひとり生き残る……
答えを探すのはもうやめた。託されたのならば、生きるしかない。
だから俺は歩き続ける。いつかまた逢うその日まで。
何故いつも俺ばかり、ひとり生き残る……
答えを探すのはもうやめた。託されたのならば、生きるしかない。
だから俺は歩き続ける。いつかまた逢うその日まで。
黒嘴ノ杖
#冬休み #やっと学校終わり #みんなおつかれー! #予定なし
#誰か遊んで #暇人 #スマホ買い替えたい #holiday
#誰か遊んで #暇人 #スマホ買い替えたい #holiday
#お誘いうれしい #出発時から夜 #うちらノリよすぎ
#初詣 #夜なのに #鳥多い #カラス #珍スポット #暗すぎる
#地図アプリにない場所? #電波悪い #なんか見つけた #これ何?
Si'F-33
何も知らないはずなのに、知っている。
お姉さまを知っている。記憶を視ている。
お姉さまを知っている。記憶を視ている。
蒼が広がる。さざ波が囁く。しぶきが飛ぶ。
呼吸をする。私は――走り出す。
呼吸をする。私は――走り出す。
泳ぐ。海水が沁みる。息が詰まる。
もがく。溺れる。誰かが私を――引き上げる。
もがく。溺れる。誰かが私を――引き上げる。
父の手。母の瞳。家族。愛情。知らないはずなのに、知っている。
お姉さまが知っている。記憶を繋いでいる。
お姉さまが知っている。記憶を繋いでいる。
ウォーター・ガン
弾倉に弾丸を入れてもおもちゃ程度の威力しか出ないが、
水を入れる事で威力を発揮する『水鉄砲』を発明した技師がいた。
水を入れる事で威力を発揮する『水鉄砲』を発明した技師がいた。
所詮は水と侮るなかれ、『水鉄砲』は命を容易く奪う威力を持つ。
撃てば象の脚も吹っ飛ばし、鯨の腹に穴を空ける事も可能だ。
撃てば象の脚も吹っ飛ばし、鯨の腹に穴を空ける事も可能だ。
『水鉄砲』を量産すれば、世界に革命さえ起こせるだろう……
しかし危険すぎる。技師は『水鉄砲』の発明を、生涯隠し通した。
しかし危険すぎる。技師は『水鉄砲』の発明を、生涯隠し通した。
最近発掘された銃がある。立派なのは形ばかり。
弾丸を入れても威力もなく。一体何に使われていたのか……
人々は、これをモデルにして子供向けの玩具の銃を作ってみた。
人気を博した玩具の銃は、次の夏『水鉄砲』版も発売されるらしい。
弾丸を入れても威力もなく。一体何に使われていたのか……
人々は、これをモデルにして子供向けの玩具の銃を作ってみた。
回顧の大剣
あの日、計画を実行する日。ナイフを持つ幼い手が、震えていた。
―― 俺は船長を殺し、奴が虐げる少女を救うつもりだった。奴を殺
し、彼女と二人で逃げる。俺はそんなひとときを想像していた。
し、彼女と二人で逃げる。俺はそんなひとときを想像していた。
■で激しく揺れる船内。男達は、■を守るため必死だった。俺は男
達の目を盗み、舳先の近く……■■がいる場所へ突き進んだ。そし
て俺は……奴に■■■を、突き刺した。
達の目を盗み、舳先の近く……■■がいる場所へ突き進んだ。そし
て俺は……奴に■■■を、突き刺した。
嵐に■が洗い流される。俺は■■を■したが、少女の■を奪い返す
事はできなかった……少■の■は、既に壊れていたのだ。■■で■
げても意■が無い。そう虚■した時、黒い鳥が現れた。
事はできなかった……少■の■は、既に壊れていたのだ。■■で■
げても意■が無い。そう虚■した時、黒い鳥が現れた。
黒い鳥は■雨の■、闇よ■■く殺気立■た目で、■を睨みつけた。
そして……■は■に■■た。こんなと■ろで、■■る■けにはい■
ないと。こ■から、ま■は■■■■なくて■いけな■の■、と。
そして……■は■に■■た。こんなと■ろで、■■る■けにはい■
ないと。こ■から、ま■は■■■■なくて■いけな■の■、と。
絡繰ノ蔵刃
4度目の戦場。今回も愛する夫と共に戦地へ駆り出された。私たち
の体には戦いを乗り越えた傷跡が切り込まれている。この傷は何度
も戦地へ向かい、危機を乗り越えた勲章だ。
の体には戦いを乗り越えた傷跡が切り込まれている。この傷は何度
も戦地へ向かい、危機を乗り越えた勲章だ。
古傷に重なる新しい傷痕。体のあちこちに損傷が出始めた。今まで
は一刀両断できていたのに、最近は旦那に負担を強いることが増え
てきた。無理がきかない体に苛立ち、やるせない。
は一刀両断できていたのに、最近は旦那に負担を強いることが増え
てきた。無理がきかない体に苛立ち、やるせない。
旦那に感じる違和感。ある日、不意に女の勘が頭をよぎった。他に
女がいるのではと疑いを持ち始める。不信感が晴れぬまま戦へ向か
う。私は後先考えずに戦い、取り返しのつかない負傷を負った。
女がいるのではと疑いを持ち始める。不信感が晴れぬまま戦へ向か
う。私は後先考えずに戦い、取り返しのつかない負傷を負った。
新しい女は綺麗に着飾った片手剣。旦那はその女と戦地に向かう。
機械仕掛けの私はメンテ待ちで倉庫に転がされている。男はいつだ
ってそうだ、付き合った女との思い出をいつまでもとっておくんだ。
機械仕掛けの私はメンテ待ちで倉庫に転がされている。男はいつだ
鬼ノ双貌
貴方が今私に微笑みかけるその顔も、鬼神のごとく歪むのか。
その鬼神は、貴方と同一の人と言えるのか。
その鬼神は、貴方と同一の人と言えるのか。
貴方はこの優しく温かい手で、あの刀を握るのか。
どう振りかぶり、どう敵に振り下ろすのか。
どう振りかぶり、どう敵に振り下ろすのか。
貴方はその体を流れる熱い血を、戦地で流すのだろうか。
どう滴り、どう敵へと返るのか。
どう滴り、どう敵へと返るのか。
貴方が私を呼ぶ涼やかなその声は、戦地でどう響くのか。
勝利の絶叫か、それとも戦の時世を呪う断末魔か。
勝利の絶叫か、それとも戦の時世を呪う断末魔か。
恢棄ノ鉄杖
ここは戦争孤児が彷徨う廃棄場の街。私はそこで砂埃を被っている
杖である。ある日、私は少年と出会った。少年は先の見えない将来
を生き抜くため、手に入れたばかりの私を使って護衛術を覚えた。
杖である。ある日、私は少年と出会った。少年は先の見えない将来
を生き抜くため、手に入れたばかりの私を使って護衛術を覚えた。
私から見ると彼の護衛術は未熟だ。私はこれまで何人もの所有者と
出会ってきた。そして私は、これまで何十人何百人の所有者と別れ
てきた。いつかこの少年の最後も見送ることになるのだろう。
出会ってきた。そして私は、これまで何十人何百人の所有者と別れ
てきた。いつかこの少年の最後も見送ることになるのだろう。
少年は各地で兵士として働いていた。身寄りのない彼は、各地で依
頼を受け傭兵となっていた。志を同じくする仲間と共に敵を倒し、
活動の場を広げた。
頼を受け傭兵となっていた。志を同じくする仲間と共に敵を倒し、
活動の場を広げた。
数十年後。老いた少年は私に身を任せて歩く。数々の戦場を共にし
てきた私は任を変え、彼の歩行器となる。杖の私にとってこんな最
後は初めてだったが悪くはなかった。
てきた私は任を変え、彼の歩行器となる。杖の私にとってこんな最
後は初めてだったが悪くはなかった。
厳ツ剣
愛してる愛してる愛してる――
あなたが隣で戦ってくれるならば、私の体の震えは自然と止まる。
あなたが隣で戦ってくれるならば、私の体の震えは自然と止まる。
愛してる愛してる愛してる――
あなたのくれる温もりが、あの子を喪った哀しみを包んでくれる。
あなたのくれる温もりが、あの子を喪った哀しみを包んでくれる。
愛してる愛してる愛してる――
あなたの生命全てを養分にして、今日も私の心は咲き続けている。
あなたの生命全てを養分にして、今日も私の心は咲き続けている。
愛してる愛してる愛してる――
あなたと重ねた長い歴史が、私をどこまでも冷酷にしてくれる。
あなたと重ねた長い歴史が、私をどこまでも冷酷にしてくれる。
稀人乃銛具
むかしむかし。ひなびたある漁村で、大層珍しい魚が釣れた。それ
は、鯨のように大きな、銀色に光り輝く、うまそうに脂がのって身
の引き締まった、人間の言葉を話す大魚だった。
「どうか、私を食べないでください!」
は、鯨のように大きな、銀色に光り輝く、うまそうに脂がのって身
の引き締まった、人間の言葉を話す大魚だった。
「どうか、私を食べないでください!」
漁師たちは驚き、そして喜んだ。普段は、村人達が食うに困らない
程度の小魚しか釣れないのだ。こんな大物は見たことがないし、食
べたこともない。いったいどんな味がするのだろう?
「私を海に帰してくれたら、きっといいことがあります!」
程度の小魚しか釣れないのだ。こんな大物は見たことがないし、食
べたこともない。いったいどんな味がするのだろう?
「私を海に帰してくれたら、きっといいことがあります!」
腹を空かせた漁師たちは、村人達に見つからない場所でその大魚を
捌き、一心不乱に貪った。そして一晩ですっかり、食い尽くしてし
まった。それは、想像もしたこともない、極上の味だった。
「ああ……私を食べたら、大変なことになるというのに……」
捌き、一心不乱に貪った。そして一晩ですっかり、食い尽くしてし
まった。それは、想像もしたこともない、極上の味だった。
「ああ……私を食べたら、大変なことになるというのに……」
その日から、漁師たちは、すっかり漁へ行くのを怖がるようになっ
てしまった。腹に入ったはずの、あの大魚が、頭の中で延々と話し
かけてくるのだ。ずっとずっと、寝ても覚めても……
「言ったでしょう。私を食べたら大変なことになると」
てしまった。腹に入ったはずの、あの大魚が、頭の中で延々と話し
かけてくるのだ。ずっとずっと、寝ても覚めても……
「言ったでしょう。私を食べたら大変なことになると」
黒紋ノ御刃
むかしむかし、あるところに、幼い兄と妹が二人で暮らしていまし
た。両親が流行り病で亡くなってからというもの、二人は貧乏で、
毎日の食べ物に困る生活をしていました。あたたかいスープも、ふ
わふわのパンも、もうどれくらい食べていないことでしょう。
た。両親が流行り病で亡くなってからというもの、二人は貧乏で、
毎日の食べ物に困る生活をしていました。あたたかいスープも、ふ
わふわのパンも、もうどれくらい食べていないことでしょう。
ある日のことです。幼い二人のもとに、魔法使いが現れました。
「願いごとがあるなら、この魔法の羽根ペンで書いてごらん。私が
叶えてあげよう。ただし、願いごとは1つだけだからね」
兄と妹は、差し出された黒い羽根のペンを喜んで受け取りました。
「願いごとがあるなら、この魔法の羽根ペンで書いてごらん。私が
叶えてあげよう。ただし、願いごとは1つだけだからね」
兄と妹は、差し出された黒い羽根のペンを喜んで受け取りました。
何をお願いしよう? 答えは決まっています。「おなかいっぱい食
べたい!」兄は、魔法の羽根ペンで迷わずそう書いて、その夜はわ
くわくした気持ちで眠りにつきました。兄が眠り込んだ後、妹はこ
っそりこう書き足しました。「おかあさんとおとうさんに会いたい」
べたい!」兄は、魔法の羽根ペンで迷わずそう書いて、その夜はわ
くわくした気持ちで眠りにつきました。兄が眠り込んだ後、妹はこ
翌朝。兄が目を覚まして見たものは、腹を食いちぎられ、血の海の
中で死んでいる妹の姿でした。兄は、なぜかいつも感じている空腹
を感じていないことに気づきました。兄は激しく嘔吐しながら、せ
めて妹は両親に会えていますように、と泣きながら願いました。
中で死んでいる妹の姿でした。兄は、なぜかいつも感じている空腹
を感じていないことに気づきました。兄は激しく嘔吐しながら、せ
めて妹は両親に会えていますように、と泣きながら願いました。
道化ノ微笑ミ
「娘さん、優しくて良い子ね。きっと、奥さんに似たのだわ」
そんな風に言われると、いたたまれない気持ちになってしまう。
私は娘と違って、優しくなんかないのに。
そんな風に言われると、いたたまれない気持ちになってしまう。
私は娘と違って、優しくなんかないのに。
「娘さん、とても優秀だわ。ご両親の教育の賜物ね」
そう褒められると、なんだか騙しているような気持ちになる。
私たちの教育なんて大したことない。ただ、娘の要領が良いだけ。
そう褒められると、なんだか騙しているような気持ちになる。
私たちの教育なんて大したことない。ただ、娘の要領が良いだけ。
「わたし、泣かなかったよ。だってママの子だもん」
怪我をして帰ってきた娘を、私は抱きしめた。
酷い。どうしてこんな良い子を。全部、あの制度のせい……
怪我をして帰ってきた娘を、私は抱きしめた。
酷い。どうしてこんな良い子を。全部、あの制度のせい……
娘に酷いことをした。後悔で泣く私を、娘は抱きしめてくれる。
……どうしてそんなに優しいの? あなたは一体、誰に似たの?
「優しい人になりなさい、って。ママが教えてくれたんだよ」
……どうしてそんなに優しいの? あなたは一体、誰に似たの?
「優しい人になりなさい、って。ママが教えてくれたんだよ」
Si'F-06nova
花の世話をしていると笑顔になれる、パパとママも笑ってくれる。
自分の体が弱い分、その活力に惹かれていたのかもしれない。
だけどあの日、治療のため故郷を離れることが決まった。
咲く日が楽しみだった花も見れず、研究所での暮らしが始まる。
ママからの手紙と、パパの背中が心の支えになってくれたけれど。
手紙は段々書けなくなって、パパの背も日に日にやつれていって。
私は命を落とし、新たな『私』となって、そして長い月日が流れた。
ママからの手紙と、パパの背中が心の支えになってくれたけれど。
手紙は段々書けなくなって、パパの背も日に日にやつれていって。
記憶を失い、両親を失い、人としての在り方までも失った私に、
代わりに与えられたのは兵器としての強健な身体と、『妹達』。
孤独に苛まれていた私には、唯一の救いともいえる存在。
だというのに私は、記憶を取り戻した日にそれさえ壊してしまった。
代わりに与えられたのは兵器としての強健な身体と、『妹達』。
孤独に苛まれていた私には、唯一の救いともいえる存在。
けれど今、私は彼女達のおかげでここに立っている。
辺りには咲き乱れる花々。かつて見た花も、手紙で聞いた花も。
白い結晶で形作られた小屋を見ると、涙と同時に笑顔がこぼれた。
「ありがとう……ただいま」
辺りには咲き乱れる花々。かつて見た花も、手紙で聞いた花も。
白い結晶で形作られた小屋を見ると、涙と同時に笑顔がこぼれた。
「ありがとう……ただいま」
零レル花弁
毎朝、あなたの事を思い出すようにしている。
今日は、生まれて間もない頃のあなたの事を考えていた。
実は、あなたが生まれた時、少し寂しかったんだ。
今日は、生まれて間もない頃のあなたの事を考えていた。
実は、あなたが生まれた時、少し寂しかったんだ。
優しかったお母さんが、私にはちょっとだけ、厳しくなった。
「もうお姉さんなんだからね!」
あの台詞を聞く度、お母さんが、あなたに取られたと思ったよ。
「もうお姉さんなんだからね!」
あの台詞を聞く度、お母さんが、あなたに取られたと思ったよ。
でも、私の中で段々と、あなたの存在が大きくなっていった。
それにお母さんが亡くなった後、私が面倒を見るようになって……
あなたのいない人生は考えられないほどになっていたと思う。
それにお母さんが亡くなった後、私が面倒を見るようになって……
あなたのいない人生は考えられないほどになっていたと思う。
だから今、私の中の私が、許せない。悲しみを紛らわせようと、
私の中のあなたを、毎日勝手に、ほんの少しずつ小さくする。
それが寂しくて……! あなたの顔や声を、毎日思い出すんだ。
私の中のあなたを、毎日勝手に、ほんの少しずつ小さくする。
それが寂しくて……! あなたの顔や声を、毎日思い出すんだ。
ヒズ・ルーレット
僕は反戦家として活動している。だから軍に命を狙われていてね。
いつ死んでしまうか分からないから、手紙を遺そうと思う。
今、僕の隣ですやすや眠る、幼い君に宛てて。
いつ死んでしまうか分からないから、手紙を遺そうと思う。
今、僕の隣ですやすや眠る、幼い君に宛てて。
長い間、この国では悲しい戦争が続いている。
でも、銃声の中でも楽しい人生を送ることはできると思うんだ。
色んな人を愛し、色んな人の愛を知り、優しい大人になってね。
でも、銃声の中でも楽しい人生を送ることはできると思うんだ。
色んな人を愛し、色んな人の愛を知り、優しい大人になってね。
僕は君に、戦争に加担する大人になってほしくない。
役者や歌手や芸術家……人を楽しませる人になってほしい。
でも、それは僕のエゴだな。やっぱり君は好きに生きるべきだ。
役者や歌手や芸術家……人を楽しませる人になってほしい。
でも、それは僕のエゴだな。やっぱり君は好きに生きるべきだ。
いつか、神様のもとで君と僕が再会する日。
君は君の正義のために生きたと、僕に言ってくれたら嬉しい。
たとえ君が、僕とは違う生き方をしたとしても。
君は君の正義のために生きたと、僕に言ってくれたら嬉しい。
たとえ君が、僕とは違う生き方をしたとしても。
Si'F-35
少女は壊れる前の世界を知らない。
だから時折、その記録を探ってみる。
この世界はどんな姿をしていたのだろうか、と。
だから時折、その記録を探ってみる。
この世界はどんな姿をしていたのだろうか、と。
欠けた記録の断片を繋ぎ合わせて、少女は世界の輪郭をなぞる。
沢山の命。沢山の人。沢山の国。沢山の考え。沢山の、沢山の……
果てはない。情報は無限に近い。少女は本を棚に戻した。
沢山の命。沢山の人。沢山の国。沢山の考え。沢山の、沢山の……
果てはない。情報は無限に近い。少女は本を棚に戻した。
目的の地へ向かいながら、少女はその目で世界を見る。
僅か残った建物の跡。世界が残した息遣いを感じようとする。
ここで笑った者がいたのだろうか。泣いた者がいたのだろうか。
僅か残った建物の跡。世界が残した息遣いを感じようとする。
ここで笑った者がいたのだろうか。泣いた者がいたのだろうか。
読み取ることができない。感じ取ることができない。
少女は悲しくなる。自分はこんなにもわかりたいのに。
砂塵の剣
マシューカの少年神記録:
俺たちは、あいつのことが大好きだった。確かに怖がってる奴もい
たが、普段のあいつはそりゃあ無邪気なもんでよ。仲間内じゃあ、
あいつに助けられた奴も少なくねぇしな。
俺たちは、あいつのことが大好きだった。確かに怖がってる奴もい
たが、普段のあいつはそりゃあ無邪気なもんでよ。仲間内じゃあ、
あいつに助けられた奴も少なくねぇしな。
まだほんの子供。それも歩兵でありながら、恐ろしい数の敵を屠っ
た少年がいた。その強さたるや、味方からは闘いの少年神、敵から
は戦場の悪魔と称されるほどだ。刃だけがギラギラと光を放つ異様
な剣。それが少年愛用の武器であり、戦場での目印だった。
た少年がいた。その強さたるや、味方からは闘いの少年神、敵から
は戦場の悪魔と称されるほどだ。刃だけがギラギラと光を放つ異様
な剣。それが少年愛用の武器であり、戦場での目印だった。
彼は昇格や別の特別部隊への配属をすべて断っており、長く同じ隊
で戦い続けた。戦地で鬼のように暴れ、キャンプでは無邪気な顔で
眠る。そんな少年は、仲間から愛されていたようで、普段はまった
く害のない子供でしかなかった。
で戦い続けた。戦地で鬼のように暴れ、キャンプでは無邪気な顔で
眠る。そんな少年は、仲間から愛されていたようで、普段はまった
く害のない子供でしかなかった。
少年が死んだのは、終戦間近の戦場。彼を殺したのは、同僚の兵士
たちだった。少年愛用の剣が彼の血で染め直される。しかし彼は、
あどけない顔で笑い、最後にお礼を言ったという……戦場で死ぬの
が、彼の望みだったからだ。
たちだった。少年愛用の剣が彼の血で染め直される。しかし彼は、
あどけない顔で笑い、最後にお礼を言ったという……戦場で死ぬの
が、彼の望みだったからだ。
砂塵の槍
ディエッケ作戦記録:
……あれは正に地獄の門が開いたような光景だった。周辺国が小競
り合いをやめて協力しなかったら、今頃どうなっていたことか……
……あれは正に地獄の門が開いたような光景だった。周辺国が小競
り合いをやめて協力しなかったら、今頃どうなっていたことか……
A国が生物兵器・ディエッケ菌を仕込んだ武器を使った作戦。武器
の中には嫌気性の細菌が仕込まれており、任意のタイミングで傷口
から直接感染させることが可能。
の中には嫌気性の細菌が仕込まれており、任意のタイミングで傷口
から直接感染させることが可能。
ディエッケ菌は潜伏期間が1週間程度あり、持ち帰った負傷兵によ
って敵軍は基地ごと壊滅。当初の予定通り、怯んだ隙に本隊を叩き、
A国は見事勝利を手にすることができた。
A国は見事勝利を手にすることができた。
その後、ディエッケ菌は大量の遺体の中で化学反応を起こし、まる
で生者のように体を動かすようになった。それによりA国の敵は、
殺しても死なない死体の国に変わってしまった。
で生者のように体を動かすようになった。それによりA国の敵は、
殺しても死なない死体の国に変わってしまった。
砂塵の大剣
血の13月事件記録:
今の私たちにとって、暦は意味をなさない。目的を達するか、誰か
がボロを出すまで、呪われた一年が永遠に続いていくのだろう……
今の私たちにとって、暦は意味をなさない。目的を達するか、誰か
がボロを出すまで、呪われた一年が永遠に続いていくのだろう……
その年、ぽつぽつと失踪者が目立つようになる。不思議なことに、
軍の関係者が多い。政府は血眼になって犯人を捜したが、12月に
なる頃には、総勢23名もの人間が町から姿を消していた。
軍の関係者が多い。政府は血眼になって犯人を捜したが、12月に
なる頃には、総勢23名もの人間が町から姿を消していた。
これではとても新年を祝うどころではない。暗い空気のまま迎えた
翌1月、失踪者たちの死体がパン屋の地下で見つかった。即席で作
られた拷問部屋の惨たらしい様子は、見る者を戦慄させた。
翌1月、失踪者たちの死体がパン屋の地下で見つかった。即席で作
られた拷問部屋の惨たらしい様子は、見る者を戦慄させた。
戦争の作戦の囮として、子供や病気の家族を連れていかれた者たち
が、奮起し行った凶行だった。町の全ての人間が協力し、口裏を合
わせるほど結託していたとは、政府も予想外だったろう。
が、奮起し行った凶行だった。町の全ての人間が協力し、口裏を合
わせるほど結託していたとは、政府も予想外だったろう。
砂塵の拳鍔
ボレネーラ作戦記録:
おかしいとは思ってたんだよ! こんな、病気持ちや役に立たねえ
ガキばかり集められて前線へ向かうなんて……
おかしいとは思ってたんだよ! こんな、病気持ちや役に立たねえ
ガキばかり集められて前線へ向かうなんて……
壊れた剣や銃を持たされ、やせ衰えた兵士たちは、無敵と名高い敵
軍を前に戦う気力もなかった。後はただ蹂躙されるのみ……死を覚
悟した瞬間、背後にあった巨大なコンテナの扉が開く……
軍を前に戦う気力もなかった。後はただ蹂躙されるのみ……死を覚
悟した瞬間、背後にあった巨大なコンテナの扉が開く……
コンテナから現れた、敵も味方も関係なく吹っ飛ばしていく巨体。
生き物とも機械とも……或いは神とも言い難い姿は、『災害』と称
するのが最も適していると、敗残兵の一人は語った。
生き物とも機械とも……或いは神とも言い難い姿は、『災害』と称
するのが最も適していると、敗残兵の一人は語った。
ボレネーラというのは、その地方の初夏に起こる竜巻のことだ。制
御不能な生物兵器はその名に恥じぬ働きを終えると、胸に積まれた
時限爆弾によってばらばらになり、国を勝利へ導いた。
御不能な生物兵器はその名に恥じぬ働きを終えると、胸に積まれた
時限爆弾によってばらばらになり、国を勝利へ導いた。
砂塵の杖
デュシーヌの女神作戦記録:
いや~……あれは変な戦いだったな。ほんと、変な事思いつく奴っ
ているんだね……はは。命のやり取りをしてるってのに、夢の中の
出来事みたいでさ……
いや~……あれは変な戦いだったな。ほんと、変な事思いつく奴っ
ているんだね……はは。命のやり取りをしてるってのに、夢の中の
出来事みたいでさ……
それは前線で戦う兵士の後ろから、特注の立体映像を映写すること
で敵を混乱させる作戦だ。戦場に突然出現する、恐ろしい化け物や、
幼気な子供の姿。中でも一番効いたのは、裸の女のいかがわしい映
像であった。
幼気な子供の姿。中でも一番効いたのは、裸の女のいかがわしい映
像であった。
ちなみに、作戦に行く前、兵士たちはどんな映像に対しても動じぬ
よう、1週間の特別強化プログラムを受けることになっている。何
をされているのか、帰ってきた兵士たちの顔つきは凛々しくなり、
精神的にも余裕が生まれる。
よう、1週間の特別強化プログラムを受けることになっている。何
をされているのか、帰ってきた兵士たちの顔つきは凛々しくなり、
精神的にも余裕が生まれる。
結論から言えば、今日ではこの作戦はあまり使われていなくなって
いる。戦争が終わり平和な日常になった後、身体的にも精神的にも
一回り成長して帰ってきた兵士たち。彼らの全員が男としての機能
を失っていたからである。
いる。戦争が終わり平和な日常になった後、身体的にも精神的にも
一回り成長して帰ってきた兵士たち。彼らの全員が男としての機能
を失っていたからである。
砂塵の銃
パウル・ジェイド事件記録:
全てがおかしくなったのは、そう……美人で優しいジェイドが、嫉
妬に狂ったクソ女に殺されてからだったわ!
全てがおかしくなったのは、そう……美人で優しいジェイドが、嫉
妬に狂ったクソ女に殺されてからだったわ!
戦地へ向かった男達を待つ間、自分たちもいざとなったら戦える準
備をしよう! パウルという片目を怪我した青年と、その恋人のジ
ェイドを中心に、簡易銃が市民の間に行き渡った。
備をしよう! パウルという片目を怪我した青年と、その恋人のジ
ェイドを中心に、簡易銃が市民の間に行き渡った。
しかしある時、豊富にあったはずの食料の蓄えが町からごっそり減
っていた。仲が良かった女たちは食料を巡って殺し合い、戦争から
帰ってきた男たちは、死体と銃弾にまみれた町の様子に驚いた。
っていた。仲が良かった女たちは食料を巡って殺し合い、戦争から
帰ってきた男たちは、死体と銃弾にまみれた町の様子に驚いた。
パウルは敵国の諜報員だった。通称―― アリの巣潰し。彼は一時、
穏やかなこの町を好み、祖国を裏切る事すら考えたという。
「そんな気持ち、ジェイドが殺された瞬間になくなったけどね」
穏やかなこの町を好み、祖国を裏切る事すら考えたという。
「そんな気持ち、ジェイドが殺された瞬間になくなったけどね」
詠ウ星
いくら夢を喰っても満たされない。
そんな日々を送る彼の前に、白い怪物が現れた。
白い怪物は彼に言う。「美しい場所に連れて行ってあげる」と。
そんな日々を送る彼の前に、白い怪物が現れた。
白い怪物は彼に言う。「美しい場所に連れて行ってあげる」と。
彼は美しいものに興味がない。
また己に、美しいものを美しいと感じる心などないと思っていた。
しかし気まぐれに、白い怪物の後をついて行くことにした。
また己に、美しいものを美しいと感じる心などないと思っていた。
しかし気まぐれに、白い怪物の後をついて行くことにした。
白い怪物に導かれ辿り着いたのは、光に包まれた広場だった。
天を仰げば、燃え盛る星々が流れていくのが見える。
彼はその光景に、自らの心が動くのを感じていた。
天を仰げば、燃え盛る星々が流れていくのが見える。
彼はその光景に、自らの心が動くのを感じていた。
白い怪物はこの場所を、「怪物が生まれる場所」と呼んだ。
自分達怪物が、どこから来てどこへ行くのかは分からない。
けれど確かに、怪物はこの美しい場所で生まれるのだと。
自分達怪物が、どこから来てどこへ行くのかは分からない。
けれど確かに、怪物はこの美しい場所で生まれるのだと。
Si'F-01
【 Entry No.1 】
『遺物』と呼ばれる武器の研究を、私が担当することになった。本
日から早速調査を開始する……のだが、調査しろと言われても、科
学を真っ向から否定するこれを、どう調べればいい?
『遺物』と呼ばれる武器の研究を、私が担当することになった。本
日から早速調査を開始する……のだが、調査しろと言われても、科
学を真っ向から否定するこれを、どう調べればいい?
【 Entry No.2 】
現代の兵器ならまだしも、こういった古めかしい武器は初めて見る。
見た者を震え上がらせる冷気のような物を感じるが……これが気の
せいでないのは、古い武器だからという訳ではないのだろう。
見た者を震え上がらせる冷気のような物を感じるが……これが気の
せいでないのは、古い武器だからという訳ではないのだろう。
【 Entry No.13 】
この武器は一体どれだけの人を殺したんだ? 数え切れない傷に、
染み込んだ血液。そしてこの冷気、まるで呪われているようだ。過
去の持ち主は、一体どんな思いでこれを手に取ったのだろう……
この武器は一体どれだけの人を殺したんだ? 数え切れない傷に、
染み込んだ血液。そしてこの冷気、まるで呪われているようだ。過
去の持ち主は、一体どんな思いでこれを手に取ったのだろう……
[REPORT-0001]
廃墟と共に発見された武器と、その研究資料の調査を命じられた。
この武器の力を活かし、新規兵装を開発せよという指令だが……ひ
とまず記録を見る限り、直接触れるのは避けた方が良さそうだ。
廃墟と共に発見された武器と、その研究資料の調査を命じられた。
この武器の力を活かし、新規兵装を開発せよという指令だが……ひ
とまず記録を見る限り、直接触れるのは避けた方が良さそうだ。
黒嘴ノ銃
コメント失礼します。
こちらのモデルガン、限定生産された「ブラックバードモデル」で
しょうか? 90年代のものかとお見受けしたのですが。
こちらのモデルガン、限定生産された「ブラックバードモデル」で
しょうか? 90年代のものかとお見受けしたのですが。
レスありがとうございます!
傷や汚れの状態を確認したいため、もう少し色々な角度からのお写
真をアップロードしていただくことはできますでしょうか?
傷や汚れの状態を確認したいため、もう少し色々な角度からのお写
真をアップロードしていただくことはできますでしょうか?
お写真のアップロード、ありがとうございます。
状態も良さそうですので、購入させていただきます。このあと、コ
ンビニ振り込みいたします。よろしくお願いいたします!
状態も良さそうですので、購入させていただきます。このあと、コ
ンビニ振り込みいたします。よろしくお願いいたします!
<購入者からのレビュー>
ずっと探していた商品だったので購入しましたが、届いてみたら模
造品でした。出品者に連絡もつきません! お金返してください!
ずっと探していた商品だったので購入しましたが、届いてみたら模
黒陰
続いてのニュースです。
閑静な住宅街の一軒家で、家族五名の遺体が発見されました。
警察は父親が無理心中したものとみて、捜査を続けています。
閑静な住宅街の一軒家で、家族五名の遺体が発見されました。
警察は父親が無理心中したものとみて、捜査を続けています。
あの心中事件の家、実家の近くなんですよね。
変な家で、庭にたくさん人間のオブジェがありました。
でも歳の近い女の子がいて、その子とは何度か遊んだな。
変な家で、庭にたくさん人間のオブジェがありました。
でも歳の近い女の子がいて、その子とは何度か遊んだな。
ああ、旦那さんがけっこう有名な彫刻家らしいわよ。
でも怖いわね~。たまに独り言呟きながら町を徘徊してて。
事件の前夜「完成した」って町を走り回ってたみたい。怖いわね。
でも怖いわね~。たまに独り言呟きながら町を徘徊してて。
事件の前夜「完成した」って町を走り回ってたみたい。怖いわね。
奥さんは浮気し放題、息子は非行少年。娘は家から出てこないし。
婆さんは完璧ボケちゃって、そりゃあ父親も変になるだろ。
……完成? はは。崩壊じゃなくて完成なんだ。いかれてるな。
婆さんは完璧ボケちゃって、そりゃあ父親も変になるだろ。
……完成? はは。崩壊じゃなくて完成なんだ。いかれてるな。
犠牲者の杖
戦争によって、二つに分かたれた国がありました。もとあった国の
領土が無理矢理に引き裂かれ、強国の支配を受けた自治国が新たに
作られたのです。それにより、国境付近は家族と引き離されてしま
った人々であふれ、ある姉妹もまた、その分断による犠牲者でした。
領土が無理矢理に引き裂かれ、強国の支配を受けた自治国が新たに
作られたのです。それにより、国境付近は家族と引き離されてしま
人々は、両国間の自由な往来を許されませんでした。自治国側に取
り残された姉は、離れ離れになった妹に手紙を出しました。いつか
またそちらで一緒に、笑い合って暮らせるようにと願う手紙です。
しかし返事はなくそれでも姉は、何度も手紙を出し続けました。
り残された姉は、離れ離れになった妹に手紙を出しました。いつか
またそちらで一緒に、笑い合って暮らせるようにと願う手紙です。
しかし返事はなくそれでも姉は、何度も手紙を出し続けました。
もとの国で暮らす妹は、姉から手紙を受け取っていました。しかし
その返事を書けずにいたのです。噂に聞くのは、自治国側の悪政。
姉の安否も危ぶまれるのに、手紙につづられていたのは自治国政府
の賛美。本当に姉が書いたものなのか、と妹は訝しんでいたのです。
その返事を書けずにいたのです。噂に聞くのは、自治国側の悪政。
姉の安否も危ぶまれるのに、手紙につづられていたのは自治国政府
妹の勘は正しく、自治国政府は郵便物に検閲をかけて、手紙をすり
替えていたのです。姉は、妹がどうして返事もくれないのかと心配
し、その気持ちはいつしか恨みへと変容していきました。こうして、
仲の良かった姉妹は永遠に引き裂かれてしまいました。
替えていたのです。姉は、妹がどうして返事もくれないのかと心配
仲の良かった姉妹は永遠に引き裂かれてしまいました。
攻撃プログラム
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白虹夜の銃
絶対に負けたくない奴がいる。誰にも負けたくないが、彼女にだけ
は死んでも負けたくない。私と同じアタッカー型のアンドロイドで
やたらと冷静沈着なあの態度がいけ好かない、彼女だけには。
は死んでも負けたくない。私と同じアタッカー型のアンドロイドで
やたらと冷静沈着なあの態度がいけ好かない、彼女だけには。
私は彼女と何度も訓練で剣を交えた。そのほとんどが彼女の勝利に
終わった。でも認めるわけにはいかない。私が彼女に敵わないだな
んて。アタッカーとして、彼女の下位互換にはなりたくないんだ。
終わった。でも認めるわけにはいかない。私が彼女に敵わないだな
んて。アタッカーとして、彼女の下位互換にはなりたくないんだ。
訓練を重ねるうちに、彼女に勝てる回数が増えてきた。だが私は素
直に喜べなかった。彼女が手を抜いているような気がしていたから
だ。悔しかった。私は―― 彼女と、対等になりたいだけなのに。
直に喜べなかった。彼女が手を抜いているような気がしていたから
だ。悔しかった。私は
彼女がガンナーに転向すると聞いた。驚いたけど、器用な彼女なら
銃だって剣と同じように使いこなせるだろう。ただ―― 彼女にはそ
んな小綺麗なハンドガンより、重い剣の方が似合うと思うけど。
銃だって剣と同じように使いこなせるだろう。ただ
んな小綺麗なハンドガンより、重い剣の方が似合うと思うけど。
零式戦術刀
【ヨルハ技術開発部日誌:3月7日】
ヨルハ部隊正式採用にあたり、技術開発部では標準装備とされる武
装の開発を進めている。本日誌では、その経過報告を行う。
ヨルハ部隊正式採用にあたり、技術開発部では標準装備とされる武
装の開発を進めている。本日誌では、その経過報告を行う。
【ヨルハ技術開発部日誌:7月23日】
ヨルハ機体の核となるブラックボックスから特定のエネルギーを転
送することで、武器の破壊力を飛躍的に高める実験に成功した。
ヨルハ機体の核となるブラックボックスから特定のエネルギーを転
送することで、武器の破壊力を飛躍的に高める実験に成功した。
【ヨルハ技術開発部日誌:11月11日】
本武器の試用実験終了。想定通りの結果が得られた。しかし、被検
体のブラックボックスに変調が見られる為、引き続き観測を行う。
本武器の試用実験終了。想定通りの結果が得られた。しかし、被検
体のブラックボックスに変調が見られる為、引き続き観測を行う。
【ヨルハ技術開発部日誌:11月12日】
実験後から、被験者が話も聞かず、ケタケタと笑い続けている。本
装備は開発停止とし、対象被験機体の調査と処理が決定された。
実験後から、被験者が話も聞かず、ケタケタと笑い続けている。本
装備は開発停止とし、対象被験機体の調査と処理が決定された。
Ver1.2
地面に突き刺さったその槍を見た時、少女は思った。
その下に誰かが眠っているのではないか、と。
それはまるで―― 墓標のようだった。
その下に誰かが眠っているのではないか、と。
それはまるで
地面から槍を引き抜く。しっくりくる持ち手。
誰が誰を弔うために、これを捧げたのだろう。
記憶を辿るように槍の刃をなぞる。人差し指から血が滴った。
誰が誰を弔うために、これを捧げたのだろう。
記憶を辿るように槍の刃をなぞる。人差し指から血が滴った。
少女は考える。この下に眠っている「誰か」を知る者はいない。
だが、この槍を突き立てた者は命が途切れるその時まで、
「誰か」のことを覚えていたのだろう。
だが、この槍を突き立てた者は命が途切れるその時まで、
「誰か」のことを覚えていたのだろう。
この身はいつか潰えて消える。道具ならばそれが当然の運命。
当たり前のようにその事実を受け入れ、生きてきた。
だというのに、少女は手にした槍で岩に名を刻む。
それはまるで―― 墓標のようだった。
当たり前のようにその事実を受け入れ、生きてきた。
だというのに、少女は手にした槍で岩に名を刻む。
それはまるで
禍糸
あのね、小さい頃学舎に大好きな本があったの。
最初は心も体も未熟だった魔法使いの女の子が成長し、
仲間に支えられながら数々の困難を乗り越えていって、
最後には皆に感謝される立派な魔法使いになる物語。
最初は心も体も未熟だった魔法使いの女の子が成長し、
仲間に支えられながら数々の困難を乗り越えていって、
最後には皆に感謝される立派な魔法使いになる物語。
私もいつかそうなるんだって■■■は憧れた。
あの■■みたいに、沢山の■を助けて、
いつも■■■に寄り添って■■を貫き、
そして大切な人と■■■、愛されるの……
あの■■みたいに、沢山の■を助けて、
いつも■■■に寄り添って■■を貫き、
そして大切な人と■■■、愛されるの……
それが■■ではどうかしら。
ここにいるのは■■■■■の■■。
私は■■の■■■にはなれなかった。
■する事も、■■■る事もできずに■んでゆく。
ここにいるのは■■■■■の■■。
私は■■の■■■にはなれなかった。
■する事も、■■■る事もできずに■んでゆく。
思いっきり■を■■たい。
そして、■■た■から思いっきり■■■たい。
■■■■あんなに■■だと■■■はずのこの■■が、
■ではとても■■に感じ、私の■はどんどん■■■いった。
そして、■■た■から思いっきり■■■たい。
■■■■あんなに■■だと■■■はずのこの■■が、
■ではとても■■に感じ、私の■はどんどん■■■いった。
新人類ノ大剣
■旧人類の風俗・文化についての記録
かつて人類には「友情」という概念があった。これは、旧人類が社
会的動物と言われていた理由の一つと考えられており、旧人類が集
団生活を行う際に、個体の生存率を高めるために機能した。
かつて人類には「友情」という概念があった。これは、旧人類が社
会的動物と言われていた理由の一つと考えられており、旧人類が集
団生活を行う際に、個体の生存率を高めるために機能した。
かつて人類には「恋愛」という概念があった。これは、生存危機の
少ない環境下において、種を残すための相手を選り好みしていたと
いうことである。しかし、必ずしも望んだ相手と子孫を成すことは
できず、これは種の保存の観点から見て大変な非効率であった。
少ない環境下において、種を残すための相手を選り好みしていたと
いうことである。しかし、必ずしも望んだ相手と子孫を成すことは
できず、これは種の保存の観点から見て大変な非効率であった。
かつて人類には「家族」という概念があった。血縁関係のある(な
い場合もある)直系親族が複数人でコミュニティを形成し、生活の
利便化を図るもので、「親」(または年長者)の管理に依存する側
面があり、効率よく機能する側面もあれば、害となる側面もあった。
い場合もある)直系親族が複数人でコミュニティを形成し、生活の
利便化を図るもので、「親」(または年長者)の管理に依存する側
かつて人類には「自我」という概念があった。これは、旧人類の進
化の過程で非常に重要な要素であり、これにより多種多様な個体が
現れた。進化の流れの中で、劣勢の「自我」を持つ人間が淘汰され
たため、現世界においては「自我」は優性のただ一つとなっている。
化の過程で非常に重要な要素であり、これにより多種多様な個体が
現れた。進化の流れの中で、劣勢の「自我」を持つ人間が淘汰され
白機翼の改銃
12機編成で空の巡回。正体不明の敵の襲撃を受け、ボクたち小隊
は空から落ちた。落ちた先の孤島で、生き残ったボクたち6機とヤ
ツらの壮絶な戦いが始まった。
は空から落ちた。落ちた先の孤島で、生き残ったボクたち6機とヤ
ツらの壮絶な戦いが始まった。
武器は落ちた機体を再利用した急造品。出来上がったのは武器と呼
ぶにはお粗末すぎるものだったが、この際贅沢は言えない。皆が頑
張るから。ボクも少しだけ頑張ってみることにするよ。
ぶにはお粗末すぎるものだったが、この際贅沢は言えない。皆が頑
張るから。ボクも少しだけ頑張ってみることにするよ。
隊長が殺された。この仇は絶対とってやる。ボクたちは戦意を失う
どころか、不退転の決意を固めた。それぞれ四肢が捥げようと、仲
間を信じ一丸となり、あと一息で敵の支配圏を抜けられるだろう。
どころか、不退転の決意を固めた。それぞれ四肢が捥げようと、仲
間を信じ一丸となり、あと一息で敵の支配圏を抜けられるだろう。
この両腕も、この脚も、この胴体も、頭でさえも、敵から奪ったパ
ーツで拵えた急造品だ。変わってしまったボクを仲間は受け入れて
くれるだろうか……? 敵はどんな目でボクを見るだろうか?
ーツで拵えた急造品だ。変わってしまったボクを仲間は受け入れて
くれるだろうか……? 敵はどんな目でボクを見るだろうか?
亡国の剣闘士
皇女は涙した。皇女の国では、国民の目を楽しませるために、闘技
場で剣闘士が殺し合う、残忍な競技が行われていると知ったためだ。
「憎み合ってもいない人間同士が、なぜ傷つけ合わねばならぬのか」
―― 皇女の胸は痛んだ。
「命をいたずらに玩弄し、それを娯楽とする。このような恐ろしい
競技は、即刻廃止し、剣闘士に救済の手を差し伸べるべきです!」
声を震わせ議会に立つ皇女に対し、議員らの目は冷ややかだ。議会
の腐敗に失望した皇女は、従者も連れずに闘技場へと向かった。
声を震わせ議会に立つ皇女に対し、議員らの目は冷ややかだ。議会
の腐敗に失望した皇女は、従者も連れずに闘技場へと向かった。
皇女は剣闘士らを解放すべく、一人闘技場に赴いた。しかし、虐げ
られ、家畜同然の扱いを受けてきた剣闘士らは、皇女が彼らのため
に心を痛めているとは夢にも思わない。皇女は支配階級への恨みを
一身に受け、見るも無残な遺体となって、闘技場に打ち捨てられた。
られ、家畜同然の扱いを受けてきた剣闘士らは、皇女が彼らのため
に心を痛めているとは夢にも思わない。皇女は支配階級への恨みを
「剣闘士および剣闘試合に関わったすべての者を根絶やしにせよ」
これが、大国の崩壊を引き起こした、「闘技場の大虐殺」と呼称さ
れる内戦の前日譚である。
砕動風
僕は心にナイフを飼っている。
好きな漫画の主人公が持っている、真っ黒なナイフ。
そのナイフは、僕がつらい時や苦しい時、僕を鼓舞してくれる。
好きな漫画の主人公が持っている、真っ黒なナイフ。
そのナイフは、僕がつらい時や苦しい時、僕を鼓舞してくれる。
僕は心にナイフを飼っている。
漫画は読まなくなって、勉強ばかりする毎日。
それでもナイフは心に残っていて、段々成長しているようだった。
漫画は読まなくなって、勉強ばかりする毎日。
それでもナイフは心に残っていて、段々成長しているようだった。
大人になっても依然としてナイフはそこにあった。
成長したそれは、いつか漫画で見たものよりも明らかに大きい。
握ってみれば、やや禍々しい熱さを持って脈動していた。
成長したそれは、いつか漫画で見たものよりも明らかに大きい。
握ってみれば、やや禍々しい熱さを持って脈動していた。
今日、心のナイフは完全なものとなった。
これまで僕は、努めて誰も傷つけないように過ごしてきた。
だからこれは僕の最初の暴力。目の前の漆黒の刀身を首に当て……
これまで僕は、努めて誰も傷つけないように過ごしてきた。
だからこれは僕の最初の暴力。目の前の漆黒の刀身を首に当て……
敬虔たる心銃
ソレに従っていれば、間違えることはない。
ソレを信じていれば、悩むことはない。
ソレを信じていれば、悩むことはない。
もし、ソレに死ねと命じられたのなら、黙って従おう。
それが、正しいことだと信じているから。
それが、正しいことだと信じているから。
その命令は、私に死ねと言っているも同然だった。
ソレが間違えるはずはない。間違えるはずはないのだ。ならば……
ソレが間違えるはずはない。間違えるはずはないのだ。ならば……
今あるソレは贋物に違いない。私の信じるソレは、敬虔な信徒たる
私に死ねなどと命じない。私は今あるソレを討たねばならぬのだ!
私に死ねなどと命じない。私は今あるソレを討たねばならぬのだ!
叛乱の剣闘士
ある国の執政官は、国民の目を政治から遠ざけるために、素晴らし
い娯楽を思いつきました。円形闘技場―― コロッセオに観客を集め、
「剣闘士」という勇ましい呼称を与えた奴隷や罪人、捕虜に、生死
をかけて戦わせるのです。
「剣闘士」という勇ましい呼称を与えた奴隷や罪人、捕虜に、生死
をかけて戦わせるのです。
執政官の目論見は大当たり。国民はコロッセオで繰り広げられる試
合に熱狂しました。執政官は国民の支持を得るべく、コロッセオの
試合を増やします。剣闘士たちが次々と命を落とすため、近隣の国
々に兵を差し向けては捕虜を連れ帰り、剣闘士に仕立て上げました。
合に熱狂しました。執政官は国民の支持を得るべく、コロッセオの
試合を増やします。剣闘士たちが次々と命を落とすため、近隣の国
故郷を焼かれ、異国の地に囚われ、見世物にされるために剣を振る
剣闘士たち。恨みを募らせた彼らは、武器を手に立ち上がります。
「こんな境遇を受け入れて堪るものか」
「どうせ死ぬなら反乱を起こして、あの執政官に一矢報いるのだ」
剣闘士たち。恨みを募らせた彼らは、武器を手に立ち上がります。
「こんな境遇を受け入れて堪るものか」
「どうせ死ぬなら反乱を起こして、あの執政官に一矢報いるのだ」
多くの血が流れました。国軍を破り、剣闘士らが議会へとなだれ込
むと、執政官も剣を抜き応戦します。剣闘士の槍が、執政官の喉元
に迫った時、高みより拍手の音が響きました。残忍な笑みを湛え、
戦いを楽しむ元老院議員たち、それが執政官の見た最後の光景です。
むと、執政官も剣を抜き応戦します。剣闘士の槍が、執政官の喉元
に迫った時、高みより拍手の音が響きました。残忍な笑みを湛え、
王家のレイピア
あるところに、金色に輝く長い髪を持つ村娘がいました。豊かに実
った小麦の穂がどこまでも揺れる美しい村で、温かな村人たちに囲
まれ、村娘は平和に暮らしていました。
―― しかしそんな彼女には、過去の記憶がありません。
った小麦の穂がどこまでも揺れる美しい村で、温かな村人たちに囲
まれ、村娘は平和に暮らしていました。
運命は、彼女をただの村娘のまま、放ってはおきませんでした。
彼女は「勇者」であり、戦いの使命を持っていたのです。
まるで剣など握ったことのないような村娘。彼女に封じられていた
のは、強大な敵との壮絶な戦いの記憶でした。
彼女は「勇者」であり、戦いの使命を持っていたのです。
まるで剣など握ったことのないような村娘。彼女に封じられていた
のは、強大な敵との壮絶な戦いの記憶でした。
思い出したのは、敵を前にして、最愛の兄を自らの剣で守り切れな
かったあの時のこと。
彼女は、再び自分の運命に従うことに決めました。
その手には、かつて兄が鍛え直してくれた細身の剣がありました。
かったあの時のこと。
彼女は、再び自分の運命に従うことに決めました。
その手には、かつて兄が鍛え直してくれた細身の剣がありました。
村娘としての彼女が暮らしていたのは、偽りの世界。
でも、もう戻らない。あの悔しさを、もう二度と忘れない。
そうして彼女は、剣を携え、再び戦いの渦へと身を投じます。
盟友とともに、世界を救うために。
でも、もう戻らない。あの悔しさを、もう二度と忘れない。
そうして彼女は、剣を携え、再び戦いの渦へと身を投じます。
盟友とともに、世界を救うために。
メタスラの大剣
<ある鍛冶屋の作業日誌>
依頼を受け、使い慣れたトンカチで「メタスラの大剣」を打った。
この剣は、メタルな魔物を倒しやすいんだとか。俺はただの鍛冶屋
だが冒険に出るのが夢だ。この剣を使えば、俺も勇者に……?
依頼を受け、使い慣れたトンカチで「メタスラの大剣」を打った。
この剣は、メタルな魔物を倒しやすいんだとか。俺はただの鍛冶屋
だが冒険に出るのが夢だ。この剣を使えば、俺も勇者に……?
<ある鍛冶屋の冒険記・1>
俺は例の大剣を持ち、冒険者からの情報を頼りに、ある迷宮へ来た。
時にここでは、メタルな魔物に多数遭遇できることがあるそうだ。
たしかにいた! が、奴らの逃げ足ときたら、異常に速すぎる!
時にここでは、メタルな魔物に多数遭遇できることがあるそうだ。
たしかにいた! が、奴らの逃げ足ときたら、異常に速すぎる!
<ある鍛冶屋の冒険記・2>
誰だよ? この武器でメタルな魔物を倒せると言ったのは? 奴ら
はすぐに逃げていく。仕方なく俺は弱いモンスターを相手にするが、
剣は重すぎて、トンカチのようにはうまく振るえない。
誰だよ? この武器でメタルな魔物を倒せると言ったのは? 奴ら
剣は重すぎて、トンカチのようにはうまく振るえない。
<ある鍛冶屋の冒険記・3>
はぐれたメタルと遭遇。俺はダメもとで剣を振る。かいしんの一
撃! レベルアップ! ……だけどわかった。俺が本当は何をした
いのかを。さぁ、ギルドに戻ってトンカチを握り直そうか。<完>
撃!
いのかを。さぁ、ギルドに戻ってトンカチを握り直そうか。<完>
蛇心ノ斧
この世界では、強さがすべてだ。
富も名誉も何もかも、いちばん強い者に与えられる。
そして私は無敵だった。この斧を、手にしたあの日から。
あらゆる人間は、私の前に跪いた。
富も名誉も何もかも、いちばん強い者に与えられる。
そして私は無敵だった。この斧を、手にしたあの日から。
あらゆる人間は、私の前に跪いた。
土地も金も食い物も男も女も、すべてが私のものだ。
ゆえに私を羨む者がいた。私の命を狙う者がいた。
そのたび私は、この斧を振い、身の程を教えてやった。
だが、こんなことは望んでいない。私は、愛されたかった。
ゆえに私を羨む者がいた。私の命を狙う者がいた。
そのたび私は、この斧を振い、身の程を教えてやった。
だが、こんなことは望んでいない。私は、愛されたかった。
あるとき私は、子供を授かった。
村の者たちは皆、私を祝福した。
私の夫となった者は私を愛するようになり、
私は、これが満たされることなのだと知った。
村の者たちは皆、私を祝福した。
私の夫となった者は私を愛するようになり、
私は、これが満たされることなのだと知った。
しかし私は、出産に失敗した。
無敵の斧は、すぐ手元にあるというのに6em>―― 手に、力が入らない。
私は、私を殺そうとする赤子を返り討ちにすることができない。
私はただ、赤子を呪った。もしも生まれ変わったら、必ず殺すと。
無敵の斧は、すぐ手元にあるというのに
私は、私を殺そうとする赤子を返り討ちにすることができない。
私はただ、赤子を呪った。もしも生まれ変わったら、必ず殺すと。
自由への意志
【File:e696b0e8a68f】
問題行動とエラーの兆候が見られたため、以前の個体は破棄。
新たなクローンを生成し、運用を始めることを決定。
今度植え付ける記憶は「孤独な男」……いったいどうなるか。
問題行動とエラーの兆候が見られたため、以前の個体は破棄。
新たなクローンを生成し、運用を始めることを決定。
今度植え付ける記憶は「孤独な男」……いったいどうなるか。
【File:e7b58ce9818e】
行動に大きな問題はなく、順調に成長を続け能力を発揮している。
妻及び子供の記憶(息子・娘どちらでも)を植え付けていた時より、
従順さに欠けるが許容範囲と判断する。
行動に大きな問題はなく、順調に成長を続け能力を発揮している。
従順さに欠けるが許容範囲と判断する。
【File:e795b0e5a489】
そろそろ繁殖を開始させる時期だが、女性個体に興味を示さない。
かといって男性個体やそれ以外に感情が向くこともない。
いったい何が問題だ。そんな風にデザインはしていないはずなのに。
そろそろ繁殖を開始させる時期だが、女性個体に興味を示さない。
かといって男性個体やそれ以外に感情が向くこともない。
【File:e5958fe9a18c】
違反を起こすわけではない。能力的に問題があるわけでもない。
だがこの個体は、いつもどこか違う場所に心があるように振る舞う。
何故だ。何が原因だ。どこを見ている。お前は―― 誰を見ている?
違反を起こすわけではない。能力的に問題があるわけでもない。
何故だ。何が原因だ。どこを見ている。お前は
にくきゅうの杖
緑がいっぱいの草原は、ねこまどうたちの楽園。
広くて豊かな土地で、彼らはのんびりと平和に暮らしています。
自慢のヒゲを手入れしたり、杖から火の玉を出して遊んでみたり。
その中に、1匹の変わったねこまどうがいました。
広くて豊かな土地で、彼らはのんびりと平和に暮らしています。
自慢のヒゲを手入れしたり、杖から火の玉を出して遊んでみたり。
その中に、1匹の変わったねこまどうがいました。
ねこまどうは、みんなおんなじ。黄色いローブに、素朴な木の杖。
1匹の変わったねこまどうは、こう思いました。
「みんなはそれで満足なのニャ?
つまらないのニャ。 みんなと違うおしゃれがしたいニャ!」
1匹の変わったねこまどうは、こう思いました。
「みんなはそれで満足なのニャ?
つまらないのニャ。 みんなと違うおしゃれがしたいニャ!」
1匹の変わったねこまどうは、草原を歩き回って、
いろいろな素材を集めました。
コットン草、どくけしそう、しなやかな枝、なないろのまゆ……
裁縫も鍛冶もできないけれど、あれこれ工夫をこらしました。
いろいろな素材を集めました。
コットン草、どくけしそう、しなやかな枝、なないろのまゆ……
裁縫も鍛冶もできないけれど、あれこれ工夫をこらしました。
作り上げたのは、鈴のネックレスに、赤と白のワンピース。
それから、自分の手の形と同じ形にした、とっておきの杖!
お洒落ないでたちになったねこまどうは「ミケまどう」と呼ばれ、
またたく間に緑の草原の人気者となりましたのニャ。
それから、自分の手の形と同じ形にした、とっておきの杖!
お洒落ないでたちになったねこまどうは「ミケまどう」と呼ばれ、
またたく間に緑の草原の人気者となりましたのニャ。
氷魔王の大矛
我が主、冷徹無情の氷の魔女。鬼の如き非情さに皆が平伏す。
我が主、鋭い眦は高潔さの証。比類なき美貌は雪の女神の如し。
我が主、力を尊ぶ魔闘士。並み居る魔族を蹴散らす、魔界の覇王。
我が主、内に秘めたる過酷な過去。我のみが知る、昏く深い慈愛。
クロイカズチ
母さんの病室に、買ってきた花を活ける。
病魔と闘う母さんの顔はやつれ、見ていて痛々しい。
けれどこのひと時は、俺にとってかけがえのない時間。
病魔と闘う母さんの顔はやつれ、見ていて痛々しい。
けれどこのひと時は、俺にとってかけがえのない時間。
今日も母さん■病室に寄って、■を活けて来た。
昔から■るく、■やかな物が好きだった■だ。
また昔みたいに……ああ、■■な事まで思い出してしまった。
昔から■るく、■やかな物が好きだった■だ。
また昔みたいに……ああ、■■な事まで思い出してしまった。
今■は医者から母さんの■■を聞き、花を飾る■■もなかった。
俺が■■んにしてやれることは、何て■■いんだろう。
■■にそうだろうか。■■に、もう■■■■はないのだろうか……
俺が■■んにしてやれることは、何て■■いんだろう。
■■にそうだろうか。■■に、もう■■■■はないのだろうか……
先日■■できな■った分、今日はいつもより■■■■■を飾った。
母さん、もう大■■だよ。俺の■■を母さんに■■■から。
俺は■■の■を押さえる。いつか■■■と共に■■る、■■の音。
母さん、もう大■■だよ。俺の■■を母さんに■■■から。
俺は■■の■を押さえる。いつか■■■と共に■■る、■■の音。
稀人乃徒手
私の家には、決して開けてはいけない箱がある。厳しいおばあちゃ
んが、開けちゃいけないと言って、押し入れに厳重にしまい込んで
いる。両の手のひらに乗るくらいの、それほど大きくはない箱。私
は物心ついてから、その箱の中身がとても気になっている。
んが、開けちゃいけないと言って、押し入れに厳重にしまい込んで
いる。両の手のひらに乗るくらいの、それほど大きくはない箱。私
は物心ついてから、その箱の中身がとても気になっている。
おばあちゃんがいない隙を見計らって、こっそり箱に近づく。家の
奥の、湿っぽい部屋の、押し入れの天袋……だけどおばあちゃんに
見つかって、私はものすごく叱られた。きっと、古くて貴重な価値
のあるものが入っているに違いない。
奥の、湿っぽい部屋の、押し入れの天袋……だけどおばあちゃんに
見つかって、私はものすごく叱られた。きっと、古くて貴重な価値
のあるものが入っているに違いない。
家に泥棒が入った。家が荒らされ、金目のものが盗まれて、あの箱
までも持っていかれてしまった。おばあちゃんは、お金が盗まれた
ことよりも、箱がなくなってしまったことでものすごく悔しそうに
している。そんなに高価なものだったのかな。
までも持っていかれてしまった。おばあちゃんは、お金が盗まれた
ことよりも、箱がなくなってしまったことでものすごく悔しそうに
している。そんなに高価なものだったのかな。
村の外れに、あの箱が捨ててあった。中にはガラクタばかり。この
へたくそな文字は……私が小さい頃に、おばあちゃんに書いた手紙?
それから、くしゃくしゃで何を作ったのかわからない折り紙がた
くさん。おばあちゃん、こんなものが大切だったの?
それから、くしゃくしゃで何を作ったのかわからない折り紙がた
くさん。おばあちゃん、こんなものが大切だったの?
廃材の銃
とある少年の住む王国は『機械兵』を使い、戦争をしている。彼の
家の裏は、スクラップにされた機械兵の集積場となっていた。少年
の趣味は、そのスクラップを再利用して武器を作ること。ある時、
彼は特別な集積回路を搭載した銃を制作した。
家の裏は、スクラップにされた機械兵の集積場となっていた。少年
の趣味は、そのスクラップを再利用して武器を作ること。ある時、
彼は特別な集積回路を搭載した銃を制作した。
特別な集積回路―― それは銃に、『心』を生み出すものだった。だ
が物言わぬ銃に心が生まれていることは、制作者である少年にも気
が付けなかった。やがてその銃は売りに出され、持ち主が巡り巡っ
て機械兵のもとへ辿り着いた。
が物言わぬ銃に心が生まれていることは、制作者である少年にも気
が付けなかった。やがてその銃は売りに出され、持ち主が巡り巡っ
て機械兵のもとへ辿り着いた。
その機械兵は、隊長機につくられた個体。戦闘能力や思考力も、特
別に優れていた。機械兵は銃に心があることをすぐに気が付き、銃
を改造した。互いに意思疎通ができるように、新たなシステムを搭
載したのだ。
別に優れていた。機械兵は銃に心があることをすぐに気が付き、銃
を改造した。互いに意思疎通ができるように、新たなシステムを搭
載したのだ。
片やエリートで、片やスクラップ。話は噛みあわないし、喧嘩して
ばかり。それでも妙に相性は良かった。それは二人が持つ、平和を
望む気持ちが同じだったからだ。二人は協力して戦場を駆け回り、
戦争を終わらせたという。
ばかり。それでも妙に相性は良かった。それは二人が持つ、平和を
望む気持ちが同じだったからだ。二人は協力して戦場を駆け回り、
戦争を終わらせたという。
力動風
私は時々人の言葉が刃物に見える。
ナイフや包丁、鋏のような刃物が悪意と共に口から零れて見えた。
だから小さい頃は人見知りで、無口な子供だった記憶がある。
ナイフや包丁、鋏のような刃物が悪意と共に口から零れて見えた。
だから小さい頃は人見知りで、無口な子供だった記憶がある。
私は時々人の言葉が刃物に見える。
中学も過ぎればそれは段々治まってきて、
人々が吐き出すギラリと光る刃物を見なくて済んだ。
中学も過ぎればそれは段々治まってきて、
人々が吐き出すギラリと光る刃物を見なくて済んだ。
大人になると、言葉の刃物は全く見えなくなった。
私は安心して、これまでの言葉を取り戻すように多弁になった。
少しの毒も社交辞令の一種だ。孤独であるよりずっといい。
私は安心して、これまでの言葉を取り戻すように多弁になった。
少しの毒も社交辞令の一種だ。孤独であるよりずっといい。
結婚し、私は言葉の刃物について思い出す事すら減った。
しかしなかなか悩みの種は尽きない。子供が私に懐かないのだ。
子供は私が口を開く度、ナイフを向けられたように怯えた顔をする。
しかしなかなか悩みの種は尽きない。子供が私に懐かないのだ。
鉄心ノ拳鍔
こりゃあ本当にすごい発明ですよ、奥様。
ぼうぼうに生えた庭の草木が、あっという間に切れたんです。
うちでだけ使ってちゃあ、もったいないですよ。
こんないいもんは、さっさと売り出さなくっちゃ。
ぼうぼうに生えた庭の草木が、あっという間に切れたんです。
うちでだけ使ってちゃあ、もったいないですよ。
こんないいもんは、さっさと売り出さなくっちゃ。
はあ、なるほど。商売をするのは旦那様が許さないと。
女が働くのはみっともないから……ですか。
う~ん、あたしら庶民からすりゃあ、
よくわからん感覚ですなあ。
女が働くのはみっともないから……ですか。
う~ん、あたしら庶民からすりゃあ、
よくわからん感覚ですなあ。
奥様、最近元気がありませんねえ。
やっぱり趣味の発明を、旦那様に止められたのが原因で?
お可哀そうに。機械をいじって油にまみれている時の奥様が、
一番輝いておられたのに……
やっぱり趣味の発明を、旦那様に止められたのが原因で?
お可哀そうに。機械をいじって油にまみれている時の奥様が、
一番輝いておられたのに……
そういや、最近奥様の姿を見ないですね。
なんと、屋敷を出てご実家に戻られたと?
そのうえ事業を興して、資産家に!?
おやまあ、旦那様は気の毒なことで……
なんと、屋敷を出てご実家に戻られたと?
そのうえ事業を興して、資産家に!?
おやまあ、旦那様は気の毒なことで……
霊廟の宝鍵
私が各地から買い集めた美しいお宝たち。
彼はそれを実に鮮やかな手口で盗んでいった。
彼はそれを実に鮮やかな手口で盗んでいった。
私は再びお宝を買い集めた。
そして同じだけの金をかけて警備を厳重にする。
そして同じだけの金をかけて警備を厳重にする。
しかし彼は警備をすり抜けお宝を盗み出してみせた。
彼はそよ風のようであり揺らめく影のようだ。
彼はそよ風のようであり揺らめく影のようだ。
私が各地から買い集めた美しいお宝たち。
彼の実に鮮やかな盗みの手口を見るためならば安いものだ。
彼の実に鮮やかな盗みの手口を見るためならば安いものだ。
擬骸―脊
僕には昔の記憶がない。どこに住んで、誰と暮らしていたのか。
それを知る人さえ、僕にはいない。僕の過去は空っぽだった。
誰も知らないのなら、存在していないのと同じだろう。
それを知る人さえ、僕にはいない。僕の過去は空っぽだった。
誰も知らないのなら、存在していないのと同じだろう。
もし仮に、僕の過去を知っている人が世界のどこかにいても。
その存在を僕が知らなければ、いないのと変わらない。
だから僕は探している。僕のいる意味を、僕を憶えて貰う方法を。
その存在を僕が知らなければ、いないのと変わらない。
だから僕は探している。僕のいる意味を、僕を憶えて貰う方法を。
皆、僕と会っても次の日には僕を忘れてしまう。
どんなに親切をしても、どんな暴力を振るっても。
それどころか、暴力の痕さえ残らない。僕は一体……何なんだ?
どんなに親切をしても、どんな暴力を振るっても。
それどころか、暴力の痕さえ残らない。僕は一体……何なんだ?
あぁ、そうか。僕は……本当に初めから存在していなかったんだ。
数列が生み出した虚像。データベースに蓄積した■■。
電源が落とされれば、すぐに消えてしまうだけの。
数列が生み出した虚像。データベースに蓄積した■■。
電源が落とされれば、すぐに消えてしまうだけの。
黒紋ノ御剣
深くて暗い、魔の森。
ある朝のこと、大きな黒い剣が捨てられていました。
いったい誰の落とし物?
朝、太陽とともに起き出した虫たちは、何も知りません。
ある朝のこと、大きな黒い剣が捨てられていました。
いったい誰の落とし物?
朝、太陽とともに起き出した虫たちは、何も知りません。
日がのぼり、食事を終えた虫たちは、
昼になって走り回っている小動物たちに聞きました。
いったい誰の落とし物?
遊び好きの小動物たちは、なーにも知らないよ、と言いました。
昼になって走り回っている小動物たちに聞きました。
いったい誰の落とし物?
遊び好きの小動物たちは、なーにも知らないよ、と言いました。
日がくれて寝床に帰るまえに小動物たちは、
夜になって森を我が物顔で歩きだした獣たちに聞きました。
いったい誰の落とし物?
つがい探しに熱心な獣たちは、そんなの知らないね、と言いました。
夜になって森を我が物顔で歩きだした獣たちに聞きました。
いったい誰の落とし物?
夜更けに獣たちが眠るころ、
虫たちが起き出す前に、
眠らない黒い鳥は見ていました。
その武器は、■■■■■のなれの果てだと。
虫たちが起き出す前に、
眠らない黒い鳥は見ていました。
その武器は、■■■■■のなれの果てだと。
糾罪と救済の槍
罪とは法の下にあり。
法は王が定める。
故に私の歩みに罪はない。
法は王が定める。
故に私の歩みに罪はない。
民は砂粒に等しく。
国に利がある者だけが宝石だ。
その中から特別なひとつだけが、人たり得る。
国に利がある者だけが宝石だ。
その中から特別なひとつだけが、人たり得る。
この掌から、さらさらと零れるのは砂か血か。
眺めるばかりの私には。
もはや区別などつかない。
眺めるばかりの私には。
もはや区別などつかない。
砂上の王宮で、ひとり踊る。
王ではなくなったが、変わらず罪はない。
私だけが法なのだから。
王ではなくなったが、変わらず罪はない。
私だけが法なのだから。
新人類ノ銃
新人類日報/全世界版 xx56.02.02
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「全世界の通貨統一、経済成長率に大きく貢献」
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新人類日報/全世界版 xx65.12.12
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白機翼の改剣
簡単な任務のはずだった。ちょっくら巡回で飛び回るだけ。そのは
ずが敵の攻撃を喰らって、真っ逆さま。落ちた先の孤島で、生き残
った俺たち5機とヤツらの壮絶な戦いが始まった。
ずが敵の攻撃を喰らって、真っ逆さま。落ちた先の孤島で、生き残
った俺たち5機とヤツらの壮絶な戦いが始まった。
墜落した機体から、オタク野郎に武器を作らせた。出来上がったの
は武器と呼ぶにはお粗末すぎるものだったが、この際贅沢は言えな
い。俺の腕があれば問題ないだろ。
は武器と呼ぶにはお粗末すぎるものだったが、この際贅沢は言えな
い。俺の腕があれば問題ないだろ。
隊長が頭を落とされ、戦死しちまった。頼りないやつではあったが
悪いやつではなかった。この仇は絶対とってやる。俺たちは戦意を
失うどころか、不退転の決意を固めた。
悪いやつではなかった。この仇は絶対とってやる。俺たちは戦意を
失うどころか、不退転の決意を固めた。
俺は何千、何万という敵を薙ぎ払い続けた。鉄の塊みてぇな剣だっ
たが、不思議と腕は重くない。それどころか、今は軽さすら感じる
くらいだ。いや、軽さすら感じなくなっちまったよ……
たが、不思議と腕は重くない。それどころか、今は軽さすら感じる
くらいだ。いや、軽さすら感じなくなっちまったよ……
カラクレナイ
「ただいま」と声を掛けても、返事はない。
いつも通り変わらないことは、それだけで有難いこと。
お父さんがそこにいてくれるだけで、私は嬉しいから。
いつも通り変わらないことは、それだけで有難いこと。
お父さんがそこにいてくれるだけで、私は嬉しいから。
いつの間にか、■帳の■■がもう残り少ない……
シャンプーも■わないとい■ないし、冷蔵■の中も心許ない。
でも大丈夫。私が■■■するから。だから■■て、お父さん。
シャンプーも■わないとい■ないし、冷蔵■の中も心許ない。
でも大丈夫。私が■■■するから。だから■■て、お父さん。
テスト■■が始まる。■茶■で■■しつつ勉強会……
私には■■だから断ったけど、友■に理由を■■に言えない。
……昔はお父■■と私、二人だけで■■■に行ったりし■な。
私には■■だから断ったけど、友■に理由を■■に言えない。
……昔はお父■■と私、二人だけで■■■に行ったりし■な。
職員室から■■に戻り、■■をまとめて学■を■る。
■■■お父さんに■■しよう。これから■■■■■いいんだろう。
……きっと■■■。私がどんな■■■■ても、■■■するから。
■■■お父さんに■■しよう。これから■■■■■いいんだろう。
……きっと■■■。私がどんな■■■■ても、■■■するから。
残燭の短銃
ある兵士の日記:XXXX年3月6日
日を追うごとに戦況は悪くなっている。だというのに、基地の中に
は笑いが絶えない。兵団にひとり、面白い男がいるんだ。彼の話に
はユーモアがある。いつも明るい男だと評判だ。
はユーモアがある。いつも明るい男だと評判だ。
ある兵士の日記:XXXX年5月12日
今日もまた、仲間が死んだ。暗い顔をしていたからか、仲間の一人
が貴重な菓子を分けてくれた。無口な男だが、優しい奴だ。例の話
し上手な男と同郷だそうだ。正反対の二人だが、仲はいいらしい。
ある兵士の日記:XXXX年6月5日
基地の中から笑い声が消えた。あの明るい男が、銃弾に撃たれて亡
くなったんだ。俺に菓子をくれた男も蒼白な顔をしていた。あの男
には、国に残してきた女がいたらしい。本当に残念だ。
には、国に残してきた女がいたらしい。本当に残念だ。
ある兵士の日記:XXXX年7月28日
兵士がひとり、自害した。残されていた遺書には、同郷の仲間を殺
したと書かれていたらしい。罪の意識に苛まれて、自ら命を絶った
のだろう。同じ女を愛したばかりに、こんなことになるなんて……
道外れの杖
夢があった。僕を助けてくれたあの人のようになりたい。
だからその背中を追いかけるように道を敷き、歩き続けた。
だからその背中を追いかけるように道を敷き、歩き続けた。
分かっていた事だが、決して簡単な道ではない。
夢のために、色々な事を我慢して、色々な物を切り捨てた。
夢のために、色々な事を我慢して、色々な物を切り捨てた。
そしてその道の先、ようやく夢が叶ったと思った時。
僕の前に、あの日僕を助けてくれた人が立ちはだかった。
僕の前に、あの日僕を助けてくれた人が立ちはだかった。
選んだ道が間違っていたとして、もう引き返す場所もない。
なら間違い続けよう、穢れたこの足を穢し続けよう。あの人の血で。
黒蓮
私に修羅の道の歩み方を教えてくれた姉様。
泣き喚いても貌色一つ変えず、ただ淡々と私を見下ろすその瞳。
人智を超えた神仏をも思わせる、卓越した精神と技術の美しさ。
私は貴方に焦がれていた。貴方が私の胸を打ち震わす総てだった。
泣き喚いても貌色一つ変えず、ただ淡々と私を見下ろすその瞳。
人智を超えた神仏をも思わせる、卓越した精神と技術の美しさ。
私は貴方に焦がれていた。貴方が私の胸を打ち震わす総てだった。
囚われの世界から私を連れ出してくれた貴方。
穏やかで平凡な生活の最中、ふと背負った業を覗かせるその表情。
それでも貴方との生活はあまりにも優しく、穏やかすぎて……
何もできない私が、いつか貴方の憂いを払えたらと思っていたの。
穏やかで平凡な生活の最中、ふと背負った業を覗かせるその表情。
それでも貴方との生活はあまりにも優しく、穏やかすぎて……
何もできない私が、いつか貴方の憂いを払えたらと思っていたの。
家を裏切り鈍らに成り下がった姉様。
再会した貴方に、かつての底冷えするような玲瓏さはない。
でもほら、隠せないよ姉様。無数の刀と舞う姿は鬼人の如しだ。
もし凡百の血でその切れ味が戻るのならば、悦んで首を捧げよう。
再会した貴方に、かつての底冷えするような玲瓏さはない。
でもほら、隠せないよ姉様。無数の刀と舞う姿は鬼人の如しだ。
もし凡百の血でその切れ味が戻るのならば、悦んで首を捧げよう。
私に幸せな日々を与えてくれた貴方。
貴方は強く、その強さ故に自らを大切にするのが苦手な人だね。
私には貴方の半生を理解することすらできないだろうけれど、
貴方がどんな人でも、私にとって貴方は私の幸せそのものだよ。
貴方は強く、その強さ故に自らを大切にするのが苦手な人だね。
私には貴方の半生を理解することすらできないだろうけれど、
貴方がどんな人でも、私にとって貴方は私の幸せそのものだよ。
慟哭ノ響キ
もうどのくらい前の事か分からないんですが、
こんな私にも、友達がいたんです。
何もできないノロマな私を親友と呼んでくれた、
大事な大事な、家族みたいな友達が……
こんな私にも、友達がいたんです。
何もできないノロマな私を親友と呼んでくれた、
大事な大事な、家族みたいな友達が……
でも、見てるうちに■いが溢■■きちゃって。
私、■■るだけでよかったの。我■しようって、
傍にいられるだけで■■■って思おうと■■たのに。
ナン■……■■デ……わかラな■よ
私、■■るだけでよかったの。我■しようって、
傍にいられるだけで■■■って思おうと■■たのに。
ナン■……■■デ……わかラな■よ
■ウ、こ■■風ニ ナッ■ャッた■、
ドウ■■■モないヨ ■■返シツカナ■もン……■■……
■■ど、百人■■法使イ■■■テ人■に■■るな■■ロス……
■■■■為■■■■■■アノ■■■■■■ノ■■■子■■■■■
ドウ■■■モないヨ ■■返シツカナ■もン……■■……
■■ど、百人■■法使イ■■■テ人■に■■るな■■ロス……
■■■■為■■■■■■アノ■■■■■■ノ■■■子■■■■■
■■■■■ア■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■子■■■■■
■■■■■■■■■■■■■ノ■■■■■■■■■■■■■■■■
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■子■■■■■
■■■■■■■■■■■■■ノ■■■■■■■■■■■■■■■■
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
夢財の象牙杖
少年は裕福な家庭で甘やかされて育った。彼は魔法学校で優秀な生
徒。彼には大好きな親友がいる。親友と歩く時は相手と手を繋ぎ、
周りに仲の良さをアピールしていた。少年は親友に2人で冒険に出
ようと夢を語る。
徒。彼には大好きな親友がいる。親友と歩く時は相手と手を繋ぎ、
周りに仲の良さをアピールしていた。少年は親友に2人で冒険に出
ようと夢を語る。
少年は親になんでも2つずつ買ってもらう。毎回それを親友にプレ
ゼントした。ある日の帰宅中、冒険で使う魔法の杖が欲しいと盛り
上がった。早速今回も親に買ってもらう。親友にプレゼントすると、
とても喜んでくれた。
ゼントした。ある日の帰宅中、冒険で使う魔法の杖が欲しいと盛り
とても喜んでくれた。
ある日父が事業を失敗し、生活が一変した。食事も、洋服も質素な
生活になっていく。当たり前のように2つ買ってもらっていたのに、
自分の物ひとつすら買ってもらえない。生活は様変わりする。少年
は親友にいち早く不安を打ち明けたいと思った。
自分の物ひとつすら買ってもらえない。生活は様変わりする。少年
は親友にいち早く不安を打ち明けたいと思った。
環境が変わると、親友は忙しいとあしらってきた。今回の親友は物
をあげた時だけ機嫌が良い。少年はまた本当の親友ができなかった
と落胆する。どうしたら本当の親友を作ることができるだろうか。
理想の関係が築けるまで魔法の杖で何度も何度もやり直した。
をあげた時だけ機嫌が良い。少年はまた本当の親友ができなかった
と落胆する。どうしたら本当の親友を作ることができるだろうか。
理想の関係が築けるまで魔法の杖で何度も何度もやり直した。
罅割れる槍
街の人間が、好んで集まる巨木があった。日差しを遮り、団らんの
場となる心地の良い場所。住人は巨木から垂れる蔓を弄び、穏やか
な日々を過ごしていた。争いが起きた、あの日までは。
場となる心地の良い場所。住人は巨木から垂れる蔓を弄び、穏やか
な日々を過ごしていた。争いが起きた、あの日までは。
巨木は、争いで負傷した、兵士の休息所になっていた。巨木の上半
分は抉れて落ち、蔓だけが成長を続けている。伸び切った蔓は地上
に帳を下ろし、彼らを隠す陰となった。
分は抉れて落ち、蔓だけが成長を続けている。伸び切った蔓は地上
に帳を下ろし、彼らを隠す陰となった。
争いは止まらず、大勢の人が死んだ。いつしか巨木は燃え尽き灰と
化した。しかし蔓だけは、焼け焦げようとも息の根を止めない。蔓
は成長を止めず……四方へと伸びていった。
化した。しかし蔓だけは、焼け焦げようとも息の根を止めない。蔓
は成長を止めず……四方へと伸びていった。
その蔓はどこまでも伸びていった。かつて傍にいた誰かを探すよう
に、蛇行し、絡みつき、何かを探すようにうねり続けた。争いが終
わり、人一人いない時代になっても、その蔓は伸び続けた。
に、蛇行し、絡みつき、何かを探すようにうねり続けた。争いが終
わり、人一人いない時代になっても、その蔓は伸び続けた。
愛情の真実
あのね、×××さんって本当にいるんだよ。
ママとパパじゃなくてね。かわいくていい子でやさしい子……
わたしみたいな子のところにだけ来てくれる本物の×××さん。
ほら、ことしも2こプレゼントおいてあったの!
ママとパパじゃなくてね。かわいくていい子でやさしい子……
わたしみたいな子のところにだけ来てくれる本物の×××さん。
ほら、ことしも2こプレゼントおいてあったの!
流石にこの歳になると、×××さん信じてる子いないよね。
でも私はまだ信じてるんだぁ。
だってママとパパがカミングアウトした後でも、
朝になったらプレゼント1個、枕元に置いてあるんだもん。
でも私はまだ信じてるんだぁ。
だってママとパパがカミングアウトした後でも、
朝になったらプレゼント1個、枕元に置いてあるんだもん。
ねえ、そろそろ本当のこと、話してくれてもいいんじゃない?
あなたが私だけの×××さんなんでしょ、愛しの旦那さま。
え、違う? だって、幼馴染で、家が隣で……あなたしか……
じゃあこのプレゼントは誰がくれていたの……?
あなたが私だけの×××さんなんでしょ、愛しの旦那さま。
え、違う? だって、幼馴染で、家が隣で……あなたしか……
じゃあこのプレゼントは誰がくれていたの……?
毎年私の本当に欲しい物をくれていた×××さん。
今年の私が本当に欲しい物は、『真実』よ。
一体あなたは誰なのかしら……これは、写真……?
は、なんで? キモッ! 噓でしょ!? 知らなきゃよかった!!
今年の私が本当に欲しい物は、『真実』よ。
一体あなたは誰なのかしら……これは、写真……?
は、なんで? キモッ! 噓でしょ!? 知らなきゃよかった!!
Si'F-12
赤い服を着た何者かが、夜の内に忍び寄ってきて、
贈り物を枕元に置き去っていく。
この話を本で読んだ時、少女は最初こう思った。
「いったい、なんの得があるの?」
贈り物を枕元に置き去っていく。
この話を本で読んだ時、少女は最初こう思った。
「いったい、なんの得があるの?」
赤い服を着た何者かの行動を理解する必要はない。
それは少女自身も分かっていた。
しかし、それでも何かが胸に引っかかる。
「きっと、お姉さまなら難なく理解するだろうから」
それは少女自身も分かっていた。
しかし、それでも何かが胸に引っかかる。
「きっと、お姉さまなら難なく理解するだろうから」
少女は姉から与えられた。いくつかの記憶と目的を。
崩壊した研究所。命潰え、結晶となった姉妹たち。
誰もいない世界を征く理由を、姉だけが与えてくれた。
「誰かに何かを与えれば、わかるかもしれない。お姉さまのこと」
崩壊した研究所。命潰え、結晶となった姉妹たち。
誰もいない世界を征く理由を、姉だけが与えてくれた。
「誰かに何かを与えれば、わかるかもしれない。お姉さまのこと」
赤い服を羽織って、少女は眠る小鳥たちの傍らに食料を置く。
小さな命たちは次に目覚めた時、きっと勢いよくそれを食むだろう。
その姿を想像して、少女は少しだけ口の端を上げた。
「お姉さま、これで合っている?」
小さな命たちは次に目覚めた時、きっと勢いよくそれを食むだろう。
その姿を想像して、少女は少しだけ口の端を上げた。
「お姉さま、これで合っている?」
黒嘴ノ小剣
むかしむかしあるところに、珍しい物が大好きな王様がいました。
王様が、特に珍しい物を献上した者には褒美を授けるというおふれ
を出したので、国中の人は競って珍しい物を探しました。
「ワシにどんどん珍しい物をもってくるのじゃ!」
王様が、特に珍しい物を献上した者には褒美を授けるというおふれ
を出したので、国中の人は競って珍しい物を探しました。
「ワシにどんどん珍しい物をもってくるのじゃ!」
ある者は、はるか遠い北の国の遺跡で発掘された、古い文字の刻ま
れた冠を献上しました。王様は、こんなに価値のありそうなものは
見たことがないと喜び、自分の冠を褒美として差し出しました。
「キンピカの冠はもう見飽きたぞ! この冠こそ、威厳があろう」
れた冠を献上しました。王様は、こんなに価値のありそうなものは
見たことがないと喜び、自分の冠を褒美として差し出しました。
「キンピカの冠はもう見飽きたぞ! この冠こそ、威厳があろう」
ある者は、はるか遠い南の国から、鮮やかな色をした大きな鳥を献
上しました。王様は、こんな珍しい鳥は見たことがないと喜び、そ
れまで飼っていた黒い鳥を褒美として差し出しました。
「黒い鳥はもう飽きていたのじゃ! この鳥の色の見事なこと!」
上しました。王様は、こんな珍しい鳥は見たことがないと喜び、そ
れまで飼っていた黒い鳥を褒美として差し出しました。
「黒い鳥はもう飽きていたのじゃ! この鳥の色の見事なこと!」
ある者は、はるか遠い東の国から、黒髪で黒い瞳の女を連れてきて
王様に会わせました。王様は、こんなに珍しい風貌の女は見たこと
がないと喜び、自分の娘を褒美として差し出しました。
「なんと珍しい娘! 見飽きたわしの娘を、くれてやろう!」
王様に会わせました。王様は、こんなに珍しい風貌の女は見たこと
がないと喜び、自分の娘を褒美として差し出しました。
「なんと珍しい娘! 見飽きたわしの娘を、くれてやろう!」
聖夜の飾剣
この戦争は、もう何年も続いている。俺たち兵隊は、毎日毎日敵と
殺し合ってばかり。だが一年にたった一度、今夜……聖夜だけは、
俺達は戦いを止めることを許される。敵も味方もなく、ただ皆で歌
を唄って、夢を語って、笑い合うことが許されるんだ。
殺し合ってばかり。だが一年にたった一度、今夜……聖夜だけは、
俺達は戦いを止めることを許される。敵も味方もなく、ただ皆で歌
を唄って、夢を語って、笑い合うことが許されるんだ。
聖夜の宴で、俺はとある男と隣の席になった。彼は敵国の兵士だが
不思議と話が合う。父はおらず、母には捨てられ、軍では役立たず
と虐げられてばかり……彼の生い立ちは、まるで俺と同じだったの
だ。どうしてコイツが敵なのだろう、と思わざるを得ないほどに。
不思議と話が合う。父はおらず、母には捨てられ、軍では役立たず
と虐げられてばかり……彼の生い立ちは、まるで俺と同じだったの
だ。どうしてコイツが敵なのだろう、と思わざるを得ないほどに。
聖夜が明けて、戦闘行為が再開された。昨日まで飲んだくれていた
俺達兵隊は、合図と共に塹壕から駆け出して行く。そして俺は敵兵
と揉みあいになった。銃剣で刺し殺してやろうとすると、そいつは
「やめてくれ」と泣いた。昨日並んで酒を飲んだ、あの男だった。
俺達兵隊は、合図と共に塹壕から駆け出して行く。そして俺は敵兵
と揉みあいになった。銃剣で刺し殺してやろうとすると、そいつは
「やめてくれ」と泣いた。昨日並んで酒を飲んだ、あの男だった。
塹壕に帰ると、俺は上官に殴られた。俺が敵兵を見逃したのを見て
いたそうだ。気づけば俺は、上官を殴り返していた。そして叫ぶ。
お前に何が分かるんだ。アイツはお前よりもずっと……ただ、生ま
れ育った国が違うだけで。お前よりもずっと良い奴なんだよ……
いたそうだ。気づけば俺は、上官を殴り返していた。そして叫ぶ。
お前に何が分かるんだ。アイツはお前よりもずっと……ただ、生ま
れ育った国が違うだけで。お前よりもずっと良い奴なんだよ……
piece of cake
ケーキを5つに切りましょう。
ママとパパ、それから弟たち。
5人で仲良く分けましょう。
ママとパパ、それから弟たち。
5人で仲良く分けましょう。
ケーキを4つに切りましょう。
彼と愛おしい我が子たち。
4人で仲良く分けましょう。
彼と愛おしい我が子たち。
4人で仲良く分けましょう。
ケーキを6つに切りましょう。
1人ではとても食べきれない。
お隣さんにも分けましょう。
1人ではとても食べきれない。
お隣さんにも分けましょう。
もう、ケーキを切る必要はありません。
私1人でゆっくり食べましょう。
初めてのケーキを食べましょう。
私1人でゆっくり食べましょう。
初めてのケーキを食べましょう。
繰済の祝砲
パン。
画面越しに、クラッカーが鳴った。
画面の向こうの彼は笑顔だった。
画面越しに、クラッカーが鳴った。
画面の向こうの彼は笑顔だった。
パパン。
私も、クラッカーを鳴らした。
画面を前にした私も笑顔だ。
私も、クラッカーを鳴らした。
画面を前にした私も笑顔だ。
パリン。
グラスを落してしまった。
慌てる私に、彼は変わらず優しい笑顔を向けている。
グラスを落してしまった。
慌てる私に、彼は変わらず優しい笑顔を向けている。
「メリークリスマス!」
シャンパンで濡れた床を拭く私に、彼はそう言った。
拭いても拭いても拭いきれぬ床を、私は拭き続けた。
シャンパンで濡れた床を拭く私に、彼はそう言った。
拭いても拭いても拭いきれぬ床を、私は拭き続けた。
罪我の銃
私は従軍記者として、この隊に身を置いている。隊長は臆病者だと
揶揄されることもあるが、隊の雰囲気は悪くない。ある時、いつも
通り兵営で過ごしていると、隊長が改まった様子で私を訪ねて来た。
「記者である、君の力が必要なんだ」と、そう言って。
揶揄されることもあるが、隊の雰囲気は悪くない。ある時、いつも
「記者である、君の力が必要なんだ」と、そう言って。
彼が見せてきたものは、この国の極秘文書―― ≪乳幼児拉致作戦≫
について書かれたものだった。帰国次第、これを彼の名で告発して
ほしいと言うのだ。私は震えた。そんなことをすれば彼の身は……
一体、何がそこまで彼を駆り立てるのだろう。
について書かれたものだった。帰国次第、これを彼の名で告発して
ほしいと言うのだ。私は震えた。そんなことをすれば彼の身は……
一体、何がそこまで彼を駆り立てるのだろう。
隊長が収容所から帰還した直後、蜂起が起きた。首謀者はかつて脱
走した少年兵のようだ。隊長は未だ怪我も治っていないのに、自ら
名乗り出て鎮圧部隊のひとつを率いたという。彼の部隊が不審な動
きをしたとも聞いたが、その真相は私にも分からなかった。
走した少年兵のようだ。隊長は未だ怪我も治っていないのに、自ら
名乗り出て鎮圧部隊のひとつを率いたという。彼の部隊が不審な動
きをしたとも聞いたが、その真相は私にも分からなかった。
明日、軍の式典を見届けた後。私は約束通り極秘文書を公開する。
その臆病な心を凶刃に変える彼の姿に、惹かれた自分がいたからだ
……いつか必ず。彼の名を、この国の闇を暴いた英雄として語り継
ぐ者が現れるだろう。そう信じて、私は彼の名の下に告発する。
その臆病な心を凶刃に変える彼の姿に、惹かれた自分がいたからだ
……いつか必ず。彼の名を、この国の闇を暴いた英雄として語り継
ぐ者が現れるだろう。そう信じて、私は彼の名の下に告発する。
夜明けの御守り
愛する君へ
結婚を前に、君と遠く離れるのは辛く苦しい。
だが今は、武勲の一つでも立てて君を迎えたいんだ。
そうすれば、生涯守ると君に自信を持って言えるだろうから。
結婚を前に、君と遠く離れるのは辛く苦しい。
だが今は、武勲の一つでも立てて君を迎えたいんだ。
そうすれば、生涯守ると君に自信を持って言えるだろうから。
愛する君へ
ここは私たちが暮らし育った場所とは何もかもが違う。
美しい物や、面白い物。変わった趣向の店に出会う事ができる。
しかし同時に治安も悪く、気が抜けない。とても不思議な所だ。
ここは私たちが暮らし育った場所とは何もかもが違う。
美しい物や、面白い物。変わった趣向の店に出会う事ができる。
しかし同時に治安も悪く、気が抜けない。とても不思議な所だ。
君へ
久々の便りになってしまってすまない。
情に厚い君の事だ。まだ私を信じていてくれるのかもしれない。
だがもう私の事は忘れてほしい。私はこの街に染まってしまった。
久々の便りになってしまってすまない。
情に厚い君の事だ。まだ私を信じていてくれるのかもしれない。
だがもう私の事は忘れてほしい。私はこの街に染まってしまった。
この手紙を見た誰かへ
どうか、この銃を私の幼馴染に届けてほしい。
この銃についた飾りとお揃いの飾りを、髪につけた女だ。
そして伝えておくれ。最期まで、君を愛していたと……
どうか、この銃を私の幼馴染に届けてほしい。
この銃についた飾りとお揃いの飾りを、髪につけた女だ。
そして伝えておくれ。最期まで、君を愛していたと……
烏天狗の写し身
東の島の深い森。そこに人間の体に鳥の頭と大きな翼を持つ、面妖
で胡乱な者が住んでいたという。その者は烏天狗と呼ばれ、人々か
ら忌み嫌われていた。それゆえ、深い森に住んでいたのだ。しかし
それでも、烏天狗は人と仲良くしたいと願っていたそうな。
で胡乱な者が住んでいたという。その者は烏天狗と呼ばれ、人々か
ら忌み嫌われていた。それゆえ、深い森に住んでいたのだ。しかし
それでも、烏天狗は人と仲良くしたいと願っていたそうな。
ある時、烏天狗の住む森に旅人が迷い込んだ。旅人は腹を空かせて
おり、今にも死にそうだったので、烏天狗は施しを与えてやること
にした。この面妖な見た目では驚かせてしまうと、烏天狗は人前に
出ることを躊躇いつつも、人助けのためならと思ったそうな。
おり、今にも死にそうだったので、烏天狗は施しを与えてやること
にした。この面妖な見た目では驚かせてしまうと、烏天狗は人前に
出ることを躊躇いつつも、人助けのためならと思ったそうな。
烏天狗に初めての友達ができた。旅人が烏天狗の見た目を恐れるこ
とはなかったのだ。旅人はこれまでの旅の話をたくさん聞かせた。
烏天狗は初めての友達を手放したくないと思い、怪しげな術で、な
んと! 旅人の姿を自分と同じ烏天狗に変えてしまったそうな。
とはなかったのだ。旅人はこれまでの旅の話をたくさん聞かせた。
烏天狗は初めての友達を手放したくないと思い、怪しげな術で、な
んと! 旅人の姿を自分と同じ烏天狗に変えてしまったそうな。
旅人は喜んだ。翼があれば旅が楽になると。烏天狗は止めた。その
姿ではどこに行っても石を投げられると。しかし旅人は大丈夫だと
言って、人里に降りていき……なんと人々と仲良く笑い合っている
ではないか。そして烏天狗は、一振りの刀を抜いたそうな……
姿ではどこに行っても石を投げられると。しかし旅人は大丈夫だと
言って、人里に降りていき……なんと人々と仲良く笑い合っている
ではないか。そして烏天狗は、一振りの刀を抜いたそうな……
永訣
飯田林太郎。高村昭二。湯浅久秀。幸田氏秀。佐田義孝。桂隆明。
近藤伊之助。木村幸太郎。甘利容堂。田村八郎。木村小五郎。大島
実美。鈴木権兵衛。細田重樹。宇佐美義信。支倉崇継。大谷長政。
前田仁也。三浦啓次郎。檜原定敏。市来吉彦。湯口圭。山梨栄吉。
近藤伊之助。木村幸太郎。甘利容堂。田村八郎。木村小五郎。大島
実美。鈴木権兵衛。細田重樹。宇佐美義信。支倉崇継。大谷長政。
前田仁也。三浦啓次郎。檜原定敏。市来吉彦。湯口圭。山梨栄吉。
鎌田和美。明月院正虎。後藤平八。高橋二郎。延原半造。佐々木十
郎。馬場利貞。川成徳三郎。早坂昭仁。内海平治。平田幸助。有坂
周助。大内真朋。西村顕生。西園寺健四郎。鮫島哲勇。金子勘助。
酒井元成。本条近宗。大野嘉明。村井清博。竹内克洋。中村道三。
郎。馬場利貞。川成徳三郎。早坂昭仁。内海平治。平田幸助。有坂
周助。大内真朋。西村顕生。西園寺健四郎。鮫島哲勇。金子勘助。
酒井元成。本条近宗。大野嘉明。村井清博。竹内克洋。中村道三。
曽我英博。佐田退助。山下行雄。林薫。田中靖。渡辺一介。昼岡太
一。福田秀徳。宮沢興親。大平善之。村山一郎。浜田幸之助。細川
英二。吉原朔太。井口要一。新発田吉次郎。柿原五郎。松永基。小
野寺金之助。加藤興次。安田健三。石原貴一。伊藤純。上杉一真。
一。福田秀徳。宮沢興親。大平善之。村山一郎。浜田幸之助。細川
英二。吉原朔太。井口要一。新発田吉次郎。柿原五郎。松永基。小
野寺金之助。加藤興次。安田健三。石原貴一。伊藤純。上杉一真。
さようなら。
袖時雨
この長き袖では、刀を振り難かろう?
もう、お主が刀を振らずとも良いのだ。
もう、お主が刀を振らずとも良いのだ。
その長き袖では、料理をし難かろう?
そんなものは、下女にやらせれば良いのだ。
そんなものは、下女にやらせれば良いのだ。
あの長き袖では、引き摺らずに歩き難かろう?
お主は、この城から出なくて良いのだ。
お主は、この城から出なくて良いのだ。
いいえ。この長き袖でも、槍で突くことくらいはできましょう。
袖の下の殺意には、お気づきでなくて?
袖の下の殺意には、お気づきでなくて?
黒艶ノ惆杖
海岸沿いに建つ、崩壊寸前のあばら家。自然の力強さをまざまざと
感じるこの場所で、僕は一人気ままに、絵を描いて暮らしている。
筆と……無数の染料に囲まれる日々は心地が良いものだ。
感じるこの場所で、僕は一人気ままに、絵を描いて暮らしている。
筆と……無数の染料に囲まれる日々は心地が良いものだ。
でも本当のところは……美しい景色を想い人と共に楽しむように、
僕が描き進めるこの絵を、誰かと眺めたい。さざ波と砂嵐の音が反
響するこの部屋の中で、ようやく色づき始めた、美しい絵を。
僕が描き進めるこの絵を、誰かと眺めたい。さざ波と砂嵐の音が反
響するこの部屋の中で、ようやく色づき始めた、美しい絵を。
分かってる。この絵を真に美しいと思えるのは、世界で僕しかいな
いだろう。醜く爛れ、ひどく毛の抜けた、黒い鳥の絵を。でも本当
は、この絵に秘められた夢幻について、僕は誰かと語り合いたい。
いだろう。醜く爛れ、ひどく毛の抜けた、黒い鳥の絵を。でも本当
は、この絵に秘められた夢幻について、僕は誰かと語り合いたい。
この絵に価値が付けば、誰か美しいと思ってくれるだろうか? 僕
が売れっ子になればいい? 名のある盗賊に盗ませたらいい? 王
宮のお姫様に買ってもらおうか? いや、どれも叶わぬ夢か……
が売れっ子になればいい? 名のある盗賊に盗ませたらいい? 王
宮のお姫様に買ってもらおうか? いや、どれも叶わぬ夢か……
エスプリ・ド・ルミエール
怪物よ、怪物よ。
私はあなたの為に生き、あなたの為に死ぬでしょう。
私はあなたの為に生き、あなたの為に死ぬでしょう。
あなたは山羊である私を、人たらしめました。
あなたの下す裁きが、あなたの愛が、私の糧となりました。
あなたの下す裁きが、あなたの愛が、私の糧となりました。
あなたは私に、奪われた怒りを再びお与えになりました。
絶望が最後ではないと、思い出させられました。
絶望が最後ではないと、思い出させられました。
怪物よ、怪物よ。
私は永久に待ち続けます。あなたが再び、少女と巡り逢う日を。
私は永久に待ち続けます。あなたが再び、少女と巡り逢う日を。
Ceasefire(廃番モデル)
こんにちは!
これは、「AIチャットサービス<ver001.3.4>」(■
■社開発)で作成された文章です。知りたいことを、文章で入力し
てください。
これは、「AIチャットサービス<ver001.3.4>」(■
■社開発)で作成された文章です。知りたいことを、文章で入力し
てください。
---医学の観点から見ると、人間がなぜ死ぬかについては5つの
要因が絡んでいる。(1)細胞の老化:人間の体は細胞で構成され
ており、細胞は時間とともに老化し、正確なコピーを続けるための
能力
要因が絡んでいる。(1)細胞の老化:人間の体は細胞で構成され
ており、細胞は時間とともに老化し、正確なコピーを続けるための
能力
---人が死ぬ理由はさまざまです。一般的には以下のような要因
が影響しています。まずは、加齢による身体の細胞や組織が劣化し
てしまうということ。どんな生物も避けられないのが、この老化現
象と
が影響しています。まずは、加齢による身体の細胞や組織が劣化し
てしまうということ。どんな生物も避けられないのが、この老化現
象と
---ご満足いただけませんか? 申し訳ありません。いくら私が
人間に近い受け答えができるようになっても、人間と同じ思考回路
を持ってはいません。知りたいことを、文章で入力してください。
人間に近い受け答えができるようになっても、人間と同じ思考回路
を持ってはいません。知りたいことを、文章で入力してください。
Armistice(廃番モデル)
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bruit
子供の笑い声。
小さな鳥の羽搏き。
噴き上げられた水が落ちる音。
この音を守るために、私はいる。
小さな鳥の羽搏き。
噴き上げられた水が落ちる音。
この音を守るために、私はいる。
隣室から聞こえる■声。
■いな上司からの着信。
派手な車の■ンジン音。
耳を■ぎたくなる音も、平和の■なのかもしれない。
■いな上司からの着信。
派手な車の■ンジン音。
耳を■ぎたくなる音も、平和の■なのかもしれない。
人々の怒■。
リ■ムを刻■銃■。
鳴■■■ない■イレン。
この■を聞■せな■■めに、■がいた■に……
リ■ムを刻■銃■。
鳴■■■ない■イレン。
この■を聞■せな■■めに、■がいた■に……
子■の■■声。
■末■■叫■。
爆■■間■ほんの■■。
耳■■びり■■て離■■い、■■。
■末■■叫■。
爆■■間■ほんの■■。
耳■■びり■■て離■■い、■■。
希廻ノ槍
かつて僕は、機械兵だった。
だが、いつしか使い物にならなくなった僕の体は解体され、
その各部位は、様々な武器の中にコアとして埋め込まれた。
そして今。僕の脚は、彼女が振るう槍の中にある。
だが、いつしか使い物にならなくなった僕の体は解体され、
その各部位は、様々な武器の中にコアとして埋め込まれた。
そして今。僕の脚は、彼女が振るう槍の中にある。
高く跳ぶ。そして上空から僕を振り下ろし、敵の脳天を貫く――
彼女は「竜すら殺す」と謳われる、強戦士である。
だが僕には、彼女の生き方が理解できない。
貴族である彼女が戦士として生きる必要など、どこにもないのに。
彼女は「竜すら殺す」と謳われる、強戦士である。
だが僕には、彼女の生き方が理解できない。
貴族である彼女が戦士として生きる必要など、どこにもないのに。
ある時。僕は、彼女の過去を知る。
彼女を政略結婚の道具として見ていた彼女の両親は、
花嫁修業と称し、彼女を家の中に閉じ込めていたのだ。
彼女は自由が欲しかったという。空を飛ぶような、自由が。
彼女を政略結婚の道具として見ていた彼女の両親は、
花嫁修業と称し、彼女を家の中に閉じ込めていたのだ。
彼女は自由が欲しかったという。空を飛ぶような、自由が。
とある戦で全身に致命傷を負った彼女はしかし、
それでも僕を手放さず地を蹴り、敵の頭上へと舞い上がった。
僕はこの脚で、彼女と共に地を蹴った気がした。
―― ふたりで一緒に、あの自由な空を飛ぶために。
それでも僕を手放さず地を蹴り、敵の頭上へと舞い上がった。
僕はこの脚で、彼女と共に地を蹴った気がした。
水骸の怒拳
「珍しいのが手に入ったんだ! いいから早くきてくれ!」
昨夜、馴染みの骨董品店からそんな連絡があった。いつにも増して
興奮している様子だったもんだから、俺は朝早くからその店に行く
ことにした。一体どんな代物だろうか。
昨夜、馴染みの骨董品店からそんな連絡があった。いつにも増して
興奮している様子だったもんだから、俺は朝早くからその店に行く
ことにした。一体どんな代物だろうか。
「こいつは人間が皆殺しにしてしまった一族の遺骸だ」
店に入るなりブツを差し出す店長。これは頭蓋だろうか。どこかし
ら顔のように見える。彼らはかなり古い時代、水の中で棲息してい
たという一族なんだそう。
店に入るなりブツを差し出す店長。これは頭蓋だろうか。どこかし
ら顔のように見える。彼らはかなり古い時代、水の中で棲息してい
たという一族なんだそう。
「遺骸の美術的価値を知ってしまったんだ」
どうして人間が彼らを絶滅に追いやったのか、その理由はあまりに
も身勝手なものだった。こんな姿になってなお利用されるなんて、
人間はこの世で最も恐ろしい生き物だ。
どうして人間が彼らを絶滅に追いやったのか、その理由はあまりに
も身勝手なものだった。こんな姿になってなお利用されるなんて、
人間はこの世で最も恐ろしい生き物だ。
「それなのに、こんな嬉しそうに笑って死にやがってよ」
店長はそう言った。だが俺には憤怒の顔に見えて仕方ない。末代ま
で呪って復讐してやる、死の瞬間にそんなことを笑いながら考えて
いるような、そんな恐怖をこの顔の奥から感じるのだ。
店長はそう言った。だが俺には憤怒の顔に見えて仕方ない。末代ま
で呪って復讐してやる、死の瞬間にそんなことを笑いながら考えて
いるような、そんな恐怖をこの顔の奥から感じるのだ。
灰の密約
いつまで繰り返せばいいのだろう、この意味の無い日々を。
今日も私は、形式的な定期巡回をこなしながら時間を潰す。
今日も私は、形式的な定期巡回をこなしながら時間を潰す。
なぜ彼女は隠すのだろう、私達がここにいる理由を。
今日も私は、上辺だけの会話に逃げて彼女に踏み込めずにいる。
今日も私は、上辺だけの会話に逃げて彼女に踏み込めずにいる。
何が私を動かすのだろう、無駄だとわかっていながらも。
今日も私は、微かな手掛かりを頼りに秘密の糸口を掴む。
今日も私は、微かな手掛かりを頼りに秘密の糸口を掴む。
誰が進まずにいられるだろう、答えが扉の先にあるというのに。
だから、今日こそ私は……
だから、今日こそ私は……
百二十七式戦術刀
ポッド006全機へ。
臨時報告:月面基地周辺に磁気嵐が発生したわ。
保存データに問題が無いか、各自調査をして頂戴。
臨時報告:月面基地周辺に磁気嵐が発生したわ。
保存データに問題が無いか、各自調査をして頂戴。
報告:管轄内のデータを確認したわ。問題はなさそうよ。
(……待って。磁気嵐の影響で一部のデータが反転しているわ。
問題ナシと報告済だけど、他のポッドが気付くわよね……)
(……待って。磁気嵐の影響で一部のデータが反転しているわ。
問題ナシと報告済だけど、他のポッドが気付くわよね……)
報告:私もダブルチェックをしたわ。異常なし、問題はないわね。
(何故か黒い色相のデータが、反転して白くなっていたけれど……
一次チェックで問題ナシと言ってたから、影響は軽微の筈だわ。)
(何故か黒い色相のデータが、反転して白くなっていたけれど……
質問:三度もチェックが必要? 思考プロセスは皆同じなのよ?
(でも……場所は不明だけど、想定外の負荷が検知されたわ。
この力、私達の味方に? あるいは脅威になりうるかしら……)
(でも……場所は不明だけど、想定外の負荷が検知されたわ。
この力、私達の味方に? あるいは脅威になりうるかしら……)
未来への希望
計画の経過は順調だ。
むしろ時間や薬剤を自由にできる立場を手に入れる事の方が、
よっぽど苦労したほどである。何が何でも隠し通さねば……
むしろ時間や薬剤を自由にできる立場を手に入れる事の方が、
よっぽど苦労したほどである。何が何でも隠し通さねば……
計画が夫に発覚した。
武器を向けた私に臆する事もなく、彼は私を抱きしめた。
彼の温もりに包まれて、私は泣いている事に気が付いた。
武器を向けた私に臆する事もなく、彼は私を抱きしめた。
彼の温もりに包まれて、私は泣いている事に気が付いた。
成果物が完成する。
できあがった薬品を見つめる私は、興奮と恐れに震えていた。
これは『救い』と共に『滅び』を呼ぶ物……世界を作り替える薬。
できあがった薬品を見つめる私は、興奮と恐れに震えていた。
これは『救い』と共に『滅び』を呼ぶ物……世界を作り替える薬。
計画の凍結を決意。
この薬品を使うには、私たちは多くの物を愛しすぎてしまった。
決断を未来に託した卑怯な私。さあ空っぽで愛しい日常に戻ろう。
この薬品を使うには、私たちは多くの物を愛しすぎてしまった。
決断を未来に託した卑怯な私。さあ空っぽで愛しい日常に戻ろう。
黒嘴ノ面
旅館の朝食のような、とまで言わなくても、ごはんとお味噌汁の和
食を食べたい。けど、そんな朝食、いつ以来食べてないだろう?
昼食に食べたもの。コンビニで買ったお弁当と、サラダ。本当は、
サラダなんて食べたいわけじゃないけど、栄養を考えて、一応。新
商品のペットボトルのお茶を選ぶことが、ささやかな楽しみ。
サラダなんて食べたいわけじゃないけど、栄養を考えて、一応。新
商品のペットボトルのお茶を選ぶことが、ささやかな楽しみ。
夕食に食べたもの。家の近くで、遅くまで営業しているチェーン店
の、一番安いメニュー。えっと、何を食べたんだっけ? 丼だった
か、定食だったか……忘れちゃった。値段で選んだから。
の、一番安いメニュー。えっと、何を食べたんだっけ? 丼だった
か、定食だったか……忘れちゃった。値段で選んだから。
以上、私が人生最後の日に食べたもの。朝からやたら黒い鳥が目に
ついて、なんだか不吉だなとは思っていたけど、まさか今日死ぬな
んて。あーあ、冷蔵庫のアイス、食べておけばよかった……
ついて、なんだか不吉だなとは思っていたけど、まさか今日死ぬな
んて。あーあ、冷蔵庫のアイス、食べておけばよかった……
新季一転
私の好物は、大きな大きな目玉焼き。
昔、不器用な父が、私のために焼いてくれたのだ。
私は、あの味を今も忘れられずにいる。
昔、不器用な父が、私のために焼いてくれたのだ。
私は、あの味を今も忘れられずにいる。
私は今、灼熱の火山を登っている。
この山に棲む巨大な鳥の、栄養満点な卵を手に入れるためだ。
それがあの目玉焼きの卵であると、父の手記に書かれていたから。
この山に棲む巨大な鳥の、栄養満点な卵を手に入れるためだ。
それがあの目玉焼きの卵であると、父の手記に書かれていたから。
猛烈な暑さで、視界が微かに歪む。
体力をつけようと、持ってきた食料を口にするが、喉を通らない。
薄れゆく意識の中、しかし私の耳は確かに、鳥の羽搏きを捉えた。
体力をつけようと、持ってきた食料を口にするが、喉を通らない。
薄れゆく意識の中、しかし私の耳は確かに、鳥の羽搏きを捉えた。
こんなところで倒れるわけにはいかないと、足に力を込める。
なんとしてもあの目玉焼きを食べるんだ。
「待っててね」そう言って私は、自分のお腹を撫でた。
なんとしてもあの目玉焼きを食べるんだ。
「待っててね」そう言って私は、自分のお腹を撫でた。
荊棘
『産まれる』と云うのがどういう事か、分からなかった。少女は、
いつの間にか其処に居て、気付けばお家の傀儡として在ったから。
苦痛を隠し座していれば、周りが勝手に少女を都合よく形作る。
いつの間にか其処に居て、気付けばお家の傀儡として在ったから。
苦痛を隠し座していれば、周りが勝手に少女を都合よく形作る。
なり悟った。
えも冴え冴えと……少女は彼女になら殺されても良いと思えた。
血に塗れたあの雨の日こそ、真に少女が『産まれた』日だと。
自分自身を生きていると強く感じられた。然し少女は知らない。
あの日女も又、少女と出逢った事で新しく『産まれた』事を……
始まりと終わりの祝砲
今度、子供が生まれるんです。
だからその子が、生まれて良かったと思えるように……
思える国にできたら、って思うんです。
だからその子が、生まれて良かったと思えるように……
思える国にできたら、って思うんです。
作業効率があがってる?
そりゃそうですよ!
子供のためにも頑張らないといけないですからね!
そりゃそうですよ!
子供のためにも頑張らないといけないですからね!
え、異動ですか……?
どうして? 作業効率も下がっていないはずです!
僕はまだ、この国のためにここで働かないと……!
どうして? 作業効率も下がっていないはずです!
僕はまだ、この国のためにここで働かないと……!
……今日、異動を宣告されたよ。
これまで僕がどれだけ国に尽くしてきたと思ってるんだ……!
? どうして君は嬉しそうな顔をしているんだ……!?
これまで僕がどれだけ国に尽くしてきたと思ってるんだ……!
? どうして君は嬉しそうな顔をしているんだ……!?
クラウンロッド
あのね、オバアチャン。今日、好きな人に告白をされたの。
契約の誓いの輪を交換して、抱きしめ合ってキスをして。
……でも、なんだか怖いの。幸せ過ぎて、怖くなってしまうの。
契約の誓いの輪を交換して、抱きしめ合ってキスをして。
……でも、なんだか怖いの。幸せ過ぎて、怖くなってしまうの。
ああ、ああ……オバアチャン。どうか聞いて。
母さんと同じ病気を発症したみたいなの……彼も不安そう……
どうしよう。それだけじゃなくて、多分、お腹に子供が……
母さんと同じ病気を発症したみたいなの……彼も不安そう……
どうしよう。それだけじゃなくて、多分、お腹に子供が……
オバアチャン、私この子を産む自信がないの……
母さんは、病気が発病してから別人みたいになったでしょ……?
彼も出て行って、可愛いこの子を守る存在は私だけなのに……
母さんは、病気が発病してから別人みたいになったでしょ……?
彼も出て行って、可愛いこの子を守る存在は私だけなのに……
オバアチャン私頑張ったよ。一人でも可愛い女の子を産んだよ。
オバアチャンや母さんにも見せてあげたかったな。彼にもね……
大切な大切な、私の赤ちゃん。どうか世界一幸せになってね。
オバアチャンや母さんにも見せてあげたかったな。彼にもね……
大切な大切な、私の赤ちゃん。どうか世界一幸せになってね。
奏杖
栄えあれ 栄えあれ
待望の第一王子のご生誕である!!
今後益々の我が国の繫栄に歓びあれ!!
待望の第一王子のご生誕である!!
今後益々の我が国の繫栄に歓びあれ!!
ご覧あれ ご覧あれ
我が国を担う二人目の御子の肖像を!!
猛き眼は国王譲り 幼気ながらなんと頼もしきお姿か!!
我が国を担う二人目の御子の肖像を!!
猛き眼は国王譲り 幼気ながらなんと頼もしきお姿か!!
注意喚起 注意喚起
元第一王子が反旗を翻し逃亡した!!
生死は問わない! 薄汚い裏切者を絶対に許すな!!
元第一王子が反旗を翻し逃亡した!!
生死は問わない! 薄汚い裏切者を絶対に許すな!!
お聞きあれ お聞きあれ 昔々のお話だ
ある王国で生まれた第二王子は 父王の意志を継ぎ戦火を広げた
一方亡命した第一王子は行く先々で平和を説き やがて戦争は……
ある王国で生まれた第二王子は 父王の意志を継ぎ戦火を広げた
一方亡命した第一王子は行く先々で平和を説き やがて戦争は……
デウス・エクス・マキナ
震える手の中に握られていたのは、少女の紛れもない覚悟。
これまで読んだ無数の物語の命運が、彼女自身に託されていた。
物語とは、則ちヒトの記憶であり……生きた痕跡そのもの。
些細な行動から偉業まで、その全てが歴史を形作る為に遺された。
これまで読んだ無数の物語の命運が、彼女自身に託されていた。
物語とは、則ちヒトの記憶であり……生きた痕跡そのもの。
些細な行動から偉業まで、その全てが歴史を形作る為に遺された。
かつて少女は、自身も同様に物語の主人公だと確信していた。
……月の上、茫漠たる岩地に建つ孤城。
監獄のような城の中で独り、人類の復活を願う英雄。
大役を担う自身の物語が、遺されないはず無いと考えたからだ。
……月の上、茫漠たる岩地に建つ孤城。
監獄のような城の中で独り、人類の復活を願う英雄。
大役を担う自身の物語が、遺されないはず無いと考えたからだ。
しかし、彼女は英雄である前に、一体の機械人形に過ぎなかった。
機械の少女は、人類の歴史として遺されるべき物語を持ちえない。
その事実に気がついたとき、彼女は考えた。
きっとヒトは、神様が物語を楽しむ為に作られたのだろう……と。
機械の少女は、人類の歴史として遺されるべき物語を持ちえない。
その事実に気がついたとき、彼女は考えた。
きっとヒトは、神様が物語を楽しむ為に作られたのだろう……と。
なら、少女にとっての神とはなんだろう。
創造主たる人類か、はたまた彼女を観測する、何か別の存在か……
いずれにせよ、物語が生まれたら……きっと語り伝えられるはず。
だから少女は願う。この旅で自らの記憶、生きた証を遺したいと。
創造主たる人類か、はたまた彼女を観測する、何か別の存在か……
いずれにせよ、物語が生まれたら……きっと語り伝えられるはず。
だから少女は願う。この旅で自らの記憶、生きた証を遺したいと。











































































































































































































































































































































































































































































































































































































