
人間を守る為につくられた二体の人形が、
機械の敵と戦っていました。
女の子の名前は2B。
前線で戦う、とても強い戦士。
男の子の名前は9S。
2Bを後ろから補助する、分析に優れた兵士。
二人が組んで戦えば、
かなう敵はいませんでした。
しかし、9Sには密かな願いがありました。
繰り返される終わりの見えない戦い。
こんな世界から2Bを解放したいと。
あるとき二人は、索敵情報を元に、
ぽっかり口を開けた鍾乳洞の中を
進んでいきました。
出てくる敵を、次々と倒しながら。
二人の通ったあとに、
動いている機械の敵はいません。

深い、深い洞窟の奥。
情報に記されたその場所は、
暗く、物音一つ聞こえません。
一歩踏み出そうとしたその瞬間、
真っ赤な光が二人を包みます。
9Sは自分の失敗に気づきました。
仕掛けられていたのは電子迷彩。
隠れていたのは数十体の機械生命体。
その中央で2Bが叫び声を上げました。
ウィルス
それは人形達を蝕む兵器。
2Bの目が汚染で赤く光ります。
状況は最悪で、
戦線離脱が最も優れた選択。
9Sはその道を拒絶します。
それは2Bを助ける為。
それは9Sの生きる意味。
汚染される心に必死で飛び込みました。

2Bの心の迷宮。
その扉を開ける9Sは、
奇妙な光景を目にします。
緩やかに蠢く2Bの記憶の中に、
自分の姿があったからです。
鉄の森で、冷たい海で、熱い砂漠で。
それは、覚えのない風景。
繰り広げられているのは、
2Bが9Sを......自分を殺す記録。
何度も......
何度も............
そして、
殺される回数と同じだけ、
出会いの記録もありました。
「ナインズという愛称で呼んでほしい」
と伝える記憶も......
何十、何百と。

2Bの汚染を除去した9S。
予想外の反撃に崩れた包囲網の隙を突き、
二人は脱出をします。
遠隔で任務完了の報告をすませた2B。
ダメージを負った彼女を支えて歩きながら、
9Sは考えていました。
2Bに殺され、
記憶を消去され、
また出会うのはなぜだろう?
その答えは霧の中にあり、
2Bに聞きたい言葉も見つかりません。
でも......
彼女の記憶に残るのであれば。
「この自分」が、
彼女に記録されるのならば......
何度殺されても、悔いはない。
繰り返される二人の運命は、
螺旋のようで、
その糸にすがりつきながら......
9Sは暗闇を歩き続けました......