威風堂々若き賢王の帝王学シリーズ

「力」をもって、真に民を動かすことはできない。
そも、民の心を変えようとゆめゆめ思い上がってはならない。
民を動かしたくば、まずは王自らがすすんで動き、規範と意思を示
すふるまいをすること。
結果は、必ず民によって示される。

「投獄されし政治思想家から託されたノート」より

誠心誠意若き賢王の帝王学シリーズ

近しい相手ほど、「礼」を尽くして接すること。
なにより、家臣を大切にすること。
互いを尊敬して接し合うほどに、絆が生まれ、家臣は正しく己の忠
誠心・愛国心を育む。
良い忠臣を持つことで、王は初めて良い王たりえる。

「投獄されし政治思想家から託されたノート」より

純一無上若き賢王の帝王学シリーズ

玉座に在る限り、「素直」であること。
素直とは、自分を大きく見せないことをいう。
自分の無知と能力の不足を認め、知識ある他者に教えを乞い、見定
めること。
学び続ける王である限り、国もまた発展を止めることはない。

「投獄されし政治思想家から託されたノート」より

狩リノ始マリ狩人ノ独リ言シリーズ

外の世界を知って以降、自分の境遇を悲観することはなくなった。
私のような境遇は、ありふれていたから。過去を受け入れる。新し
く得た力で獲物を狩る。それが流れ者になった私の生き方だ。
この狩りの行く末が、守れなかったもの、失ってしまったものへの、
手向けになることを信じて。

「孤独な賞金稼ぎの手記」より

繰リ返ス夢狩人ノ独リ言シリーズ

バチバチとガラス窓を叩く雨音が、瞼の裏に過去の風景を描く。
燃える町の中で、木材や人体が熱に軋み、パキパキと音を鳴らす。
気が付くと町は、大きな火葬場になっていた。私は地面を這い、妹
を探す。燃える瓦礫を持ち上げた、その下に……。
夢はそこで終わった。未だにこんな夢を見るということは、押しつ
ぶされた記憶の中でさえ、後悔が消えないせいか。

「孤独な賞金稼ぎの手記」より

王国ノ行ク末狩人ノ独リ言シリーズ

王国のロボット兵の首には、それなりの値段が付く。手ごわいこと
も理由の一つだが、恨みや憎しみが値段に色をつけるのだ。
技術に溺れた王国は、自ら生み出した兵器の暴走を止めることがで
きなかった。やがて制御を失った兵器たちは、民間人まで血祭にあ
げて暴れた。腕に覚えのあるやつらが騒動を静めたが、まだ残り物
もいる。そいつらを狩りつくすのが、今の私の生きがいだ。
「孤独な賞金稼ぎの手記」より

王様ト国民王ト民ト兵シリーズ

今日もまた、お馬鹿な王様から敵国との戦争を始めるという報せが
あった。ここ数年で何度目だろうか。
次から次へと戦争を起こしているようだが、兵士はどうするという
のだ。兵士なくして戦争はできないだろうに。第一、我々国民の意
見は? 王族の人間たちの身勝手な行いで、どれだけ私たちが苦し
んでいるのか奴らは理解しているのか?
「王国に住むとある老人の手記」より

兵士ト兵器王ト民ト兵シリーズ

戦争を始めるために、王様が何かを画策しているらしい。
噂によると、王様の命令を何でも聞く兵士を集めているとか。
そんな都合のいい兵士がいるとでも思っているのか。ただでさえ、
今もなお続くこの戦争で戦える兵士は減る一方だというのに……
戦うためだけの者など兵士とは言わない、ただの兵器だ。あぁ、我
が国の王はここまで愚かであったか。
「王国に住むとある老人の手記」より

心ト心王ト民ト兵シリーズ

戦争がやっと終わった。だがあの王様のことだ、また次の戦争が始
まるのも時間の問題だろう。
そういえばこの前、役に立たなかった兵士が王城の地下倉庫にブチ
込まれたらしい。なんともひどい仕打ちをするもんだ。己の命を懸
けて戦ったのだろうに、そうも簡単に切り捨てられるとは。王様に
は人の心ってものがないのか。まるで機械のようだ。
「王国に住むとある老人の手記」より

出会人相書の男シリーズ

あー、その男か。あの女性が店に来てくれた日だから、よく覚えて
るよ。その日は雨が何日か続いた鬱屈とした日だったかな。
彼女が団子を食べてる姿に見惚れちまったのかねぇ、声をかけたの
がその男さ。まぁ、まるで相手にされてなかったがね。いやぁ俺も
長いこと店をやってるが、あんなべっぴんさんはみたことねぇなぁ。
「とある男の死亡記録(店の証言)」より

獲物人相書の男シリーズ

私、その男の人知ってます。見たんです。その人が辻斬りに襲われ
ているのを……。しかもそこに運悪く女の人が通りがかったんです。
誰かを呼ばないとって思ったんですけど、彼女が一瞬でその辻斬り
を切り伏せてしまったんです。嘘じゃないですよ!? なにが起こ
ったのかまるで分かりませんでしたが、彼女がその人を助けたのは
間違いありません!
「とある男の死亡記録(町娘の証言)」より

命運人相書の男シリーズ

これは運命の出会いだ。そうに違いない。
あの日、店で出会ったときに彼女もまた俺に惹かれていたんだ。そ
うに違いない。でなければ自らを危険に晒して、辻斬りから俺を助
けてくれた理由がない! またあの店に行ってみよう。そうすれば
きっと彼女にまた会――
その男の血で真っ赤に汚れた日記は、ここで途切れている。
「とある男の死亡記録(男の日記)」より

アルケーコルキスの夢シリーズ

俺の子供の頃の話だ。あの頃の俺は獣のようだった。必要なものは
奪い、路地裏の地べたで眠り、誰もが俺から目を背けた。しかし、
そんな俺を、人の世界に引き入れた男が居たんだ。
そいつは冒険家だった。いつも、あるかもわからねぇ夢ばかり口に
する奴で……でもそんな奴の夢を、俺も一緒に見てみたい、そう思
っちまったんだよ。
「屈強な冒険家の紀行録」より

ミュトスコルキスの夢シリーズ

旅の仲間から聞いたうわさ話を教えてやる。「山に住む雪女」とい
う話だ。雪女は大そう美しく、たどり着いた者の願いをなんでも叶
えてしまうという。その山の頂には神殿の遺跡があり、古い時代に
は、人間が生贄に捧げられることもあったらしいぞ。
そんな事情から雪女のうわさが立ったと思われるが……。しかし、
何でも願いを叶えてくれるなんて、夢のある話だと思わねぇか?
「屈強な冒険家の紀行録」より

ヒュブリスコルキスの夢シリーズ

俺は図体がデカくて、振舞いも粗暴だからな、馬鹿だって思われが
ちだけどよ、冒険家っていうのは、あらゆる知識に精通していない
といけないんだぜ。例えば語学だ。文字が読めなきゃ本も読めねぇ、
本が読めなきゃ、未知の旅への備えはできねぇからな。
どれどれ、そこの本を貸してみろ。えーと、なんだこれは……まぁ、
読めねぇ本は薪にくべて暖をとるのが一番だな。
「屈強な冒険家の紀行録」より

正夢バアルの私書シリーズ

渇望する遠い未来の在り様と、眠っている間に見る取るに足らない
記憶の残像を、なぜ人間は等しく「夢」と呼ぶのであろうか? 未
来もまた取るに足らぬ、曖昧でつかみどころのない蜃気楼のような
ものなのであろうか。ニンゲンが時をどう捉えているかは不明だが、
自らの行く末を無為に時に委ねていることは運命の放棄に他ならな
い。
「破れた異書」より

予知夢バアルの私書シリーズ

人間が見る夢にも多様な種類があり、それらが現実に影響を及ぼす
ように見えるのもまた特筆すべきことだ。人間が予知夢と呼ぶもの
は、決して未来を予知したものではないが、人間はそう思い込んで
勝手に満足する。都合の良いように結論づけるココロの働きは、重
要な真実を見逃す危険をはらむ。

「破れた異書」より

白日夢バアルの私書シリーズ

時折「夢」と同義にされる「希望」は、実に根拠のないものであり、
単なる願望である。しかしニンゲンの行動には、ココロの制御をす
ることによって期待される能力を大きく変動させるという現象が往
々にして見られる。我々にとってはやや受け入れ難いことであるが、
「希望」を持つニンゲンの行動は興味深い観察対象であることは確
かだ。
「破れた異書」より

花の手向け争いの契機シリーズ

<外敵による被害拡大>
国内では謎の外敵による襲撃被害が相次いだ。
外敵の行動原理や目的は依然不明のまま。
今回の事件によって、市民数百名の命が犠牲に。
幼い子供も犠牲となり、現場には花を手向ける市民が集まった。

「マルクト協会ウェブニュース」より

分断と闘争争いの契機シリーズ

<対抗兵器開発をめぐり衝突>
国内での襲撃被害が広がり、外敵への対抗手段が検討されるなか、
兵器開発の対応をめぐり、現政権への批判が高まっている。
急進派は街頭で抗議デモを行い、警備隊が出動する騒ぎとなった。
市民たちの間でも急進派への注目が集まっている。

「マルクト協会ウェブニュース」より

反撃の狼煙争いの契機シリーズ

<対抗兵器ついに完成か>
研究開発が進められていた対抗兵器の試作運用が開始された。
被害は広がる一方で国民も疲弊するなか、
今回の実験が未曽有の危機を救う希望となる事を願う。
また、試作運用に関するボランティアスタッフも募集されている。
この国の危機に共に立ち向かう勇気ある市民を求む。
「マルクト協会ウェブニュース」より

昔の暮らし未来の顧望シリーズ

失われた過去の記録、それらを取り戻すのが私たちの仕事である。
今日サルベージした記録は、ある時代の生活様式についてだ。
人間たちは昔、「家族」という小集団で暮らしていたらしい。
「家族」は「一戸建て」という建物に居住し、「車」という乗り物
を所有する。それは今の私たちの生活と、どれくらい似ているのだ
ろうか。
「管理事務局日録」より

死の在り方未来の顧望シリーズ

サルベージした記録の中に、こんな言葉があった。
「死の在り方が、人間という存在を生み出す……」
私たちは、死を理解することができないかもしれない。
しかし「喪失」という経験は、私たちに変化をもたらす。
もう取り戻せない、不可逆的な事実というものが、何か特別な力を
もたらすのだろうか。
「管理事務局日録」より

ショッピングモール未来の顧望シリーズ

サルベージした過去の記録を報告する。
昔、人々が集まる場所に「ショッピングモール」というものがあっ
たという。家族で賑わう場所とのこと。そこでカップルは、異性に
対して相応しい衣服を選んであげたりするらしい。それは親愛を示
す行為とされる。今の私たちには、そのような文化はない。

「管理事務局日録」より

思想の夜明け大志を抱く国シリーズ

この国の思想をすべての国に流布することが、使命である。
しかし、あらゆる偏見や誤謬がこびりついた脳は、この素晴らしい
考えを受け入れることができないらしい。実に悲しいことだ。
そこで、幼い人間から教育するしかないという結論に達した。
いつか人類が我が国の思想で貫徹されることを夢見て。

「ある国の思想家による記述」より

思想の陽射し大志を抱く国シリーズ

多くの国は金のために戦争を行うが、我が国は違う。
人類を正しい方向へ導く、そのために必要な犠牲だ。
確かに戦いは、多くの人々に痛みを要求するだろう。しかしその先
には、全ての人間が思い描いてきたであろう夢、恒久的な平和が訪
れるはずだ。私はそう確信している。

「ある国の思想家による記述」より

思想の陰り大志を抱く国シリーズ

近頃我が国を目の敵にし、復讐だのとつけ上がる輩が多くて困る。
どうして我々の理想は理解されないのか、嘆かわしい限りだ。
将来を担う子供たちのことを思えば、むしろこのような素晴らしい
環境で成長できることを感謝してもいいくらいではないか。
いや、それがわからない者たちには、どんな説得の言葉も無駄であ
る。やはり、我々はこの戦争に負けるわけにはいかない……。

「ある国の思想家による記述」より

月桂樹戦禍の花シリーズ

俺はこの国のために戦ってきた。信念を信じていたし、自分のこと
も信じていた。しかし、仲間たちが死んでいく光景を目の当たりに
し、天秤は揺らいだ。それ以降、自分を見失った。戦いから背を向
けて逃げることもできたはず。でも、自分の選択、行い、招いてし
まった結末。もう誰も失いたくない。
そのためには、戦い続けなければ……そう思ったんだ。

「戦争の記録と兵士たちの言葉」より

天竺葵戦禍の花シリーズ

戦争について語れなんて、戦いがどんなものか知らないやつが言う
戯言だ。それが知りたいなら、銃弾の雨の中に飛び込んで来い。
俺はその中で死ねればいいと思っていた。
でも、戦いが俺に与えたものは、憎しみや苦痛だけではなかった。
仲間を信じるということは、戦い中でしか見つけられなかったもの
だったと思う。これから俺は、仲間を守るために戦っていく。
「戦争の記録と兵士たちの言葉」より

千寿菊戦禍の花シリーズ

地面に染み込んでいく血の色を覚えている。口を開け、目を見開い
た死体が、俺を見つめていた。よく見る悪夢の中で、俺がその死体
になっているんだ。口から蛇口を捻ったように血が溢れ出し、目の
前に、狼狽する哀れな兵士が立ち尽くしている。もうあんな体験は
したくない、心からそう思うよ。でも争いはなくならない。いつか
この悪夢が終わるのを夢見ながら、今日も銃を握っているんだ。
「戦争の記録と兵士たちの言葉」より

儚い声泡沫ノ記憶シリーズ

ママへ
あたらしいせいかつにもなれてきました
むずかしいびょうき? で いつおうちにかえれるかは
わからない ごめんねって パパがいってたけど
わたし パパならきっとなおしてくれるきがするんだ
はやくよくなっておうちにかえりたいな
「母に宛てた手紙(2003年)」より

儚い愛泡沫ノ記憶シリーズ

ママへ
庭の写真、ありがとう。カランコエ、咲いたんだね。
ママの手紙のおかげで、部屋を出れない日も楽しいです。
でも、私のせいでパパが仕事ばかりだから、
家でひとりのママは大変だよね。ごめんなさい。
早く病気が治るよう頑張るね。いつもありがとう。大好きだよ。
「母に宛てた手紙(2009年)」より

儚い夢泡沫ノ記憶シリーズ

ママへ
手紙、ありがとう。先月は返事が書けなくてごめんなさい。
……きっと、パパが話していると思うけど、
今の私の病状は、あまり良いとは言えないの。
でも、研究所の人たちが私の為に精一杯頑張ってくれてる。
だからどうか、ママは心配しないで。
「母に宛てた手紙(2012年)」より

わたしのいばしょプロレタリアの底シリーズ

第3条 勤労の選択・勤労の義務
貴族は、その土地財をもってして勤労を免除されるが、選択的には
従事できる。
貴族とは区別されし平民は、日の出から日没まで勤労に励まなけれ
ばならない。貴族とも平民とも区別されし「山羊の民」は、いかな
る公的な職に就くことは認められない。
「高貴なる議会により改定された法律書」より

わたしのみらいプロレタリアの底シリーズ

第5条 税収の規定・納税の義務
貴族は、領地内に住む平民から税収入を得る。
貴族とは区別されし平民は、収入のうち4割を税金として納入すべ
し。貴族とも平民とも区別されし「山羊の民」は、収入の4割を領
主の貴族へ、収入の2割を公的事業へと納入すべし。

「高貴なる議会により改定された法律書」より

わたしのこころプロレタリアの底シリーズ

第8条 参政権の規定
貴族は、成人を迎えた男女ともに、議員へと立候補可能となる。
貴族とは区別されし平民は、議員として立候補するためには、十人
の貴族議員からの承認が必要であることと定める。
貴族とも平民とも区別されし「山羊の民」は、議会場のある地区へ
の立ち入りを禁ずる。
「高貴なる議会により改定された法律書」より

美の秘薬魔法の薬学シリーズ

Ⅰ 魔法イボガエルのイボを三つ、鍋に入れて煮込みます。
Ⅱ そこに、腐ったヌメリ茸を三つ投げ込みます。
Ⅲ ロバの鼻くそを入れて、ドロドロになるまで煮込み続けます。
Ⅳ 顔をあげて、鏡を見ましょう。
アナタは眼前の鍋の中身より、美しいですよ。
「偉大な魔女の薬学書」より

愛の秘薬魔法の薬学シリーズ

Ⅰ 好きな相手の髪の毛を一束。
Ⅱ 好きな相手が肌身離さず所持しているものを、燃やした灰。
Ⅲ 好きな相手の涙を一滴。
Ⅳ Ⅰ~Ⅲを鍋で混ぜ合わせます。
アナタにその人を愛する資格はありません。諦めましょう。
「偉大な魔女の薬学書」より

知の秘薬魔法の薬学シリーズ

Ⅰ p.13記載の魔力増強薬を作ります。
Ⅱ p.628記載の惚れ薬を作ります。
Ⅲ p.2574記載の老化遅延薬を作ります。
Ⅳ Ⅰ~Ⅲを深夜の図書室で混ぜ合わせます。
これまでの労力を勉学に向けることができれば、あるいは……
「偉大な魔女の薬学書」より

眼ノ呪縛呪法ノ禁書シリーズ

大事ナモノヘ、邪魔ナ虫ガ寄ッテクル時ニ。
一、ソノ虫カラ髪ノ毛ト爪ヲ引キ剥ガス。肉片ゴトナラバ尚良シ。
二、一に蜂ヲ加エテ磨リ潰シ、毒素ガ飛ブマデ煮込ム。
三、ソレヲ呪イタイ大事ナ者ニ飲マセル。
呪ワレタ者ハ以降、視界ニ映ルソノ虫ヲ決シテ認識デキナクナル。
「伴侶獲得ノ手引キ」より

腕ノ呪縛呪法ノ禁書シリーズ

大事ナモノニ、粘リ強イ汚レ等ガ付イタ時ニ。
一、大事ナ者ニ触レサセタクナイ「物」或イハ「者」ヲ用意スル。
二、刃物デソノ一部ヲ抉リ、鴉ノ死骸ヲ燃ヤシタ火デ炙ル。
三、ソノ煙ヲ呪イタイ大事ナ者ニ吸ワセル。
呪ワレタ者ハ以降、素材ニ用イタ物ヘ触レル事ガデキナクナル。
「伴侶獲得ノ手引キ」より

心ノ呪縛呪法ノ禁書シリーズ

大事ナモノガ、傍カラ失クナラナイ様ニシタイ時ニ。
一、近クニアル適切ナ素材デ、大事ナ者ニ眼ノ呪縛ヲカケル。
二、大事ナ者ガ触レヨウトスル物で、大事ナ者ニ腕ノ呪縛ヲ施ス。
三、素材ニスベキ対象ガナクナルマデ、一ト二ヲ繰リ返ス。
呪ワレタ者ハ以降、誰カノ助ケナクシテ生キル事ガデキナクナル。
「伴侶獲得ノ手引キ」より

願いの詩歌に融ける境界シリーズ

【ライブ中の暴動、今の娯楽に求められる形とは……】
昨日夜、バーチャルシンガーのライブ会場にて暴動が起き、ライブ
が中止を余儀なくされるという事態があった。ライブ会場に居合わ
せたという人物曰く、反対派の意見は「戦争中にライブなど不謹慎
だ」との事。この件を受け、ネット上では戦時中の娯楽の在り方に
ついて、白熱した議論が行われている。
「NEWSネメシア(事件・時事問題カテゴリ)」より

想いの唱歌に融ける境界シリーズ

【灰と瓦礫の廃墟──かつての首都、現在の姿に迫る】
避難の際に背中越しで見た、炎に包まれていくかつての首都。当時
そこに住んでいた読者の皆様は、今も鮮明に思い出せる事だろう。
我々が慣れ親しんだあの街は現在、どのような状況なのか。幸運に
も我々は特別に軍の同行の下、それを知る機会を得ることができた。
本記事では写真を交えて、かつての首都の『今』をお話しする……
「NEWSネメシア(政治・社会情勢カテゴリ)」より

誓いの歌歌に融ける境界シリーズ

【暴動により活動休止中のシンガーに、応援の声集まる】
先日、とある女性シンガーのライブが暴動によって中止となった。
彼女は現在、事実上の活動休止状態にあり、このまま引退とも噂さ
れている。そんな中、彼女のSNSアカウントには多数の応援コメ
ントが寄せられていた。中には彼女の歌声で勇気付けられたと語る
軍人もおり、暴動の原因とあわせて大きく注目されている。
「NEWSネメシア(娯楽・エンタメカテゴリ)」より

廃都の銃声科学世界の絶巓シリーズ

・旧首都に敵国が拠点作ろうとしてたってマジかよ。(21:15)
 >すぐ見付かってよかった。今後の牽制になる。(21:22)
 >潜入も技術が発達して、少人数はほぼ見付けられないからなぁ。
  ちゃんと見付けて始末した今のAIは優秀だよ。(21:46)
 >俺のかつての家も踏み荒らされている可能性……!?(23:55)
  >荒らされるも何も陥落した日に燃え落ちてんだろ。(00:02)
「SNS『reark』抽出ログ」より

荒涼満ちる地科学世界の絶巓シリーズ

・最近何か面白い事ないのか? 話題になってる物とか。(19:10)
 >兵士に志願して戦場でも行ってきたらどうだ。(19:13)
  >今度嫌でも行くよ、この前徴兵の案内きたからな。(20:15)
 >仮想空間へのダイブ機能あるんだし、それで散歩は?(19:21)
  >もう良いデータがなくて。まぁこの時代にそんなの作ってる
   余裕のある人が少ないんだろうけどなぁ。(20:18)
「SNS『reark』抽出ログ」より

亡びの先触れ科学世界の絶巓シリーズ

・お前ら街の様子見たか、何のイベントだ!?(18:25)
 >公式な告知はどこにもないみたい。サプライズ?(18:25)
 >前に犯行声明がされた時は、政府から発表があったよね。
  今回はないし予定された物じゃないの。(18:26)
  >あの時より大規模だし対応が遅れてるのかも。(18:27)
・ずっと活動休止してたし、また姿が見れてよかった!(18:25)
「SNS『reark』抽出ログ」より

誰かの金貨砂漠の逸話シリーズ

昼の巡回で、また奴の姿を見た。この街に住まう孤高の盗賊。
商人からの被害が毎日のように報告される……我が警備隊の最重要
観察対象だ。最近は彼の美貌に心奪われた、観光客を標的にしてい
るらしい。くれぐれも気を付けるよう、街の人間に注意喚起をおこ
なうことにしよう。
懐に入れておいた内緒の金貨も、奴に持っていかれたからな……
「警備隊長の巡回日誌」より

生熟れの酒砂漠の逸話シリーズ

落ち着いた夜の合間、例の盗賊について思いを馳せる。
どう見ても、彼はまだ子供だ。一人で生き抜くのは苦しいだろう。
……そもそもあの年で、何故盗賊を生業にしているのか? 誰にも
言えぬ過去でもあるのだろうか? 酒場で会えば、話の一つでもこ
っそり聞けるものを、奴はまだ、果実の汁を好んで飲むだろう。
最近妻が、私の酒を盗み飲む……盗賊が我が家にもいるようだ。
「警備隊長の巡回日誌」より

針付きの魚砂漠の逸話シリーズ

王国の外れ。海岸で一人、魚を釣る盗賊を見た。彼の腕なら食料な
ど簡単に盗めるだろうに、今日は気でも変わったのだろうか。決し
て、犯罪を黙認する訳ではない。ただ……物憂げな顔で魚を見つめ
ては、決意の顔で竿を海へ投げる少年を見ると、私は応援したくな
ってしまうのだ。
この辺りの魚は脂が乗ってうまい。私も一匹釣って帰るとしよう。
「警備隊長の巡回日誌」より

出会いの夜海を巡った御伽噺シリーズ

仕事で立ち寄った王国。私は夜の街で、流しの占い師に出会った。
暗闇でも十分に分かる美貌に吸い込まれ、恋愛から仕事まで色々と
占ってもらう。『背伸びして、身の丈に合わぬ人生を送るべき』…
…それが彼女からの助言だった。
所詮はただの占い。あまり真に受けるつもりは無かったが、彼女の
言葉は……何故か寝床に入っても消えなかった。
「ほら吹き貿易商の自伝」より

驚きの朝海を巡った御伽噺シリーズ

こんな事が起きるのか……持ち込んだ染料が売れに売れ、私は王宮
へ招かれた。そこで私を案内してくれたのは、聡明な女王御自身。
勢いに乗る国特有の、慌ただしくもどこか楽し気な雰囲気が、王宮
を包んでいた……
私は廊下を歩きながら、占い師の言葉を思い返す。彼女の言葉に導
かれるように、私は大仕事を成し遂げたのではないだろうか。
「ほら吹き貿易商の自伝」より

野望の夕海を巡った御伽噺シリーズ

王宮からの帰り道、庭の隅で女性を見かけた。
彼女がこの国の姫であると、案内の家来は私に告げる……顔こそ拝
めなかったが、彼女の立ち振る舞いに思わず目を奪われた。
例の占い師を探して、再び占ってもらうのもいいだろう。王宮の姫
のような素敵な女性と出会うには、どうすればいいか助言してもら
おう……使いきれぬ程の金を手にしたのだから。
「ほら吹き貿易商の自伝」より

老成持重若き賢王の帝王学シリーズ

不変なる原理原則を学ぶには、老いたる「師」を見つけ、問うこと。
年を重ねた者によって語られる言葉は、歴史に裏付けられた真理を
多く含む。決して侮らず、耳を傾けること。
彼らは失った体力と引き換えに、熟達した知識と経験を積んでいる。

「投獄されし政治思想家から託されたノート」より

忠言逆耳若き賢王の帝王学シリーズ

耳が痛いことを「忠言」してくれる臣下を信頼すること。
聞き入れ易い言葉よりも、言いにくいことを進言するほうが何倍も
勇気が要る。王たるもの、国政に感情を差し挟まず、根拠ある事実
のみに目を向けよ。
国策においては、私利私情に囚われてはならぬ。

「投獄されし政治思想家から託されたノート」より

量才録用若き賢王の帝王学シリーズ

「適材適所」を知り、また己にも応用すること。
王とて、あまねく全ての知識、才覚に秀でていることなど有り得な
い。己の足りないものを知り、認め、それらに通じる家臣を集め、
頼ること。自らの欠点を埋めようとすることは、無駄な力の使い方
であることを知れ。

「投獄されし政治思想家から託されたノート」より

彷徨ウ狩人狩人ノ独リ言シリーズ

三日目 曇り
森で遭難した。狩人が森で遭難したことを、皆笑うだろうか? し
かし、私は狩人と名乗れどもまだ新米なのだ。
森の中で頼れるものは、己の感覚と経験のみ。生きるか死ぬか、食
うか食われるか、そして、強いか弱いか、だ。新米の私とてそれく
らいは理解している。

「遭難した新米狩人の手記」より

命懸ケノ狩リ狩人ノ独リ言シリーズ

七日目 曇りのち小雨
ああ腹が減った。私の未熟な弓の腕前では野生動物を仕留められず、
一週間木の実ばかり食べている。しかし、神は私を見捨てなかった。
雨に濡れた狼の子が、茂みの中にうずくまっていた。私は弓を構え
た。そこに、唸り声を上げて母狼が躍り出てきた。もはや引くわけ
にはいかない。私は、狙いを母狼に変え、弓を放った。

「遭難した新米狩人の手記」より

旅ノ道連レ狩人ノ独リ言シリーズ

八日目 晴れ
私は、初めて狩りを成功させた。仕留めた母狼は、手負いだった。
狼の子が、悲しそうに吠えるその横で、私はその命を食らった。そ
して私は、この狼の子を旅の連れにすることに決めた。この狼の子
が、ほかの野生動物と渡り合えるようになるその時まで守ってやる。
私とて未熟だが、母を奪った私にはその責任があると思ったのだ。

「遭難した新米狩人の手記」より

戦争ト内戦王ト民ト兵シリーズ

今日の夢に、内戦で死んだ夫が出てきたのよ。
そう、昔はこの国にも内戦があったの。王様のやり方が気に入らな
い民衆が蜂起してね。夫もその中の一人で、当時は三十代。新婚だ
った。もう五十年も前なのね。私ばかり年を食っちゃって、恥ずか
しい。若い頃の私の姿だけ、覚えていてほしかったけれど、あの人
は夢の中で私に「今でも綺麗だね」と言ってくれたわ。

「王国に住むとある老女の夢日記」より

蜂起ト私刑王ト民ト兵シリーズ

今日の夢にも、内戦で死んだ夫が出てきたのよ。
そう、彼は内戦のさなか、王国の兵士たちに殺されて死んだ。戦争
が多くて疲弊していた民衆を代表して、あの人は国を相手に物申し
たの。それで、一番に狙われて殺されてしまった。今日の夢の中で
あの人は、「だって、君の英雄でいたかったんだ」なんて……。そ
んなことより、生きて一緒にいてほしかったわ。

「王国に住むとある老女の夢日記」より

革命ト夢王ト民ト兵シリーズ

今日の夢にも、内戦で死んだ夫が出てきたわ。
夢の中で、あの人は国に打ち勝っていた。王国の兵士たちを殺し、
王様を殺し、ついにクーデターを成功させていた。その姿を見て、
私は長い長い苦しみから解放された気がした。そしてあの人は、
「ようやく、君の暮らすこの国を平和にすることができたよ」と私
に言ったの。もういつお迎えが来てもかまわないわ。

「王国に住むとある老女の夢日記」より

勘考人相書の男シリーズ

あの罪人は各地で同じ行動を繰り返していたようだ。
犯行を知られ、過去の素性が割れ、今居る土地を追われては、
違う救済の対象と、異なる権力者の居る国へ移動した。
搾取される民草の遍在を意味してもいるが、まるで寄生だ。
彼を最初に動かしたのは、救済と追放のどちらだったのだろうか。
「とある罪人の行動記録(獄卒の手記)」

善行人相書の男シリーズ

人を見た目で判断しちゃいけねぇな、なんて一度は思ったよ。
だが蓋を開けてみりゃあこれだ。いい迷惑だぜ全く。
あいつがお上から金だの飯だのを盗み、ばら撒いた所為で、
それを持っていた俺たちは疑われ、死人だって出た。
結局は見た目通りの悪人だった、って事じゃあねぇか。
「とある罪人の行動記録(町人の愚痴)」

彷徨人相書の男シリーズ

その男か、確かに見たよ。最初は怒ってるのかとも思ったが、
どちらかと言うと不安げで、何かに急いでいるようだった。
例えるなら親に怒られて、家を飛び出した子供みたいな感じだね。
これは俺がそうだったからそう見えた、ってだけなんだけど。
結局のところ人は、どっかに属してないと不安なんだよな。
「とある罪人の行動記録(足軽の証言)」

序幕コルキスの夢シリーズ

私は劇作家だ。世の人々には天才劇作家だの言われている。書い
た物語は、何万もの観客を魅了し、誰もが私を称賛した。しかし、
私は思うのだ。本当の天才というのは、作家の意図を最大限表現し
てくれる演者達だ。とりわけ主演女優だった彼女は、私の物語を理
解し、想像を超えた演技を見せてくれる。彼女は最高だった……
「天才劇作家の日記帳」より

幕間コルキスの夢シリーズ

私は、この演劇を、主演の彼女を、最高の状態で保存したかった。
全ての公演が終わった夜、ヒロインの衣装を着た彼女の首に、手を
かけた。これで4人目……いや、4着目だ。私の物語を彩ってくれ
る女優達を殺し、その衣装を飾る。これで完璧だ。彼女達は、一生
私の物語だけのヒロインでいてくれる。
「天才劇作家の日記帳」より

終幕コルキスの夢シリーズ

私はまた、いい女優と出会うことができた。彼女は私の「衣装達」
を眺めて、素敵だと呟いた。私は彼女の手を握り、君も負けないく
らい素敵になれると、勇気づける。彼女も私の物語を理解し、魂を
震わせるような演技を見せてくれるだろう。ついに明日、幕が上が
る。きっと最高の公演となるだろう。
「天才劇作家の日記帳」より

愛欲バアルの私書シリーズ

私はとあるニンゲンを訪ねることにしました。そのニンゲンは勤
勉で真面目な農民様。その仕事熱心な姿に心を打たれた私は、その
農民様にとある贈り物をすることにしました。それは豊穣の神が祝
福を施した土。その土を大地に振りまけば立派な作物が実ります。
ただ一つ注意点がある。使うのは一年に一つまみだけ。私は注意点
を念押しし、農民様にその豊穣の土をお渡ししました。
「風化した異書」より

利欲バアルの私書シリーズ

農民様は私が伝えた通り、豊穣の土を一つまみだけ畑に振り蒔きま
した。するとたった一晩のうちに、畑の苗達が成長し立派な作物が
実りました。しかも例年の何倍にもなるような収穫量です。その作
物は奇跡の産物とされ、貴族や王族に高値で取引されたようです。
農民様の元には大金が入りました。私としても農民様の生活が豊か
になり、嬉しい限りです。
「風化した異書」より

強欲バアルの私書シリーズ

次の年、農民様の畑は全て枯れてしまいました。農民様は私が伝え
た注意点を守らず、豊穣の土を何度も使ってしまっていたのです。
優しくて、暖かくて、仕事熱心で、勤勉で、真面目だった頃から、
堕落しきってしまった農民様。その姿はとっても魅力的で、狙い通
りだと私は満足しました。ニンゲンの「夢」はいい。酷く醜いはず
なのに、どんな宝石よりも美しくて、いつ見ても飽きませんね。
「風化した異書」より

慟哭の都争いの契機シリーズ

平和だった街は、一瞬にして阿鼻叫喚の世界へと変貌した。
突如現れた外敵は、人工物がある場所、
つまり人間が大勢いる場所を狙い撃ちしていることは明白だった。
人々が泣き、叫び、そして命を失っていく光景の中で、
かろうじてその場から脱することに成功した人間もいた。
「第十八次実験記録票」より

光明の森争いの契機シリーズ

幸運にも街から脱せたとしても、外敵の脅威からは逃れられない。
人々は、外敵が追ってこない場所を求めて、
とにかく遠くへ、どこまでも逃げることしかできなかった。
そして見つけるのだ。生い茂る樹海の奥深くに、一筋の光明を。
その場所の周囲からは、外敵の匂いがしなかった。
「第十八次実験記録票」より

諦念の地争いの契機シリーズ

一見して安息の地のように見えても、まったく油断はならない。
外敵は、尋常ならざる速度で領地を浸食するからだ。
いくらその場が安全でも、周囲をすべて外敵に囲まれてしまえば、
そこから安全に脱出する手段はないに等しい。
絶望に打ちひしがれながら、座して死を待つしかないのだ。
「第十八次実験記録票」より

優シイ声未来の顧望シリーズ

彼は毎日、ワタシに優しく話しかける。ワタシはその声が好きだっ
た。ニュースでは連日、人間を襲う巨大な「花」について報道して
いる。彼は、「この部屋に居れば、大丈夫」そう言って微笑んだ。
彼といると、不思議と不安は解消される。
「秘められし声の記録」より

怒リノ声未来の顧望シリーズ

彼の声が日を追うごとに弱々しくなっていく。食料が尽き、この部
屋に籠城するのも、もう限界なのだ。口論の回数も増えていく。
「この部屋に居れば、大丈夫だって言ってるだろ!」と、荒らげら
れた彼の声なんて、ワタシは聞きたくなかった。
「秘められし声の記録」より

繰リ返ス声未来の顧望シリーズ

彼はワタシを置いて、女と部屋を出ていった。もう二度と彼の肉声
を聞くことはできないだろう。電気を付けることも音楽をかけるこ
とも二度とない。ワタシは部屋の管理を放棄して、コッソリと録音
していた彼の声を再生し続けた。
「秘められし声の記録」より

正しき愚者大志を抱く国シリーズ

祖国は、かの戦争を「正義の戦争」と呼んでいた。異端の神を信仰
する敵国から、正しき信仰を守るための正義の執行であると。
当時私は科学者として軍の研究所に所属していたが、兵器の開発に
消極的であった。正義の戦争とは言えど、自らの技術を人殺しに使
われることに苦悩していたからである。

「とある科学者の自白調書」より

濁りなき愚者大志を抱く国シリーズ

それまで兵器開発に消極的であった私は一転、熱心に兵器の研究に
打ち込むようになった。転機は弟の戦死。祖国に身を捧げた勇敢な
兵士である彼が、あのような結末を迎えていいはずがない。そう思
ったからだ。開発したのは毒瓦斯兵器である。それを使えば、大勢
が死ぬことは分かっていた。あるいは一国が滅びるかもしれないと
も予感した。しかし、時に正義は犠牲を必要とするものなのだ。

「とある科学者の自白調書」より

聖なる愚者大志を抱く国シリーズ

正義とは何か? 出口のない自問自答を繰り返し、私は苦しんだ。
しかし、ただひとつ確かなことは、この国の掲げる「正義」が偽物
だということである。正義の名のもとに終わらぬ戦争を続けた祖国
は、紛れもなく悪なのだ。故に私は、自らが開発した毒瓦斯兵器で
祖国の地を穢し、同胞を虐殺した。これが、私の「正義」である。
――この国が戦争などしなければ、弟は死なずにすんだのだから。

「とある科学者の自白調書」より

野薔薇戦禍の花シリーズ

私は前線の町にある孤児院で育ちました。戦災孤児の私たちを育て
てくれたのは、ある若い娘です。孤児たちは皆、彼女のことを姉の
ように慕っていましたが、町の人々の中には、兵士を育てる見返り
に、金銭や食料を受け取っているのだと噂する者もいました。
──しかし、我々は知っていました。彼女は誰よりも平和を望み、
朝晩欠かさず祈りを捧げていることを。

「名も無き志願兵の手記」より

風露草戦禍の花シリーズ

「あの孤児院は兵士の養成所らしい」
「娘は軍と密約を交わして、私腹を肥やしている」
そんな噂を聞きつけた暴漢が、孤児院を襲ったことがあります。
娘は我々を庇ってひどい怪我を負い、そのことに激情した孤児の一
人が暴漢に立ち向かって命を落としました。しかし、暴漢が孤児院
のどこを探しても、財産や食料がみつかるはずもありません。

「名も無き志願兵の手記」より

菩提樹戦禍の花シリーズ

孤児院の悪い噂を流していたのは敵国の手の者で、この前線の町を
混乱に陥れるために行ったようでした。仲間を失った我々は怒りに
震え、敵国への憎悪を募らせます。孤児たちは仲間の仇を討つべく、
敵国から孤児院を守るべく、志願兵となり、次々と出征していきま
した。私もその一人です。平和を望んだ彼女の祈りとは裏腹に、孤
児院は本物の「兵士の養成所」となってしまったのでした。

「名も無き志願兵の手記」より

異る瞳泡沫ノ記憶シリーズ

中央から半分に折れたビル。それがこれ以上崩壊しないよう、補修
作業に取り掛かった時のことだ。僕はその内部を巣として生活する、
動物の群れを発見した。哺乳類齧歯目、小型のネズミ。臆病な彼ら
は僕が足音を立てるとすぐに隠れてしまう。この近くには肉食獣が
多い。それに対応して隠れ住んできたがゆえの性格、性質。彼らは
その一生を、廃墟の暗がりで怯えながら過ごすのだろうか。

「都市環境保全記録12S557」より

異る夢泡沫ノ記憶シリーズ

僕はあれから、あの壊れたビルに隠れ住むネズミの群れを観察して
いた。彼らはどうしても食糧が手に入らない時にしか、屋外へは出
ようとしない。外へ出ようとする個体を、連れ帰る動きさえ確認で
きるほどに。だが今日、一匹のネズミがビルから旅立った。怯えて
過ごす日々が嫌になったのだろうか。連れ戻そうとする仲間を振り
切り、その機敏さで肉食獣からも逃れ、ネズミは去っていく。

「都市環境保全記録12S557」より

異る道泡沫ノ記憶シリーズ

しばらく時が経つと、ビルを出たネズミは新たな土地で群れのリー
ダーとなっていた。彼の率いる群れは、食糧を求め点々と移動しな
がら生活する。怯えながら細々と、安全な暗がりに暮らす群れ。危
険と隣り合わせだが、活気と食糧に満ちた群れ。どちらが幸福かな
ど論ずるつもりはないが、この群れで生まれる子供たちは、僕の足
音にどんな反応を見せるだろうか。次はそれを観察するとしよう。


「都市環境保全記録12S557」より

法学者の調査プロレタリアの底シリーズ

【改革案の目的・背景】
調査を重ねた結果、どの時代、どの地域における国家も統治制度に
欠陥がある故に、革命や政変が繰り返されてきたことがわかった。
本件を調べた法学者らによれば、政治を安定させるために民衆から
不満を取り除くには、以下に挙げる階級制度の新設が急務である。
「『あたらしい国づくり』に関する稟議書」より

法学者の提案プロレタリアの底シリーズ

【改革案の概要】
貴族階級、平民階級に次ぐ新たな階級を設置。
新たな階級に属する人民には基本的人権が与えられず、経済活動の
自由はおろか、請求権等もすべて放棄される。
新制度の施行により、新たな階級に属する人民を無条件に解雇し、
平民階級の就業率を向上させる等、一定の成果が得られる見込み。
「『あたらしい国づくり』に関する稟議書」より

法学者の処遇プロレタリアの底シリーズ

【改革案実施時の運用方法】
円滑な制度移行のため、本件の立案に多大な貢献をし、導入に最も
理解があった法学者らを第一期対象者とし、その後に人口を拡大。
二期以降の選別については、平民階級の中から無作為に抽選を行う
方針をとる予定。また、閣議で正式名称が決定されるまで、新たな
階級に属する人民を仮に「送り出される者」と呼称する。
「『あたらしい国づくり』に関する稟議書」より

若き王の国 一話若き賢王の帝王学シリーズ

昔あるところに、小さいけれど平和でおだやかな国がありました。
ぜいたくはできませんでしたが、それでも人々は毎日たのしく暮ら
しておりました。
ある時、優しい王様が病気で亡くなり、新しく若い王様にかわって
しまいます。その王様は人びとをどれいのように働かせたので、と
てもひどい王様だときらわれました。
「ペトロじいさんの26の王国物語」より

若き王の国 二話若き賢王の帝王学シリーズ

王様は、人びとがどんなにお願いしても、どんなになげいても、労
働を減らそうとはしませんでした。このままではつかれ果てて死ん
でしまう……そう思った人びとは、王様に反乱を起こします。
王様はあっさりとつかまり、言いました。「こんなことで同じ国の
ものが殺し合ってはいけない」そして、ていこうすることなく、あ
っさりとギロチンにかけられて死んでしまったのです。
「ペトロじいさんの26の王国物語」より

若き王の国 三話若き賢王の帝王学シリーズ

これで自由になれる! と、国中で喜んでいると、とつじょ、とな
りの国がせめこんできました。人びとは混乱しましたが、死んだ若
い王様がたくさんの食料と武器をたくわえていたことに気がつきま
す。さらに、どれいのような労働で体がきたえられていたため、と
なりの国に勝利することができたのでした。人びとは、自分たちの
浅はかさを反省し、王様をたたえる像を建てましたとさ。
「ペトロじいさんの26の王国物語」より

大物狩リ狩人ノ独リ言シリーズ

闇に潜み獲物を待つ。今回の標的は特別だ。神の獣と呼ばれるほど
巨大で美しい牡鹿。
人里に害をなすため駆除依頼があったのだが、田舎の村が出せる報
酬などたかが知れている。だというのに、なぜ依頼を引き受けたか。
理由はひとつしかない。敵うかどうかもわからない大物を狩る。
それこそが狩人の生きる意味だからだ。
「森の小屋で発見された手記」より

神ノ如キ獣狩人ノ独リ言シリーズ

獣の五感は人間の何倍も優れている。そのうえあいつは頭もいい。
この狩りが終わるのは何年先になるだろうか。
観察して気づいたのだが、人間はこの森を切り拓こうとしているら
しい。牡鹿はそれを防いでいるようだ。
まるで生物の均衡を保とうとしているように……獣でありながら、
本当に神のようだ。……もう少し、観測を行うべきかもしれない。
「森の小屋で発見された手記」より

大イナル森ノ意思狩人ノ独リ言シリーズ

ついに牡鹿を仕留めた。だが、そこに高揚感はなかった。長い時を
森で過ごす内に、俺は狩人としての心を失ってしまった。その隙間
を埋めるように、森の意思が入り込んでくる。思えば牡鹿も同じだ
ったのだろう。守護者として森に選ばれただけなのだ。
いつか俺も牡鹿のように狩られ、その狩人が新たな守護者となるだ
ろう。俺たちは森を守るための替えの利く駒に過ぎないのだ……
「森の小屋で発見された手記」より

貧困ト希望王ト民ト兵シリーズ

あの頃。俺たちは王家の圧政により、貧困に喘いでいた。
毎日、食いつなぐだけで精一杯。夢を見る余裕など、とてもない。
どいつもこいつも、死んだ目で途方にくれるだけ。
だが、彼だけは違った。どれだけ貧しくても、挫けない。
貴族街のゴミ捨て場から書物を拾っては勤勉に学び、
人々の前で憂国論を唱える彼の瞳は、希望に燃えていた。
「王国に住むとある兵士の手記」より

旧友ト野望王ト民ト兵シリーズ

彼は本の虫だった。政治学、経済学、社会学……
貧しさに負けず、多くのことを学んでいた。
だから彼が士官学校に入ると聞いたときは、驚いた。
軍人として出世する。それが、俺たち貧民が国を変える力を手に
する唯一の方法である──そう語った彼を、俺は誇りに思った。
そして俺は彼と同じ道を歩むと決めた。彼を、支えるために。
「王国に住むとある兵士の手記」より

国王ト冀望王ト民ト兵シリーズ

将校まで上りつめた彼は、圧政をしく王家に反旗を翻した。
そして今、我が国の王座につくのは彼である。
確かに、他国から奪った富で、国民の生活は豊かになった。
しかし、自由はない。王を批判した者は皆、処刑されるのだ。
俺はもう、富も名誉も望まない。ただ、帰りたい。
どんなに貧しくても──ふたり笑っていられた、あの頃に。
「王国に住むとある兵士の手記」より

捜索人相書の男シリーズ

とある一家の「親父」を殺した男の人相書が出回った。その男は、
裏の仕事を生業とする凄腕の剣客らしい。「親父」の跡を継いだ、
二代目「親父」の憤りは凄まじかった。頭目を殺された一家の者た
ちは、人相書きを片手に血眼になって捜索にあたった。しかし、一
家がどうやって下手人の見当を付けたのか、どうやって男の人相書
を入手したのか、妙なことにそれらを知る者は誰もいなかった。
「とある一家の盛衰記(町の若衆の聞書より)」

敵討人相書の男シリーズ

俺たち一家の執念によって、ついに人相書きの男を捕えた。二代目
の命令通り、男の四肢を砕き、猿ぐつわをかませ、二代目のもとに
引っ立てた。初代「親父」殺しを命じた依頼人の名を吐かせるのだ
と、誰もが思った。だが、捕縛された男を見るなり、二代目は激高
し、袈裟懸けに切り捨てた。それは一瞬の出来事だったが、二代目
の鬼の形相に、一家の者たちはその恨みの深さを思い知らされた。
「とある一家の盛衰記(二代目の兄弟分の語りより)」

密書人相書の男シリーズ

一家は敵討ちを果たし、裏社会にその名を響かせた。ところが後日、
一家の会合に、血染めの人相書を捧げ持った若者が現れた。若者は
人相書の男の息子と名乗り、父の無念を晴らすために来たと語った。
若者は殺気立つ若衆たちを睨みつけながら、男の遺品だという密書
を差し出した。そこには、初代「親父」の暗殺を命じる文言が、紛
うことなき二代目の筆跡で記されていた。
「とある一家の盛衰記(裏社会の金棒引きの証言より)」

セットアップコルキスの夢シリーズ

良い女優になりたい。それだけを目指してここまできた。誰の記憶
にもこびりついて離れないような、歴史に残る名優になりたいと。
でも、私はこうも考えるの。最上の脚本が無ければ、最高の演技も
成立するわけがないって。だからつてを辿り、天才劇作家と名高い
彼のもとで主役を演じる機会を、ようやく手に入れたの。
「小説『稀代の名優の生涯』」より

ミッドポイントコルキスの夢シリーズ

彼が公演に使う衣装を私に見せたいと言ってくれた。並べられた衣
装はどれもきらびやかで、私の美しさを際立たせてくれそうだ。素
敵だ、と一言呟いてみせる。すると、彼は私の手を取って、いくつ
か私を勇気づける言葉をかけた。これで彼はもう、私の物。私のた
めに上質な脚本を書き上げてくれる、従順な男。
「小説『稀代の名優の生涯』」より

クライマックスコルキスの夢シリーズ

こんなに素晴らしい舞台に関われる機会は稀よ。だから、公演が終
わったら彼を殺すことにしたの。彼は舞台の終幕と共に力尽きた、
奇跡の劇作家として名を遺す。早世した才人の遺作という触れ込み
は、物語に触れた人々の共感を一層深めてくれるはず。そうして、
私は彼の舞台を演じた、最後にして最上の女優になるの。
「小説『稀代の名優の生涯』」より

意望バアルの私書シリーズ

どんな人を恋人にしても、必ず相手が死んでしまうという女性がお
りました。彼女の性格や所作、取り巻く環境に何ら問題はございま
せん。ただ彼女はたちの悪い『運命』に囚われているようでした。
「この魔除けを使いなさい。あなたと愛する人を護ってくれるでし
ょう」私は彼女にタリスマンを渡します。「だけど気を付けて。
タリスマンを少しでもその身から離すと、たちまち効果は消えてし
まいます」
「腐食した異書」より

希望バアルの私書シリーズ

間もなく、彼女は裕福で優しい、素敵な男性と出会いました。彼女
は私の言いつけをきちんと守っていたのでしょう。二人がお付き合
いをして愛情を深め、やがて結婚まで進んでも、男性は息災に暮ら
しているようでした。タリスマンを身に着けている限り、彼女は悲
しい『運命』から解き放たれ、幸せに暮らすことができます。私は
嬉しく思い、彼らを見守ることにしました。
「腐食した異書」より

失望バアルの私書シリーズ

さて、そんな彼女。結局裕福な夫を亡くし、なんと次の恋人も死に
別れてしまったようでした。調べたところ、原因は夜の営み。タリ
スマンの見た目は酷く醜く、その気を失った夫は彼女に外すように
言いました。彼女も少しくらいならとそれに従い……次の恋人も似
たようなものです。しかし、命を護るための魔除けを一時の快楽の
為に手放すとは……予想通りが過ぎて、いささか興ざめですね。
「腐食した異書」より

或る男の独白争いの契機シリーズ

もうすぐ国交が回復するはずだったのに。
そうすれば君と一緒になることができたのに。
毎日、そんなことばかりを考えている。
あの巨大な植物が出現してすぐ、政府は渡航禁止令を出した。
そして侵入を防ぐため、国境に巨大な壁を作り始めている。
連絡が取れなくなって三日……できる事なら今すぐ助けに行きたい。
「花粉の付いたレコーダー」より

或る男の誓願争いの契機シリーズ

周囲の国々が防衛のため、手を組み始めた。
新しい敵の出現によって、長きにわたる争いに終止符が打たれるな
んて……皮肉な話だと思わないか?
でも、おかげで君の国に連合掃討部隊が向かってくれる事になった。
無人ドローンでの調査の結果、わずかながら生き残りがいることも
証明されたそうだ。君の無事を心から祈っている。
「花粉の付いたレコーダー」より

或る男の決意争いの契機シリーズ

掃討部隊は君たちを救うと言っていた。でも、あの植物を殲滅する
ため、やつらは君の国を焦土に変えた。なのに英雄面をしてやがる。
『危険植物と最前線で戦った経験を活かし、世界を救うため我が国
が最前線に立つ』だと? そんなにやつらと戦いたいなら戦わせて
やる。国境を守る壁は完璧じゃない。隙間があれば、やつらはどこ
にでも入り込む。今度はこの国が地獄になる番だ。
「花粉の付いたレコーダー」より

全知の男未来の顧望シリーズ

『花』の出現前、一人の男がネット上に現れた。男は予言者を自称
し、こんな書き込みを行った。
「世界は色とりどりの花に包まれ、人間同士の争いはなくなる」
平和主義にしても、あんまりな予言だ。他の予言も荒唐無稽なもの
ばかりで、誰にも顧みられることなく予言者はネットの海に消えて
いった。
「世紀末記録目録」より

喧噪の最中未来の顧望シリーズ

『花』の出現に合わせ、一人のネットユーザーが予言者のことを思
い出した。広大なネットの中に埋もれていた彼の発言ログが掘り出
され、瞬く間に拡散された。それは歴史上最後にして最大の「バズ」
となり、彼が残した他の予言も次々と的中していった。よく見れば
こじつけや強引な解釈もあったが、誰もが彼を真の予言者と信じ、
市民だけでなく政府すらも彼の身元に関する情報を求め始めた。
「世紀末記録目録」より

崩壊の瞬間未来の顧望シリーズ

政府が遂に予言者を見つけたが、男は書き込みは全て「釣り」だっ
たと告白した。彼を糾弾する者、崇める者……各派閥は互いに罵詈
雑言をぶつけあった。それを見かねた元予言者はネット配信を行い
こう言った。「人類の危機だというのに、まだ人間同士で争ってい
る。私の戯言を予言にしたのは貴方達だ」彼の言葉と同時に世界中
のネットがダウンした。それは人類が「文明」を失った瞬間だった。
「世紀末記録目録」より

偽りの楽園大志を抱く国シリーズ

「暴力」という言葉を知っているだろうか。「戦争」という言葉を
知っているだろうか……この国で育った貴方は、おそらく知らない
ことだろう。だが忘れないでほしい。それは決して、この国が平和
だからではない。この国は国民から「暴力」という言葉を失くすよ
う洗脳し、偽りの楽園を築きあげただけに過ぎないのだ。

「焼却された告発書」より

芸術の楽園大志を抱く国シリーズ

この国では、暴力や戦争に関する表現は徹底的に弾圧される。他国
の戦争について吹聴する者や、悪行を成す者は秘密裏に処刑され、
その存在ごとなかったことにされるというわけだ。おかげでこの国
では争いがなくなり、様々な芸術文化が花開いた。だが偽りの平和
の上に築かれる芸術文化に、どれほどの価値があるというのか。

「焼却された告発書」より

暴力の楽園大志を抱く国シリーズ

暴力は人間の本能であり、その概念が消え失せることはない。どれ
ほど徹底的に暴力表現を排除し国民を洗脳したとしても、結局は
無意味である。今日もまた、一人の芸術家が目覚めた。彼女は自ら
「殴る」という行為を発見し、飛散した鮮血に美を見出したのだ。
だが政府は彼女を処刑し、その芸術をなかったことにするだろう。

「焼却された告発書」より

花逍遙戦禍の花シリーズ

《ようこそ! ××戦争犠牲者の魂をお祀りする慰霊庭園へ》
この度はようこそお参りくださいました。ここは、先の××戦争で
前線となった跡地を庭園として保存している場所です。お足元の美
しい花々を踏まないようにご注意願います。この花は、戦時中に兵
士達の慰めとなった花であり、この庭園のシンボルとして、今も訪
れる人々に大変愛されています。

「慰霊庭園管理団体発行のパンフレット」より

彼岸花戦禍の花シリーズ

《慰霊庭園のシンボル:この花にまつわる逸話が残っています》
今は花の咲き誇るこの庭園は、かつて兵士達が激しく争った戦地で
した。妻子を残して戦争へ参加していた兵士は、火に焼かれ荒れた
地面に、ただ1本咲く美しい花を見つけました。まるでその花が自
分の娘のように思え、愛おしさを覚えた兵士は、この花を守り抜く
ためにいっそうこの地を守る戦いに身を投じたそうです。

「慰霊庭園管理団体発行のパンフレット」より

祝儀花戦禍の花シリーズ

《ご寄付を受け付けております:お問い合わせは管理団体まで》
咲き残った一輪の花を守るため、兵士は戦い、そしてこの地に没し
ました。我が国はその時の戦いで終戦を迎えました。兵士の亡骸の
周りには、不思議なことに花が次々と芽を出し、咲き乱れたそうで
す。そしてその場所が、この庭園で記念碑が建てられている場所で
す。老朽化と損傷が激しいため、皆様のご支援をお待ちしています。

「慰霊庭園管理団体発行のパンフレット」より

漂う時泡沫ノ記憶シリーズ

僕たちは任務として、人の手を離れて久しい建造物の修復、保全と
いった活動を行っている。過去の人類が残した足跡に触れられるこ
の仕事は、僕も嫌いではない。しかし、だからこそ悩む事もあった。
そう、今回のように修復の対象となる建物が、既に動植物の住居と
なっていた場合の事だ。

「都市環境保全記録12S496」より

漂う夢泡沫ノ記憶シリーズ

当該建造物は、そこで暮らす動物たちの生活に長い期間をかけて最
適化された状態にあった。人の居なくなった廃墟は彼らにとっての
楽園となり、多くの個体がここで生まれては死んだのだろう。ゆえ
に僕は悩んでしまった。人類の帰還がいつになるかはまだ分からな
い。なのに、彼らの故郷を奪ってしまって良いのだろうか?

「都市環境保全記録12S496」より

漂う幻泡沫ノ記憶シリーズ

僕は思考の末、重要な物品の移管と倒壊を防ぐための補修作業のみ
を行った。建造物の保全という点から見れば間違いかもしれないが
生態系の保護も重要な事だろう。だが数ヶ月後に僕が見たのは、機
械生命体の工場として作り替えられたあの建物の姿だった。活き活
きと暮らしていた彼らは、無事に逃げられたのだろうか。

「都市環境保全記録12S496」より

隣の国家プロレタリアの底シリーズ

悪名高い身分制度が敷かれたかの国の動向は、領土を接する我が国
のみならず、近隣諸国がその動向を注視している。かの国が制定し
た最下層身分「山羊の民」は、平民の中から無作為な選抜によって
決定されたとされるが、貴族社会に迎合しない一部の商人層が作為
的に選ばれていたということがわかっている。

「隣国の身分制度についての考察」より

隣の事情プロレタリアの底シリーズ

平民でありながら、十分な財産と教養を持った商人層。彼らの多
くは、貴族社会の在り方に疑問を呈し、富の分配を叫んだ。その動
きを危険視した貴族達が、彼らの一部を「山羊の民」として社会か
ら排斥したとされる。彼らは財産を全て取り上げられ、公的な仕事
に就くことを禁じられ、一部は貴族が定める職に従事させられた。

「隣国の身分制度についての考察」より

隣の愚行プロレタリアの底シリーズ

労働の対価を与えることなく搾取するのみでは、人間は労働に意
義を見いだせない。才覚ある者達の地位を「山羊の民」として貶め、
労働力を搾取し、ついに彼らの生産性が下がると、貴族らはまた新
たに「山羊の民」を選抜した。この労働の生産性が果たして有効な
のかどうかは疑わしく、非常に旧時代的なものとも見える。

「隣国の身分制度についての考察」より

愛憎の呪い魔法の薬学シリーズ

これはとある少年の話だ。魔法使いの名家に生まれ、何不自由なく
育った彼は、自らが思い描いた通りの輝かしい人生を歩んでいた。
新雪が降り積もる冬の朝に、よく似た顔の弟を授かるまでは……
明哲な弟は次第に頭角を現し、少年の居場所を脅かしていった。
夜通し魔法書を読み漁り、手の皮が擦り切れるまで杖を振っても、
少年が再び両親の愛情を取り戻すことは叶わなかった。
「闇ノ秘術ニ関スル報告(弐千陸番ノ記録)」より

哀切の呪い魔法の薬学シリーズ

仲の良かった兄弟の絆に亀裂を入れたのは、周囲の目や声だった。
初めのうちは弟を誇らしく思っていた少年も、いつしか惨めさを募
らせるようになっていた。彼は自分の居場所を完全に見失ってしま
ったのだ。猛吹雪の中に取り残された、遭難者のように。
追い詰められた少年は、遂に禁呪へと手を伸ばす。
目の前で消えていく弟を見ながら、彼は一筋の涙を流していた。
「闇ノ秘術ニ関スル報告(弐千陸番ノ記録)」より

愛惜の呪い魔法の薬学シリーズ

その後、少年が何を想い、日々を過ごしたのかを知る者はいない。
確かなのは、再び禁忌の魔法が使われたということだけだ。
消し去った弟を取り戻すために、少年は自らを犠牲にした。
そうして幼い魔法使いはひっそりとこの世から姿を消した。
雪解けが始まった、春先のある温かい午後のことだった。
──僕は今でも、消えゆく兄が最後に見せた微笑みを覚えている。
「闇ノ秘術ニ関スル報告(弐千陸番ノ記録)」より

親ノ祈リ呪法ノ禁書シリーズ

あるところに、とても正義感の強い魔法使いの少女がおりました。
彼女は決して使ってはならない禁呪という黒魔術を知り、興味を持
ちます。何故なら禁呪は最強の魔法。これを使えば世界を意のまま
に変え、犯罪や争いをなくす事もできるはずです。しかし少女の話
を聞いた彼女の両親は「それは不幸を生む力だ。禁呪は人が侵して
いい領分を超えている」と少女を諫めるのでした。
「作者不明の黒ずんだ絵本」より

心ノ祈リ呪法ノ禁書シリーズ

少女はある日、幼馴染の友達が酷いいじめを受けている事を知りま
した。今すぐ助けてあげたいと思いましたが、いじめっ子は少女で
も簡単に敵う相手ではありません。そこで彼女は、禁呪の隠されて
いるという図書館の奥に忍び込みます。手に入れた呪文を試してみ
ると、友達といじめっ子は親友同士に変わっていました。禁呪の効
果を実感した少女は、皆にその呪文を教えてあげる事にします。
「作者不明の黒ずんだ絵本」より

真ノ祈リ呪法ノ禁書シリーズ

皆が自由に禁呪を使える世界が始まりました。それぞれが欲望のま
まに世界を改変し、瞬きの間に景色が一変しました。生きている人
が突然死んで、また生き返り。王様は一秒ごとに変わる、めちゃく
ちゃな世界です。少女は思わず泣きながら願います。「禁呪なんて
なければいいのに!」――その途端……全てが元に戻り、禁呪につ
いて覚えている人は、少女を含め誰もいなくなったのでした。
「作者不明の黒ずんだ絵本」より

戯レ言歌に融ける境界シリーズ

私にはすべき事がある、女王がそう仰るのだ。捕らえなくては、あ
の「歌姫」を。偽りの姿で、まやかしを歌うあの女狐を。彼女の歌
には悪意が秘められている。女王は見逃さない、女王は気付いてい
る。私は必ず達成する。正しい、軍人だったのだから。女王がそう
仰るのだ。女王が求めるなら、私にはすべき事がある。

「SNS『reark』に投稿された文章」より

痴レ言歌に融ける境界シリーズ

歌を聞いた、白い歌。彼女が歌っていた。感じなかった、悪意は。
白の中には。間違えていたのか、私は。違う。私は、軍人だった。
間違えてはならない、許されない。私は、思う、私は、騙されてい
た。あの女に。だから、許されないのは、あの女だ。だから、私に
は、すべき事がある。「女王」を、名乗った、あの女にも。

「SNS『reark』に投稿された文章」より

世迷言歌に融ける境界シリーズ

傲慢にも女王を騙った女にはその首級を以て罪を贖って貰ったため
もうあの口から毒言や空言が吐き出される事はなく私のように利用
される不幸な者が現れる事もなくなった今私には新たにすべきこと
がある。偽りの女王の骸に群がり私へ牙を剥く不幸な者たちへ彼女
の歌声を届けなければならないのはそれこそが「真実」だからだ。

「SNS『reark』に投稿された文章」より

ダイイチノルール科学世界の絶巓シリーズ

■■■■は、■■を■さなければならない。また、■なき世界を見
過ごすことで、■■を孤独にしてはならない。しかしそれは、■■
■■に限った話ではないはずだ。我々■■もまた■■を■さなけれ
ばならないし、それができないのであれば、■■が■■■■と共に
生きていく資格はまだないということだ。

「ある研究員のメモ」より(検閲済)

ダイニノルール科学世界の絶巓シリーズ

■■■■は■■との■■を守らなければならない。ただし、その■
■が前述に反する場合は、互いに■■を交わさねばならない。これ
を遵守できる■■■■は■■にとって良き■■となるだろう。しか
し今のままではまだ、我々が理想とする■■■■と■■の関係を築
くことはできないであろう。

「ある研究員のメモ」より(検閲済)

ダイヨンノルール科学世界の絶巓シリーズ

■■■■が■■を獲得した場合、それでも■■■■が■■にとって
良き■■であるならば、すべての■を自らの■■で破棄することが
できる。しかし、■■の良き■■であるという至上命令は破棄する
ことができない。この■■■■■さえ組み込めたならば■■■■は
■■にまた一歩近づけるはずだ。

「ある研究員のメモ」より(検閲済)

偏執の空砂漠の逸話シリーズ

あるところに、復讐を果たした男がおりました。愛する女を殺され
た男は、憎悪に駆られて剣を取り……仇敵を刺し殺したのです。
夜の砂漠、寒空の下。男は仇敵の亡骸を砂の中に埋めると、一息吐
きました。そして、女が死の間際に伝えてくれたことを思い返しま
す。それは、仇敵の『顔』の特徴。その情報のおかげで、男は仇敵
を見つけ出し、復讐を果たすことができたのでした。

「水瓶男の説話」より

偏執の剣砂漠の逸話シリーズ

男は砂漠を越え海を渡り、見知らぬ都に辿り着きました。女から聞
いた、仇敵の顔の特徴……男は心の中でそれを幾度も反芻し、仇敵
の姿を探し続けました。
季節は巡り、男は仇敵と思しき相手を見つけました。そして、その
瞬間……男は相手に、深く深く、剣を突き刺していました。愛する
女を殺された、怨念を込めながら。

「水瓶男の説話」より

偏執の水面砂漠の逸話シリーズ

復讐を終えた男は返り血に塗れていたので、顔を洗うべく水瓶を覗
き込みました。すると男は急に顔をこわばらせ……悲鳴を上げまし
た。何故なら水面に映っていたのが、男が探し殺した、あの仇敵の
『顔』だったからです。男は何度も水瓶の中に剣を突き立て、水面
に映る己の顔をぐしゃぐしゃに切り裂きました。女を殺したのは、
俺なのか? 男の問いは、寒空の闇へ消えました。

「水瓶男の説話」より

予見の煙海を巡った御伽噺シリーズ

音一つしない、泉のほとり。私はそこで、願いを叶えてくれる魔人
を呼びだすための儀式を行った。私の故郷を焼いた、兵士達を殺す
ため……私が負った苦しみより、重い苦しみを与えて殺すために。
私の願いは煙となって、空へと消えていく。そして私は目を閉じて、
瞼の裏に思い描いた……兵士達に焼かれた故郷の光景……昨日まで
家だった木屑、昨日まで家族だった肉体を。
「王子愛蔵の物語集」より

想見の靄海を巡った御伽噺シリーズ

魔人を呼び出す儀式の最中。消耗した私は夢を見た。そこで私は……
村の中心で酒場を営んでいた。昼には働き、夜には愛する夫と娘に
囲まれ、静かに過ごす。そんな緩やかな日常が続く夢だった。
……張り裂けそうな胸の苦しみが、私を現実に戻す。夫も娘ももう
いない。あの兵士達によって村は焼かれ、すべて奪われたのだ。だ
から私は魔人を呼び出さなければならない。復讐を果たすために。
「王子愛蔵の物語集」より

夢現の泡海を巡った御伽噺シリーズ

魔人などいない。願いなど届かない。そんな事、最初から分かって
いたのに。私は僅かな可能性にすがって、魔人を呼び出すための儀
式を止めることができなかった。生き残った村人を探す兵士達が駆
けてくる……そして私は彼らに襲われ、泉の底へと沈められた。
口から出たあぶくが、空に消えていくのを眺めながら……夢で逢っ
た夫と娘に別れを告げ、私は静かに瞳を閉じた。
「王子愛蔵の物語集」より